新世紀エヴァンゲリオン-And become Joseph- 作:さえもん9184
その迷いから、この展開で大丈夫かな?と考え込んで、筆が進まない。そんなジレンマが、最近楽しくも感じてきました。
待っていただいている方には申し訳ないですが、長い目で見ていただけると幸いです。
アスカはすぐさま跳ね起きると、
「ハァッ!!」
すぐさまリュウジに攻勢に出た。
だがリュウジはその悉くをいなし、
『ダンッ!』
「ぐふっ!」
上段の蹴りを仕掛けてきたアスカのバランスを崩し、またもや投げてみせた。
(これほどとはな……)
リュウジは相手に対して戦闘や、訓練に際して同情などは一切しない。
それは相手のそれまでに積み上げてきたものや、覚悟を愚弄する行為に他ならないからだ。
ゆえに、今感じた驚嘆も、決して同情の余地のない、純粋なものである。
(恐ろしいまでに体術が完成している。戦闘訓練のみを、今までの人生全てにつぎ込まなければ、こうはならない)
その積み上げてきたものに応えるべく、リュウジはその一撃だけ、己の心をのせた拳を繰り出す。
「……ッ!!」
咄嗟にアスカのガードは間に合った、
(なっ!!!)
だがガードごとアスカは吹き飛び、
「あ……っぁ!?……っ!!?」
ガード越しに腹の奥底まで響く一撃で、呼吸すらままならなくなっていた。
断っておくが、無論リュウジは手加減している。そしてアスカもそれは百も承知である。それでも一種の礼儀として、リュウジは彼我の実力差をあえて見せつけているのだ。
(ありえない……たった一撃で、こんなっ!)
だがそんなアスカを待つような、『無礼なこと』はリュウジはしない。
ダウンしているアスカめがけて、すかさず突きを繰り出す。
「くっ!」
横に転がり、なんとか逃れるが、それで逃げおおせられるわけがない。
(呼吸を、整えるのよアスカ!)
ここでパニックにならなかったのは、さすがアスカといえよう。
呼吸を整えるべく、避けに徹した。
そのために、アスカは逆に攻めた。
(ここ!)
リュウジの右突きに瞬時にしがみつくと、
「フッ!!」
腕ひしぎをきめにかかる。
(恐らくすぐに抜けられるか、返される。でもそれでいい)
アスカとしては、1秒でも一瞬でも呼吸を整える時間が欲しかった。
普通ならいかに屈強な男でも、右腕に少女一人分の体重が関節を決められながら加われば、少なくとも、ダウンさせることはできる。
「……え?」
だが予想外の展開に、アスカは呼吸を整えるのも忘れた。
「どうした?もっと力かけていいぞ」
リュウジは、倒れることなく、腕にしがみつくアスカに話しかけていた。
(これ、本当に人間の腕なの?)
鋼に関節技をかけているかのように、まるでびくともしない。だが容赦なく、リュウジはしがみつくアスカに、左突きを仕掛ける。
咄嗟にアスカは腕から離れつつ、両の掌でそれを受け、
「グッ!」
後方に飛び、威力を殺す。
だが殺しきれずに、半ば床に叩きられつつも、受身をとりすぐさま立ち上がる。
「ハァッハァッハァッ……」
時間にしてまだ一分も経っていない攻防であったが、アスカは何十キロと走ってきたかのように、肩が上下し、滝のように汗を流していた。
何とか構えをとり、リュウジに攻めかかる。
(これはない、こんなに差があるなんて、今までの訓練は何だってのよ!!)
