新世紀エヴァンゲリオン-And become Joseph-   作:さえもん9184

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先月は更新ができず、申し訳ありません。
どうしても筆を進めることができず、遅れに遅れての更新になってしまいました。

何とか次は早く更新したいです。


Sin-愛しているからこそ-前篇

最初に憧れを感じたのは、やはりあの後姿を見たからだと思う。

碇の家に遊びに行ったときに見た、ベランダから夜を見渡しているその後ろ姿。

左手にはスコッチの入ったロックグラスを持ち、その指の隙間に葉巻を携えたその姿は、まるで映画に出てくる、ヒーローのように見えたことを、今でも鮮明に覚えている。

その時右手を空けていたのが、利き手でいざと言う時に懐に隠した拳銃をすぐに構えるためと知ったのは、だいぶ後になってのことだった。

 

「眠れませんか?」

 

その背中から急にそんな言葉を掛けられたものだから、心臓が跳ね上がりそうになった。

 

「いえ!その……すいません。くつろいでいるところ、邪魔しちゃって」

 

別に何か悪いことをしたわけではないのに、無意識にそう言葉にしてしまう。

 

「邪魔じゃありませんよ」

 

そう言って、隣のデッキチェアに座るよう促してくれた。

当時、と言うより、後にも先にも葉巻を吸っている人物など見たことが無かった自分は、子供心に物珍しさと、男子特有の憧れから、じろじろと見入ってしまっていた。

 

「葉巻を見るのは初めてですか?」

 

「は、はい。それこそ、映画の中でしか見たことないです」

 

「ま、そうでしょうね。少なくともここ日本じゃ、私以外に飲む人間は見たことが無い」

 

煙草の匂いは確かに嗅いだことはあるが、煙草とは全く違う匂いと雰囲気は、この場だけが何か全く違う世界になったようで、まるで世界中に自分とその人だけになったような感覚になった。

その感覚は不思議と寂しくも、怖くもなかった。

 

「何かきっかけがあったんですが?その……葉巻を吸うようになった理由が」

 

「……誰にも言わないって、約束してくれますか?実は、シンジにも話したことが無いんですよ」

 

碇すら知らない、リュウジさんと自分だけの秘密。

その響きは、否が応にも、己の心を熱くさせた。

 

 

遂にヴンダーは第三村へと到着した。

クレーディトに属する者は、その担当たる物資の搬入を行い、加えてLCL調整槽の受け入れ、施設の準備も早急に始めなければならない。

その慌ただしい喧騒を、リュウジはエレベーターに揺られながら聞いていた。

 

「にしても、ホントに外出許可を出すなんてね。何が狙い?」

 

エレベーターに同道していたアスカが、率直な疑問をミサトに問うた。

 

「決まってるでしょ。この人への嫌がらせよ」

 

その言葉に、リュウジの表情が弱冠曇る。

 

「存外、この人恥ずかしがり屋なところあるでしょ。大方、今更相田君や鈴原君とどんな顔して合えばいいのか解らないから、中でこもってる気だったんでしょうけど。散々振り回されたんだから、これくらいの嫌がらせしたって、罰は当たらないでしょう?」

 

図星を突かれたリュウジは、もはやぐうの音も出ない。

 

「ええやないですか。ここに真希波さんまでいたら、もっとおちょくられとりましたよ」

 

サクラの言う通り、この場にマリがいないことに、リュウジは心の底から安堵していた。

今のリュウジを見ていたらこれ幸いと、からかってくることは想像に難くない。

 

「……シンジ。俺そんなに悪いことしたか?」

 

最後の頼みとばかりに、隣のシンジに助けを求めるが、シンジの眼は冷ややかなものであった。

 

「なに?今更ボクが助け舟なんて出すと思う?」

 

「いや、これとそれとは……」

 

「大丈夫だよ。おじさんは悪いことなんてしてない。でも、随分と好き勝手したんだから、好き勝手されても文句は言えないんじゃない?」

 

「まあまあシンジ君。そんなに目くじら立てなくても」

 

「なに?カヲル君はおじさんの味方なわけ?」

 

唯一カヲルは、

 

『そこまで邪険にしなくても』

 

と取り持とうとするが、シンジのジト目に身をすくめてしまう。

味方がいない。

最後の希望だったカヲルに縋ることもできず、リュウジは孤立無援の状態であった。

かと言ってシンジがリュウジのことを心底から嫌っているかと言うと、そんなことはまったくない。

寧ろシンジの中にも、

 

『おじさんの思うままにしてほしい』

 

