新世紀エヴァンゲリオン-And become Joseph- 作:さえもん9184
ですがそこは読み手である皆様に委ねるしかありません。
ですので本当に、読んでくださるだけで感謝です。
「……で、これってどういうことなの?」
「見ての通りです」
「見てわかんないから聞いてんでしょ?」
混乱を隠せないミドリは、リュウジに向かって声を張り上げる。
「リュウジさん……この人って」
「式波タイプのオリジナル。……とどのつまり、今まであなた方と共に戦ってきたアスカの、オリジンです」
三人の目の前に横たわる、式波シリーズ、オリジナルのアスカは、最初にリュウジが救出した時よりも、穏やかな寝顔であり、その寝息も安定したものであった。
「……以前も申しましたが。式波タイプ、綾波タイプ両プロジェクトは、
ユーロネルフの隔離室に入ったリュウジは、ガラス越しではあるが同じく隔離されながら治療を受けているアスカオリジナルが、順調に回復しているのを見て安堵していた。
「それが……アンタがフォースを起こした理由?」
「……ええ」
「コイツのことを助けるためだけに、フォース・インパクトを起こしたっての!?」
「……ええ」
その言葉に、ミドリは思わずリュウジの胸ぐらをつかんだ。
「何考えてんのよ!下手すれば、本当に世界が終わってたのよ!?」
「ならその為に彼女が味わった絶望はどうなります?」
だがそのリュウジの言葉に、ミドリはハタと止まった。
「14年……そんな長い年月を、彼女はあの中に閉じ込められて過ごした。それがどれだけの絶望か、……いや、絶望を感じるならまだいい、彼女は、それすらできないほどの無を、ずっと味わい続けてきた」
そしてミドリは、自身をただ見つめ続けるだけのリュウジに、何も言うことが出来ず、呆然としたまま、その手を離すしかなかった。
「そんな中で、彼女がどれだけの怨嗟を世界に募らせたか……。それは誰にも想像だにできない。ですが私は……、私だけはそれに蓋をしてはならない」
シキナミ、アヤナミ、両シリーズの情報は、リュウジがすぐに調べれば出てくるほどの物であった。
ならば、そのプロジェクトが始まった当時であっても、リュウジがその気になれば、止めることは難しくなかったはずだった。
だが……。
「私は、ユイさんの駒であることを選択しました。その為に、need to know の原則を……いや、見て見ぬふりをしました。裏で想像だにできない、とてつもない陰謀が蠢いていると解っていながら。……私は、彼女を見殺しにしたんです」
だが結果的には、ユイは正しかった。
もし、最初からリュウジの全て知るところとなっていたとしたら、全てを救うという狂気の元、リュウジは全てを破壊しつくしていたかもしれない。
「この子は、理不尽にも選ばれてしまった。そこにどんな経緯があったか、私にはわかりません。ですが、例えどんな理由があろうと、エヴァだの、人類補完計画だのと……、そんなことの為に、犠牲になっていいはずが無い」
そう思いつつも、リュウジは14年前エヴァが運用されるのを傍観してしまった。
ゲンドウが起こそうとしていることを、結局は止めることが出来なかった。
だがその筋書きを変えることは、最初に碇ユイの駒となることを選んだ時から、既に手遅れだった。
「ですがもう、何を言っても始まりません。起こってしまったことを、無かったことにはできない。そして彼女に起こってしまった不幸に、蓋をするようなことにはしてはならない」
そう言うとリュウジはゆっくりと、アスカオリジナルへと振り返る。
「でも、その憎しみを受け止めることは出来る。それは、彼女を助けた以上、私の責任です」
※
リュウジが隔離室でオリジナルアスカを見ていた同時刻。
「話がある」
アスカはそう言って、シンジに宛がわれた部屋に入った。
「……わかった」
シンジはそれだけ言うと、下のベッドへと腰かけ、アスカもその隣に座った。
「うすうす感づいてると思うけど……、アタシは普通の人間じゃない」
アスカはいま彼女が知る限りの自身の真実を、ポツポツと語り始めた。
「アタシは、ネルフによって造られたクローン。式波型パイロットと呼ばれる、
自分が、ネルフがエヴァパイロットを作り上げるために進められたプロジェクトによって造られた、クローンの一体であること。
