新世紀エヴァンゲリオン-And become Joseph- 作:さえもん9184
もう少し早く投稿できるようにがんばります。
「本艦は、今後最終目的地に移動し、第13号機の再起動を図るであろうネルフ本部を大気圏外より急襲……」
ミサトはプロジェクターより映し出される画像を使い、薄暗くなったブリーフィングルームで、最後の作戦説明を行っていた。
必要なもののヴンダーへの収容を、各クルーの突貫作業により半日で終え、第三村へと進路を向けている道中である。
そこには高雄をはじめとした、この艦の主だったクルー。さらにアスカ、マリは勿論、シンジやカヲルと言ったエヴァパイロット、そして、
「それまでに、エヴァ弐号機、八号機の改造を終えられるんですか?」
「現在時田科学技術部長と、赤木副艦長が急ピッチで進めています。その間我々は……」
何より今質問をしてきた碇リュウジに対して、ミサトはまるで答え合わせをするかのような心境だった。
おおよそ、リュウジを知る者にとっても、このブリーフィングは、この作戦に対して、リュウジがどのような反応を示すのか、それを確かめたいという心境が内在していた。
そんな心境を抱えながら、その場にいたミドリは、数刻前のミサトとの会話を思い出していた。
※
「……『負けるが勝ち』ね」
ミドリよりの報告を聞いたミサトは、無表情のままそう呟いた。
そして机をトントンと指で叩く音だけが、ミサトの部屋に響く。
「すいません。アタシには、アイツが言っていることがまだ理解できなくて……」
「誰にも彼の思考を理解することは出来ないわ」
そう言いつつも、ミサトはリュウジがはっきりと、
「負ける」
と言ったことに、自分との違いを突き付けられていた。
無論負けることを善しとする気はない。
だが現状において、ヴィレがネルフを、ひいては碇ゲンドウを止めることが出来るのかと言われればそれは限りなく難しいと言わざるを得ない。
(そう……、この時点で私はまだ『難しい』と楽観視している)
そこにリュウジとの戦略家としての分析能力の違いを、まざまざと感じさせられているのだ。
リュウジはハッキリとこのままでは、
「負ける」
と断言したのだ。
確かにミサトは、この14年間戦って来た。
だがリュウジの、湾岸戦争を初陣として来た、彼女より長い戦歴により培われたその眼は、よりシビアに戦場を見定めていた。
「北上ミドリ。あなたならどうする?」
そう考えを逡巡させていたミサトは、ポツリと言葉を漏らしていた
「なにを、……ですか?」
「あなたの大切なものを、必ず守ることのできる力を手に入れたとしたら、それを行使できる?」
「そ、そりゃ、使うにきまってるじゃないですか」
「そのかわりに、他のすべてを滅ぼしてしまうとしても?」
「え?」
「……碇リュウジと、碇ゲンドウが持っている力は、そういうものなのよ。そして兄は、その力を行使することを選び、弟は、その力を行使せずに、自らの手で戦う道を選んだ」
14年前、リュウジはまさしく絶対的な力を持っていた。
だがそれほどの力を持っていてなお、リュウジは冷静に自分は負けると判断したのだ。
故に彼はその力を放棄した。
「確かに今、世界は滅んではいない。でも、看過できないほどの犠牲を出した。それが力を行使しなかった結果であるならば、それは罪かも知れない。でもリュウジは、勝つためにその罪を受け入れた」
そして放棄したが故に、碇ゲンドウの凶行を許し、多くの犠牲を出すに至った。
力のぶつかり合いを避けるためとはいえ、リュウジはその様を、
「何もせずに」
見届けるのみであった。
それは正しく、人間のままでは受け入れられないほどの業の深さであった。
だがそれほどの業を負ってなお、リュウジは最後には、
「勝つ」
と断言したのだ。
そこには希望的観測も、こうあってほしいという願望もない。
だがここに至るまで、リュウジが背負って来たものは余りにすさまじい。
犠牲を産んだのもそうだが、実の兄の罪とも向き合い、義姉に利用される事を選び、あまつさえ
「……確かめるしかない」
その果てにリュウジが何を見出したのか、ミサトは何としても見定めたかった。
※
が、
リュウジは作戦を聞き終えても、何一つ言葉を発することはなかった。
