新世紀エヴァンゲリオン-And become Joseph-   作:さえもん9184

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投稿間隔は長いままだし、コンパクトにまとめられないし、さらに話が進まないと言う……。

今年中に完結させられるか不安です。


Sin-過去からの代償-

リュウジがこんな場において、冗談を言うわけがない。

だがリュウジの言葉を受け入れるには、本人とカヲル以外には暫しの時間を要した。

 

「渚カヲル……。私が貴方に確認したいことは一つです」

 

そんな周囲を顧みることなく、リュウジはカヲルにどこか懇願しているかのように問うた。

 

「……私が、事前に終わりを選べば……その補完は、回避できますか?」

 

そしてカヲルはまさに、その懇願を受けたのだ。

リュウジの、

 

『どうか自分が終わるだけで、その災禍が立ち消えてほしい』

 

という切実な懇願を。

そして同時に、カヲルはそれ以外の災禍の方策を知りえなかった。

そんな思わず泳いだカヲルの瞳を、リュウジは見逃さなかった。

その瞬間、リュウジの切実な表情は、安堵のものに変わった。

 

「そうですか……。よかった」

 

そこに死という言葉はなかった。

だがその場にいる誰しもが、リュウジが死を受け入れようとしていることを、その穏やかな微笑みの奥より悟った。

 

「まってよ……」

 

だがシンジだけは、うめくように待ったをかけた。

 

「何か方法があるはずだよ。使徒から、人間に戻れば……」

 

「シンジ」

 

だがリュウジは、静かにシンジを言い聞かせるように見つめていた。

 

「……それは現状では無理なんだ」

 

「どうしてそう決めつけるんだよ。何か、何か方法が……」

 

「赤木博士がこの14年間、アスカを元に戻そうとしなかったと思うのか?」

 

その時シンジは、申し訳なさそうに、俯いていたリツコがその眼に映っていた。

 

「……それにな、これは受け入れなければならないことなんだ」

 

「受け入れるって……そんな」

 

シンジの胸には、リュウジへの不満にも似たやるせなさが満ちていった。

 

「おじさんはいっつもそうだ。ボクらには生きろって言いながら、自分のことはないがしろにして……」

 

「今回は、そういう生き死にの問題じゃない」

 

「じゃあなんだって言うんだ!」

 

「代償の問題だ」

 

ここに来てなお、リュウジの表情はシンジを宥めるような穏やかなものだった。

 

「俺はおこがましくも、身の丈に合わぬ力を求めた。その代償を、俺自身が払わなくてはならない。―――世界を滅ぼすか……自ら死を選ぶか」

 

シンジは愕然とした。

生き残る事こそが何よりの戦果であると何度も言ってきたリュウジが、はっきりと自ら死を選ぶことを断言したのだ。

 

「それにな、俺は君に最初にあった時から、こうなる事は覚悟していた」

 

「どういう事?」

 

リュウジはポツリポツリと、思い出すように話し出した。

 

「君は、俺と最初にあったのが、襲われたあの日、今から19年前だと思っているだろうが、本当は違う」

 

「え?」

 

「最初にあったのは、君がまだ三歳のころ。君の母親、ユイさんの実験室に俺が訪れた時だった」

 

いきなり母の名前が出たことと、思いがけない事実にシンジは明らかに動揺していた。

 

「俺が人体実験を受けた後、当然俺は自身の身体の異変に気が付いた。徐々にではあるが、眠れなくなり、身体能力も少しづつ上昇していった。―――何より、己の身体が何か別のものに少しづつ書き換えられていく感覚。……正直それまで何度もモルモットになったことはあるが、明らかにあの実験は違った」

 

そこでリュウジは、その当時彼のできる限りを駆使してその実験の実態を調べた。

だがリュウジをもってしても、調べきることが出来ず、何を埋め込まれたのかは解らずじまいだった。

 

「だが一つだけ、出資していた会社に行きあたってな。無論ペーパーカンパニーだったが、その会社の名義でもう一つ、ある実験に出資していることを突き止めた。―――その実験の責任者に、君の両親が名を連ねていた」

 

「まさか……」

 

リツコは思わず声を漏らした。

 

「ええ、後にわかりましたよ。―――ユイさんは、エヴァの初期型制御システムの発案者で、兄と共にエヴァンゲリオン建造のプロジェクトを進めていた」

 

だが当時はその情報がゼーレによって何重にもブロックされ、その存在を知る由もなかったリュウジでは、その概要は知ることが出来なかった。

 

