しんげつ「だぁい丈夫、痛いのは一瞬だけだ」
ざなぎ「シンゲツ。君には…実験を頼みたい。人間にコアエマキを挿したことがあったろう。アレを妖怪で試したらどうなるか……知りたいんだ」
あや「まさかアレって……」
あきら「蛇みたいなヤツに襲われた時、ジンムに助けられたんだ」
あや「ジンム?」
じんさん「ケガレイド化の解除なら可能だ。私とジンムを信じて欲しい」
あや「あいつは三流記者よ。でも…だからって。あんな醜い化け物にされていい理由はないわ!」
【カラステング召喚!】
博麗神社。
幻想郷と外の世界の境界に位置するこの神社で、紅白の巫女服を着た少女が、新聞を睨みつけていた。
「『ケガレイドとジンム』………」
「霊夢さん、何が書いてあるんです?」
緑の髪をカールに巻いた、狛犬のような少女が巫女服を着た少女・
「ケガレイドとかいう、新たな妖怪が出たって記事よ。人間を食らう為に襲うらしいんだけど……その度にジンムって名乗る妖怪が退治してるんだって」
「へぇ〜」
「あうん、真に受け過ぎない方がいいわ。天狗の新聞なんて、大抵は捏造報道だから」
新聞を覗き込んだ少女・
「(あのパパラッチ…珍しいわね。主観まみれだけど、事実だけで記事を書いている)」
新聞からでは初めて感じた博麗特有の勘。
外したことのないその勘に何とも言えない感情を抱いていると、二人の意識の外から声がかかった。
「珍しく先を越されてるな、霊夢」
「あんたは…」
「
声の主は、女性だった。古代道教の法師が着ているような服で、ゆったりとした長袖ロングスカートの服に青い前掛けのような服を被せているが、それよりもショートに切った金髪と、黄金の尻尾が九本も生えているのがよく目立つ。
キツネの様に突如現れた少女・
「
「
「異変、ねぇ」
「そこに載っている事だ。分からない訳はあるまい?」
異変。幻想郷においてその言葉は、主に妖怪等によって普段の日常とは違ってしまっている様子のことを言う。人間から畏れを得る為など動機は十人十色で、常に異変解決を生業にしている博麗の巫女(と異変解決屋の魔法使い)が動くことが恒例となっている。
だが、今回の異変に限っては霊夢が完全に出遅れた形になっている。人を襲う妖怪の異変が起きているのに、天狗の新聞に載るまで動かず、ぽっと出の妖怪に後れを取るとは何事だと、藍は言外に霊夢を追及していた。
「そうね。明らかにこれは異変だわ。だけど…」
「だけど?」
「なんか、引っかかるのよねぇ……こいつら、本当に妖怪なのかしら」
霊夢は、今回の異変解決になぜか消極的であった。
いかにぐうたらな巫女であっても、異変解決はちゃんとしてきた霊夢が、だ。
「妖怪以外の何者でもないだろう」
「だといいんだけど」
藍の怪訝な視線を
珍しく霊夢は慎重だった。なにせ……博麗の勘はこの時すでに、霊夢に告げていたからだ。
今回の異変は、間違いなく今までのそれとは比べ物にならないくらいに、特殊で未曽有の異変になる―――と。
舞台を移して、人里の中央に位置する広場。
珍しいことに、その日そこでは奉仕作業に勤しむ者たちがいた。
「ご主人、袋を持ってきてくれ」
「はい、ナズ」
ネズミの耳をした少女が、虎柄の服の少女に声をかけたり。
「負けませんよー!」
「なんの!
「なっ、それは卑怯でしょう!!」
セーラー服を着た少女と法衣を纏った少女が競い合ったり、雲が集まってできたような存在が落ち葉やら紙くずやら空き瓶なんかを拾いまくったりしている。
そんな中、その中心にいた尼僧が、奉仕作業をしている少年に話しかけていた。
「彰さん、ありがとうございます。私達のご協力をしてくださって…」
「いいんですよ、
少年の方は我らが仮面ライダージンムこと、多田彰。
尼僧の方は
そう。このお人好しな少年は、いつも通りの人の良さを発揮して、命蓮寺主催の奉仕作業に志願したのである。
「素晴らしい。誠に親切で、滅私奉公である!
