新世紀エヴァンゲリオン-And become Joseph-   作:さえもん9184

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お盆に入りましたが、今年は休みが短いです。

仕事がすぐに始まるのが憂鬱です……。


Sin-狂人の願い-

剣崎は一人、洗面所の鏡に映る、恩師の顔をした自分をまじまじと見ていた。

嘗ての自分の面影はない。

完全に碇リュウジの顔とかしている。

顔だけではない。その体付きまでも、14年前のリュウジそのままである。

 

剣崎に施されたのは、整形手術などではない。

LCLを用い、当時の碇リュウジの因子を元に、一から肉体を作り換えられているのである。

いうなれば、現在の剣崎は、碇リュウジとして作り変えられた体に、彼の魂を入れられた状態なのだ。

 

それを知っている剣崎は、もうかつての自分に戻ることは出来ないと、そう思い極めている。

そしてそのことについて、何も思うところは無かった。

強いていうなれば、この先自身の身体を維持するには、LCL調整槽が必須にはなるが、どちらにしろ、彼は終わるつもりでいた。

それは、今の世界を認識した際に、彼自身がある種の、

 

「シラケ」

 

を感じたからだった。

彼ほど戦いに長けた人物であれば、人類の存亡をかけた戦いに猛りを感じると普通なら思うところだが、剣崎には全くその毛は無かった。

なぜなら、そこにかつて人類が経てきた戦争とは全く違う種の戦争が繰り広げられていたからだ。

この戦いでは相手を殺そうが、殺されようが、嘗てあった命のやり取りの猛りはまったくなかった。

 

そう思い極めている自分に気づいた時、自分が真に戦争屋であることに気が付いた。人類と人類の忌むべき戦争。そこでしか自分は、自分を見いだせない存在であると剣崎は気づいた時、自分は絶滅すべき人種であることに気が付いたのだ。

 

だがそれと同時に、喜びを感じてもいた。

この思考を確実にもっている人物が一人おり、その人物もまた、自分と同じ結論に達しているであろうことを、彼は直感で感じ取っていた。

そんな人物に、見た目だけとはいえなりきり、あまつさえ彼の教え子たちさえも騙しおおせたことに、剣崎はこの上ない充足感を得ていた。

 

だが一つ、彼にはやり残したことがあった。

そう思う彼の手には、カセットテープが握られている。中には、自分を覚醒させた加持の音声が記録されている。

これを聞かせてからだ、と剣崎は思い立ち、間もなく到着するミサト達を出迎えるべく、カセットテープを携帯プレイヤーにセットしつつ、その場を後にした。

 

 

ヴィレの現状は傍から見ても、良い状態であると言える。

フォース・インパクトこそ起こってしまったが、大事に至ることなく収束させることが出来たのだし、こうむった被害もゼロではないが、かなりの軽傷である。何より、弐号機も八号機もほぼほぼ無傷の状態である。

 

そして結果から見れば、最も手に入れたかったユーロネルフを、労力無しに手中におさめられた。

加えて懸念材料こそあるが、4+3号機を戦力として増強できていることを考えれば、最終決戦へ向けての前段階は、かなり充実した状態と言える。

 

その最終決戦の準備の為にユーロネルフに降り立ったミサトは、深々と頭を下げていた時田シロウと、傍らにいる男が頭をあげるのを見て、思わず心臓が跳ね上がった。

いや、恐らくリツコも、他の元ネルフ職員も、同様であったろう。

14年前と変わらぬ、リュウジの顔をした剣崎キョウヤがそこにはいたのだから。

 

「こちらの申し出を受け入れてくださり、感謝いたします。今後は、ヴィレの正式な傘下に入り、尽力いたします」

 

時田がそう言うと再度頭を下げる、それにならって剣崎も頭を垂れる。

 

「こちらも、あなた方のような得難い味方を得られて嬉しく思います」

 

ミサトはその動揺を押し殺し、冷静に応対を始める。

 

「弐号機をニコイチ型への新造と、八号機のオーバーラッピング対応型への改造準備は、既に完了しております」

 

