新世紀エヴァンゲリオン-And become Joseph- 作:さえもん9184
昔はだらしないと感じたものですが、あの肝の座りようは流石作戦部長と言えます。でもやっぱり人間的な弱さもあるのが、魅力的ですね。
「生きていたのか」
「最後に会ったのは15年前、セカンドインパクトの一ヶ月前だったからな、死んだと思っても無理ないが、久々に再会した弟に、ずいぶんな言い方だな」
「……いつ戻った」
「5年前。それ以降、勝手ながらこの子の面倒を見ていた」
5年と言う数字に、ゲンドウは表には出さないが驚いた。それほど前に帰っていながら、しかもシンジの面倒を見ていながら、リュウジについて何の報告も上がっていなかったからだ。
「……葛城二佐」
「申し訳ありません。私の独断で部外者を立ち入らせました」
「私が無理を頼んだんだ。葛城さんを責めないでくれ」
ミサトは二人のやりとりを聴きながら、考えていた。
(この様子だと、二人が兄弟である事は間違いない。でもなぜネルフ諜報部は、何もリュウジさんに関して情報を上げてないの?)
偽物かもしれないと言う疑念は消えたが、また新たな疑問が彼女の脳裏にも浮かぶ。
「事情は後で聞く、お前についての扱いも後だ。とにかく今は時間がない」
ゲンドウは、リュウジに向けていた視線を、再びシンジに向ける
「出撃」
「待ってください。まさか彼を初号機に!?」
「そうよ、葛城二佐」
リツコもシンジに目を向ける。
「シンジ君。貴方が乗るの」
当然、シンジは驚愕の表情を向ける。
(やはり、あいつはシンジをこれに乗せるために……)
少しでも期待していた自分に腹が立った。
ゲンドウは、やはり父親としてシンジを呼んだ訳ではなかったのだ。
「……なんだよ、急に呼び出したかと思えば、いきなりこんなのに乗れって!こんなのってないよ!!」
「乗るならば早くしろ、でなければ、帰れ!」
シンジも失望を隠せないでいた。
実の父親とは思えないその言葉に、後悔の念が絶え間なく押し寄せた。
「シンジ君。何のためにここまで来たの?逃げちゃダメよ、お父さんから、何より自分自身から」
そもそも、巨大ロボットで、あの巨大不明生物を相手にしようというのも無理があるが、それに加えて、何の訓練も受けていないシンジに戦わせようと言うのが、彼からしてみれば、無謀としか思えなかった。
だが冷静に、リュウジはミサトとリツコに挟まれながら俯くシンジに、
「……シンジ。もういい」
声をかけた。兄や目の前の二人の女性とは違う、圧力がない本当に静かな声だった。
「お前が乗る必要はない、帰ろう」
「おじさん」
シンジはうっすらと涙を浮かべながら、叔父を見た。その表情に、リュウジは若干の安堵の表情を見た。
「失礼ですが、碇司令の弟といっても、貴方は部外者です。口を挟まないでください」
リツコが毅然と、立ちはだかる様に言う。
「ならシンジもでしょう?彼はまだ、ネルフの人間ではないはずです」
正論だった。彼の言う通り、シンジはまだネルフに入った訳ではない。
「シンジ。別にお前が、人類の命運を背負って立つ事はない。そんな義務もない」
「リュウジさん!家族の心配をするお気持ちはわかります!ですが、今彼が乗らなければ、人類が滅ぶんです!」
だがリュウジは、ミサトの必死な言葉を聞いても、眉一つ動かさない。
「……聞いたなシンジ。ここには人類の未来を守ろうとする者はいても、お前の命を守ろうとする者はいないようだ」
リュウジの言葉にリツコもミサトも、僅かだが顔を背けた。
「さぁ、帰ろう」
そう言ってリュウジはシンジに近づこうとするが、
「……申し訳ありませんが、それはさせられません」
ミサトは羞恥心を抱えつつも、それを遮った。リュウジに銃を突きつけながら。
「ミサトさん!」
「ミサト!?」
シンジはもちろん、いきなりの行動にリツコも驚愕した。ミサトはシンジを左腕で隠すようにして、そして右腕で銃を突きつける。
「貴方の大事な甥に、我々はすがるしかないんです!ご理解いただかなくても結構。恨んでくれて結構です!それでも人類を守る!これが!!……我々の覚悟です」
「おじさん!」
その光景にシンジが思わずリュウジに声をかける。
そして、
「……覚悟、とおっしゃいましたね」
リュウジは静かに、この状態になってなお、静かにそしてゆっくりと、ミサトに近づく。
「覚悟、等と気軽に言わない方がいい」
「………」
その時、ミサトは言いようのない雰囲気を感じ、油断しないよう無言を貫いた。
「物事は表裏一体です。よく言うでしょ?人を殺そうとするなら、殺される覚悟を持つこと、今の貴方の場合は……」
その場にいる、リュウジ以外は見ていながら、何が起こったか把握できなかった。
「銃を突きつけられる覚悟がなかった。違いますか?」
いつのまにかミサトの手から銃は消え、リュウジの両の手に収まり、その銃口はミサトに向けられていた。
「な!…くっ!!」
ミサトとて、そこそこ修羅場は潜ってきた。人を殺した事もある。
(何者なの!?一体!)