私も、貴方に負けないように頑張らなくてはなりませんね」
「白蓮さんには及びませんよ。だって、皆さんをここまでまとめられてるんですから」
彰と白蓮の性格相性は非常に良い。
というのも、白蓮は妖怪も人間も平等だという「絶対平等主義」を教義に掲げていて、また妖怪ですら同志にするという心の優しさと寛大さを備えているのだ。
彰も人の頼みを断らず、お人好しな面があるためか、白蓮の「妖怪と人間仲良く」といった平和的な思想にも共感し、また奉仕作業等の募集があれば今回のように志願しては命蓮寺の面々ともそれなりに交流しているのである。
「あれ、彰さん!何で命蓮寺の皆さんといるんですか!?」
そこに、早苗がやってくる。
いつも通りに守矢神社の布教活動をしていたのだが、彰を見つけて中断してやってきていた。
「今日は命蓮寺の月に一度の里清掃の日なんです。だから、手伝ってます!」
「物好きですねぇ…」
「良いことじゃないですか!」
いい笑顔で当たり前のように奉仕作業を手伝う彰に、早苗はため息をついた。
「なんで、こんなイイ人が博麗一筋なんでしょう……」
「確かに、そこは惜しいとは思います。命蓮寺に帰依すれば嬉しいと思った事も何度かありますが……」
白蓮も早苗のため息混じりのボヤきに賛同した。
早苗は、珍しいものを見たように白蓮を見やる。
「白蓮さんもそんな事考えてたんですか?」
「全くないと言えば嘘になります。しかし……彼自身が何を信じるかは、彼自身が決めるべきことなのです」
聖白蓮は、守矢や道教から見れば信徒を取り合う商売敵ではある。
だが、白蓮自身はどのような形であれ戦う事を好むタイプではない。ましてや、既に信じるものがある人に対して改宗を迫るほど強引なマネは絶対にしない。
彼女はただ、迷う人たちに手を差し伸べて導きたいだけなのだ。人間・妖怪関わらず。
「しょうがない……んでしょうか」
「困った時に力になれれば良いと思います。我々は、困った人には必ず手を貸しますよ。勿論、守矢の
「お、お構いなく……」
温和な白蓮の対応に、早苗も毒気を抜かれた為か、その日の守矢布教を終わらせてしまった。
奉仕清掃もひと段落ついてから、彰は命蓮寺の関係者にお礼を言って回っていた。
「今日はお疲れ様でした!」
「いいえ、こちらこそ、ご協力ありがとうございます」
「いちいち律義だね、君も」
「あ、彰さん何やってるんですか?」
素直な労いとお礼に、命蓮寺の面々も概ね好意的な反応を返す。
礼を返したのは、虎の体色のような金と黒の混ざった髪の頭上に蓮の花を模した髪飾りをした少女・
合流した早苗は、彰の行動に目を白黒させている。そんな早苗の問いに、彰の代わりにナズーリンが答えた。
「彼はいつもこうなんだ。奉仕清掃に欠かさず参加して、終わったらお礼と挨拶に来るものだから、みんな彼の名前と顔を覚えてしまったよ」
「はぁ……さようで…」
「君も彰を見習って参加してみたらどうだい? 終わってから律義にお礼を言いに来てくれてもいいんだよ?」
「………考えておきますね」
ナズーリンの人を食ったような物言いに、早苗はムッとしながらも冷静に努めた。
それを誤魔化すように彰に話しかける。
「あの、いつ頃から知り合ったのですか…?」
「白蓮さんたちと? 割と前からだよ。ジンさんとも会う前。命蓮寺を建てる時のお手伝いもしましたよね?」
「はい。あの時はありがとうございました」
「えっ!!? 随分長いお付き合いじゃないですか!」
「父が大工の棟梁ですからね。命蓮寺建設にもがっつり関わってたと思います」
命蓮寺建設時からの付き合い……それは、とても長い付き合いである。
そもそも、聖白蓮率いる命蓮寺勢は、星蓮異変で魔界の聖白蓮の封印を解いて、霊夢たちに退治されたのちに星蓮船を命蓮寺に改造して今に至る。寺建設時に知り合ったという事は、かなりの付き合いであることに他ならない。
本当に、何故仏教徒になっていないのかというレベルの親密度合いに、早苗は驚愕した。
