新世紀エヴァンゲリオン-And become Joseph- 作:さえもん9184
休日出勤が……、休日出勤が憎い。
先週は、そう思わずにはいられませんでした。
伊吹、日向、青葉の三人は、そのまま指令室で画面と、書類とを、交互ににらめっこしていた。
「……ハァ~、わかったか?日向、マヤちゃん」
青葉のその言葉には、誰かが解ったかという期待というより、解らないことを共有するかのような含みがあった。
「いいや……」
「ダメです。―――一体何が予測要因なのか、さっぱりです」
そして、日向、伊吹もその言葉に同調した。
いくら使徒のデータを洗っても、リュウジが出した予測にたどり着かず、三人は途方に暮れたままであった。
「だよな~、リュウジさんは、俺らなんかとは見えてるものが違いすぎるんだよ……」
「でも、だからこそ、使徒の弱点を見抜けたんだと思います」
未だに、第六の使徒に対する、あの土壇場での戦略眼は、思い出すだけで三人とも閉口してしまう。
「ああ、でなければ、あの歳まで生き残る事も出来なかったんだ。修羅を生きてきた人間は違うよ」
そしてその歳や、生き抜いてきた経験を傘に、ミサトやリツコはおろか、若造の自分たちにすら、偉ぶった態度は微塵も出さない。
それどころか、マヤから理不尽な不満をぶつけられても、嫌な顔一つせず、三人の背中を押してくれた。
「……時間が経てばさ、自然とあんな大人になれるもんだと思ってたよ」
「…そう、ですね……」
「……何も変わってないよ、子どものころから」
周りに気づかい、歳下の手本となり、いざとなれば、子どもを体を呈して守る。それが大人としての理想だが、二十歳を過ぎ、社会人となって、それがどれだけ難しいことか、否が応にも実感する。
だがそう成れないのも、忙しさを理由に、
『仕方がない』
と思い込むようにしていたが、実際にそれを体現している人物を目の当たりにすると、どこか惨めさにも似た感情が湧きあがる。
「……どうする?時間も差し迫ってる」
日向が、半ば諦めを滲ませながら、天を見上げる。
実際、悠長に分析ばかりに時間を割いていられないのも事実である。
「ですが!……このまま提出するのは……」
マヤはなんとかしたいと思っているようだが、結果が伴っていないため、尻すぼんでしまう。
「……時間を考えれば、提出するしかないだろ。敵は待っちゃくれないからな」
青葉も納得していないが、仕方がないという心地であった。
「だが、このまま黙って提出なんてのはまっぴらだ。ちゃんと筋は通そう」
「だな。せめて、人としてはちゃんとしよう」
「ですね。リュウジさんに謝って、葛城一佐に全てお話しましょう」
それは、リュウジの好意を蹴り、ミサトからの期待を裏切ることとなるが、だからこそ、三人は後ろめたさを残さないことに決めたのだった。
※
「それで、わざわざ私の元へ謝りに?」
「ええ、ここまでしていただいて、誠に申し訳ないのですが、どうしてもわからなくて……」
いの一番に日向が口を開き、三人はそろって頭を下げていた。
「損なことをなさいますね、そのまま提出してもいいと言ったのに」
リュウジとしては、裏表などなんにもなく、本気でそう思って三人に予測結果を手渡したのであるが、
「そんな図々しいことは出来ません」
「それに、私は先ほどあんな失礼な態度を取ってしまいました。その上あなたの手柄まで横取りするなんて、あまりに恩知らずです」
恩を売ったつもりなど、リュウジには毛頭ない。
仕事として、というよりは、歳上としてできることをしたに過ぎない、と考えているからである。
「……わかりました、なら私も葛城一佐の元へご一緒します」
「え?」
「いえ、そこまでしなくても……」
「ここまできたら乗りかかった船です、お付き合いさせてください、ただ……一ついいですか?」
人差し指を立て、リュウジは三人に質問する。
「そもそも、どのようにしてあなた方は予測を割り出そうとしたのですか?」
「勿論、今ある使徒のデータを参照しながら……ですが?」
「なぜです?」
そう返されるとは思っておらず、三者三様に戸惑った目をした。
