Fate/loneliness -little summoners- 作:からすまそういち
3 聖杯戦争(真) 昼
キャスター
――私は待っていた。
「ねぇトージ、聞いてる?」
例えば、幼なじみの野熊冬至に話しかけてるこの学校の一室を、
「ねぇ聞いてないでしょ、聞いてないよね?難しい顔してたら大丈夫だと思ってるよね?」
「今は人間の存在意義について考えているんだ。邪魔をするな」
「え?ばかじゃないの、そんなの考えてどうするの?」
例えば、私やトージが今まで暮らしてきたこの小さな町を、
「……いい。お前と話すと疲れる。俺に話しかけている余裕があるなら、お前の大好きな星空でも眺めながらUFOが降りてくるのでも待っているんだな」
「心配、してんじゃん……」
「ほらユー! 夫婦漫才も程々にして、一緒に帰るよー!」
「あっ、待って待って! じゃあね、トージ! ――もう、そんなんじゃないってば!」
例えば、こんな他愛のないまま続く日常を、
丸ごと変えてしまえる、非日常を。
買い物を済ませて、道場は今日お休み、お父さんへのお見舞い……は、今日は着替えもあるし大丈夫か。
お父さんが腰をやってから三日が経った、一時はどうなるかと思ったけど、案外なんとかやっていけてる。
「うちの道場が人来ないのが大きいんだけどね……」
思わず独り言が漏れる。
でも今日は水がめ座δ流星群が最もよく見える日、こんなため息なんて軽く吹き飛ぶような光景が広がる夜。
この前、家の蔵から見つけた望遠鏡もバッチリ手入れしたし、裏の山にいいポイントも見つけたし、準備はカンペキ!
――だったのだが、私はホントに非日常と出会ってしまった。
山の上。満点の星空の下。
星の代わりに降ってきたUFO(不思議な円盤)からやってきた、宇宙からの旅人と。
「あはは…大丈夫? ケガはない? あ、大丈夫そうね! えー、と……うん、そうね! ビックリするのは分かるわ、私だっていきなりこんなモノ降ってきたら固まっちゃうもの、えーっと、これはね?」
「宇宙人だ‼」
「へっ?」
彼女は私が想像していたグレイよりもとっても人間的で、とっても美して、それでそれで!
「かわいい!」
綺麗でキラキラした紫紺の髪と、その色合いをそのまま瞳に映したようなお人形みたいな少女。そう、背丈は私と同じくらいだけれど、スタイルはモデルさんみたいに整っていた。
私が今まで想像していた宇宙人像とは似ても似つかない、とても綺麗な人。
「私は神谷裕! あなたのお名前は?」
宇宙人は最初とても驚いていたが、私が訊くと優しく微笑んで見せた。
その姿があまりにも上品だったから、見惚れてしまった。
「――よくってよ! 私は……エレナ! よろしくね、ユー!」
これが私と
あれから三日、エレナはUFOが直るまでの間、私の家に住んでもらうことになった。
勿論、お父さんやお母さんには相談したよ。彼女が宇宙人って事は勿論伏せたけど、友達が困ってるから助けたいって言ったら渋々二人ともOKしてくれた。
ビデオ通話でエレナを見た時、二人ともめちゃくちゃ固まってたなぁ……エレナもエレナで受け答えにとても品があって、大人らしく見えた。
エレナの星の人はみんなあのくらいの見た目で成人なのかもしれない、最初から一人で旅してるみたいな感じだったし。
でもぬいぐるみみたいなお手伝いさんはいるみたいだった。
彼女が「少佐」って呼んでるそれはホントにデフォルメされた軍服を着たぬいぐるみにしか見えないんだけど、宙に浮くし、思ったより力持ちだし、なんでもエレナの言う事を聞く。
エレナは「住まわせて貰ってるんだから」と言って家事を分担してくれてる。
何事も凄く丁寧だし、速くて、私がちょっと他のことやってる間にすぐ終わらせてくれる。
宇宙人特有の技術があるのかな。
