新世紀エヴァンゲリオン-And become Joseph-   作:さえもん9184

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間がかなり空いてしまいました。

すいません、決して忙しかったわけではないのですが、どうにも筆が進まず、納得いかない文章に悪戦苦闘してしまいました。

去年の今頃も同じことを言っていた気がします。

サンタさん、文才をください。


Q-受け継いだモノ-

CTの結果を見ながら、時田は怪訝な表情のままだった。

ジュニアの体を隅々調べるにあたって、モルモットにする、等と言ってはいたが、その実、出来ることと言えば、人類の英知を使って、出来うる限りの検査をするしか方法はなかった。

だが、元技術屋であり、医療知識など付け焼刃程度にしかない彼に、―――いや、自分たちの肉体の完全解明ができていないまま、二度の破滅を味わい、死に体となった人類に、使徒の体を解明するのは不可能と言ってよかった。

 

「……異常なしですか?時田さん」

 

ジュニアはCTに体を横たえ、焦点が天井に向いたまま訊いた。

時田はゆっくりとジュニアに顔を向ける、

 

「……なぜ、ヴィレの申し出を拒んだ。あなたの体を調べるなら、赤木博士の力を借りられれば、あるいは」

 

先の交渉において、頑なにジュニアはヴィレとの共闘を拒んだ。

 

「まだ、時ではない」

 

と。

 

「あなたも承知していたはずでしょう。これから私が起こそうとしていることに、彼らは絶対に反対する」

 

「だとしても……」

 

「それに、赤木博士でもいかんともしがたいでしょう。アスカに封印柱を施して、浸食をすんでで抑えるしかできていなかった。……彼女も、どうすることもできなかったんですよ」

 

体を起こしながら、ジュニアは時田とは正反対に落ち着いてそう言った。

検査着を脱ぎ、近くに脱ぎ捨てていたグレーのプラグスーツを身にまとう。

その間に見えた、ジュニアの体は異様なほど美しく、時田は生理的に嫌悪感をもよおしてしまう程だった。

プラグスーツの圧縮音が響き、時田はなんとか意識を戻す。

 

「もういいんですよ、時田さん。私なんかの為に、あなたが自分をすり減らすことはない」

 

「あなたがそれを言うのか?他人の為に、自分を散々すり減らしたあなたが」

 

痛いところを突かれたのか、ジュニアははにかみながら頭を掻く。

 

「それを言わないでください。義務を果たさなかった私には、耳が痛い」

 

決して言葉には出さないが、ジュニアは時田の人生を狂わせてしまった負い目を感じていた。

自分を守る為に、筆舌にし難い苦難の年月を、時田は経てきたのだ。その果てに下手をすれば、世界を滅ぼす片棒を担ぐことにもなりかねない。それは一重に、自分の我儘のせいに他ならなかった。

だからこそ、もう時田には関わってほしくないのだが、それこそ、時田の苦難の年月を侮辱することに他ならない。

それに時田はそんな事、承服する訳がないのは自明の理であった。

 

「時田さん。確かに使徒に関しては、赤木博士が第一人者です。ですが、今日まで私を診てくださったのはあなたですよ、時田さん」

 

ジュニアは時田へ振り返ると、微笑みながらそう言った。

ここまで自分の我儘に付き合ってくれたからこそ、専門知識云々よりも、時田シロウその人を、ジュニアは信頼していた。

 

「まだ時間はあります。もう一度、最初からツブサにチェックしましょう」

 

 

『ほら、添えた手は猫の手にしないと、危ないだろう』

 

初めてリュウジに料理を習った日のことを、シンジは思い出していた。

おぼつかない手で目の前の野菜を切る音は、いつも叔父が響かせる気持ちの良い音ではなく、おぼつかず、たどたどしいものだった。

 

『昆布だしをとるときは、沸騰させちゃだめだ。ちゃんと見てるんだぞ』

 

お店が閉まり、夕暮れの柔らかな光が店に差し込む厨房で、シンジは絶対に沸騰させまいと、鍋に穴が開くのではないか、と言う程凝視していた。

 

『よし、今度は鰹節だ。一気に入れろ』

 

そしてぐらぐらと煮立った鍋に、熱さを我慢しながら、シンジは、

 

『えい!』

 