また時田も、思うところを押し殺し、自身ができる戦いの準備を急ピッチで進めていた。

 

「結構。すぐに取り掛かるように」

 

「は」

 

「葛城艦長」

 

そこにミサトにとっては、若干接しづらい剣崎が口を挟む。

 

「……この場で、彼女らの引き渡しを」

 

「ええ、……治療、調整の準備は?」

 

「完了しております」

 

その言葉を受け、ミサトは後ろへと振り返る。

そこにはゆっくりと歩いてくるレイと、ストレッチャーに横たわり、運ばれていくアスカ。

式波シリーズオリジナルのアスカが、虚ろな表情のまま横たわり運ばれていった。

 

「綾波タイプナンバー6の調整と、式波オリジナルの治療は、一旦ここで経過観察をしつつ行い、後に設備を第三村へと移設し、彼女らもそこで生活をさせる。……それが、教官の望みです」

 

「……いいでしょう。必要なものがあれば、すぐに申請をあげるように」

 

そういうと、ミサトは徐に剣崎へと歩み寄り、

 

「……生きていたのね」

 

そう静かに声をかけた。

 

「死体は見つかっていなかったでしょう?」

 

「今の世界じゃ、LCL化するか、エヴァ・インフェニティと化してしまうから、死体が見つからないのは珍しいことじゃないわ」

 

「そのお蔭で、私は役目を果たすことが出来ました」

 

剣崎の言葉に、ミサトは14年前、彼の頬を叩いた時を思い出した。

恐らくあの時すでに、剣崎は自分がどうなるかある程度解っていたのだろう。解っていながら、リュウジへの忠誠を貫いたのだ。

それは、当時のゼーレやゲンドウの眼を欺き、あまつさえ自分たちすらも欺き、リュウジを生かすことへとつながったのだ。

そんな役目を果たすことが出来た剣崎の表情には、一片の曇りもなく、充足感に満ち満ちていた。

 

「……ありがとう。お疲れ様」

 

そう思い至ったミサトには、先程まで感じていた剣崎へのぎこちなさは払拭されていた。あこがれ続けたであろう偉大な兵士を守りきった目の前の旧友に、ミサトの心は尊敬の念で満ち満ちていた。

そのミサトへ、剣崎は微笑みかけると、ゆっくりかぶりを振った。

 

「あなたこそ、教官から学んだことを信じ、今日まで戦ってこられました」

 

「信じてはいたわ。でも、とても褒められた結果ではないわね」

 

「ですが、教官は褒めてくれたんじゃないですか?」

 

その言葉に、ミサトは先ほどとは違う心臓の跳ね上がりを感じた。

 

「その顔と声で言われると、本当に心臓に悪いわ」

 

「確かに、軽率でした」

 

互いに一息つくと、ミサトは再度艦長としての顔に戻る。

 

「これより、今後の我々の行動指針と、最終作戦について説明します。―――時田シロウ」

 

「ハッ」

 

「あなたが率いてきた者達を、科学技術部としてヴィレの正式な部門とし、あなたを科学技術部長に任命します。そして引き続き、ユーロネルフ統括を任せます」

 

「……それは」

 

「ここのことは、あなたに一任します。どうかこれから、我々と共に戦っていけるよう願います」

 

ミサトは、ユーロネルフにおける裁量を、そのまま時田に任せた。

ヴィレの傘下に入ったにもかかわらず、事実上時田達の自治権を認めた形となったのである。

後にこの配慮を知った、ヴィレへ不満を持つ者達は、その溜飲を下げることとなった。

 

 

「そんな……」

 

リュウジの現状を知らされた時田は、思わず声を漏らした。

会議室ではミサト、リツコ、時田、剣崎の4人が、現状報告と、今後の最終決戦へ向けて会談を行っていた。

 

「今のところ、彼の状態は安定しておりますので、DSSチョーカーを装着し、隔離した状態を維持しております」

 

「どうにかできないんですか?」

 

「今の我々では、浸食状態を抑制することしかできません。完全に使徒と化した時点では、処理する以外に何も方策はありません」

 

その処理という言葉に、時田は机に拳を叩きつけた。

 