「なんで何も言わなかったのよ!」
「先ほど言った通りです。現状では、ヤマト作戦こそ最適解です」
最後にミサトに話を振られても、
「現状では、これが最適解でしょう」
と言うのみであった。
だが負けると言われたミドリもサクラも、隔離室へと向かう道中において、聞きたいことは山ほどある。
「なんであの場で話さなかったんですか?ちゃんと説明しなきゃ……」
「負けるとあの場で堂々と言えと?」
そう言われて二人の表情はたじろいだ。
確かにあの場で負けると断言すれば、どんな反応をするか解らない。
高雄や、マリをはじめとする、リュウジの教え子や、アスカやミサトのようなネルフ時代からリュウジを知る面々であれば、リュウジがその先を見据えていることは解っているだろう。
「じゃあなんでアタシ達には話したのよ!」
だがミドリやサクラのような、リュウジを知って間もない面々はどのような反応をするか知れたものではない。
寧ろフォース・インパクトを起こした、碇ゲンドウの弟がそんなことを言えば殺意すら湧くかもしれない。
現にミドリはリュウジの人となりを、ある程度知っておりながら今にも、
「DSSチョーカーのスイッチを押さんばかりの」
剣幕であった。
「そりゃ……」
だがリュウジはそれを事も無げにいなすかのように、隔離室の扉をくぐった。
「え?」
「あ……」
サクラもミドリも思わず声を漏らした。
面会壁の向こう側には、すでにミサトが壁に寄りかかり待ち受けていたからである。
「あなたが葛城艦長には報告すると思ったからですよ」
それが解っていたリュウジは、涼しい顔のまま面会壁の椅子へと腰を下ろす。
だがリュウジは、
(どう説明したものか……)
とかくも参っていた。
先程剣崎と話た通り、全てを話せば壁の向こうにいるミサトとて、
「烈火のごとく怒る」
のは目に見えていた。
だがこのまま手をこまねいていては、人類の補完はなる。
そして自分がゲンドウと冬月の張り巡らせた罠にかからなければ、彼らの大願が結実することは無く、ゼーレの一人勝ちで終わる。
(それは避けなきゃな……)
かといってリュウジは自身の計画を話す気は毛頭なかった。
「さて、ここでなら素直に話せるかしら?」
それを話させる気で、ミサトはついにリュウジと相対した。
「それで、改めてヤマト作戦の率直な感想を聞かせてくれるかしら?」
「感想も何も、あの場で申した通りです。現状では、ヤマト作戦こそ最適解です」
「じゃあなんで負けるなんて言うのよ!」
そこに、リュウジの後ろに控えていたミドリが思わず口を挟んだ。
そんな彼女に対してリュウジはゆっくり顔を向けると、
「最善を尽くしてなお負ける……。それが戦争と言うものです」
そう穏やかに答えた。
「艦長。それならば有体に申しましょう」
そしてゆっくりと息を吐きながら、どこか冷たい眼差しでミサトを見据えた。
「このヤマト作戦が最適解となっている現状こそが、すでに詰みの状態です」
その言葉にミサトは思わず目を細めた。
それは心のどこかで彼女も、
(この一手のみしか打てない現状では、既に勝ち目は薄い)
と思い極めており、それを言葉とされたことに正鵠を射られたような思いだったからだ。
「ヤマト作戦とはよくいった物です。太平洋戦時下の日本軍の最強戦艦『大和』も、その実力を十二分に発揮することなく、半ば無謀な特攻作戦によって、最後は海中に沈んだ」
簡略化が過ぎるが、要はAAAヴンダーの戦闘能力をもって敵の大戦力を何が何でも突破し、エヴァ弐号機、八号機を用いて13号機まで到達する。
「まさに絵に描いたかのような特攻作戦ですが……、私に言わせればそのまま画餅となるのが目に見えている」
だが現状のヴィレ側の戦力では、これ以外の作戦をとれないのはリュウジは理解していた。故に現状を、
「詰み」
と称したのである。
そのことを容赦なく言葉にされたことに、ミサトの口は堅く真一文字に結ばれていた。
「……それでも」
だがそれではままならない。
絵に描いた餅であったとしても、それを本物にする心意気が無ければ、待っているのは終わりだからだ。
「それでも戦わなければならないのです。私はこのまま、終わるつもりはありません」
※
そう言ってのけたミサトに対して、リュウジは眉ひとつ動かすことはなかった。
