ユウキとタッグを組み始めて数日が経過したが、アルファはユウキの驚異的な成長速度と圧倒的な強さに驚かされていた。今のところ、ユウキは俺よりはレベルが低いのだが、ユウキはその内レベル関係なく、自身の強さを追い越していくことを、なんとなく感じ取っていた。
今日は午後に個人的な予定があったので、午前中にユウキとのレベリングを済ませ、その後は自由に過ごすことにしてもらった。ユウキは、2層の主街区ウルバスの観光に行くんだ!と言ってダッシュで走り去っていく。その背中を見送ってから、屋台で適当に昼飯を済ませた後、アルファは待ち合わせ場所に指定されたウルバスの転移門近くで、ある人物を待っていた。
しばらくすると、待ち人であるキリトがやってきたのだが、何故か頭にバンダナを巻いている。…もしかして、変装のつもりなのだろうか。
キリト「すまん、待ったか?」
アルファ「久しぶりだな。…なんでそんな似合わないもんつけてんだ?」
キリト「仕方ないだろ…今や天下のビーターなんだから、正体はバレないようにしてるんだよ」
キリトから返って来た返事は、気の利いたジョークであった。だが、その発言に若干の苦笑いが入っていることから、やはりキリトはあの一件以来、結構苦労しているらしい。それに気が付いたアルファの心には後悔が巡り、自然と彼に謝罪の言葉を口にする。
アルファ「…あの時は悪かった。俺がもっとうまくやれてれば…」
キリト「あの時はこうするのが最善だっただろうし、気にするなよ。…それはそうと、今日はアルファに伝えておきたいことがあってだな…」
キリトは恐らく自分を顧みずに周りを優先する、よく言えば献身的な人間で、悪く言えば向こう見ずな人間なのだろう。
…最善の選択。確かにあの状況で選べる選択肢の中で一番手っ取り早く、生まれるマイナスポイントも少ない選択はこれだったのだろう。だが、それは最善だったとしても、正しい選択だったのだろうか?
アルファは再び自責の念に駆られそうになるが、どうにかその気持ちを抑えて、キリトに今日ここに呼んだ要件を尋ねた。
キリト「実は、この層でエクストラスキルが獲得できるクエストがあるんだが…挑戦する気はあるか?」
<エクストラスキル>それは片手剣スキルや両手剣スキルのように初期から選べるスキルではなく、特定の条件を満たすことで手に入れられるレアスキルのことである。
この情報は既にアルゴから買い取っていたが、アルゴの話によると、もう少し先の層で手に入る瞑想スキルが、この世界で初めて獲得できるエクストラスキルだったはずだ。
…因みにデスゲームが始まった初期段階の方では、攻略本に載っていない事についてアルゴから情報を買い取りまくっていたせいで、コル不足に苛まれることが多々あった。苦労して買い取った情報の内の幾つかが、アルゴの攻略本の続版に記載されていた時の悔しさは、それはもう想像を絶するものだった。
…もしかしたら、正式リリースに伴って新たにエクストラスキルが追加されたのかもしれない。そう考えると、アルファの気持ちはドンドン逸り、興奮を隠さないままキリトに訊ねる。
アルファ「どの手のスキルなんだ?」
キリト「なんとだな…戦闘系スキル<体術>だ」
瞑想スキルが、実戦ではとても使えないショボいものだと散々アルゴから聞いていたので、体術スキル、それも戦闘系スキルと言われると、色々なことを想像してしまう。柔道のようなものなのか、空手みたいな武術なのか、それとも忍者が使うようなものなのか…。