という想いがある。

と言うより、アスカにもミサトにも、サクラやカヲルにすら少しばかり同じ思いがあるだろう。

だがそのためにリュウジが自身の命を、羽より軽く考えているのがシンジは許せないのだ。

もっともいずれ来るであろう、死以外では避けられない運命を考えれば仕方がないとは思う。思うが、

 

『それでも生きてほしい』

 

という気持ちを捨てることは、父親の様に慕っていたリュウジに対しては無理なことだった。そんな心の葛藤を整理するには、シンジはまだ幼すぎた。

その葛藤をリュウジは十二分に理解していた。

それが今のシンジやアスカの冷たい態度に出ていることも。

だからこそ、苦笑いを浮かべつつも、リュウジはその態度を受け入れる。

心に少し重石を感じるが、そんな葛藤をしてくれてることが、リュウジはおこがましいとわかっていながらも、嬉しいと感じてしまう。

 

 

「君のお母さんは、AAAヴンダー艦長葛城ミサトだ」

 

そう言われた、加持リョウジ少年の心境はいかばかりであったろう。

まさに彼は両親を知らぬ。

親に近い存在と言えば、そう自分に言い放った相田ケンスケであり、両親については、

 

「時が来れば話す」

 

としか言われておらず、それを信頼して待っていれば父親は既に死んでおり、母親はいま人類の存亡をかけて最前線で戦っている女傑である。

そう聞かされて、

 

「わあ凄い。ボクのお母さんそんなすごい人だったんだ!」

 

そう受け入れられるほど、彼の精神は成熟していないし、既にそのような幼い段階ではない。

その子供とも、大人とも違うリョウジに、ケンスケは酷なことをしていると解っていながら、今日この日を迎えた。

 

『会わなければ絶対に後悔する』

 

その想いは、今も変わらないのだが、それはリョウジが大人になり、思い返したときに初めて思う事であって、今この時、彼がどう思うかを蔑にしていい理由にはならない。

だがそれでも会わせたいと思ったのは、14年前、シンジとその父親たるゲンドウが、結局まともな親子関係を構築することが出来なかったことが重なっていたからだった。

如何な理由があろうとミサトが、

 

『母親としてではなく、軍人として最後まで生きる』

 

と決めたとはいえ、そのまま息子を放っておくようではそれはおおよそゲンドウと何も変わらない。

それでは今後世界を仮に救うことが出来たとしても、この親子の間に歪な亀裂を残すのではないか。ケンスケはそう思えてならないのだ。

それに加えて、ケンスケは、

 

『自分には親の責務は全うできない』

 

とも思っていた。

リョウジのことは決して愛していない訳ではない。だが、リョウジの世話をするのがある種の義務感からきていることも否めなかった。

それに引き比べると、14年前無条件にシンジや自分に対して愛情を注いでくれていた男の背中は、彼の中に否が応にも高くそびえて見えていた。

 

「先生?」

 

「ん?」

 

「その、……なんで今更ボクと……葛城さんを合わせようとしたんですか?」

 

そう思われても仕方がないと、ケンスケは思っていた。

 

「そうだな……。ミサトさんに頼まれたってのもあるが。何より、互いにまだ生きているからだ。死んでしまえば、もう絶対に会うことは出来ない」

 

傍から見れば、大人の身勝手な思いにリョウジ少年は振り回されてしまっている。だが振り回してでも、ケンスケはこの親子を会わせたかった。

 

「ミサトさんは生きている。生きているからこそ、君に会いたいと思うことが出来た。この後、君がミサトさんに何を言うか、何を思うかは知らない。だがそれができるのも、互いに生きているからだ」

 

そう、生きていれば、自分の親父の愚痴に付き合うことが出来た。

生きていれば、憧れていた人と、いろんな話をすることが出来た。

だがそれは、

 

『生きていれば』

 

だ。

それは、もはやケンスケには叶わない。

だからこそ、リョウジに振り回されていると思われてでも、この親子を会わせたかった。

 

「俺はな、もうどうなったっていいんだ。友人がいて、君がいるが、俺にはもうそれで十分だ。だがリョウジ、君は違う。まだ人生これからだ。これから生きて、いろんな経験をする。それを経てふと振り返ると、こう思う。『もっと親と話しておけばよかった』ってな」

 

「ならあなたと話す」

 

「違う。……いや違わないかもしれない。俺は君を俺の子と思って育ててきた。でも、本当の親がいる。いるのに何もしないと、本当に後悔する。本当だぞ?俺がそうだったんだからな」

 

「でも、どうすれば……」

 

