新世紀エヴァンゲリオン-And become Joseph- 作:さえもん9184
UAも一気に増えて驚いています。どなたか拡散してくださったんでしょうか。だとしたらありがとうございます。
評価をつけてくださる方も、徐々に増えてきて嬉しい限りです。
身が引き締まる思いです。今後ともよろしくお願いします。
「レイ?少し、いいかしら?」
綾波レイの病室に赤木リツコが現れたのは、先の使徒戦から2日後のことであった。
「はい。何でしょう?」
「紹介しなければいけない人がいるの。本人もぜひ挨拶したいって。いいかしら?」
「……構いません」
レイの言葉を受け、リツコが誰かに部屋に入るよう促す。
「はじめまして。碇リュウジです。よろしく」
レイは初めて見るその男に、若干心がざわついた。
「…………碇?」
「ええ、この人は、碇司令の弟。碇リュウジさん。この度、戦術作戦部作戦局第一課に配属されました。これからの作戦指揮にも、葛城二佐の補佐として携わる事になります」
そう言われた男性は、レイに向けて丁寧にお辞儀をした。
「それと、お礼を言わせてください」
「……お礼?なぜ?」
「その体で、シンジの代わりに戦おうとしてくれたお礼です。ありがとう」
「その必要はない。命令されただけだから」
「……そうか、……命令、か。……ただ命令されたから、君はエヴァに乗るのか?」
「……違うわ」
「……そうか、……強いな、君は」
「……ほかに、何もないもの」
その言葉に、彼は少し目を丸くした。
「……それは良かった」
「……え?」
だがすぐに、笑顔を向けてきた。
「戦う理由や、生きる理由は、他にいくらでもある。それをこれから、貴方は見つけられる。そしてもしそれを見つけられた時、貴方には強い想いと、最強の武器が備わる」
そして、そっと手を差し出した。
「なに……?」
「握手です。……初めてですか?握手は」
レイは黙ったままだった。
ここまで積極的に接してくる人物は、それこそ彼の兄以外初めて出会った。
「これから仲良くなるための、儀式のようなものです。……さぁ」
そう言って、レイの手を取り、半ば無理矢理握手をする。
ゴツく、その気になれば自分の腕などへし折りそうな力強さを感じる
だがそんなことをする気が毛頭無いのは、握られながらも伝わってきた。まるで繊細な紙細工を持つかのような、心遣いも感じたからだ。
「…………」
だが、彼女は無言のままだった。なにをどう言えばいいか、わからなかったからだ。
「ただ、今は命令があっても、体を休めてください。それが、今の君の一番の任務だ」
そう言って、彼はレイの頭を撫でた。
「!!!……」
思わず、レイはその手を弾いた。
「……申し訳ない。いきなり馴れ馴れしすぎた。謝ります」
「…………」
手を弾いたにも関わらず、その男は変わらず笑顔だった。
「これから、少しずつ、互いを知っていこう」
「なぜ?」
「私がそうしたいんです。君のことを知りたいし、私のことを知ってほしい」
ではまた、と言うとその男は、赤木リツコと共に部屋を後にした。
(碇司令の、弟……)
彼女にとって、これが初めの碇リュウジとの会合となった。
彼に触られた部分の熱は、一人になった後もしばらく残り続けた。
※
「なぜ彼女に会おうとしたのですか?」
廊下に出て歩きはじめてすぐに、リツコはリュウジに問うた。
「……赤木博士。私は貴方の直属の部下ではないが、下っ端です。敬語は不要ですよ」
リュウジはリツコを見ずに、言葉を返した。
「……わかったわ。それで?なぜなの」
「言ったでしょう?お礼が言いたいからだと」
「そんな言葉で、私が誤魔化されると?」
「もちろん、彼女のことを知りたかったのもあります。戦うことになった子供は、大人より勇敢になり、大人より深く心に傷が残る。……彼女は、そうなりかねない」
「レイが?ありえないわ」