「そうであっても、今まで付き合いを続けるなんて、暇人でもなければできないぞ?」
「暇じゃないですよ。僕は好きだからやってるんです。ナズーリンさんこそ、もっと柔らかい口調で皆と接したらどうですか? もう命蓮寺の仲間みたいなものでしょ?」
「やめてくれ、彰。私は、そこまで大層なものではないよ。ご主人の監視だと、いつも言ってるだろう」
「本当なんですか~?」
「本当だとも」
「えぇ。ナズは確かに、私の監視ですよ。ほら、私っておっちょこちょいですから。よく物をなくしますし。監視役がいるくらいがちょうどいいです!」
「そんなに胸を張って言う事でもないだろうご主人。せめて宝塔を落とすのだけは控えてくれないかい」
「うっ……!」
「えっ! 星さん、また宝塔無くしたんですか!!? 手伝いますよ!」
「結構だ。たまには痛い目に遭わないとご主人が成長しないだろう。だいたい、この前もだな………」
そんなたわいもない話がしばらく盛り上がった後、白蓮によって奉仕清掃のお開きが宣言されて、彰と早苗は同じ帰路についた。
『彰…君、意外と顔が広いのだな』
そこで、今までずっと黙っていたジンが口を開く。
命蓮寺の面々と一緒にいた時は、妖怪たちに声を聞かれることを危惧して黙っていたのだ。彰も承知のことだった。
「あら、ジンさん? 今日は珍しくだんまりだったのにどうしたんです?」
「寺のみんなに声を聞かれたら驚かれちゃうからさ。僕と話して決めてたんだ」
『あぁ。それに……白蓮殿の思想には思うところもあったしな』
「思うところ……って?」
ジンは、その日は珍しく元気がないというか、深く考え込んでいるというのもあった。
彰がジンの発言を促すと、ジンムドライバーに宿る彼は語り始める。
『そもそも、何故、妖怪のコアエマキが生まれるか……何故、彰…変身の資格者と妖怪にだけ声が聞こえるか……君たちには分かるか?』
「あのー、私もジンさんの声が聞こえますけど…?」
『君は例外と言うか、なんというか。そんなところだ』
「……えーっと、それと白蓮さんの思想って、何か関係が?」
一見なんの関係もなさそうな質問に首をかしげる早苗だったが、それさえもスルーしてジンは続けた。
『妖怪を確実に手っ取り早く調伏する為、だ。』
「!! それ、って…!」
彰は聞いていた。コアエマキが生まれる条件は、対象の妖怪を調伏―――従わせることであると。
だが、彰の精神がジンムドライバーに影響したことで、コアエマキを手に入れる方法にも変化が現れたのではないか……と、慧音と三人で話していた。
「つまり……妖怪を倒せば倒すほど、手に入る力も増える、って機能だったんですか?」
『本来はな。
ジンムに変身したのが彰だったから、違う方法でもコアエマキは増えていったが……』
「……どうして、そんな機能つけたの?」
『1300年前から、ケガレイドは人類の脅威だったのだ。
決して死なず、ありとあらゆる封印が通用しない。もしジンムドライバーがなかったら、人間はなすすべなくケガレイドの餌になっていただろう。
だから私は、みずから開発したジンムドライバーを身につけて、ジンムに変身してケガレイドと戦ったのだ』
「え…昔のジンさんって、ジンムに変身してたの!!?」
『そうだ。彰は二代目だぞ?』
「衝撃の事実……!」
すべてはケガレイドという、恐ろしい捕食者から人間を守るために。
その為なら、ケガレイドを倒せる唯一の存在・ジンムを出来る限り強化できる機能をつけるのは当たり前のことだ。
『ケガレイドに対抗するために、当時の私は手段を選ばなかった。
例えば……妖怪から力を奪い取る、とかね。それが……私がかつて使っていた、当初のコアエマキだった』
「「!!?」」
だが、ジンの口から出たのは、ヒーローとは言い難い手段であった。
人間のためとはいえ、妖怪から力を奪ってケガレイドに対抗する。そんな闇の深いかつてのジンムの裏話に、彰も早苗も衝撃を受ける。
