Fate/loneliness -little summoners- 作:からすまそういち
4 聖杯戦争(真) 夜
アサシン
強力な魔力により霊基を変質させられたアサシン。
「それで、何をすればいいでしょう」
「そうだな……手始めにこいつを殺してもらおうか」
イワンコフは新崎を指さした。
「そいつは殺す価値もありません」
「きちんと命令が効くかの確認だ。今更そんなガキに固執する必要もないだろ」
「ちっ……用心深い奴ですね。やればいいんでしょう?」
アサシンは新崎を見下ろす。
「いっしゅん……?」
不安げに名前を呼ぶ新崎を見ながら、アサシンはイワンコフに言った。
「お前も私も、ろくな死に方をしないでしょうね」
アサシンは新崎に向かって「小槌」を振り下ろす。
新崎は消えた。
アサシンは振り下ろした槌を上げる。
先程まで槌に叩きつけられていた場所には何も残っていなかった。
「これで満足ですか?」
「ああ、これで証明された。アサシン。ほら、大槌だ」
イワンコフは「大槌」をアサシンに投げ渡す。
「
「――っ⁉」
背後から襲い掛かってきた野熊の拳をアサシンは片手で受け止めた。
「なっ、いつの間に」
「……こいつも体をいじくってるんですか? ニンゲンにしては中々やる」
「くそっ!」
野熊は掴まれた拳を振り払い、後方へジャンプした。
2メートルは後方に下がるが、空中に浮いている間にアサシンに距離を詰められてしまう。
「身体能力は上がっても動きが素人じゃあ、ねえ?」
野熊は胴に蹴りを入れられ、地面に転がる。
「がっ……、」
「お前、そういえばバーサーカーのマスターか。関わるなと言った筈ですが、
横たわる野熊を見下ろしてアサシンは言った。
「いいから早くそいつを殺せ」
「気が早いですねマスターは。遊び心がないのか。……………。どうしました? 逃げないんですか? 死んでしまいますよ?」
「くそっ……!」
野熊は立ち上がり、走り去った。
それをアサシンは追わなかった。
「おい! 何をしている!」
「あいつはただのニンゲンです。的にもならない。殺すだけ無駄です。それとも、令呪でも使って命令しますか? ああ、もうないんでしたっけ」
「アサシン、お前はまだ自分の立場が分かっていないようだな。自害しろ、アサシン」
アサシンは自身の針を首に刺す。
「がっ……」
「はは、やればできるじゃないか。もうやめていいぞ」
「ぐっ……」
針を引き抜く。傷跡を小槌で叩いて消した。
「次はないからな」
「ええ、分かっています。
アサシンは野熊が走り去った方向に視線を向けた。
「あとは任せましたよ、ニンゲン」
バーサーカー
教会から自宅に戻り、俺は魔本を手に取った。
ページをめくっても何が書かれてあるかわからない。しかし、それが何を意味するのかは不思議だが理解できた。
「身体能力の強化は……できるな。じゃあ、やってもらおうか」
魔本を持つ手から、青く光る筋が全身を覆うように這い回った。
「っ⁉」
激痛が走る。
体を巡る青い線はまるで、皮膚の下を這い回る虫のように体の中身を食い破りながら駆け抜けていく。
「がっ、ああっ、あああああああ!」
数時間、俺はその感覚に襲われていた。
地獄の時間が終わり、頭が冴えた頃にはもう日が落ちていた。
(まず、やるとしたらスパルタクスを殺したあの白い奴を倒す。あいつが敵と判断したんだ。倒すまでいかなくとも、スパルタクスに狙われるだけの理由を探る必要がある)
アサシンの居場所は神父から聞いていた。その情報が確かであれば、わずかな時間で目的地に辿り着ける。
俺が受けた身体能力の強化はとんでもないもので、走るスピードは車の速度をはるかに超えていた。
とんでもないスピードで街を駆け巡ったが、誰も気にした様子はない。認識疎外の術もかかっているようだった。
街を駆け、アサシンを見つけた俺は、アサシンの変わりように驚いていた。
(白い奴が黒い奴になってやがる……? というかあの外国人は誰だ? 傍にいた少女は?)
色々疑問が残るが、考えても分からないものはわからないのでとりあえず襲うことにした。
「――で、こいつも殺せばいいんですか?」
「――っ⁉」
アサシンは背後から襲い掛かった俺の拳を片手で受け止めていた。
「なっ、いつの間に」
「……こいつも体をいじくってるんですか? ニンゲンにしては中々やる」
「くそっ!」
野熊は掴まれた拳を振り払い、後方へジャンプした。
2メートルは後方に下がるが、空中に浮いている間にアサシンに距離を詰められてしまう。
「身体能力は上がっても動きが素人じゃあ、ねえ?」
俺は胴に蹴りを入れられ、地面に転がる。
「がっ……、」
「お前、そういえばバーサーカーのマスターか。関わるなと言った筈ですが、丁度いい」
横たわる俺を見下ろしてアサシンは言った。
「いいから早くそいつを殺せ」
「気が早いですねマスターは。遊び心がないのか」
アサシンが振り向きイワンコフにそう言った時、俺の胴に何かが落ちた。
「?」
身体をまさぐるように手を這わせてみると、それが小瓶のような形をしているのがわかった。
しかし、かなり小さい瓶だ。親指ほどの大きさにも満たないだろう。こんな小瓶に何が入っているというのか。
「………………」
と、そこでアサシンが見下ろしながら何かを伝えようとしているのがわかった。
喋りはしないが唇だけ動かして俺に伝えようとしている。
(……それを無くすな? 大切にしろ?)
