新世紀エヴァンゲリオン-And become Joseph- 作:さえもん9184
結局受け手の感じ方次第何ですよね。
水平線に、光が徐々に差し込んでくる景色を見ながら、リュウジはベランダを後にする。
少しづつではあるが、洗濯、朝食の用意、アスカが朝風呂に入るために、温度に気を付けながら、湯船に湯を張る。
傍から見れば、なぜそこまで、と思うが、リュウジは何も苦に思っていなかった。
(穏やかな日常に、勝るものはない……)
と感じているからだ。
粗方朝の家事を終えても、7時までは、まだ1時間もある。慌ただしくすることもないし、徐々に朝になっていく景色を見れるのは、この体になってよかったと思える数少ない楽しみでもあった。
『トン、トン、トン……』
やがて、リズムよくまな板の音が響き始める。
(今日のおかずは、ハムエッグを作って……、そういや魚もあったな……)
と、おかずの構想をしていると、
「おはよ、おじさん」
「おはようシンジ」
眼をこすりながら、シンジが起きてきた。
欠伸をしながらも、いつものシンジの役目であるお弁当の準備を始める。
「あれ?卵もう切れるよ?」
「ああ、今日買い物するとき買ってくる」
冷蔵庫の中身のチェックや、消耗品の確認などを、この時準備しながら行う。
とても軍人と、エヴァパイロットの会話ではない。
最も二人にとってはいつものことなので、特別気にしてはいないが。
「おはよ~」
「おはようミサトさん」
「おはようございます」
そうこうしていると、ミサトも起床してきた。
それだけで、今日のリュウジの苦労が一つ減った。
「あとはアスカだけですか」
「うんにゃ。さっきお風呂向かってったわよ」
どうやらアスカは既に起きていたようであった。
「待っててください、もう少しでできますから」
そう言いながら、リュウジはミサトにお茶を出す。
「いいのよ〜。まだ時間あるし」
そんな、朝とは思えぬまったりとした時間が、
「ああ〜〜‼︎」
風呂場からの声で掻き消える。
そして間をおいて、リビングの扉が開くと、バスタオルを巻いたアスカが立っていた。
「ミサト!アタシのコンディショナー、勝手に使ったでしょ!」
「ありゃ、バレちったか……」
(そりゃバレるでしょうよ)
リュウジは心の中でツッコむ。
かなりの長い髪を持っているのに、使ってバレないわけがない。
「この前も洗顔ソープ勝手に使うし!いい加減にしてよね!」
「あの時は勝手じゃないわよ、貸してって言ったじゃない」
(そう言う問題じゃないでしょう……)
(そう言う問題じゃないよ、ミサトさん……)
「そう言う問題じゃないわよミサト!自分の使って、て言ってるの!」
図らずも三人の思いはシンクロするが、シンジとリュウジは半ば呆れながらも、朝の支度を進めている。
「リュウジ!アンタも何か言ってよ!」
「まあまあ、アスカ。そうメクジラ立てるなよ」
「そうよアスカ。リラックス、リラックス〜」
「リュウジはミサトに甘いのよ!曲がりなりにも年長者なんだから、バシッと言ってよバシッと!」
「大丈夫だ」
「何が大丈夫なのよ」
「お詫びに葛城さんが、アスカの欲しいものなんでも買ってくれるから」
ミサトは思わず、飲んでいたお茶を吹き出す。
「ミサトさん、汚いよ」
だが当のミサトは、それどころではない。
「ちょっと待って!何でそんな話になるの?」
「だって、葛城さん。こうでもしないと、また同じこと繰り返すでしょ?」
グウの根も出ないミサト。
一方のリュウジは淡々と、支度をしながら落ち着いた声であった。
「一度や二度なら、私もこんな事言いません。ですがそろそろ、それ相応の大人な態度を見せた方がいいんじゃないですか?」
「それは、そうかもだけど〜」
「ミ・サ・ト?」
「ひっ!」
先程の不機嫌な顔とは打って変わって、満面の笑みのアスカがミサトに迫る。
「私、欲しい服があるんだ〜」
「アスカ、落ち着いて、話し合いましょう」
「落ち着いてるわよ?これで、中学生の懐じゃ、とても手の届かないものが手に入るって気付いたほどですもの」
一気に追い詰められたミサトが、少々可哀想になってきたので、