先も述べた通り、リュウジが手加減しているのは、アスカもわかっているし、自身より強いのも百も承知である。
だがここまでとは思ってなかった。血反吐を吐き、必死に己を鍛えてきた自負が、アスカにはあった。だがその悉くが、リュウジには通用しない。それでもアスカは喰らいつく。
だが、
「フンッ!」
「クゥッ!」
リュウジはアスカの攻撃に合わせ、彼女の左肩に掌底を繰り出し、倒してしまう。
「……5回目だな」
「ハァッハァッ……何がよ」
肩を上下し、何とかアスカは立ち上がる。
「……おじさんが、式波を殺せた回数だよ」
そう言われて、手加減している理由を、アスカは真に理解した。
(私なんかに手加減抜きになれば、数秒で殺せるんだ。この人……)
「正解。……アスカ。これから言うことをよく聞いてくれ」
構えを解き、リュウジはアスカに視線を合わせる。
「君の技術は最高のレベルと言っていい。それほどの技術を身につけるには、筆舌にしがたい困難を乗り越えてきたことだろう。これはお世辞でも、嫌味でもない。これほどの技術、身につけた人物は、俺は数えるほどしか知らない。自信を持っていい」
「嘘よ。アンタには手も足も出なかったじゃない」
「そこだよ」
「え?」
「なぜ手も足も出なかったか。わかるか?」
急に言われても、戦闘後の疲労も相まって、アスカは答えられなかった。
「シンジ、レイ、こっちへ」
呼ばれた二人は、リュウジへと近寄った。
「君たちにも聞こう。彼女の技術を見て、どう思った?」
「凄かった。ボクにはあんな動きはできない」
「私もです。碇三尉よりも速く見えました」
「そう。スピードは俺以上、技術も超一流。だからこそ、勝てない根本の原因が他にある。わかるか?」
誰も、答えられない。
「それは、武器に振り回されているからだ」
「何言ってんのよ。素手だったじゃない」
「武器というのは銃や刃物だけじゃない。例えば俺の拳。これも俺にとっては立派な武器だ」
実際にその拳を受けたアスカは、納得せざるを得ない。手加減してなお、ガード越しに自分に大ダメージを与えたからだ。
「武器とは、相手を殺しうるもの全てだ。言葉だけでも、時には人を死に至らしめる。技術、知識、そしてエヴァンゲリオン。全て武器だ。だが、それらを修得したり、扱えるようになるだけではダメだ。それを扱う為に、頭と心を鍛えなければならない」
いかに強力な武器を手にしたとしても、それを扱うものが未熟では意味がない。
それは、仮に超一流の体術を修得したとしても、同じことが言える。
「技術を修得することに、大した意味はない。大切なものは、それを扱う、自身の思いと、考えだ。だが忘れるな。武器というものは、己の中にあるそう言ったものを増幅させる、善良なものも、邪悪なものもな」
銃を持った時、もし近くに守りたいものがあれば、己を奮い立たす。憎き相手がいれば、憎悪が影を落とす。リュウジはそれをよく理解していた。
「年寄りの冷や水と思ってくれていい。だが君達は、世界を滅ぼしうる力に選ばれた。それを使いこなすには、何度も言うが頭と、心を鍛える必要がある。俺など及びもしないほどに。その為に俺の出来うる限りを、君達に伝えさせてほしい。だが俺ができるのは、それだけだ。自分を強くするのは、自分にしかできないからな」
嘗てのアスカであれば、リュウジのいう通り、
「年寄りの冷や水」
として、聞く耳など持たなかったろう。だがそう言う男に、先程アスカはぼろ負けしたのである。聞かないわけにはいかなかった。
「各々が考える強さも、違ってくるだろう。当然だ。そもそも強いと言うことに、定義なんてない。だからこそ、心と頭を使う生き方を知ってほしい。それが伴わない強さは、いつか己を破滅させる」
そこまで言って、リュウジはアスカを見る。
「アスカ、君にはそれが伴っていない。俺にガムシャラに攻勢に出ても、勝てないのは君なら理解できていたはずだ。だが心で理解するのを拒み、考えなしに正面から攻め続けた。それではどんなに技術があっても、いずれは、負けるか、自滅する」
まるで予言のようなリュウジの言いようであったが、単なる予言ではない。そうして破滅していったもの達を、彼は何人も見てきたのだ。
だとしても、まだ若いアスカは、
「じゃあ、どうすればいいのよ。培ってきたもの全部、捨てろっての?」
どうすればいいかわからない。
「そうじゃない。言ったろ?