妖怪と人間の溝が深かった1300年前ならいざ知らず、現代の幻想郷の良識に照らし合わせて考えれば、いくら人間のためといえど、その手段は明らかに正道から逸れている。
「ジンさん、それは……!」
『分かっている。今の時代から見れば、全くもって正しくない手段だ。
……敢えて言い訳をするならば、私が人間だった当時は余裕がなかったんだよ。設備にせよ、技術にせよ…私自身にせよ、な』
「「………」」
『だから私は……今の世界を…さっきの命蓮寺の奉仕作業の様子を見て、思うのだ。
私は、間違っていたのではないか? ケガレイドから人間だけを守ったが、それは本当に正しい事だったのか? ケガレイド撃破の為に、力を奪われた妖怪はどうなのだ、とね』
「こんなことを白蓮殿に聞かれては怒られてしまうな」と明るく笑っているように見えるジンには、確かな自嘲があった。
早苗は、ジンに対する慰めの言葉を持つことができなかった。幻想郷のルールは「妖怪が人を襲い、人が妖怪を畏れ、時には退治する」こと。人間が妖怪を退治する方法に、力を奪うこともあるのだ。特になにもおかしくない、と思ってしまったのだ。「彰さんのお人好しが移ってませんか」とも。そんな自分が何を言えば、ジンの心の慰めになるのだろうか?……と、考えてしまった。
しかし、彰は違った。
「ジンさん……確かに、ジンさんのやってきた事の中には強引なものもあったよ」
『彰……』
「でも、ジンさんはドライバーを守ってくれたじゃん。1300年も」
『!!』
彰は、ジンムドライバーを撫でながら言葉を続ける。
「僕たち、1300年前のこととかよく分からないけどさ。だけど、このドライバーが大切なのは分かるよ。
ジンさんがドライバーを守り続けてなかったら、僕はケガレイドのことを知ることもできなかったし……世界がケガレイドに支配されてたかもしれない。だから……ドライバーを守ってくれたことだけは間違いじゃない。
―――これを守ってくれてありがとう、ジンさん」
『彰……!』
ジンの衝撃的な過去を知りながらも、彼が守り続けてきたものを認めてくれた彰にジンは感激に声が震えた。元は涙脆かったのだろう。機械の身体になってしまった以上涙は出せないが、その感情までは失われていないようだった。
だが、穏やかな時間は、突如崩れ去る。
『―――!! ケガレイドの気配だ!』
鋭さを取り戻したジンの声に、彰と早苗も気を引き締めて、走り出した。
駆け付けた彰と早苗は、命蓮寺前で衝撃的な光景を目の当たりにした。
まずは、どこかケガをしていると思しきナズーリンと他の少女たち。そして、それを看護する雲の巨人と星。更に……戦う白蓮と、編み笠を被り両手が鉄傘になった異形―――ケガレイドだ。どうも、白蓮の動きがあまり良くないように見える。
「奇跡『白昼の客星』!」
早苗がすぐさまスペルカードでケガレイドに攻撃して、白蓮の援護に入る。
「大丈夫ですか!!」
「ありがとうございます。しかし…」
「こっちは酷い状況です。すぐに寺の奥へ運ばなければ…」
「手を貸します!!」
彰は、比較的外傷の少ないセーラー服の少女……
「ありがとうございます、彰さん。雲山!一輪を頼めますね!」
「……」
星に雲山と呼ばれた存在は、星に頷いて修行僧の女性・
星自身はナズーリンを抱えて、避難を開始した。
「アイツは何者なんですか?」
「わかりません。
「小傘、って……あの唐笠お化けの!!?」
「はい……何を呼び掛けても暴れまわるばかりで…」
彰は、移動した寺内で星からの話を聞いて、はたての時と同じだ、と思った。
クロウケガレイドと戦った時、文に友人がケガレイドにさせられたと聞いて、攻撃を躊躇ったのは記憶に新しいのだから。
「一輪も村紗もケガをして……ナズまで、わたしを、かばって…」
「……星さん、もう結構ですよ」
ぽつぽつと、状況を語るたびに星の声に悲しみが混ざっていく様子を見て、彰は話を切り上げようとした。
彰なりに、彼女を慮るゆえの行いである。しかし、ここで思わぬ声が二人の鼓膜をゆらした。