かろうじて理解できたのはそれくらいだったが、十分だった。
「どうしました? 逃げないんですか? 死んでしまいますよ?」
「くそっ……!」
アサシンに促されち上がり、走り去った。
(訳が分からない。でも、見逃された。今は退くべきだ。渡されたこれを持って――)
アサシンは追ってこなかった。
(しかし、どこに逃げればいい? どこまでいけばいい?)
迷いながらも走り続け、辿り着いたのは神谷道場の前だった。
「なんで、ここに……?」
自分でもわからない。気付いたらここにいた。
「トージ?」
呼ばれて振り返ると、そこにいたのは、神谷裕由だった。
セイバー
日々谷の坊主に稽古をつけてやってから、数日が経った。
日々谷の成長速度はとんでもなかった。ランサーのおかげで身体の土台はできており、後は技の修練が課題だったのだが、教える技のことごとくをすぐに吸収していく。
まるで、その技を教えてもらうためにまず身体を作ったかのように。
恐ろしいほどに日々谷は強くなっていった。この俺が模擬戦で多少本気を出さねば圧倒できないほどには、強くなった。
(恐ろしい奴だ……ランサーの後ろについていっただけのガキが、ここまで変わるとは)
ここまで強くなるのであれば、彼には話してもいいかもしれない。
この聖杯戦争が、異常であることを。
「――そういうわけだ。この聖杯戦争。おかしいことだらけだ。これを仕組んだ奴がいるならまずオジサンだけじゃ勝てない。一緒に戦える奴がいる」
俺は日々谷に話していた。この聖杯戦争をいいようにおもちゃにした奴がいることを。それを俺は許していないことを。俺は話した。
「それで、僕に?」
日々谷は素っ頓狂な表情で俺を見る。
「ああ」
頷くと日々谷は笑った。
「ヘクトール、正気かい? 僕は人間だよ? それに魔術のまの字も知らないど素人だ。そんな僕を戦力に数えるのかい?」
「――確かに、そういえばそうだ。なんで俺が……」
とうとう自分も焼きが回ったか、そう頭を掻く俺だったが、すぐに思い直した。
「いや、そうじゃねえ。そうじゃないんだ。
日々谷、お前はもう十分な戦士じゃねえか。ランサーと俺に鍛えられたんだぜ? 俺は一度も手を抜いてしごいてねえし、ランサーだってそうだろう。それをお前は乗り越えてきた。これが素人なわけがあるか。お前は十分な戦士だろうが」
「……」
驚いた表情で日々谷は固まった。
「それにお前は俺を倒すんだろ?
ならこんなところで死なねえんだお前は。死ねるようにできてないんだ。
わかるか? お前は――強いんだぜ」
「……うう、」
突然、日々谷は顔を押さえて泣き始めた。
「お、おいおい、泣くなよ。オジサンこういうのが一番困るんだ」
慌てて日々谷の肩を叩いた。
その時、思った。
そういえば、昔こんなことがあったような気がする。
懐かしい、二度と戻らぬ日々。
あの時の俺は、この風景を守るために戦っていたんだと、思い出した。
ランサー
セイバーから槍使いの手ほどきを受けて数日が経った。セイバーは非常にストイックだったが、ランサーとの特訓を乗り越えてきた僕はなんとかついていくことができた。
そして、ある日。
セイバーに聖杯戦争が異常事態に陥っていると説明を受けた。。
「――そういうわけだ。この聖杯戦争。おかしいことだらけだ。これを仕組んだ奴がいるならまずオジサンだけじゃ勝てない。一緒に戦える奴がいる」
「それで、僕に?」
「ああ」
セイバーが頷くと僕は笑った。
予想外の反応にセイバーは驚きの表情を隠せない。
「ヘクトール、正気かい? 僕は人間だよ? それに魔術のまの字も知らないど素人だ。そんな僕を戦力に数えるのかい?」
「――確かに、そういえばそうだ。なんでオジサンが……………いや、そうじゃねえ。そうじゃないんだ。
日々谷、お前はもう十分な戦士じゃねえか。ランサーと俺に鍛えられたんだぜ? 俺は一度も手を抜いてしごいてねえし、ランサーだってそうだろう。それをお前は乗り越えてきた。これが素人なわけがあるか。お前は十分な戦士だろうが」
「……」
次に驚きの表情をしたのは僕の方だった。
確かに、レオニダスは厳しかった。正直死ぬかと思った。セイバーにも稽古中に殺されかけたことは二度や三度だけではない。でも、僕は諦めなかった。何故だろう。
僕はただ雰囲気に流されここまで来た。
それでも、僕は確かにここまでやってきたんだ。
二人に支えられながら。
きっと、それは僕にしかない他の誰にもできない経験に違いない。
「それにお前は俺を倒すんだろ?
