Fate/loneliness -little summoners- 作:からすまそういち
6 徹夜明けの空
セイバー
「だっはっは! それでノコノコ戻ってきたのかお前さんは!」
イギリスのとあるバー。
ウイスキー片手に男は爆笑しながらばんばんとニコラの肩を叩いた。
「まあ、私には向かなかったというだけだ」
「いやー、お前が日本に行くって聞いた時は驚いたけど、まさか手ぶらで帰ってきたとは!」
「手ぶらじゃない。ちゃんとお土産を持ってきただろう?」
男の横には紙袋が置いてあった。その中には八つ橋が入っている。
「わざわざ空港で高い金払って持ってきたのかよ。それもまた面白いな!」
酒が進んでいつもより陽気な友人を相手しながら、ニコラは思う。ああ、帰ってこれたんだな、と。
「で、俺が紹介した傭兵は? どうだった? 役に立ったか?」
「何も。連絡は取れないし、最悪だった」
「そうか、評判はあまり悪くなかったんだけどな。まあ残念なこって」
ニコラはグラスを口に当て、ウイスキーを飲むと同時に思い出す。
「……サーヴァント、か」
「あん?」
「結局、セイバーのことはよく知らないままだったと思ってな。もう一度会いたいものだ」
「珍しいなあ、お前がそこまで言うなんてよ」
「そうかな。単純に興味が湧いただけだ」
「おいおい、また聖杯戦争に参加する気か?」
「いいや、サーヴァントの召喚に興味が湧いただけだ。それだけなら私にもできるかもしれない」
「……そうか。じゃあできたら俺にも会わせてくれよ。そのヘクトールって奴によ」
「ああ、できたらの話だが――」
ニコラは更にグラスを口に運んだ。
彼を思い出す。此度は上手くいかなかったが、きっと次は上手くやれるだろう。もし次があれば、その時はもっと寄り添った関係でありたい。
ニコラはそう願って、目を閉じた。
ランサー
「僕、京大に行くよ」
聖杯戦争が終わった翌日。僕は家族の前でそう宣言した。
「えっ、ええ? どうした急に」
父が慌てた状態で僕に問いかける。そりゃそうだ。毎日をテキトーに生きている人間が突然そんなことを言い出したら僕だって驚く。
「総二郎、お前そんなに賢かったっけ?」
母親も驚きが隠せないようだった。
「いいや、僕は賢くもなんともない。今から勉強しても京大に受からないかもしれない。でも――挑戦してみたいんだ」
何故かは分からない。
けれど、やってみたくなった。
たとえ失敗してもそれはただの失敗じゃないと、思えるから。
「今はただ、挑んでみたいんだ。僕が頑張ってどこまでいけるのか。それがきっと、大事なことなんだ」
「そうか……。じゃあ、やってみなさい」
父は言った。
「うん」
僕は答えた。
やってみよう。
失敗しても大丈夫。
だって僕には、二人の英雄がついているんだから。
負けても僕は、立ち上がれる。
アーチャー
京都油小路通蛸薬師にある本能寺跡の碑。その前でボクは手を合わせていた。
「……」
アーチャー、明智光秀。
不器用な男だった。
見栄っ張りで、軽薄で――熱い男だった。
「じゃあな」
碑に手を振って立ち去る。
ボクにはやるべきことがある。
ボクが周りの人間にナメられるのは、ボクの名前や、見た目の所為じゃない。
ボクが弱いからだ。
肉体的にも、精神的にも。
だからフランスに戻ったらたくさん修行をしよう。
たくさん勉強して、あいつらを見返してやる。
今に見てろ。ぎゃふんと言わせてやるぜ!
