新世紀エヴァンゲリオン-And become Joseph- 作:さえもん9184
見た目
使徒の浸食により、体はシンジらと同年代に若返っているが、リュウジ曰く、
「明らかにかつての俺の顔ではない」
と言っている。若干タブリスの面影あり。
能力
タブリスの、
「エヴァのシンクロ率を操る能力」
「通信機やレーダーもシャットアウトする、『結界』とも評されるほど強力なATフィールド」
を受け継いでいる。
だが魂や精神まで完全な使徒ではないがゆえに、そう遠くないうちにATフィールドが抑えきれなくなり、やがて自分以外を補完しLCLへと還元してしまう。
その壁へと戻る際も、リュウジはいささかの言葉を返すこともなく、深々と頭を下げるのみであった。
だが自分らより小さな体躯であるリュウジが、恭しく頭を下げるその弱々しいはずの背中からは、泰然自若とした気迫が満ち満ちていた。それがまるでミドリとサクラの目には、巨躯の男が憮然と鎮座しているように見えた。
囚われの身であり、救いようのない運命を受け入れてなお、その肝の座りように、二人は舌を巻きいた。
「アタシが言うのもなんなんだけどさ……」
不意にミドリが口を開くと、リュウジはゆっくりと振り返った。
「……アンタはその、何とも思わない訳?こんな扱いされて」
今のリュウジは嘗ての弟子だった者や、頼ってきた者達から、虜囚の身として扱われ、上半身を拘束され、DSSチョーカーまでつけられている。
だが、二人の眼からは、その扱いには何らリュウジは遺憾など感じていないように見えた。
実際、リュウジには今の自身の扱いに思うところはなかった。
「私が何をしたかはご存じでしょう?」
「知ってるわよ。でも、艦長も、高雄のおっさんも、フォース・インパクトを起こす狂人を慕うような奴らじゃないのは私だってわかる」
そのとき、リュウジはミドリの自分を見極めんとする視線を真っ向から見据えた。
そのあまりに真剣なまなざしに、思わずリュウジの顔に笑顔がこぼれた。
「……やはりあなたはお優しいですね、北上さん。仇同然の私に、そんな言葉を掛けるとは」
「なっ、今そんな話してないでしょう」
「北上さん、皆そうなんですよ」
リュウジは物思いにふけるように、床に視線を落とした。
そう、この少女は優しい。
優しさゆえに、恨みを募らせている。
「皆優しいから、覚悟を決めて全てを背負って、今日まで戦ってきたんです。……ですが、戦いにおいて、犠牲はどうしても出ます。どんなに努力しても、誰かが割りを喰らう。私は、それが他の誰かになる事が、たまらなく嫌なだけなんですよ」
だが優しさは、時に人を苦しめる。
優しくなければ罪悪感など抱かぬのだし、余程の戦闘狂でもなければ、こうまで必死に戦う事もないのだ。
「優しいあなたであれば、失ってしまった家族を愛していたことでしょう。だからこそ、ニアサーでその家族を奪った、碇シンジを恨んでいる。そしてその元凶である、碇ゲンドウをも恨んでいる」
その時一瞬ではあるが、今にも二人を射抜かんほどの
「だがまた、ゲンドウにも愛する者がいた。その愛する者への思いが強すぎるが故に、兄は凶行に走った。そしてシンジにも、愛する者がいた、そのために私の甥はエヴァに乗った。……世界がこうまでなってしまったのも、二人の優しさが強すぎた故だ」
「……だから、なんだってのよ。許せっての?」
気迫が一瞬で失せたため、若干語気を強めてミドリが返す。
そのミドリにたいして、リュウジはゆっくりとかぶりを振った。
「二人が犯したことは無論、許されることではありません。……ですがその優しさに、私は罪はないと思うんです」
シンジが、自分を愛してくれたことに、罪があるとは思えない。
それは、妻をあそこまで深く愛したゲンドウにも同じことが言えると、リュウジには思えてならないのだ
「その優しさがもし、罪だとするならば、人が人を愛する意味などない。―――それでも、……それでももし、あの二人の思いにすら、罪があるというのなら……」
リュウジは眼を閉じた。
そして、拘束の合間から人差し指を伸ばすと、DSSチョーカーをツイと撫でた。
それはどこか、クリスチャンが十字を切り、祈る様子に似ていた。
「……全ての罰は、私が受けなければならない。―――
サクラとミドリは、このリュウジの言葉が本心かどうかは見抜くことは出来ない。
それができる程、二人はまだ人間を知らなかった。
