新世紀エヴァンゲリオン-And become Joseph- 作:さえもん9184
もっとコンパクトにまとめたかったんですが、難しいです。
専用の隔離部屋に、シンジをはじめとするエヴァパイロットたちは各々通されていた。
簡易的な二段ベッドがしつらえられた、牢屋にも見えるカプセルが三つ、ひときわ大きな部屋に一緒くたに安置されおり、その中央には不気味な黒い塊が異彩を放っていた。
「あれは……」
「……爆薬よ。だいぶ量が増えたわね」
カプセルの入り口に立ち、眺めているシンジの言葉に、アスカが静かに答えた。
「アタシ達もいつリュウジやアンタのようにインパクトのトリガーになるかわからない。そのための、リリンの保険よ」
「……そっか」
リュウジとは打って変わり、シンジのヴィレ内の扱いは格段に緩和されていた。
決められた場所であれば出入りは自由となったし、アスカやマリと同行していれば艦内は歩き回る許可が出ていた。
その原因は勿論、リュウジが怨嗟の念を一身に負っているからに他ならない。
そのことに対し、忸怩たる思いを抱えているが、シンジはひとまずあてがわれたカプセルへと入ろうとする。
「……訊かないの?あのこと」
「アスカが話したくなってからでいいよ。……ボクだってバカじゃない。ある程度見当はつく。それに……」
シンジは壁に寄りかかるアスカに、柔らかな笑顔を向け、
「14年前。ボクが好きになったのは、まぎれもなく、今目の前にいる君だよ。アスカ」
迷いなくそう言った。
「……やめて」
「そうだね。ボクと違って、アスカは大人になった。ボクの好意は、所詮幼稚な恋心だ」
そうしてシンジは、自分のカプセルへと入っていった。
(……違う。そうじゃない)
アスカにとって一番の問題は、式波シリーズとして作られるにあたり、シンジへの好意を持つように作られた、この人造の恋心だった。
(どうして人を好きになる心すら、自由にできないのよ)
だがシンジは、今でも真っ直ぐに自分への好意を持ってくれている。恐らく全てを話しても、アスカへの好意を無くすことは無いだろう。
だがその好意を受ける資格があると、彼女自身が素直に思えなかった。
シンジへの負い目として、リュウジと言う家族を奪う事になってしまったからだ。
何故リュウジがフォース・インパクトを起こしてまで、オリジナルを助けようとしたのか、
(アタシが、あんなこと言ったから……)
―――アンタ、伝説の軍人なんでしょ。世界中が、アンタの手中にある。なのに、アタシを……助けてくれなかったじゃない―――
最初に訓練を受けた日の夜、思わず吐露してしまったリュウジへの理不尽な恨み。
―――約束させてほしい。この先、もし君が助けを求めたら、何が何でも駆けつける。そして君を守る―――
それでもリュウジは、約束してくれたのだ。
「必ず守る」
と。
その後、リュウジは己の情報網から、彼女の出生の秘密を早期に知ったであろうことは、アスカとて想像に難くなかった。
事実、冬月にゼーレの存在をリークされる前より、式波、綾波、両シリーズの存在をリュウジは察知していた。
そうしてようやくオリジナルの所在を嗅ぎ付け、ただ助けるためだけに世界を崩壊させようとした罪を背負ったのだ。
だがここまでしてなお、リュウジ自身がアスカへの罪悪感を拭えていない。
ユーロネルフでリュウジがジュニアとして言い放った、碇リュウジへの恨み節は、演技もあっただろうが、他でもないリュウジ本人のアスカへの罪の意識の表れだった。
自身の幼稚な恨みの念が、リュウジにここまで罪悪感を持たせてしまったのだと思うと、余計にアスカの心に後悔を刻んだ。
※
「……改めまして」
隔離室に入ったリュウジは、サクラとミドリに深々と頭を下げていた。
「碇リュウジと申します。監視であるお二人の指示には、出来うる限り従います。何卒よろしくお願いいたします」
そんなリュウジの態度に、サクラもミドリも完全に面食らってしまっている。
なにせ、ゼーレやネルフが最大限の警戒をし、14年前に生存していれば世界はこうなっていなかったと多くの人間に言わしめるほどの男。
自分たちの上司であるミサトや、高雄が師として仰ぎ尊敬している人物。
その碇リュウジがどれ程の人物かと蓋を開けてみれば、見た目はまさに垢抜けない少年と言った風情、加えて誰もが、