ならこんなところで死なねえんだお前は。死ねるようにできてないんだ。
わかるか? お前は――強いんだぜ」
救われた気がした。
今までなんとなくで生きてきた自分が、二人の戦士に認められた。
ただそれだけで、何よりも価値があるような、そんな気持ちになった。
「……うう、」
涙が溢れてくる。
「おいおい、泣くなよ。オジサンこういうのが一番困るんだ」
セイバーは僕の肩を叩いた。
僕は思う。
届かなくてもいい。
追いつかなくてもいい。
一人の少年が、ただがむしゃらに荒野を走っている。
それだけでも。
彼の背中を押してくれる人が二人もいた。
目指す場所にいる筈の二人が、
実はいつも僕の背後で、僕を見守ってくれているんだ。
キャスター
私があの子と出会ったあの日。
そこからキャスターである私の聖杯戦争が、始まった。
「三条での女性の殺人事件について、速報です。警察は現場から立ち去る不審な男の情報を公開し、市民に対して情報を求……」
へー、随分と物騒な事するのねー、何時の時代も悪党ってのはいるものね。
私は煎餅片手にテレビとにらめっこしている。
今の私が個人的に収集できる情報なんてたかが知れてるわけだし、折角便利になったんだから、甘えないと損よね! ……それはそうと煎餅が止まらないわ……。
「おーい、キャスター」
「はいはーい、道場ね、ちょっと待ってて」
セイバーに適当に答えつつ、ユーから預かった鍵を求めて懐を探る。
「にしたって、アンタ随分と頑固だよな。いくらマスターが魔術も何も知らない女の子だって言ってもよ、自分の素性はおろか魔術の存在すら隠して守り抜こうとは。あんたも面倒な道を選んだねえ」
「別にいいでしょ、正体を明かしても私がロクに戦えないんじゃ不安にするだけなんだし、はいカギ」
「だったらさっさと退去すべきだと思うんだがねぇ、あの子の安全を優先するならそれが一番だろ?」
「そうね、普通ならそうしてる、でも今回は訳が違う」
普通ならマスターから供給される魔力だけれど、私の場合は事情がかなり複雑だと言う事を直ぐに理解した。
私と繋がる魔力のパスは確かにユーと繋がっている。しかしユー本人から魔力が直接供給されている訳ではなく、ユーの家の裏山、つまり私の金星神・火炎天主が墜落したあの山を通っていた小規模の龍脈からユーを通して供給されている。
だからマスターであるはずのユーと始めて会って、宇宙人と勘違いされた時に魔術と無関係だって気付けた。
最初はセイバーの言う通り退去しようかとも考えた。
でも召喚の仕組みを調べて、この召喚が仕組まれたモノだと知ってからは素直に退去するという選択が間違いだと思うようになった。
「アンタもワケありの口だったな、そういえば」
「私の場合はね、あの山とユーが共同マスターみたいなモノなのよ」
「へぇ、て事はアンタ、その気になればもっとやれるだろ? 何せあの山、小さいとはいえ龍脈だ。サーヴァント一人の全力、少なくともその半分の魔力なら補えるだろうに」
「ユーが耐えられるなら、ね」
なるほどね、とセイバーは納得した風で鍵を持って道場へ向かう。
話しすぎたと思う、私も疲れてきてるのかもしれない。
そうだ、私は自前で魔力を何とかしないと結果的にあの子を危険に晒す羽目になる。
あの子はサーヴァントとの契約の体裁を整えるための間に合わせみたいなモノで、あの子自体に何か適正がある訳でも、その為に身体をいじった訳でもなんでもない。
私に魔力を渡す為とはいえ、一瞬でも許容量を超える魔力をその身に通せば間違いなくその身に悪影響を及ぼすだろう、死ぬことだってあり得る。
この数日、少ない魔力を何とかやりくりしつつ、偵察や、調査をしつつ、ユーの家の居候をしてきた。
「そういえば、あの人には随分お世話になったわね……」
縁側に差す眩しい日差しを見ると、一人の男を思い出す。
「もしもし、聞こえていらっしゃいますかー」
ランサーことレオニダス一世は、私が偵察に出していた少佐の円盤をとっ捕まえてコンタクトを取ってきた。
「キャスターとお見受けします。此度の聖杯戦争について話があるのですが、落ちあうことはできますか?」
正直かなり迷った。
でもバーサーカーでも無いサーヴァントが、わざわざこの聖杯戦争において、こっちの手の内を理解したことを伝えてくる必要も、増してや名乗る必要も無い。
そして、このマスターを守り抜かなければならない聖杯戦争において、頼れる存在を求める気持ちがあったのかもしれない。
念の為、少佐を通して連絡を取って事情を知り、そしてユーの居る道場へ案内したのだけど、セイバーは想定外だった。
しかし幸いと言うべきか、セイバーもこちら側のサーヴァントだった。
あの三者で情報を共有出来たのは大きかった。
今回の聖杯戦争について、知らないままではどうにもならなかった事をランサーから、各陣営の情報をセイバーから、私からはクラス上今回の召喚に関して調べた事をそれぞれ共有した。
この機会が無かったなら、今頃もまだ状況が掴めずにこんなに呑気にしてられなかっただろう。
そうして訪れたランサーの最期、これについて思う所が無いわけでは無いけれど、ランサーの立場や残り時間を考えれば、あれが最善だったのだろうと思っている。
私も少佐を通して観ていた、日比谷君がセイバーに突っかかっていった時は思わずヒヤリとしたけれど、概ねランサーが望む展開になったんじゃないかしら。
「ユー、まだかしら……」
買い物に出かけたユーを待つ合間、あの子から貰ったノートにあれこれと今までの出来事を書いてまとめている、外はまだまだ明るいが、そろそろ帰りが心配になってくる。
「おーい、キャスター」
「はーい、今行くわ!」
セイバーもすっかり馴染んだわね、最初はあえて隙を見せてる感じがしてたけれど、今この道場に居るのはただのオジサンね。
でもまさかあの決闘の後日、本格的にここに転がり込んでくるとは思わなかったけど。
ただ、セイバーが擬似的にはぐれ状態になっていたお陰で、私の元に転がり込んでくる魔力が増えたのはありがたいわ。
ここの龍脈は既に私達が契約している都合、他に契約を受けた霊体が恩恵を受けにくい。肝心の私たちもロクに魔力を引き出せない為か、それ以外の霊体は山に居るだけで多くの魔力を受け取れる。
セイバーは山の近くに居るだけで魔力が自然に供給される。
道場でセイバーが活動する度に、道場一帯は濃密な魔力で満ちる。
セイバーを霊脈のフィルター代わりにできる。
セイバーは活動の拠点と魔力を、私はフィルター役といざと言う時の戦力を得る、まさにうぃんうぃん?の関係ってやつね!