「……成程、やはりご一緒に行って、説明した方がいいでしょう」
リュウジがどう落下予測を割り出したのか、知りたかったのもあり、三人はリュウジと共にミサトの元へ向かった。
※
「余計なことはしないでくれるかしら、碇三尉」
だが、事の顛末を知ったミサトの、開口一番がそれであった。
「私は彼らならできると考えて、仕事を任せたのよ?いかにあなたでも、でしゃばるような真似はしないでちょうだい」
「はい。誠に申し訳ございません」
だがそう言われても、リュウジは文句一つどころか、表情に不満を露程も見せず、深々と謝罪の態度を取っていた。
「待ってください!」
「葛城一佐!リュウジさんは、成り行きで私たちを手伝うことになっただけです。なのに……」
ミサトの態度に、三人は納得できず、抗議するが、
「『碇三尉』よ、あなた達より、階級は下でしょ?」
「それはそうですが……」
それでもミサトは厳しい態度を緩めない。
「階級が下の者が、上の者に敬称をつけなければいけないのと同様に、階級が上の者が理由はどうあれ、下の者に『さん』づけしていては、他の者に示しがつかないわ」
余りの物言いだが、ミサトは何も間違っていない。リュウジが勝手に予測結果を出したのは事実であるし、規律を守る上で、階級の上下は絶対であるからだ。
「……ハァ、過ぎたことを言ってもしょうがないわ。時間もないし、速やかに報告して」
「ハッ、かしこまりました」
だがリュウジは、三人の不満などどこ吹く風で、作戦会議室のディスプレイを操作し始める。
「今回の予測を算出するにあたって、まずは使徒の行動パターンを考慮する必要があります。つまりは、リリスを損傷させることを避けるという特性、これを予測要因の一つとして……」
入力をすると、当初三人が算出した予測範囲の中心部が、予測より外れた。
「ひとまずは、これを起点として考えます」
「起点……ですか?」
「ええ、ここから更に考慮しなければならない要素があります。それが……」
「……ここの地形、でしょ?」
その通りです。というとリュウジは更にコンソールを高速で叩き始める。
「元々ここ第3新東京市、箱根は山岳地帯です。その地形が、使徒落下時の威力にどう影響を受けるか、又は与えるか、そこが今回の予測の肝となります。……例えばここ、中心部に近いですが、山になっているのが解りますか?」
リュウジは中心部に近い部分を示す。
「はい」
「平地と比べれば、その分地層が厚いことになります。落下時のエネルギー放出量が変わることはありませんから、地層が厚ければ、平地と比べれば、その分リリスへの影響が及びにくくなります」
「つまり、中心部であったとしても、落下してくる可能性が出てくる、と……」
「おしい、まだ足りません」
そういうとリュウジは更にコンソールを叩く。
「では、こことここ、地図上は同じ山となっていますが、一方は予測から外しています。何故だと思いますか?」
同じような山となっているが、片方は予測から除外されており、もう片方は予測範囲となっている。だがその違いを急に問われても、今までの説明に目を丸くしていた三人にはこれまた見当がつかない。
「……では、この分布にすれば解りやすいでしょう」
そういうと、別のマップとなる。
するとすぐさま合点がいった。
「そうか、火山!」
「箱根山か……」
リュウジが出したのは、火山活動を示す第三新東京市の分布図であった。
それと照らし合わせることで、似たような地形における予測結果の違いがあからさまとなったのだ。
「ええ、今回の使徒はそれ自体が爆弾です。空から超強力なN2爆弾が落下してくると考えれば、その影響が火山活動に及ぶ可能性が考えられます」
それでリリスに損害が出ては、目も当てられない。
その規模を完全に計算するには時間がないが、過去の火山活動のデータをできる限り照らし合わせることで、さらなる落下地点を絞り込んだのである。
「そうして、今までの予測要因をすべて照らし合わせたのが……」
リュウジがコンソールを叩き終えると、見る見るうちに彼が割り出した予測結果へと変貌していった。
「私が算出した結果です」