「美少年」
と認めるほどの、整いあどけない顔立ちである。
加えてその物腰丁寧な言動を見ると、とても
「それ程の人物」
とはとても思えなかった。
だがここまで考えて、
「……ちょっと待って」
ふとミドリは思い至ったことがあった。
「14年前から、アンタ艦長やエヴァパイロット達と付き合いあるのよね?」
「ええ」
「14年前って、アンタ歳いくつだったのよ?」
「47歳でしたね」
その数字にミドリも、サクラも固まる。
「……つまり」
「47+14で……」
「「……61歳!!??」」
あまりの二人の声量に、リュウジは顔を一瞬顰めた。
「え…、ええ、まぁ。歳を数えればそうなりますね」
その事実により、先ほどまで両名が感じていた印象は一気に吹き飛んだ。
「ですがここでは年齢は関係ありません。私は使徒で、あなた方の監視対象。それ以上でも以下でもありません」
だがここにきてなお、リュウジは二人への丁寧な姿勢を微塵も崩さない。
「さてと……」
リュウジはゆっくりと部屋の内部を見渡すと、とある壁の一角で視線が止まる。
「……まったく」
そこの壁が面会用の、スモークの切り替えのできる仕様になっていることはリュウジはすぐに気が付き、向こうにいる気配も、
「マリ!!」
「にゃ!?」
すでに察知していた。
「面白かったか?先の見世物は?」
その言葉を言うが早いか、スモークがガラスに切り替わる。
ガラス越しにマリの瞳に、リュウジの若干不機嫌な顔が映る。
「いや~、楽しめた楽しめた。そっかぁ……」
先の仕返しとばかりに今度はマリが、ガラス越しにリュウジをまじまじと見る。
「教官ももう還暦越えかぁ。歳取ったもんだにゃ~。そっか、監視を一人増やしたのは介護の為かにゃ?ほらおじいちゃん?ご飯はさっき食べたでしょ?お薬の時間ですよ~にゃんて」
リュウジの不機嫌な顔など何のその、といった具合でマリは意地悪な笑みを浮かべ、鈴のような声でからかってくる。
そしてリュウジも、
「いいな、それ」
その笑みにつられ、ふとはにかんだ表情になる。
「そんな風に、歳とって、ボケるまで生きられたら、いいな……」
一瞬だが寂しげな瞳に染まったリュウジに、マリの笑みは一瞬で消え失せた。
「もし、それができたら、お前に介護してもらおうかな。マリ」
そしてふざけた口調を取り戻すと、今度はリュウジが意地悪な笑みを浮かべた。
それを見てマリは、
「ハァ~」
と息を吐くと、リュウジの後ろにいたミドリに目を向ける。
「遠慮しなくていいよ?アンタが、懐に忍ばせてるハジキを、この人に向けたってだ~れも止めやしないから」
その言葉にミドリは一瞬怯んだ。
「だけど、もし本気でこの人を殺す気なら一つアドバイス。銃は、この人には意味ないヨン」
「別に使徒に銃が効くと思ってるほど馬鹿じゃないわよ」
その言葉にマリは、チッチッチ、と指を振る。
「そう考えてる時点で、アンタじゃこの人は殺せない」
「ハァ?意味わかんない」
訳が分からず、マリの物言いに若干のいら立ちの言葉を返す。
「マリ、あなたは呼んでなかったはずだけど?」
そこにリツコが向こうの部屋の扉を開け立っていた。
「ゴミンなさ~い。どうしても教官に聞きたいことがあって」
「なんだ?」
その時マリの視線が鋭くなる。
「……14年前。ゲンドウ君が
その視線を無言で、だがひるむことなく、リュウジは正面から受け止める。
「それも含めて尋問するから、あなたは戻りなさい」
そのやり取りをたしなめるように、リツコが冷静にさせるべく声をかける。
「……りょーかい」
「……待ってください」
リュウジは静かに、立ち去ろうとするマリをとどめた。
「どうか、彼女にも聞いてほしい」
「それは……」
「14年前、私は彼女の手駒だった。にもかかわらず、私は彼女の意図しない事象により、その役目を全うすることができなかった。何があったのか、知る権利が彼女にはある」
そういいながら向けてくるリュウジの眼差しに、リツコは内心ため息をついてしまう。
(ホント、相変わらず真直ぐね……)
普通なら、
「そんな理由で」
と思わざるを得ない言葉である。
手駒として、ということは、何も知らされずに利用されるということである。