夜はUFOの修理をするからと言って彼女は裏山に向かう。
だけど、私にはどうしても見せられないらしく、私はその辺で時間を潰して、修理がひと段落ついたエレナと星を見て話をする。
こんな時間がいつまでも続いてほしいと思うけど、エレナは時計も見ずに時間が来たから「また明日ね」と言って私達は家に戻る。
毎回ホントに23時30分ピッタリに戻ってこれるから、何かがあるんだろうなぁ。
そんな日が続いたある日、ウチの門を叩く人が久しぶりに訪れた。二人も。しかも二人は只者じゃない。
気さくな雰囲気がする背がすらっと伸びた海外の方(日本語ペラペラ)と、野生の熊なら難なく倒せてしまうんじゃないかという程ムキムキマッチョの、でも笑顔が凄く爽やかなこれまた海外の方(これまたペラペラ)。
ホントに道場来る意味あるのかな?ってきた時は思ったけど、二人とも凄く真剣で、久しぶりに教えるこっちも熱くなっちゃった。
エレナはその人たちの前に自分から姿を表すことは無かったけど、レオニダスさん曰く、私とヘクトールさんはその昔エレナに世話になったのでこうして挨拶に来たのだ、との事。
なんだかヘンに思ったから、その場でははぐらかして、奥の間にいたエレナにこの事を伝えてみた。
エレナはちょっと考えてたけど、いつも通り不敵な笑みで「よくってよ!」と二人を客間まで通して欲しいと答えた。
私は二人を通して、気になったから聞き耳を立てようかと思ったけど、どれだけ耳を障子に押し付けても何も聞こえなかった。
何も聞こえないからお茶を持っていく体で様子を見にいったけど、三人は普通に話が弾んでるみたいだった。
何か不思議な力ではぐらかされたのだろうかとは思った。
けれどエレナの秘密を無理に知ろうとすると、エレナが霧みたいに消えちゃう気がして、私は何も聞けなかった。
しばらくして私とエレナはヘクトールさん達を見送った。
左手の甲にできた赤い傷が疼く。隠すために巻いていた包帯が蒸れたのだろうか。
エレナはこの傷を友達の証だと言っていた。
今、エレナと出会った時とは違う胸騒ぎが、私の中で蠢いていた。
セイバー
「マスター、報告だ」
ランサーとの決闘を終えた帰路の途中。俺はマスターへの定期連絡を始めた。
「なんだ」
通信機からマスターの声が聞こえる。先の戦闘で壊れてはいないようだった。
「この聖杯戦争の黒幕が分かった」
「以前君が言っていた考察か。――これはただの聖杯戦争ではないと」
「ああ、ビンゴだった。俺達が観測したサーヴァントには何かしらの異常があった。それを仕組んだ奴の名前は――間宮詩」
「聖堂教会の神父か、成程。それなら合点がいく。――そうか。魔法使いがこの件に関わっているのだとしたら私達の手には負えない。アサシン陣営との連絡も取れず、敵の目的も図れない。早急に手を引くのが得策だ」
「ああ、マスターは日本を発つ用意をしていてくれ」
「君は?」
「囮としてここに残る。間宮詩の目的が何かは分からないが、聖杯戦争には七騎のサーヴァントが要ることは確かだ。俺がマスターの方に向かえば奴も追ってくる可能性がある。それは避けたい」
「……君にはいつも大変な役割を押し付けているな」
「いいんだよ。それが
「元々、名に箔を付けるためだけに参加したものだ。惜しいが命に代わるものはない。――では、これが最後の通信か?」
「ああ、そういうことになるな」
「……」
少し沈黙があって、マスターは言った。
「セイバー」
「なんだい?」
「君が私のサーヴァントでよかった。右も左も分からぬ私を導いてくれたのは君だ。君ではなかったら、今頃私はどうなっていたかわからない」
「そんな、俺は何も」
「謙遜するなヘクトール。兜煌めくヘクトールよ。君と共に仕事ができて光栄に思う」
(マスターが、俺の名前を――)