「まだ兄との軋轢があった俺は、タイミングを見計らってユイさんだけに会った。俺が知りうる概要を話し、緊急ではあるがそこに居合わせてた同僚と共に、俺を調べてくれたよ」

 

「ちょっといい?」

 

そこでミサトは一つの疑問が浮かび、思はず口を挟んだ

 

「あなたが使徒に浸食されていることを理解したのは、ネルフに来てからよね?」

 

「ええ」

 

「だとしたら、ユイさんでも当時はその浸食が解らなかったというの?」

 

ミサトもユイがどのような人物かは知る由もないが、エヴァ開発における責任者の一人であるならば、リュウジが使徒に浸食されていることを見抜き、それをリュウジに伝えたはずである。

 

「結論からお伝えすれば、ユイさんはそれを理解していました。ですが、私に敢て伝えなかったんです」

 

「どういうこと?」

 

「私を駒として利用する為」

 

それはリュウジが、各国の急所を押え支配する方法と同じであった。

リュウジが最も知りたい急所を押え、自らの手駒としたのである。

 

「あなたは、それを受け入れたというの?」

 

ミサトからしてみれば、リュウジが素直にその支配を受け入れたことに合点がいかなかった。

百戦錬磨の諜報員でもあったはずのリュウジが、いざとなれば支配下から脱出できないとは思えなかったのだ。

 

「まぁ、側から見れば理不尽ですね。ですが、あの時駒にならなければ、私はそのまま蚊帳の外でした」

 

無論それだけが理由では無かった。

リュウジにとっては、その時シンジに出会ったことこそが、何よりも重要だった。

 

 

25年前

 

ユイはリュウジから採取した体組織と、遺伝子情報を目の当たりにして、即座に理解していた。

そしてその様を、リュウジは固唾を呑んで見つめていた。

ユイの表情は、明らかに動揺していた。

 

「ユイさん?」

 

「……ごめんなさいリュウジさん。これは……」

 

その時、ユイは二つの事に動揺していた。

一つは、目の前の義弟が、世界初の完全に使徒と同化が成功した存在だという事。

もう一つは、この事実を義弟の急所として隠蔽し、これから起きてしまう事に利用できるのではという、おぞましい考えを自分がしていたからだった。

 

そんな時だった、

 

「お母さん?」

 

リュウジは思わず声の方向に視線を向けた。

そこには、年端もいかない、かわいらしく、どこか義姉に似ている男の子がいた。

 

「シンジ!向こうに行ってなさい!」

 

普段声を荒げない母親の、不安定な口調に、シンジは思わず身をすくんだ。

リュウジはその男の子が、自分の甥であることを理解した。

 

「ほら、シンジ君。お姉さんと向こうに行こうね」

 

ユイの後輩に連れて行かれるシンジから、リュウジは再びユイに視線を戻す。

 

「ごめんなさい、リュウジさん。……どうか、……何も聞かずに、帰ってくれませんか……」

 

その言葉と表情を見たリュウジは、目の前の義姉が何を考えているかは解らなかった。だが、何を自分にしてほしいかは理解した。

 

「……あの子を……、シンジ君を守りたいんですね?」

 

その言葉に、ユイは思わず目を見開いた。

 

「よく戦場で、子供を連れて途方に暮れている親が、今のあなたのような眼をしていましたから」

 

それならば、リュウジには構わなかった。

ゆっくりと立ち上がると、リュウジは柔らかな微笑みを浮かべた。

 

「言ったじゃないですか。―――願わくば、あなた方家族に幸せが訪れ、俺が、野垂れ死にますように―――って」

 

そのリュウジの言葉と表情に、ユイは俯いてしまった。

余りに申し訳なく、そして真摯なリュウジの思いを、直視できなかった。

 

「ごめんなさい、……ごめんなさい、リュウジさん」

 

「大丈夫。―――今この時より、私はあなたの手駒となった。そのために必要なことは、『need to know』の原則です。故に、私は何も知らないし、何も聞きません」

 

リュウジはこの時理解した。

ユイの手駒になれば、自分は心だけで無く、身体までも人ではいられなくなる。

そして、人間に戻る事は、諦めなくてはならない。

だがユイの苦悩を目の当たりにした今、それを知らぬふりを、リュウジにはできなかった。

 

 

「シンジ、ユイさんは心からお前を愛していた。だがいずれ、自分に死が訪れることを理解していた。だから俺を利用した。……残酷と思うかもしれないが、その思いだけは確かだった」

 

ユイが自身を利用してまで、年端もいかぬこの甥っ子を守らなければならない。

それがどれだけの困難であるか。

セカンド・インパクトを経験しただけのリュウジには、およそ見当のつけられぬ理不尽がシンジを襲う。

それを考えれば、リュウジとしては自分が駒になることなど、

 