だが先程のリュウジの動きは、全くわからなかった。片手で銃を持っていたとはいえ、凄まじい早業で、銃を奪ってみせた。その一連の動きが、ミサトにとっては、
(いつのまに)
と言うレベルで見せられたのだ。
だが、リュウジはそんなミサトの驚愕をよそに、マガジンを抜き、装填された弾を吐き出させ、本体のみミサトに突き返す
「人類を守る、それには、私なんぞには、到底理解できないほどの力が必要でしょう。つまり、このエヴァンゲリオンにはそれだけの力、想像し得ないほどの力が秘められている。違いますか?」
「……ええ、否定はしません」
リツコがリュウジの問いかけに、辛うじて返す。彼女も先程のリュウジに動きに、完全に面食らっていた。
「世界を守るための力、それはともすれば、世界を滅ぼす力にもなり得ます。その力を、たった14歳の少年に託して、あなた方は責任が取れるんですか!?」
「何が言いたいんですか」
ミサトも、気持ちを落ち着かせ、なんとかリュウジと視線をぶつける。
「何が言いたい!?寝ぼけるな!その力が暴走して、シンジが人類を滅ぼすような結果になった時、あんたらはその責任をおえるのか!?それともシンジにすべての責任を押し付けるか!!?」
だがあまりのリュウジのプレッシャーに、最早ミサトは萎縮するしかなかった。何より、今リュウジに言われた言葉に、返すことなど彼女には到底無理だった。
「どちらも生半可な覚悟では無理だろう。前者は、人類を滅ぼした責任を負う。後者は、その責任を子供に押し付ける、犬畜生にも劣る行為だ」
そしてリュウジは、ミサトの胸ぐらを掴む。
「どちらが良い悪いの話じゃ無い!そのどちらかを選ぶ覚悟はあるのか!?どうなんだ!!」
ミサトは完全に、何も言えなかった。少し離れて立ってはいるが、リツコも同様だった。自分たちはあまりに『覚悟』が足りなかった。
「……シンジ。行こう」
先程までとは打って変わって、リュウジはミサトの胸ぐらを離しながら、静かに言った。
「聞いての通りだゲンドウ、俺たちは帰る。人類を守るパイロットは他を当たれ」
「そうか、シンジ」
いきなり名前を呼ばれ、シンジは思わず顔を上げる。
「お前には失望した」
リュウジはその言いように、再び怒りがこみ上げるが、
「シンジ。いいんだ」
優しく、シンジを抱きしめた。
「帰ろう」
「……おじさん」
「ん?」
「ありがとう」
体を離したシンジに、いきなりお礼を言われ、
「何がだ?」
思わず聞き返す。
「さっきおじさんは、僕のことを守ってくれた。嬉しかった」
「……シンジ」
そのあまりの眩しい笑顔に、リュウジは、
「当たり前だろ?家族なんだから」
優しく、シンジの頭を撫でた。
「失礼します。ご健闘をお祈りします」
そう言って、二人ともその場を去ろうとした時だった。
先程しまったドアが開き、ストレッチャーを押す看護師と医者らしき人が入ってくる。
そして、エヴァンゲリオンの目の前で止まったストレッチャーには、満身創痍の少女が横たわっていた。
「レイ。予備が使えなくなった。もう一度だ」
「はい」
あまりに弱々しい返事だが、少女はその体で、なんとか立ち上がろうとする。
(おい、何だこれは!)
普段のリュウジなら、少女の扱いに憤慨するところだが、
(ユイさん!?)
