第119話 浮かぶ潜在意識
ユウキ「アルファ、おはよう…じゃなくて、こんにちは、だね」
アルファ「まぁ、どっちでもいいんじゃねぇの。おはよう、ユウキ」
今日も今日とて、学校帰りにユウキの病室を訪れていた俺は、まずはお互いに笑顔で挨拶を交わす。
昨日や一昨日、更にその前には、キリトやアスナ、リズベット…等々が、ユウキが病気のことを明かしたその翌日から、俺と共に引っ切り無しにユウキの病室を訪れていたが、今日は俺一人である。
それに加えて、今日俺の後ろに控えているのは、倉橋先生ではなく、看護師さんだ。倉橋先生だって、この病院の医師として働いているわけだから、毎回この時間をフリーにしているというわけでもなく、こうして先生が来られない時には代わりに看護師さんがやって来ていて、面会時間も無制限に、とはいかない。
今日も元気に俺を出迎えてくれたユウキの姿に、俺は大きな喜びと深い安寧を覚えつつも、さて、この限られた時間で何を話そうかと暫し迷ってしまう。すると、ユウキが先に話し掛けてきた。
ユウキ「ねぇ、アルファ」
アルファ「ん?」
ユウキ「アルファって、トークアプリとか使ってる?」
アルファ「あぁ、使ってるけど…?」
突然のユウキの発言に、俺は彼女の話の意図を理解できず、質問には答えつつも、疑問形で言葉を返した。
ユウキ「じゃあさ、ボクと友達になって欲しいな。ボク、メディキュボイドの中でなら、そこでトークアプリが使えるんだ。だからそれなら…これまでよりも、アルファと沢山お喋り出来るかなって…」
アルファ「そう言うことなら大歓迎だ。どうすればいい?」
ユウキ「ホント!?だったら、ボクが今から言う招待コードを入力してくれたら、それでいけるはずだよ!」
オーバーだと言えるほどに嬉しそうな表情を浮かべたユウキが、スラスラと述べ始めた英数字の羅列を、自身の携帯にインストールされたトークアプリに打ち込む。すると、「こんのゆうき」と平仮名で名付けられたアカウントを発見出来たので、友達申請しておいた。
アルファ「おっけ、これでユウキの方にも、俺の申請が行ってるはずだ」
ユウキ「ありがと!またあとで確認しておくね」
アルファ「キリトとかにも知らせておいた方がいいか?」
ユウキ「うん、お願いするよ」
それから暫くの間、楽しく会話を続けていた俺達ではあったが、遂に面会時間が終わりとなってしまったので、名残惜しいが現実世界で君に会えるのは、今日はこれで最後だ。一旦お別れの挨拶をしてから、ふと思い出し、去り際にユウキにそれを訊ねる。
アルファ「そういや、今日は七時四十五分にはログイン出来そうなんだけど、ユウキは?」
ユウキ「いつもよりも早いんだね。ボクは大丈夫だよ」
アルファ「じゃあ、そう言うことで」
今度こそ、彼女に一時の別れを告げた俺は、早足に自宅へと帰宅する。その過程で、ユウキと初めてするトークアプリを介した会話に純粋にも胸を躍らせつつも、お家に辿り着いた俺は、すぐにお風呂と晩御飯の準備を並行して行った。
晩御飯を食べ終え、洗い物をし、明日の朝の分も用意しておいてから、お風呂に入る。部屋着に着替えて、今日学校で出された課題をアミュスフィアのストレージに移した。最後に寝る準備を整えてから、布団の上から仮想世界へと飛び立つ。
俺がALOにログインすると、昨日泊まった宿屋に出現し、そのすぐ後に、ユウキもこちらへとログインしてきた。
アルファ「お、来たか」
ユウキ「ありゃ、今日は先越されちゃったか~」
アルファ「別に、そんな勝負はしてないけどな」
そんな会話を交わしながらも、ユウキが俺の座るベッドの隣に腰掛けて、俺に体を預けてくる。俺もユウキを支えるように肩に腕を回しながら、彼女を抱き寄せた。暫くの間は無言で居続けた俺達ではあったが、遂に俺が、ユウキに話し掛ける。
アルファ「なぁ、ユウキ」
ユウキ「ん~?」
アルファ「自分で調べたり、キリト達に聞いたりして分かったことなんだけど…俺、学校の宿題はこっちで出来そうなんだ。ALOの中から外部ネットワークに接続出来るだろ?その要領で、オンラインストレージに宿題を保存しておけば、ここからでもアクセスできるんだ」
ユウキ「ってことは、ボクはアルファと今までよりももっと、一緒に居られる時間が増えるの?」
アルファ「そうだな。更にその上、こっちの世界で寝落ちしないように設定すれば、ALOにログインしたまま睡眠も取れるらしい。…だから、あの頃みたいにさ、ユウキさえ良かったら…その…こっちで一緒に寝泊りできるんだけど…」
