新世紀エヴァンゲリオン-And become Joseph-   作:さえもん9184

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やばいです。
ついに投稿間隔が3か月空いてしまいました。

言い訳はしません。ただただ申し訳ありません。


Sin-愛しているからこそ-後編

ケンスケは自宅の玄関を開けると、自分に追従してきた二人を振り返る。

 

「今晩は、ここを使ってください」

 

そう言ってケンスケは、未だ緊張の面持ちが拭えぬ親子二人(ミサトとリョウジ)を、そのまま招き入れた。

今晩一晩だけとなるが、親子二人、水入らずで過ごしてもらおうという、ケンスケの厚意であった。

 

「冷蔵庫の中も適当に使っていいですし、あんまり綺麗じゃないですけど、部屋も布団も自由に使っていただいて大丈夫です」

 

そうして自宅内を案内するが、その間も親子はお互いの距離を測りかねているのがありありと見えた。

 

「それじゃあ僕は今日トウジの家に泊まりますから、何かあればそちらに」

 

「悪いわね、気を使わせちゃって」

 

「いいんですよ。―――リョウジ」

 

「は、はい!」

 

「せっかく母親と一緒に過ごせるんだ。思いっきり甘えろ……とは、いきなり難しいかもしれないが。……せめて、後悔の無いようにな」

 

そう言って彼の頭をポンと叩くと、ケンスケはその場を後にした。

 

(……少し荒療治過ぎたか?)

 

が、ケンスケは気が気ではなかった。

一応同意してもらったとは言え、いきなりリョウジにとっては他人も同然の母親(ミサト)と、一晩共に過ごさせるのは、かなり危ない橋に思えてならないからだ。

 

(だが、時間もないしな。明日にはもう……)

 

そう、明日には大気圏外にある基地へ、最終決戦の為出発しなければならない。本当に今日しか時間が無いのである。

 

 

そんな不安を抱きながら立ち去るケンスケの背中を、親子二人はやはり緊張の面持ちで見送った。

 

「「…………」」

 

そしてどちらからというでもなく、二人はそのままケンスケ宅に入って行く。

そこには確かに緊張はあったが、ぎこちなさはもはや互いにないように見えた。

特にリョウジは半ば開き直っていた。

よくよく考えてみれば、リョウジがミサトに対して、遠慮しなくてはならないことなど何も無いからだ。

無論だからと言って、罵詈雑言を向けていいわけではないし、本人もその気はさらさらない。

そうして落ち着きを取り戻した二人は、テーブルを挟み腰をかけると、ついに面と向かいあった。

 

「改めて、今日はありがとう。私とあってくれて」

 

そう言うと、ミサトは深々と頭を下げた。

 

「ちゃんと自己紹介しなきゃね。私は葛城ミサト。相田君から聞いてると思うけど、あなたの生みの親です」

 

でもね、とミサトはリョウジを見ながら続ける。

 

「別に、私のことなんて、どうとも思わなくていい。……私は確かにあなたを産んだ。でも、それだけで母親なんて言えない。血の繋がりはあるかもしれないけど、私は、あなたに何もしてあげられてないんだもの」

 

命を産むという行為は、恐らく最もこの世で尊く、最も困難であることは疑いようは無い。だがそれだけのことをしたとしても、母親になれるわけではない。これ程のことをしたとしても、それが我が子に愛情として直接届くことは無いからだ。

むしろその後、その子の為にどれだけその身を更に捧げることが出来るか。そしてその行為が、その子に届くことで、初めて愛情となるのだ。そこには男女の性差は良くも悪くも関係が無い。

ミサトはその行為を全くリョウジにしてこなかったのだ。だからこそ、リョウジに拒絶されたとて、

 

『仕方のないこと』

 

として、受け入れるつもりでいた。

にもかかわらず、こうして二人きりになることを受け入れてくれた。ミサトにとってはそれだけで、充分であった。

 

「その、聞いてもいいですか?」

 