と、その手に握った鰹節を鍋に投げた。

少しばかりこぼれてしまっていたが、ぐらぐらと鍋に吸い込まれていく鰹節が、なにかすごいことを起こしそうな期待をシンジに抱かせた。

そして、時間がたつと叔父はゆっくり、鰹節をこしとり、先程取り出した昆布と同じ皿に置いた。(ちなみにそれらは、叔父がいつも刻んで、甘辛くあえて、食卓によく並んだ)

そして、リュウジは目分量で、味噌をとると、網越しに鍋に入れ、それをシンジが見よう見まねで固く握ったさえ箸で、ゆっくりと溶かし始めた。

 

『さ、味見してみろ』

 

そして出来上がった味噌汁を、小皿に少し移しシンジはゆっくりと飲んだ。

 

『どうだ?』

 

温かく、安心する味にシンジの表情はほころんだ。

 

『おいしい!』

 

『そうか!』

 

今思えば、殆ど叔父がお膳立てしてくれていたけれど、当時のシンジは初めて自分が作った料理に、嬉しさ、誇らしさ、といった初めて自身で成し遂げたかのような、達成感を感じていた。

いつも料理をしている叔父の背中はどこか楽しげで、それでいてカッコイイと、子供心に感じていた。

だが後に、当時の叔父はようやく料理がある程度できてきたぐらいの腕前で、自分に教えてくれた時は、自信がないながらも、一生懸命だったことを、本人から直接聞いた。

その経験があったからこそ、料理を教えることになったその時も、叔父が背中を押してくれたのだ。

 

(おじさんも、こんな気持ちだったのかな)

 

シンジは、となりで嘗ての自分と同じように、おぼつかない手つきで材料を切るレイを見てそう思い至る。

14年前、アスカやレイを教えていたときは、余り余裕がなく、そんな思いにふけることは無かった。

 

「大丈夫だよ綾波、ゆっくりでいいから」

 

「こう?」

 

「そうそう」

 

だが今回は二度目と言う事もあり、心に余裕があるからか、叔父との思いでに思いをはせ、嘗ての自分と目の前の少女を重ね合わせていた。

シンジは、カヲル、レイとともに、食堂で料理をしながら、そんな事を考えていた。

太陽が、そろそろ真上に至ろうとしていた。

 

「シンジ君。水これでいいかな?」

 

「ありがとう。そうしたら、昆布を入れて火をかけておいて」

 

幸い生きていたコンロがあったため、火に関してはなんとかなっていた。

その間に、カヲルは他にも収穫していた野菜を食べられるよう調理(と言っても切るだけだが)

していた。

 

「……それにしても、すごいね、カヲル君」

 

「こんなのは知識さ。大したことは無いよ」

 

ちなみにその手際は非常にスムーズであり、シンジも舌を巻くほどであった。

 

「碇君。これは、どうするの?」

 

「あ、これはね」

 

具は単純に野菜ばかりである。

沢山の種類の野菜を入れた、具だくさんの味噌汁を作る予定だった。

 

「これはいちょう切り、って言うんだ」

 

「イチョウ?」

 

「そう。昔そう言う木があって、その葉っぱの形に見えるから、そういうんだ。……って言ってもボクも見たことないんだけど」

 

そんなとりとめのない会話をするのも、シンジは愛おしく感じた。

そしてそれを、

 

「これでいいんだ」

 

と感じることができる。

その場の景色が、目覚めてから初めてシンジにとっては、温かいものに映り、そしてあのリュウジを見てから初めて、彼の思い出を温かく思い出すことができた。

そしてリュウジから受け継いだものを、自分が誰かに受け渡していることを、シンジはようやく自覚していた。

父親から大切なものを受け継ぐ。それは家族であれば、当たり前の、―――ごく当たり前のやり取りであり、それこそが父親の当たり前の役割なのだ。

だがシンジにとって、その役割を父親が担ってくれることは無かった。そのかわりに、リュウジがその役割を担ってくれた。

それはある日の食卓に宿っていた。

それはある日の会話に宿っていた。

それは彼らの日常に宿っていた。

そして今、シンジの眼の前に広がるのは、シンジが受け渡した、

 

『続くことが絶対にない日常』

 

であった。

なぜなら、その日常を、シンジ自身が絶対に壊すことになるからだ。

その未来を知りながら、シンジはその未来を憂うのをやめた。

傍から見れば、現実逃避していると言われても仕方がないだろう。

だがそのかわりに、シンジは今と懸命に向き合っていた。

それは目の前に映る好きな少女であった。

それは目の前に映る大切な友達であった。

それは今、目の前にある守りたいものであった。

 