「……私は最初、彼女は感情を無くしたのかと考えた。ですが、少し違う。彼女にはまるで、感情が最初からないかのようだった。それが少しづつ芽生えてきている。彼女の現状を、漠然と分析しての所見ですがね」
リツコは背筋に冷たいものを感じた。
あの短期間で、そこまで初対面の人間をほぼ正確に分析してみせたからだ。
しかも、綾波レイという超特殊な存在を。
「赤木博士、貴方はポーカーフェイスが苦手なんですね、今ので、十中八九から、確信に変わりました」
「あっ、あなた……!」
リュウジは、『今のリツコ』を見て確信した。
カマをかけたのだ。実のところ、彼女のポーカーフェイスは完璧だった。
カマをかけた後の慌てようで、リュウジは自分の所見が当たっていると確信できた。
「いいわ、感情が最初からない。それは当たっているとして、どうして心が芽生えていると?」
「私の手を振り払ったのがいい証拠です。本当に心が死んだ子供は、何をしても無反応なんですよ」
そんな子供達と比べれば、綾波レイの反応は、彼にしてみればいたって健全であった。
「人と接するに当たって、嫌われることはさして問題じゃない。一番厄介なのは相手が無反応であることです。相手を嫌うことは、相手を好きになる以上に、エネルギーが必要ですから」
リュウジは、レイに嫌われても構わない、と考え、初対面からあえて馴れ馴れしい態度で接したのだ。
リツコはここまでで、子供の精神の把握と、その対処を、この男がなぜ解っているのか、その一つの可能性に行き着いた。
「……あなたはその、所謂少年兵の訓練を?」
「訓練どころか、一緒に戦場に立つことも珍しくなかった。セカンドインパクトの後は、特に多くなりました。時には子供たちだけを率いて戦場に立つこともあった」
彼の脳裏には、いつかの子供達の笑顔が去来していた。
「戦わなけば、彼らの妹や弟が食っていけませんからね。私はそんな子供達をなんとか、守ろうとした。ですが守ろうとすればするほど、あの子たちは、俺の為に必死に戦った。そして、みんな死んでいった」
あの時、リュウジは何もできなかった。せめて後一人でも、自分のような大人の兵士がいれば、結果は違ったのかもしれない。
「知ってますか赤木博士。時に愛情は、暴力以上に残酷になるんです。子供達は、愛情を注げば注ぐほど、俺を守ろうとした。その為に、あの子たちは死んでいった」
その時の表情が、今はシンジとダブる。
「それが、あなたのトラウマなのかしら?」
「……フ、そんなお上品なものじゃ無いですよ。…ただ、それがシンジをエヴァに乗せたくない理由であるのは確かです。性懲りも無く、俺はまた同じことを、今度はシンジで繰り返している。あの子は俺を思って、エヴァに乗った。あのレイという子にも何か大切なものがあって、それ以外何も無いと思って、エヴァに乗っている。」
「……後悔してるのかしら?シンジ君を愛したことを」
「まさか。俺の唯一の後悔は、ゲンドウの弟に生まれたことです」
リュウジはシンジを愛したことを、後悔していない。なぜならシンジはまだ生きているからだ。
「赤木博士。私の願いはいつか、エヴァンゲリオンが、いらなくなって、あの子達が普通の幸せを得られる世界に変えること。ただそれだけです」
そこには何も打算などない、ただ一人の男が守りたいものを守る、その決意の表情のみであった。
「話が……過ぎましたね。私はここで」
ちょうどシンジの眠る病室の前であった。
「ありがとうございます。くだらない話を聞いてくれて」
「いえ、くだらないなんて……」
「くだらないですよ。偉そうなこと言って、私が一番子供を戦わせて、殺してるんですから」
リツコもリュウジに思うところはある。だが先ほどのリュウジの話から、彼の信念の根幹が見えた。それは決して、
「くだらない」
とかたづけられるものではない。
「正式な配属は、3日後だそうです。……それまでは、この子のそばにいます。何か御用があれば」
「ええ、解ったわ」
※
リュウジは、シンジの病室に入り、シンジの寝顔を見て、ようやく安心した。