「え?」

 

おもむろに、リョウジがそう聞いてきたため、多少面食らったが、

 

「———どうぞ」

 

その驚きは、大きくなることはなく、穏やかにそう返すことができた。

 

「どうして、ボクに父さんの名前を付けたの?」

 

その質問が来ることは、心のどこかで覚悟していた。

だからこそ、名付けた時の想いを、思い出すようにミサトは続けた。

 

「……お守り…のつもりだった」

 

「お守り…ですか?」

 

「そう。私はあなたを産んだ時、あなたの母親となるのではなく、戦い続けることを選んだ。そうなれば、あなたは一人で生きていくことになる。そんなあなたに加持の、あなたの父親が、そばにいて、守って欲しい。そんな願いを込めて、あなたに『加持リョウジ』と言う名前をつけたの」

 

ミサトが心から愛した『加持リョウジ(恋人)』に死してなおも役目を押し付けてしまったことに引け目を感じながらも、どうか、母親の資格などない自分の代わりに、『加持リョウジ(息子)』を見守って欲しい。

その強い願いは、ミサト自身は気づいてはいないが、母親が息子を思う心に他ならなかった。

だがミサトは、己がワガママを言っているように思えてならなかった。母親としての役目を放棄して、息子を放っておいた事実は変わらないからだ。

 

「ごめんなさい。他の子のように、そんな深い意味もなくて」

 

そんな引け目を拭えないミサトは、再度リョウジへ頭を下げた。

 

「……ありがとう」

 

その言葉にハッとしたミサトは、思わず顔をあげた。

 

「ボクのこと守りたいと、そう思ってくれてたんですね」

 

そう言うと、リョウジは静かに立ち上がりミサトが座る横へと歩み寄った。

 

「リョウジ?」

 

「そう思ってたからこそ、戦い続けてきたんですよね」

 

そしてそっとミサトを抱きしめた。

 

「ありがとう。そして今日まで、お疲れ様です」

 

息子(リョウジ)の言葉にミサトの眼には、いつの間にか涙が滲み出ていた。

 

「正直に言います。これからあなたを素直に、『母さん』と呼ぶには時間がかかるかもしれません。でも、あなたがくれたこの名前は、すごく気に入っています」

 

ミサトは涙で濡れた顔を見られまいと、嗚咽を聞かせまいと、なんとか両の掌で顔を覆った。

そして、静かに震えるミサトの身体を見て、リョウジは暖かな笑みを浮かべた。

 

「そしてお願いです。どうか……、どうか最後の戦い、生きて帰ってきてください。……そうでなきゃ、それこそあなたを『母さん』と呼べませんから」

 

今はやはり、どうしても許すことはできない。でも、いつか許すことができると思う。だからその為にも、

 

(どうか、生きて帰ってください。…今は、それだけです)

 

リョウジはそう願っていた。

 

 

その一方で、

 

「さて、リュウジさん。私がなぜ怒っているのかわかりますね?」

 

サクラの実家。つまり鈴原宅において、

 

「いやぁ、あなたのように若い女性の怒りを買うとは、私もまだ捨てたもんじゃ……」

 

リュウジは彼女に居間に正座させられ、

 

「私がふざけてると思います?」

 

「……いいえ」

 

文字通りお説教を受けていた。

 

「あなた最初に言ってましたよね?『監視であるお二人の指示には、出来うる限り従います』って」

 

関西の訛りが存分に入った言葉の羅列は、ドスの効いた迫力を感じさせる。

 

「アハハ……歳のせいか、どうにも記憶が……」

 

「言ったんです。いいですね?」

 

「……ハイ」

 

「そしてあなたはそれを受け入れたんです。わかりますね?」

 

さらには、

 

『ゴゴゴ……』

 

と言う漫画でしか聞こえないような、迫力とオーラをリュウジはヒシヒシと感じていた。

 

「だと言うのに。あなたは、私の監視を一時的とは言え逃れ、勝手な行動をした。……これ、私が迷惑してないと思いますか?」

 