「アスカ、日本には『仏の顔も三度まで』て諺がある」
リュウジが助け舟を出す。
「そう、もう三度どころじゃ済まないけど」
「ああそうだ。だから後一回、葛城さんにチャンスをやろう。それでダメなら、本当にアスカの好きなものを買ってもらえ」
「え〜」
「不満はわかる。だが、いい女は、懐も深いもんだ」
そう言われると、
「……解ったわよ」
アスカとしても、受け入れるしかない。
「アスカ!」
「でも次はないからね」
「ま、葛城さんも、これを機に、もう少し、実生活でもちゃんとしてください」
「はい。気をつけます」
その一部始終を傍観していたシンジは、
(おじさん、二人の扱いうまいな〜)
アスカの機嫌を直し、ミサトの生活態度を注意する。
これらを同時に、朝の内にわだかまりなくやってのける手腕には、思わず舌を巻いてしまう。
※
(家族……一緒に住んでいる……、いるのが当たり前の存在)
(兄弟……家族の、兄と、弟)
(碇指令と……碇三尉)
(それと……)
「レイ」
調整槽の中で、レイはゆっくりと目を開ける。
「食事にしよう」
「……はい」
そして二人は、テーブルに座っていた。
「あの……碇指令。聞いてもいいですか?」
「……なんだ?」
「碇指令は……碇三尉と、ご兄弟ですよね」
リュウジの名が出ると、ゲンドウの手が止まった。
「……ああ」
「なのになぜ、嫌い、なんですか?」
ゲンドウはしばしレイを見ていたが、やがて手元に目を移し、再び手を動かし始める。
「奴に何か言われたか?」
「……私に、生きてほしい、と言ってくださいました」
「……そうか」
今のレイだからこそ、ゲンドウが若干不機嫌になっているのが解る。
そしてそう感じ取っているのが、ゲンドウにも解った。レイがここまで感情を理解しているのが、リュウジの影響であることも。
「レイ、奴は優れた男だ、そこは私も理解している。だがお前もシンジも、奴の本質を知らない」
「本質?」
「奴は人殺しに過ぎないという事だ。綺麗ごとを並べてはいるが、戦うことでしか、自分が生きていることを実感できない。そういう類の人間だ。そうした輩に、あまり深入りするな」
「ですが、あなたの家族は、碇君と、碇三尉だけです。少しでも、仲良くした方が……」
だがゲンドウが静かに自身を見ているのに気が付き、レイはこれ以上何も言えなくなってしまった。
「……すいません」
「……いや」
だがその時、ゲンドウにはユイを幻視していた。
嘗て彼女に言われた言葉も。
「碇指令?」
「……レイ、悪いが、あまりリュウジの話はするな」
「……はい」
ゲンドウとしても、大人げないのは理解していた。だが、人が人を嫌うことに、理由などない。兄弟であったとしても、所詮は他人。いざとなれば、互いに一人の男として牙をむく。
実際、リュウジがゲンドウを嫌うのも、特にこれといった理由はない。シンジをほったらかしにしたから、等とは言っているが、そもそもそれ以前から犬猿の仲なのだ。それをいまさら修復するのは、もはや互いに不可能であると思っている。
あのユイがなんとか兄弟仲を取り持とうとしても、結局いかんともしがたかったのだから。
だがレイは、以前リュウジに言った通り、リュウジもゲンドウも信頼していた。そんなリュウジからの誘いをすぐに受け入れなかったのは、受け入れれば、ゲンドウの立つ瀬がなくなるからだ。そうなれば、一層ゲンドウとリュウジの中は悪くなる。
(そんなことになって、一番悲しむのは、碇君……)
シンジが悲しむことを考えると、レイは胸が痛くなった。
シンジのために、レイは諦めたくなかった。
※
『カメラ、センサー各種。状態はどう?』
『良好です、先輩』
『碇三尉の状態は?』
『……心拍数、発汗、脳波。怖いくらい何も変化なしです』
「ビビった方がいいですか?」
『あなた、ビビる事あるの?』
「湾岸戦争の時は、割れる程心臓がなってましたよ」
『つまり、初陣以降、ビビってないってことね』
「私の感情が馬鹿になっただけです。それから、どんどんねじ曲がっていった」
『今回は訓練過程のモニターだから、そもそも緊張する必要もないわ。尤も子供たちはそうもいかないみたいだけど』