「ヘクトールよ。これは共に同じ目標を掲げた仕事仲間からの伝言だ。――あとは君の好きなようにやるといい。君を縛るものは何もない」
マスターが令呪を切ったのが分かった。
それは確かに、マスターからの激励だった。
「やっぱり、バレてたか」
「ランサー同士の因縁、か。よいものを観させてもらった。君は英霊なのだ。折角世に降りてきたのだから、存分に下界を楽しんでくれ。仕事はもう、終わりだ」
「俺からも言わせてくれ。あんたがマスターでよかった。俺には勿体ないくらいの魔術師だったよ」
「そうか。それは――誇りに思うよ。それではな、ヘクトール。また逢う機会があれば」
「ああ、また、機会があれば」
通信は終わった。
不思議な気持ちだ。言葉に言い表せられない。
「俺もまだまだだねえ――」
一つ、言えることがあるとするならば、
俺は恵まれていた、ということだ。
マスターの所へはもう戻れない。俺はひとまず神谷道場に向かった。キャスターは嫌な顔をするだろうが、何かあった時にキャスターも巻き込んで味方を増やせるのは利点だ。
頭をクリーンにする。マスターからは自由にしていいと言われた。さて、俺はこれから何をするべきか。
その時、ふと頭に浮かんだのはランサーのマスターだった。
(あいつ、全力で無理矢理やってると思わせておいて、一撃の為に力を残していやがった。以外に冷静。「こいつは化ける」か。ランサーの言ったことはあながち嘘じゃないのかもな)
『彼は私の背中を追いかけすぎている』
それは、ランサーの言葉。
(確かにあの坊主はランサーを妄信している感じだった。あれじゃランサーがいなくなるのは相当ショックなことだったろう)
実力差を知った日々谷の坊主は神谷道場には来ない。来れる筈がない。そこにはランサーを倒した俺がいることを知っているのだから。
しかし――翌日。
「僕に、戦い方を教えてください」
日々谷は神谷道場に訪れ、俺に頭を下げて教えを乞うた。
「へえ……そりゃまたどうして。お前、これ以上踏み込んだら死ぬのが分かってんだろ」
「死ぬかもしれない。でも、それでも僕は強くなりたい」
「そうかい、じゃあある程度なら教えてやるよ。しっかし、自分のサーヴァントを殺した相手に教えを乞うとは、とんだ度胸の持ち主なこった」
「僕だってこんなことはしたくない。僕はお前を許していない。この聖杯戦争で、いつかお前を倒すと思ってる。でも、僕が強くなるにはセイバーに教えてもらうのが一番いいんだ」
「……へえ」
日々谷の真剣な眼差しに、俺は懐かしき部下たちの顔を思い出した。
戦士ってのは馬鹿ばっかりだ――そう俺は考えている。死ぬために生きるものではないだろうに。何故こうも戦士というものは死にたがりのように戦地へ赴くのか。
納得がいかない――しかし理解はしている。
こういう頭のいかれた戦闘馬鹿が、一番強いのだ。
「分かった。じゃあオジサンが稽古つけてやるよ。とりあえず槍もってかかってきな。スパルタに育てられたみたいだが、その程度じゃオジサンには届かねえぜ。あんまりオジサンをナメられちゃこまる」
その時、セイバーは思った。
ランサーはここまで考えて俺を選んだのではないかと。
(はっ、まさかな)
ランサー
セイバーに負けたあの日、僕は家に帰ると倒れるようにベッドに沈み込んだ。
寝れないかもしれないと心のどこかで思っていたけれど、そんなことはなかった。
――翌日。
スマートフォンが鳴っている。……目覚ましか。
僕はスマホの画面を見た。午前四時。ランニングの時間だ。
『ほら、起きた起きた。早起きは三文の得と言います。どんどんお得になってしまいましょう』
ランサーの声が聞こえる。そんなはずはないのに。
「……」
体を起こす。
ランニングウェアに着替える。シャワーは走った後でいいか。バスタオルとシャワー後の着替えも手に取った。
