新世紀エヴァンゲリオン-And become Joseph-   作:さえもん9184

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最終章となります。

時間がかかっていてなんですが、正直まだ悩んでいる部分もあり、かなり遅い更新ペースになるかも知れません。

何卒よろしくお願いします。


Sin(罪)の章
Sin-変わらぬ思い-


ユーロネルフ本部に、ついに時田の操縦するステルス機が着陸した。

離着陸上には既にストレッチャーが用意されており、剣崎はそれに横たわり運ばれていく。

 

「LCL調整槽の準備は?」

 

「できております」

 

「よし、すぐに取り掛かるぞ」

 

時田は周囲に指示を飛ばす声が響く。

 

「時田さん。この後は……」

 

「……リュウジからは、後は好きにしていいと言われている」

 

その言葉に、剣崎はまさかと身を起こす。

 

「教官を見捨てるんですか?」

 

「……いや、その逆だ」

 

時田はそう言うと、剣崎が運ばれていくのを見送った。

 

「……すぐにヴィレに対して通信を入れる。準備してくれ」

 

そして近くに控えていた助手の一人に、準備を促した。

 

「はい」

 

だが助手の表情はどこか不服を孕んでおり、時田はそれを見逃さなかった。

 

「……納得いかないのは解る、だがこのままでは、我々の戦う術はほぼ無いに等しい」

 

「それはそうですが……」

 

「ネルフの、……碇ゲンドウの求める最後の段取りはほぼ出来上がっている。私は、このまま何もせずにいるつもりは無い」

 

好きにしていい。―――その言葉通り、時田シロウは最後まで自らの意志で、最後まで戦うと決めていた。

 

 

ヴンダー内の通路に、乾いた足音が響く。

リュウジは上半身を拘束され、左右と背後を警備兵に囲まれ、少し前には一人の女性が先頭を歩いていた。

囲まれながらその女性を追いかけるように歩きながら、

 

(最初にネルフに来た時もこんな感じだったな)

 

等と心の中で独りごちていた。

 

「フォース・インパクトを起こした張本人」

 

それが碇リュウジのヴィレ内でのレッテルであった。

アスカのオリジナルを助けたことはもとより、その存在すらも、混乱をきたすとして秘匿されてしまっていた。

最もリュウジとしては、

 

「当然の処置」

 

として受け入れていた。

傍から見れば理不尽な扱いかもしれないが、リュウジは何も思うところはなかった。というより、リュウジ自身が理不尽などとはかけらも思っていない。

なぜなら所詮自分は罪人であり、これは何もできなかった自分への復讐だからだ。

そうして、ヴンダーのブリッジへと連行されたリュウジは、拘束されながらも内部をゆっくりと見渡す。

嘗ての教え子や、ネルフでの同僚―――その表現が若干正しくない気もするが。が、せわしなく作業や、部下たちへの指示を飛ばしている。

 

「重力制御機構メインシステム、復旧完了」

 

「北上、主砲の補修状況はどうなってる?」

 

「それ、整備部の仕事じゃないんですか?」

 

「えっと。姿勢制御システムのアクセスは、……あれ?」

 

それらを聞きながら、こんなことは言える立場ではないことは基より、思う事すら憚れるが、リュウジは思わず、

 

(呑気なものだ)

 

と、思わずにはいられなかった。

正直言って、ここにいるクルーたちよりずっと若い、嘗て指揮することになった少年兵たちの方が数百倍優秀であった。

無論、少年兵たちはリュウジ自身が訓練したのだし、ここにいるクルーはもともと戦う必要の無かった者達である。だからこそ、自分が14年前に責務を果たさなかったばかりに、戦う必要のない者達が戦う羽目になったことを考えれば、リュウジが何か言えた義理は無い。

だが、

 

(これが、最後の希望の戦艦のクルーか……)

 

と、ミサトへ若干の同情と、今日まで戦ってきたことに、尊敬の念を感じずにはいられなかった。

 

「えっと、すいません。間もなく艦長がいらっしゃいますので、ここで待っててください」

 