「何の用かしら? 引き上げるから鍵……を……」
「すまん、オジサン達、ちょ〜っと熱くなりすぎてな……」
――私は温厚な方だと自負してるけど、流石にバリバリに砕けた道場の床を観てもニコニコしてられる程抜けてる訳じゃない。
二人にはキツく説教をして、セイバーからは修復作業にかかる魔力を取り立て、ついでに外に放り出した。
「全く……少佐が一人手が空いてて良かったわ……ユーが帰ってくるまでには修復しておかないと……?」
少佐が通信を受けている。
これと同じ現象は以前にもあった。
「へぇ、悪い事の後には良い事もあるものね」
私は市内偵察用のもう片方の少佐を代わりに修復作業に当たらせて、良い事に向き合うことにした。
それから暫く経って、私は全ての作業を終える頃にはもう日が傾き始めていた。
「流石に遅すぎないかしら……? 」
ユーがいくらバイタリティに溢れていて買い物ついでにその辺をウロウロする好奇心旺盛な子だったとしても、いくらなんでも遅い。
「……良かった、すぐ近くまで帰って来てるわね」
念の為、ユーの護衛代わりにこっそり随伴させた少佐は健在、位置も近い、これなら……。
「えっ?」
猛烈な速度でこっちに突っ込んでくる魔力反応。
「キャスター! バカでけえ魔力が突っ込んできやがる!」
一拍遅れてセイバーの声が飛んでくる、悠長に話してるんじゃ遅い!
「分かってるわ! 私はユーの安全を確保して下がる、アナタは迎撃体制を!」
大声で答え、そのままユーの元へ。謎の魔力反応も近い、もう間もなく、距離は500、200!
勢いよく道場の前に出て、まず目に入ったのは……
「トージ?」
ユーと、ユーと同じくらいの年齢の少年だった。
私は勘があまり良い方ではないけれど、その少年を見た時に確信した。
こいつは、サーヴァントだと――
キャスター&バーサーカー
「トージ?」
神谷裕由は野熊冬至に向かってそう呼んだ。
「神谷?」
野熊は振り返る。
「ユー! そいつに関わってはダメ!」
門から勢いよく飛び出したキャスターは、神谷に向かってそう言った。
「エレナ? どうしたの?」
「っ⁉ サーヴァント⁉ なんでここに!」
キャスターの姿を視認する野熊。しかし、驚きで体が一瞬硬直してしまう。
「こいつは危ないの! 離れて!」
「ま、待って! トージは私の友達――」
「なんでサーヴァントと知り合いなんだ神谷! まさか――」
「トージ? それって――」
神谷は野熊の左手を見た。甲に浮かぶ令呪を見た。自分の手にもある赤い痣。
「なんでトージにもそれがあるの……?」
神谷は包帯を解いて左手の甲を野熊に見せた。エレナに友好の証だと言われた赤々とした痣――令呪を。
「……っ! なんで、なんでお前にも令呪が……」
「――仕方ない、こいつはここで仕留める!」
神谷が令呪を見せたことで、神谷はなんらかのマスターであることが確定した。つまり、野熊とは敵同士ということであり、野熊が神谷に攻撃する可能性があった。それに気づいたキャスターは先手必勝と野熊に攻撃を仕掛ける。
「なっ! こいつ、やったな! ……騙されているのか? なら、それは――圧政だ!」
野熊は自身に高速で突っ込む円盤を拳で殴り落とし、キャスターの方へ足を向けた。
「やめて! なんで喧嘩するの⁉」
「喧嘩じゃねえ、殺し合いだ!」
「ええ、こいつはここで――殺すわ!」
「な、なんで? 待って! 待ってよ!」
「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお‼」」
あわや二人が激突する、そんな時だった。
「騒がしいと思えば、なにしてんだお前ら。内輪もめなら他所でやってくれよ」
セイバーが二人の間に入って制止させる。続いて武装した日々谷も間に入りキャスターとセイバー、野熊と日々谷が向き合う形になる。
「なんだお前ら……サーヴァント⁉ セイバーとランサー⁉」
「貴方達には関係ないわ!」
「おいおいそれは冷たくないかキャスター。オジサンが丸っと収めてやろうっていうのに」
「落ち着いてください。僕達が戦うべきはきっとここではない」
間に入った二人は冷静に話した。セイバーはこの聖杯戦争の実情を知っている。今は個々で争うべきではない。
「それともなんだ? 俺達とやろうってのかい? ええ?」
「ぐっ……わかったわ」
セイバーが凄むとキャスターは噛み締めながらも身を引いた。彼女がセイバーはおろか野熊とも十分に戦えるかわからない状態であることをセイバーは重々承知だった。キャスターは下がるしかなかった。
「……そうだな。あまりにも分が悪い。それに、気になることがある」
野熊は胸まで上げた拳を落とす。
「トージ……」
「神谷。なんでお前、聖杯戦争なんてやってんだ」
「なにそれ、知らないよ。エレナ、聖杯戦争ってなに?」
「……」
キャスターは顔を伏せたまま答えない。
「お前何も知らないのか……? おい! キャスター! テメエどういうことだ! こいつに何しやがった!」
「落ち着いてください」