「どうでもよい」

 

という考えに至るのは、自明の理であった。

 

「それに実際、ユイさんは正しかった。使徒やエヴァ、ましてやゼーレの情報まで当時の俺にリークしていれば、即座に世界は混迷にきしていたことでしょう」

 

それこそ当時は、まだセカンド・インパクトの爪痕が色濃く残っていた。そんな中で、リュウジとゼーレが真っ向から対立する事となれば、世界はどうなるかわかったものでは無い。

 

「ではユイさんが亡くなった後、あなたを裏から動かしていたのが……」

 

「ええ、マリです。尤も、彼女は俺を手駒とするにはあまりに優しすぎた。それ故に、ユイさんの様に使い捨てるまでは出来ませんでしたが」

 

ミサトはリュウジの言葉に、どこか納得していた。

マリにとって、恩師ともなっていたリュウジを、彼女は手駒と言うよりは、志を同じくする同志として見ていた節があった。

 

「……どうして」

 

「ん?」

 

「どうしてそこまでするんだよ……、おじさん」

 

シンジは静かでありながら、半ば悲鳴を上げるように疑問を投げかけた。

 

「……悪いな。俺にはうまく説明できない。何と言えばいいか……。そうあの時、目の前で苦悩する君のお母さんを見て、感じたんだ。『君のことを、心から愛している』と。……その思いに答えないなんて、俺には許せなかったんだ」

 

だがシンジはある程度理解ていた、リュウジがどう応えるかを。

いざとなればどこまでも残酷になれる目の前の叔父は、一度守ると決めた存在に対しては底抜けに優しくなり、その為に自分など微塵も顧みない。

そんな人物だからこそ、世界を、そして他人を忌避していたシンジは、リュウジへ心を開いたのだ。

そしてそんな人物だからこそ、シンジは守りたいという想いが生まれ、強くあろうと決めたのだ。

 

「シンジ……これは、俺が選んだ戦いだ。……俺達が始めた混沌だ。俺には、それを終わらせる義務がある。それが例え、どんな終わりであっても、俺はそれを受け入れなくてはならない」

 

どんな理由があろうと、リュウジはこの混沌へと至るまで、何も知ることもなく傍観していた。

ユイの手駒になるためとはいえ、リュウジは世界がこうなることを選んだ。

 

「でも、その終わりに、おじさんはいないんでしょ?」

 

「……そうだ」

 

「だったらボクが戦ってきた意味なんてないじゃ無いか!!」

 

不意に立ち上がり、そう叫んだシンジの眼に、少しずつ涙が潤んでいった。

 

「ボクはアナタを守りたくてエヴァに乗った!」

 

「ああ。解ってる」

 

「解ってない!出なきゃ、そんな自分勝手なこと、言えるわけ無い!」

 

「そうだ。これは自分勝手な、俺のわがままだ」

 

立ち上がったシンジを見上げ、リュウジは続けた。

 

「『兄との決着』などと大層なことを言っているが、それこそ俺の我がままだ。……そして、俺が今望んでいるものもな」

 

リュウジは責任を感じていた。

戦う事でしか生きていることを実感できない、そんないびつな存在である自分が、シンジの人生を捻じ曲げてしまった。

シンジだけではない。『伝説の軍人』と言う存在自体が、多くの不幸を生み出してしまったのではないか。

そんなシンジへの思いと、自分が感じていた後悔を、リュウジは吐き出していった。

 

「俺はなシンジ、お前が思っているほど強くない。―――ずっと自分に必死に言い聞かせていた『逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ』ってな。……逃げずに戦って、その結果どうなったと思う?……俺はただ、多くの大切なものを失い続けた。残ったものは、腐るほどの勲章と、『伝説の軍人』と言うあだ名だけだ」

 

リュウジは、自分へ尊敬の念が向けられるたびに、後悔の念を募らせていた。

自分は力にとりつかれたにもかかわらず、結局何も守れなかった哀れな傀儡に過ぎない。

そんな罪悪感を、シンジにも向けていた。

 

「……そしてもし……、もし逃げなければ、俺はまた失うことになる」

 

生きる事ほど辛く、難しい事はない。

だがその果てにこそ、生きてこそ得られるものがある事をリュウジは知っている。

だからこそ、戦いに明け暮れてきた罪人である自分ですら、シンジという温もりに出会えた。

心の底から、愛しいと思える存在に出会えたのだ。

だが殊ここに来て、自身の生が赦されなくなった。

となれば、彼は最早逃げないことは赦されない。

 

