新世紀エヴァンゲリオン-And become Joseph- 作:さえもん9184
今回で破は終了となり、次からはQとなります。
「……え?」
気が付くと、シンジは帰り道を歩いていた。
「ボク……、どうして……」
しかも、その帰り道は、何故かかつて暮らしていた、リュウジの定食屋へと通じる道であった。
時は夕暮れ時、帰る頃には、叔父は店じまいに取り掛かっているだろう時分である。
そこではたと、シンジは気づく。
「そうだ……おじさん!」
彼の脳裏に、鮮明にリュウジが撃たれた光景が蘇った。
その光景を振り払うかのように、シンジは遮二無二走った。
(ウソだ!そんな訳ない!!)
おじさんが撃たれたなんてウソだ。おじさんが使徒だなんてウソだ。
そう自分に言い聞かせながら、シンジはただひたすらに走った。
「おじさん!!」
到着するなり、シンジは店の引き戸を勢いよく開け放ち、叫んだ。
すると、調理場に立ち、後片付けをしているであろう、叔父の姿が目に映った。
「……ハァ~、よかった」
それを見るなり、シンジの胸には安堵が広がった、
当たり前だ。エヴァや使徒との戦闘であればいざ知らず。対人戦で叔父が遅れをとる訳がない。
と、自分の脳裏に過ったあの光景は、何かの間違いだったと安心し始めると、シンジにふと違和感が下りてきた。
「おじさん?」
そう、いつもならシンジに笑顔を向けて、
「お帰りシンジ。怪我なかったか?」
と、過保護な声をかけてくるもんなのだが、叔父は背中を向け、自分に一瞥も眼もくれない。
訝しむシンジに降りていた違和感が、再度言いようの無い不安へと変わろうという時、
「……シンジ、ゴメンな」
リュウジは突如、シンジへ謝った。
そしてゆっくりと、シンジへと振り返った。
その表情は真剣でありながらも、何とも言えない悲しみをたたえた、柔らかな笑顔だった。
「俺は……結局、君との約束を、守ることができなかった」
その叔父の言葉を聞いたシンジは、全てを悟った。
それと同時に、悔しさやら、悲しさやら、情けないやら、そんな感情が一気に押し寄せ、その手を血が滲まんばかりに握った。
「おじさん……ゴメン……ぼ、ボクが……弱かったから」
何度も自分のことを守り、愛してくれたおじさんを、ボクは守れなかった。
という結果をまざまざと突き付けられたシンジの眼からは、止めどなく涙が溢れた。
「ボクが、弱かったから……、おじさんを、守れなかった」
あんな約束なんてしなければよかった。
そうすれば、叔父はボクなんかに縛られることなく、もっとすごいことができたんだ。ボクのせいだ。と、涙が後悔という感情を表すかのように、止まることはなかった。
だがそんなシンジとは対照的に、リュウジは、
「シンジ。自分が弱いと解っている人ほど、強い人間はいない」
その笑顔のまま、優しくシンジを諭す。
「でも守れなかった!……ボクに…ボクに力がなかったから!」
シンジはカウンターテーブルに拳を叩きつけた。
その勢いのままに、頬を伝う涙が、テーブルへと散る。
「そうだな。力がなければ何も守れない。弱くては、己の身さえ、守ることは出来ない。それは確かだ」
シンジ以上に、リュウジは戦ってきた。だからこそ、シンジの悔しさが手に取るように解った。
だからこそ、伝えたい思いがあった。
「だが忘れるな。力だけじゃ守れないものは、それ以上に沢山あるんだ。それを見誤れば、何度やっても、結果は同じだ」
「……じゃあ、どうすれば」
「シンジ、お前は、もう答えを知っている筈だ」
そういうとリュウジは優しく、シンジの頭を撫で、そして彼の
そうすると、不思議なことに、シンジの涙がピタッと止まった。
「俺は、恥ずかしい話だが、それに気づいたのは大分後だった。だが、お前は違う」
「でも、それを教えてくれたのは、おじさんだよ」
シンジは力強く涙をぬぐった。
「君は、それを心から理解している。口で何べん言ったって駄目さ、自分で気が付かなければ意味がない。……シンジ、君自身が気づいたからこそ、誰かのためじゃなく、自分自身が守りたいもののために戦ってきた。そうだろ?」
そう言われたシンジは、静かに頷いた。
「……守れないこともある。それでも、俺は君に生きていてほしい。俺の様に、守りたいもののために死ぬのではなく。守りたいものの為に生きて、守りたいものと共に、生きてほしい」
そう言うと、リュウジは優しくシンジを抱きしめた。
「だが、己の思いを貫くには責任が伴う。それは、下手をすれば、取り返しのつかない犠牲を生む」
リュウジはシンジに生きていてほしい。
だが同時に、それはこの先、愛したシンジを地獄に落とすかのような所業だった。