「ごしゅじん……そんなに、気に病まないでくれないかい」
ナズーリンだった。彰から見ても重傷に見える彼女は、いつの間にか目を開いて星に話しかけていたのだ。
「ナズ!!? 喋ってはなりません!傷が開きますよ!!」
素人目からしても話していい容体ではない。
だが、星の制止を振り切るようにナズーリンは続ける。
「私は……私の意志で、ご主人を守っただけだ。
自分のせいと思ってはいけない……」
「言ってる場合ですか!! あぁっ、傷が…!!」
すぐに星が妖力で治療を始める。だが、肝心の患者が大人しくしていなければ、効果は薄くなってしまう。それでも、ナズーリンは力を振り絞るかのように言った。
「ご主人……確かに私は、最初は、ご主人の監視として遣わされたが………それでも、大事な仲間だと思っているんだよ、いまは」
「ナズ………」
そこまで言って、全て出し切ったかのように目を閉じて動かなくなった。
焦った星は、ナズーリンの口元に顔を近づける。そして………安堵の息を吐いた。
「……気絶しただけ、ですか……もう、なんで言う事を聞いてくれないんですか、ナズ…!!」
「星さん……」
彰は、その様子に声をかけることも憚られた。
だが、ジンムとして……彼女たちを傷つけた、ケガレイドを必ず止めなければという決意の炎が、胸中に燃え上がる。
ケガレイド化してしまった妖怪を元に戻す方法は、先日ジンから聞いていた。なればこそ、これはおそらく、自分にしかできない筈だ。
「……聞いてくれますか、彰さん」
「星さん?」
そう思っていると、星がナズーリンに治癒の妖術をかけながら話しかけてきた。
「ナズは、元々私の監視役でした」
「何度か、お聞きしましたが……?」
「私、元々虎の妖怪だったんです。それも…人間を食う虎の妖怪でした。
あるきっかけで聖の元につき、毘沙門天様の代理になりましたが………その時に、監視役として寺にやってきたのがナズでした」
堰を切ったかのように語り始める星。それを、彰は静かに聞いていた。
「聖のお陰でなんとかイイ関係になっていますが……それでも、この子が私を庇って傷ついていいわけがないのに…!」
「……その気持ち、すっごく分かります」
「!!」
彰は、星の悲痛な苦悩に共感した。
「自分の代わりに、仲間や家族が傷つくのって、すっごく辛いですよね。でも、それは……その人のこと、大切に思っている証拠だと思います」
「!!!」
「まぁ……僕は、傷ついて欲しくない人がいっぱいいるから、そう思うだけかもしれないけどさ!」
彰は星に朗らかに笑いかけると、立ち上がる。
少しだけ明るくなった星の表情を見た彰は、自分の言葉が届いているといいなぁと思いながら、寺の出口に向かって走り出した。
―――この時、彰の懐がわずかに光ったのには、誰も気づかなかった。
「彰さん!?どちらへ―――」
「応援を呼びに行ってくる!!雲山さんだよね、星さんのこと頼んでいい?」
「………!」
彰は、命蓮寺を走って後にした。里の医者に、命蓮寺で怪我人が出たことを伝え、現場に到着したのを確認してから、早苗と白蓮の元へ辿り着いた。
「あまり攻撃しすぎないでください!小傘の身が危険です!!」
「えぇぇーーーーッ!! 今のもやりすぎですか!? 困りましたね、他の弾幕だと足止めにもなりませんよ………」
案の定と言うべきか、早苗と白蓮は小傘が変化したケガレイド……カラカサケガレイドを相手に攻めあぐねていた。
というのも、白蓮はその優しさから、元が小傘の異形相手に思い切った攻撃ができないでいたのだ。早苗もそのスタイルに付き合っている為、あまり強い弾幕やスペルを打つことができない。
「早苗さん!白蓮さん!」
「彰さん!!」
「下がっていてください!アレは……私がなんとかしなければなりません……!」
「星さんから聞きました!小傘さん……僕なら救えます!!」
早苗の歓喜の声とは裏腹に、白蓮は避難を促した非力な人間である筈の彰の言葉に面食らった。
