新世紀エヴァンゲリオン-And become Joseph- 作:さえもん9184
これもひとえに、私の作品を読んでくださる皆様のおかげです。
誠に、ありがとうございます。
そんな皆様に、よい年が来ることをお祈りいたします。
「ほえ~、赤いんか。弐号機って」
トウジが運ばれる弐号機を見て、言葉を漏らす。
「違うのはカラーリングだけじゃないわ!」
そこに、一同の耳に、聞き覚えのない声が届く。
「所詮、零号機と初号機は、開発過程のプロトタイプとテストタイプ。けどこの弐号機は違う。これこそ実戦用に造られた、世界初の本物のエヴァンゲリオンなのよ!制式タイプのね」
その声のする方向には、横たわり、搬送されていく弐号機の上で、赤いプラグスーツを身にまとった少女が仁王立ちしていた。
「紹介するわ。ユーロ空軍のエース、式波・アスカ・ラングレー大尉。第二の少女、エヴァ弐号機担当パイロットよ」
その間に、アスカは軽い身のこなしで、弐号機から降り、ミサトたちの前にやってきた。
「久しぶりね、ミサト……で、アンタがエコヒイキで選ばれた、零号機パイロット?」
先ほどまで零号機に搭乗していたレイに視線を向ける。
「エコヒイキ?」
「エコヒイキでしょ?大した能力もないのに、碇指令に気に入られてエヴァに乗せてもらってるんだから」
だがそこまで罵られることを言われてもなお、レイは笑顔であった。
「……ええ、よろしく、式波さん」
そう言ってレイは手を差し出す。
が、アスカはそれに取り合わず、
「あんた、頭膿んでんじゃないの?自分で大したことないって認めるなんて」
自分の価値観からは、信じられないという目でレイを見た。
「そうよ。私は大したことないの。碇君の方がすごいと思うし」
「あ、綾波?」
いきなりレイに話を振られ、シンジは若干戸惑う。
「ふ~ん。アンタが噂のエースパイロット?」
「え?いや、その…多分」
自分でエースパイロットなどとひけらかす様なことに、恥ずかしさを感じながら、シンジは返事をした。
そんなシンジを値踏みするようにアスカは見ている。
「あんた、バカァ?肝心な時にいないなんて、なんて無自覚」
そういうと同時に、シンジに足払いをかける。
「うわ!」
「おまけに無警戒。せっかくいい教官がついてるってのに、まさに豚に真珠。所詮、ナナヒカリね」
シンジとて常に警戒しているわけではないので、いきなり足払いされればこけるのも道理なのだが、アスカは幻滅してしまっていたようだ。
「そうだ、ミサト。その教官は、ここには来てないの?」
「「「「「え!?」」」」」」
アスカ以外の五人が、シンクロ率500%をたたき出した。
ここにいる全員が、碇リュウジが弐号機の受け取りに行き、アスカの一応の護衛の任務をうけていることは、程度の差はあれ知っている。
だというのに、アスカだけはリュウジに会ってないという風にとらえられる言い方をしている。
「ちょ、ちょっち待って、アスカ。碇三尉は迎えにこなかったの?」
「ああ、あの無能の兄のナナヒカリ?来たわよ、なんでよりによってあんな使えない窓際族を迎えによこしたのよ。せめてもう少しまともな奴よこしてよ」
(む、無能?)
(窓際族?)