野熊に槍をちらつかせ、日々谷は野熊を黙らせる。
「何もしてないと思うぞ。キャスターにはろくに魔力が補給されてないしな。ただ説明してなかっただけだろうさ。なあ、キャスター。もう潮時なんじゃないかい?」
「……」
相変わらずキャスターは顔を伏せたまま何も答えない。
「エレナ、どういうこと? 私を……騙してたの?」
「……ごめんなさい、ユー。騙すなんて、そんなつもりではなかったのだけれど……」
「……」
重い空気が流れた。誰も口が開けず、沈黙が流れる。
「まあ、とりあえず、ここで話す内容じゃないな。中に入ろう」
沈黙を破ったセイバーはそう促し、全員が道場へ入った。応接室に行き、円状に座る。
「さ、どっから話そうかね。聖杯戦争についてからか?」
「……」
セイバーはキャスターに目配せをしたが、反応がない。
「じゃあ、オジサンから話そう。聖杯戦争とは――」
キャスターの様子を見て、セイバーはやれやれと聖杯戦争について語り始めた。
聖杯を求める魔術師同士の殺し合いであること。英霊という存在を召喚して使役すること。令呪は英霊に対しての命令権であること。余すことなくセイバーは神谷に話した。
「魔術……。まさか、本当にあったなんて」
神谷は驚いた様子だったが、セイバーの言うことを信じたようだった。キャスターやセイバー達のことを少しは疑っていたのだろう。素直だった。
「あったらしい。俺も最近までは知らなかった」
神父から既に聞いていた野熊はそう言う。
「僕もまさかとは思いましたが……」
日々谷も頷いた。
「「「え?」」」
マスター三人が声を上げる。
「お前、ランサーじゃないのか?」
野熊は日々谷を指差した。日々谷の背後の壁には立派な槍と盾が置かれている。
「そういう君はサーヴァントじゃないんですか?」
キャスターと対峙した時の人外じみた反応を見ていた日々谷は、驚きながら質問する。
「見ろよ。令呪があるだろ」
野熊は日々谷へ左手の甲を見せた。
「あ、そうですね。今の僕に令呪はありませんが、ランサーの元マスターでした」
「そうなのか。って生身でそれだけの……? お前も魔本にやられたクチか?」
「? いや、ただ頑張っただけですけど……」
「は? 化け物かよ」
「あれ? じゃあここに居る人たちって」
神谷が気付いたように声をあげる。
「サーヴァントを除けば一般人。ってことになるな」
「でもさっきの説明では、魔術師が7人集まるって、」
「それがそうはならなかった。偶然一般人一人が混じることくらいならありそうだが、三人ともなると偶然だけじゃ説明がつかない」
「つまり、誰かがこうなるように仕組んだ、って言いたいのか?」
「そうだ。敵の名前は間宮詩。この聖杯戦争を仕切る聖堂教会の神父。オジサンたちが個人で戦っても勝てないのは明白だ。だから一旦ここは休戦ということで、協力はできないかい?」
「教会の神父? おい、そいつに心当たりが――成程。本当にぶっ飛ばさなきゃならない奴がいるわけだ。俺は協力するぜ」
野熊は拳に手を当てて賛同した。それに日々谷も頷く。
「僕も賛成です」
「う、うん。今はそうするしかないと思う」
状況の理解がまだ追いついてない神谷だったが、意気込む知り合い二人を見て仕方なく承知した。
「さ、あとはお前だけだぜ、キャスター。マスターはこう言ってるが?」
「……あたしは反対よ」
「エレナ、」
「だって、 ……だって! ユー、本当に分かっているの? 少しでも誤れば死んでしまうの。 それが分かって言っているの? このセイバーだって今は協力してくれるかもしれない。でも状況が変われば私達を切り捨てるわ。 いつ殺されるか分からないのよ」
「ヒュー、信頼ないね。まあ、それくらいの心持ちの方が安心かもな」
「ヘクトール、煽らないでください」
「…………そんなつもりじゃなかったんだが」
日々谷に肘で小突かれ、セイバーは口を窄めた。
「エレナ、でもどうしようもないじゃない。だって、もう始まっちゃってるんだから」
「どうして……どうして? なんでユーはそう思い切りがいいの? もっと戸惑ったり怒ったり悲しんだり、そういうの、ないの?」
「私だって、私だって怖いよ。十分戸惑ってるし怒ってるし、悲しんでるよ。でも、やるしかないじゃん。やるしかないから、やるんだ」
「ユー。あたしは、私は認められないわ。こんな奴らと一緒に行動するなんて、そんなの、絶対ダメ。なんで分かってくれないの? こんなに、こんなに心配してるのに」
「分かってないのはエレナの方じゃん! なんでこんな時にそんなこと言うの⁉」
「……うう、」
「……」
その場の男性は全員黙っていた。女性の揉め事に口を突っ込んではいけない。
彼らはなんとなく理解していた。
しかし、セイバーだけは黙ったまま、剣の柄の先に掌を当てていた。万が一キャスターが過剰にヒステリーを起こして暴走した時に切り伏せられるようにだった。
そんなセイバーを察して日々谷は、胡坐をかくセイバーの腿に手を置いた。
抜いてはいけない。
そう告げるように。