無事とは聞いていたが、やはり実際に見てみないと、安心はできない。
「よかった、シンジ」
安らかに寝息を立てるシンジを見て、安心したリュウジはそう呟く。
(我ながら、よくもいけしゃあしゃあとそんなこと言えるよなぁ……)
戦場に送り出したのは、他ならぬ自分ではないか。
子供に戦わせておいて、よかったもクソもない。自分はのうのうと、安全なところで指示を出していただけだ。
それが解っていながら、同じ轍を踏んでいる。
だと言うのに、自分でも、
「狂ってる」
と思う程に、自身の闘志は萎えていない。
決意はあれど、嫌だとも、逃げたいとも思えない自分がいる。それがいつか、同じことを繰り返すかも知れないのに。
いっそ全て放り出してしまえ、と言い聞かせようとすることも、実はある。
だが、半ば狂気となっている、子供を守るという想いは、自分にシンジを守る、という形で少しもブレることなく、彼を奮い立たせる。
(……チッ。今更だろう。俺のバカさ加減は、もうどうしようもない)
この狂気の病は利用する、と決めたのだ。なんと言われようとも、仮にシンジに蛇蝎の如く嫌われようとも、
「絶対に守り抜く」
と決めたのだ。
(それより、考えなきゃいけないことがあるだろう)
そう、兄ゲンドウの目的。
あいつが世界を救う為に戦うなどまず、
「あり得ない」
と断言できる。
そんな兄の元に、シンジと共に馳せ参じてみれば、謎のロボットにシンジが載せられ、使徒と呼ばれる、巨大不明生物と戦う。
そしていきなり、シンジはそれを操縦して見せた。
0.00000001%の起動確率にも関わらずだ。
「運が良かった」
で、片付く確率ではない。
おそらくユイも、いつかシンジがエヴァに乗ることを見越して、リュウジに守るよう頼んだのだろう。
(あの時、シンジが狙われたのも、エヴァに乗れるからなのか?)
そしてユイさんに、髪の色以外は瓜二つ、というよりユイさんが14歳だったら、こんな見た目をしていたであろう、綾波というユイさんの旧姓と同じ名字の少女。
(声までそっくりだった。……だが姉妹と言えるほど、歳が近いようには見えない。そもそも、姉妹でもあんなに似るとは思えない)
一卵性双生児であれば話は別だが、それこそ年齢的にありえない、であれば、
(……クローン。それしか思いつかない)
彼が知りうる知識では、それしか思いつかない。だがそれこそなぜわざわざ死んだ妻のクローンなど作ったのか。
(……だが、奴なら作りかねない)
自分とはまた違った、ユイさんという光を求める狂気にゲンドウが侵されているとしたら。作りかねない。
(……やはり兄弟、狂っているところは似ている、か……)
屈辱でしかないが、そこは問題ではない。
なぜ使徒と戦うことや、彼女のクローンを作ることが、ユイさんを生き返らせることになるのかは、定かではない。
そもそもユイさんが、どうなって事故死する結果となったのか。
人づてに実験事故で亡くなったと聞いているが、聞いただけで見たわけではない。
彼女の墓にも、亡骸が眠っているわけでははないと聞く。
(……ハァ、考えたところで埒があかない。結局、判断材料がなくて、憶測でしか考えられん)
今解るのはゲンドウの目的と、シンジをその目的に利用するために呼んだこと、そしておまけでついてきた自分は、
「邪魔でしかない」
ということである。
なら邪魔者は邪魔者らしく、せいぜいかき乱せばいい、そうすれば、向こうから仕掛けてくるだろう。
※
5年前。
血と硝煙の匂いが、シンジの鼻孔を激しく貫く。
あまりの辛さに、吐き気や嗚咽が止まらなかった。それは恐らく、今まで感じたことのない、恐怖も相まって、シンジに襲いかかっていたからだろう。
そんなシンジに、一つの大きな影が、ゆっくりと近づいてきた。
「……碇シンジ君。だね?」
「……だ、誰…ですか?」
「私はリュウジ、碇リュウジ。君のお父さんの、弟なんだ」
「父さんの、弟?」
「ああ、気軽におじさんと呼んでくれ。君のお母さんに頼まれてね、助けに来たんだ」