関西訛りが混じった声に、リュウジは無言でうなずきながら、ブリッジ内が複雑な空気に染まっていくのを感じた。

リュウジの存在を認知した、嘗ての教え子やネルフ職員は、変わり果てたリュウジの姿にいたたまれない面持ちであったし、年若いクルーたちは、全ての元凶である碇ゲンドウの弟で、フォース・インパクトを起こした張本人に、程度の差はあれど怨嗟の念を向けていた。

そんな空気を感じていると、ブリッジ中央の昇降部の天井が、音を立てて降りてきた。

紅い軍服に、眼を覆うサングラスをかけ、軍服と同色の軍帽を被った、リュウジのかつての上司、葛城ミサトと、その片腕たる赤木リツコであった。

だがリュウジは、彼女たちに一瞥もむけなかった。

 

「……碇リュウジ、で間違いないのね?」

 

「ええ。14年前のデータと照合。遺伝情報、浸食因子、どちらも合致したわ」

 

感情の起伏はその声からは感じられなかったが、それこそがリュウジにとっては雄弁な感情の起伏だった。

 

「彼の乗っていたエヴァは?」

 

「推測通り、四号機のコアとそのパーツ、および参号機が使われた複合機体だった。でも、気になる点が一つ」

 

「なに?」

 

「四号機のコアはすでに使い物になっていなかった。つまり、本来は動くはずが無い。だからこそ……」

 

リツコは視線の身をリュウジに向ける。

 

「そのことも含めて、彼にはいろいろと喋ってもらう」

 

「……そうね。鈴原少尉」

 

「はい」

 

「……彼を隔離室へ」

 

「解りました」

 

そのやり取りのさなかも、リュウジは何も言わなかった。

そして成すがままに、ブリッジを退出していく寸前に、

 

「……殺さないのは。嘗ての師匠だからですか?艦長」

 

ミドリがミサトにそう尋ねた。

オリジナルのアスカを助けたことは秘匿されているが、碇リュウジがミサトとどういう関係であったかは、既に多くの知るところとなっている。

 

「いいえ。情報を聞き出すためです」

 

「あいつはフォース・インパクトを起こした張本人ですよね?だったら……」

 

「それを止めたのも碇リュウジだった。だからこそ、その理由も聞き出さなければならない」

 

だからこそ、ゲンドウやシンジ、そしてリュウジに恨みのある者は、その師弟関係が故に、これ程の大罪人を殺さないのだという考えが蔓延していた。

立ち止まりそのやり取りを聞いていたリュウジは、ミサトと相対しているミドリに興味がわいた。

 

「……彼女は?」

 

「え?」

 

サクラは急にリュウジに声を掛けられ、上ずった返事をしてしまうが、

 

「北上ミドリといって、……ニアサーで、家族を失ったので、……その」

 

「成程」

 

その話を聞いただけで、リュウジには充分だった。そして、立ち去るはずだったブリッジへと立ち入っていく。

 

「ちょ、ちょっとリュウジさん?」

 

サクラは基より、警備兵たちですらブリッジ内の空気と、突然のリュウジの行動に、普通の歩みであるにもかかわらず、リュウジを止めることができなかった。

拘束されながらも、堂々とした振る舞いに、周囲もただ見るだけであった。

 

「な、なによ……」

 

そしてミドリの目の前まで来ると、その眼をまっすぐと見た。

 

「あなたに命を渡せるほど、私の命は安くありませんよ?」

 

「―――なんですって?」

 

「解りやすく言えば、あなたに私は殺せない。私には、まだやることがありますので」

 

その時のリュウジは、どこか冷徹であり、それがミドリの琴線に触れた。

 

「―――そうやって、アンタも、アンタの兄も、あの疫病神も、自分の事しか考えてない!そのせいで、アタシの家族は……」

 

「大切なものを失ったのを、他人のせいにしても意味はありません。自分の大切なものを守れるのは、他でもない自分だけです」

 

「そんな力、アタシにはなかった!!力があれば、アタシだって……」

 

「そうでしょうね、あなたは優しい。力があれば戦っていたでしょう。……14年前のシンジの様に」

 

その言葉に、ミドリは凍りついた。

 

「シンジはエヴァと言う力を得た。だから、戦った。その結果は、確かに許される物ではありませんし、私も、殺されて当然のことをしました。だが戦いとは、そもそも己の大切なものを守りたいという想いから始まります。―――そしてその為に、戦うものは皆地獄へと堕ちていく」