『無理もないわよ。三人がかりとはいえ、まだ子供。三人どころか、大人十人いたって、勝てっこないんだから』
別室に控えるミサトとリツコの視線の先には、訓練場の中央で正座するリュウジがいた。
それを囲むように、アスカ、シンジ、レイが構えを取っている。
だが、三人の表情は先の使徒戦以上の緊張が浮かんでいた。
実を言うと、既に戦闘開始となっているのだが、三人ともリュウジに呑まれてしまっており、手を出せずにいた。
『どうしたの?三人とも、もう五分経過よ?』
そうは言うが、その場の空気に晒されている三人は、攻めかかろうにも攻めかかれない。
だが、
「ハァ!!」
シンジはその空気を振り払うかのように、急遽リュウジに襲い掛かる。
「いいぞ」
だが見越していたかのように、リュウジの肘がシンジの拳より先に、溝に突き刺さると、
「まだ遅いがな」
崩れ落ちる寸前に、リュウジの蹴りがシンジを吹き飛ばした。
腹を押さえ、鼻血を拭いながらも、なんとかシンジは立ち上がった。
「まだまだ!」
痛みに顔をゆがませ、それでもシンジは構える。
「……一人だけか?」
鋭い眼が、レイとアスカを射抜く。
「どうした?臆したか?」
静かでありながら、気迫の満ちた声に三人とも一瞬怯む。
それでも、リュウジの言葉に触発されたのか、一気に三人で攻めかかった。
だが、
「ぐっ!」
「きゃっ!」
「くぅっ!」
半ば及び腰でリュウジに勝てるわけもなく、あっという間に三人とも立てなくなっていた。
『訓練終了』
『お疲れ様、四人とも上がっていいわ』
リュウジ以外は足腰が立たぬ状態だが。
「……どうしたアスカ?何か言いたげだな」
アスカがひっくり返りながら、疲労困憊の眼でリュウジを見ていた。
「ハァ、ハァ、アタシ、アンタに…初対面の時、よくあんな舐めた口聞けたなって思って……」
「ハッハッハ、アスカ、寧ろあれぐらいの気概を持て」
リュウジはそう言うと、アスカに歩み寄り、片膝をつく。
「俺が己を鍛えたのは、所詮人間との戦争のため、殺し合いのためだ。だがお前たちは違う。一歩間違えれば、一瞬で世界が滅ぶ戦いだ。その中で戦うなら、俺などに気を呑まれていては話にならない。わかるな?」
「ハァ、ハァ、見てなさいよ、いつか…、アンタを…ボコボコにしてやる」
アスカは息も絶え絶えながら、リュウジに向かって、中指を立てる。
「その意気だ。期待してるぞ」
立ち上がると、リュウジは訓練場を後にし、モニター室へと入る。
「それでは、葛城一佐。恐れ入りますが、後はよろしくお願いいたします」
「ええ、お疲れ様」
それだけかわし、リュウジはそそくさとその場を後にした。
「どうしたんですか?碇三尉。いつもなら葛城一佐や、あの子たちを待ってるのに」
マヤが、いつもと違う動きのリュウジを訝しむ。
「……呼び出されてるのよ、冬月副指令に」
※
「おお、すまんな遅れたようだ」
「いえ、私も今来たところです」
その夜。
リュウジは冬月に指定された店に来ていた。
「是非とも飲み交わしたい」
と、以前口約束だけだが、飲む約束をしていたので、冬月に言われるがまま、リュウジはその誘いに答えたのだ。
「さ、まずは一献」
「ありがたく」
互いのお猪口を満たし、
『カチン』
と、静かに音をぶつけ、そのままあおった。
「ところで、良かったのかね?こんな店で」
ちなみにその店は、まさに下町の飲み屋、と言った風情で、昔ながらのつつましい小料理屋であった。
「君ならさぞかし庶民が行けそうにない高級店に慣れているかと思ったのだが……」
「何度もそういった店は行かされましたが、正直うんざりしていますから」
そう言って、リュウジは冬月に酌をする。
冬月もそれに応え、リュウジに酒を注ぐ。
やがて運ばれてきた料理に、定食屋を営んでいたものとしてのリュウジの感想や、互いの身の上話、そして何と言っても、互いに知る碇ゲンドウの話で、静かにだが、大いに話が弾んだ。
冬月もリュウジも、互いに思惑の違いはあれど、人として嫌いではなかった。
それがまるで、好敵手として相見えたようで、互いの奥底にある男としての性が、どうしても疼くのだ。