はたから見れば、まだ少年と言う見た目の男の子が、姉と言っても差し支えない歳上の女性に、正座をさせられ、お説教をくらっていると言う状況である。

 

「いいえ。あなたには多大なご迷惑をおかけしました」

 

だがその実態は、還暦越えのいい歳したオッサンが、40近く歳の離れた女性に、お説教されている、と言うのが正しい状況である。

 

「なんちゅーか、サクラのやつ、いつのまにかすごいヤツになったんやなぁ……」

 

「トウジ?」

 

鈴原宅にて、そんなやり取りをしている所に、新たな人影が加わっていた。

ようやく物資の受け入れがひと段落した彼———鈴原トウジは妹と、そして互いに14年ぶりとなる級友と再会するために、遅まきながら合流をしていた。

だがそこにはただならぬ雰囲気の我が妹が、見覚えのない少年に正座をさせ、叱りつけると言う訳のわからぬ光景が広がっていたのだ。

 

「いや、あのリュウジさんを、いつの間にかあんな扱いできるようになってるっちゅーのが、なんちゅーか……」

 

そしてついていけない状況を、周囲から説明を受けて、一先ず見守っていると言うのが現在の状況である。

ハッキリ言って信じ難い説明のオンパレードであったが、ドッキリにしては無駄に手が混んでいるし、そんな時間的余裕があるとは思えない。

そして何より、

 

『まぁ、リュウジさんならそれぐらい……』

 

と、どこか達観している己もいたので、思いの外落ち着いて受け入れていた。

そしてそのリュウジが、愛する妹から叱責を受けていると言う構図は、

 

「ぷっ」

 

笑いを堪えていたトウジを、腹の底から笑わせたのだった。

 

「あは!あはははは!」

 

いつも明るさを絶やさぬトウジではあるが、ここまで心底より笑ったのは久方ぶりであった。

 

そしてそんなトウジを見て、尚且つ現状を知っていれば、

 

「ぷふっ」

 

「ふ、フフフ!」

 

次の瞬間、辺りを震わすほどの笑い声を響かすのは、無理からぬことであった。

 

「ちょ、ちょっと!お兄ちゃん!皆さんも!ウチは真面目なんですよ!」

 

「いや!わかっとる、わかっとるんやけど!ヒー!ヒーハハハハハ」

 

トウジは腹がよじれるかと思うほど笑った。

シンジも、アスカも、ケンスケも、カヲルも。

 

「リュ、リュウジ!あ、あんた六十にもなって!アハハハハハハ!」

 

「う、うるさい!歳は関係ないだろ!」

 

「関係あるよ、おじさん。い、いい歳して、そんな子どもみたいに怒られて、ハハハハ!」

 

シンジもアスカも、現状がおかしくて仕方なかった。

それをリュウジは顔を真っ赤にして奮戦する。

だがその様すら、現状の笑いに拍車を掛けるのみである。

 

「ま、まあまあサクラちゃん。リュウジさんも悪気があったわけじゃないし」

 

「悪気がなければ、何をしても言い訳とちゃいます!」

 

もっともである。

リュウジは己がどれほど危険な存在であるかを理解した上で、今回の行動に出たのだ。

 

「でも、おかげで葛城さんと、リョウジが無事面会することができたんだから」

 

だがそう言われると、サクラも言葉が詰まった。

リュウジが一時的とは言え、行方をくらませたのは、リョウジとミサトの間を取り持とうとしたが故であることは、サクラも痛いほど理解している。

 

「あの二人は大丈夫そうなの?」

 

アスカもことの顛末が気になっていないわけがなく、ケンスケにそう聞いた。

 

「不安はあるけど、今は信じるしかない」

 

そう答えると、ケンスケの表情に不安が浮かぶ。

 

「だけど、正直言って、二人で一晩過ごしてくれるとは思ってなかったからな。それだけでもリュウジさんには感謝しかないよ」

 