「別にすぐ正解を出す必要はない。間違っていたっていい。……頼む。ぶん殴ったていい。とりあえず……、ミサトさんに会ってくれ」

 

今この時、この少年に何を話せばいいのか、ケンスケには皆目見当はつかない。

だからこそ、自分の後悔を話すしかない。

 

「もし……、もしも、俺のすべてを差し出せば願いが叶うんだとしたら、父親と共に酒を飲みたい。だがそれは、死んでしまった今ではかなわない。だが君は違う、君も、母親も生きてる。生きていれば何とでもなる。……だから、頼む」

 

リョウジにとっては正直、

 

『今更親と会ったとて』

 

という想いが拭えない。

それでもケンスケがこうまで懇願していることを思うと、無碍にすることもできない。

もう少し幼ければ、面と向かってイヤと言えたろう。

もう少し大人であれば、その不満を大いに押し殺すこともできたろう。

そんな不安定な思いを抱えたままで、葛城ミサトに会って、自分は何をすれば……いや、何をしてしまうのか、全く想像できないでいた。

 

「大丈夫ですよ。もう子供じゃないんだし、そんなやんちゃしないですよ」

 

それでも目の前で頭を下げるケンスケに、リョウジはそう言えた。

不安は相変わらず拭えないが、だからこそ今日こうしてここにいるのだ。

 

「ありがとう。……あ」

 

そうこうしているうちに、ケンスケの眼にはミサト、アスカ、そして、

 

「……碇」

 

14年ぶりに会えた級友が映っていた。

 

 

だが今は彼にはすることがある。

その傍らには、緊張の面持ちが最高潮に達したリョウジがいる。

 

(俺のことは、今は後回しだ)

 

そう言って首を振り、ミサトへと目を向ける。

表情は変わっていないように見えるが、その心底にはなにか揺れ動いているものがあるような気がした。

 

「艦長。お疲れ様です」

 

「……ありがとう。相田君」

 

そしてその何かを抱えながら、ミサトはゆっくりと目線をリョウジへと向けた。

この瞬間、彼女は思わず加持リョウジを、息子の面影に幻視した。

 

「……リョウジ」

 

それは息子をよんだのか、それとも愛した男の事だったのか。

周囲はおろか、本人にもそれは解らなかったろう。

 

「……ほら、挨拶は?」

 

急に名前を呼ばれどこか呆然としてしまったリョウジ少年は、ぎこちないながらも数歩前に出る。

 

「……ありがとう。今日、私と会ってくれて」

 

この子が、私が加持から受け継いだ大切な温もりなのだと、ミサトは改めて実感していた。

リョウジの表情は未だに呆然としていたままだが、それでもその存在が今こうしてここまで成長してくれているだけで、ミサトは充分だった。

 

「……なんで、なんで今更」

 

その言葉にミサトは内心心臓が跳ね上がった。

 

「これから最後の戦いがあるからですか……。最後ぐらい会っておこうとでも思ったんですか……」

 

そう言われても仕方がないと思っていた。

だがいざそう言葉に吐き出されると、いかに歴戦の戦士といえど、動揺せざるを得なかった。

 

「……どうして今まで、ボクを放っておいたんですか」

 

ミサトも、その場にいる他の者も、何も言うことが出来なかった。

周囲は確かに慌ただしく、物資の搬送などの喧騒が溢れている筈なのに、その場だけが不気味なほど静かな空気が流れていた。

そしてリョウジは思わずはっとした。

ミサトの表情が、何かを堪えているように見えたからだ。

そして何を堪えているかは、今の彼でも自ずと理解できた。

 

「……、ご、ゴメンなさいっ」

 

その表情に耐えられず、リョウジはその場を走って後にした。

 

「リョウジ!」

 

ケンスケがなんとか声をかけるが、その背中を追うことが、彼にはどうしても出来なかった。

 

「いいのよ相田君。こんなこと言われても、仕方ないもの」

 

今更虫が良すぎることは、ミサトも重々承知している。

ここまで大きくなってくれた息子の温もりを、願わくば自身の胸に抱きしめたいが、そんな資格は、既に自分にはないのだと覚悟していた。

 

「すいません。俺がもっとちゃんと話していれば」

 

「ううん。あなたは何も悪くないわ。むしろ本当にありがとう。あんなに立派に育ててくれて」

 

「俺は何もしちゃいませんよ。元からあの子が、いい子だったと言うだけです」

 

そしてケンスケは改めて、ミサトから視線を外し、

 

「おかえり、アスカ、サクラちゃん、……碇」

 

「ケンスケ」

 

