新世紀エヴァンゲリオン-And become Joseph-   作:さえもん9184

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これからも精進します。


破-その男の罪-

月面タブハベースにて。

 

「……それで?掟の書の進行を妨げているのは、一体誰なんだい?」

 

「碇リュウジ。強大な力を持つ男だ」

 

「リリンの王よりも?」

 

「奴とは違った力を持っている。このままでは、我らの悲願の成就はあり得ない」

 

「……それほどなのかい?」

 

「仕組まれた運命をも変えうる」

 

「…………っ!?」

 

「このままでは、我らのレジスタンスが水泡と帰す。人類の補完。安らかな魂の浄化はかなわない」

 

「不思議でしょうがないよ。なぜそれほどまでの力を持つに至ったんだい?」

 

「気づいた時には、もう遅かった。崩された世界を、造り直した。可逆性のないはずの世界を、奴は戻してみせた」

 

「その過程で、莫大な力を得た。と言う訳か」

 

「そうだ。碇とて、奴に手を出すのは不可能に近い」

 

「……どうかな。曲がりなりにもリリンの王だ。ましてや兄弟なら、あり得ないとは言い切れないよ」

 

「どちらにせよ、我らの悲願の為に、次の段階へと是が非でも至らなければならない」

 

「……わかっているよ。……だけどまずは、お父さんへ挨拶しないとね」

 

 

「……海だ」

 

リュウジは、目の前の景色を見て、思わず声を漏らした。

シンジをはじめとする子供たちは、初めて目にする光景に、はしゃいでいる。

だが、リュウジは嘗て当たり前だった世界を見て、呆然と立ち尽くすだけであった。

 

(俺たちが……、残せなかったモノ)

 

全てが懐かしい光景であった。

嘗て見たことのある、海の生物たち、蒼い水面と、光を讃える景色。何もかもが、懐かしい。だが、それと同時に……

 

「貴方には、随分とお懐かしい景色じゃないんですか?碇三尉」

 

「ええ……、それと、罪悪の景色だ」

 

「……?それは、どう言う……」

 

加持の言葉を聞き終わらぬうちに、リュウジは目の前に水槽に手を触れる。

 

(いつまでも……、いつまでも、当たり前にあるものと勘違いしていた)

 

失う事は、どんな事にも起こり得る。

セカンドインパクトは、それを改めて思い知らせた。

 

(……もう二度と、失えない)

 

頭を水槽に当てると、そんな決意が、頭に入ってくるかのようだった。

 

「おじさん?」

 

いつもと違う、リュウジが心配になり、シンジが声をかけようとすると、

 

「今は、一人にしてあげた方がいい」

 

「加持さん……」

 

「俺や君と違って、あの人は海に思い入れのある世代だ。思うところがあるんだろ」

 

(だから、葛城はこの人を来させたんだな)

 

加持は、元カノの思いやりと、その成長に、感慨深くなる。

 

(……だが、それにしたって何処かおかしい)

 

いつもの人の良い表情は、どこかへ消えていた。だからこそ、シンジも心配になったのだろう。

加持にしても、リュウジとの付き合いが長いわけではなく、判断材料は少ないが、碇リュウジという男は悩みとは縁遠い人物と思ってしまう。

だがそうではない、リュウジは悩む。それを普段は顔に出さないだけである。

長年、戦闘の場面や、指揮する際に、そんな顔をするのは御法度であるため、微塵もそんな雰囲気は出さないだけである。

だが、目の前に広がる景色は、そんな長年の癖を吹き飛ばすには充分であった。

 

「碇三尉?」

 

「あぁ、レイ……」

 

そんなリュウジの心情を感じたのか、レイが恐る恐る話しかける。

 

「大丈夫……ですか?」

 

そう言われて、リュウジもはたと気づいた。

 

(……しまった。なにやってるんだ、俺は)

 

自分がどんな顔をしているか、ようやく気がついた。

 

「ああ、大丈夫だ。ただ、あまりに懐かしい光景でな」

 

「懐かしい……?」

 

そう言って、自分の顔を覗き込むレイに、リュウジはハッとする。

 

「レイ……」

 

「懐かしい……とは、何でしょう?」

 

「……そう…だな。生きていくほどに…希望が積み重なったもの、かな」

 

「希望……」

 

「ああ……、そう、希望だ。なんて言うか、その、……いいものだよ。とても……。―――恐らく、この世で最も素晴らしいものだ。少なくとも、俺はそう信じてる」

 

「なら、その『懐かしい』は、もっと素晴らしいものなんですね」

 

「……ああ、…ああそうだ。いつかレイも、そう感じる日が来るよ。……きっと」

 

「はい。楽しみにしてます」

 

