~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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第116話 本気の本音

 「もう終わりだって、ボク確かにあの時にそう言ったじゃん!!」

 

 「終わりにしたのに、どうしてここに来たの!?」

 

 「もう帰って!!二度と来ないで!!」

 

 アルファ「……」

 

 君から放たれた言葉が、余りに重た過ぎて、俺は返す言葉を、何一つ見つけられなかった。君に拒絶されたという事実が、俺の頭に強く圧し掛かって来るが…思いの外、心は痛くなかった。

 …いや、君ならば、俺がここまでやって来てくれたことを喜んでくれるだろうと、何の確証も無いというのに、無条件にそう信じていたが故に、俺の想像の真逆を行く現実を目の前にして、心を痛める余裕が無かったと言った方が、適切であろう。

 

 ──何故何故何故何故何故!?

 

 俺の頭の中で、必死に一つの疑問が交錯する。

 …どうして、君は俺を拒むんだ!?俺はこんなにも、君だけを愛しているというのに!!

 …あぁ、そう言えばつい数か月前に、俺は君に別れを告げられたのだった。なれば、最早俺のことなど微塵も愛していない君が、俺を否定し、拒絶することなど、至極当然ではないか。君にもう一度出逢えて、胸を躍らせていたのは俺の方だけであり、君からすれば、俺なんかと再会しようとも、なんの喜びを感じないのは当然ではないか。

 痛む。胸がズキズキと痛む。君がもう俺を愛してはくれないという事実を、今ここで再認識し、途端に心が崩れ落ちそうになる。剥き出しの傷を抉られたような鋭い痛みが、氷柱針のように、俺の全身を何度も貫いた。

 ……もう、帰ろう。これ以上ここに居れば、ずっと君に愛していて欲しいのに、もう君からは一滴の愛情をも得られないという残酷なる現実に、俺は耐えられないだろう。そうして俺は、この受け入れ難い現実から逃げ出すように、フラフラと踵を返し始める。

 

 倉橋「…申し訳ありません。アルファ君。…まさか、こんなことになるとは…」

 

 アルファ「……」

 

 だがその直後、先生が、本当に済まなそうな表情を俺に向けて、軽く頭を下げた。そこで俺は、瞬間的に思い出す。友が語った君の姿を。主治医が言葉にした客観的な君の様子を。そして何より、君が去り際に放ったあの言葉を…。

 …まるで、乖離している。今の君と傍から見た君の像は、大きくかけ離れている。そんなふとした違和感から、俺は一つの可能性を見出し、ピタリと足を止めた。もう一度君の居る方へと向き直った俺は、その口を開こうとする。

 …もしも…もしもそうであるとするのならば…俺は……やっぱりどうしても、君に聞かねば納得できない!!

 

 アルファ「……ユウキ、まずは俺の話を──」

 

 「知らない知らない!!」

 

 アルファ「っ!?」

 

 「何も聞きたくない!!今すぐ帰ってよ!!」

 

 「帰ってったら帰って!!」

 

 ……届かない。まるで君に、俺の言葉が届かない。それは、君と俺との、残り数メートルの距離を隔てる分厚いガラス壁が、俺と君との心の距離を模しているようであった。いや、俺の言葉に全くもって耳を傾けてくれない君との距離は、実際にはもっと遠くかけ離れているのかもしれない。

 君の一方的な答えに、俺の中で一つの確かな感情が溢れ出しそうになるのを感じ取るも、俺は極力それを抑え込んで、しかしその口から伝えられた声は、いつもよりは少し低かった。

 

 アルファ「……ユウキ。今から一時間後、もう一度だけ仮想世界に来てくれ」

 

 「……」

 

 アルファ「来て欲しい仮想世界は、ALOっていうVRゲームの世界だ。今は接続料が一カ月無料だし、パッケージも無料ダウンロード出来る」

 

 アルファ「その世界だと、SAOの時のデータを引き継ぎ出来るから、それを使って…初期リスポーン地点は<イグドラシルシティ>を選択してくれ」

 

 「別に、ボク行くなんて一言も言ってないけど」

 

 先程とは打って変わって、俺に最後まで言葉を続けさせてくれた君は、しかしこれまでに聞いたことの無いような、氷のように冷えた声色で、俺にそう告げる。

 君に冷たくあしらわれるという事実が、また俺の心を傷つけるも、対する俺は、その場を後にするように君に背を向けながら、だが確かな声色で応えた。

 

 アルファ「……俺は、ユウキを待っている」

 

 「……」

 

 それだけ言い残すと俺は、倉橋先生に軽く頭を下げてから、その場を引き返し始めた。

 …今の俺を支配している一つの感情は、また後ほど君に爆発させればいい。そう思って一度、俺は胸の中で迸る一つの感情を、腹の奥底へと鎮める。一時間の制約を守るために、早足に病院を出た俺は、相変わらず土砂降りの世界を、駆け足で移動し始めた。

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 その日は、特にいつもと変わらない日々であった。健康な人がボクの生活を垣間見れば、それは異常でしかないと思うのだろうが、ボクにとってはこれが、普通の生活なのだ。