「さて、そろそろ……本題に入ろうか」
「ええ、いい宵闇だ。
互いに再度酒を注ぐ。
「まず……君がどこまで知っているのかを教えてもらいたい」
「ご存知でしょう?私は、情報の隠蔽も、偽装もしていません」
そう、『リュウジは』何も隠していないのだ。
「それが事実なら、君は事の仔細をほぼ把握しているということになる」
「最終目的……人類の神化と補完を完遂させる。人類補完計画。もっとも、それを提唱したのが、葛城一佐のお父上とは、さすがに驚きましたが」
リュウジは嘲笑うように、酒を飲み干す。
「レイと、アスカは、そのために創られた。そのためにいずれ、使い捨てられる駒。まさに犬畜生にも劣る」
「それを知っていながら、君は今傍観している」
「ええ。……今でも
リュウジの表情は、まさに憤怒に染まっていた。
「先に断わっておくが、それらを我々が利用しているのは認める。だが、その計画の発端は我々ではない」
「別に責めるつもりはありませんよ。私も傍観している。同罪だ」
「その発端たる存在が……これだ」
冬月は、書類をリュウジに手渡す。
それを読み進めるリュウジの表情が、徐々に不敵な笑みに変わっていった。
「……ようやく見つけた、
「
「ええ、今まで、捉えることができなかった、いうなれば諜報における空白部分。観測がまるでできない、
冬月は思わず息をのんだ。
ゲンドウは正しかったのだ。リュウジは今の今まで、ゼーレの存在を知らなかった。
知らなかったにもかかわらず、まるで何らかの秘密結社の存在は確信していたような口ぶりであった。
そして知らなかったにもかかわらず、ゼーレを完全に欺き続け、その見えない敵を相手に互角に戦ってきたのだ。
だからこそ、
「ちなみに聞きたいのだが、ある程度、見当はつけていたというのかね?」
そう聞かずにはいられなかった。
「ええ、完全に見えませんでしたからね」
「見えていない敵を、どうやって見当づけるというのだ」
「こう言ってはなんですが、私の持つ諜報網は、世界中に張り巡らされています。その中で、完全に観測できない部分と言うのは、……逆に大いに目立つものなんです。この、ゼーレと言う組織、まさに完璧なカモフラージュをしてきた。文句なしの完璧だ。だが、その形や規模が解るだけで、ある程度の方策はできるもんなんです」
冬月は舌を巻いた。
恐らくゼーレは、リュウジを警戒していたからこそ、その存在を悟られぬよう、細心の注意を払ってきた。そしてそれは、まさにリュウジの眼にとまることはなかったのだ。だがそれが仇となり、出し抜かれてきた。そして、ゼーレ側を疑心暗鬼にし、よりリュウジに手を出しにくくさせていた。
「もう一つ聞きたい。……ユイ君は、キミに何も話さなかったのかね?」
「ええ、エヴァのことも、使徒のことも、彼女の真意も、何も……」
「イスカリオテのマリアからも、何も聞いていないというのか?」
「冬月さん。ご存知でしょう?私はあの二人の駒です。駒はただ使い捨てられるだけ。駒は、何も知る必要などない。打ち手の望み通り、右往左往していればいい」
「……そこまでするのか?」
「それ以上のことを、私はするつもりです。そのために、私は今日、あなたと協定を結びに来た」
「……なに?」
「ゲンドウはおろか、ユイさんもマリも出し抜く。はっきり言ってこの三人の望まない最後になるでしょうが、……あなたの願いは叶う」
「……何を考えている!?」
「ゲンドウがもっとも忌避する結末であり、ユイさんもマリも、私を巻き込んだことを後悔する結末です。どうです?二人で、あの三人の鼻をあかしてやりませんか?」
冬月は恐怖を感じながらも、得も言われぬ高揚感を感じざるをえなかった。
エヴァの設定って滅茶苦茶難しいので、正直言って矛盾が発生しちゃうかも、と戦々恐々としています。
リュウジの思惑は、自分なりに設定してるんですが、それがエヴァの設定に反しないようにしたいんですよね。
ご意見、ご感想をお待ちしております。
誤字、脱字等ございましたら、お手数ですが、ご指摘いただけると幸いです。
これからも応援、何卒よろしくお願いいたします。