甘やかし過ぎたサイレンススズカとトレーナーの日常   作:祭囃子.

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新年明けましておめでとうございます、大遅刻ですね。
お待たせしました3作目です。お楽しみ頂ければ何よりです。


甘やかし過ぎてずっと甘やかされたいから常識外の走りを見せるサイレンススズカ

『俺がいなくてもスズカがしっかりレースが出来るようにする』作戦からはや数週間。少しトラブルはあったものの作戦は無事完遂した。これで再発は避けられるだろう。

 

しかし初の重賞であんな事になってしまったのだ、スズカは口にしていないだけでレースに対するトラウマができてしまっているかも知れない。少しランクは下がるが一勝クラスからゆっくりレースに慣れていってもらった方が堅実的だろう。

 

 

「と言うわけで来月の一勝クラスに出走するぞ」

 

「わかりました。...すみません私が重賞で失態をしたばっかりに」

 

「いやあれは俺にも非があったから。切り替えていこう、な?」

 

「...はい」

 

やはりスズカはまだ弥生賞の事を引きずっているようだ。これでは気持ちを切り替えるなんて出来ないだろう。何か発火材になるような出来事があると良いのだが...。うぅむ良いアイデアが思いつかない。何か...何か...

 

 

 

 

 

 

 

「ぜんぜんおもいつかないんだよ~!」

 

「ぎゃははっ!!相当思い詰めてんな!取り敢えず今日は飲め飲め!」

 

「うん...!」

 

だめだ。まったくおもいつかない。きょうはだめなきがするからのむ。

 

「いやーいつも苦難なく教えているイメージがあったがお前も大変なんだなぁ...面白いもん見れたから俺も手伝うぜ」

 

「ほんとうか...?」

 

「おうよ!いつ俺が嘘ついたんだよ!」

 

「まえののみかいのかね...」

 

「あれは別だ!まぁ俺に任しとけ!日本一になるウマ娘を教えている俺をな!」

 

「うん...ありがと...」

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぉ...頭いてぇ...」

 

酒は好きだが二日酔いの頭痛はどうにも好きになれない。昨日の記憶もさっぱり無いので元々酒に弱い体質なのかもな...。

 

メールの着信音がしてスマホをつけると昨日酒を飲んだ同僚から『あの件ちゃんとやっておくからな!』とメッセージがきていた。何の事かさっぱり分からないが多分大丈夫だろう。ありがとうと打って返信する。昨日の俺は何を頼んだのだろう。

 

 

 

頭痛薬を飲んでまだましになった頭でアイデアを必死に考える。スズカには芝居を打ってもすぐバレてしまいそうなのでダメだ。かと言ってプレッシャーを与えてはただでさえ重賞の事で重圧が掛かっているんだ、押し潰れてしまっては元も子もない。何がいい手は無いものか…。

 

 

 

考えながらトレーナー室に入るとスズカが走り寄ってきた。

 

「トレーナーさん、私頑張りますから...」

 

そう言うとぎゅうっと抱きしめてくるスズカに状況が掴めずひとまず抱きしめ返す。服の胸当たりが湿ったような感触がして大丈夫なのかと話を聴こうとするとスズカは抱きしめていた腕を離してしまった。

 

「すみません...もう大丈夫です練習を始めましょう」

 

「...本当か?」

 

「...はい」

 

これ以上話してもスズカは何も話さなそうだ。もの凄く心配だが日を改めるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

...なんかスズカめっちゃ速くね?軽く一周走ってみてと言ったはずなのに自己ベストを更新する走りをスズカは見せた。しかも全く疲れていなさそうなのだ。何が起きているんだ...?

 

「ふぅ...トレーナーさん、もう一周いいですか?」

 

無理しているのかも知れないと思ったが青い炎の様な...オーラとでも言うべき物がスズカの身体を包むように現われていた。G1レースでごくまれに見る物と似たような、ゾーン...?でもなんでこんななんでもない練習の時に...?

 

「トレーナーさん?」

 

「あ、すまん...スズカ、身体が温まってきたら本番のように走ってもらって良いか?あと2周ぐらいウォーミングアップで軽く走ってくれ」

 

「わかりました」

 

やっぱり速いな...。コーナーでは最低限の歩数で綺麗に曲がっているし直線でも普段より歩幅が大きいように見える。わけわからん...

 

 

 

 

 

その後も毎日ほんの少しずつだがベストタイムを更新しているスズカに困惑しまくって背景が宇宙の猫みたいな顔でスズカの走りを見ることしか出来なくなった。脳の中身が?で埋め尽くされた頃にはレース本番を迎えていた。

 

「今回のレースは勝つ、ってよりレース環境に慣れる方が優先だからリラックスして走ってな。今のスズカなら余裕だから」

 

「ありがとうございます。でも万が一があったら大変ですから」

 

「確かにそうだな...緊張しすぎてもダメだからな」

 

そう言って俺はスズカを少しでもリラックスさせようといつものように頭を撫でようとするとスズカに振り払われてしまった。衝撃で思わず呼吸が止まる。

 

「すみません、今撫でられると集中が解けてしまいそうなので...トレーナーさんの事は大好きですよ」

 

申し訳なさそうな顔でスズカは俺にそう言った。どうやらあのゾーンらしくものはスズカが望んで出したもののようだ。だとしたらもっとやべぇな。

 

 

 

 

 

さて本番のレースだったが結果から言うとスズカの圧勝だった。いつ見てもスズカが何馬身もの差を付けて走っていた。いつも通り大声で応援していた俺だが今日のレースはいつも以上に視線を感じた。大方『スズカの勝利決まったようなもんだしそんなに応援しなくて良くね?』と思われていたんだろう。

 

 

 