 午前中は、クリーンルームに隣接されたお風呂での入浴タイムを楽しみ、それから軽く歩行訓練をしてから、ボクは本日二度目の食事を頂いた。

 食事をするという行為は、ボクにとっては一日に三度だけの数少ない娯楽の一つである。今はこうして、加工殺菌された食事しか食べられないとは言え、ボクは大いにそれを楽しんでいるし、今後病状が悪化していけば、食事すらもままならなくなるその時が訪れるのだろうけれど…そんなことを今から気にしていても、仕方がない。今はただ、味覚という娯楽を味わえる喜びを、噛み締めていれば良いのだ。

 それから昼食を終えたボクは、メディキュボイドを利用してVRルームに引き籠ることにした。でも、特にやることもやりたいこともなくて、ただ茫然と残りの時間を過ごそうと、テレビやニュース、ネットサーフィンなどで時間を浪費していく。

 毎日が忙し過ぎて、幾ら時間があっても足りなかったというのに、反面やりたいことが幾つもあったあの頃と比べて、時間は沢山増えたはずなのだ。だけどボク独りだと、結局やりたいことなんて、何一つなかった。ただ君が隣に居ない日々が、どうにも虚しくて…。

 

 ユウキ「先生、遅いなぁ…」

 

 これ以上思考を続けると、この胸にポッカリと空いた大きな虚無感を、また意識してしまう気がしたので、何か別のことを口に出すことで、無理矢理その考えを途切れさせる。

 もう二十分ほど前には、いつもならば先生がここにやって来て、他愛も無い会話をボクにしてくれるはずなのに、今日は一向に、先生がやってくる気配を感じ取れない。先生が時間通りに行動しないなんて珍しいなぁと、そんなことを考えていたその時だ。

 ふと、目の前に表示されている幾つものウインドウの中でも、その正面に設置している一番大きなウインドウ…メディキュボイドに搭載されたカメラが、クリーンルーム内のリアルタイム映像を映し出しているその様子から、黒いガラスが透過していく光景が見えた。

 先生が遂に来たのだと思ったボクは、今日はどうして遅れたのか訊ねてみようかなと、今日の話題を今更ながら考え始める。そしてボクは、ガラスの窓の先に居る先生以外の人物…学生服に身を包んだ男子生徒を目にして、硬直した。

 

 ──ア…アル…ファ…?

 

 最早余りに衝撃的過ぎて、それが言葉になることは無かったけれど、ボクの瞳に映るその姿は…あの頃と比べると、少々痩せてしまったように見えるが、確かにボクの最愛の人であった。

 現実世界での君の姿を見るのは初めてだけど、この数か月間の間、ずっと君のことばかり考えていたボクが、見間違えるわけが無い。あの頃と何ら変わりない大好きな君の姿を目にして、ボクは今すぐにでも君の腕の中に飛び込みたいのだと、そんな強烈な衝動に駆られる。

 

 アルファ「………ユウキ、久しぶりだな……」

 

 ボクを落ち着かせてくれる君の優しい声が、この耳に響いた。長らく耳にしていなかったその音色が、ボクの胸中に深く突き刺さり、もう堪えられないと、VRルームから飛び出そうとしたその時だった。

 ……不意に、君と眼があった気がしたのだ。メディキュボイドの中に居るボクが、君と眼を合わせられるわけが無いのに、ボクは訳もなくそう思わされた。

 そしてその瞬間、ボクは「それ」に気が付き、途端に君の姿が映る大きな画面から、目を背ける。心の中が一気に、ある一つの感情に支配され、もう何も言えなくなりそうな気持ちを何とか抑え込み、震える声で呟く。

 

 ユウキ「な………なん……で……」

 

 そして次の瞬間には、それは行き場のない怒りへと置き換わり、そんな感情が荒れ狂った。

 

 ユウキ「…なんで…なんでここに来ちゃったのさ!?」

 

 アルファ「……え……?」

 

 彼は大層困惑した声を上げていたが、ボクは心のままに、今ボクが抱いている気持ちを、包み隠さず君に投げ付けた。

 

 ユウキ「もう終わりだって、ボク確かにあの時にそう言ったじゃん!!」

 

 ユウキ「終わりにしたのに、どうしてここに来たの!?」

 

 ユウキ「もう帰って!!二度と来ないで!!」

 

 ボクが絶叫しながらそう言い放つと、暫しの沈黙が訪れた。一瞬、ボクは自身の放った言葉の意味を把握しかけたが、彼が再び口を開こうとする気配を感じ取り、それを呑み込んで尚、叫び続ける。

 

 アルファ「……ユウキ、まずは俺の話を──」

 

 ユウキ「知らない知らない!!」

 

 アルファ「っ!?」

 

 ユウキ「何も聞きたくない!!今すぐ帰ってよ!!」

 

 ユウキ「帰ってったら帰って!!」

 

 君が何かを言い掛けていた気がしたが、もうそんなことはどうだってよかった。ボクは言葉にした通り、今すぐ目の前から君に居なくなって欲しかった。彼の口から何も聞きたくなかった。彼を見たくなかった。もう二度とここに来て欲しくなかった。

 先程とは全く真逆の感情が、ボクの心の全てを覆い隠し、再び沈黙の時が訪れる。

 

 アルファ「……ユウキ、今から一時間後、もう一度だけ仮想世界に来てくれ」

 

 ユウキ「……」

 