 

その覚悟を問える道理など、リュウジにはかけらもないと自覚している。だがその覚悟を知らずにいるのも、どこか痛ましくも思っていた。

それでは仮に復讐を彼女が果たせたとしても、その復讐心がいずれ彼女をむしばんでしまうと思ったからだ。

 

「その地獄で、私にはどうしてもやらなければならないことがある。あなたに殺されても仕方がないのは重々承知していますが、まだ、死ぬわけにはいかない」

 

そしてここまで言われれば、ミドリもリュウジの義務を察していた。

 

「……こんなこと言えた道理はありませんが、もし成すべきことを成して、生きて戻れたら、……その時は、あなたの報復に応えられる」

 

それは嘘偽り無い、リュウジなりの労りだった。

それを、感じたのかどうかは定かではないが、ミドリは静かに、

 

「……ふざけるな」

 

とリュウジの言葉をはねのけた。

 

「そんな、自殺幇助なんてまっぴらよ。殺すからには、アンタに正々堂々挑んでやる」

 

その気概に、近くで推移を見守っていた高雄は、

 

「北上はこれ程の気迫があったのか」

 

と思わずにはいられなかった。

 

「……艦長。もし許されるなら、彼女を私の監視に付けてくれませんか?」

 

だがリュウジは、その気概を知っていたのか、そんなとんでもない進言をミサトにしたのである。

この時のミドリには、何も嬉しいことは無かっただろうが、リュウジは彼女に、

 

「惹かれた」

 

と言ってもよい。

ある種の気紛れだったのかもしれないが、リュウジにとっては、殺意程、力と意識を使って相手に向けるものは無いと思っている。

それを未だ少女という言葉が当てはまりそうな北上ミドリが、自分に向けてくれるのがリュウジにとっては、

 

「ありがたい」

 

と思えるのだ。

 

「……いいでしょう」

 

「葛城艦長!」

 

リツコは抗議するが、ミサトとしても、不満を払拭する良い手段と考えた。

ミドリが、シンジにも、リュウジにも、怨嗟の念を向けているのは重々承知している。

だがシンジには出来ず、リュウジにはできることがある。それは、恨みを向けてくる相手へ真逆の慈しみの念を向けることである。

これはむしろ、リュウジにしかできぬことであるとミサトは考える。

その念をヴィレ内の、不満を持つ筆頭と言える存在である北上ミドリが、受ければどうなるか。

 

「遠慮はいりません。必要と思えば、彼の処罰はあなたに一任します。必要なものがあれば、すぐに言いなさい」

 

これはとどのつまり、碇リュウジの

 

「生殺与奪の権利」

 

を、ミドリに与えたという事であり。

そしてリュウジ自身も、

 

「殺すなら殺せ」

 

と言っているのだ。

北上ミドリがそこまで理解が及んでいるかと言われれば、恐らく違うだろう。

そこまで至るには、まだ彼女は幼い。

だが幼いが故に、思うところはある。自分が恨む存在を殺せる状況になった途端に、恨みそのものが、彼女へのプレッシャーとなって圧し掛かる。

現に今の状況に、彼女は混迷をきたしている。

それを尻目に、リュウジは再びブリッジを後にしようと、その場を立ち去っていく。

 

「どうしたの?早く行きなさい」

 

「え?で、でも仕事が」

 

「そんなことはいい、早く行くんだ」

 

先程までの叱責などなかったかのように、日向はミドリに新たな仕事に就くよう促した。

 

「は、はい」

 

未だにおぼつかぬ敬礼をすると、ミドリはブリッジを後にした。

 

「……変わらないわね、あの人は」

 

そんな様を、リツコは独りごちる。

 

「そうね、……本当、―――本当に変わらない」

 

嘗て銃口を向けたことを思い出しながら、ミサトは思いをはせる。

銃口を向けたにもかかわらず、リュウジはその後ミサトにとってはまさに、

 

「かけがいのない師」

 

となった。

そして、

 

「守ろうとする意志も、変わってない」

 

と、ミサトは今回の戦いでまざまざと突き付けられた。

確かにフォース・インパクトをリュウジは起こした、だがそれはオリジナルのアスカを助けるためであり、その様は14年前のパイロット達を助けようとする姿勢と何ら変わりない。