14年ぶりの級友にようやく声をかけることが出来た。

 

「悪いな。久しぶりの再会だってのに、なんだか後回しにしちゃったみたいで」

 

「謝ることないよ。でも驚いた、14年もたつと、ケンスケでもこれだけ背伸びるんだね」

 

「お前も、14年前から変わらないと、こんだけ小さかったんだな」

 

「それ、アタシへのあてつけかしら?」

 

「ハハ、悪い悪い、……でも、こう言っちゃなんだが、少し羨ましい気もするよ」

 

「何がよ」

 

「こうして二人が14年前の姿をしていると、思い出の中にいるみたいでさ。なんだか懐かしくなるんだよ」

 

年齢を経てきたことを、ケンスケは決して悪く思っているわけではない。むしろエヴァの呪縛に捕らわれず、こうして普通の人間として生きてこれていることは何よりも幸福なことだと思う。

だがどうしても、懐かしさと言うものは、こうして生きてくるほどに積み重なるものなのだと実感していた。

 

「前にあの人が言ってたな『懐かしさは、生きていくほどに、希望が積み上がったもの』だって。今なら少しだけ、その意味が解る」

 

「それで相田君、お願いしていた件なんだけど」

 

「ええ。既にLCL調整槽の設備設置に着手してますし、連絡を受けた二人の受け入れ態勢も、まだ万全とは言えませんが、調整を進めています」

 

「ありがとう。それと、彼の受け入れもお願いしたい」

 

そう言ってミサトは、カヲルをケンスケに紹介した。

 

「とりあえずは先の二人と同じく、彼もネルフから保護されたという名目で、あなたの保護下においてほしいの」

 

その会話を聞いていたサクラはとあることに気づき慌て始めた。

 

「大丈夫です。一人くらいなら、多分何とでもなりますよ」

 

そう言ってケンスケは、カヲルに手を差し出す。

その様子が目に入らない程にサクラは更に慌て始めた。

 

「俺はケンスケ、相田ケンスケだ。よろしく」

 

「カヲル、渚カヲルです。よろしく相田さん」

 

「固いな、ケンスケでいい……」

 

「ちょっといいですか!」

 

「どうしたの鈴原少尉さっきから」

 

「リュウジさんがいません!」

 

サクラの叫びによりようやくミサトらは、リュウジが影も形もなくなっているという超重大事項に気づいた。

 

 

「ハァ……。何が子供じゃないだよ。おもっきし子供みたいだ」

 

リョウジはAAAヴンダーが着艦している様を見渡せる小高い丘で、一人ごちていた。

なんとなくわかってはいた。ミサトが自分との距離を置いたのは、止むにやまれぬ事情があったのだ。それは人類の存亡をかけた戦いの最前線にいると言うだけでも、その理由に値する。

 

(それに先生だって、何の理由もなしにボクに黙っていたわけじゃないだろうし)

 

そしてケンスケも、ミサトの想いをくみ取って、今日の今日までリョウジに何も言わなかったのだ。

だがその想いをくみ取りつつも、その心の奥底にリョウジとミサトを親子として会わせたいという想いも内在していた。

それはミサトと会う直前の会話からも伺うことが出来た。

 

「なのに、……なのにボクは……」

 

「仕方ないさ。急に呼び出されたんだろう?」

 

「へ?」

 

「おっと悪い。迷彩を切り忘れてた」

 

そう言うとリョウジの目の前の空間が歪み、グレーのプラグスーツを着た同年代の少年が立っていた。

 

「君が悪く思う必要はない。大方、昨日か一昨日ぐらいに、母親と会ってくれって、相田君から言われたんだろう」

 

まったくもってその通りなのだが、いきなりの出来事にリョウジは、

 

「き、君は……だれ?」

 

そう言葉を発することしかできなかった。

 

「俺か?俺は、そうだな……」

 

そう言って少し考え込むと、

 

「君のお父さんに、地獄から助けてもらった者、ってとこかな」

 

そう言ってリュウジは手を差し出した。




今回の話はかなりの難産でした。
ミサトとリョウジの再開。
これは作中では語られることなく終わってしまったことであり、またミサトが息子と会うことをしないと決めた理由も、明確に語られることがない。
この先も公式ではもしかしたら永遠に語られることのない話を、自分が納得のいく形にどうしてもまとめることができずに、時間がたってしまい増した。
正直今でも荒削り感が否めません。

ご意見、ご感想をお待ちしております。

誤字、脱字等ございましたら、お手数ですがご指摘いただけると幸いです。

これからも応援、よろしくお願いいたします。
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