そして生き残るために、自分が他のクローンを蹴落としてきたこと。
そして文字通り14年前に選ばれ、エヴァンゲリオン弐号機パイロットとなった事。
「アタシは、多くの命を奪って、あのエントリープラグの席に座ったの。―――そんな矢先に、アンタの存在を知った」
アスカの右目が、シンジへと向く。
「最初は……、アンタも解ってたと思うけど、怒りしか湧いてこなかった。アタシが文字通り血反吐を吐きながら、何とか生き残ったって言うのに、碇ゲンドウの息子だからってエヴァに乗って、しかもエースパイロットなんて呼ばれて。挙句の果てにアタシが苦労して出したファイトシミュレーターまでダブルスコアで更新してるし」
シンジはようやく、アスカと初対面の時、自分に向けられていた憤りの意味を知った。
「今考えれば、幼稚よね。……シンジを、生まれの良さを傘にしてるだけだの『ナナヒカリ』なんて言っておきながら。アタシは、自分の生れの理不尽を理由にして、自分の方が上だと思い込んでたんだから」
アスカは恥じるように、シンジから目線を外し、床を見やった。
「……ありがとう」
「へ?」
だがシンジの口から出てきたのは、アスカへの感謝であった。
その意味が解らず、アスカは思わずシンジを見た。
「この言葉が正しいかは解らないけど。ボクが好きになったのは、『クローンのアスカ』でも、『エヴァパイロットのアスカ』でもない。14年前、ボクの目の前に現れてくれた『式波・アスカ・ラングレー』っていうとても可愛らしくて、綺麗な女の子だよ」
アスカの当時の憤りを、シンジは当然だと受け止めていた。
それでも、シンジは、アスカに確かに恋をしたのだ。凛として美しく、そしてどこか儚げなこの少女が、シンジはたまらなく愛おしかったのだ。
そんなアスカが、自分を好きだと言ってくれたことが、シンジは嬉しくて仕方なかった。
「……大好きだよ、アスカ」
そしてアスカも、シンジのその言葉がうれしくてしょうがなかった。
「……やめて」
だが紅く染まった顔を隠すためと、何よりシンジへの罪の意識から、アスカは直ぐに顔をそらす。
「そうだね。でもボクは……」
「アタシの心は!……創られたモノなの」
訳のわからぬ怒りが一瞬込み上げるが、アスカはそれを抑えるように、努めて静かに続けた。
「アタシ達エヴァパイロットは、エヴァ同様人の枠を超えないよう設計時に抑制されてる。クローンのくせに非効率な感情を植え付けられて、その挙句―――アンタに好意を持つように設計された」
アスカの言葉に、シンジは少なからず動揺した。
「わかったでしょ?……アンタを好きな感情が、本物かどうかも解らない。人並に植え付けられた感情のせいで愛情を求めて、その結果。―――その愛情をもたらしてくれた人を、人ならざる化物にしてしまった」
「……おじさんの事?」
シンジの言葉に、アスカはゆっくりと頷いた。
「アタシが……アタシがリュウジに幼稚なワガママを言ったから、リュウジはああまでしたの」
「……ワガママ?」
「最初の訓練の時、覚えてる?」
シンジは無言で頷く。
「あの時アタシはリュウジに手も足も出なかった……。でもその時感じたの……『この人は、本物の伝説の軍人なんだ』って。―――そう思ったら……今度は『なのになんで助けてくれなかったの』って、バカな考えが止まらなくなって……」
「アスカ……」
アスカのその想いに、シンジは胸が詰まった。
たまたまリュウジは自分を助けてくれたが、もし何かの切欠があれば、もしかしたらリュウジはアスカを助けていたかもしれない。
「その夜……たまたま二人きりになって、そんなワガママを、リュウジにぶつけちゃった」
リュウジの力はそんなことを期待させるほどの物だった。それこそ、アスカのような理不尽に晒されていたのであれば、縋らずにはいられなかっただろう。
「それこそ理不尽よね。……なのに……なのにリュウジ。約束してくれた、アタシの頭を撫でて『必ず守る』って」
「そっか……。おじさんは、約束を守ったんだね」
「……でもリュウジはそうは思ってない。アタシが参号機に乗るのを止められなかったから。そもそも
リュウジ自身が、アスカに対して忸怩たる思いを拭うことができていないことは、シンジも想像に難くなかった。
自分がエヴァに乗ることにすら、世界を犠牲にしてまでも拒否し、守ろうとしてくれたのだ。