だがリュウジが甘んじて虜囚の身を受け入れている理由としては、その言葉は二人からしてみれば納得のいくものであったろう。
※
「随分な沈み様だニャ~、アスカ」
「……うっさい」
相部屋の入り口で未だにふてくされ座り込んでいるアスカに、マリがからかいの言葉を掛ける。
「……そう、落ち込むことないよ。実際、シンジ君はアスカの事怒って無かったでしょ?」
アスカは無言で頷く。
「教官も謝ってたよ。アスカを傷つけてしまったって」
マリに言われずとも、アスカはそんなことは解っていた。シンジもリュウジも、自分に対して恨みなど微塵も抱いていないことを。
だが罪悪感を感じるかどうかは、また別問題なのだ。
「リュウジに……」
「ん?」
「リュウジの最初の訓練を受けた夜に、アタシ、理不尽なワガママ言っちゃった。―――伝説の軍人のくせに、なんでアタシを助けなかったんだ―――て」
「いいじゃん。子供が、大人にワガママ言って、何が悪いのさ」
「それは親がいる子供の話でしょ?何の血のつながりもないガキの戯言を聞くような奇特な人間、普通いないわよ」
だがアスカにとって、たまたまわがままを漏らした人物はそんな、
『奇特な人』
であった。
「普通そうなのよ……。なのに、リュウジ……アタシのこと撫でて、約束してくれた。―――そのせいで、アタシのオリジナルまで助けて―――。そのせいでアタシ、シンジの守りたい人を、奪った……」
本来であれば赤の他人であり、自分を助ける義理などない。
リュウジがいかに力を持っていたとしても、こうまでする必要などない。
正直に言えば、ここまで自分のことを思ってくれたのは嬉しいと思う。だが、あの約束をしなければ、リュウジはもっと別の戦略を立てることが出来、世界がこんな有様になることもなかったのではないか。アスカにはそう思えてならなかった。
それは奇しくも、シンジがリュウジへ抱いている、
『ボクと約束しなければ、叔父はもっと別のことが出来たのではないか』
という罪悪感と酷似していた。
「……前にさ。艦長と教官の話をしたことがあったんだけどさ。その時聞いたんだけどアスカ、教官の事オヤジって呼んだんだって?」
「……仕方ないでしょ。あの時は、本当に何も知らなかったんだから」
そのアスカの様子に、マリはケラケラと笑う。
「いやぁ、私もそう思うよ?確かに何も知らなければ、教官って人がいいだけのオヤジだし」
俯くだけのアスカとは裏腹に、マリはそう楽しげに話す。
「……それでさ、教官がすぐに誤解を解かなかったのは、何でだったと思う?」
だがそう続けた時のマリは、俯くアスカを真摯に見つめていた。
「アタシを試すためでしょ?実際、真実を知らされるまで、本当に何も解らなかったし」
「ま、それもあるかもだけどさ。―――あのねアスカ、確かにオヤジって、中年男性を罵る言葉なんだけどさ、もう一つ、別の意味があるの。知ってる?」
「知るかっての」
アスカは若干ぶっきらぼうに返す
「日本ではね、親愛の念を込めて、父親を呼ぶとき『親父』っていうんだよ」
「え?」
アスカは驚いた表情をマリへと顔を向ける。
「お?やっと顔あげてくれたね~」
「へ?い、いや、別にアタシはあの時そんなつもりじゃ……」
「そう、アスカはそんなつもりは無かった。……でも、教官は違った」
マリはただ驚いているアスカの眼を見つめる。
「あの人は、私が会うずっと前に、戦場で負傷して、子供を作れない身体になってしまった。そんなあの人にとって、シンジ君は本当に息子みたいな存在だったんだと思う。……だけど、あくまで甥と叔父。シンジ君も、教官のことを父親の様に慕ってたと思うけど、どうしても父とは呼べない。ま、仕方ないよね、曲がりなりにも血のつながった本当の父親がいるんだから、それを割り切る事なんてできない」
流石にマリは、リュウジの心情を弁えていた。
というより、ユイが子供を持つことが出来ないリュウジの心情を利用し、それをマリは引き継いだという方が正しいのかもしれない。
「でもそんな時に、アスカが言ったオヤジって言葉は、あの人にとっては『親父』て聞こえたんだよ。アスカにそんなつもりは無くても、教官にとっては反抗期を迎えた娘がいるような気分になったんじゃないかな。……だから、そんなアスカがワガママを言ってくれたことが、教官にはこの上なくうれしかったんだと思う」
リュウジの思いを慮れば、アスカの跳ねっ返りの様は、どうしようもなく可愛く、そして愛おしく見えたのではないか、とマリは思うのだ。