『帰ったらすぐにシャワーを浴びれるよう先に準備しておくと楽ですよ』
着替えを済ませ、着替えとタオルを脱衣所に残し、シューズを履いて外に出る。夏とはいえ、日はまだ出ていない。
「はっ、はっ、はっ」
小刻みにリズムを取りながら辺りを周回する。
『大事なのは呼吸です。一定の呼吸で走るのです。息を乱さずに走り続けられたら一人前ですよ』
普段はランニング中に特に何も思わない。考えることがあるとすれば、朝ごはん何にしようとか、今日は何の練習をしようだとか、そんなものだ。
だけれど、今の僕は違う。
不甲斐ない。
今の僕を端的に言うと、それだ。
ランサーが倒され、僕はその仇を取ることができなかった。
セイバーに一太刀浴びせただけで舞い上がって、倒すことが頭の中から抜けていた気がする。
もし心の先から本気なら、僕はセイバーに睨まれたあの時、それでも彼に向かって突っ込んでいただろう。
それができなかった。
僕は本物の戦士じゃない。
ランサーの後ろをついていったただの――オマケだ。
「はっ、はっ、はっ」
外が明るくなってきた。日の出だ。以前は日の出に会うことは滅多になかったけれど、ランサーと出会ってからはほぼ毎日日の出を拝んでいる気がする。
『いい時間になりましたね、そろそろ戻りましょうか』
そろそろ、引き上げようか。
家に戻って一直線に脱衣所に行き、服を脱ぐ。
脱いですぐさまシャワーを浴びた。
「……」
温水を浴びながら、考える。
一度は僕も夢を見た。
ランサーの夢。テルモピュライの戦い、そこから勝利して帰還した時の世界。
僕もその世界に憧れた。
僕も見てみたいと思った。
でも、そんな資格は僕にはない。
その世界を見ていいのは、望んでいいのはランサーとその時を共にした者達の特権だ。
僕が憧れるには遠すぎる世界。
なら、僕はどうする?
僕は何を望む?
欲しいものが届かないと知って、それで僕は指を咥えて見ているのか?
あの偉大過ぎる背中を見て。
心が震えただけで満足なのか?
「……」
蛇口を捻り、水を止めた。
風呂場から出る。
タオルと着替えはランニング前に用意してある。
タオルで体を拭き、服を着た。
ご飯にしよう。
台所に立って炊飯器を確認する。白飯はあった。
冷蔵庫の中を見る。少々寂しいけれど、なんとかなりそうだ。
『こんな時は簡単なものを作りましょうか』
卵を二つとウインナーのパックを取り出した。
コンロにフライパンを乗せ、フライパンに油を引く。
卵を割って黄身をフライパンの上に落とし、ウインナーも入れた。
『うんうん、いい感じです』
少しずつかき混ぜるように溶いて、塩を少々。
スクランブルエッグと焼きウインナーの出来上がり。
火を止めフライパンから直接皿に移した。
炊飯器からご飯を茶碗に盛って卓の上に置く。
『いただきます』
「いただきます」
手を合わせ、ご飯を食べる。
『いただきます、と言う文化。いいですね。日本の文化で一番好きかもしれません。人は命の繋がりで生きているのです。必ず、繋がってその先に誰かがいる。私にも、君にも』
「黙ってくれよ」
箸が止まる。
「なんで、なんで……。ランサー、貴方はもう、いないんだ。なのに、なんでまだ」
ご飯の味がしょっぱい。塩を入れ過ぎたはずはないのに。
『いえ、ここにいます』
ランサーは言う。
『私はいつだってここにいます』
「どうして……?」
『その理由を貴方は知っている筈です。マスター』
ランサーはそう言うと、それきり何も言ってこなかった。
「……」
ご飯を食べ終え、食器を片付ける。
『いいですか。私達が学ぶのは決して賢くなる為ではありません。学ぶこと、それ自体に意味があるのです』
かつてランサーはそう言った。
大事なことは結果ではないと。
挑戦することなのだと。