「……わかってますよっと」
ふう、と一息ついてセイバーは声を上げる。
「まあまあ、そこまでにしなさんな。わかった。じゃあキャスターとそのマスターにはここに残ってもらう。それでいいか?」
「……そうですね」
日々谷は静かに頷いた。
「ああ、俺もそれでいい。神谷はここにいろ」
「そんな!」
「ユー、それがいいわ。こんな人たちと関わるのはよしましょう」
「……」
「あ、そうだ。これ、何かわかるか?」
野熊は思い出したようにポケットから小瓶を取り出した。それはアサシンから受け取ったものだった。
「瓶? それがどうかしたんですか?」
「サーヴァント、多分アサシンからもらったものなんだが……」
「アサシン⁉ 早くそんなものは捨てましょう!」
日々谷は思わず立ち上がった。
「ええ、毒物かもしれないわ」
「な、ちょっと待ってくれ! そうじゃないと思うんだ。大切にしてくれって言ってたから……」
「信じたんですか?」
「だって見逃してくれたし……」
「どれ、オジサンに見せてみな」
セイバーは小瓶を手に取っていろんな角度から観察を始めた。
瓶自体は透明なものだったが、中にはスポンジのようなものが詰まっていて、はっきりと中が見えない。
「なんだこれ。少なくとも毒物の類じゃないな。まず液体じゃなく、次に、毒が気体ならこんな小瓶程度じゃ話にならない。爆発物にも見えない」
セイバーは小瓶を野熊に返した。
「……じゃあこれはなんだ?」
「そのアサシンってやつはどんな奴なんだ? 髑髏の仮面をつけてたか?」
「いや、なんか袴着の青年だった。あとはハンマーを二つ持ってて、片方は知らないけれど、一つはなんでも小さくできるらしい。あとは……白かったんだけれど黒くなってた」
「はあ? なんだそれ」
「僕達と同じで異常があったんでしょうか」
「そうかもしれないな。……袴着にハンマーが二つ? ――ああ、そういえばマスターからの報告に確かにそうあったな。だが、オジサンそんなアサシン聞いたことがないぞ。普通アサシンが使うものと言ったら毒物かナイフか、身軽な獲物の筈だ」
「ですよね……いくらなんでもハンマーは目立つでしょうし、それ以前に暗殺に使うに似合わしくありません」
「袴着って時点で日本産のサーヴァントであることはほぼ間違いないだろうと思うんだけどな……。なあ、セイバー」
「なんだい?」
「その、サーヴァントっていうのは実在したというかなんというか、歴史の教科書に載っているような奴じゃないとなれないのか?」
「いいや、実在の記録がなくても英霊になっている奴はゴロゴロいる。オジサンもそのクチだしな」
「だったらアサシンはその線が強いんじゃないか? 日本でアサシンといったら忍者だけれど、ハンマーなんて使わないし、歴史に載っている奴じゃないと思う」
「日本神話……で、ハンマーを使うのっていましたっけ?」
「いない。一時期、日本神話にハマった時があったんだが、大体武器は剣だな。タケミカヅチとアメノハヅチノオノカミっていうのはいるが、名前に槌が入っているだけで関係ない」
「じゃあ日本神話の線はないですか……古事記は?」
「それも日本神話だな。出典が違うだけだ。ちなみに日本書紀も期待しない方がいい。あれは役に立たない」
「手詰まりじゃないですか」
「……」
再び沈黙が流れる。
「――あの、ちょっといいかな」
「どうした神谷」
「昔話、みたいなのはどうかな? それならいそうじゃない? 桃太郎みたいな」
「桃太郎、ですか? え、桃太郎ってサーヴァントなんですか?」
「桃太郎はちっと難しいんじゃないかねえ」
「………昔話。御伽草子、待てよ」
「思い当たる節が?」
「ある。まさに御伽草子の中の一遍に槌に関係する奴がいる」
「それは?」
「それは――一寸法師」
「一寸法師……ってあの、体がとても小さいやつですよね」
「そう、それだ」
「一寸法師ってサーヴァントなんですか?」
「んー、オジサンの見立てだと、アサシンが一寸法師っていうのは無理があるな。何故ならそもそも
「ええ?」
「どういうことだ? なんで英霊じゃないんだ」
「これに関しては微妙な判断基準だからオジサンにもよくわかってはいないが、座に英霊として登録されるにはある程度の条件がある。一寸法師はその条件を満たしてはいない。英霊ではなく、その下位にある幻霊と呼ばれるものだろう。故に、一寸法師となるにはそれを補強する何かが必要だ。一寸法師以外のエッセンス――英霊としての補強が」
「……補強。それはどんなものなんだ?」
「難しいが……例えば、ルーツが同じものを合わせることで本来は別個体のものを無理矢理一つのものと想定する、それで足りない部分を補い合ってみたいなものか。わかる?」
「分かった。それじゃあ、一寸法師はおそらく英霊として存在できる」
「「「「……‼」」」」
「どういうことだ?」
「諸説あるが、一寸法師と同一視されている存在にスクナヒコナがいる。オオクニヌシの国造りに参加した神だ。これの要素が取り入れられているのなら、英霊として成立するんじゃないか?」