それができなくて申し訳ない、と思うこと自体がまず常人では考えられない思考である。
だがリュウジは、マリに利用されることを承諾していた。それは逆に言えば、マリのことを心から信頼していたのである。
それに応えることができなかったということは、リュウジからしてみれば、
「相手を裏切った」
と言う思考に行き着いてしまうのだ。
普通ではそこまで相手を慮ることはできない。
だがそこまでせずにはいられないのが、碇リュウジという男なのだ。
だからこそ、14年前あれほど短い期間で、リツコもミサトも、リュウジのことを心から信頼していたのだ。
「いいでしょう」
そこにもう一つ、人影が入り来た。
ミサトである。
「何を言うの?葛城艦長」
「いかにここで締め出しても、彼女がその気になれば知るところになります。―――マリ、あなたもここにいて構いません」
「さっすが艦長。話が分かるにゃ~」
「そのかわり、こちらが聞いたことには素直に答えてもらいます。いいわね?」
ミサトがリュウジに鋭く双眸を向ける。
ミサトの言葉に、リュウジは無言で頭を下げ、そしてゆっくりと頭をあげると、マリへと視線を向ける。
「マリ。君の考えている通りだ。14年前俺は、兄が俺を殺すよう仕向けた」
そう本人に断言されるまで、マリは正直自分の推察に半信半疑だった。
だからこそ、
「……どうして」
と、思わずこぼしてしまった。
あの時リュウジの存在は間違いなく、ゲンドウとゼーレに対する最も有効な抑止力であった。その抑止力がなくなればどうなるか。それはリュウジ自身が、最もよく理解しているはずだった。
「全ては、俺の見識の甘さゆえだ」
「……え?」
「見誤ってたんだ。ゼーレの力を」
「そんなはずない。教官の力であれば、ゼーレとは少なくとも互角に……」
「そう、互角だった。表と裏、互いにどの状況においても伯仲していた。―――俺が想定していた以上にな」
そういうと今度はミドリへとリュウジは振り返った。
「北上さん。貴方がユーロネルフに来たとき、恨みの念を向けられたのを覚えていますか?」
いきなり話を振られ、更に彼女にとって衝撃だった、
「自分たちも加害者だった」
という出来事を思い出し、ミドリは明らかに動揺していた。
「お、覚えてるわよ。それが?」
「別にそのことを責めるつもりはありませんよ。―――では質問します。ヴィレとネルフ、あなたから見て、戦力ではどちらが上と見ますか?」
その質問の意図が解らず、ミドリは内心首をかしげるが、未だ半ば素人である彼女からしても、
「ネルフに決まってんでしょ。しかも、圧倒的にあっちが上」
と答えることは容易だった。
「そう。ネルフの方が明らかに上です。それほどの戦力差があってなお、その戦いに巻き込まれた犠牲者が数多くいる。―――さて……」
そういうとリュウジは再び、マリに向き直る。
「その圧倒的な戦力と、互角の俺の戦力がまともにぶつかり合ったら。どうなる?」
その問いかけに、思わずマリは固まった。
「俺が生きていれば、世界はこんなことになってなかった?……確かにそうだろうな。人と人、エヴァとエヴァ、使徒と使徒、その全てがぶつかり合う。結果、世界はコア化して紅くなるのではなく、生きとし生けるものの血で、紅く染まっていただろう」
「そ、そうかもしれないけど、それは相手だって解ってる」
「俺も最初は力の伯仲による冷戦を狙っていた。だが相手には、特にゼーレには相互確証破壊は通用しない」
リュウジは当初、ゼーレに対して自分が先頭に立ち、勢力の危うい均衡を保つ、嘗ての冷戦構造を打ち立てる計画であった。
そしてその間にゲリラ戦を展開し、ゼーレの力をそいでいく腹積もりだった。
「だが、相手の狙いはあくまでも人類補完計画だ。そのために、俺にそんな冷戦構造を立てられる前に、真っ向から力のぶつかり合いになってでも、俺を倒しに来るのは目に見えていた」
そうなれば、単純に伯仲した力のぶつかり合いになる。
しかもその力は、共に世界を滅ぼし得る程のものである。それがぶつかれば人類を、この星を滅ぼすほどの大戦になる。
だがそこまでしてなお、勝敗がどうなるかは完全に読めなかった。
「その大戦が始まった時点で、俺の負けだ。仮にゼーレを倒せたとしても、空も大地も汚染され、残った僅かな人類も、滅びを待つだけになる。だがゼーレが勝てば話は別だ、残った人類と、死んだ魂をまとめて、補完してしまえばいい。―――それで、