 また彼が何か言葉を放とうとしたその時、ボクはそれに重ねて、彼の言葉を聞かないで済むよう図るつもりであった。

 がしかし、彼の放った声のトーンがいつもよりも低く、それでいてこれまでボクが耳にしたことの無いような声色であったが故に、思わずそれに耳を傾けてしまう。

 

 アルファ「来て欲しい仮想世界は、ALOっていうVRゲームの世界だ。今は接続料が一カ月無料だし、パッケージもダウンロード出来る」

 

 アルファ「その世界だとSAOの時のデータを引き継ぎできるから、それを使って…初期リスポーン地点は<イグドラシルシティ>を選択してくれ」

 

 ユウキ「別に、ボク行くなんて一言も言ってないけど」

 

 彼が畳み掛けるようにボクに告げるその情報に、ボクは自分でも驚くほど、冷えた声でそう言い返した。対する彼は、ほんの少しだけ間を置いてから、ブレることの無い強い一声で、ボクに言葉を返した。

 

 アルファ「……俺は、ユウキを待っている」

 

 ユウキ「……」

 

 それを最後に、君の声は聞こえなくなった。恐らく、もうここから出て行ったのだろう。

 ボクがこの世で最も愛しているはずの君に、とてもそうとは思えない程の酷い言葉と、冷たい声色で以て対応したというその拒絶心に、ボクは一体何をしているのだと、そんな意味の解らない自問自答が、繰り返される。

 しかし、君を拒絶しようとする先程の言葉と気持ちが、紛れもなくボクの本心であることに、ここでようやく気が付いた。この数か月間の間、全く見えていなかったボク自身の本質…それが、君を拒絶する確かな理由なのだ。

 会いたいけど、会えない。ずっと一緒に居たいけど、居られない…そうではない。会えないし、会いたくない。一緒に居られないし、もう一緒に居たくないのだ。それがボクの本心なのだ。その証明として、君がここから居なくなったことに、深く安心しているボクが居る。

 

 倉橋「…木綿季くんは…アルファ君に会いたくなかったのかい?」

 

 ユウキ「……」

 

 自分の気持ちを整理していると、ふと、先生の声が響いた。だが、ボクは答えない。答えないのか答えられないのか分からないけれど、兎に角今は、誰とも話したくない気分であった。

 先生の問い掛けを無視し続けるボクに対して、先生は変わらず穏やかな声で、ボクに告げる。

 

 倉橋「…これは単なる僕の想像だけど…多分、今日が最後のチャンスだよ。アルファ君とALOで会わなければ、もう二度と彼に会うことは出来ないと、僕はそう思う。…もし木綿季くんが、本当はアルファ君に会いたいのなら、一時間後にALOに行ってはどうかな?」

 

 ユウキ「……」

 

 倉橋「じゃあ、僕は行くよ」

 

 別れの言葉を告げた先生は、とうとうその場を去って行った。彼との約束の時間まで、あと四十五分、三十分、十五分…。ボクは相変わらず、VRルームで独り膝を抱え込み、クリーンルーム内を映し出す画面から、目を逸らし続けていた。

 …先生は、何もわかっちゃいない。ボクが本当は、もう彼に会いたくないのだという隠れた本心を、何も知らない。だけど同時に、ボクがこの本心に気が付く今日までは、先生には何度も何度も彼に会いたいような口振りを続けてきたわけで、故に先生が、そんな偽りのボクの為を思って、ここに独断で彼を連れてきたことに、怒るつもりも無い。

 ……だから、ボクが今から彼との約束を果たしに行くのは、そんな先生の抱くボクの像を乖離させない為であり、約束を破っては彼に悪いだろうという、アルファの為のことを思ってであり、決してボク自身が彼に会いたいから、そこに行くのではない。

 

 約束の時間まで、残り十分の時にようやく、既にVRルーム内でダウンロードし終えていた、ALOと呼ばれる世界へと続く扉を出現させたボクは、そちらへと向かって行った。

 するとまずは、アカウント情報登録ステージに飛ばされた。彼に言われた通り、SAOのデータをこちらに引き継いだボクは、あの頃と変わらない名前をアルファベットで入力する。

 全九種族から選択できるアバターは、どうせこの約束を果たせば用済みになるだろうから、適当に一番正面にあった、スプリガンなる種族を選択しておいた。最後に、スタート地点を自分の種族のホームかイグドラシルシティのどちらかを選択できる場面で、彼に言われた通り後者を選ぶ。

 

 ユウキ「……」

 

 初期リスポーンの様態は、これまでボクが味わって来た転移とは違って、ふわりふわりと上空から、徐々に街へと降り立っていくような、特徴的な浮遊感を伴っていた。

 やがて辿り着いた、大きな樹が枝分かれした幹の中央にある街の広場で、ボクはキョロキョロと辺りを見回すと、まだ約束の五分前だというのに、そこには君が居た。

 君の姿はあの頃とほとんど変わりなく、髪が緑っぽい黒色になっていることだけが、唯一の変化点のように見受けられた。彼はボクの姿を目にして、驚いたような表情を向けていたけれど、ボクは彼と目が合う前に、すぐに目線を逸らし、決して君と眼を合わせない。

 

 ユウキ「…来てあげたけど、何なの。用がないなら、もう帰るよ」

 