彼女はいったい誰に会ったというのだろうか。
あの碇リュウジが無能で、窓際族であるならば、
(私なんて、とっくにリストラされてるわよ)
と思うミサトであった。
その様子を見て、立ち上がりながらシンジがミサトに耳打ちした。
(ミサトさん。多分式波は、勘違いしてるんじゃ……)
(十中八九そうね。何らかの理由で、碇三尉がアスカに誤解を与えて、それが訂正できてないって状況だわ)
さすがに作戦部長だけあって、ミサトの考えは的を得ていた。
「で?どうなのよ、ミサト。ここにいるの?いないの?」
「ええっと、それは……」
ミサトがなんと説明しようか考えていると、
弐号機が運ばれていく方向から、逆に当の本人が書類を見ながらこちらに歩いてきた。
「何よ、兄のナナヒカリのダメオヤジじゃない」
未だに気づかないアスカは、リュウジを見て悪態をつくが、
「碇三尉。お帰りなさい。お疲れ様です」
レイは駆け寄り、リュウジをねぎらった。
「お疲れ様、レイ。怪我なかったか?」
「ええ。使徒は式波さんが倒してくれたので」
リュウジはレイの頭を撫で、出撃していた労をねぎらう。
「おじさん、お帰り」
そこにシンジも加わる。
「おう、シンジ。悪いな、予定より遅くなった」
「もう大変だったよ。ミサトさん朝全然起きないから」
「悪かった。今晩は俺が当番するから」
シンジの肩をたたき、リュウジは自分が家族の元へ帰ってきたことを実感していた。
「鈴原君も、相田君も、わざわざ来てくれてありがとう」
「いえ、エヴァ弐号機が見れて感激ですよ!」
「ワイもええモン見れたんで、わざわざなんていわんといてください」
トウジとケンスケにも挨拶をする、だがそこに、
「あらあら、お子様達には人気みたいね、ダメオヤジ」
アスカがリュウジに再度小馬鹿にするような態度を取る。
「アスカ!この人は……」
「葛城一佐!」
だが訂正しようとするミサトに、リュウジは釘を刺した。
(ど、どうして!?)
(いいから、ここは任せてください)
その様子をみて、シンジ達も何か考えがあると思い、リュウジに従った。
「式波大尉、戦闘お疲れ様です」
「あんたにねぎらってもらう必要ないわ」
「かしこまりました。―――葛城一佐。これにて、任務完了としてよろしいでしょうか?」
「ええ、ご苦労様」
「それでは、このあと本部に所用がありますので」
では、と言って、リュウジはそのままネルフ本部へと向かった。
(どういうつもりかしら、リュウジさん)
特に誤解を解くでもなく、その場を去っていくリュウジに、ミサトは疑問しか感じない。
「まったく、ミサトも苦労してるわね。司令の弟ってだけで、あんなお荷物せおわされて」
「おう!きいてりゃ、好き放題いいよって!」
「トウジ!!」
シンジは文句を言いかけたトウジを止めた。
(おじさんが言うなって目配せしてたの、気付いたでしょ?)
(せやけどな!シンジ……)
(なにか考えがあるんだよ。それにボクも、ただ誤解を解くだけじゃ、意味がないと思う)
ここで、リュウジが正体を話せば、話は簡単だ。しかし、それではアスカの頑なな心を開かせるのは無理だろう。彼女が自ら認め、受け入れられなければ、唯の無理強いだ。
そんな無理強いでは、たとえ『伝説の軍人』を使って、はねっかえりを抑えたとしても、いつか必ず無理が生じ、全てが瓦解する。
「わかったわ、アスカ、その人に会わせてあげる」
「ホント?ミサト」
「ええ、―――シンジ君」
「はい」
「事前に説明してなくて申し訳ないけど、アスカはうちで一緒に暮らすことになってるの」
「ぇえ!?」
何の相談も受けていないシンジは、驚かざるを得ない。
「すでに、あの人は了承済みだから。悪いんだけど、家まで案内してあげて」
「ちょっと待ってよミサト。こいつは出ていくんでしょうね」
「いいえ。シンちゃんも、一緒にそのままくらすのよ」
「ええーーー!!」
「二人には、これを機に適切なコミュニケーションを養ってもらうわ。レイとの関係は問題ないけど、今後、エヴァによる共同作戦を展開することになるから。まずは、お互いを知ること。いいわね?」
そうは言うが、互いに不満しかないようである。
「これは命令よ」
※
「全く驚きましたよ。いきなりうちで預かるなんて言った時には」