自分が努力して、修得したものを、手放す必要はない。今のアスカは、修得しただけで完結してしまっている。リュウジは彼女に、それをどう扱うか考えて欲しいのだ。
「おっと。訓練と言っておきながら。話でほぼ終わってしまったな。年寄りの悪い癖だ。次回からは、ご期待通りしごいていく。覚悟しろよ」
その日、三人のスケジュールは終了となった。
※
「レイ。ちょっといいか?」
「はい」
リュウジは、訓練終了後、身支度をし終えたばかりのレイを呼び止めた。
「何でしょう?碇三尉」
「……この間の話、考えてくれたか?一緒に住もうという……」
リュウジはレイに同居の誘いをしていた。
無論ミサト、シンジ、アスカも含めれば、五人暮らしとなるので、今の住まいを引き払い、広い部屋か、一戸建てを考えている。その目処も立てた上で、リュウジはレイに提案していた。
「……その件は、しっかりと条件を受けてくれればお受けします。と言ったはずですが?」
「いや……そりゃそうだが、……その、なぁ?」
なんとも歯切れの悪い返事であった。
リュウジにとっては、そのたった一つの条件が無理難題なのだ。
「この前と返事は変わりません。碇司令と仲直りするならば、その話をお受けします」
「……勘違いしないでくれ。俺があいつを許せないのは。ただ意地になってるからじゃない。あいつがシンジを蔑ろにして……」
「その原因に、碇三尉がまったく関係ないと言えますか?」
痛いところをつかれる。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。
ゲンドウがリュウジへ向ける敵愾心が、リュウジが面倒を見るシンジまで及んでいることは否めないのだ。
そもそも、今シンジはリュウジとゲンドウの間で板挟みの状態である。
最初こそレイもその状況を理解していなかったが、リュウジと触れ合ったことで、感情が育ち、徐々に理解し始めていた。
「碇三尉。私は貴方のことを信頼しています。ですから、一緒に住もうと言ってくださって、嬉しかったです」
バツの悪い表情を浮かべるリュウジに、レイは微笑みを向ける。
「ですが、碇司令のことも信頼しています。そのお二人が、兄弟として、碇君は仲良くして欲しいんだと思うんです」
「……そうだな。それはわかってる」
だが、シンジを今まで放置していたことが何より許せないリュウジは、それができない。
自分がこの先も得ることができない、実の息子を蔑ろにすることが、リュウジにとっては信じられないのだ。
「どうか、碇君の為にも、素直になってください」
そう言って、レイはその場を後にした。
※
その夜。
食事が終わり、ひと段落した時間。
リュウジは後片付けをしていると、
「社会科見学?加持が?」
食事後もビールを煽るミサトの声が耳に届く。
「ええ、みんなのことも誘うといいって」
「あいつに関わると、碌なこと無いわよ」
「じゃあ、あたしパ〜ス」
「ダメよ。和を持って尊しとな〜ス。アスカは行きなさい」
「それも命令?」
そこへ、リュウジがエプロンを脱ぎながらやってきた。
「どうしたんです?」
「ああ、おじさん。これ加持さんから誘われたんだ」
そう言われて、リュウジはシンジが差し出した資料に目を通す。
「日本海洋生態系保存研究機構……」
「よくわからないけど、昔の海を取り戻したり、その時の生態系の再現を目的とした研究施設みたい」
シンジの説明があったが、リュウジは聞こえていないかのように、食い入るようにその資料に見入っていた。
「……貴方も行けば?リュウジ」
「いえ、私には仕事が……」
「大丈夫よ。色々とこき使われてるんだし、一日ぐらい、羽伸ばしてきたら?」
「そうだよ。こっちにきてから、家のことも、ネルフの仕事もぶっ通しだったんだから、明日は休暇にしようよ」
「そうね!それがいいわ」
「そんな。私は……」
「これは命令よ、碇三尉。休暇を取りなさい」
この時、リュウジはミサトが自分の今の心境を察していることを理解した。
ミサトはセカンドインパクトの時、まだ子供であったが、既にリュウジは成人していた。『海』と言うものに、差はあれど何かしら思い入れがある年代なのだ。
「よし!じゃあ明日のお弁当はボクが作る。家事も粗方やっとくから。おじさんは、ホンッとうに何もしない!いいね?」
「ま、子供たちの引率として、運転ぐらいはしてもらおうかしら。ネルフの車貸すから」