 …また、君に冷たい言葉を掛けてしまった。それによって、目線を合わせずとも、君の纏う雰囲気が、若干寂しそうになるのを理解する。

 君を傷付けてしまったという事実が、確かな痛みとしてボクの胸に突き刺さるが、それでもボクは、この冷淡な態度を辞めることは無いだろう。すると彼は、極めて感情を押し殺したような無機質な声で、ボクに言う。

 

 アルファ「…まずは来てくれて、ありがとう。だけど、もうちょっとだけ付き合ってもらう。左手を立てて、握るみたいな動作をしてくれ。それで飛行用の補助コントローラーが出現するから、それを使いながら、空を飛んでついて来て欲しい所がある。十分も経たないうちに着くから、頼む」

 

 ユウキ「……」

 

 彼に言われた通り、ボクがその動作を行うと、ジョイスティック状のオブジェクト出現した。ボクを先導するように、前方を飛び始めた彼に従って、ボクもその後ろを追従する。初めは覚束ない操作であったが、次第にコツを掴み始め、難なく彼を追い掛けることが出来るようになった。

 二人で空を羽ばたいている間、決して何も話すことは無く、ただ居心地の悪い沈黙が続く。勿論ボクは何も話すつもりなど無いし、彼も必要以上にボクに話し掛けてこないのだから、それは当然と言えば当然ではあるが、どうにもその感覚が、ボクにとっては気持ち悪かった。

 空の旅は五分ほどで終わり、ボクは森の切れ目にあるだだっ広い草原に、案内された。彼は何を思ってここにボクを連れてきたのだろうか。そんな疑問を抱いていると、それに応えるように、彼が口を動かす。

 

 アルファ「ユウキ、デュエルするぞ」

 

 そう短く言い終えた彼は、ボクに完全決着モードもデュエル申請を送ってきた。彼の意図が全く掴めないけれど、取り敢えず思ったことを、やはりぶっきらぼうに言い返す。

 

 ユウキ「ボク、武器持ってないんだけど」

 

 アルファ「これを使え」

 

 間を置くことも無く彼が投げた片手剣を、片手でキャッチする。余りしっくりこないが、重さは悪くはない。

 

 ユウキ「…そっちは、両手剣なんだ」

 

 アルファ「まぁな」

 

 ユウキ「そんなのでボクに勝てるとでも思ってるの?だとしたら馬鹿だよ」

 

 彼が背中から引き抜いた、小柄な両手剣を構えようとするので、ボクは思わずそれを言葉にしてしまった。

 相変わらず冷徹な声色で、しかも君を罵倒するような言葉までをも掛けてから、ボクはデュエル申請の受諾ボタンを押す前に、更に君に一つ言う。

 

 ユウキ「…そう言えば、これでそっちのお願いを聞くのは二つ目だよね。本当なら今すぐ帰ってもいいんだけど…どうせ勝負も見えてるし、いいよ。デュエルしてあげる。…その代わりボクが勝ったら、もう二度とあそこに来ないで。今日のことは忘れて、何もなかったことにして」

 

 アルファ「……解った。約束する」

 

 ユウキ「言質は取ったよ。じゃあ、始めよう」

 

 もしもこれから、君に毎日のようにあそこに来られては、堪ったものでは無い。

 ボクの望みを片手剣を軽く振りながら伝えると、君は一瞬何かを言い掛けたようだが、それを呑み込んで、ボクの要求を受け入れた。それを聞いたボクは、デュエルを受諾し、カウントダウンが始まる。

 …やっぱり、君は愚図だ。ただでさえボクよりも反応速度に劣る君が、片手剣の中でもかなり軽めな剣を選ぶボクを相手に、両手剣という重めの武器で対抗できるはずがないのに、ボクとそんな約束をしてしまうなんて。

 ……まぁ、もうどうでもいいや。最初から本気で斬りかかって、サッサと勝負を終わらせて向こうに帰ろう。そうすれば、もう君には会わなくて済む。今日の出来事も無かったことに出来る。

 

 ………でも、そうなれば…アルファと会えるのは……本当に…今日で、最後なの……?

 

 僅かに脳裏に過った気持ちを咀嚼する暇もなく、それは無理矢理何処かに押しとどめて、デュエル開始の合図が鳴り響いたことを契機に、ボクは全力で君に斬りかかった!

 

 ユウキ「な!?」ギンッ

 

 アルファ「…」

 

 がしかし、ボクの剣は完全に、君の剣によって受け止められたのだ。

 …有り得ない!!ボクは今、手加減無しの本気で彼に斬りかかったのだ。ならば彼がそれに対応できず、その身で剣を受け止めるのが当然。彼が剣を受け止めることなど、絶対に有り得ないはずだった。

 ボクは、彼に剣を封じられたことには驚愕しつつも、だったら連続で斬りかかればいいだけのこと。余計なことは考えずに、更に超スピードの連撃を仕掛ける。

 

 ユウキ「…な、なんで…」

 

 斬る。斬る。斬る。だがその全てが、彼に呆気なく受け止められる。彼は表情を無から動かすことなく、まるで赤子の手をひねるように、ボクの剣を完璧に受け止め続ける。

 …ボクが無意識のうちに、手加減しているとでも言うのだろうか。いや、そんなことは無い。確かにボクは、ボクの望みを叶えるためだけに、君に全力の剣を振り放っているのだ。

 …ならば、何故、何故、何故!!ふと、ボクの口から洩れていたその疑問を耳にした彼は、眉をピクリと動かしてから、ボクと距離を取ると、小さくため息を吐き出し、遂にその表情を動かした!!