そんなリュウジが何も知らなかったことを理由に、アスカを理不尽に見て見ぬふりをできるわけがなかった。
「だから、
フォース・インパクトを起こしたことによって、元凶の一人のように扱われたとしても、リュウジにとってはそんなことは些末なことだった。
そんなことより、アスカの懇願を優先したのだ。
「……アスカはさ。どう思ったの?おじさんが助けてくれて」
「………うれしかった」
それが解っているからこそ、アスカは罪悪感を感じながらも、それ以上の嬉しさを感じずにはいられなかった。
「本気でこの人は、アタシを思って、助けてくれたんだって。……守ってくれたんだって。―――でも、もういい。もう、……見てられないのよ」
アスカがそう言葉をこぼすと、シンジは優しくアスカを抱きしめた。
「酷いよね」
リュウジの守りたい思いを理解してはいるが、シンジはその思いが強すぎるが故に周りを見ようとしない叔父の悪癖をよく理解していた。
「……あの人は、ボクらがどう思うかなんてどうでもいいんだよ。いつも自分勝手で、勝手にボロボロになって、ボクらがどれだけ心配してるかなんて考えやしない。……いや、考えてほしくないんだよ」
それに呼応するかのように、アスカはシンジの胸に深く顔を埋めた。
「アスカがこれだけおじさんのことを考えてたって、あの人はそんなことお構いなしなんだ。でなきゃ、……でなきゃ死ぬなんて、あんな顔して言えないよ」
リュウジが何を考えているかなど、自分では推し量ることなどできはしない。
だが少なくとも、先程の無邪気な笑顔を浮かべたリュウジには、もはや戦い意外に眼中にないようにしか見えなかった。
「ごめんシンジ……、ごめんね」
「アスカが謝ることない」
「でも、シンジはリュウジを守る為に……」
「ボクはおじさん以上に君を守りたいと思った。本当だよ」
14年前、初めてともに使徒を倒した夜、シンジの中でアスカは大きな存在となった。
「アスカ……。ボクはクローンじゃない。―――だから、このアスカが大好きな気持ちは本物だって。そう断言できる」
「解んないわよそんなの、自分の気持ちすら本物か解ってないのに。他人の心なんて……」
「ボクの心音……聞こえる?」
その瞬間、初めてアスカはシンジの激しく打つ心音を感じた。
なぜ今まで気が付かなかったのかと思う程、早く激しい鼓動であった。
「アスカはクローンかもしれない。でも、ボクの心音をここまで激しくさせているのは、今僕の目の前にいる君だよ。アスカ」
そしてシンジは、アスカを抱きしめたまま、彼女を押し倒した。
その瞬間、シンジの心地良い質量感が、アスカの胸が熱くさせる。
それと同時に、シンジの鼻腔を、アスカがくすぐる。堪らずシンジも、熱くなっていくのを感じる。
(アタシにも……、まだ女が残ってたんだ)
アスカはシンジに、シンジはアスカに、その身を委ねていった。
その沈んでいく二人を、一瞬ではあるが確かに目の当たりにしたマリは、思わずその場を後にする。
(よかった、よかったね……アスカ、シンジ……)
そうだ、ずっと理不尽に晒されてきた二人が、紆余曲折あれどああして結ばれたのだ、嬉しくない訳が無かった。
(そうだよ、これでよかったんだよ。ハッピーエンドだよ)
ふとマリが見上げると、そこには窓ガラスに映る自分が映っていった。
(よかったじゃん。よかったのに何で……)
「なんでアタシ、泣いてんだっちゅーの……」
嗚咽を殺しながらも、涙を止められないあられもない自分の顔が見てられなくなり、マリはその場で蹲ってしまった。
※
『………いや』
眼の前に広がる光景に、彼女は絶句した。
『……いや』
エヴァ・インフェニティへと、進化しそこなった骸が広がる光景。
『…いやぁ』
その中心に立つ、肥大化したリリス。
『イヤッ』
それと同化するように、取り込まれる自身の機体。
『イヤアアアアアアアァァァァァァァァ!!!!』
気づいた時には、周囲に暗闇が広がるばかり。
エントリープラグ内に、その暗闇の中にたった一人取り残される自分。
広がる闇に、否が応でも孤独を突き付けられる。
『フッ……、ウッ……、……ウゥ』
操縦桿を必死に動かすが、全く反応を示さない。
尤ももとより自立制御型に改良されたMaek.6は、彼女の操縦など受け入れる筈もなかった。