「ミサトらしいわね」
リュウジはリツコの元へと訪れていた。
「まあ、葛城さんの考えも解りますが。いきなり思春期の男女を一つ屋根の下に住まわせるのは、最初はどうかと思いましたよ」
「でも、あなたは了承したのね?」
「彼女は家主で、私の上司ですから。文句は言えません」
「それだけ?あなたが了承した理由」
「……アスカは、エヴァに乗るために、訓練に明け暮れていた。葛城さんは、せめて普通の暮らしを味わってほしかったんでしょう」
リュウジはアスカを葛城宅で預かる話をした時の、ミサトを思い出した。
(あの子には、同世代の子と過ごしたり、一緒に食事を囲んだり、そんな当たり前なことを知ってほしいの。貴方に頼りっきりで申し訳ないけど。私たちのために戦うことになるアスカに、せめて帰る場所を作ってあげたい)
リュウジとて、ミサトにそこまで頼み込まれては、ダメとは言えなかった。
「でも、あなたやシンジ君が、家事は取り仕切ってるんでしょ?」
「まぁ、そうなんですが。葛城さんにも無理してもらってることもありますし」
未だに、リュウジの力を使うにあたっての隠れ蓑はミサトである。そんな危ない橋を渡ってくれているのだから、リュウジとしては、少女一人の負担が増えるなど、
「なんでもないこと」
といえる。
「ところで、本題に入りたいんですが」
「……ここ、監視されてるわよ?」
「すでに、ダミーに切り替えてます」
「結構。それじゃ、結果から言うわね」
そういうと、リツコはリュウジに検査結果を手渡した。
「あなたの治療中に、侵食がかなり進んだわ。割合的には、おおよそ30%侵食されてる状況ね」
「……パターンは?」
「もしパターン青が観測されたら、あなたここにいないでしょ」
「それもそうですが」
「S2機関も見当たらない。いうなれば、今のあなたは、使徒と人間のハイブリットともいえる状態よ」
「……どういうことです?」
「あなたの持つ異常なまでの戦闘能力は、元来の長年培われた戦闘技術が根幹にある。だけど使徒の因子があなたを浸食し、あの実験機に乗っても『あの程度の怪我』で済むほどの身体能力が備わって、まさに人外ともいえる戦闘力が備わっている。にもかかわらず、あなたは使徒としてのパターンが全く出てない」
そういいながら、リツコはコーヒーをすする。
「それと確認したいんだけど、リリスを見た時のこと、もう一度話してくれる?」
リツコとしては、ここが重要だった。仮にリュウジが使徒であるならば、リリスと会合し、何らかの反応があって然るべきだからだ。
「前も言いましたが、身体的には何もありません。ただリリスを見た時に、歪な鏡を見てる様な感覚に襲われたんです。……なんというか、鏡に自分が写っていながら、細部が違って、でも自分を見ている様な、上手く言えないんですが……」
うまく言い表せないが、リュウジはリリスを見た感覚を、今でもよく覚えていた。
リツコも、リュウジがユーロに発つ前に、聞いたのだが、そこから一つの仮説を立てていた。
「なにか思い当たることでも?」
「まだ仮説とも言えない、単なる妄想よ」
「構いません。お話しください」
「……あなたに埋め込まれた使徒が、一体なんなのか考えてみた。でも今のあなたの体の侵食度では、未だはっきりと判別することができない。だから確証はないの」
「私も、第六の使徒の弱点を述べたときは、確証は有りませんでした」
だが、長年培われた勘が、時に正解を導くこともある。その勘は、勘であって、勘ではない。言わば経験則と観察眼から導き出されたものだった。
リュウジは、リツコの言う妄想は、決して的外れではない、優秀な科学者としての、裏打ちされた勘であると考えていた。
「……あなたが11年前に埋め込まれたもの、それはリリスそのものではないか、と言うのが私の考え」
「……その根拠は?」
「言ったでしょ?未だ仮説とも言えない妄想だって。だから根拠だって提示できない。―――でもあなたがリリスを見て感じた、自分を見ている様で、そうでない感覚や、当時人類の管理下にあった使徒が何か。そこから導き出したの。本当にそれだけなのよ。期待させて申し訳ないけど」
「いえ。ありがとうございます。―――それと、今後私はどう変化すると考えますか?」