「あなた方はそれでいいんですか!?」

 

「時田さん」

 

そこに剣崎が抑えに入った。

 

「二人とも、これでいいなんて思っていませんよ。ですが……、恐らく教官はすべて受け入れているんです」

 

時田はこの時、ミサトとリツコの、忸怩たる表情に初めて気づいた。

リュウジが受け入れているのは、その悲惨な運命だけではない。フォース・インパクトを起こした危険人物となることで、艦内のヘイトをも集中させ受け入れているのだ。

それにより、ヴィレの組織維持が出来ているのも事実であるし、それに甘えている現状にミサトもリツコもよくないと思いながらも、受け入れてしまっていた。

 

「あなたは怒らないのね、剣崎キョウヤ」

 

リツコは、寧ろ剣崎の方が怒りを露わにすると思っていた。

文字通り、自分の身を捧げてまで助けたリュウジの余りの扱いを目の当たりにすれば、怒って当然と思っていたからだ。

 

「この状況こそ、教官の思惑通りでしょう。シンジ君や、他のエヴァパイロットへ向けられる憎悪を、少しでも減らしたいと思っているでしょうから」

 

それがリュウジの狙いである以上、剣崎は思うところは無かった。

いかに現状に忸怩たる思いがあろうとも、この切羽詰った現状において、甘えるより仕方ない状況にしているのは、他ならぬリュウジなのだ。

 

「私はただ、教官の最後の願いを叶えてほしい。それだけです」

 

「それって……」

 

リュウジの顔のまま話す剣崎の言葉に、ミサトは本人が思いのたけを吐露している錯覚を覚えた。

 

「兄……、碇ゲンドウとの決着」

 

そう言って、剣崎はリュウジと化した己の手の平をまじまじと見た。

 

「初めは解りませんでしたが、この体になったせいか、解る気がするんです。―――兄との決着……、その為だけに、今教官は生きている。そしてそれをもって、自ら命の幕引きをしようとしている」

 

「……そうね」

 

ミサトが、静かにそう呟いた。

 

「もう、十分よね」

 

「ミサト?」

 

「……あの人はもう十分に戦った。そしてあんな体になってもまだ、戦う気でいる」

 

静かにそう呟くと、ミサトは少し震えながら俯いた。

 

「もういいじゃない……、解放されたって」

 

ミサトとしては、もうリュウジには戦いから離れ、静かに生きてほしいと思う。

もうすぐ死を選ばなければならないリュウジに、その最後ぐらい静かに過ごしてほしいと心より願っていた。

だがそんなものは、リュウジ本人が絶対に望まないだろう。

なぜなら戦うことだけが、彼の存在証明だからだ。

そして戦うことでしか自分を見いだせない、そんな存在はこの世から絶えるべきだと、彼自身がそう思い極めている。

リュウジ自身が、補完を起こす存在になりかねないことも理由なのだろうが、そんな自分が存在することの忌避感も、彼が終わりを選んだ理由なのだと思う。

だが戦う事しかできない、そんな存在にリュウジがなってしまったのはなぜか。

それこそ原因は、

 

「セカンド・インパクト」

 

に他ならない。

あの大災害によって、リュウジ以上に戦いに長けた存在の殆どが文字通り消え去ってしまった。

そして他に、戦うことが出来る存在も、またいなかった。

だが目の前には、セカンド・インパクトによって、より凄惨になってしまった戦場が存在している。

セカンド・インパクトが無ければ、いや、少なくとももっと他に戦える仲間がいれば、リュウジは『普通の軍人』でいられたのだ。

だが彼は『伝説の軍人』という、狂人になることを選んだ。

戦う事しかできない異形に、自ら成り果てた。

そしてもはや人には戻れない、ならば……

 

「我々にできるのは、最終決戦に向けて、成すべきことを成すのみです。そして幸いなことに、我々の最終目的と、碇リュウジの個人的な目的は合致しています。懸念事項はまだ残りますが、かねてより計画していた『ヤマト作戦』決行に向け、各々準備を進めていきましょう」

 

「……わかりました。―――ですが一つだけ、お願いがあります」

 