「それを、アスカがどうこう思うことは無いよ。勝手に喜んで、奮起して、教官は自己満足に浸ってる。……それでいいんだよ」
それもリュウジの願いであろう。
自分ごときがどうなろうと、アスカやシンジが気に病むようなことを、リュウジは何より嫌った。マリ自身も、なんとかリュウジを、
「ぞんざいに」
扱おうと努めていた。
だがリュウジの苦難と、その心意気を解しているマリには土台無理なことではあったのだが。
「……そんなの、虫が良すぎるわよ」
「ハハッ、だよニャ~」
リュウジの言い分を要約すれば、
「俺はお前たちの為に何でもするが、お前たちが俺に何かする必要はない」
というあまりに一方的な、奉仕であった。
シンジもアスカも、そんな主従関係など望んではいない。望んでいるのは、互いに思いあう当たり前の、
「家族」
であった。
リュウジも家族となることを望んでいたというのに、このことだけはある種の思い違いをしていると言っていい。
「ま、多少頑固な人だけど、分からず屋じゃないから、ニャんとかニャるんじゃニャイ?」
だがマリも、この時ある思い違いをしていたのではあるが。
「……アスカ、マリ」
背中から声を掛けられた時まで、二人はシンジが戻ってきている事に気が付かなかった。
「……シンジ?」
そのただならぬ様子に、先程まで俯いていたことを忘れ、アスカは徐に立ち上がると、シンジに歩み寄った。
「ボクやっぱり、誰も守れないみたい……」
「え?」
「キミも、綾波も、……おじさんも」
そう言いながら、シンジは両手に顔をうずめていく。
「ちょと!」
そして崩れ落ちるシンジを、思わずアスカは抱きしめた。
「ア、スカ……、ぼ、ボク……」
「まったく……ホンット、ガキね」
その口調とは裏腹に、アスカはどこか喜んでいるようにも見えた。
※
「ちょ、ちょっとアスカ。待ってよ」
「うっさい!!」
だがシンジからすべてを聞いたアスカは、先程までの態度とは打って変わって、激怒していた。
「マリも!少し落ち着いて……」
「悪いけどシンジ君。アタシも少し気分悪い」
マリもアスカ程激しくはないが、その眼には激情が宿っていた。
シンジも泣きじゃくっていた先ほどから切り替わり、暴走する二人をなんとか宥めようとするが、結果は芳しくない。
マリとアスカの怒気が余りに凄まじく、周囲のクルーは完全に委縮してしまっており、シンジが孤軍奮闘するしかなかったのだが、今のシンジにこの二人の怒りを鎮められる訳もなく、
「ちょっとリュウジ!!」
あっという間に隔離室の壁の一角は、面会用のガラス壁へと変わってしまった。
「……アスカ」
怒気を孕んだ表情のアスカとは打って変わって、リュウジはひどく穏やかな表情であった。実際リュウジの心情としては、鬱屈しているアスカより、こうして自分に怒りをぶつけてくれる方が何よりうれしかった。
「チッ!!」
だがそんな表情を浮かべるリュウジに訳も分からず怒りがこみ上げ、アスカは聞かせるつもりであるかのように舌打ちをし、ズカズカと壁まで接近すると、向こうのリュウジを殺さんばかりに睨み付ける。
「そう怒るな」
「へ~、怒らせてる自覚はあるんだ」
「そりゃぁな……。さんざん生きろ生きろと言っておきながら、その本人は死に急いでる。ま、ブチ切れる理由としては充分だ」
「解ってんなら……」
「なら他の者なら良かったのか?」
そう言われたアスカの表情は、ハッと止まった。
「俺ではなく、他の者の犠牲であれば、よかったのか?」
「それは……」
「だよな、それに、お前も弁えてるはずだろう?……死は、誰にでも来る」
リュウジは死ぬなとは言うが、死そのものを否定はしていない。
生が輝いて見えるのは、何よりも死という終わりがあるからに他ならない。
生きるだけ生きたのなら、最後は死を迎える。それはあらゆる存在に向けられた、自然の摂理なのだ。
「そして、俺の番が来た。それだけのことだ」
「アンタはそれでいいの?」
「死に場所を見誤れば、ゼーレやゲンドウのようになる。己の滅びや、愛する者の死を、他者を犠牲にしてまで免れ、無かったことにしようとする。俺にはそんな気はさらさらない」
リュウジに言わせれば、人類補完計画など、
「死にたくないから、皆一つになって永遠を生きよう」
という狂気にしか見えない。
そしてゲンドウも、愛が深すぎるが故に、ユイの犠牲を直視できなかった。
だがリュウジは、生への執着や、愛する者の死を嘆く心を、否定するつもりは無い。問題は、その心とどう向き合うかなのだ。