「どんなものにも、終わりはきます。人類はもとより、この星も、宇宙も、神ですらいつか終わる。それに抗ってどうすると言うのです?」
「そうかも知れません。ですが私は、それを今にしたくない。あなたもそう思ったからこそ、セカンド・インパクト以降も、戦い続けたのではないのですか?」
リュウジはミサトのその言葉に、人としての光を見た。
「そうです。その結果、多くの犠牲を払いました……。それでも、戦いますか?」
それはかつて、その犠牲に耐えられなかった自分が捨てた物に他ならなかった。
「それでも……生きます」
このミサトの言葉は、事にのぞみ、一瞬のうちにかたまった決意であった。
リュウジはその微動もしない決意が、羨ましくてしょうがなかった。
「……いささか、脅しがすぎたな」
その眩しさに、リュウジの表情は思わずほころんだ。
だがその表情に、ミサトは、
(しまった……)
と内心奥歯を噛んだ。
その表情はかつて第六の使徒との作戦の際、彼が棺桶と称した実験機に乗り込む表情と全く同じだったのだ。
つまりリュウジは、
「この戦いを死場所」
と思い極めているのだ。
「ご安心ください。ともすればこの戦い、犠牲は最小限で事足りるでしょう」
そしてその終わりを止めることは、ミサトにはできない。かつての第六の使徒との戦いの時も、ミサトはその決意を止められなかったのだから。
何よりすでに最後の使徒となり、いずれ補完のトリガーとなることが判然としている今、ミサトにはその終わりを止める口実も無かった。
「まず大前提として、特攻と言うものは、古来より成功する確率が極めて低い。なぜかわかりますか?」
「………」
ミサトを含め、その問いかけに答えられるものは誰もいなかった。
「特攻とは、絶体絶命に追い込まれたものが、その命をかけ、敵の急所を乾坤一擲の一撃にて、食い破る攻撃です。ですがその急所は、誰よりもその敵が最も把握している」
それこそ太平洋戦争末期の、日本軍の神風特攻と呼ばれるものは、そのことごとくが失敗に終わっている。
圧倒的な戦力差もあったろうが、特攻の狙いどころがわかられている状況では、成功する確率は極めて低いのだ。
「敵、碇ゲンドウも、13号機が狙われている事は重々承知しています。そして少なくとも、敵にはこの艦に相当する船があと3隻あり、さらに無尽蔵のエヴァ量産型が控えている。仮にその戦線を
戦略を練るにあたり、重要なのはその戦況の推移をイメージする力だ。まるでその戦闘を指揮しているかのように、その前線にいるかのようの、あたかも盤上を見渡す打ち手のように、形成され得る戦場を見定められなければならない。
「あとは簡単です。ゲンドウは弱ったその獲物が、仕掛けた罠に掛かったところを仕留めればいい。それだけで全て事足ります」
その見定めた結果を、リュウジはまるで経験したかのように断言してみせた。
そしてそれが、決して当てずっぽうではないことは、ミサトは勿論、サクラもミドリも十二分に痛感している。
「だからこそ、そのトラップフィールドに、碇ゲンドウを誘い出す」
だがミサトとて、考えがない訳ではない。
もし用心深い碇ゲンドウを誘い出すことが出来たとすればまだ勝機はある。
加えてそれができる格好の存在が、目の前にいるのだ。
「私が貴方を確保できたとき、一番に考えたのは、あなたを餌にして、碇ゲンドウを誘い出す事。無論勝てるかどうかは不確かだったけど、でも先の戦闘を見て確信した。
アスカやマリには悪いが、最後に13号機を仕留められるのはリュウジしかいないとミサトは確信していた。
戦闘能力にしても、誘い出す餌としてもリュウジほどの適任は他にない。
「無論私もその役を全うする腹積もりですが、十中八九、九分九厘、私は勝てません」
だがリュウジは冷静に彼我の戦闘能力の差を実感していた。
やむを得なかったとはいえ、リュウジはオリジナルアスカを救出するにあたって、13号機を覚醒させるに至った。
その時感じた力に、とてもではないがリュウジは、
「勝てる」
とは言えなかった。
「むざむざと負ける気はありませんが、あれ程の機体を……、しかも戦うとなれば間違いなく兄が駆ることになる。真っ向から戦って勝てるとは思えません」