(まだ起きてもいないことを心配して、目の前にあるものを疎かにしたってしょうがないんだ)

 

そう気づいたとき、シンジの迷いは消えていた。

そして受け継いだものを、大切な人に伝えたいと思うことができた。

 

「あ、シンジ君。だいぶ温度が上がってきたみたいだよ」

 

「本当?なら、昆布を取り出して、沸騰してきたら、その削り節を入れてくれる?」

 

「わかったよ」

 

そうして少しづつ、伝えたいものが出来上がっていく。

 

 

「マヤ、大丈夫?」

 

リツコの部屋において、彼女に仕事の相談中に唐突にそう言われ、マヤは不意を突かれたような表情になってしまった。

 

「きゅ、急にどうしたんですか?副長先輩」

 

「あなたの部下が心配してたから。最近の整備長の様子がおかしいって」

 

影で鬼の整備長などと言われているのには、ある程度慣れてきたマヤだが、そんな風に心配されていることに、逆になれない心持になってしまった。

 

「14年前の事、思い出しちゃった?」

 

「……あの時のことを後悔していないと言えばウソになります。私は、リュウジさんを見殺しにしましたから」

 

あの日。リュウジが剣崎に撃たれた時。彼を助ける手立てがあるとすれば、初号機と零号機のエントリープラグのロックを解除し、シンジとレイにリュウジを助けてもらうしかなかった。

だがマヤは、ゲンドウの命令に背けず、LCL圧縮度を限界まで上げ、二人を気絶させた。

 

「言ったでしょ。剣崎君相手じゃ、あの二人が向かったってどうしようもないって」

 

「それは、そうですけど……」

 

それは理解しているが、あの変わり果てたリュウジを目の当たりにしたことで、その時の罪悪感が再燃してしまったのだ。

マヤにとってリュウジは、初めてリツコ以外に尊敬できる『男性』であった。

実際そのリツコが、何の権限のないリュウジの意見を聞くこともよくあったし、彼女の隣に技術、科学面において肩を並べ、リツコはおろか、周囲の多くの人間から頼られているのをこの目で見てきた。

 

「フフ。あの男性嫌いのマヤが、男のことでそんな顔するなんてね」

 

「や、やめてくださいそんな言い方!リュウジさんはそう言う対象じゃありません!」

 

それは本心だった。マヤはリュウジに対して、尊敬の念こそ持っていたが、恋愛感情は微塵もなかった。

だが尊敬だけでなかったのも確かだった。

ぽっと出の、得体のしれない男が、憧れのリツコの横に急に並び立ったことによる嫉妬もあった。

第六の使徒戦の際の命令違反を犯した時の、殺気を直に浴びたことによる恐怖を感じた時もあった。

だが子供達を守ろうとする毅然とした態度には、やはり憧れを最も抱いていたのかもしれない。

 

「そういう副長先輩はどうだったんですか?リュウジさんほどの男性なんて、先輩程の女性でもそうそう出会ったことなかったんじゃないんですか?」

 

「そうね。……正直、あんなに強くて、真っ直ぐな人は見たことが無い……。いえそもそも、この世に存在することさえ知らなかった」

 

14年前の時代で、リツコほどの年齢の女性が、国連組織の中枢であれ程の地位に就くのは並大抵の努力では無理だ。同期はおろか、異性の先輩であっても追い抜くために筆舌にしがたい努力をしてきた。

それ故に歪んでいなければ、出来ないようなことをしてきた。

そしてその歪みを、大人になった証として、

 

「仕方がない」

 

と、受け入れていた。

だがリュウジに出会ったとき、彼女には衝撃が走った。

自分以上に歪んでいながら、子供達を守る為に、真っ直ぐに、必死に戦っていた。それがより凄惨な結果になる可能性があることを解っていながら、自身の歪さを自覚していながら、成すべきことを遮二無二、成そうとしていた。

 

「……だけど、あの人は余りに自分の身を顧みない。顧みなさすぎたわ」

 

普通の人間であれば、どこかで必ず自分の身を案じるブレーキがかかる。

それが、端からないのか、それとも壊れてしまったのか。リュウジには全くなかった。

 

「子供たちの為だけでなく、途中からは私やミサトの為にも……」

 