だからさ、と言ってケンスケはリュウジの隣の正座する。

 

「オレからも謝るからさ。この通り、リュウジさんを許しちゃくれないか?サクラちゃん」

 

そして、ケンスケもサクラに対して頭を下げた。

 

(う〜……)

 

ケンスケにそうまでされては、サクラもこれ以上何も言う事ができなかった。

 

「わかりましたよ。そこまで言われて怒り続けてたら、私が空気読めてない見たいじゃないですか」

 

その言葉に、リュウジは胸を撫で下ろす。

 

「ありがとうございます」

 

「でも次は本っ当にないですからね」

 

「はい、肝に銘じます」

 

その様子を見て、

 

(変わらないな、この人は)

 

とケンスケはどこか安堵していた。

自分の非を認め、しっかりと頭を下げ、謝る。

それが歳を経るに連れて、段々とできなくなていくことに、寂しさを覚えつつも、ダメな大人だなと自身に皮肉をこぼしていた。

だが碇リュウジと言う男は、初めて会った時から違った。

自分たち子供に対しても、丁寧な態度を崩すことはなかったし、頭を下げることに対しても、何ら躊躇することはなかった。

かと言って、その様がカッコ悪いかと言うと、そんなことは全くなかった。

頭を下げることに対して躊躇が無い、と言うより頭を下げるタイミングを見逃さなかった、と言うのが正しいのかもしれない。

とりあえず頭を下げて済まそう、と言う訳ではなく、この場においては、頭を下げ、謝らなくてはならない。と把握した上で、しっかりと頭を下げているのだ。

今の歳になったからこそ、ケンスケはそんなリュウジの大人らしさに感嘆としていた。

 

「アスカ!」

 

そこに新たな人物が現れる。

 

「ヒカリ!元気だった」

 

「ええ、よかった。アスカも大丈夫そうで」

 

洞木ヒカリ、もとい鈴原ヒカリであった。

 

「そんな心配することないわよ」

 

「そうかもだけど、あまり無茶しないでよ」

 

「わかってる。あ、ツバメ〜」

 

そして背負う赤子を見て、アスカの表情が綻ぶ。

 

「少し見ない間にまた大きくなったわね〜」

 

「え?じゃあこの子がトウジと委員長の?」

 

「せやで、ツバメや!かわええやろ!」

 

だがトウジの声が大きすぎたのか、ツバメが盛大に泣き出してしまう。

 

「ちょっとあなた」

 

「あ〜すまんツバメ。驚かせたな〜」

 

「トウジ、あんたいい加減もっと父親らしく腰据えて構えなさいよ」

 

「いや〜、そんなトウジ逆に気持ち悪いけど……」

 

「なんやとシンジ!?」

 

その声が、更にツバメの泣き声に拍車をかけた。

 

「あ〜あ……」

 

その様を見て、ついにケンスケまで呆れた声を上げた。

 

(……暖かいな)

 

そしてリュウジは、その団欒の様を、一歩引いて見守っていた。

 

「あなたも加わったらどうです?」

 

そんなリュウジに、カヲルが声をかけた。

 

「私はいいんですよ。元々、あの中に加わる資格などない存在ですから」

 

「使徒だから、ですか?」

 

カヲルの言葉に、リュウジはかぶりを振る。

 

「それ以前の問題です。……私は、戦争屋ですから」

 

そう言って、リュウジは己の右の掌をじっと見つめる。

 

「この体になる前から、私はこの手で多くの命を奪ってきました。そんな人間が、未来ある子ども達の近くにいるべきではない」

 

そしてゆっくりとカヲルに顔を向けた。

 

「だから最初に、兄とユイさんに言ったんです。『願わくば、あなた方家族に幸せが訪れ、私が野垂れ死にますように』と」

 

そうすれば、少なくとも自分の業に、兄夫婦とその子供が巻き込まれることはないと思っていた。

 