「神……神だって? 馬鹿な。それも英霊じゃあない。神霊と呼ばれる存在だ」
「神霊じゃダメなのか?」
「神霊は格が高すぎて召喚できな――いや、だからこその一寸法師? 神霊を召喚するためにあえて存在が希薄な幻霊一寸法師を依代に再構成した――?」
「つまり、」
「一寸法師は召喚できる――」
「間違いなさそうだな」
「待ってください。そもそも一寸法師ってハンマー使いましたっけ?」
「おいおい、一寸法師と言ったら打ち出の小槌が――……」
言いかけて野熊は言葉を止め、あごに手を当て考え始めた。
「どうしたの?」
「なんで打ち出の小槌が二つあるんだ? 打ち出の小槌が二つもあるなんて知らないぞ」
「それならおそらく、神霊を召喚するにあたってのランクダウンが行われたんだろう。それで本来の打ち出の小槌の権能がばらばらにされて二つに分けられた。それが物を小さくする槌の正体だ。それから察するにもう一つは叩いたものを大きくする権能だろう」
「ランクダウン、そんなことがあるのか」
「まあ、アサシンが一寸法師とするなら、だけどな」
「えーっと、つまり、アサシンは一寸法師ということでいいんですか? そして、アサシンのその、宝具、でしたっけ。それがその二つの槌ということで」
「まだ推論の域を出ないが可能性はあるな」
「じゃあ、その瓶はその宝具で小さくされたものなんですかね」
「そうかもしれないな……」
「なんとかして大きくできないかなっ?」
「オジサンは難しいと思う。宝具が二対になっているのだとしたら、片方の槌で小さくなったものはもう片方の大きくする槌で叩かないと戻らないんじゃないか?」
「これでどうにかできないかな」
野熊の右手に魔本が現れた。
「うわっ、なんですかそれ。というかどこから出たんですか?」
「これ、小さくして持ち運びができるようなんだ。その術式があるということは、逆の大きくする術式があるかと思ったんだが……ないな」
魔本のページをめくりながら野熊は呟く。
「おい、なんだそれは――」
不可思議な魔本についてセイバーが問いただそうとした時だった。
轟音とともに地響きがして、セイバーの言葉を遮った。
「な、なんだ⁉」
「外に出ましょう!」
ぞろぞろと外に出る日々谷達。その日々谷達が見たものは、信じられない光景だった。
「城が建ってる――」
それは、黄金に光り輝いていた。
もう日が沈んで大分時間が経った夜中だったが、その黄金城の輝きは地平線に沈む太陽がごとく輝きを放ち、空をも照らしていた。
「金閣寺はそっちにはないぞ!」
「ボケてる場合ですか! あれは間違いなくサーヴァントの宝具!」
「あんなことができるとしたらライダーくらいだが、あそこまでの規模はとてもじゃないが――まさか、この聖杯戦争は奴を勝たせるために?」
「それじゃ急ごう! 神父はあそこにいるんだろ!」
「ああ!」
セイバー達が走り出そうとした時、
「待って!」
神谷が野熊の手を引いた。
「どうした? 俺はもう行かなきゃならない」
「私も連れてって」
「ユー⁉」
「駄目だ。ここから先は危険なんだ。死ぬかもしれないんだ」
「分かってる。分かってるよ。でも、それはトージもおんなじだよね? トージだって死んじゃうかもしれない」
「それは……そうだが」
「じゃあこの手は離せない」
「はあ⁉」
「トージ、小学生のころのこと、覚えてる?」
「そんな昔のこと覚えてるわけないだろ」
「私はね、覚えてるよ。トージはね、小学生のころ私を助けてくれたんだよ。ユーフォ―はあるって、宇宙人はいるんだってきかない私をいじめてた子たちに、トージは言ってくれたんだよ。夢を見るのは自由だって。それを笑う権利はないって。私、あの時トージに助けてもらったから、今もこうして信じ続けられるんだと思う。だから、だから――今度は私の番。今度は私がトージを助ける番なんだ」
「……。お前に何ができるんだ」
「何もできないかもしれない。むしろ足を引っ張るだけかもしれない。でも、私にもできることがあるかもしれない。だったら、このままトージを黙って見送ることはできない」
「ユー、やめなさい。トージ君が困ってるわ」
「……分かった。そこまで言うなら反対しない」
「っ⁉ あなたまで⁉」
「本当はね、ずっと知ってたんだ。エレナが私を守ってくれていたこと。私のためを思って行動してくれていたこと。本当は、わかってたんだ。ごめんね、いじわるな言い方しちゃって」
「ユー……」
「でも、このまま守ってもらうだけじゃダメなんだ。私も、戦わなきゃ」
「そんなこと、あたしは望んでないわ」
「分かってる。でもこれは私にとって必要なことなの」
「……ほんっと、何を言ってもわからない子ね」
「ごめんね」
「よくってよ。わがままな人達に振り回されるのは慣れてるわ。いいこと? 私も行くわ。そして絶対に無茶はさせない。危険だと感じたら貴方を連れていく。いいわね?」
「うん! ありがとうエレナ! エレナ・ブラヴァツキー」