嘗ての義姉にあまりに似ている見た目に、怒りよりも、驚愕が先行してしまった。
「あ、危ない!!」
弱々しく、ストレッチャーから立ち上がろうとする少女はバランスを崩し、床に体を打ち付ける。
「大丈夫ですか!」
反応できなかったリュウジの代わりにシンジが駆け寄る。
何時ものリュウジなら反応できたであろうが、彼はまだ、なんとか心を落ち着かせたところであった。
(この子を乗せる気か)
「どういうつもりだ、ゲンドウ」
「お前が言ったんだろう。他を当たれと」
「だが、これでは!」
リュウジはゲンドウのあまりの行いに、怒りをあらわにする。
それをシンジは少女を抱きしめながら、聞いていた。
(帰ってどうなる。おじさんに僕は守ってもらえたけど、でもこの子は)
誰も守ってくれない。
先程リュウジが、シンジ を連れて行こうとした時でさえ、あわや一触即発の状態だった。この子も助けたいが、いかにリュウジといえど、大怪我を負った少女と自分をここから逃すなど、無理な話であることは、シンジも理解できる。
(それに人類が滅びるってことは、おじさんも……)
「おじさん。ありがとう」
「シンジ?」
再びシンジにお礼を言われ、今度は困惑した。
「乗ります!僕が乗ります!!」
シンジも、今彼なりの『覚悟』を決めた瞬間だった。
「まて!待てシンジ!!」
思わず、シンジに駆け寄る。
「俺が言ったことを、聞いてなかったのか?操縦できるか以前に、力が制御できているかも疑問なんだぞ?それに、あの化け物との戦うことになれば、俺はお前を、……守れない」
「ありがとう。おじさん。今日まで、僕を育ててくれて」
「シンジ?」
まるで遺言のようなこと言うシンジに、リュウジは胸騒ぎがした。
「この5年間。楽しかった。おじさんに会うまで、他人とどう接していいか分からなかった僕を、認めてくれて、受け入れてくれて、守ってくれた。お陰で人といるのが楽しいって思えるようなったんだ。おじさんのおかげで、誰かのために何かしたいって思えた」
そう言ってシンジは、抱きしめている少女に目を向ける。
「この子のことは、何も知りません。でも、何かしてあげたい。僕のことはおじさんが守ってくれる。でも、この子は誰も守れない。僕が帰れば、この子が乗る。誰も守ってくれずに」
「だからお前が乗るって言うのか?」
「この子にボクが出来ることは、それしかないです。それに……」
今度はリュウジに顔を向ける。
「おじさん。あなたも」
「俺も?」
「おじさんのおかげで、この世界も悪くないって思えたんです。そんな世界で、人といるのも悪くないって思えた。そんなことを教えてくれた、おじさんが、この世界にいる。それだけで、僕には乗る理由になります」
やめろ。とリュウジは言いたかった。だが言えなかった。先程まで、ミサトとリツコに偉そうなことを言ったが、自分も『覚悟』していなかったからだ。
『守ってもらう覚悟』
それは、大切な人が、傷つきながらも、自分のために戦ってもらう覚悟。それを見守る覚悟。
シンジにはリュウジのために何かしたいという思いが、芽生え、強さを与えていた。そしてリュウジは、それに気がつかなかった。
「ごめん、シンジ」
リュウジは謝るしかなかった。
自分が、シンジに戦う決意をさせてしまったからだ。
「謝らないでよ、おじさん」
「……最低だ。俺は」
「そんなことない。そんなことないよ」
そう言って、シンジはリツコとミサト顔を向ける。
「ミサトさん、リツコさん。先程は叔父が失礼しました。改めてお願いします。僕がエヴァンゲリオンに乗ります。説明をお願いします」
「シンジ君……」
丁寧に頭を下げるシンジを見て、ミサトは戸惑う。リツコも同様のようであった。
「いいのね?シンジ君」
そしてリツコは、最終確認をした。
「はい。僕なりに考えて決めたんです。よろしくお願いします」
そう言って少女を抱き起す。
「う!くぅっ!」
「俺が、戻すよ」
リュウジは慣れた手つきで、ストレッチャーを直し、少女をその上に乗せる。
(この娘も、こんなになるまで……)
いつも怪我人を見るのは辛い、とりわけそれが子供であるとなお辛くなる。
自分たちのために、戦っていることを考えれば尚更だ。
「シンジ君。こっちよ」
「はい」
そして今度は、シンジが戦う。
「……シンジ!」
ストレッチャーが運ばれていくのを見送り、リュウジは去っていくシンジに声をかける。
「遺言みたいなことを言うな!必ず無事に帰って来い!……それが、何よりの戦果だ」
「はい。必ず生きて帰ります」
その時、銃で武装した諜報部が三人、ドックに入るやいなや、リュウジに銃を突きつけた。
「おじさん!!」
「碇司令!これは!!?」
ミサトもいきなりの光景に驚きを隠せない。
「リュウジは拘束する」
「待ってよ父さん!!」
「シンジ!」