そう考え始めた矢先の言葉だったため、白蓮は一瞬、動くのを忘れた。だが、すぐに意識を戦いに向ける。
「無謀な事を言ってはなりません! この者は私が……」
「本当にいいんですか!!小傘さんが死んじゃいますよ!!?」
「白蓮さん…彰さんなら大丈夫です。ちょっと……ワケは、言えませんけど…」
カラカサケガレイドを倒すという事は……小傘の命の保証はできないということ。
彰に思いきり図星を突かれた白蓮は、答えに窮した。ジンムの正体を知る早苗も、白蓮の説得をする。
「………破っ!!」
「オアアアアアアアア!!!」
「白蓮さん!!!」
カラカサケガレイドに魔法を―――拘束魔法らしきものを放って縛った後、白蓮は彰に向き直る。
「小傘を助ける策が……本当に貴方にあるんですね?」
「大丈夫。必ず助けます。ただ、代わりと言ってはなんですが…」
「?」
「今から起こる事は、誰にも言わないで欲しいんです」
「……分かりました」
小傘は絶対に助ける。その決意を白蓮に示した彰は、カラカサケガレイドの前に立ち塞がる。
『……いいのか?白蓮殿に変身を見られるぞ』
「命蓮寺の皆と小傘さんの命が優先だ!!」
『そう言うと思ったぞ。出陣だ、彰!!』
「変身!」
【浄化! 昇華!! ジンム召喚!!!】
【まつろえど
そして、彰は仮面ライダー仁夢に変身。そのまま拘束魔法を破ったカラカサケガレイドに突撃していった。
「あれは、一体…!?彰さんが、異形の姿に…」
「ジンムですよ。仮面ライダーです!」
「仮面らいだぁ?」
「それで、どうやれば元に戻るんですか!?」
『単純明快。キックで倒せばいい!』
「なるほど、ライダーキックですね!!!」
「らいだぁキック??」
自分の知る彰の意外な変身に驚きを隠せない白蓮と興奮を隠せない早苗。
カラカサケガレイドに殴りかかったジンムだったが、そこでジンムにとって予想外のリアクションをしてきた。
「なっ…傘を盾に……!?」
そう。手に装着した鉄傘を開いて、ジンムの拳を受け止めたのだ!
ジンムの手に伝わる感触が、明らかに和傘やビニール傘のそれではない。まるで金属製の大きな家具でも殴っているかのようであった。
「どわぁぁ!?」
「彰さん!あのケガレイド、そうやって私達のスペルカードも防いだんです!!」
「もうちょっと早く知りたかったな…!」
カラカサケガレイドに突き飛ばされながらも早苗から詳細を聞きだすことに成功したジンム。
どうにかしてあの防御を破らなければ、ケガレイドを撃破して小傘を救う事はできない。だが、今戦っているこの場にはジンムセイバーに変化させられそうなものは落ちていない。
『どうする? ワーハクタクのパワーで破るか?それともテングの空中機動で翻弄するか?』
「どっちだろうとやるしかない……!」
ジンムはコアエマキを懐から取り出した。しかし、それは青いワーハクタクのコアエマキでも、紅葉模様のカラステングのコアエマキでもなかった。
それは一言で言えば虎柄模様だった。白と黒のそれはよく目立ち、一目で新しいコアエマキだとジンムもジンも察することが出来た。
「これは……?」
『いつの間に新たなコアエマキを……』
だが……彰は、その突然現れたコアエマキがどこで生まれたのかを、何となく理解した。
そして、空のスロットにその虎柄のコアエマキを挿しこむ。
「力を貸してください……星さん!」
【ビャッコ!】
【ビャッコ召喚!】
レバーを引けば、ジンムの姿に変化が生じた。
純白の鎧に、黒い虎柄模様が入り、手足にはツメが生まれてネコ科の動物の様になり。
ショウリョウバッタを髣髴とさせる鋭角的な顔は、虎が咆哮するようなデザインになり。
重量感から解放され、疾走感があふれ出る姿と。
【
高らかに詠いあげられた一句は、新たなジンムのモードチェンジを意味していた。
その名も「仮面ライダー仁夢・ビャッコモード」。人々が昔から虎が生まれながらに持っている無双の武器と覇気を兼ね備えた姿である!!
