新世紀エヴァンゲリオン-And become Joseph-   作:さえもん9184

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前回の話が長くなってしまったので、コンパクトにしようとしても、どこを省くべきか結局迷ってしまいます。

特に心理描写が多いお話ですから、どこが贅肉なのか書いているうちにわからなくなります。


Sin-思いの丈を重ねて-

「皮肉だな……」

 

「教官?」

 

「子供達を守りたい。―――そう思い立って、力を求めたってのに。結局、その力はあの子達を守ることはおろか、傷つける事しか来なかった……。俺はただ、普通の幸せを、得てほしかっただけなんだけどなぁ」

 

その時の、リュウジの自嘲する笑みに、彼の、

 

「あの子達が普通の幸せを得られる世界に変えること」

 

という赤心を知る者達は、胸が詰まった。

シンジを守りたいと思いながらも、結局はエヴァに乗ることを止められず、

レイに温もりを知ってほしいと願いながらも、その温もりが故にレイに戦う決意をさせてしまい、

アスカとの約束を守ろうとしたが故に、アスカをより傷つける結果になってしまった。

世界を掌握せんとするほどの力を得ながら、子供達を守ることができず、ゼーレへの有効手段ともならなかった。

 

「俺の願いは、随分と贅沢なものだったらしい」

 

リュウジの言葉には、彼の無念と、無力感が如実に表れていた。

 

「……だが、結局は自業自得だ。俺自身が、本当にやるべきことから逃げていたんだから」

 

そういうと、今度はミサトに体を向け、深く頭を下げた。

 

「その挙句、俺はあなたに全てを押し付けてしまいました。……あなたが、葛城ミサトがいるから大丈夫だと、甘えてしまった」

 

ミサトはいきなりのリュウジの謝罪に、眼を、そして耳を疑った。

 

(この人は……何を謝っているの?)

 

そう思わずにはいられなかった。

 

「本来なら、俺がもっと早くに、ゲンドウと……兄と向き合っていれば、こんなことにはならなかった。弟として、兄の悲しみに少しでも寄り添う事こそ、俺の責務だった。にもかかわらず、ただ兄を恨み、父親としての責務を迫るばかりでした。……それが、シンジを追い詰め、兄をこの凶行に走らせ、結局は……世界を破滅へ導いた」

 

そして、ゆっくりとリュウジは頭をあげると、ミサトの瞳を見つめた。

 

「……ですが、あなたはそんな世界の中で、皆を導き、今日まで多くの命を守った。俺は……」

 

「やめて!!!」

 

ミサトはとっさに、自分でも信じられないほどの声量で、リュウジの言葉を遮った。

 

「葛城さん?」

 

「私は何もできなかった!」

 

そして、思いの丈が彼女の中に一期に押し寄せていた。

 

「多くの命を守った?私はそれ以上の犠牲を出した!皆を導く?シンジ君に責任をなすりつけて、組織の体裁をなんとか保っていただけ!!それでも……、これだけ、戦っても、私は……」

 

ミサトは血が滲まんばかりに、拳を強く握っていた。

 

「私は……、なにも変えられなかった」

 

そう口をこぼすと、今度はミサトから、リュウジの瞳を見つめる。

 

「負ける度に……、逃げる度に……、私がどんな気持ちだったかわかりますか?

『あの人なら……、碇リュウジならこんな采配はしなかった。リュウジさんがいれば……こんな結果にはならなかった。私なんかではなく、あなたが指揮官であれば、こんな状況にはなっていなかった』

……そんな不甲斐無さが、私の心の内から、体中を突き刺すみたいに、溢れてくるんです」

 

だが遂に直視できなくなり、ミサトは顔を伏せ、体を震わせるばかりとなる。

 

「あなたは、いつも正しかった。でも一つだけ、間違っていた。

『あなたは、私以上の指揮官になる』

……何ですかそれ。もしそうなら、とっくにネルフに勝ってた」

 

ミサトの中に巣食っていたモノが言葉となって、まるで呪詛のように溢れ出た。

ヴィレを率いて、ミサトは14年間戦ってきた。

その最中、リュウジへのコンプレックスが晴れたことなど一度もなかった。

むしろそれは戦う度に、強くなっていた。

リュウジのような戦略眼も、経験もない、ならば上に立つものとして、毅然とした態度を崩すまいと、最初のリュウジの教えを守ろうと死物狂いだった。

だがその教えこそ、ミサトの心を蝕んでいった。

負けたとしても、多くの犠牲者が出たとしても、その態度を貫く、それがどれ程修羅の道かを思い知ったのだ。

何度も絶望し、何度も逃げたくなりながらも、ミサトはその重圧に耐え続けた。

だがその重圧にさらされる度に、

 

(リュウジさんは、これにずっと耐えて来たと言うの?)