そう言われたリツコは、もう一つ資料を手渡した。
「筋力の増加、骨格の強度の増強、治癒能力の活発化等、目立った身体変化だけでもこれだけあるけど、一番はこれよ」
「……これは、テロメア配列ですか?」
「そう。……言っとくけど、これ公表するだけで、私ノーベル賞取れるほどのものよ。―――人間の細胞は、絶えず分裂を繰り返して、コピーされていくけど、唯一完全にコピーされず、すり減っていくのが、そのテロメア」
リュウジとしても、知識としては知っている。人類の老化の仕組みの鍵と言われているものだ。
「あなたが最初にICUに運び込まれ、治癒されるにつれて、侵食は進んでいった。それと同時に採取した細胞のテロメアは、増加していった」
「増加!?」
「しかも分裂するたびによ」
「ちょ、ちょっと待ってください!ありえない!これじゃ、これじゃまるで……」
「そう、若返ってると言ってもいい」
リュウジはそう言われ、とにかく衝撃を受けた。いいショックか、悪いショックかもわからない。
とにかくありえない、としか思えないものだった。
「あなたの、碇司令の年子の兄弟とは思えない見た目は、使徒の侵食によって、若返っているのが原因。加えて、長年の戦闘が、それに適合できるよう、あなたの身体を強化している。それが、今のあなたの体の現状よ」
「侵食が、なんらかの要因で進めば、さらに若返る可能性が?」
「大いにあるわね。もっとも、赤ん坊になるのか。一定の年齢になったら止まるのか。それは、使徒の侵食が止まらなければ、解らない」
「私の中にあるのがリリスだったとして、私がサードインパクトのトリガーになる可能性は?」
「……私なら、今すぐにあなたをリリスと一緒に封印する。と言えばわかるかしら?」
つまりはその可能性も、
「大いにある」
と言うことだ。
「それは受け入れられません」
だが、リュウジはそれを突っぱねる。
「そうね。あなたには、まだやるべきことが残ってるものね」
リュウジがいなくなると言うだけで、ゲンドウは計画を加速させるだろう。
逆に言えば、リュウジをまず消すことが、ゲンドウの今の目的と言っていい。それから、彼の計画をすすめる腹積りなのだ。
「私の精神は、既に狂気に染まっています。今更、怪物になったところで、やることは変わりませんよ」
怪物になったところで、守りたいものは変わらない。愛する心は無くならない。リュウジにとっては、それだけで充分だった。
「……今後、定期的に検査を続けるわよ。あなたの侵食は、平常時であれば、非常にゆっくりだから、できれば、その原因も知りたいの。一体何が、侵食を抑えているのか。それがわかれば、侵食を止めたり、あるいは、人間に戻すこともできるかもしれない」
「私も、11年前の実験を、もう一度洗い直してみます。何か手がかりがあるかも」
「わかったわ。何かわかったら、定期検査の時に報告して。秘匿する以上、必要以上には会わないようにしましょう」
「わかりました。……それと、どうやらもう一人来客のようですね」
「え?」
リュウジはそう言うと、部屋の入口へと足を進め、
「どうぞ?話は終わりましたから」
「ぅえ!?いや、こりゃどうも……」
そこにはリツコと同い年ぐらいの男性が、少し驚いた表情を浮かべていた。
(まじかよ、気配消してたぞ?)
「あらリョウちゃん。久しぶりね」
「やぁ、リッちゃん。久しぶり」
どうやら旧友のようなので、リュウジは部屋を後に、
「まって、碇三尉、紹介するから」
出来なかった。
「碇?」
「ええ、リョウちゃん。こちら碇リュウジ三尉。碇指令の弟で、シンジ君の叔父にあたる方で、今はミサトの補佐官を務めてるわ」
「あなたが……、こういってはなんですが、もっとお歳を召した方だと……」
「これでも、兄の年子ですから、47ですよ?」
「よ!?、47!?」
相変わらず、歳のこと話すと驚かれるが、もう慣れてきていた。
「いや、失敬。改めまして、加持リョウジと言います。葛城が世話になってるようで」
「いえ、こちらこそ、居候させていただいて、いろいろと便宜も図っていただいてますから」
互いに手を差し出し合い、握手をする。
「いやしかし、大変でしょう?葛城と同棲するというのは……」