時田はそう言うと、リツコに向けて懇願の表情を向ける。

 

「いかようにここを使っていただいても構いません。どうかリュウジを、診て頂けませんか?」

 

「基よりそのつもりです」

 

そんな時田の表情とは裏腹に、リツコは冷徹な表情を返しながら、静かに立ち上がる。

 

「使徒をモルモットにできる機会など、そうそうあるものではありませんから」

 

その物言いに、時田は思わず身を乗り出すが、横に控える剣崎がなんとか留めた。

剣崎は解っているのだ、リツコのその冷徹な物言いの奥底に、悔過の念があることを。

彼女とて、リュウジを戻せるのであれば、なんとかしたいと思っている。

だが誰よりも使徒の専門家である彼女は、リュウジがもはや手遅れであることを誰よりも理解していた。

その悔しさを、部屋から立ち去るリツコの背中から、感じ取っていた。

 

 

「……というわけで、悪いけど第三村に移動するまで、ここでいろいろとデータ収集するからそのつもりで」

 

「14年ぶりに、晴れてあなたのモルモットに返り咲いた訳ですね」

 

リツコの言葉にカラカラとリュウジは笑うが、その言葉にリツコはふと後ろの監視二人に目を向ける。

 

「……悪いけど、あなた達にもいろいろと準備をしてもらいたいから、頼まれ事してくれないかしら」

 

「え?」

 

「なによいきなり」

 

「伊吹整備長に、彼を移動させる算段を任せているから、詳しくは彼女の指示を仰ぐように。―――大丈夫よ、この人が私を殺す気なら、とっくに殺してるから」

 

その有無を言わさぬリツコの雰囲気にサクラも、ミドリも押され、すごすごと部屋を後にした。

 

「―――単刀直入に言うわ。あなたの目的は何?」

 

二人が部屋を出たとたん、リツコからそんな質問が飛んできた。

そんなリツコを無言で数秒見つめ返すが、

 

「はぁ……、何とも唐突ですね。―――無論、兄を……碇ゲンドウを止める事です。この土壇場で、今更それ以外私が何を望むというんです」

 

と軽く溜息をつきながら言葉を返す。

 

「いいわ、質問を変えましょう。…………あなたは今でも、ユイさんを助ける気でいるの?」

 

先程までの、あっけらかんとしていたリュウジの表情が、張りつめたものに変わった。

 

「そもそも14年前、私に協力を求め始めた『種まき』―――あなたの魂を初号機に少しづつ植え付け、初号機の制御システムを乗っ取るあの計画。あれは……」

 

「あれは机上の空論だった!!」

 

「でも理論的には可能だった。現にシンジ君が最初にエヴァに乗った時、彼女が暴走せず、シンクロ率が少しずつ上昇させたのは、あなたの魂……、あの時付着していたあなたの大量の血に、初号機が、ユイさんが反応していたから。……だからこそ、あなたは『死んだ』あとも、私に種まきの継続を指示したのではなくって?」

 

リツコは初めて、リュウジがここまで動揺する様を見た。

 

「あなたも人のこと言えないわね」

 

「え?」

 

「私より、何倍もポーカーフェイスが下手よ」

 

そんな優越感をリツコは感じてはいたが、同時に若干の情けなさも感じていた。

 

「リュウジさん。今更あなたが何か企んでいたとしても、それは恐らく、他人を助けるため、そうでしょう?」

 

今までもそうだった。

これ程策略、謀略に長けていながら、その能力は常にだれかを助けるために使われてきた。

 

「私が、『あなたが私利私欲に走って、私達を出し抜いて欲望を満たそうと思っている』、とでも考えているとでもいうの?……見損なわないで」

 

だからこそリツコは知りたかった。

リュウジが今もがいている、その訳を……

 

「……だから教えてリュウジさん。あなたはユイさんを助けることで、誰を救おうとしているの?」。




自分の好きなシチュは、チート能力で好き放題無双するより、そのチート能力を持ったキャラが、守りたい存在に出会って、そのキャラのために必死になって戦う。

つまり今のリュウジなわけですがwww

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