 

と言う思いが頭をよぎった。

そうなれば、リュウジと自分を比較する事は、ミサト自身にも止めることなどできない。

だが同時に、リュウジから薫陶を受けた事実は、ミサトの支えともなっていたのも事実だった。

そうしてリュウジと言う呪いとも支えともなっていた存在が、今まさに彼女の口から呪詛となって現れていた。

 

「……そうですね。確かに間違っていた」

 

だがリュウジは、そんなミサトを突き放すかのような言葉を吐いた。

リツコもマリも、リュウジがこれ程冷たい言葉を吐くとは思わなかったため、思わず目を見張った。

だがそんな周囲に様子など眼中にないのか、リュウジは変わらず真っ直ぐにミサトを見つめていた。

 

「……14年前。懸命に責務を果たそうとするあなたに最初にあった時、私には夢が出来ました。

『この人に私のできる限りを教えて、私以上の指揮官にしたい』

『そして、その腹心となって、傍らで支えていきたい』

……ですが、それはおこがましい夢でした」

 

リュウジの言葉の意図が読めず、ミサトは呆然と聴き入っていた。

 

「葛城さん、勝ち負けじゃない。何度でも立ち上がり、皆で生きるために、最善を尽くすこと。それこそ、上に立つ者の責務です。……あなたは皆を率いて、今日までそれを成し遂げた。それを、地獄に堕ちてでも、あなたは成し遂げた。―――葛城ミサトは、最初から、

『最高の指揮官』

だったんです。そしてその傍らには、私以上に相応しい腹心がいる。―――最初から、私等必要なかったんです」

 

リツコは、リュウジからの言葉に胸が熱くなるのを感じた。

 

「確かに、子供に責任を押し付けるなんて、犬畜生にも劣る、と私は言いました。ですが、そうなってでも戦う覚悟を決めたあなたに、私が何を言えるというんです。そんな資格はない」

 

この言葉に、それまでミサトの心を占めていた呪いが、徐々に晴れていき、それに比例するように、その眼には徐々に涙を湛えられていく。

その表情も、いつもの鉄面皮がウソの様に、みるみる崩れていった。

 

「ですが、もし、何か言えるとしたら、迷いなくこういいます

―――14年前。あなたに部下として仕えることができたのは、私の人生におけるこの上ない喜びです」

 

上に立つ者にとって、最も信頼し得る存在は、参謀、軍師と言われる存在である。

若くして、現場の指揮を執ってきたミサトにとって、リュウジはまさに参謀であり、軍師であり、何より師であった。

そんなリュウジに対して、ミサトはとても顔向けできない、不甲斐無い有様を晒してきたと、情けなさや、罪悪感をずっと感じていた。

だがリュウジは、ミサトへ惜しみなく尊敬と、感謝の念を示した。今日までの指揮官としての己を、リュウジが臆面もなく称賛したのである。

リュウジの言葉は、否が応にもミサトの心を昂らせた。

その昂りをこらえきれずに、ミサトは膝をつき泣き崩れた。ここにいる者の心を震わせる程の響きを持つ、やるせなさと歓喜とが入り混じった、叫びのような泣き声だった。

 

「ごめんなさい……、ごめんなさい……。わ、私っ……あなたみたいに、強く…なくって。いつも、……いつも怯えて……」

 

「俺は強くなんかありません。そう見えるのは、俺が怯えも、恐れも感じない化物に成り下がったからです。ですがあなたは人のまま、その身一つで、その恐怖と、正面から向き合ってきた。俺とは違う、人でいる事に耐えられなかった、俺とは……」

 

リュウジには、ミサトが感じて来た重圧が手に取るように解った。

思考を巡らし、最善を尽くしてなお、己の指示一つで多くの犠牲が出る。だがその犠牲を顧みる暇はなく、次の戦闘を見据え、毅然として指揮を執り続けなければならない。

その恐怖を、リュウジは別段耐えて来た訳ではない。狂気に染まることで、感じない事を選んだに過ぎない。それが故に、段々と人としての心は薄れていき、いつしかリュウジは、化物と化していた。

だからこそ、その恐怖に毅然と向き合ってきたミサトが、どれ程強い人であるかをリュウジは感嘆せずにはいられなかった。

 

重圧に耐えて来たミサトの心は、この瞬間報われた。この涙は、人としてその重圧と向き合って来たことの証左であった。

 