ユウキ「…出来るんだけど?どうなの?」
…俺は、出来ることなら一日中ユウキとこうして過ごしていたいわけで、でもそれは現実的には不可能だから、出来るだけユウキと一緒に居られるように、宿題はこっちの世界で出来ることを知らせると、ユウキは大変嬉しそうな表情を浮かべてくれた。
なので俺も、更にもう一つの情報を付け加え、でも途中でそれを言葉にするのが恥ずかしくなったのだ。だから適当な所で言葉に区切りをつけたのに、ユウキは俺の心境を察したのか、意地悪に笑いながら、俺に続きを言葉にするよう促してくる。
アルファ「……俺は、ユウキと一緒に寝たいから…その、ユウキはどうかなって」
ユウキ「…うん、良く言えました」ナデナデ
ユウキに揶揄われていることを理解しつつも、俺は羞恥心で一杯になりながら、それをようやく言葉にした。するとユウキは一瞬、何か満たされたような表情を浮かべながら俺を眺め、頭を撫でてくる。
…こうして、ユウキに頭を撫でられるのは、嫌いじゃない…寧ろ、結構好きである。なんというか、ユウキの頭の撫で方は、凄く落ち着くのだ。
俺がユウキの愛撫に甘えていると、いつの間にか抱き寄せていたはずの彼女に、俺はしっかりと抱き寄せられていた。もうしばらくユウキに寄りかかっていたかった俺は、そのまま訊ねる。
アルファ「それで、ユウキはどうなんだ?」
ユウキ「勿論、ボクもアルファともっと一緒に居たいからね。ボクも寝てる時はメディキュボイドを使ってるから、アルファが良いなら一緒に寝泊まりしたいな」
アルファ「良く言えたな」ナデナデ
ユウキ「それかなり好き~」
ユウキの口から同意の言葉を繰り出させた俺は、今度は俺が、ユウキの頭を強めに撫でてやる。ユウキはどうやら、わしゃわしゃと頭を撫でられるのが好きらしく、目を瞑りながら喜んでそれを受け入れていた。
…まるで犬とか猫とか…小動物だな、とそんな感想を抱きながら、仮想世界なら髪が乱れてもすぐに直せるので、彼女の頭をしっかりと撫でておいた。
そこで一旦、スキンシップを終えた俺は、メニューウインドウから宿題を保存したファイルを開いて、暫く宿題に取り掛かることにさせてもらう。
ユウキ「…へぇ、アルファはそんな勉強してるんだ」
しばしの間、俺が今日の英語の授業で出された文法問題及び並び替え問題に悪戦苦闘していると、隣に座って居たユウキが、俺の前に表示されているウインドウを覗き込んできた。
そして、「あ~、なるほどね~」と得心したような声を漏らしているので、俺も思わず勉強モードを解いて、ユウキに訊ねてしまう。
アルファ「これ、見てて解るのか?」
ユウキ「うん、ボクは、高校生の勉強範囲は、半分ぐらいは勝手に勉強しちゃったからね。今アルファがやってる内容なら、問題なく解けるよ」
ユウキが嘘をついた様子もなく、サラリと述べたその一言に、俺は図らずも絶句してしまう。
…ユウキは年齢で言えば、俺よりも一個下のまだ高校二年生なのだ。しかも、高校生と同じ年齢になる前に…つまり、中学二年生時にSAOに囚われたことを考慮すると、彼女はもうその時点で、既に高校生の勉学に着手していたことになる。
なんてハイスペックなんだと、そんな感嘆と共に、ならば俺の宿題を代わりにやってくれないだろうかと、そんな邪な考えも浮かんできたわけで…。
アルファ「ユウキさん、マジで尊敬出来ます」
ユウキ「ん?ボク手伝うなんて一言も言ってないけど?」
アルファ「…なんで、俺の考え見透かしてんだよ」
僅かコンマ一秒で、俺の内心を読み取られたことに驚きつつも、ユウキが宿題を手伝ってくれないことにげんなりしながら、俺はツッコミを入れてしまう。するとユウキは、ケラケラと笑いながら答えた。
ユウキ「もうずっと一緒に居るからね、それぐらいはもう簡単に。それに、勉強は自分でやらないと意味ないんだから。わからない問題があれば、そこは一緒に考えてあげるけど」
アルファ「間違いないな。ちゃんと頑張らせていただきます」
ユウキ「うん、それが良いよ」
アルファ「因みにユウキは、それ何してんだ?」
ユウキ「まだ勉強出来てなかった高校生の学習範囲の続き」
ユウキのド正論に納得せざるを得なかった俺は、大きく首肯した。再び宿題に没頭する前に、ユウキが開けているウインドウを覗いてみると、大量の英単語が敷き詰められた画面が出現し、途端に眩暈がする。