先程青葉が、『見えてるもの違いすぎる』と、半ばふざけて言っていたが、三人はまさにその視点の違いをまざまざと見せつけられていた。
「現状、使徒からの情報は皆無に等しい状態です。ならば、今までの使徒の行動パターン、目標が目指して落下してくる第三新東京市一帯の地形、そちらからアプローチするべきでした。使徒を分析するからと言って、使徒だけを見ていては、見えるものも見えなくなります。思い込みは、いつだって敵です。いいですね?」
「……わかりました」
伊吹のみがかろうじて声を発し、他の二人はそのままに、素直にリュウジの言葉を受け取った。
「……いいわ。三人は、各自の持ち場で招集するまで、準備を進めておくように。いいわね?」
静かに敬礼をして、リュウジを残し三人は退出していった。
それをリュウジとミサトは見届け、しばしの沈黙の後、
「ハアァァ~~~……」
ミサトが盛大なため息をして、椅子に座ると天井を見上げた。
「……絶対に嫌われた」
「部下に嫌われるのも、上司の役目ですよ」
リュウジは、いつの間にかミサトにコーヒーを淹れ、差し出していた。
「部下に好かれようとするあまり、態度を緩めていては、人は育ちませんし、いざという時動いてはくれません」
リュウジは、ミサトが努めて自分に厳しい態度を取っていることを解っていた。
だが二人っきりになったために、その緊張の糸が切れ、砕けた態度に戻ったのだ。
「解ってるわよ」
若干むくれながらも、ミサトはコーヒーを受け取った。
「それに、実際今回は私がでしゃばったのは事実です。あそこで厳しい態度を取らなければ、他の者に示しがつきません」
「そうは言うけど、あなたに叱責するのってかなり度胸いるんだけど?」
「……??。何故です?」
リュウジは心当たりがないのか、とぼけた表情をしているが、最初にエヴァの格納ドックでうけた、リュウジの鬼気迫るプレッシャーを、未だにミサトは昨日のことのように覚えている。
(この人、素で無自覚なのがムカツクわ~)
そしてリツコが感じているのと同じく、これ程の男が自分の小間使いをしてくれているのが、未だに信じられないでいる。頼もしさももちろんあるが、ここまで従順だと逆に警戒してしまう。
(正直、碇司令が警戒するのも解る。兄弟であることを考えればなおさら……)
「……で、私を残したのは、作戦をまず私に聞かせたいから、で合ってますか?」
そう言われ、思考からミサトはふと立ち戻る。
「……え、ええ。正直、作戦と言うには、おこがましいにもほどがあるんだけど」
「時には、策なしこそが、最上の策ともなります。これ程の相手に、小細工は無用と思います」
リュウジも実のところ、この使徒に対する対抗策は何も思いついていなかった。徹底抗戦を主張したのは、あくまでミサトが何か考えがあるからと、くみ取ったからであり、その考えをできる限りかなえるべく、短時間でできる限りを尽くしたのである。
「私は課長補佐ですよ?お忘れですか?」
「……ありがと。それじゃ、話すわね」
※
「えーっ!!手で受け止める~!?」
(ま、それが当然の反応だよな……)
自分と全く同じ反応をするアスカを見て、リュウジはさもありなん、と言った表情を浮かべる。
「そうよ、飛来する使徒を、エヴァのATフィールド全開で、直接受け止めるの。目標は位置情報をかく乱しているから、保障観測による正確な弾道計算は期待できないわ。状況に応じて、多角的に対処するため、本作戦は、エヴァ三機の同時展開とします」
「無駄よ!私一人で殲滅できるもん!!」
「無理だ。今回算出された落下予測地点は、確率が高い場所に絞っても、距離が離れすぎている。ヤマを貼って、外れるようなことになれば即アウトだ」
「ええ、だから、エヴァ三機を同時展開して、確率が高い三点を中心に、初号機、零号機、弐号機を展開します」
ミサトがそう言うと、第三新東京市一帯のマップが表示され、予測地点三点がピックアップされる。
「A地点、B地点、C地点をそれぞれ中心に、エヴァを展開。使徒落下地点が定まったら、もっとも近距離にいるエヴァがATフィールドを全開で受け止めて、その間に他の二機も急行する。いいわね?」