「ミサト……。大丈夫?」

 

膝をつき、泣き崩れるミサトに、リツコは静かに寄り添った。

 

「落ち着くまで休憩しましょう」

 

「そうね。―――まったく、あなたといい、リョウちゃんといい、ミサトの周りには、女を泣かせる最低な男しか寄り付かないんだから」

 

リツコの言葉に、リュウジは一瞬ハッとした。

だがその表情は次の瞬間には、消え失せていた。

 

「面目ない。いまの私では、涙を拭うハンカチも渡せません。……故に、あなたの涙も拭えない」

 

そう言われリツコは思わず自身の頬に触れ、自分も一筋の涙を流しているのに気が付いた。

それを隠し、拭うと、無表情を取り繕う。

 

「……すいません。私の見間違えのようです」

 

「……ええ」

 

リツコは自身のハンカチをミサトに渡し、ミサトはそれで顔を覆い、彼女に伴われながら一旦部屋を後にした。

 

(……加持さん。やはりあなたは、葛城さんを悲しませてしまったようです)

 

そんな二人を見送りながら、そんな事を一人ごちていると、

 

「……教官」

 

沈黙を守っていたマリが、静かに言葉を発した。

 

「あなたは、確かに化物かもしれない。でも、あなたはいつも、誰かの為に戦ってきた。絶大な力を持っていながら、その力を私利私欲に使ったことなんて一度もない」

 

「マリ……」

 

「他人がどう思うかなんて知らないけどさ。少なくとも私は、自分の為にしか戦わない人間より、誰かの為に戦う化物の方が、よっぽどマシだと思う。……だからさ、そう自分を卑下しないでよ。教官」

 

身も心も人ならざるもので無くなってでも、戦って来たリュウジも決して間違って無かったとマリは思う。

なぜなら、リュウジもまた多くを救って来たのだから。

彼の教えを受けた者が、未だに彼を慕っているのはその証左だ。

碇リュウジが、自分自身に対して何も出来なかったと、忸怩たる思いを持っているのは仕方がないとは思う。

だがマリはリュウジに、今までなして来たことが、決して無駄では無かったと胸を張って欲しかった。

 

「……ほんっと。いい女だな。お前」

 

「でしょ?惚れた?」

 

「ああ。―――ありがとう」

 

「ンフフ。いいってこと」

 

リュウジはマリの厚意を素直に受け入れた。

そんな表情が、リュウジのはにかんだ表情に出ていたが、徐々にそれが真面目なものに変わっていく。

 

「すまんがマリ、一つ頼みたいことがある」

 

その雰囲気を感じ取り、マリの表情も引き締まった。

 

「この後は、俺の身体の事か、エヴァの事を聞かれると思う。それにあたっては、どうしても俺の使徒としての力が関わってくる。そこでだ……この船にいる、ある人を、ここに来るよう便宜を図ってほしい」

 

「理由は?」

 

「俺よりも、この使徒の力に詳しいはずだからだ」

 

「……ニャるほど」

 

その言葉だけで、マリは合点がいった。

 

「任しといて、艦長に言っとく」

 

マリは立ち上がると同時に、スモークに切り替えるとその部屋を後にした。

 

 

ミドリも、サクラも動揺が未だに収まらず、リュウジの後姿をただ見つめるしかできなかった。

冷徹なイメージしかなったミサトが、あれ程感情を露わにし、あまつさえ子供の様に泣きじゃくる姿に二人の精神は完全に混乱していたし、いつも飄々としていたマリが、怒りを露わにしたかと思えば、先程のような真摯な態度を見せるなど、今まで抱いていたイメージが一気に塗り替えられることばかりであった。

 

「……今お二人は、かなり混乱していると思います」

 

そんな二人に、リュウジの声が突如鼓膜をたたく。

 

「ですが重ねてお願いします。私といて、見聞きしたことは、絶対に口外しないでいただきたい」

 

気付けばリュウジは再度、二人に向けて深々と頭を下げていた。

ここに来て、二人はようやくリュウジの先の懇願の意味を理解した。

それと同時に、少年の見た目の皮を被った、老獪な男に、得体の知れなさを感じていた。

ミサトやマリが、半ば我を忘れ、醜態をさらすことを予期するずば抜けた能力と、この組織を維持するために、それらを口外しないことを、自分たちのような若造に心から懇願している懸命さが、余りに乖離していたからだ。

 

「あなたは、こうなると解っていたんですか?」

 

だからこそ、サクラはそう聞かずにはいられなかった。

 