なら今の僕ができることは、がむしゃらに上を目指すことだ。
彼に届くかはわからない。
けれども。
彼を目指した。
きっと、そのことに意味がある。
(僕に足りないもの、それは実戦経験。土台はランサーが作ってくれた。あとは、これを活かせる相手がいる)
そんなの一人しかいない。分かりきったことだ。
「一か八か……頼んでみよう」
アーチャー
ひとまずライダーを退けることができた二人だったが、実力の差を思い知った。作戦一つでどうこうなるレベルか分からない。しかし、倒さねばならない相手だ。
一晩二人で作戦を練ってみたが、上手く頭が働かなかった。
翌日、気晴らしに二人は街を散歩することにした。
すると、街中で偶然野熊を見かける。
「ちょっ⁉ あいつなんで外に出てるんだ⁉」
サーヴァントを失ったマスターは教会に保護を求めるものだ。そう考えているシャルルはサーヴァントを牛ながらも平然と外を出歩く野熊に驚いた。
「おい! なんでこんなところにいるんだ!」
慌てて野熊に話しかける。が、野熊の戸惑った表情を見て、ここが日本で自分の言語が通じないことを思いだした。アーチャーに通訳を頼むしかない。
「いいか、今からボクが言った言葉をそのまま日本語にして彼に言うんだ。分かったな」
「オーケーオーケー。朝飯前っしょ」
「じゃあ――『君、こんなところで何をしているんだ。教会に保護してもらわないのか? それともまだ戦うつもりで――』」
「初めまして! 私の名前はシャルル・レ・モーガン! ぴちぴちの十八歳! 今旅行で日本に来ているの! 絶賛彼氏募集中!」
「……はあ」
「おい⁉ お前ちゃんと通訳してるのか⁉ 少なくともボクは名乗っていないぞ⁉」
「自己紹介は当然っしょ。当たり前じゃね?」
「身分を偽ってた奴が言うセリフかそれ」
「まあまあ、続けて?」
「大丈夫なんだろうな――『君はバーサーカーを失った筈だが、何故堂々と歩いていられるんだ? 次のサーヴァントを探しているなら諦めた方がいい。はぐれが出る前に君が殺される可能性が高い』」
「あらやだ君いい体してるじゃない! 私の好みだわ! これから私と遊ばない?」
「おォいィ⁉ お前絶対ちゃんと訳してないだろ! なんかすごい軽蔑的な目で見られたぞ今!」
「……いや、そういうのいいんで」
「ほぅら! すっげえそっけないじゃん! 好感度最悪って感じじゃん!」
「あちゃー、なんかまずったかな」
「まずったかな、じゃあねえんだよ! そのまま訳すだけなのにまずる要素ないだろぉ⁉」
「いやー、俺様のセンスが遺憾なく発揮されちゃったカンジ? 隠しきれないオーラが出てしまった的な?」
「隠しきれなかったのはお前の真名だバカ! 通訳にセンスとかいらないから! 意訳しなくていいから! 直訳してくれ!」
「ちっ、仕方ねえな」
「え、今舌打ちした? したよね?」
「訳せばいいんでしょ訳せば。『ココ、ジャングル。ツヨイモノガカツ。オレ、オマエクウ』」
「……」
「ん、ボクの気のせいかな。さっきの視線の方がまだマシだった気がする。なんかもう憐れまれてるよねコレ。ところで質問なんだけれどお前、カタコトと直訳の区別ついてなくない?」
「あの、もういいですか」
「やべえ結局何も話すことなく立ち去られようとしてるよ。どうしようかな。もう無理矢理教会に連れていこうかな」
「おっ、いいね。お持ち帰りっすかあ?」
「お前はもう黙ってろ。よし、こっちに来るんだ!」
話すことが面倒になったシャルルは野熊の服の袖を掴んで引っ張る。
「え、ええ? 放してください!」
「ヒュー! シャルルちゃん大胆!」
「頼むから静かにして。あとちゃん言うな」
こうしてシャルルは野熊を連れて教会に連れていくことにした。
バーサーカー
訳が分からないままに外国人とホストの二人組に教会に連れてこられた。