控え室に戻ってきたスズカをいつもの癖で抱きつこうとするのを一歩手前で抑える。スズカはレース後とは思えないほど落ち着いた様子だった。

 

「良かった。ひとまずは一勝、ですね」

 

「おうお疲れ。にしても落ち着いてるな」

 

「こんな所じゃまだ安心できませんから」

 

「まぁそうか...ライブ頑張ってな」

 

「はいっ」

 

 

 

 

レースが終わってから俺の元に取材が殺到してきた。勿論大差勝ちのレースについてだった。生憎俺は面白いぐらい何もしてなく、嘘をつくのも申し訳なかったのでありのまま伝えると「では愛の力と言うことでしょうか?!」と返されてしまった。...多分違う

 

『サイレンススズカの大差勝ちはトレーナーとの愛の結晶!?』

 

「は?」

 

「...これトレーナーさんが言ったんですか?」

 

その数日後、スズカが持ってきたスポーツ紙にはそんな見出しが堂々と書かれていた。おかしいな...俺やんわりと否定した筈なんだが。

 

「いや、俺は一応否定したぞ。ごめんなスズカ俺の答え方が悪かったのかもしれん」

 

「いえそうなら良いんです...」

 

そう恥ずかしいそうに言うとスズカはその新聞を奪い取るように持ち去って消えてしまった。何かスズカも思うところがあったのだろう。にしてもあの記者途中からテンションおかしかったな。大丈夫だろうかあれは。

 

 

 

 

○○○

 

 

 

良かった...トレーナーさんにバレて無かった。トレーナーさんが気づいたのなら恥ずかしくてもうお嫁に行けない...。

 

スペちゃん、スペちゃんのトレーナーさん経由でトレーナーさんの本音を聞いたあの日から今まで体験したことのないぐらいに力が湧き上がってきました。

 

五感が冴え渡り、不思議と一歩一歩自然と脚が進み、インコースぎりぎりを簡単に攻められる。本当に自分の身体か不思議なぐらいでした。

 

私自身何故こんな事になったかわからないのですが一つだけ明らかなのはこんなに力が湧いてきたのはトレーナーさんと離れたくないと思ってからだったこと。...つまりこの力はトレーナーさんを想っている気持ちの大きさが源...?

 

そんなことを1人で勝手に考えて1人で勝手に顔を赤らめています。もし本当にそうならトレーナーさんの顔をちゃんと見れなくなるし間違っていたら余計に見れなくなる...うぅ...私はどうすれば良いの...

 

 

 

 

 

ひとまずはレースに集中しよう、答えの見つからない問題に数十分悩んだ結果見つけた妥協案でした。次のレースもちゃんと勝てればトレーナーさんも安心するでしょうし...。

 

 

そうして迎えたプリンシパルステークスには予想の何倍もの人が集まっていました。耳を澄まして聞いている限りだと例の新聞を見て来た方が多いようです。...頑張ろう

 

 

「めっちゃ人いるな...」

 

「はい。どうやら私達を見に来たみたいですよ」

 

「あぁ...道理でいつも以上に視線を感じる訳だ...」

 

困惑気味に周りを見るトレーナーさんに訳を話すと少し恥ずかしそうに頭を掻きました。

 

「ま、スズカならやれる。だろ?」

 

「勿論です」

 

「よしゴールの先で待ってるからな」

 

 

 

 

バタンとゲートが開く音と同時に一歩目を踏み込む、前に倒れ込むような勢いで地面を蹴り飛ばす。良いスタートがきれました。後はこのままのペースで走り続けるだけです。

 

一定のテンポで走るため足音がメトロノームのようにします。聞いていて落ち着く。火照った身体に風が気持ちいい...走るって楽しい。弥生賞からレースだから頑張ろうと集中していたけれど、いつものように走るのを楽しむ方が私には合っているのかしら。

 

 

 

 

4回目のコーナーも綺麗に曲がり、最後の直線に入ります。後ろから足音が着々と近づいてくる...そろそろペースを上げなくちゃ。

 

観客席からは大勢の人が私の名前を叫んで応援してくれています。そしてその中にいつものように聞き慣れた声が聞こえてきました。

 

「いけぇぇぇぇぇ!!!!スズカぁぁぁ!!!!」

 

そこで待っていて下さいね、トレーナーさん。

 

 

 

 

●●●

 

 

 

飛行機が目の前を通ったのかのように風がぶわっと俺の方に吹いてきた。心なしかほんのりスズカの香りがする。...止めよう変態みたいだ。

 

スズカの最後の直線での加速は目を見張るものだった。前のレースよりも速く、美しく、楽しそうな走り方だった。

 

誰よりも速くゴール板を駆け抜けたスズカは減速して一呼吸置くと観客席の方に振り向いてきた。俺と目が合うとスズカは優しく微笑みこちらに駆け足でよってきた。なんとなく察したのか観客が俺の元から離れていく。両腕を広げるとスズカはこちらに飛び込んできた。

 

「トレーナーさんっ」

 

「うおっ...飛んでくる奴があるか全く...」

 

「だって嬉しいんです」

 

「...お疲れ、おめでとう」

 

「はいっ」

 

レース中に見たオーラのような物はもう無くなり、そこには可愛らしい教え子がいるだけだった。

 

 

 

 

 

 

「これで当分は育成方針を変えずに済みそうですか?」

 

「まぁそうだな...えっなんで知ってるの」

 

「ふふっ...内緒です」




弥生賞は史実のまま書きましたが、1勝クラス、プリンシパルステークスは少しずつだけ弄くりました。史実では1勝クラスでは7馬身差、プリンシパルステークスではクビ差での勝利です。スズカさんを愛の力で強くしたかったので気が付けばこうなりました許してください。

感想頂けると嬉しいです。また次回でお会いしましょう。
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