シンジの抗議の声を、リュウジは遮った。
「大丈夫だ。お前は行け」
「でも!」
複数の銃口を向けられてなお、リュウジは落ち着いた表情のままである。
「基地を預かる司令としては当然の判断だ。部外者で、なおかつ戦闘経験がある得体の知れない人間に、こんなに機密事項を見られまくってるんだ」
「その通りだ。悪く思うな」
「その上で頼む。シンジの戦いを見守らせてほしい。どうか…」
その次のリュウジの行動に、周囲は目を見張った。
「お願いします。この通りです」
お辞儀をしたのだ。
今までの兄弟のやり取りからは考えられないほど、綺麗なお辞儀だった。
「戦いが終われば、何をしても構いません。何卒」
「だめだ。本来ならば、今すぐ射殺しなければならん事項だ。拘束で済むだけ、ありがたいと思え」
「父さん!!」
シンジはなおも食い下がる。
「おじさんは秘密を言いふらすような、そんなことをする人じゃない!」
「シンジ。お前は早く出撃の準備をしろ」
だがゲンドウは、冷たくシンジに言い放った。
「シンジ。ここはゲンドウの言う通りにしろ。実際、急いだ方が良さそうだ」
リュウジのその言葉に、反応したかはわからないが、強い振動がドックに響き渡る。
「奴め、ここに気づいたか」
「碇司令」
ここでミサトが割って入った。
「彼をネルフに招き入れたのは私です。彼の身柄は、私に預けていただけないでしょうか」
「君に預けてどうなる。いざという時、君だけでこいつを抑えれるとは思えん」
「それは、ここにいる者たちでも同様と思われます。恐らく、彼の戦闘能力は、今ネルフにいる誰よりも秀でた物と思われます。ならば、我々の勝利の確率を少しでも上げるため、彼をアドバイザーとして、司令室にお連れしてはいかがでしょう」
その様子をリュウジは、ただ傍観していた。
実際、ミサトの言う通りだった。その気になれば、単独ならこのネルフから脱出するなど、彼には造作もない。
「幸い彼は、碇司令の弟です。他の職員にも事情を話せば、突然司令室に来たとしても、問題はないはずです」
「……よかろう。葛城二佐、好きにしたまえ」
その言葉にミサトは、礼を言いながら頭を下げた。
「聞いての通りだ、リュウジ。お前の身柄は葛城二佐に預ける。何かあれば、彼女は厳罰に処される。覚えておけ」
そう言って、ゲンドウは立ち去っていった。
それは、許可と同時に脅しであった。もし、リュウジの戦闘能力に任せて、暴れるようなことをすれば、『無理を言って』ここまでしてくれたミサトに、全ての責任を取らせるという、先のリュウジの言葉に対する皮肉でもあった。
「葛城さん。ありがとうございます」
ミサトはまたもや面食らった。先程あれ程のプレッシャーを与えてきた存在が、素直に自分に感謝の意を向けているのだから。
「いえ、礼には及びません。あなたの戦闘経験をシンジ君や私にご教授ください。そうすれば、シンジ君の生存確率も上がりますし、我々の勝率も上がります。シンジ君」
ミサトは今度はシンジに声を向ける。
「急にこんな目に遭わせた私達を、信用してなんて言えない。でも、リュウジさんなら、あなたも信用できるわね?」
「ミサトさん」
「さっきも見たと思うけど、私なんかより戦闘に関してはプロだわ。だから、いざという時は、リュウジさんの言うことを守りなさい。遠慮しないでいいわ」
今の言葉を聞いて、リュウジはミサトを見誤っていたと思い知らされた。
ミサトの彼の第一印象は、未熟な小娘、という酷い物であったが。その未熟なりに、自分に足りない物、できない事は、それが十分備わっているものを頼る。それが何の躊躇もなく出来るのは、長所である。
加えて、自分はどうだ、と考える。彼女達より、戦闘に秀でているだけで、果たして自分は未熟でないと言えるか。答えは否だ。
「シンジ、エヴァに関しては、この二人が専門家だ。俺は戦闘、葛城さんと赤木さんはエヴァに関して、お前をサポートする。だから、この二人の言うことも、しっかり聞き入れて、自分で考えて行動しろ」
リュウジは最低限の、戦場に立つ心構えだけは伝えとこうと思った。
「戦場じゃ、考えなしが真っ先にやられる。無論指示に従うのも大事だが、実際に戦うのはお前だ。常に相手を見て、どんな変化も逃すな。その為には、常に頭をフル回転させろ。いいな?」
「わかりました」
「頼むぞ」
そう言って、リツコに伴われていくシンジを送り出した。
「行きましょう。こちらです」
「お願いします」
そしてリュウジは、ミサトに伴われ司令室へ向かう。
リュウジのモデルは、映画イコライザーに出てくるロバート・マッコールです。
善人でありながら、狂人であり、トラウマを抱えている。そんな魅力的なキャラです。
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