マリも、ミサトも、リツコも、リュウジがそこまで考えを巡らせ、思いつめていたことに完全に圧倒されていた。互角の力があればいいというわけではないという事を、まざまざと突き付けられたのだ。
「……それを防ぐには二つの方法があった。一つは、機先を制しゼーレを完全に滅ぼす。―――二つ目は、……俺が死ぬことだ」
どちらかの勢力の頭が滅べば、おのずとその勢力は瓦解していく。
特にリュウジ側の戦力は、リュウジがいてこそ成り立っていた。
だからこそ、
「俺は、後者を選んだ」
リュウジは賭けに出たのだ。
「だからって、あんなことしなくてもよかったじゃん」
旧ネルフの面々や、子供達の目の前で死を演出する。
それはある意味で最も残酷な偽装工作だったと言える。
「ゼーレだけでなく、世界に向けて俺と言う
ただ死ぬだけではなく、使徒に浸食され、粛清されたという有様が、リュウジが持っていた力を完全に消失させたのは事実であった。
「そして、俺が瀕死の状態に陥っている間に、使徒の浸食をワザと進め、最後の戦いに臨む決断をした」
その決断はリュウジとしては珍しく、かなり危うい賭けだった。
だがそこまで勝ち目のない賭けで無かったのも確かであった。
以前囮として、『棺桶』に乗った時かなりの重傷を負いながらも、リュウジは生きていた。そして完治するまでに、使徒の浸食は進んでいた。
「だが少なくとも絶対に、俺が死を偽装したということがばれてはならなかった。―――そこで、俺は兄を利用した。兄の前に、
リュウジの思惑は成功した。
碇ゲンドウは、公衆の面前で、誰にも咎められることなく、堂々と弟を殺すことができたのだ。
ここまで聞いて、リュウジ以外の全員が彼の話に聴き入っていた。
ただ目の前の敵とどう戦うか、としか考えられない自分たちとは違い、その戦いが後にどう影響をもたらすか、その結果世界がどうなるか、そこで人がどう感じどう動くか、その先まで見通し、世界全体を考えた、
「本物の戦略」
であったからだ。
「……いくつか質問させてもらいます」
ミサトは心が震えながらも、声を絞り出すように話す。
「どうぞ」
「あの後、あなたの遺体はネルフに回収されていたはず。どうやって、取り返したの?」
「もともと、ネルフに回収される前に。とある人物に俺の死体の回収と、隠蔽を頼んでいたんです」
「その人物が、時田シロウ?」
「いえ、加持さんです」
再度ミサトに衝撃が走った。
だが同時に納得もできた。加持からリュウジの死体についてなど何も聞かされてなかったが、確かに加持であれば、ゲンドウは基より、ゼーレの眼を掻い潜れたとしても不思議ではない。
「加持に、……全て話していたの?」
「……はい」
だがミサトとしては、その一点が引っ掛かる。
いや、乱暴に言えば、
「気に食わない」
と思えてならないのだ。
無論、その手の工作が、加持の得意分野であることはミサトは百も承知である。
情報を隠蔽することを考えれば、自分に話さない理由も解る。
だが解るが、納得はできなかった。
「私は、そんなに頼りなかったですか?」
「申し訳ありません。ですが前述したとおり、俺の偽装工作がばれることは是が非でも避けたかった。また兄としても、俺の死体が消えたなどとは公表できなかった。そうなれば、どこかで生きていて、再起を図ろうとしている、とよからぬ噂が立ちかねませんからね」
実際にその通りで、リュウジの死体は今の今までネルフに回収されていたと思い込んでいたのだ。
その思惑を読み取り、リュウジは死体がネルフの元に無いことを、ゲンドウ自身で隠蔽させることができたのである。
そしてそれがゆえに、剣崎がリュウジの影となっていたことにすぐに気付けなかったのだ。
「その後加持さんは、時田さんと剣崎に俺の死体を任せ、あなた方と合流し、……ここからは、あなた方の方が詳しいでしょう?」
その後、加持リョウジは、サード・インパクトを阻止するために、犠牲になった。それはミサトやリツコに、全てを託したという事もあるが、加持は信じていたのだろう。必ずリュウジが再起し、碇ゲンドウと対峙することを。
「剣崎キョウヤは、全て知っていたの?」