「それでも、おじさんは戦い続けたんでしょ?」
「……ああ」
だがシンジに迷いはなかった。
でなければ、そもそもエヴァに乗らなかった。
そして皮肉ながら、その覚悟を持つにいたったのは、
「……やっぱり、お前は強いなぁ……」
他ならぬ、リュウジの為だった。
「おじさんがいたから。おじさんのお蔭だよ」
そう言って、シンジは、リュウジの眼を見つめる。
「そろそろ行かなきゃ、皆待ってる」
そして大切なもののために戦うシンジを、もはやリュウジは止めなかった。
店から出ていくシンジを、リュウジは見送った。
「……シンジ。お前は、俺のようにはなるなよ」
リュウジはシンジとは違う道を、歩む決意をしていた。
というより、かつて歩んでいた道に戻る覚悟をした、と言うべきかもしれない。
大切なものを捨て、本当にくだらないものの為に戦う道を。
※
覚醒したシンジは、すぐさま格納ドックの壁をぶち破ると、指令室まで降りてきてた使徒を補足し、
「うぉぉぉおおおおお!!!」
殴りつけ、壁へと叩きつけると、間髪入れずに追撃を加える。
だが使徒も、反撃とばかりに、頭部から鋭いレーザーを放つと、初号機の左腕を切断した。
「ああああああああ!!!」
激痛がシンジに走るが、今の彼はこの程度では止まらない。
怯むことなく、使徒を発進ハッチへと押さえつける。
『指令室!!誰か応答して!!』
その様を、ミサトともあろう者が、ただ黙って見ている訳がない。
『固定ロック!全部はずして!!』
その指示と同時に、シンジは発進スイッチを蹴り押し、押し付けてくる重力を感じながら、使徒と共に外へと放り投げられた。
その様を、ゲンドウとミサトは、切断された初号機の血にまみれながら、見送った。
「シンジ君」
まだ、シンジは戦うつもりだ。
ならば、指揮官である自分が戦わなくてどうする。
そう己を奮い立たせると、ミサトはすぐさまその場を後にした。
そして、ジオフロントでは片手ながらも、初号機が使徒を攻めに攻めていた。
「うう……ぐううう!!」
コアを露わにさせんと、それを覆っていたアームベルトを引きちぎろうと、渾身の力を込める。
だが、あと少しと言うところで、初号機が力尽きるかの様に動かなくなった。
「エネルギーが切れた?」
その隙を使徒が逃すはずもなく、アームベルトを両腕で引き絞るかのように構えると、それで初号機を一気に貫いた。
初号機は成す術なく、己を貫いたそれに力なく放り投げられた。
「く、くそっ……」
それでもシンジの眼は諦めていない。おのれ仇と言わんばかりに、その眼で使徒を睨み付ける。
「……あれは」
するとみるとなしに、その眼にもう一つ映ったものがあった。
「零号機?」
自分が来るまでに戦っていたであろう、零号機の足と、吐き捨てられた頭部が見るも無残に転がっていた。
「……まさか、綾波」
その時、シンジの中の何かが切れた。
※
その様を、シンジが出ていった定食屋のテレビで、モンテクリストを燻らせながら見ている人影が一つ。
もっとも、この店で、葉巻を燻らせる人間なんて一人しかいないのだが。
だがそこに、引き戸を開けてもう一つの人影が入ってきた。
「……わざわざいらっしゃることもないでしょう?」
リュウジはそう、その影に声をかけた。
「ごめんなさい。貴方の店、一度来てみたかったから」
「ここは、単なる俺とシンジの心象風景です。何も出すことなんざできませんよ?」
そういうと、リュウジはおもむろに立ち上がり、その人影を見やる。
黄昏時特有の逆光により、顔を見ることは出来ないが、誰であるかはリュウジは知っている。
「リュウジさん。ここまでしてくれて、本当にありがとうございました。あとは、私の役割だから」
「もはや、私は用済みですか?それとも、都合が悪いから始末しますか?」
もう一つの影は、静かに首を振った。
「あなたが、このまま運命を変えるならそれもいいと思っていた。でも、それよりも、あなたはシンジを変えてくれた」
「人は変わりませんよ。シンジはもともと、聡明で、強い子です。ただ、環境が悪かった。私はそれを少し整えただけです」
「それが、本来は私たちの役目だったのに、貴方に任せてしまった」
そして、ごめんなさいと、頭を下げる。
「まだ、遅くありませんよ。あなたが目覚めれば」
「……貴方はどうするの?」
「私はここにとどまるしかない。貴方と違って、私の半分しか植えられませんでしたから」
「でもそれじゃあ……」
「もう半分が残ってますから、なんとかなりますよ」
そういうと、リュウジは早く行くように、その影を促した。
そして再度頭を下げると、店を出ていった。