 

 アルファ「…そんな…迷った剣にッ!俺が負けるわけ無いだろッ!!」

 

 ユウキ「!?」ガギンッ

 

 彼が憤怒を募らせたように、怒り狂うように叫びながら、ボクに素早い一撃を放ってくる。このデュエルで、初めての彼からの攻勢。そのいつもの彼の二倍以上は早い一撃を、何とかボクは受け止めるも、その余りの力強さに、ボクの身体が後ろに圧される。

 ……ボクが、迷っている…?そんなわけが無い。ボクが迷うようなことは、何も無いはずだ。逆に彼には、ボクが何かを迷っている見えるのだろうか。彼の放った言葉の意味が汲み取れず、ボクは酷く困惑する。

 それが外へと露見するように、ボクの震えの混じった声が、自然と漏れ出していた。

 

 ユウキ「ボ、ボクは、迷ってなんか──」

 

 アルファ「──んなわけねェだろ!!…何にも、何も伝わって来ねぇんだよッ!お前の剣から本当の気持ちが、何も感じ取れねぇんだッ!!聞かせろよ!!お前の本当の気持ちをッ!!」

 

 ユウキ「な、なに言って──」

 

 先程とは一転して、今度は彼の猛攻。それを凌ぐのに必死で、言葉を続ける余裕が無い。だが、彼が絶叫した言葉に、訳もなくボクの心は、グラグラと大きく揺さぶられる。

 …ボクの、気持ち…?そんなの、そんなの君にもう二度と会いに来て欲しくないし、ボクも会いたくないというその一心で──

 

 アルファ「──噓ついてんじゃねぇよッ!!」ザンッ

 

 ユウキ「ぐッ!?」ズガンッ

 

 よもや彼の剣に圧し負け、ボクは大きく吹き飛び、二転三転地を転げた。

 彼の言葉の通り、ボクの内心を彼に見透かされたような気がして、何故だか心がぐちゃぐちゃになってしまっていた。そんなボクは、自分の気持ちに困惑し、どう足掻いても、身体に上手く力が伝わらなくて、地に這いつくばったまま立ち上がれない。地に蹲るボクに近づいてきた彼は、またしても叫ぶ。

 

 アルファ「おらっ!立てよ!サッサと立ち上がれよ!!俺はまだ何も聞いてないぞッ!!お前の心の声が聞こえないッ!!」

 

 アルファ「ぶつからなきゃ伝わらない事だってある…そう教えてくれたのは、お前だろッ!?だったら立ち上がれ!!お前の気持ちを俺にぶつけろ!!俺もお前にぶつけるからッ!!!」

 

 ユウキ「っ!?」

 

 …確かに、ボクは嘗て、君にそう言った。

 ……だけど、ボクはもう君に全て伝えたのだから、もうぶつかる必要なんて少しも無い──そう思っていたのに、いつまで経っても立ち上がる気配を見せないボクに対して、彼は強引にボクの左腕を引っ張り上げることで、無理矢理にでもボクを立ち上がらせる。

 そして彼は、再びボクに剣戟を挑んできた。もうぶつかりたくなんて無いのに、彼に剣を振り払われると、あの頃に培った力が無意識のうちに君の剣を受け止めようとして、君の本気が衝撃として全身に伝わって来る。

 

 アルファ「大体お前さぁ!!自分勝手なんだよ!!」

 

 ユウキ「っっ!?」

 

 アルファ「何が俺が身勝手だ!!何がボクを頼ってだ!!…テメェだって、身勝手だし俺のこと頼ってくれねぇじゃねぇかよ!?お前も人のこと言えねぇんだよッ!!」

 

 ユウキ「…うぅ…」

 

 …ボクが、身勝手…?君のことを、頼っていない…?

 そんな訳無い筈なのに、ボクは何も言い返す言葉を見つけられず、君が激しい怒気と共に放った叫びが、ボクの心を痛めつける。胸の奥に深く突き刺さる。

 

 アルファ「伝えてくれよ!!勝手に居なくなるなよ!!ちゃんと言葉にしてくれよ!!…俺だって、現実世界のことを聞くのが怖くて、あの世界で何もユウキのことを知ろうとしなかったのは悪かった!!だけど!!せめて俺の話に聞く耳ぐらい持ってくれよ!?一方的に拒絶して!自己解決したつもりになるなよッ!!」

 

 アルファ「何が俺の幸せのために別れようだッ!!俺はこの五か月間、全然幸せじゃなかったぞッ!!お前が居なくて寂しかったんだ!!隣に居て欲しかったんだ!!…なのに…ッ!!何なんだお前は!?お前はこれで幸せだったとでも言うのかッ!?答えろよッ!!答えてくれよッ!?」

 

 ユウキ「あぐぅ…」

 

 …アルファは、ボクが居なくて寂しかった…?ボクが隣に居て欲しかったの…?

 …それが、紛れもない今の君の本心であるというのならば、ボクは本当に嬉しい。ボクだってボクだって!本当は君が大好きで大好きで!!堪らない程愛しているんだよっ!!