「……ユー、貴方、あたしの名前を……」
「それじゃあいくぞ。ダッシュで行く。ほら、乗れ」
野熊は膝をついて、神谷に背中に乗るように促す。
「うん」
「しっかり捕まるんだぞ!」
「うん!」
そして、野熊と神谷は黄金城へ向かっていった。
「……」
「お互い、世話の焼ける子のお守りは大変だねえ」
「! 貴方、先に行ったんじゃなかったの?」
「あいつが先行してるなら大丈夫だろ」
「よっぽど信頼してるのね」
「ん? それは違うな。予測だ。俺は何も信じちゃいない。そうなるって分かってるだけさ」
「人はそれを信頼と言うのよ」
「はは、これはこれは。手厳しい。――なあ、キャスター」
「なに?」
「人間って不思議なもんだよな。つい最近まではろくに立つこともできなかったひよっこが、いつの間にか自分の前を歩いてんだ。知らない間に成長して、知らない間に追い抜かれていくんだ」
「……そうね」
「そいつらの後姿を見て、俺達にできることはなんだと思う?」
「セイバー、貴方って、嫌味な言い方をするのね」
「性なもんで」
「背中を押してあげるだけ……そうでしょ?」
「じゃあ、今からやってやろうぜ。旅立ちくらい祝ってやらねえとなあ?」
「分かってるわ。全速力で行くわよ!」
「おうよ!」
アーチャー&ライダー
シャルルとアーチャーは京都の街を歩いていた。
「なあ、アーチャー。本当にこれでいいのか? ただボク達が歩いて来た道に魔力探知の術式を貼ってきただけだ。まあ、ボクにできることはそれくらいしかないから仕方ないとはいえ、大丈夫なんだろうか。これでライダーを見つけられるのか?」
「十分っしょ。サルは絶対に俺を見てる。俺を意識せざるを得ない。つまり、俺が通った道のりにいずれ奴は来る。その時がチャンスだ」
「そんな上手くいくかな……」
「シャルルちゃんは心配性だな!」
「ちゃん言うな。で、その羽柴秀吉?に注目されているといってもお前、そいつに負けたんだろ?」
「……一度だけだし」
「いや、一度あれば死ぬから」
「あー、もう! じゃあ今回で勝つ! これでトントン!」
「本当に大丈夫か……?」
その時、シャルルの術式に反応があった。
「⁉ 本当に来たぞ!」
「っしゃ! 言ったとおりっしょ! あいつは俺が生きている限り、意識せざるを得ないのよ! で、場所は⁉」
「ここは――本願寺⁉」
「グッドぉ! そこを選ぶとはおサルさんも中々執着してるねえ!
成程、じゃあこう言わなきゃなんねえなあ!
敵は、本願寺にありぃ!
はっはー! このセリフ一度言ってみたかったんだよねえ!」
そして二人は反応があった場所、東本願寺へと向かった。
「ふうむ、黙っているとは思っていなかったが……まさかこんな古典的な方法に引っかかってしまうとはのう」
「へへ、灯台下暗しってやつ? おサルさんには気付けなかったようだな」
東本願寺前で、アーチャーとライダーが対面する。
「お主も儂をそう呼ぶか、キンカン。もう一度無様に死にたいとみえる」
「てめえも俺を馬鹿にしてんじゃねえかよ。あと俺は禿げてないから。ふっさふさだから。ほれ見ろこのロングヘア―!」
「サーヴァントになればいくばか情報を改竄できると聞くが? 少なくともお主、そんな南蛮頭ではなかったじゃろう」
「南蛮頭言うなし。これは立派なオシャレヘアースタイルだから!」
「……しかし、髪まで金に染めるとは、その発想はなかったぞ。お前を討った後、儂も金に染めるとしよう」
「うげえ、じじいの金髪とか誰得だよ。大人しく禿げ散らかしてろ」
「禿げ散らかしてたのはお主の方じゃ――」
「うるせえ! おいシャルルちゃん、もうやっちまおうぜ!」
「だからちゃん言うな。お前の頭の話はどうでもいいから冷静になれ」
「今どうでもいいって言った⁉ 今俺の髪をどうでもいいって言った⁉」
「……もうよい、戯れもここまでじゃ。のう、キンカン。お主、儂がこんな罠に引っかかると本気で思うたのか?」
「……まさか。こんな誰でもわかるちゃちな罠に引っかかるほど、おバカじゃないでしょ。でもさ、てめえのことは、煽られたらそれを受けるしかできない大馬鹿者だってことくらいは分かってるぜ! サルだからな!」
「ではよい! ハゲ、ここで散れ!」
「とうとう直接的にいいやがったなこの野郎! 俺は禿げてねえ!」
「豪華絢爛日輪城‼」
ライダーが宝具を展開した。ライダーの足元から天守閣が生え、そのまま竹が伸びるかのように城が建っていく。
「もう既に儂の能力は満ちておる! お主を後回しにする必要もない!」
「で、でかい……お前、本当になんとかなるんだろうな」
遥か高みの天守閣を見上げながらシャルルはアーチャーに問いかけた。
「……」
「おい」
「……ごめん、無理かも」
「はっはっは! 今一度この日の本に儂の名を刻まん!
儂の名は羽柴秀吉――いや、こういった方がウケがよいかの? 豊臣秀吉と! はっはっは!」
「やばいやばいやばい」
「……おい」
「茶々、待っておれい! 今、我らの夢を叶えようぞ!」
「「どーすんだこれー⁉」」