アルファ「ど、どこでクエスト受けられるんだよ。もったいぶってないで早く教えろよ!」
ワクワクを抑えきれないアルファは、若干食い気味にキリトを問い質した。だが、キリトは、まぁ慌てるなよ、と言わんばかりの様子で、己の苦労話を始める。
キリト「いいけどさ、このクエストがまた大変なんだよ。素手で岩を割らないといけなくて、俺なんか三日もかかったんだぜ」
確かに、それは中々に厳しい条件だ。キリトの恐ろしい発言に、俺はギョッとしてしまう。…兎に角、一度どんな感じの岩なのか見てから判断しよう。そう結論付けたアルファは、そこで肝心の、ユウキのことを思い出した。
ユウキを前線組の一員に加えると約束した以上、三日間もユウキを放置するわけにはいくまい。しばらく悩んだ末にキリトに尋ねてみる。
アルファ「…今タッグ組んでるプレイヤーがいんだけどさ、そいつと一緒にそのクエスト受けてもいいか?そいつ将来は、キリト肩を並べられそうなほどの腕前なんだ」
キリトは一瞬考え込むような素振りを見せてから、俺の申し出を受け入れてくれた。
キリト「アルファが言うなら間違いないだろうな。いいぞ。」
キリトに貴重な情報を提供してくれたことを感謝してから、ユウキに『今から、報酬でエクストラスキル<体術>が貰えるクエスト受けに行くんだけど、ユウキはどうする?』とメッセージを送る。すぐに返信のメールが届き、『受けたい!』と返ってきた。感謝の意を込めて、その辺の屋台で買ったコロッケみたいな食べ物をキリトにご馳走していると、ダッシュでユウキがここに到着した。
アルファ「紹介する、こいつがタッグを組んでいるユウキだ。んで、ユウキ、こいつが滅茶苦茶強いって噂のキリトだ」
キリト「お前っ!女の子と組んだのか!」
キリトの顔は驚き半分、納得半分といった、よく分からない顔でそう言ってきた。
ユウキ「君が噂のキリトなんだね。すっごい強いって聞いてるよ!!」
キリト「あ、あぁ…」
キリトは恨めしそうにこちらを睨んできたが、ユウキの勢いの良さに押しつぶされてしまう。
…お前だって普段はアスナと一緒にいるんじゃないのか?あんな美人と一緒にいるキリトも大概だぜ。そんなことを思ったアルファは、逆にキリトに妬ましい視線を向けおくが、その本人は全く俺の視線の意味が分からなかったらしい。
ユウキの質問攻めに遭い、困り果てていたキリトに助け舟を出してから、クエストを受けられる場所まで案内してもらった。
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アルファ「…道案内はもういいぞ。なんでついてくるんだ?」
キリト「い、いやー、アルファの雄姿を見届けようと思ってな」
話し方からして、キリトの怪しさは全開だが、今の所何の異常もないので、キリトの思惑は一旦スルーしておく。
案内された先には古道着を身につけたオッサンが座禅を組んで座っており、そのオッサンからクエストを受けると巨岩の前に案内された。その粘土色っぽい岩は見た目だけでも軽い岩ではないことを思い知らせてくれる。試しに拳でコンコンと小突いてみると、硬質な音が響いた。
ユウキが、これ無理だよ…と言いたげな表情を浮かべている。流石の俺もこれはヤバいと思い、クエストを中断しようとオッサンの方を向いた。すると…
「この岩を割るまで、山を下りることは許さん。汝たちにはその証を立ててもらう」
オッサンはそう言って懐に隠し持っていた筆を取り出し、その筆先を俺たちの顔面に炸裂させた!