「直接話してはいませんが、剣崎にはこういっていました。『碇ゲンドウのどんな指示にも従え』と」
恐らく剣崎はそのリュウジの言葉で、自分がいずれゲンドウの手先として、リュウジを殺すことを悟っていたのだろう。
そう考えると、剣崎の14年前の立場はかなり複雑なものだったのだと、ミサトは思い至たり、
「誰の駒になり、使い捨てられていくのか。それだけは自分で決めます」
という言葉が如実に蘇った。
剣崎はリュウジの駒として、ゲンドウの手先になっていたのだ。
周りにはあくまでゲンドウの手先として振る舞いながら、悟られないようにリュウジの思惑を遂行する、という立場がばれぬよう、細心の注意を払っていたのだろう。
「そして私を守る為に、剣崎は囮になった。私の死体を血眼になって探していた兄に対して、剣崎は自分が死体を持っていると偽の情報を掴ませ、……そして捕まった」
その後ゲンドウはリュウジを、剣崎を元に複製させた。
いずれシンジが目覚めた時に、良いように利用する為と、ヴィレの面々に対する牽制として利用するために。
「これが、私が14年前に仕組んだ大まかな全容です」
「……ま、教官がそこまで考えていたことは、理解してあげる。だけどさ、アンタのデモンストレーションを目の当たりにしたアスカがどれだけ思いつめてたか解る?」
―――起動実験の時、リュウジのいう事を聞いてれば、リュウジは死ななくて済んだのよ―――
―――アタシが大好きな人が守りたい人が、目の前で死にかけてた時、……アタシは、何もできなかった……―――
「ああ、彼女を、結果的に傷つける結果になってしまった」
「そうなるとわかって、アンタはこの計画を実行したの?アスカに愛してるって言ったの?」
「そうだ」
『ドォン!!』
マリはリュウジに向かって、ガラス越しに拳を叩きつけた。
「……ふざけんな。アスカだけじゃない。シンジ君も、レイも、ここにいる艦長や副艦長も、高雄のオッチャンも、皆どれだけショックを受けたか解るでしょ?」
マリも理解はしていたが納得はしていなかった。
「だから言っただろう。俺は最早地獄に落ちた程度では、罪は贖えないほどの罪人になったと」
だがリュウジはすでにマリにも、アスカにも、シンジにすらも蛇蝎の如く嫌われることを覚悟している。
世界と言うリュウジにとっては実にくだらないものを存続させるために、愛する大切な者達を捨てたのだ。
これは、セカンドインパクト直後、世界のパワーバランスを取り戻すために、リュウジが歩んできた道でもあった。
「この!!」
その態度にマリは、ガラス越しであるにもかかわらず、思わずリュウジに掴みかかろうとしてしまう。
「マリ!落ち着きなさい!」
なんとかミサトが後ろから羽交い絞めにするが、それでもおさまらない。
「アタシが知ってる教官は、一度愛した人を傷つけるようなことは絶対にしない!」
「マリ!いう事が聞けないなら、ここからの退去を命じます!」
ミサトの言葉になんとか落ち着くも、息は荒いままである。
「……マリ。許してくれなんて、俺にはいう資格はない。だがこうでもしなければ、君の受け継いだものは、水泡に帰す」
だがリュウジのその言葉に、マリの肩は上下するのを忘れた。
「君の言う通り。俺は、シンジも、アスカも、レイも傷つけた。あの子達に合わせる顔が無い。だからこそ、後は君に任せる。俺の代わりに、守ってくれ」
マリはその言葉ですべてを察した。
リュウジがなぜ、シンジ達を傷つけかねないような策に打って出たのか。
それはひとえに、形の違いはあれど、ユイの遺志を継いだ者同士として、マリと言う存在がいたからだ。マリがいれば自分などいなくとも、必ず子供達を守ってくれる。
自分が子供達に嫌われたとしても、代わりにマリがいる。
それこそがリュウジの覚悟を後押ししたのだ。
唯一の恩師が、ここまで自分を信頼してくれている事を目の当たりにし、マリはぶつけようとしていた怒りが瞬く間に消えてしまったことを感じていた。
なんとか伏線を回収するために、今までの話を自分で何回も読み返してます。
それを読むと、書き方が変わってるのに少し驚きました。
ご意見、ご感想をお待ちしております。
誤字脱字等ございましたら、お手数ですがお知らせいただけると幸いです。
これからも応援よろしくお願いします。