 心の何処からか、そんな声が響いて来る。しかしその次には、また別の声が何処からか聞こえてきた。

 ……だけど…いや、だからこそ、君に会って欲しくなかったのに、ボクはもう君に会いたくないと、心から願っているのだと。

 そんな全く性質の異なる二つの気持ちが、ボクの心中に渦巻く。しかしどちらが本物の心なのか、全く判別がつかず、君にぶつけるべき言葉が見つけられないまま、苛烈さを増した剣戟は続く。

 

 ──そっか…そう言うことだったんだ。

 

 君の純粋な気持ちが籠った剣を、必死に受け止め続ける中で、ボクはようやく、自分の真なる心模様に気が付く。

 ……どっちの気持ちも、嘘偽りのない本物なのだ。胸が焼き焦がれるほど君が大好き過ぎるボクと、君を心から拒み、拒絶し、冷たくしてしまうボクのどちらをも持ち合わせているのが、紛うこと無きボクなのだ。

 こんな相反する二つの気持ちが、表裏一体として一つの心に収まっているボクが今ここに居て、それを無責任なままに、全て君にぶつけてしまいたかった。

 だけどどうしてこんな気持ちになっているのか、それをこの約五か月間…いや、思えば君に恋心を曝け出したその時から、自分でさえ出来るだけ気が付かないように目を逸らし続けてきた真実を、ここで遂に直視してしまい、やはりどうしてもこの気持ちをぶつけられない。…あぁ──

 

 愛しているのに拒絶したい。

 

 愛されたいのに離れたい。

 

 伝えたいのに伝えられない。

 

 そんな方向性が真逆の気持ちが、ボクの全身を駆け巡り、もうどうしようもなくなった。

 このやり場のない感情を曝け出すことが出来なくて、頭がおかしくなりそうになる。喉まで出掛かった言葉は、決して口から漏れ出すことを許されず、その口から出てくるのは、息が上がったように苦しい呼気だけだ。

 あんなにも一色で塗り固められていたはずの心が、いつの間にか気が付けばぐしゃぐしゃになってしまった。力任せに彼の剣を弾き返したボクは、彼から大きく距離を取って、遂に叫んだ。

 

 ユウキ「もうやめて!!ボクにぶつかってこないでッ!!アルファにぶつかられると、胸が凄く痛いんだ!!痛くて痛くて辛いんだッ!!だからもうボクに近寄らないでよッ!?」

 

 距離を置いたボクに対して、またこちらに剣戟を仕掛けようと、彼は距離を詰めようとしてくる。対するボクは、剣を滅茶苦茶に振るった。最早そこに、あの世界で積み上げてきた剣技などあるわけもなく、まるで駄々をこねる子供のように、ボクは剣を振り回して、彼が近寄れないように図る。

 君と剣をぶつけ合い、言葉をぶつけられる中で、君のその真っ直ぐな気持ちが、ボクの心に響き渡った。だが同時に、ボクの根幹であった行動原理の醜悪さが、比較的に照らし出されるようで、全身が引き裂かれるように痛かった。

 彼の剣と言葉が、ボクの胸中を深く抉り、君の穢れの無い気持ちが、ボクの汚れた気持ちと対比されるように映り出される。その度にボクの心が軋み、崩れ落ちていく。もうこんな痛みには耐えられないと、ボクは君から距離を取ろうとしたのに、君は決して逃さないと、ボクに距離を縮めてくる。

 

 アルファ「ユウキッ!逃げるな!!お前はその程度で逃げるほど弱くはないッ!!痛みに正面から向き合えるほどに強いッ!!だから言葉にしろ!俺に気持ちをぶつけろッ!!」

 

 ユウキ「…やだぁ…もうやだよぉ…やめてよぉ…」

 

 再三に渡りボクと剣を以てしてぶつかり合い始めた君に、ボクは縋り付くような声で、君に助けを求めようとする。

 泣き虫なボクにしては珍しく、まだ涙は流れていないが、その代わりにもうボクの心はボロボロで限界だった。心は血を流すようにズタズタに引き裂かれていた。

 …これ以上は、もう本当にダメなんだ。これ以上君にぶつかれると、ボクが君の前でずっと隠し続けていた最低最悪のエゴイズムが露見してしまうのだ。それだけは嫌だ。それだけは絶対に嫌なんだ。

 だけど、君がぶつかるのを辞めてくれるわけも無くて、徐々に徐々に、ボクを模るメッキが剥がれ落ちていく。

 

 アルファ「ユウキッ!!俺の眼を見ろッ!!!」

 

 ユウキ「やだやだやだやだやだぁッ!!!それだけは絶対に嫌だッ!!」

 

 …そう。ボクはあの時、画面に映る君から目を背けて以来、一度たりとも君の眼を見ていないのだ。目線だけは絶対に合わせずに、こうして君の前に立っているのだ。

 ……だって、君の眼を見てしまえば、真実を否応なしに知らされることになるのだから。知らない方が良いことだって、世の中にはある。ボクにとっては今アルファの瞳を見てしまうことが、その一つだった。

 彼の叫びに対して、ボクも同じく叫び返し、彼の言葉を強く拒否する。

 

 アルファ「ユウキッ!!何が怖い!?なんでそんなに怖がるんだッ!?」

 