「……俺の人生は、果て無く続く荒野だった。行くあてもなく、ただ戦いながら朽ちるまで彷徨うしかない。そう思っていた俺の人生を、変えてくれたのがシンジだった」
突如名を呼ばれたシンジは、リュウジが自分に眼差しを向けてきていることに気づいた。
否応なくシンジは、リュウジから目が離せなくなった。それはそう遠くないうちに起こる避けられない喪失と、否が応でも向き合うかのようであった。
「彷徨うしかない俺の人生に、君は進むべき方向を指し示してくれた。まるで太陽のように。―――そしてアスカ」
アスカはそのリュウジの視線を否定せんばかりに鋭い視線を向け続けるが、のれんに腕押しにしかならない。
「君は俺の人生に彩りをくれた。俺の荒野のような人生を、一面花畑のように変えてくれた。……できれば、お前らの行く末を見守りたかった。……だが俺には、その太陽と、花畑を消し去るようなことは……どうしても出来ない」
リュウジは生きることを諦める選択をした。
だがそれは、何かに絶望したわけでも、世を儚んでいるわけでもない。
彼が守りたい人たちに生きてほしいという、赤心からきている。
もしリュウジが使徒に浸食されていなければ、諦めるようなことは決してしなかったろう。
「なによそれ……アンタが言ったんじゃない……『僅かでも死を望んだら、その時点で負けだって』」
「そうだ、だから俺のようになるなよ。守りたい大切な人の為に、死ぬような人間にはなるな」
そう言われ、アスカは何も言えなくなってしまった。
そしてシンジも、思わず瞠目するしかなかった。
―――守りたいものの為に死ぬのではなく。守りたいものの為に生きて、守りたいものと共に、生きてほしい―――
第十使徒との決戦の際、覚醒前のシンジにリュウジがこう言ったことを思い出したからだ。
(おじさんは、本当に覚悟してたんだ。……自分が終わらなければならない運命にあることを)
生きることを常に説いてきたリュウジが、死を覚悟したのは、やはり自分らを守りたいからであり、その想いは、初めて会った時から何も変わっていないのだ。
「……あなたは正しいよ、教官」
ここに来てマリが口を挟んだ。
その雰囲気は冷静であり、先程の激情は鳴りを潜めていた。
「教官が、補完を成す因子になりうることを考えれば、あなたの死は間違いじゃない。でも、ゲンドウ君は今も尚、あなたを警戒している。だからこそ、安易に死を選べば、……ゲンドウ君を止めることは出来なくなる。あなたなら解るでしょう?ゲンドウ君は、あなたの死を狙ってる。あなたの思いも解るけど、軽率なことしないで」
この時マリは、リュウジの諦めを納得はしていないが、理解はしていた。
リュウジがここまで思いつめている以上、思いとどまらせるきっかけとして、感情ではなく理詰めを用いてきたのだ。
「やはりお前もそう思うか?」
だがリュウジの反応は予想外のものだった。
「え?」
「いやなに、袂を分かって以降のゲンドウについては、お前の方が詳しい。そのお前が、そう言うのであれば、うまくいくかもしれん」
この時リュウジはニヤニヤと、まるで悪戯を考えた悪ガキのような笑みを浮かべていた。
「なに、急に……」
「戦いにおいて最も重要なのは、相手の心を攻めることだ。葛城さんを含め、この世界じゃ、心を攻めるような連中と、お前らは戦ってこなかった。―――故に、13号機の無力化、もしくは破壊を目的としている限り、この不利な状況を覆し、勝利することは不可能だ」
この時の表情を、マリだけは見たことがあった。
リュウジが導き出した勝ちへの算段。それを話すときの嬉々とした表情を、マリは何度も見たことがあった。
「重要なのは13号機ではない、碇ゲンドウそのものだ。奴を屈服させるためには、アイツが望むものを利用する必要がある」
そう話すリュウジの表情は、まるで無邪気な童その物であった。
「それが俺の死であるならば、……利用しない手はないだろう?」
戦闘という行為に特化し、その為なら他人はおろか、例え自分に対しても無自覚に、そして無邪気に冷徹になれる謀略家なのだ。
それは、リュウジの中にある怪物であり、もう一つのリュウジの本性だった。
リュウジは決して清廉潔白な人物ではありません。
子供達を思う気持ちに嘘はありませんが、戦いの中で染まり切った狂気が、彼の中にはあります。その怪物をうまく描いていきたいです。
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