リュウジは思わず顔を背けた。レイの笑顔にも、ここに広がる光景にも、はしゃいでいるシンジ達にも、自分が感じる懐かしさにも、胸を押し潰す何かに、耐える事ができなかったからだ。

 

 

「「「「「「いっただきまーす!」」」」」」

 

お昼に差し掛かり、皆んなでシンジが作ってきたお弁当を囲んで、お昼ご飯となった。

 

「お〜うまそうやな」

 

「遠慮しないで食べてよ」

 

「へぇ〜、碇が作ったのか?」

 

「うん。なにせ、今日はおじさんは休暇だからね」

 

「休暇?」

 

「うん。ネルフも家事も、今日は休んで、おじさんには、ゆっくりしてもらうことにしたんだ」

 

シンジは、昨夜から今日のお弁当を仕込んだり、今朝も粗方の家事を一人で片付けていた。

ちなみにリュウジが、

 

「手伝おうか?」

 

と、声をかけようものなら。

 

「いいから!葉巻でも吸ってて!」

 

と、有無も言わさぬ状態であった。

いつもは寝起きの悪いミサトも、

 

「気をつけてね〜」

 

と、早起きして、見送りまでしてくれた。

シンジやミサトの気遣いに、リュウジは勿体無いと感じながらも、その好意に今日は甘えていた。

 

(ありがたい心遣いだが、普段から早起きしてくれ、葛城さん)

 

甘えつつも、心の中でそんなツッコミをしていた。

 

「シンジ君。台所に立つ男はモテるぞ」

 

「でも、おじさんが、女の人にモテてるの見たことないんですけど」

 

シンジは、リュウジの心を容赦無く抉る。

 

「そうね、アンタ、側から見てるだけじゃ、冴えないオヤジだもんね」

 

アスカは、リュウジの心を容赦無く串刺しにする。

 

「碇三尉は、碇司令と比べると、威厳もないです」

 

レイは、容赦なくリュウジをマットに沈めた。

 

「……コイツが言ってた通りね」

 

「うん。言葉って……」

 

「人を殺せる」

 

三人は、リュウジの教えの正しさを実感していた。

 

「うわぁ……」

 

「さ、三人共、容赦あらへんな……」

 

リュウジが(精神的に)大ダウンしているのを見て、トウジとケンスケは声を漏らす。

 

「ま、まあまあ、本人にその気がなければ、話は別だから」

 

すかさず加持がフォローに入る。

 

「ま、俺だって、料理できるようになったのは、ここ数年のことだからな」

 

「「「「「「え!?」」」」」」

 

リュウジの意外な言葉に、一同は思わず驚く。

 

「料理だけじゃない。他の家事だって、ここ数年で出来るようになったんだ」

 

「知らなかった。おじさんは、ずっと自分でやってきたとばかり思ってたよ」

 

シンジですら、その事実を知らず、その顔には、驚きが残っている。

 

「それに、前は定食屋やってたって……」

 

アスカも、ミサトから聞いていた話から、リュウジの言葉が信じられないようであった。

実際リュウジの料理は、素直には言えてないが、美味しいと言えるものだった。

 

「最初は酷いもんだった。だが、なんとかシンジも食わせられるぐらいには、腕前は上達できてね。正直、気まぐれで初めたとは言え、結構苦労したよ」

 

実際は、彼の経歴を隠すためのカモフラージュで始めたと言う理由もある。

 

「では、どうしてできるようにしたんです?」

 

「そりゃ、努力したからですよ。特別な事はなにも……」

 

「いえ、そうではなく、……なぜそこまで努力したのか、その理由をお聞きしたい」

 

加持にそう言われて、リュウジは言葉につまった。

 

「あ〜!わかった。それこそモテたいからなんじゃない?」

 

そのリュウジの反応に、アスカがはやし立てる。

 

「まさか、おじさんに限ってそんな理由で」

 

「そうだ、スパイとして潜入する為とか?」

 

「でも、ここ数年やと、そもそもスパイはやってへんのとちゃうか?」

 

あれやこれやと、話が弾むが、肝心のリュウジは、何処か居心地の悪い表情のままであった。

 

「碇三尉。どうなんですか?」

 

レイは無邪気にもリュウジに迫る。

無邪気ゆえに、リュウジも逃げられない。

 

「その……、……シンジを引き取ると決めた時、流石に何もできないのはまずい、と思ってな。そこから、勉強して、できるようになった」

 

「え……」

 

思わぬ答えに、シンジは声を漏らす。

 

「……本人の前でこんな事言わせないでくれよ。恥ずかしいだろ」

 

本当に恥ずかしいらしく、両手で顔を覆いながら、まるで湯気でも出しているかのように恥ずかしがっている。

47歳、中年男性がやる仕草ではない。

 

「……キモチワルイ」

 

「……知ってる」

 