俺はお返しに訊ねてみると、ユウキからはそんな返事を得られたわけだ。故に俺は、思ったことを口にさせてもらう。
アルファ「ユウキって、アスナばりに賢そうだな」
ユウキ「アスナって賢いの?確かに喋り方からして、上品さとか地頭の良さは伝わって来るけど…」
アルファ「あぁ、学校でトップレベルで頭いいと思うぞ、アスナは」
ユウキ「へぇ、それは凄いね。じゃあアルファも、アスナに負けないぐらい、賢くならないとだね!」
アルファ「…それは…単騎でフロアボス討伐よりも難しいと思うけどな」
ユウキ「それは流石に無いよ~」
ユウキとまた他愛も無い会話を交わした末に、俺は再び宿題へと意識を戻していく。やがてその四十分後、見事今日出されていた英語と数学の宿題を終了した俺は、丁度勉学を終えたらしいユウキと共に宿屋を出た。
時刻は午後九時を過ぎたばかり。寝るまでにはまだまだ時間があるので、取り敢えず適当なご飯屋さんに入って、軽食を頂くことにした。
店自体はこじんまりとしており、店内にはカウンター席が六つに、二人掛けのテーブルが二つしかなかったが、丁度その後者一つが空いていたので、そこに座らせてもらうことにする。
アルファ「チキンライスと…ガパオライス?なんだそれ」
余り品数が多くないメニュー表を眺めていると、聞き慣れない料理名を見つけたので、それをユウキに訊ねてみた。
ユウキ「確か…タイでポピュラーな米料理だったと思うよ」
アルファ「ふーん…じゃあ、どっちも頼んでシェアしないか?」
ユウキ「うん、そうしよう!」
穀物の中でもお米が頭一つ抜けて好きな俺からすれば、米料理と言われて試さないわけにはいかないということで、その両方を注文し、ユウキと半分ずつわけわけすることにした。
すぐに届けられた二つの米料理は、どちらもかなり美味しかった。思った以上に良い結果となった軽食に満足しながら、俺達はフィールドを目指してい歩いていく。
ユウキ「まさか、七層でお米が食べられるなんてね。SAOの頃は気が付かなかったよ」
アルファ「でも、日本の米の形の白米が食べられるのは、変わらず十層からなんじゃないのか」
現在、俺達は新生アインクラッドの第七層の主街区を、ゆったりと闊歩している。つい数日前、ユウキがみんなに病気のことを伝えた後に見つけた、ボス部屋に陣取るフロアボスを誰かが撃破し、とうとう第六層の迷宮区が突破されたのだ。
今は多くの妖精たちが、今度は第七層を攻略しようと躍起になっているらしい。がしかし、俺達がここを訪れたのは、別にいち早く迷宮区タワーに到達し、ボスを自らの手で倒したいというような理由ではなく…。
…いや、思えば何故、俺はユウキと共にここへ足を運んだのだろう。何となくだと言ってしまえばそれまでだが、もしかすれば俺の心の何処かでは、まだ攻略組としての意識が残っており、それ故に最前線には出たくなってしまったのではないだろうか…。
アルファ「……結局、いつまで経っても俺は攻略組か…」
ユウキ「…どういうこと?」
アルファ「いや、別に気にしなくていい」
どうにもあの二年間で、俺は完全なる重度のゲーマーへと変容してしまったのかもしれない。別に、誰かに優越していたいだの、誰かよりもいい武器を持ちたいだの、そういった感情は相変わらず余り湧いてこないのだが、常に最前線に出ていたいというフロントランナーとしての小さな誇りが、俺の中で芽生えていたらしい。
第七層主街区<レクシオ>は、転移門広場を中心として、西洋式木造建築の建物が立ち並ぶ円形の街である。街の商店街を進みながら、数日前にタイラやリズベットに、高性能な武器防具を作成してもらったというのに、こうして二人で足を止めては、NPC武具店やアクセサリーショップ、延いては食材を眺めてしまうことも、あの世界で過ごした習慣によるものなのだろう。
あの頃とは違って、こちらの世界にはレベルという物が存在しないので、レベリングに追われることが無く、幾らでもゆっくりと街に滞在出来ることが嬉しい一方で、あの慌ただしさが少々懐かしくも感じてしまうのは、何故なのだろうか。
ユウキ「アルファ、SAOでは見たこと無い食材が一杯あるよ!だからさ…ね?」
ふと、店でユウキが何かを購入したと思ったら、見たことの無いようなピンク色のイガグリ?っぽいものを俺に見せつけながら、何かを暗示してくる。
一瞬、何のことだかさっぱりだった俺だが、次の瞬間には、ユウキの言わんとすることを理解してしまい、ため息交じりにそれを聞いてみる。