「ええ、寝相は悪いし、朝は起きないし、片付けないし……」
「やはり変わりませんか」
「昔からですか?あなたも苦労されたようで」
「そりゃあ、もう……」
「ちょっといいかしら、二人とも……」
盛大にミサトの愚痴で盛り上がっている二人に、リツコが待ったをかけた。
「どうした?リッちゃん」
「こわ~いお姉さんがこっち見てるわよ?」
男二人が同じ方向を見る。
リュウジにとって上司が、加持にっとっては元カノが、鼻息をあら~くして、ガラス越しにこちらを見ていた。
「わっっっっっるかったわね!寝相悪くて!朝起きなくて!片づけなくて!」
「でも事実でしょ?ミサト」
「ぐっ……」
そう、事実なので、ミサトはぐぅのねも出ないのだ。
「碇三尉!まだ、報告書類まとめてないでしょ!!早くまとめて提出しといて!!」
ミサトは誤魔化すために、リュウジを叱責し、
「はっ!かしこまりました」
叱責されたリュウジは、敬礼するとそそくさと部屋を後にした。
「加持!あんたユーロ務めでしょう?ぬぁ~んでこんなとこにいんのよ!」
「特命さ。しばらくは本部付になる。またつるめるな、学生の時みたいに」
「悪いけど!昔に帰る気なんてないの!!リツコ、アスカの件、人事部に話通しておいたから。じゃ!!」
そう言って、ミサトもそそくさと部屋を後にした。
「いやしかし、あれ程の人を顎で使うとは、あいつもすごくなったな」
加持ともあろうものが、リュウジの経歴を知らぬはずがない。その伝説の軍人が、元カノに従順な姿勢を取っているのに、加持は素直に感嘆した。
「やっぱり知ってるの?あの人のこと」
「名前だけはね」
戦場という世界にいれば、その世界の伝説の一つとして、それなりの知名度のある名前であった。
それに加えて、
(一個人でありながら、碇指令、ゼーレ、その両方を同時に相手取ることができる、唯一無二の男)
として、是が非でも会いたい人物でもあった。
「さて、またな、リッちゃん」
「あら、もう行くの?」
「ああ、待たせてる人がいるんでね」
加持も、部屋を後にした。
もう一人の旧友を訪ねなければならないのだ。
※
ネルフ本部からはずれにある廃墟、加持はその入り口に立っていた。
「来たか」
「悪いな剣崎。少し待たせたか?」
「いや、会わせたい人がいてな、その人もついさっき来た」
剣崎はそう言うと入るよう促す。
「会わせたい人って?」
「お前に頼んだ仕事の依頼主だ。……もっとも、お前なら、誰かはある程度見当はついてるか?」
「まあな、お前さんが指示に従う人物は、碇指令か、お前の恩師、碇リュウジだろ?」
「さすがに見当がつくか、……こっちだ」
そういうと、奥の扉を開ける。そこには二つの人影があった。
一人は、加持が既に会っていた、碇リュウジであり、先ほどの丁寧な態度とは打って変わって、葉巻をくわえ、こちらに軽く手を振っていた。
そしてもう一人は、
「加持!久しぶりだな!」
「高雄。お前も来てたのか!」
予想外のもう一人の旧友に、加持は驚きつつも再会を喜んだ。
「そうか、あんたもこの人の教え子か」
「ああ、ボスにはいろいろ世話になってな」
「頼むから、私をもうボスや教官と呼ぶな」
「そんなことおっしゃっても、そりゃ無理ですよ、ボス」
加持も、高雄の言わんとするところは理解できた。
ゲンドウにはなく、リュウジにはある何かがある。漠然としているが、それが、この人のためなら命を懸けられる、と思わせるのだと実感した。
「改めまして、加持さん。碇リュウジです、あなたのことはこの二人から話は聞いています。私の依頼を受けていただき、ありがとうございます」
「こちらこそ、伝説の男にお会いできて光栄です」
改めて二人は握手を交わした。
「早速ですが、頼んでいたものを出していただいても?」
「ええ、こちらに」
マイクロチップを、加持がリュウジに手渡す。
「ユーロと日本重化学工業の、全諜報記録です」
「剣崎からも聞いています、JAをエヴァ強化パーツへの転用や、人類補完計画の要の戦艦NHGシリーズの情報は、これからの戦いに非常に有用なものです」
そう言って、マイクロチップをリュウジは懐にしまう。