「いえ、ですから……」
「おじさん!」
シンジが言葉を遮り、リュウジに詰め寄る。
「休んでよ。お願いだから。……一日だけ、たった一日だけだよ。誰も文句なんて言わない。いや、ボクが言わせない」
シンジの懇願するような表情に、リュウジは何もいえなかった。
「貴方から見れば、私なんか危なっかしいかもしれないけど、少しは信用してちょうだい。一日ぐらい、貴方がいなくても、問題ないの。いいわね?」
「……わかりました。ありがたく、休暇をいただきます」
リュウジは素直に頭を下げた。
※
深夜。
リュウジはいつも通り、眠れぬまま夜空を見上げていた。
「……急に気配が消えれば、イヤでも気づくぞ。アスカ」
「んっ……」
そこに近づいてくるアスカに、リュウジは隣のデッキチェアに座るように促す。
「眠れないのか?」
「別に、ちょっと目が覚めただけよ」
そうか、と言うと、リュウジは再び夜空を見上げた。
「……すごいな、アスカは」
「は?」
「今日の訓練の時、君と戦って、素直にそう思った」
「戦って?よしてよ、戦いですらなかったじゃない。アタシは軽くあしらわれただけ」
「だがその技術は紛れもなく、本物だ。自分に厳しく向き合い、磨き上げてきた技であることが、俺に伝わってきたよ」
先にも述べたが、これはリュウジの素直な賛辞である。14歳と言う年齢を差し引いても、これほど優れた技は、リュウジは数える程しか見たことがない。
「だけど、死に物狂いで訓練してきたその過程で、恐らく誰も君自身を育てようと言う人はいなかったんだろう。俺には、それが許せなくてな」
「何でアンタが許せないのよ。別に関係ないじゃない」
「それは、君自身を蔑ろにする行為に他ならないからだ」
アスカの技術の完成度とは裏腹に、彼女自身の成長が乖離している。彼女の成長が、二の次どころか、どうでもいいかのように、放置されてしまっている。
エヴァのパイロットとしか、見られてこなかった証拠だ。
それが初戦において、自己顕示を優先してしまった理由だとリュウジは考えていた。
アスカ自身の、
「私を見て!」
と言う思いの、発露だったように思えたのだ。
「アスカ。これは俺の願望でしかないが、君にはエヴァに関係なく、一人の人間として、強くなってほしい」
いつのまにかリュウジは夜空ではなく、アスカを見つめていた。
「俺の本心は、シンジにも、レイにも、そして君にも、戦って欲しくない。エヴァに乗らない、そんな人生が歩めるようになって欲しい。……恐らく、パイロットになるべく、邁進してきた君には、受け入れ難いかもしれない。だからせめて、君が強くなる手助けをしたい。エヴァのパイロットとしてでなく、一人の、アスカという人間としてだ」
人類のために、子どもを戦わせている。そうしなければ、人類が滅ぶとしても、子供の未来を奪いかねないこの選択に、未だにリュウジは忸怩たる思いを拭えない。
だからせめて、生き残れるように、一人の人間として、強くなってほしかった。
「……今更、アタシにそんなこと言われたって、もう遅いのよ。アンタ、伝説の軍人なんでしょ。世界中が、アンタの手中にある。なのに、アタシを……助けてくれなかったじゃない」
「そうだな。俺は、君を助けられなかった。だから、約束させて欲しい。この先、もし君が助けを求めたら、何が何でも駆けつける。そして、君を守る」
「ムリよ、そんなの……」
「頼む。アスカ」
アスカを見るその眼は、哀しみを讃えながらも、真っ直ぐに彼女を見据えていた。
「俺に、チャンスをくれないか?」
「……わかったわよ。期待しないけど、約束させてあげる」
「……ありがとう。アスカ」
リュウジは顔を綻ばせながら、アスカを撫でた。
「改めて約束する。君を守る。何が何でも」
「わかったから。ウザったいっての」
リュウジに手を、煩わしそうに払うと、アスカは立ち上がった。
「もう寝るわ。明日早いみたいだし」
「ああ。……おやすみ、アスカ」
一度もリュウジを見ずに、アスカはベランダを後にした。
今回は、少し……、いえ、だいぶ説教くさい話になってしまいました。
私なりに、子供たちに向き合うにはどうすればいいか、考えた故の展開なのですが、難しいですね。
ご意見、ご感想お待ちしております。
誤字、脱字等ございましたら、お手数ですがご報告ください。
これからも、応援よろしくお願いいたします。