リュウジがこうまで断言するとは思っていなかったミサトは、胸のつかえが増したかのような心持だった。
「……それほど、力の差が?」
リュウジはゆっくりと首を縦に振った。
そう言い切られ、項垂れるミサトをリュウジは一間見つめると、
「そこで、狡い手を使います」
「……え?」
「聞いたんでしょう?北上さんから、『負けるが勝ち』と。この手を使えば、負けるのはこの化物一つですみます」
「まさか、自爆する気!?」
「いえ、そもそも4+3号機には、自爆機構はもう搭載されていません。ですが、それよりももっと強力な方法です」
「強力な方法?」
「以前重力制御機構の実験に、私が参加していたのは知っていますね?」
「ええ」
「その際十機の機体のうち、三機がある現象で消滅しました。……まぁ要は、機構の暴走により、重力に押しつぶされたのが原因です。―――それを、
そこまで言われ、ミサトもついに察してしまう。
「つまり……、ブラックホール?」
先程と同じように、リュウジはゆっくりと頷いた。
「時田さんに確認しましたが『理論上は可能』とのことです」
リュウジを知る者であれば、絶対に彼が取るとは思えない作戦だった。
確かにいずれ補完のトリガーとなってしまう事を考えれば、ゲンドウもろともその原因たるリュウジを抹消することのできる一石二鳥の作戦だった。
「ちょっ…まってよ!何よそれ!!そんな……」
だがそんな作戦に、後ろに控えていたミドリが納得できるはずもなかった。
だがミサトはギロリとミドリをその眼で刺す。
その視線にミドリはまるで、
「心臓を掴まれたような」
感触をおぼえ、何も言えなくなってしまった。
事実、この時のミサトは、その中に怒りが満ち満ちていた。
「お気持ちはわかります。艦長」
その怒りを受けるのは致し方ない。
その表情に、そんな詫びを、ミサトは感じた気がした。
「ですがこれは、あの子の……シンジのためなんです」
「私から見れば、あなたは大切な存在を置いて自分勝手に逝こうとしているようにしか見えないけど」
ミサトは、加持が逝くのを見送った。
そんな彼女だからこそ、どこかリュウジの言葉が身勝手なものに見えたのだ。
「あの子がエヴァに乗ったのは、少なからず、私に原因があります。―――私を守りたい、あの子はそう言ってエヴァに乗った。私はそれを止められなかった」
そう言ってリュウジは、ミドリとサクラへと振り返った。
「そして、その果てにニアサーを起こしてしまった。あなた方の大切な人生を、家族を奪ってしまったんです。そのツケを、あの子も払う必要があります。そうでしょう?」
シンジに対して復讐心や、憤怒の感情を二人が感じたことは勿論あった。
特にミドリの中には、シンジへの報復心ともいうべきものが内在していた。
「かと言って、その責をどう負うのか。処刑でもすればいいのか……。それで済むとしたら、その程度の覚悟、あの子は受け入れてしまうかもしれない。それでは意味がない。罰とは、罪の意識を忘れないために存在する。そのためには、シンジも同じ苦しみを負うべきです」
シンジも大切な存在を失う。そんな悲しみを、傷を負うべきではないのか。
自分が感じてきた生き地獄を、シンジも味わってこそ、その報復心は満たされる。
「私は、私の死をもってシンジと共に生きていく願いを失う。そして私はこの死をもって、あの子へ罰を送ります」
確かにリュウジの死は、シンジにミドリ達と同じ傷を負わせるだろう。
それはミドリのように、シンジに対して報復心を抱く者のそれを、満たすことにもなるだろう。
だがそれを何の躊躇もなく、さも当たり前のように、
「やってのけよう」
としている様は、ミドリが持っていた報復心を忘れさせるには、十二分な異様さであった。
そしてその様は、ミサトにも、サクラにも程度の差はあれど、その心に動揺を起こしていた。
そしてリュウジは、その動揺をもって、自身の計画を話さずに済ませられたことに、内心安堵していた。
ことここに至っても、リュウジがシンジを守りたい思いに偽りはありません。
でもその真意はまだ文章にはできません。
ご意見、ご感想をお待ちしております。
誤字脱字などございましたら、お手数ですがご指摘頂けると幸いです。
これからも応援よろしくお願いします。