「ですが、ユイさんに頼まれてしまった。あの子を、シンジを守って欲しいと。己の全てを賭けて守ってきましたが、結局、あの子の平穏を、守ることはできませんでした」

 

その結果を経て、リュウジは改めて実感していた。やはり戦争屋の自分が身を置くべき場所は、戦場以外に許されないのだと。

 

「リュウジさ〜ん」

 

だがそこにトウジが声を挟んだ。

 

「どうです。この子を、抱いてやっちゃくれませんか?」

 

それを受けてリュウジは一瞬目を丸くするが、

 

「いえ、私は結構です」

 

「お願いです。うちの人がどうしてもって」

 

そしてヒカリも、どうぞと言うふうにリュウジへツバメを差し出す。

 

「……リョウちゃんが言ってた通りだ」

 

「え?」

 

「『あなたは他人を許すことがあっても、自分を許すことは絶対にない』って」

 

リュウジは内心ドキリとしてしまう。

加持の名が出てきたこともそうだが、彼がカヲルを通して、自分をじっと見据えているような感覚に襲われたからだ。

 

「でも見てください。少なくともここにいる人は、皆んなあなたを許してる」

 

リュウジはずっと戦い続けてきた。それをここにいる人達はみんなわかっている。

ゆえに、

 

『ならばもういいじゃないか』

 

と言う許しを、大なり小なり持っているのだ。それをいつまでも拒んで、意固地になって何の意味があると言うのか。

 

(歳をとると、頑固になるってのは本当なんだな)

 

そんな意固地になっている自分に気がつくとどこかおかしくなり、リュウジの表情に薄っすらと笑顔がほころんだ。

 

「ありがとうございます。それじゃあ、少しだけ」

 

そう言って、リュウジはその腕にツバメを抱いた。

その瞬間、

 

「……重いな」

 

思わずリュウジはそうこぼした。

 

「何言ってんのよ、アンタにとっちゃ軽いもんでしょ」

 

リュウジの使徒と化した肉体の強さを知るアスカが、思わずそうツッコミを入れるが、

 

「いや、重い。……今まで俺が握ってきたどの銃よりも重い」

 

その瞬間、その場にいる誰もが各々の心にずしりと重さを感じた。

その言葉に、今まで数え切れぬほど、命のやり取りをしてきたリュウジの、決して叶うことのない憧れを感じたからだ。

 

 

その夜。

リュウジは一人、鈴原宅の縁側にて夜空を見上げていた。

 

「……今更だけど」

 

「ん?」

 

そこにもう一つ人影が加わる。

 

「14年前から、眠れてなかったのは、使徒の浸食のせい?」

 

アスカであった。

 

「ああ。尤も、俺の身体の状況を正確に把握したのは、ネルフに来てからだったがな」

 

当時のリュウジは、情報を『知らない』ようにいる事を徹底していた。

それが恐らく、自分と、何よりシンジを守ることに繋がると考えたからだ。

 

「どうしてアンタは、すぐ覚悟を決められたの?」

 

「覚悟?」

 

「浸食されてることをばらしたとき、アンタは既に覚悟を決めてた。アタシ達を守る心や、愛する想いが消えなければ、どうなったっていいって」

 

「ああ……」

 

リュウジはその時の己の心を思い出すかのように、夜空を見上げた。

 

「諦めてたから……かな」

 

「……リリンでいることを?」

 

リュウジはゆっくりとかぶりを振った。

 

「オレは、あの時からすでに化物だった。……殺し合いを、命のやり取りを心から望む戦争屋だった。それがもしかしたら、使徒になれば変わるかもと思っていた」

 

だがそんなことは無かった。

使徒となった今でも、己の中の闘争本能が消えることは無かった。

 

「俺はな、アスカ……」

 

リュウジは呆れ顔をアスカに向けた。尤もその呆れは、アスカでなく自分に向いているのだが。

 