「ふおおおおおおお!!! フォームチェンジです!フォームチェンジですよ!!」
「えっと……つ、強いの?」
テンションが爆上がりした早苗と置いてけぼりな白蓮をスルーして、ジンムはファイティングポーズをとって、セットされたビャッコのコアエマキのボタンを三連打する。
【ビャ・ビャ・ビャッコ!】
すると、ジンムの腕に折りたたまれていたビャッコクローが手甲鉤のように展開され、足に力が漲っていく。
その力が溢れるままに地面を蹴った。
―――すると、突然ジンムの目の前からカラカサケガレイドが消えた。
「……? あれ?」
『後ろだ、後ろ』
「え?」
ジンの言われたままに振り向くと、突然相手が消えて混乱しているカラカサケガレイドと、目を見開いている早苗と白蓮の姿があった。
「ええええええええええええええええええっ!!!? スピード半端なくない…!!?」
『これがビャッコモードの力だと言うことらしいぞ』
そう。カラカサケガレイドが消えたのではない。
ジンムが目にも止まらぬ速度でカラカサケガレイドを追い抜いたのだ!
今までのモードにはない……テングモードさえも上回るスピードに、ジンムは驚愕しながらも特性を理解した。
「でも、これなら行ける!」
そして、再びカラカサケガレイドに攻撃。カラカサケガレイドは、また傘を開いて防御しようとした。
「オアアアアアア!!?」
「うわぁ!貫通した!?」
しかし……なんと、ビャッコクローが開いたケガレイドの傘を貫通したのだ!
これには、カラカサケガレイドだけでなくジンム本人も驚きを隠せない。だが、これは勝機だ。
「らららららららッ!」
「オアアア!!?」
「でやぁっ!!」
「オアアアアアアーーーーーーーーッ!?」
ビャッコクローを振り回し、突き立てて、次々と連撃を叩き込む。
カラカサケガレイドも傘で応戦するが、ビャッコモードの攻撃を受けきれず、両手の傘が骨ごと次々と斬り裂かれていく。
やがて、両手の傘が寂しく裸にされ、防御のすべがなくなったカラカサケガレイドは、ジンムのクローの一撃を受けて、大きく吹き飛ばされた。
『今だ!キックを叩き込むぞ!』
「わかった!」
【奥義発動! ビャッコ!!】
奥義を発動させたジンムは、立ち上がる途中のカラカサケガレイドの真後ろに一瞬で移動した。
そして、カラカサケガレイドに振り向く………ことなく、足にエネルギーが集まっていく。
【
「ハァァッ!!」
「オアアアアァァァァァァァァァァァァァァ!!!?」
「出たーーーーっ!ライダーキックだぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
そして、そのまま振り向きざまにハイキック。
立ち上がったばかりで敵の姿を見失っていたカラカサケガレイドにそれを回避することなどできず。見事に命中したのち……………青髪で小柄な少女をひとり、吐き出してから……爆裂霧散した。
「小傘!」
白蓮が放り投げられた青髪の少女―――小傘を受け止める。彼女は………意識はなかったが、胸が上下していた。息もある。救出成功だ。
「良かった……!」
ケガレイドを撃破し、取り戻された平穏の中。
白蓮の嬉しそうな声が、早苗と彰の胸に響いた。
―――それから、しばらくして。
命蓮寺の奥の生活スペースには、複数の人影があった。
「一輪さん、村紗さん、ナズーリンさん!これ、お見舞いです!!」
「おおお!こんなにいいの?」
「ありがとね、わざわざ」
「気を遣ってくれて助かるが……本当にいいのか?」
「勿論です!白蓮さんと星さんにも話は通してあります!」
「「やったー!」」
フルーツの盛り合わせを持ってきた彰と、布団で安静にしている一輪・村紗・ナズーリンの三人であった。お見舞いにと持ってきたものに、一輪と村紗は大歓喜だ。
カラカサケガレイドによって負傷した三人とは違い、救出された小傘はというと、驚くことに一切のケガがなかったのだ。一応、永遠亭にも診察に行ったが、そこの医者も体に問題はないと診断した。今は経過観察中だ。しかし、だ。