『イヤッ!!出して!!!ここから出してえええええぇぇぇぇぇぇ!!!』
その闇に付きつけられる絶望に耐えきれず、彼女はエントリープラグの壁を激しく叩く。
『出して!!!出してえええええぇぇぇぇ!!!!』
何度も、何度も。
『出して……。誰か……、お願いぃ……』
だが精根も尽き果て、壁を叩く激しさも消え失せていき、次第にその表情も虚ろになっていく。
(なんで……、なんで…アタシが……)
そんな彼女の脳裏に思い浮かんだのは、いつか見た、嘗ての自分と同じくらいの男の子と、その母親と父親。
ただ単に家族が、家族としている。そんな当たり前の光景だった。
(なんでアタシだけ……)
彼女はただ見てほしかっただけだ。
誰かに頭を撫でてほしかっただけだ。
ただ単に、家族が欲しかっただけだ。
(でももう、いいや……)
だが彼女には、そんな当たり前すら許されなかった。
(アタシを必要としないのなら……)
ならばそんな世界など、
(こんな世界、どうなったっていい……)
……それが無に沈んでいった彼女が抱いた、最後の想いであった。
※
「……え?」
今自分は幻覚を見ているのか、それとももう、自分は死んでいて、死後の世界にでもいるのだろうか。
そんな考えが過るが、煌々と光る蛍光灯があの世にあるとは思えない。かといって、助け出されたなどという幻想を抱こうとすることに、彼女は酷く恐怖心を抱いていた。
「……目が覚めたか?」
だがその声が、今晒されている現状が、幻覚ではないのかもしれないという想いを、強くしていく。
「えげつないな、瓜二つで片付くほど、生易しいものではない程に同じだ」
彼女の身体にはうまく力が入らず、声のする方向に顔を向けることが出来ない。
「まず君が疑問に思っていることを話そう。ここはどこで、いつで、自分がどうなったのか」
その声には全く聞き覚えはないのだが、今の状況がこの声によって現実感を彼女にもたらしていることから、藁をもすがる思いで聞き入った。
「ここはユーロネルフ。恐らく君にとっては良い思い出はない場所だろうが、現状まともに使える施設はここしかなくてな。……そして、一片に言うが、君は数時間前に、14年越しにMark.6のエントリープラグから助け出され、ここで治療を受け、こうして目覚めた」
そうしているうちに、声の主と思われる人物が、彼女の視界へと入る。
未だ視界はハッキリしていないが、上半身が拘束されている少年が映りこむ。
「……ぁ、ァンタ、……は?」
「俺か?俺は君に理不尽を与えた連中の一人だ。……もっとも、もう俺以外の連中はほぼ死んでしまったがね」
そうして向こうも彼女の顔を覗きこむと、その紅い双眸の奥に、蒼く光る十字が浮かび上がった。
「シ……ト?」
「ええ、と言っても元は人間でしたが。―――そしてそんな俺が生きている事が、我慢ならない奴がいる」
その言葉と共に、室内に警報が鳴り響いた。
「ほ~ら。お出でなすった」
その警報音が彼女の、アスカオリジナルの意識をハッキリとさせていく。
「さて……死にたくなければついて来い。―――俺にはそれしかしてあげられない」
「……何をさせる気?」
徐々にではあるが、彼女の語気に力が戻っていく。
「次は私に何をさせる気?」
「……君が、……君が望むものを」
「そんなものない、もう全部……全部終わりにして」
「大丈夫。俺はそのためにここにいる」
そう、アスカオリジナルが感じてきた絶望は、リュウジと、そしてゲンドウの数ある罪の一つだ。それを、リュウジは終わらせる。
「俺は負ける。そして初めて、全ての運命が解放される。補完ではなくその逆。―――完全なる自己世界の確立によって、君の全てが終わり、そしてすべてが始まる」
彼女の望んだ終わりではないかもしれないが、円環の中で紡がれてしまった運命を断ち切る。
「その為には、まず生きろ。話はそれからだ」
かなり独自解釈や考察(妄想)のもと執筆しております。
それだけが理由ではないですが、遅筆となってしまって申し訳ありません。
ですが、これは私なりのエヴァに対する思いを描いているつもりでもあります。どうか温かい目で見ていただけると幸いです。
これからも応援よろしくお願いいたします。
誤字・脱字等ございましたら、お手数ですがお知らせくださると助かります。
これからも応援、よろしくお願いいたします。