 ユウキ「ッ!?」

 

 …もう、そこまで君には悟られてしまっているのか。自分の隠れた気持ちの一部が、既に君には読まれていて、ボクは言葉に詰まってしまう。

 やはりこれ以上剣戟を続けては、いつかは君がそれに気が付いてしまうことを恐れたボクは、半ばそこから逃げ出すように、強引に剣戟を切り上げようとしたその時だった。

 

 アルファ「ユウキ!」

 

 ユウキ「あ…!?」

 

 不意に君は、防御を完全に捨て去り、このデュエル初めてのボクからのクリーンヒットを貰いながら、ボクの身体に密着するぐらいに、接近してきたのだ。

 そしてそのまま君は、ボクの名を呼びながら、眼を逸らそうとしたボクに対して、君の温かい右手をボクの頬に沿えながら、決して目を逸らせないようボクにチェックメイトを放つ。

 ……嫌だ嫌だ嫌だ!!ボクの瞳を覗かないでッ!?ボクに君の瞳を見せないでッ!?そんなボクの心からの願いとは裏腹に、とうとう君と眼を合わせてしまい──

 

 アルファ「俺を信じろ!!ユウキッ!!」

 

 ユウキ「……ぇ……」

 

 ──君の瞳は、必死だった。ただ、ボクに声を届けようとするので、必死なだけだった。ボクにぶつかってきた当初の怒りなどそこには無く、君の瞳はただ、本気の色をしているだけだったのだ。

 …意外だった。君がボクに向ける眼が、ボクが想像していたものとは全然違って、思わず、フラリフラリとその場を後退りする。

 ……ただただ、嬉しかった。ボクが望む君がそこに居てくれて、本当に嬉しかった。不意に両目から、ボロボロと涙が零れ落ちる。ボクの想像する君がそこに居なくて、本当に良かった。凄く安心した。

 ……なればこそ、ボクももう、この気持ちをぶつけなければならない。この醜い気持ちをぶつけた結果、君の瞳が変わることは無いのだと、やっと君のことを、本当の意味で信じられた。

 ここまでしてくれないと、自分の気持ちさえ露わに出来ない自分の弱さに嫌気が差しながらも、ボクは瞳から絶え間なく涙を流しながら、剣を構える。ボクの変化に気が付いたのか、君は極々真剣な表情で、ボクに叫ぶ。

 

 アルファ「ユウキ、聞かせてくれ!!お前の本当の気持ちをッ!!」

 

 ユウキ「……ボクは…ボクはボクはボクはァ──ッ!!」

 

 アルファ「あぁ!!ユウキはどうなんだよ!?」

 

 ユウキ「ボクは怖かったッ!!アルファに嫌われるのが、怖かったんだッ!!」

 

 溢れ出す涙と猛り狂う感情を、包み隠さず曝け出すように、ボクは泣き叫びながら君に剣をぶつけたんだ。それを躱すことも無く、受け流すことも無く、しっかり正面から受け止め切った君に、ボクは言葉を続ける。

 

 ユウキ「アルファが現実世界でボクの真実を知った時にッ!!嫌がるんじゃないかと思った!!気持ち悪いと思うんだと思ってた!!異物を見るような目を向けられるんじゃないかと思ってたッ!!」

 

 …これが、ボクが君の瞳をどうしても見られなかった理由だ。君がボクの病室まで来てくれたその時に、ボクは唐突に思い出したのだ。

 それは、小学生の頃に、キャリアであることが周囲にバレてしまったその次の日から、毎日みんなから陰湿な嫌がらせを受けて、度々向けられる視線は冷たくて、何処か普通ではないものを、腫物を見るようで…つい昨日までは仲良くしていたクラスメイトから、一転してそんな扱いを受けるようになったことを。

 そんなトラウマがその場で蘇り、もしもボクは、大好きな君にそんな眼を向けられれば、想像もできないようなショックを受けることを、瞬間的に理解したのだ。

 だからこそ、君がボク自身を見つめていてくれたその眼から、異物や汚物を見るような目を向けたり、或いはHIVに感染してしまった哀れな少女を見つめるような目を…つまりは、ボク自身を見ていてくれなくなる瞬間を見たくなくて、君から目を逸らしたのだ。……だけど、君は──

 

 アルファ「俺はユウキを嫌ったりなんかしない!気持ち悪いだなんて思ったりもしないッ!そんな眼を向けたりしないッ!!」

 

 君がボクの叫びに応えるように、変わらずボクだけを見ていてくれるその綺麗な瞳を向けながら、必死にそう言い返してくれる。

 ……嬉しい、なぁ…。本当に、君は優しいなぁ…。だから、ボクももう一つ踏み込んだ、ボクの穢い根幹を曝け出そう。

 

 ユウキ「……ボクは!本当はッ!!アルファの幸せなんか願ってなかったッ!!自分のことだけしか考えてなかったッ!!だからあの時に!アルファに別れを告げたんだッ!!」

 

 ──ボク達、ここで終わりにしよう。

 

 ──きっとそれが、アルファにとって一番幸せな選択だから。だから、さようなら、アルファ。

 