「小傘、寺に来なくなったな」
「まぁ…あんな事があっては仕方ないでしょう」
「どうにかして…彼女になんとか言いたいですね。
―――あの時の事は、気にしなくって大丈夫だって」
まぁ、当然と言えば当然である。
小傘は救出された後、何があったかあまり覚えていなかった。説明を求めたが、白蓮も星も言葉を濁す。しかも、見知った寺の仲間が怪我をしていた。良い想像は、できなかった。
最終的に彰が「悪いやつに操られたんだ」と説明したが………それでも、小傘の良心には影を落としたままだ。
「あの……小傘さんなんですけど…許してあげられませんか?」
空気が重くなったことに耐えられなくなったかのように、彰がぽつりと三人に言う。
それを言われた怪我人3名は………ふふっ、と笑った。
「言ったでしょう。気にしなくって大丈夫と」
「そうよ、悪いのは小傘に変なモン挿したあの真っ黒な男に決まってるじゃないの!」
「大体、私はさっきまで泣きじゃくるご主人を宥めていたのだ。これ以上誰かに泣かれるのは勘弁してもらいたいのだがね」
「!! そうですか! ………だってさ、小傘さん!」
「「「え?」」」
彰が部屋の入口に呼び掛ける。すると、そこから、ひょっこりと小傘が姿を見せた。
「……いいの? ほんとに?」
小傘が不安そうな顔で問いかける。すると、ナズーリン達は最初は驚きの表情だったが、すぐに穏やかな顔になる。
「当然だろう。君は悪くない」
「大丈夫です!」
「気にしないでいいんだよ」
そして、許しの言葉を投げかけた。
「~~~~~~~~っっ、うわああああああああ!!ごめん!ごめんね、みんなぁ…!」
泣きながら飛び込んでいく小傘を見送った後、静かに部屋を後にした彰。
そこで、白蓮とばったり出会った。
「白蓮さん……」
「彰さん、ありがとうございました………
「!!」
目の前で変身を見た筈の白蓮からの言葉。
それは……彰には約束を守っている証に感じた。
小傘が助かったのは彰がジンムに変身したからだ。それを知った上で自分の言ったことを守ってくれている白蓮に対して。
「……はい!どういたしまして!」
彰は、笑顔でサムズアップを返した。
はい、というわけで第7話でした。
仮面ライダーを見た早苗と聖がおばあちゃんと孫みたいと思った方。大人しくピチュられましょう。あと小傘が吐き出される場面で、小傘があられもない姿で出てきたと勘違いした人もピチュられましょう。
…私ですか?どっちも思ってる訳ないじゃないd(((ピチューン
ちなみにですが、この小説、色んな仮面ライダーのネタを取ったりしています。
例をあげるなら……
・ワワワワワワーハクタク!の場面(4頁)
→仮面ライダードライブのドア銃の半ドア音「ハーンドアーハーンドアーハーハハーハハハハハーンドアー」から
・ビャッコモードのライダーキック
→飛び蹴りじゃなくって振り向きざまのハイキックをするライダーは一人しかいないでしょう
・爆裂霧散
→仮面ライダーカブトの小説でワームがバーーーーーーーーンってなるシーンで使用される表現だそうです
みたいな。それではまた。
仮面ライダー仁夢のヒロインを予想してみよう!
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若き彰の恩師 上白沢慧音
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仮面ライダーを知る巫女 東風谷早苗
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稗田家に仕える女給 紗百合
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最速果断の天狗記者 射命丸文
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