自覚はあるようである。

 

 

昼食後、リュウジは一人施設を見渡せる場所で、潮風を感じながら考えていた。

その視線の先には、人工的に作られた海岸で、子供たちが戯れている。

 

(本来ならば、この当たり前を、彼らも普通に味わうことができたんだよな)

 

「あまり、気に入りませんでしたか?ここは」

 

そこに、加持が後ろから声をかける。

 

「そんなことありませんよ。……ただ、あまりに懐かしくて」

 

「『生きていくほどに、希望が積み重なったもの』ですか?」

 

「……フ。自分でも、キザな言い回しだと自覚してますよ」

 

そう言いながら、自嘲した笑みを浮かべる。

 

「私は、あなたや、あの子達に、恨まれても仕方がない」

 

「何故です?」

 

「……セカンドインパクト」

 

その言葉に、一瞬加持はたじろぐ。

 

「……全てが失われたあの日。あなたはまだ子供だったでしょう?私はもう32歳だった。その時私が何をしていたと思いますか?」

 

リュウジは、少しだけ加持との距離を縮める。

 

「戦争ですよ。おぞましくも、滑稽に人を殺めていた」

 

加持は懐からタバコを出し、すい始めた。

 

「恨まなかった、と言えば嘘になります。正直言って、大人は誰も守ってくれませんでしたから、自分達でもがくしかなかった」

 

そんな荒んだ生活の中で、当時の大人達へ恨みを抱いていたのは確かだった。

 

「でも、今は違います。あの大厄災の前では、例えあなたでも、どうすることもできなかったと、理解しているつもりですよ?」

 

そう言われても、リュウジの罪悪感は拭えない。

 

「この世界に生きている限り、世界の出来事に傍観者でいてはならない。それが、世界の崩壊なら尚更です。だというのに、私は……世界のためになることなど、なにもしていなかった」

 

セカンドインパクトが無かったとしても、環境破壊、大気汚染、etc、世界は当時から、徐々に終わりへと向かっていたのだ。

その中で起こったセカンドインパクトは、皮肉にもリュウジにとっては、世界の終わりへの警鐘を鳴らしたのだ。

 

「その中で、もっとも割りを喰うのは、他でもない子供達です。彼らが希望を持てるよう、守らなくてはと思い立った」

 

「だからこそ、あなたは各国の立て直しに協力し、その過程で、各国の恥部や急所を抑え、徐々にその手を広げていった」

 

「ええ、そして目的が成就できた時、私はあの子達に謝る。当たり前の世界を、残せなかったことを。だが……、その謝罪も、あの子達には……理解できない。当たり前に…あったものが……、彼らが…生まれた時には、既に存在してない……」

 

再びリュウジは、はしゃぐシンジ達を見る。

 

「あの子達が、この景色を……当たり前と思えないのは、俺のせいだ……。なのに、シンジは俺に笑顔を向ける。俺が何を残せなかったのか知らないからっ……」

 

それは幸運とも、不幸とも断言できない、だが確かに自責の念であった。

むしろ、そう断言できないこと自体が、自分への罰であると、リュウジは思っていた。

 

「……私は羨ましいですよ。シンジ君が」

 

「……なぜです?」

 

「守られなかった私と違って、シンジ君は、あなたに守られている」

 

加持は、これ程までに、人が他人を深く愛せる事を、リュウジとシンジを見るまで知る由もなかった。

 

「シンジ君があなたに笑顔を向けるのは、その事を理解し、あなたを深く愛しているからですよ」

 

リュウジ自身、シンジを思う心に偽りはない。現に彼は初号機を大破することなど厭わずに、シンジを助けた。

 

「それに、シンジ君の為に、料理や家事を努力してきたんですよね?」

 

「努力なんて、そんな御大層なもんじゃないですよ。シンジに、戦争屋が引き取ったからって、不幸な境遇にしたくなくて、只々必死だっただけです」

 

リュウジが触れ合った子供といえば、少年兵であった。そしてその子供達は、不幸な結末を迎えた。

だからこそシンジには、普通に幸せになって欲しかった。

 

「だが、幸せは、自分で掴み取らなくてはならない。私にできるのは、結局見守る事だけです」

 

「そりゃそうでしょう。シンジ君の人生は、彼自身のものです」

 

その時、

 

「おじさーん!!」

 

こちらに気づいたシンジが、無邪気にこっちに手を振っていた。

それにリュウジも、手を振って答える。

 

「こうして見ると、とても人類を守るエースパイロットとは思えないですよ。実を言うと、少し安心してるんです。伝説の軍人が、子供達を訓練して、全てが終わった時、普通の生活に戻れるのかどうか……」

 

「私が戦闘マシーンにしようとしてると思ったんですか?」

 