あれ程の男が自分を助けてくれたのは、ありがたくもあったが、正直言えば心苦しいと感じることの方が多かった。

いっそのこと、司令官の弟と言う肩書を使って、さっさとのし上がってほしかったのだが、そもそもその兄と仲違いしていたし、リュウジ自身がそんな野心など毛頭なく、下働きをずっと続けることに、彼も全く抵抗がなかった。

リュウジは良くも悪くもプライドが全くない人物だった。

 

「その挙句の果てに、兄の傀儡にされたことを考えれば、ショックを感じるのも無理ないわね」

 

「私も驚きました。他は寸分たがわず14年前のままでしたけど、あの血走った眼は……」

 

マヤの言葉に、リツコの表情がハッとなる。

 

「……寸分たがわず?」

 

その瞬間、リツコの顔つきが変わった。

 

「……副長先輩?」

 

彼女は突然椅子から立ち上がると、顎に手を当て、思考を巡らせ始めた。

 

(そんなこと有り得るの?14年前のまったく同じ姿でいる事って……)

 

今の今までリツコは、リュウジの浸食されていたデータを忘れていたことに気が付いた。

 

(テロメア配列が異常な回復を見せていた。それを考えればもしかしたら……)

 

使徒の浸食により、若返っていると言ってもいい状態だったリュウジが、14年前と同じ姿と言うのは有り得るのか。

長年使徒に浸食されていた人物のデータなど、それこそリュウジを除けばアスカのものしかない。だが彼女の場合、そこに参号機実験時に異常なプラグ深度まで至ってしまったデータまで加わる為、同条件とはとても言えない。

だがリツコの中には、ある仮説が音を立てて組み上がっていった。

 

(それに、『種まきの継続』をリュウジさんは指示してきた。それを考えれば……)

 

だが確証は持てない。

そもそもに彼女が考えた仮設通りだとしても、現状ではどうしようもなかった。

それに……

 

「……ありえない」

 

「大丈夫ですか?」

 

マヤの声にハタと、リツコは思考から舞い戻る。

 

「あ、ああ、ごめんなさい、ちょっとした考えが浮かんだから」

 

リツコの言葉を受けても、並々ならぬ彼女の様子にマヤの表情は心配が拭えないようだった。

 

「ごめんなさいマヤ、ちょっと……一人にしてもらえるかしら」

 

リツコの顔を見たマヤは、次の言葉を出すことができなかった。

長年憧れてきた女性の顔は、驚愕の表情に染まっており、これ程の表情をマヤは見たことが無かった。

 

「……ごめんなさいマヤ、とにかく、一人にして」

 

リツコがもう一度いう。

そのうめくような声に、マヤはどうすることもできず、部屋を後にした。

 

 

太陽が真上を過ぎようとしている。

そして温もりをたたえる湯気が、鍋を囲む三人の顔を温める。

見た目の出来栄えの良さに、シンジはまず一安心するが、問題は味である。

錆が弱冠目立つお玉で、汁をすくうと、

 

「……うん。いい感じ」

 

その言葉にカヲルは顔をほころばせるが、レイは意味が良く解っていないのか、表情はまったく変わらない。

 

「さ、綾波。味見してみて」

 

そういわれ、お玉を無言でうなずきながら受け取ると、レイはゆっくりと口に入れる。

 

「……どう?」

 

「……わからない。……でも、……ポカポカする」

 

レイの表情が、どこか温かく染まった。

 

「そっか。よかった」

 

シンジもその様子を見て安堵したのか、笑顔をレイに向ける。

 

「カヲル君も、味見してみて」

 

「うん。ありがとう」

 

カヲルとしても、シンジと共につくったものを味わえることが、正直に嬉しかった。

 

(……こんな、安心する味だったんだ)

 

『今まで』味わう事の出来なかった、その温もりにカヲルは言葉を忘れた。

 

「……カヲル君?」

 

『初めて』味わうシンジの料理の味に、カヲルは『それまで』を思い出さずに沸いられなかった。

 

「ごめん。口に合わなかったかな?」

 

そのカヲルの様子が気にかかり、シンジは不安を投げかけた。

 

「え?いや、違うよ。ハハハ……。すごく美味しい。今まで食べた中で、一番美味しいよ」

 

カヲルはなんとかばれないように、出かかった涙を抑え込み、鼻を拭う。

 

「大袈裟だなぁ、カヲル君は」

 

「ウソじゃないよ。ホントだよ」

 