「……これぐらい読めなければ、上に立ち指揮する立場にいることは出来ません」

 

そう事も無げに言うリュウジに、得体の知れなさはより一層強くなった。

 

「誤解しないでいただきたい。私はここでどうこうしようなどという思惑はありません。……ただ知っていただきたいんです」

 

「知るって、何を……」

 

ミドリは混迷した表情のまま、リュウジに問う。

 

「葛城さんたちが、どれだけの覚悟をもって戦いに臨み、そして地獄に落ちる決心をしたのかを、どうしても、知ってほしかった」

 

実際リュウジの表情は、切実なものであった。

 

「これは、はっきり言って私の自己満足です。葛城さんたちは、自分たちの覚悟を理解してもらおうなどとは考えていない。そんなものは、それこそ自己満足でしかありません。ですが私は、その覚悟が知られることもなく、全てが終わっていくことには耐えられなかった。あの人たちの覚悟に、泥を塗ることになりますが、何も報われずに終わるのは、全てを押し付けてしまった私には、とても耐えられませんでした」

 

目の前の戦う必要のなかった、違う未来を歩むべき若人達に、リュウジは戦う覚悟など持ってほしくなかった。そんな修羅の道を、そもそも歩む必要のない者達だからだ。

だがそれがどれ程のものか、知らずに終わっていいとも思えない。

 

「あなた方に理解してほしい、等と言うつもりはありません。ただもし、何か感じられたのなら、それを大切にしてほしい。誰かに話すも、記録するのも自由です。その感じたものは、決して無駄にはならないはずです」

 

リュウジは、ただゲンドウを恨むことしかしなかった。彼が何を感じていたのか、知ろうともせずただ、恨むだけだった。

眼の前の若い二人に、自分と同じ轍は踏んでほしくなかった。

 

 

「落ち着いた?」

 

「……ええ、ありがとう。リツコ」

 

二人はヴンダー内の、種子保存区画に来ていた。

人気もなく、現在の醜態を隠すにはうってつけだった。

 

「……それに、スッキリしたわ」

 

実際にミサトは、心が久しぶりに軽くなっているのを感じた。

リュウジに直に会うまで、ミサトのその心はある種の恐怖に支配されていた。

それは、先にリュウジの影武者とされていた、剣崎に対して放った言葉に如実に表れていた。

その上、リュウジの家族であるシンジに、非道ともいえる仕打ちをしてしまった。

初対面の際に、あれ程激昂したことを考えれば、今この時となれば、呆れ果てられてもおかしくないと思っていた

だがリュウジは、ミサトを称賛した。その覚悟を認めたのだ。

 

「にしても、リョウちゃんが、リュウジさんと組んでいたとはね。気付かなかったわ」

 

「そうね。人類という種の存続は、あの男にとっては大した問題ではなかった。にもかかわらず、リュウジさんの策には乗った」

 

「人の力では、補完計画の阻止は不可能。リョウちゃんはそう考えていた。でも、碇リュウジと言う化物であれば、それが可能と考えたのか」

 

それでもまだ、胸につかえるものはあった。

加持がリュウジの依頼の元、秘密裏に工作活動をしていた事実は、二人にとってはまさに寝耳に水であったからだ。

 

「あのリョウちゃんも味方に引き入れていたとは、相変わらずの人誑しね、あの人は」

 

その時、リツコの通信機がなった。

 

「高雄機関長?どうかした?」

 

『ユーロネルフの、時田シロウより通信が入りました。今後は全面的に、我々の傘下に入るとのことです』

 

「そうでしょうね。今やまともな戦力は、あちらにはないでしょうから」

 

『ではこのまま』

 

「ええ」

 

そう言ってリツコは通信を切った。

 

「聞いていた通りよ」

 

「結構」

 

そうして尋問室に戻ろうとすると、

 

「あ、お二人ともやっぱここにいた~」

 

マリが声をかけてきた。

 

「どうしたの?」

 

「監視対象が、今後の尋問において、証人の同席を要求してきたので、そのご報告を」

 

監視対象とは無論リュウジのことである。

 

「証人?」

 

だがリュウジが同席を要求するような証人に、全く心当たりのなかった二人は心の中で首をひねった。

 

「いったい誰の事?」

 

「……渚カヲル」




ミサトさんは、ずっと苦しい思いをしてきたと、私は独自解釈しています。

それを少しでも吐き出してほしい、そんな思いで書きました。

ご意見、ご感想をお待ちしております。

誤字脱字等ございましたら、お手数ですがお知らせいただけると幸いです。

これからも応援よろしくお願いいたします。
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