「だが、これはあくまで予測だ。目標の軌道はこちらで計算し続けるが、現場の君たちが、状況によって判断することが求められる」
「……この予測の根拠は?」
レイが、静かに質問する。
「今までの使徒の行動パターンと、第三新東京市一帯の地形を考慮し割り出した。簡単に言えば、落下時のエネルギー放出量によって、リリスに損傷がでず、尚且つ接触が可能な地点と思ってくれればいい」
「それだけでも、こんだけあるんですか?」
「すまない。時間をかければより正確に割り出せるが、現状ではこれが精いっぱいだ」
だが、リュウジの尤もな根拠に、どこかパイロットたちは安堵していた。
「シンジ君」
「ハイ!」
「あなたには最も確率の高いA地点を担当してもらいます。加えてもっとも広大な範囲になるから、より柔軟かつ迅速な対応が求められます。任せたわよ」
「わかりました」
「ちょっと!ナナヒカリだからって、何でこいつにそんな大役まかせんのよ!」
「不満なの?」
「リュウジも言ってたじゃない、パイロットとしての能力はアタシが一番だって!」
「だが、それが直接強いかどうかは別問題、とも言ったはずだな?」
そう言われて、アスカは言葉が詰まる。
「どうしてシンジが大役を任せられたか、解らないか?」
「フン!どうせ親のナナヒカリか、アンタが贔屓にしてるからでしょ!」
「贔屓にしているなら、俺は速攻でシンジを無理やりにでもエヴァから降ろして、アスカにすべて任せてる。だが、それはできない」
そういうと、リュウジはアスカに詰め寄る。
「エヴァを用いた実戦において、信頼度はシンジの方が上だからだ」
そう言われ、アスカは頭に血が上るが、一瞬で引いた。
リュウジの有無を言わさぬ眼が、彼女を射抜くように向けられていたからだ。
「いいか、まずは与えられた役目をはたせ。それで初めて信頼されるようになる。それもせずに、能力だけひけらかしても、誰も信頼なんてしてくれないんだ」
忸怩たる思いが、アスカから滲み出ている。
そんなアスカと、視線を合わせる。
「役目を果たして、生きて帰れ。それが何よりの戦果だ。信頼を築くには、生きてないとできないからな」
そう言って、アスカの頭を軽くたたく。
「うっさい!いつも馴れ馴れしいのよ!」
「……それでいいさ」
今度は嫌がらせのように、アスカの頭をぐりぐりと撫でる。
「今回の作戦は、三人の力が必要なの。みんなで……勝つためにね」
ミサトは、リュウジが羨ましかった。
『生きろ』
そう言える強さが、自分にも欲しい。
そして、その強さがあるリュウジに、否が応にも、畏怖を感じてしまう。
「悪いな、このオペレーションにおいては、俺の教えは何の役にも立たん。できると言えば、戻ったとき、何か食いたいものがあれば、出来るもんなら作るが、何がいい?」
「から揚げ!」
「煮っ転がし」
「ハンバーグ!!」
「解った。楽しみにしとけ」
これから世界の命運をかけた戦いだというのに、まるで遠足でも行くかのような雰囲気だった。
「……頼んだわよ。貴方たちに、全てを託すわ」
「「「はい」」」
子ども達は、返事と共にエヴァへと乗り込むべく、その場を去っていった。
「……正直な意見を聞かせて。勝算はあると思う?」
「勝つべくして勝つ。戦いが始まる前から、勝敗は決まっています。奇跡は、そのためにたゆまず準備をすれば、おのずと起きます。つまるところ、奇跡も起こるべくして起きるという事です」
子ども達の後姿を、リュウジは見据え続けていた。
「我々がなすべきは、子ども達のサポートを、全力で果たすだけです」
「……そうね。……行きましょ。義務を果たすために」
二人も、指令室へと向かうために、その場を後にした。
今回は、ミサトさんが立案した作戦を、できる限りリュウジがバックアップするように描いてみました。
もっとも、リリスを損傷させないよう、使途が気を使う前提の考えなのですが、考えうる限り、説得力が感じられるように、半ば願望を込めました。
ご意見、ご感想お待ちしております。
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