更にいえば、エヴァの機体、パイロット、ヴンダー、もろもろのダメージも、ゼロではないが、非常に程度が軽いものだった。

フォース・インパクトを発動するにあたって、リュウジは最大限の配慮をして、そして目的を達成したのである。

 

「まるで、学生みたいな顔になってるわよ?」

 

そのリツコの言葉に、

 

「なんのこと?」

 

ミサトは平静を装う。

 

「まるで、最悪の試験結果を教授に見られた、学生みたいな顔って意味よ」

 

だが、長年の片腕である親友に、隠し事など通用しない。

先にリュウジ(剣崎)と対面したとき、ミサトは思わず内在する罪悪感を吐露してしまった。

そもそも14年前にあれ程覚悟を問われていたというのに、蓋を開けてみればシンジに罪を押し付け、そのヘイトコントロールでなんとかヴィレをまとめ上げ、今日まで戦ってきたにもかかわらず、状況は悪化するばかり。

それに加え、リュウジが生きていたことに、

 

「後はリュウジがなんとかしてくれる」

 

と安堵している自分に気が付き辟易としていた。

 

「……あの人はもう私なんて何とも思ってないわよ。―――こんな出来損ないの教え子なんて」

 

「ミサト」

 

「現に私の事なんて一瞥もしてくれなかった」

 

リツコはどこか寂しげなミサトの背中を見ると、踵を返しその場を去っていく。

 

「先に行ってるわ。あの人も面と向かえば、何か言ってくれるわよ」

 

 

半ばブリッジから放り出された形となったミドリは、複雑に入り組んだ艦内の構造をおぼろげながら思いだし、隔離室へと向かう一向に何とか追いついていた。

 

「アンタ、何のつもり?」

 

「といいますと?」

 

「いきなりアタシを監視役なんて、丸め込もうったってそうは……」

 

「私はただ見せるだけです。何も強制はしないし、押し付けるつもりもありません」

 

その声音の穏やかさに、ミドリは基よりサクラをはじめとした警備の兵も、

 

「これが本当にフォース・インパクトを起こした張本人か?」

 

と思わず訝しんでしまう。

 

「戦うにしろ、恨むにしろ、まずは相手を知ることです。その上で、どうするかを自分で決める。―――ですが一つだけ、あなたと、それと鈴原少尉に頼みがあります」

 

急に名前を呼ばれたため、サクラも意識が向いた。

 

「これから、私と共にいるときに見聞きしたことは、決して他言しないでほしいんです」

 

これはかなりの無理難題であった。

サクラもミドリも、曲がりなりにもリュウジの監視役であり、その報告をあげるなというのと同義である。

だが、

 

「無論上司に報告するなという事ではありません。所謂、守秘義務というやつです。組織と言うか、人には奥底に知られたくないものが、一つや二つあるものです。―――だが時として、それらは曝け出した方がいい時もある。かといってそれらがダダ漏れとなると、きまりが悪いことにもなる。あなた達にも、知られたくないことが無い訳ではないでしょう?」

 

とどのつまり、上司に報告はしても問題ないが、他に言いふらす様なことはしないでほしい。

という、リュウジからしてみれば何の意味のない頼みであった。

 

「そりゃ、そうだけど……」

 

リュウジが秘密にしたい事柄があるがために、ミサトなどへの報告をするなというのならまだ話は分かる。

だが、ミサトへの報告ならば、

 

「構わない」

 

という意味の言葉に、二人はその意図を測りかねていた。

 

「その内わかります。ただ、とにかくお願いします」

 

この時のミドリ、サクラ両名は、心中に

 

「フォース・インパクトを起こした狂人」

 

とは別の得体の知れなさをリュウジに感じていた。

それがなんなのかを知るのは、全てが手遅れになった時だった。

そして一行は、いつの間にか目的の隔離室へとたどり着いていた。




活動報告にて、マイペースに今作の制作秘話や、リュウジの根幹の様なものを、気取った文調で書いていこうと思います。

気が向いて、時間があれば、読んでみてください。

ご意見、ご感想をお待ちしております。

誤字脱字等ございましたら、ご指摘いただけると幸いです。

これからも応援よろしくお願いします。

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