教会につくなり二人は俺を神父に引き渡して出ていった。
教会で会った神父には見覚えがある。
「やあ、また会ったね。野熊冬至君。待ってたよ」
俺に本を渡した外国人だった。
そしてそいつは語り始める――聖杯戦争のことを。
そうして初めて自分がゲームから脱落したマスターであることに気付いた。
なら自分はもう関係ないだろうと神父に言う。
だが、神父曰く、俺はまだ脱落していないらしい。
「君に預けた書。実はあれがバーサーカーと契約していたものだ。魔力を供給していたのはあの本だったしね。ちなみに、あれは魔本でね、扱う人間の能力を誰でも魔術師レベルに引き上げられるものだ。望めば、一時的にサーヴァントの能力だって超えられるだろう」
つまり、君はまだ戦える。
神父はそう言った。
「しかし、今度は戦うのが君自身だ。君が前線に出て戦わなければならない。当然死ぬこともある。ここで教会の庇護を受けることもできるけれど――どうしようか?」
俺は迷った。死ぬ危険を冒してまで叶えたい願いなどない。
正直言って、意味のわからないものから離れられるならそうしたいと思っている。しかし、
あの反逆の英霊は、諦めただろうか。
自分を庇って消えたあの男は、死ぬかもしれないといって、逃げただろうか。願いなどないからといって、手放しただろうか。
いや、きっとそうではない。
「分からない、俺には命をかけてまで得たいものなどない。だが、きっと失うということに関しては、違う。俺には失いたくないものが、確かにあった」
理解できぬまま別れることになった男の笑顔を思い出す。
そういえばあいつはずっと笑っていたな。
なんでだろう。
そんな理由も分からないままに。
「いつか別れるからといって奪っていいものなどあるものか。そんなものは――圧政だ」
ではそれが理解できるまで。
俺はお前と同じ道を征こう。
ライダー
手鏡で自身の顔を見る。気が付けば儂の霊基は変化していた。
外見が老け、それに伴い、混濁していた記憶もはっきりと蘇る。
(……ふむ、マスターの狙いはこれだったのか。どうも儂は不完全な状態で召喚されるようじゃな。戦闘経験をこなすことによって成長する性質――ふん。それでもあやつは信用できん。この儂を謀ろうという魂胆が見え見えじゃ。あやつの思い通りにはさせん。儂には、やらねばならぬことがある)
マスターの指示を達成するにはまだアサシンと戦っていなかったが、儂はそれを無視してアーチャーを探し始める。
(敵の中で儂の弱点を知りうるとすれば、間違いなくキンカンのやつであろう。それに、あやつの宝具は危険すぎる。つまり、
溜息を吐いた。
何故儂が聖杯戦争に参加したのか、そんな原初の考えすらも思い出せないままに戦い続けていた。
しかし、今ならなんとなくわかる。
『のう、のう』
『なんじゃ茶々。袖を引っ張るでない』
『主よ、茶々の願いを聞いてくれるか?』
『はっはっは。またか。よいよい。なんでも申せ』
『もし、もしじゃ。この城の茶室だけじゃなく、この城も、城下もすべて黄金に染まったならば、綺麗だとは思わんか? 茶々も主も民も皆黄金に囲まれて暮らせたのなら、幸せだと思うのじゃ』
『む、それはそうじゃが……』
『……できぬのか?』
『まさか。まさかまさか。儂にできぬことはない。必ず、実現してみせようぞ』
それが無理なことは分かっていた。
それが無茶なことは分かっていた。
茶々のいつもの我儘だ。無理難題を言っていつも儂を困らせてきた。
その突拍子のない問いにいつも頭を悩まされてきた。
しかし、はて、
茶々が語る夢が、いつしか儂の夢にもなったのは。
アサシン
アサシンと新崎は大阪を満喫していた。
遊園地にも行き、一通り遊んだ二人は公園のベンチで休んでいた。
「うー、つかれた」