だからそこで待っててくれ。
ボクはまた日本に来る。
成長してボクはまた、ここに戻ってくるから。
アサシン
「……」
目が覚めると、俺は病床にいた。
「……終わったのか」
呟く。思えば今回の仕事はトラブル続きだった。最後まで果たそうとしていたが、結局無理だった。
目線を外に向ける。病院の窓に手紙が貼りついていた。
次の仕事だ。俺はまだゆっくりと休めないらしい。
「……ふん」
起き上がってベッドから降り、窓に向かって歩いた。
窓を開けて手紙を取る。
一つの仕事をミスしたからといって、俺に休んでいられる時間はない。
気持ちを切り替えて次に行こう。
次の、戦場へ。
キャスター
道場の雑巾がけをしながら、私は思った。
(広くなったなあ)
思えば、夏休みの間はずっとここに誰かがいる状況だった。エレナ、ヘクトール、レオニダス一世、日々谷総二郎。常に誰かがいて、笑っていた。そんな光景がとっくの昔に過ぎたかのように、今はもう誰も居ない。
(たまにトージと日々谷君は来てくれてるし、文句は言えないよねっ)
そう思って私は走る。
今でも夜は空を見に外に出る。
その度に思う。
彼女が見てるから、頑張らなきゃって。
そう、例え姿は見えなくても。
私の中には、いつも彼女がいるから。
寂しくないんだ。
バーサーカー
人は一人では生きられない。
そんな当たり前のことに、苦労する日々だった。
結局、理解したかった一人の叛逆者のこともよく分からないままだった。
これからも、そういうことがあるのだろうか。
理解する間も無く、消えてしまう。
そんなことが。
そう思うと怖くなった。
別れるのであれば、せめて理解したかった。
俺はそう思う。
ああ、だから人は一人では生きられぬのだと、そう知った。
誰かを想うことを、止められぬのが人だから。
「……」
夏休みは終わった。今はただ学校に通う日々が続いている。
「トージ、今日は道場に来ないの? 日々谷君は来れるって連絡来たよ」
そして今の俺には、解決すべき人間関係がある。
決して放ってはおけない、関係が。
「日々谷が来るなら行くよ。――あのさ」
「うん」
「俺の人生に、付き合ってくれないか?」
「へ?」
神谷には神谷の事情がある。俺には俺の事情がある。
それが重なっている今、俺はこの関係に区切りをつけておきたい。
「えっ、ちょっ、それってどういう意味?」
神谷が慌てて俺に問いかけてきた。
さて、どう返すべきか。
「別に変な意味じゃ……いや――そういう意味だ」
誤解されても構わない。
神谷は俺の為に時間を割いてくれた。
だから、今度は俺がコイツの為に時間を使いたい。
「えっええっ⁉ いきなりそんなこと言われても――考えたことないし。私、トージをそういう目で、見たことないし」
「まあ、そうだろうな」
「ん、んんん? そうだな、そうだな?」
「別に、フラれるならそれでいいさ。以前と同じ関係のままなんだから――」
「いや、そうは言ってもね? 心の準備とかさ。分かった、分かった!」
「おう」
「いいよ!」
「えっ」
思ったのとは違う返答が来た。思わず固まる。
「いいよ、その代わり――私の人生にも、付き合ってよね」
「ああ――勿論だ」
胸の高鳴りが聞こえる。
思ったよりも俺は緊張していたらしい。
ああ、よかった。
「人は一人では、生きられないもんねっ!」
神谷が笑う。
その通りだ。俺もそう、思った。
アサシン
私、姫乃優奈には憧れがありました。
道場の前に立つ。
その道場は厳かな雰囲気を放っていて、中々門を通る勇気が出ない。
行かなくちゃ、行かなくちゃと足を前に出そうとしても、足が前に出てくれない。
「ふふっ、新しい門下生の方ですか?」
後ろから声をかけられる。
「は、はい!」
振り返ると、私に声をかけたのは笑顔の爽やかな青年でした。
身長は髙く、服の下からでも筋肉の膨らみが分かるガタイのいい人でした。
「おう、日々谷。どした?」
その人に声をかけるもう一人の青年。
「トージ君、新しい門下生の方らしいですよ」
「おお、まじか。初めまして。どうぞ中に入ってください」
「はいっ!」
二人に勧められたおかげで門をくぐることができた。
「神谷さーん! 来ましたよー!」
日々谷さん、でいいのでしょうか。彼は道場の中へ声をかけました。
「はいはーい」
そして中から呼ばれて出てきたのは綺麗な女の人でした。
「あっ、貴女が姫乃さん?」
「はい! 今日からお世話になります! 姫乃優菜です!」
緊張がまだ解けず、私は声が上ずってしまった。
「どうも、神谷裕由です。よろしくね」
神谷さんは優しく微笑んでくれました。
――私には憧れがありました。
私は昔から、袴着の姿に憧れがありました。何故かは分かりません。私が幼い時に亡くなった母の代わりのように、袴着の青年が私を守ってくれている気がして、そのせいかもしれません。ともかく、私も袴着を着てみたいと思うようになりました。
ほんとう、些細なきっかけです。
でも、始まりというのはそんな些細なものでもいいんだと思います。
ここからが私の物語の始まりなんだと、私は思うのです。
エピローグ
はい、おめでとう。
これにてこの物語は終了だ。
どうだったかな?
君の思う展開だったかな? 違ったのかな?
それは私には分からないし、どうでもいいけれど。
ともかく、これが結果だ。
君が新たな聖杯戦争を求めた――結果だよ。
ここまで読めばもう分かっただろう。
この物語が、君に語りかける物語であると。
さて、では私は、今この文章を読んでいる君の名を当ててみせようか。
君の名はシャルル・レ・モーガンだ。
聖杯戦争について調べると私は分かっていたよ。
だから文献の中にこの物語を混ぜ込んでおいた。
これで君の知りたかった情報は分かっただろう?