「セカンドだの、フォースだの、人類補完計画だのを止めるその動機は、他者がいなくなるからだ。俺が求める戦争って奴は、他者が存在して初めて成立する」

 

人類を次の段階へと強制的に進める、人類補完計画。すべてが一つに帰るとして、果たして自分はその中に入れるのだろうか。闘争を望むということは、何よりも他者という存在を求めることだ。

 

「俺は結局リリンでなくなっても、そんな自分が変わることが無かったと知って、愕然としたよ」

 

「でもアンタは、常に誰かの為に戦ってきた」

 

「偽善さ。誰かを守る為に戦うという題目が欲しかっただけさ」

 

「……いいじゃないそれで」

 

アスカは徐に立ち上がり、夜空を見上げながら続ける。

 

「偽善だろうと、お題目だろうと、碇リュウジがアタシ達を守った結果は変わらない」

 

「―――守れなかったろう、オレは……」

 

夜空を見上げるアスカとは裏腹に、リュウジは沈み込むように頭を抱えた。

 

「オレは君を救えなかった、シンジを戦わせた、……世界を変える力を持っていながら、オレは……世界を存続させる道を選んだ」

 

全てを変えてしまえば、それは世界の破滅につながるとリュウジは算段をつけたが、果たして己の選択は本当に正しかったのか、仮に正しかったとして、せめてエヴァパイロット達を救うべきではないのか。

 

「……アンタはやっぱすごいわね」

 

「え?」

 

「アンタが何を勘違いしているのか知らないけど、アタシは救われた。エヴァに乗る事しか意味を見いだせなかったアタシの世界を広げてくれて、そして死に物狂いでアタシのもとに駆けつけてくれた」

 

「だがオレは……」

 

「大切なのは、(ここ)(ここ)、でしょ?身体や見た目は問題じゃない。そう教えてくれたのは、碇リュウジだった」

 

アスカは救われたのだ。それはリュウジが何をどう感じていようと、アスカ自身がそう感じているのだ。リリンでなくなった今でも、その想いは変わることは無かった。

 

「その上で、アンタは世界も存続させた。……いい?」

 

いつの間にか目の前に立っていたアスカは、リュウジの顎を掴み己に眼を向けさせる。

 

「アンタがやったの。他の誰でもない、碇リュウジがアタシらと、世界を守ったの。周りがどう思うか、どう見るかは関係ない。他でもないアタシがそう思ってるの」

 

それはかつてリュウジがアスカに言い放った言葉だった。

 

「……お前と初めて会った時を思い出した」

 

「なによ急に」

 

そう言ってアスカはリュウジの顎を放した。

 

「お前はこう言ったんだ『その人がいない所で、その人の悪口を言うのは最低だ』ってな」

 

「そうだったっけ?」

 

「ああ、そしてお前は、ユーロ・ネルフの時も、そして今も、俺の悪口は何一つ言わなかった」

 

ジュニアがリュウジであると知らなかった時も、己を許せないリュウジを見ている今でも、アスカはリュウジを許していた。

それは彼女が強いからこそ、できる事だった。

 

「本当、強くなったなアスカ。……シンジにはもったいない」

 

「でしょう?こんないい女を好き勝手しときながら、アイツマリやレイにまで……」

 

「好き勝手されたのか?」

 

アスカはその時、己の失言に気が付いた。

スクッとリュウジは立ち上がると、先程まで沈んでたのがウソの様にウキウキした表情を浮かべていた。

 

「教えてくれよ、シンジになにされたって?」

 

「うっさい!アンタには関係ない!」

 

「関係なくはないだろう。俺の甥っこだぞ?」

 

アスカにとって、長くめんどくさい夜は始まったばかりだ。




もう今年も師走ですね。
毎年、毎年、今年こそ完結させるぞ、と言っていながらこの様です。

来年こそは……。また同じこと言ってますwww

ご意見、ご感想をお待ちしております。

誤字、脱字等ございましたら、お手数ですがご指摘いただけると幸いです。

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