「だが、これは恐らく兄の、ゲンドウの計画の一部……いや、これらを使ってゲンドウは己の悲願を成就させるきだな」
「ボス、この後は?」
「使徒の殲滅のあいだに、兄は私を始末しにかかるだろう。私に兄の目が向いている間に、我々はこれらの戦艦の所在を突き止める。できれば一隻だけでも確保して、計画の進行を足止めできれば御の字だな」
その言葉に、加持だけが反応する。
「ご自分を囮にするつもりですか?」
「加持、この人はよくその手を使う。いつものことだ」
剣崎の言葉で、加持は何故この二人が未だにリュウジを慕っているのかが分かった。
(部下よりまず、いの一番に自分の命を懸けている。これは碇指令どころか、普通上に立つ者はここまではしない)
「私とて、ユイさんの駒に過ぎない。あの人の計画の全容を知らされてない以上、我々は目の前の脅威に対応していくしかない。高雄」
「ハッ!」
名前を呼ばれ、高雄は一歩前へ出る。
「私は死ぬ気は毛頭ないが、ゲンドウも頭が切れる、もしもの時はこれを」
そういうと、USBメモリーを渡した。
「私が率いていた部隊のデータだ。全員とはいかんかもしれんが、いざとなれば力を貸してくれる。その時は、お前が彼らを指揮しろ」
「了解」
高雄は受け取ると、それを大切に懐へとしまい、一歩下がった。
「剣崎」
「はい」
同じく、剣崎も返事と共に一歩前へ出る。
「お前はこの後も、ゲンドウの下で奴の命令に従え。いいか?『どんな命令』でもだ」
「かしこまりました」
「この後、アメリカに発つんだったな?」
「はい、参号機と四号機の起動実験の視察です」
「何か密命を受けていても、私への報告もするな。いいな」
「ハッ」
敬礼をして、剣崎も一歩下がる。
「……さて、加持さん。ここまで私をお見せしましたが、どうでしょう?ご協力いただけますか?」
「まだ何とも……、私はどちらかというと、あなたの兄側の人間ですから、まだあなたの人となりを知らないのに、そちらに協力するというのは、かなり危険なんでね」
「……私と赤木博士の話をお見せしてもだめですか」
そう言われ、加持はぎょっとした。
「……気づいていたんですか?」
「この二人から聞いた話から、ある程度あなたの行動を予想して、お見せしたんです。私を知ってもらうために」
実を言うと、リツコに会うためにダミー映像に切り替えようとした時に、リュウジがダミーを仕込んでいたので、不審に思い二人の会話をモニターしていたのだ。
内容は、加持からしてみても信じられないものであり、尚且つ絶対に漏れてはいけない秘密であった。もし知っていることがばれれば、リュウジに殺されるかもしれないと覚悟していたのだ。
それをリュウジは、あえて見せた。しかも巧妙に加持の行動を予測して。
(お、俺は……最初からこの人の手のひらの上だった……)
「この自己紹介では、まだ私は解りませんか?」
ただ部下思いの、人情だけの人物ではない。それに加えて異常なまでの計算高さがあるからこそ、この二人もリュウジにしたがっているのだ。
「……いいでしょう。あなたにはあなたの目的がある。そのために、こちらが力不足というのであれば、無理強いはできません。ですが、一つだけ、お願いしたいことが」
「なんでしょう?」
「彼女を、葛城一佐を悲しませるようなことはしないでください。それだけです」
では、というとリュウジは廃墟をでようとする。
「あなたにとって、葛城はなんなんです?」
加持にそう問われ、リュウジは足を止めた。
「目的のための隠れ蓑ですか?」
「……否定はしません。ですが、それ以上に……」
リュウジは加持に向き直る。
「彼女に、私と同じ轍を踏んでほしくないんです。葛城一佐には、あんな過ちは犯してほしくない。そのために、彼女を支えたい。私はそう願ってます」
そういうと、リュウジは今度こそその場を後にした。
加持さんとの絡みも、ずっと書いてみたかったシーンでして、ようやくできました。
リュウジは葛城を一人の人生の先輩として支え、加持さんには男女の関係からささえる、そんな風に考えています。
次回はまたアスカとの一悶着を考えています。
ご意見、ご感想お待ちしております。
誤字、脱字等ございましたら、お手数ですがご報告ください。
これからも、応援よろしくお願いします。