ここからが本題だ。
私は聖杯戦争を利用してサーヴァント、メアリー・スーを召喚した。
彼女は完璧だった。私が持つ演算装置の権限の殆どを彼女に譲渡した。
そして彼女が地球の核に落ちる。
それで終わる筈だった。
しかし、そうはならなかった。
自我を持たない筈の彼女には自我があった。逃げだしたのさ。
世界が変わった。
演算処理の権限は彼女にある。もう私だけではどうすることもできない。だから私は君に託すことにした。
頼む、世界を救ってくれ――
この書物の最後のページに招待状を挟んでおいた。彼女が開催する次の聖杯戦争への招待状だ。君にはこれをもって新たな聖杯戦争に参加し、彼女の目論見を止めてもらいたい。
もう君しかいないんだ。ここまで辿り着いた人間は君だけだ。
だから、あとは君に任せる――
シャルルは顔を上げた。
(何だって? 世界が――変わった?)
シャルルは現在二十七歳。日本で現代魔術を教える高校教師である。
現在シャルルがいる世界は科学の代わりに魔術が発展しており、何にしても魔術が使われる。聖杯戦争が世間に浸透しており、一家に一騎はサーヴァントがいるような世界である。
聖杯戦争はまるでスポーツのように扱われ、世界大会も開催されている。
(ここに書いていることはおかしい。魔術が神秘のように扱われて――いや、おかしいのは
シャルルはその書物に書かれてあることを覚えていなかった。自分が過去聖杯戦争に参加していたことを今知った。それでも。
(明智、光秀)
自分が日本に執着する理由を、知ってしまった。何故自分が日本で暮らすことに拘っていたのか。その解答がそこにはあった。
(くそっ、じゃあ、今までの自分は、人生は「偽物だった」ということになる……っ! そんなこと、許せるわけがない――)
「アーチャー!」
「はっ、マスター。ここに」
シャルルの横でかしづくアーチャー。その者は甲冑に身を包んでいた。明智光秀ではない、左右で腕の長さが違う鎧武者。シャルルが大学生の頃からの契約だ。もう長いことになる。
「アーチャー、聖杯戦争に行く。やっと目的がはっきりした」
「ええ、畏まりました。我々を、取り戻しに行きましょう」
シャルルの手には切符が握られていた。
それは新たな聖杯戦争への招待状。
今、ここから始まる――
《Fate/loneliness -little summoners- ――了》
あとがき
はい、からすまです。いやー、なんとか終わりました。確かこの話は2017年に相方の御今と私の二人の間で完結した話だったので、四年近く完成までかかったことになりますね。
いやー、まさか書くとは。
四年かかったことよりも書き終わったことの方が驚きです。
もともとこの話は、私と御今の妄想から始まった話でした。
もしFGO(フェイト・グランドオーダー)のサーヴァントが実際の聖杯戦争に参加したら。そんな問いから始まったように思えます。当時は明智光秀が登場していなかったのでセーフだったのですが、のちにアウトになりました(そもそも木下藤吉郎がアウトだったので気にはしませんでしたが)。
ちなみに今回の話は全四部の物語の始まりの一部です。
なので続きがあります。
ですが書くとは限りません。
正直疲れました。なんで始まりの一部でこんなに文章量があるんだよ。
続きを書くかどうかは反響次第、ということにしておきます。
では相方の御今さん、あとがきをどうぞ!
皆様、初めまして、御今士郎と申します。
今回からすまさんと一緒、というよりは補佐に近い形で作品に関わらせて頂きました。
からすまさんも言ってた通り、最初はちょっとした妄想というか、たられば話から出発した今回、レオニダス一世やエレナ・ブラヴァツキーといった魅力的なキャラが聖杯戦争で戦う……というよりはもっと彼らの活躍が見たくなったところから始まって気づけば四年、長い。
ここだけの話、最初の一年以降ほぼ話が進んでなかったので、私自身終わったものと勝手に思っており、こうしてあとがきを書いているのもやや実感がありません。脱帽です。
さて、話が長くなってしまいましたが如何だったでしょうか?
思い入れのあるオリキャラ達と馴染みのあるキャラとの化学反応を楽しめていただけたのなら幸いです。
今作は四部作の一作目、との事で、ここから先はからすまさんの戦争です。
気に入っていただけましたら、どうぞこの先の聖杯戦争をお見届けください。
最後に、からすまさんとこれを読んでいただいた貴方に最大限の感謝を。