それはカヲルの偽りない感想だった。

必死に押し殺している涙を抑えきれず、うつむきながら必死に誤魔化すほどカヲルは嬉しかった。

 

「さ、さぁ、味噌汁も出来上がったことだし、盛り付けて食べよう」

 

なんとか涙を再度抑え込み、カヲルは努めて明るく振る舞った。

その様子がカラ元気なように見えたシンジだが、

 

「うん、そうだね。さ、綾波も準備しよう」

 

それを指摘したり、慮ることをシンジはしなかった。

シンジの言葉に頷いたレイも含めて、三人は机に食べ物を並べ、

 

「「「いただきます」」」

 

手を合わせた。

その机には味噌汁以外に、カヲルが育てた野菜が切られただけではあるが、綺麗に盛られ、目に鮮やかな光景となっていた。

正直切って盛り付けただけで、味噌汁以外に料理した、とは言い難いかもしれない。

 

「甘い。美味しいよ、このトマト」

 

「うわぁ。こんな味するんだね」

 

生で比較的食べやすい野菜ばかりではあるが、ペーストの味気ない食事より、何倍もおいしく感じた。

 

「……これが、甘い」

 

そして、改めて三人は味噌汁をすする。

 

「ハァ~……、綾波はすごいね」

 

「すごい?何が?」

 

「さっきポカポカする、って言ったでしょ?こうして食べると、本当に体も心も暖まって、おいしくて、それを全部言い表してるな、って思ったんだ」

 

それを最初にシンジに与えてくれたのは、リュウジだった。そして今、それを目の前のレイに、少しでも伝えられた。

 

「ありがとう。綾波」

 

「……碇君。私また、一緒に料理したい」

 

「本当?」

 

無言でレイは頷く。

だが、

 

「でもゴメン綾波。それはできないよ」

 

「どうして?」

 

「材料はもう使い切った。味噌もないし、食材だってたくさんある訳じゃない。それに……」

 

シンジは感じていた。

もうすぐ、破滅の時が来ると。

その引き金は、否が応にも自分が引かねばならぬことも。

 

「ごめんね綾波。ボクのお願いだけ聞いて、君のお願いを聞くことが出来なくて」

 

そしてカヲルにも顔を向ける。

 

「ごめんねカヲル君。君との約束を守ることが出来なくて」

 

「シンジ君?」

 

「スイカ、一緒に食べたかったなぁ」

 

それでもシンジは守りたいものを選んだ。

結果として、世界が滅べば守ることなどできないとわかっている。

だが、

 

「ボクは、やっぱり、おじさんを殺すことは出来ない」

 

世界を守ることを選ぶことが、今のシンジにはできる。ゲンドウの要求を拒否すればよいのだ。

だがそれは同時に、シンジがリュウジを見殺しにしたことになる。

存続された世界の中で、リュウジを殺した罪を背負って生きていく強さは、今のシンジにはなかった。

そんな世界で、愛した人たちと共に生きていく自信が、今のシンジにはなかった。

 

「ボクは、やっぱり弱いままだ。……卑怯者のままだ。でも、でも……」

 

我慢できず、シンジは俯き嗚咽を堪えながら、

 

「それでもいいから……、おじさんを、殺したくない」

 

己の願望を吐露した。

 

 

そして、神と同じ姿の機体が、顕現する。

 

「最後の執行者が、ついに完成したか」

 

「ああ、これで道具は全てそろった」

 

繭とも、子宮とも思える球体から、ついに13号機が完成した姿をゲンドウと、冬月に露わにする。

 

 

 

 

 

 

そしてそれを、

 

「……時田さん」

 

「来たのか?」

 

最後の使徒が鋭敏に感じ取る。

 

「ええ、いよいよです」

 

無言で時田は頷く。

そして、内線を取り、

 

「これより救出作戦を実行に移す。ヴィレに潜入しているモールにもそう伝えろ」

 

『了解』

 

その時田を尻目に、ジュニアはその場を後にした。




Qを改めて観てみると、結構短いんですね。
まぁ、あんなシンジ君がハートフルぼっこにされているのを二時間も三時間も見るほどのメンタルはありませんが。

というわけで、そろそろこの作品も佳境に入ります。

ご意見、ご感想をお待ちしております。

誤字、脱字等ございましたらご報告いただけると幸いです。

これからも応援、何卒よろしくお願いいたします。
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