「……このまま溶け合った方が、私には都合がいいんですよ、ユイさん」
※
「よくも、綾波を!!」
怨嗟に染まったシンジの目が、使徒を睨み付けると、動くはずのない初号機も、同じく眼を紅く染め立ち上がった。
使徒も嫌な予感を感じたのか、ありったけのアームベルトを初号機に殺到させる。
だが強烈なATフィールドがそれを阻むと、今度は急接近し、初号機の腕を切断したレーザーをフルパワーでゼロ距離で放とうとする。
一方初号機はなくした腕をATフィールドで疑似的に、補強すると、そのまま展開していたATフィールドを変質させ、そのまま使徒を吹き飛ばした。
まさに破壊神と言うものが存在するとすれば、それは今の初号機と言っても過言ではなかった。
圧倒的の行使を、使徒は最強の拒絶タイプの名、そのままに超硬度のATフィールドで防ごうとするが、それも徒労に終わった。
「綾波を……返せ!!」
その言葉と共に、再び初号機から使徒が放った以上のレーザーが発せられると、使徒のコアが遂に露わになった。
「綾波、生きて帰ろう。そして、共に生きよう」
その露わになったコアに、初号機とシンジが手をかざした。
『どうして?』
「綾波?」
『どうして、エヴァに乗ったの?碇君』
「きまってる!君を守りたいからだ!」
『私も、碇君を守りたかった。失いたくなかったから』
「ボクもだ!ボクも、綾波を失いたくない!!」
『でも、このままじゃ……』
「わかってる!」
シンジは、必死に叫んだ。
どうなるか、だいたいはシンジにも想像はついていた。
今まで感じたことの無いほどの力が、エヴァから感じられるからだ。
「でもそれでもいい!ボクは君が、綾波が好きだから!!」
『……碇君』
「生きよう!一緒に!!」
そして両手で、シンジはレイを求めた。
レイも、シンジを求めた。
そして、その崩壊の様を、加持が遠くから見ていた。
「シナリオが、急速に修正されていったためか、それとも緊急処置と言うべきか、数が揃わぬうちに初号機をトリガーとしましたか、碇司令」
その崩壊の様は、まるで運命が音を立てて急速にシナリオ通りに修正されていっているようだった。
「はぁ、早いとこ目覚めてくださいよ、リュウジさん」
※
「本当に目覚めたんだな?」
時田シロウは、白衣をはためかせ、早歩きをしながら報告を聞いていた。
「はい、現在はLCL調整槽から出して、病室に」
「意識は?」
「はっきりとはしていませんが、反応は示しています」
そう言われ、カルテを見る。
元々時田は技術屋であるため、医療知識など付け焼刃程度しかない。
だが、この場にはそれすらほとんど身に付けている人間はいなかった。
そうこうしていると、時田の目的の病室へとたどり着いた。
そこには、綺麗な目鼻立ちをした、髪色がグレーの少年が酸素の吸入マスクや、様々な点滴管で繋げられて、横たわっていた。
そしてわずかだが、首を動かしてこちらを見た事から、時田はある程度意識を回復させていると、検討をつけた。
そして、完全にではないが、開いている眼からは、若干の困惑が伺うことができた。
「君だけは残れ、あとは出ていってくれ」
数少ないナースを一人残して、時田は横たわる少年のベッドに歩み寄った。
「……落ち着いて聞いてください」
それは時田自身にも言い聞かせるようだった。
「あなたに、お話があります。いいですか?どうか落ち着いて」
そしてベッドの周辺を歩く自分を目で追っていることを確認すると、時田はその少年が話を聞けるほどに意識を保てていることも確信した。
「ずっと眠っていたことは、あなたも良く解っているでしょう。……問題は、どれくらいの長さか?」
そこまで言って、時田の中に若干の躊躇いが生じた。
だが言わぬことには、話は始まらないのも事実だ。
「あなたは……約14年、眠っていました」
だからこそ、今が2029年であると告げた。
まず原作だとラストにカヲルくんが登場するのですが、このお話では省いただけで、ラストの展開は同じです。
どうしても無理やりカヲル君のシーンを入れると、自分の中で違和感がぬぐえないので、現状話の流れは、修正されてしまったものとご理解ください。
また、これどういうこと?というシーンが数多あると思いますが、解説してしまうとネタバレになってしまいますので、今はできません。申し訳ございません。
前書きでも言いました遠り、次回からQとなります。
展開は考えておりますが、書きあがってはおりませんので、何卒お待ちくださいますようお願いいたします。
ご意見、ご感想お待ちしております。
誤字脱字等ございましたら、お手数ですがご指摘いただければ幸いです。
これからも応援よろしくお願いいたします。