リュウジはそう思われても仕方がない、と思っている。

なぜなら、リュウジは今まで現われた使徒など、足元にも及ばないほど、多くの命を奪ってきたからだ。

そんな男が、子供達の人生を、しっかり考えられるとはとても想像できない筈だ。

 

「そこまでは言いませんが、ただ戦う事以外、教えないような人だと思っていました」

 

だが今のパイロット達を見て、それが間違いである事を加持は理解した。

 

「ですが違った、あなたは、どう生きるかを教えようとしている」

 

「……最初はそのつもりでした。でも今は違う。どう生きるかを、共に考えている」

 

「だからこそ、あの子達も、剣崎や高雄も、あなたを慕っているんじゃないですか?」

 

「……人とはままならない、この歳になっても、『生きる』ということがどういう事か、定まっていない。……いえ、それを考え続けるのが『生きる』ということか」

 

そう言いながら、リュウジも葉巻を薫せ始める。

二つの紫煙が、潮風と共に、空へと舞い上がっていく。

 

 

その日の帰り、ほとんどが車内で寝静まっているなか、シンジは運転しているリュウジを後部座席から無言で見ていた。

 

(知らなかった。おじさんが、そんな努力してたなんて……)

 

シンジにとって、リュウジは何でもできる、憧れの大人であった。無論、彼の勝手なイメージである。

だからこそ、リュウジが自分のためにそこまで必死になっていたことが、驚きであるとともに、

 

(なんか……うれしいな)

 

と、思わずにはいられなかった。

だがそれと同時に、

 

(でも、ボクの為に、なんでそこまで……)

 

とも、考えてしまう。

シンジは、リュウジのこと完全に理解している訳ではない。だが、その気になれば、どこかの軍のトップ、ともすれば、国のトップになれるほどの人物だと思っている。ネルフで、半ば下っ端をやっているのは、ゲンドウとの不仲が一番の原因だが、そもそもネルフから離れれば良い話である。それをしないのは、最初に会った時の、

 

『約束する。私は、君のそばにいるよ』

 

シンジとの約束のためだ。

その約束を、リュウジは今日まで違える事はなかった。

だがそれが、リュウジの足枷になってはいないかと、時々考えてしまう。

無論リュウジは、

 

「そんなことはあり得ない」

 

と断固否定するだろう。そう言ってくれることは、シンジもわかっている。

 

(でも、ボクは……)

 

「ねぇ、碇君」

 

考えに耽っているシンジに、レイが話しかける。

 

「どうしたの?綾波」

 

「お願いがあるの、……私に、料理を教えてくれない?」

 

「え?」

 

そう言われたシンジの脳裏には、驚きよりもまず、疑問が浮かんだ。

 

「ボクなんかより、おじさんに習った方がいいよ。ボクよりずっと上手だし」

 

だが綾波は顔を横に振った。

 

「碇君から教わりたいの。だめ?」

 

「教えてやれよ、シンジ。それも勉強だ」

 

「おじさん」

 

振り返らずに、リュウジはシンジを促した。

 

「俺も、お前に料理を教えてと言われた時、正直不安だった。だが今にして思うと、それが、より俺を成長させてくれた。人に教えることで、また自分も教わることになるんだ。だから、レイに教えることで、きっと、お前の勉強にもなる……レイ」

 

「はい」

 

「料理を作って、食べた人を笑顔にすることは、何物にも変え難い喜びになる筈だ。……俺はシンジにそう言われて、そう感じることができたよ」

 

初めて、シンジが、自分の料理を美味しいと言ってくれたことをリュウジは今でも覚えている。

あの笑顔をもっと見たい、この子の為にもっと上手く作りたい。それが何よりの、リュウジの原動力となったのだ。

 

「俺はそうして、シンジに幸せにしてもらった、だからいつか、レイも誰かのお陰で、幸せになれるよ」

 

「なら、いつか碇三尉も私の料理を食べてくれますか?」

 

「フフ、俺では、君を幸せにはできない。もしかしたら、いつか辛い思いをさせるかもしれない」

 

「何が幸せで、何が不幸かは自分で決めます。……ね」

 

レイは、シンジの顔を覗き込む。

 

「……そうだね、みんな、そうなんだ」

 

リュウジは、シンジといて幸せと言ってくれた。そこに、シンジが何か差し挟む余地はない。

リュウジの幸せを、シンジとて、いや何人たりとて、決めることは叶わない。そしてその逆も然りである。




今更ですが、エヴァって本当に謎が多いです。それが魅力なのもありますが。
ですので、私の独自解釈も多分に含まれていきますが、ご容赦ください。

ご意見、ご感想お待ちしております。

誤字、脱字等ございましたら、お手数ですがご報告ください。

これからも、応援よろしくお願いいたします。
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