「尤も、今の俺は文字通りヴィレの所有物だ。もし、今すぐの処分を下すのであれば、それも仕方ない」

 

そう言うと、リュウジはサクラを見つめた。

 

「さ、私にチョーカーを」

 

その眼に怯えを湛えさせ、サクラはガラスの向こうのミサトを見た。

一瞬迷ったが、ミサトは静かに頷く。

その手を震わせながら、サクラはDSSチョーカーを手に取り、そのままリュウジの首に嵌めた。

 

「北上ミドリ」

 

名前を呼ばれたミドリは一瞬体が跳ねるが、すぐにミサトを見返した。

 

「最初の通り、あなたに彼の処罰は一任します。しかし、もしその任務をこなせる確証がないのであれば、そのスイッチをこちらに返しなさい」

 

こうは言っているが、暗にミサトはミドリにスイッチを渡せと言っていた。

事はミサトが思っていた以上に重大であった。

リュウジの扱いを一歩間違えれば、今までのミサトたちの戦いが無駄になる。

かといって、最後の戦いにおいて、リュウジの戦闘力を当てにしていたのも確かであった。

いざという時、彼女自身も迷わずスイッチを押せるかと言われれば、人のことは言えない。

だがこれほどのことを、未だに歳若いミドリに任せてはいけないと思ったのだ。

 

「ミドリ、……ここは艦長の言う通りにした方が」

 

サクラも事の重大さは承知していたし、これ程の重責を目の前の友人に背負わせていいとも思えなかった。

 

「……いえ。私が持ちます」

 

だが周囲のその気遣いが、逆に彼女の心に火をつけた。

 

「ミドリ!」

 

「何を思ったか知らないけど、こいつは私を指名した。なら、最後までやってやる」

 

「一歩間違えたら、何もかも終わるんだよ?わからんの?」

 

「今までもずっとそうだったでしょ?」

 

二人が言い合う中、リュウジはミサトへと向き直る。

 

「葛城さん。アナタの立場もお考えも理解できます。ですがここは、北上さんの覚悟を、どうか見てはいただけませんか?」

 

「いかにアナタがそう言っても、これは彼女が負う責任の範疇を超えています。それにアナタなら理解できるはず、いかに覚悟を決めたとしても、その通りに自分を置き続けるのがどれだけ難しいか」

 

「彼女は、今日まで生きて、そしてここにいる。家族を、彼女の人生を奪われながらも、こうして戦ってきたんです」

 

それだけでも、筆舌にしがたい困難を乗り越えてきたことの証左であった。

自分のように訓練されていた訳でもない、いきなり日常を奪われながらも生きてきた強さが、ミドリをはじめとした若いクルーにはある。

 

「今日まで、彼女がどう生きてきたのか、その心底に何を抱えて戦ってきたのか。それは私には知る由もありません。ですが、もともと覚悟を持って、今彼女はここにいます」

 

その心に、恨み、生への執着、使命感、何があったとしても、自覚、無自覚、に関わらず、『生きる覚悟』をもって、今日まで生きてきたのだ。

 

「今日彼女は、アナタの覚悟を知った。なら今度は、アナタが彼女の覚悟を知るべきです」

 

そこまで言われ、ミサトはガラス越しに向けられるミドリの視線にハタと気づいた。

 

(私は今まで、彼女らと向き合ったことがあっただろうか……)

 

突然全てを奪われ、戦いを強いられて来た若者達が、どれだけの覚悟を持って今日まで生きて来たのか、それを直視していなかったことに、今気づいたのだ。

その事実に思い至ったミサトの耳に、突如内線のベルが響いた。

 

「……こちら艦長」

 

ほんの少し間があったが、ミサトは受話器をとった。

漏れ聞こえる会話から、その場にいるもの達は、艦が間も無くユーロネルフに到着する事を知った。

 

「……一先ず、尋問はここまでとします。おって沙汰があるまで、待機しているように」

 

そう言いながらリツコが立ち上がると、ガラスは濃いスモークを帯び、壁へと戻る。

 

 

リュウジはこの時、実は一つの嘘をついていた。

と言うより、聞かれなかったから答えなかったのであるが。

 

その事実は、とある人物とだけ共有されていた。

協定を結んだ、とある人物とのみ。




シンジ君の誕生日に、外伝企画やろうと考えていたのですが、すいません、本編を進めるだけで精一杯です。

せめて皆様と、シンジ君の誕生日を祝わせてください。

ご意見、ご感想をお待ちしております。

誤字、脱字等ございましたら、お手数ですがお知らせください。

これからも応援よろしくお願いいたします。
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