 あの日、剣と魔法の世界で、君に告げた別れの言葉。あんなものは、嘘に塗れていた。

 勿論、アルファに迷惑を掛けたくないという気持ちに由来する、アルファの幸せを願ったという意味も無いわけではない。だが、そんなものは付随的なものでしか無くて、ボクはアルファの幸せではなく、紛れもなく自分自身の幸せだけを考えて、あの発言をしたのだ。

 …ボクは知られたくなかった。君に自分の置かれている状況を、知られたくなかったのだ。もし君が、ボクがキャリアであることを知れば、ボクの元から離れていくのではないかと思った。君との関係性が変わってしまうのではないかと、酷く恐れた。ボクを見る眼を変化させてしまうのではないかと、そう怯えた。

 

 ボクは、君はそんなことは無いのだと、最後まで信じ抜けなかった。一抹の不安がボクを襲い、君を疑った。

 

 …であれば、君の記憶の中で生きるボクが、現実世界で病院に幽閉された「木綿季」ではなく、あの世界で生き抜いた「ユウキ」のままで終わらせてしまった方が良いのだと、そう思わずにはいられなかったのだ。

 思い返せば、この気持ちに気が付かされたのは、妻に異常な支配欲求を抱いていたある男性プレイヤーの言葉だったのだろう。君と私は似ていると、彼は語っていたが、確かにその通りであった。

 彼は自分の描く理想の妻に固執するが故に、理想の妻を永遠の思い出とする為に、彼女を殺害した。対するボクは、君がボク自身を見ていててくれる間に、その全てを終わらせ、君の中での綺麗なボクを、永遠の思い出にして欲しかったのだ。

 決して現実世界の弱々しくやせ細り、到底未来など見えない醜い自分などではなく、仮想世界で明るく生き抜いた自分を、真のボクとして覚えていて欲しかったのだ。

 それこそが、ボクにとっての一番の幸せであり、ひいては彼の幸せになるのだと、そう思い込んでいた。決してこの順序は逆になり得ない。ボクのこの酷く浅ましい願望が、あの言葉を繰り出したのだから。

 

 ユウキ「ボクはアルファの前では!いつでも君の思い描くボクでありたかったッ!!だからそんなボクとは似ても似つかない現実世界の自分を知られる前に!君との関係を終わらせたかったッ!!」

 

 ユウキ「それがボクにとっての一番幸せな選択だったッ!!アルファがどんな気持ちになるかなんて、どうでも良かった!!自分さえ良ければそれで良かったんだッ!!」

 

 アルファ「……」

 

 彼はもう、ボクに何も言わない。…ボクに呆れただろうか。ボクを見限るだろうか。ボクのことを嫌いになっただろうか。だけど君は、変わらずボクの剣を正面から、受け止め続けてくれていた。

 

 ユウキ「ボクは!本当のボクは、こんなにも醜悪で意地汚くて陋劣な人間なんだッ!!だから!だから──」

 

 ボクが自分の気持ちの全てをぶつけるが如く、剣を猛烈に振るい続けていたその時。パキーンと、ボクの片手剣が、儚く砕け散った。それに合わせて君が放った足払いが、見事にボクの体勢を崩し、ボクはそのまま草原に、後ろから倒れ込む。

 君はそんなボクに止めを刺すべく剣を──ボクの顔の真横に突き立てた。彼が小さく「アイ、リザイン」と呟く。ふと気が付くと、ボクの体力はもうレッドゾーンを割り込んでおり、対する君はまだイエローゾーンに差し掛かったばかりで、最早勝負は決したようなものだった。

 彼は剣から手を離すと、仰向けになったボクに対して、懸命に叫んだ。

 

 アルファ「だからなんだよ!?そんぐらいで俺がユウキを嫌いになるとでも思ったか!?」

 

 アルファ「デュエルは俺の勝ちだ!俺はこれからもユウキに会いに行くし、今日のことだって絶対に忘れない!!」

 

 君が畳み掛けるように叫んだ言葉が、ボクの胸に響き渡る。その君の純粋な心は、君に全てを曝け出したボクにとってはもう、痛みを伴うものでは無く、ただボクの心を満たしてくれるだけのものでしかない。

 ……君が返してくれる言葉は分かっているけれど、ボクはそれを確かめるように、倒れ込んだボクの前に立つ君に、震える声で訊ねたんだ。

 

 ユウキ「……アルファは…こんな心も体も汚れたボクでも…愛してくれるの…?」

 

 すると彼は、仰向けになったボクに覆い被さるように体を前向けにかがめて、ボクの身体をあらん限りの力で,

強く抱き締めてくれる。

 

 アルファ「当たり前だろ。俺はユウキの全部を愛してるんだ。…だからこれからも、俺の傍に居てくれ。俺に君を、愛させてくれ」

 

 君がボクに送ってくれるそのド直球な言葉が、ホントに本当に嬉しくて、ボクはまた涙を流してしまう。そしてそれに応えるように、君の身体を強く抱き締めながら、ボクも君に言葉を返したんだ。

 

 ユウキ「ボクも…ボクもアルファのことを、愛してるよ。…ホントはこれからも一緒に居て欲しいし、会いに来て欲しいんだよ…。…ありがとう、アルファ」

 

 ようやく二人は、お互いに愛を確かめ合い、再び心を繋げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回の投稿日は、明日となります。

 では、また第117話でお会いしましょう!
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