「はは、疲れましたね。さて、次は何をしましょうか」
「いっしゅん、のどかわいた!」
「――あー、では自販機を探してきます。なにがいいですか?」
「じゅーす! みかん!」
「ふふ、かしこまりました。あっ、知らない人にはついていっちゃダメですからね! ここにいてくださいね」
「うん!」
そしてアサシンは飲み物を買いに行った。
すると、物陰から少年が優奈を呼ぶ。
「優奈ちゃん、だね」
「……うん、だあれ?」
「ボクは……イワン。君にお願いがあって来たんだ」
「どうしたの?」
イワンと名乗った少年は悪い奴に体を小さくされてしまったと優奈に説明し、元に戻るにはアサシンの大槌が必要だから借りてきてくれないかと優奈に言った。
「うーん、いいよ!」
優奈はイワンのお願いに快諾してしまう。
すると、イワンはアサシンには何故大槌を借りるのか内緒にするようにと言い含め、優奈は訳がわからないままにそれも承諾してしまった。
「はい、買ってきましたよー」
「いっしゅん!」
「どうかしましたか?」
「これかして!」
優奈はアサシンの腰に刀のように差さっている大槌を指さして言った。
「いいですが……何に使うのです?」
「ないしょ!」
「…………そうですか。わかりました。ですが、無暗に物を叩かないこと、いいですね?」
「わかった!」
大槌を受け取った優奈はベンチに戻った。
そして、隠れていたイワンがそれを受け取り自分を叩いた。
「――戻った、戻ったぞ! やった!」
「なっ、何故ここに――⁉」
「神父の言ったとおりだ。京都から出ているとはな。ふふふ、これで私も戦線復帰だぞ」
「貴様――っ」
「おっと、令呪をもって命ず。私に攻撃するなアサシン」
「くっ……」
「令呪さえあればこっちのものだ。おまけに大槌まで手に入れたぞ」
「……」
「はっはっは、子供には滅法弱いなお前。愉快愉快。……さて、この大槌というのは確か概念であったとしても大きさを変えられるらしいな? では、これを令呪に当てればどうなる?」
「…………っ」
「その顔さえ見られれば分かる。つまり、『正解』だな」
「――」
イワンコフは大槌で令呪を叩き始めた。
「おお、おおおお? これはこれは。すごい。まるで手の血管が膨張したかのようだ。魔力が重い。重いぞはっはっは!」
「………」
「さあ、あまり叩き過ぎて暴走しても厄介だ。使ってしまおう」
「な――」
「これだけの魔力リソースを放出した令呪の拘束力、どれほどかな?
――令呪を持って命ずる。最後まで私に従えアサシン」
「ぐ、うぅぅぅぅう、しか、し。そんな曖昧な命令、効力などある筈が……」
「そうか、ではもう一度使おう」
「⁉」
「お前を完全に従えさせられれば令呪など一画もいらぬ。さあて、お前は二画目には耐えられるかな?」
「やめろ‼」
「喚くな見苦しい。お前も私と同じ
令呪をもって命ず。
堕ちろ、アサシン!」
「あ、あああああぁぁぁぁぁあぁぁあぁあぁぁあぁぁぁ‼」
アサシンの霊基が変色する。
髪は更に黒みを増しどす黒く、白い柔肌も黒く滲み始めた。
「それがお前の本当の姿か! アサシンらしいぞ! どれ、もっと私に見せてみろ!」
そしてアサシンの姿が黒く染まると、彼は目を見開く。
彼の瞳には何も映っていなかった。光が反射されずただただ吸収してばかりでまるで深淵を見ているかのような、深淵そのものかのような、黒だった。
「不愉快に笑うんですね、お前は。令呪があるから生かしておいたというのに。ここまで私を苛つかせるならば、あの時殺しておくべきだった」
「それは残念だったな。さあ、どうだ。私に従う気はあるか?」
「……癪ですが、おかげで満ちました。これなら最後まで保つでしょう。マスター」
「やっと私を呼んだなアサシン。では、行くぞ」
「ええ」
夜が、始まる。