シンジは未だに恐怖が拭えない中、目の前に巨大な影が近づくのを黙って立ち尽くすしかなかった。
「恐かったね、でももう大丈夫」
そう言ってリュウジは、はめていた革手袋を外した手で、シンジを撫でようとした。
「ヒッ!!」
だがシンジは恐怖のあまりその手を弾いてしまった。
「……ごめんよ、いきなり驚かせてしまったね。だがおじさんを信じてくれ。本当に君を助けに来たんだ。ここは危ない、おじさんが必ず君を守るから」
そう言ってしゃがみながら、リュウジは手を広げ、
「さ、おいで」
と、シンジを優しく迎えようとしていた。
その表情は、今までシンジが大人から受けた覚えのない、暖かいものであった。
「お、おじさんは……」
「うん?」
「おじさんは、僕を置いて行かない?」
この人なら、信じていいのかもしれない。シンジはそう思い始めた。
「ああ、約束する。私は、君のそばにいるよ」
その言葉を聞いて、シンジはおずおずとリュウジの胸に抱きついた。
「さぁ、行こう。」
リュウジは抱きついてきたシンジを、優しく抱きしめ返し、抱え上げ、その背中を優しくたたきながら、その場を後にした。
そして、これがシンジが初めて実感した、大人からの温もりとなった。
(久しぶりに見たな、この夢)
そうして夢と気づいたシンジは、徐々に覚醒していった。
(どこだっけ、ここ。確か……)
「……シンジ?」
名前を呼ばれ、声がした方向に顔を向ける。
「…………おじさん?」
「シンジ。気がついたか」
よかった。とリュウジは安堵の表情を浮かべた。
(この人は、まだ最初の約束を守ってくれてる)
こうして自分を置いて行かずに、ただ待ってくれている。
「少し、見せてくれ」
そう言うと、リュウジは軽く瞳孔の開き具合や動き、口を軽く開けてのぞいたりして、後遺症が無さそうであることを、確かめる。
「後で検査があるだろうが、特に問題はないだろう。どこか痛んだり、吐き気や倦怠感はあるか?」
「無いよ。大丈夫」
そうか、と言ってリュウジは布団をかけ直した。
「……シンジ、とにかく無事でよかった。……それと、ありがとう」
「……おじさん。見てた?僕の戦い」
「当たり前だ。強くなったな、シンジ」
「……おじさんはさ、僕に戦う技術を教えるの渋ってたよね。俺の技術は、人殺しにしか使えないからって」
実は、リュウジがシンジに技を教えたのは、ここ最近であった。
それも格闘術だけで、武器の扱いなどは教えていなかった。
「……ああ」
シンジは、ゆっくりと上体を起こし、リュウジを見る。
「でも見てたでしょ?おじさんから教わった技術で、僕は世界を救えた。おじさんの技が、人類を守ったんだ」
「……シンジ、お前」
シンジは、そっとリュウジの手を取った。
「良かった。これでおじさんの技術が、単なる人殺しの技術じゃないって証明できたんだ。ね?」
そしてリュウジの顔を見上げると、シンジを一瞬固まった。
「……おじさん?……泣いてるの?」
「へ?あ……あれ?」
確かに、リュウジの両目からは、涙が溢れていた。
「ハ……、ハハハ。まじか、……涙なんざ。もう、枯れ…果てたと……」
だが涙は止めどなく溢れてきた。
「なんだよこれ。お前が、…お、お前が……目覚めた時……、な、がれな、かったくせに。こ、こんなんで……」
「初めて見たよ、おじさんが泣くところ」
「お、おとなを、から……、かうな。ったく」
この時、二人は互いに、同じことを誓い、そして覚悟した。
(この人の事は……)
(この子だけは……)
((……絶対に守る))
この作品のシンジ君は、シンジ君でなく、シンジさんになって行くと思います。
後今回のリュウジとレイとの初会合が悩みました。
最初にユイさんのことを知っている人が、レイに会ったらどう考えるのか、自分なりの答えが今回です。
ご意見、ご感想お待ちしております。
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