「なん!」 「うわっ」
それぞれが悲鳴を上げる。ふと、キリトの方を見ると爆笑寸前といった感じだった。
アルファ「…キ~リ~ト~!てめぇこうなるってわかってて黙ってたんだな!」
キリト「ふ、ハハハハハッ!安心しろ!食料は買ってきてやる!まるっきり、<アルえもん>だな!…くっくっくっく!!」
そう言ってキリトは笑い転げていた。悪びれる様子もないキリトを糾弾するためにユウキの力を借りようとユウキの方向を向く。すると…
ユウキ「ア、アハハ!アハハハッ!!アルファ、すっごい顔してるよ!」
と、ユウキもキリト同様におなかを抱えて大笑いしていた。そんなユウキは、さながら<ユウみちゃん>であった。
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両手剣使いであるが故、キリトよりもSTRを多めに振っているアルファは、二日目の夕方に、巨石を拳一つで破壊することに成功した。ユウキの様子を見ると、どうやら明日までかかりそうだったので、ひと声掛けてから、全ての元凶であるオッサンの元へ行く。巨石を破壊したことを伝えると、クエストが完了し、労いの言葉と共に念願の体術スキルが手に入った。
幸い、顔に描かれたペイントは専用のタオルできれいに拭うことが出来るようだ。無責任なキリトの野郎は、今日は大事な用事があるらしく、食料を買ってくることができないらしい。なので仕方なく、アルファが晩飯を買いに最寄りの村タランへ向かった。
タランの村に到着したアルファは、早々に屋台で牛串らしきものと桃色の饅頭を購入し、ユウキの待つクエスト場へ戻ろうとしていた。街の出入り口の方面へ向かって歩いていると、不意に、街の中心からハンマーを不規則に叩く音が聞こえてきた。
NPCがハンマーを叩くリズムは基本的に一定だ。つまり、今ハンマーを叩いている人物は、必然的にプレイヤーということになる。それが気になって音の方向へと向かうと、小柄な男が鍛冶屋に必要な物を取り揃えて、路上に座っていた。恐らく最近噂になっていた鍛冶屋だろう。
ちょうどユウキとのレベリングの最中に、強化素材がMAXにまで溜まっていたので、運試しがてらここで強化することにした。もちろん、大事な剣であるので本当に運試しがしたくて強化するのではない。このプレイヤーがアイアン・ハンマーを使っているのを目にして、ブロンズ・ハンマーを使用するNPCよりも、鍛冶屋としての熟練度が高いと判断できたからだ。鍛冶屋の男の前まで進んでいったアルファは、彼に話し掛ける。
アルファ「強化を頼めるか?」
「分かりました…プロパティ、拝見します。丈夫さ3重さ2ですか。良い内訳ですね…強化の種類はどうしますか?」
切れ味は無いに等しいが、重さを活かした攻撃が強みのストーンブレードである。故に、鋭さや正確さを上げるのには、この剣は適していないことぐらい、流石のアルファでも分かっていた。
そういうわけでアルファは、耐久値と一撃の重さを上げられる、丈夫さと重さに強化を均等に振り分けることにし、ストーンブレードを強化する方針を打ち立てている。今回もそれに従って、重さの強化を頼もうと考えていた。
アルファ「重さ、で頼む」
「確率ブーストは90%ですね。料金は2700コルになります。」
ありったけの強化素材を差し出し、指定された料金を払い終えると、鍛冶屋の少年はハンマーを振り始めた。丁寧に叩いていくその姿は、こちらが眺めていても、実に心地良いものだ。順調に、カーン、カーンと槌音が響いて行く中で、最後の一回の鎚音が響くと、あろうことか、俺のストーンブレードは儚く砕け散る。
「すいません!すいません!」
アルファ「あ、あぁ…気にすんな。…強化の失敗だってあり得るからな」
それを見た鍛冶屋の少年は、俺に対して必死に謝罪してくれた。アルファは脳がグラグラと揺さぶられる感覚に陥りながらも、丁寧に答える。だが、心に圧し掛かってきた衝撃は甚大なものだった。
ストーンブレードは、今日までの日々をアルファ共に戦い続け、ボス戦をも共に勝ち抜いてきた剣であり、アルファにとっては言わば相棒とも呼べる存在だったので、流石にショックは大きい。
しかし、いつまでも鍛冶屋の前で突っ立っているわけにもいかない。先程の出来事は、強化失敗のデメリットとして、武器が破損してしまったのだろうと結論付け、再びウルバスの出口に向かって歩き始めた。
アルファ「……」
放心状態で歩き続けていると突然、俺の目の前に、見覚えのあるケープを被った人物が現れた。俺が呆けた様子で彼女を眺めていると、彼女は確かな口調で俺に告げる。
アスナ「…アルファ君、ストーンブレードを諦めるのはまだ早いわよ」
アルファ「…は?」
アルファはアスナの言っていることが分からず、ただ、間抜けな声を上げることしか出来なかった。
今、手元にオレンジ色に輝く七つの龍玉があれば、文才よりも、百億円を所望します。筆者はそんな即物的なタイプの人間です。
では、また第11話でお会いしましょう!