アルファ「…また、実験台なのか?」
ユウキ「うん!お願い!」
アルファ「なんでも笑顔で言えばいいって訳じゃねぇんだぞ。…まぁ引き受けてやるけど、これからは俺以外の奴らも実験台にしてくれよな」
ユウキが満面の笑みで両手を合わせてくるので、俺はもう一度ため息を吐いてから、仕方なしにそれを受け入れた。ついでに他の奴らも、ユウキのドキドキ料理研究の実験台にしてもらうことを提案すると、ユウキが大きく頷く。
ユウキ「それもそうだね。アスナと一緒に色々研究しようかな」
アルファ「妙な化学反応起こさねぇことを期待しておく」
…と、ユウキと些末な会話をしているうちに、街からフィールドへと続く、例の二つの門の前まで辿り着いた。
俺が追憶するようにその二つの門を眺めていると、ユウキが不思議そうにこちらを眺めるも、彼女もそれを思い出したのか、当時俺達がここに居た時からは想像も出来ないような、穏やかな微笑みを浮かべていた。
そしてユウキが笑いながら、俺に訊ねてくる。
ユウキ「向かい風の道と追い風の道、どっちに進む?」
アルファ「…今はもう焦ることも無いし、今度は向かい風の道に進むか?」
ユウキ「それもいいけど…今日は、追い風の道の方に進もうよ。丁度ウォルプータに到着する頃には、良い時間になるんじゃないかな」
アルファ「それもそうだな。じゃあ今回も追い風の道にしとくか」
確かに、第七層全体がSAOの頃と大きく変わっていないのであれば、向かい風の道を選ぶと、次に街を拝めるのは迷宮区タワーの近くとなってしまう。
一応、向かい風の道の先には、以前のSAOであれば森エルフの拠点があったのだが、新生SAOにはエルフクエストが存在しない上に、俺達は今となっては、野営用のキャンプアイテムも所持していないので、ユウキの言うことも最もだろう。
俺達は仲良く追い風の道を選択し、ヴェルディア草原へと繰り出した。モンスターのポップ率は弄られなかったのか、相変わらずこの道にはモンスターが出現する気配はない。
ユウキ「残念かもだけど、今日は水着は無しだからね?」
アルファ「…え~…」
ユウキ「そんな露骨に残念そうな顔しないでよ。…また夏になったら、あるかもだよ?」
アルファ「なら、今日の所は我慢しておくか」
モブが出現しないことを良いことに、俺達はこうして下らない会話を投げかけ合いながら、ヴェルディア草原を進んでいる。今こうして思い返してみると、SAO時代の第七層での思い出は、他と比べてかなり多めであるだろう。
ギルドホームを探しにウォルプータを訪れたり、ユウキの水着姿というご褒美の為に海に向かったり、初めてここに来た時にちょっと喧嘩したり…そう言えばついこの前、ユウキと大喧嘩したばかりだったか…。あの頃は、今度は剣で斬りつけ合いそうだなぁ、だなんてのほほんと考えていたが、よもや本当にそんなことになるとは…。
ユウキ「アルファ、来るよ!」
アルファ「おう!」
ユウキにそう呼び掛けられて、ふと前方に意識を集中させると、一体のカブトムシモンスター…<ヴェルディアのヤリカブト>の姿を、久しぶりに拝めた。相変わらず、こちらに向かって猛スピードで飛んでくるカブトムシの姿を見て、俺も一気に戦闘モードへと移行する。
こういう甲殻に覆われている系のモンスターは、大概腹が弱点である。そしてこのヤリカブト君もその例に漏れないので、俺はこちらへと一直線に突進してくるヤリカブトの真横に移動し、そのまま足を素早く蹴り上げる。
弱点部分を強打したヤリカブトは、脳震盪に陥ったようにフラフラと飛行し始めた矢先、更にその弱点部分を、ユウキに斬り刻まれる。すかさず俺も両手剣を振り払い、ヤリカブトを撃破した。
こつんと拳を突き合わせ、再び草原を歩き始める。あの世界で何度も何度も倒し続けてきたカブトムシ型モンスターに、俺達が今更遅れを取るわけが無い…まぁ、魔法を使われたら別なのだが。
ユウキ「やっぱりボク、アルファとこうやってモンスターと闘ってる時が、一番生きてるって感じがするよ」
アルファ「それは俺も同感だ」
ユウキの言い分には、俺も大変共感出来る面があった。
あの二年間、常に自らを命の危機に晒しながら、毎日を生き残り続けてきた俺達にとっては、フィールド上にてモンスター相手に命のやり取りを交わすことこそが日常であり、こっちの世界に戻って来て数か月経つが、その剣士としての感覚が拭われることは、終ぞ無かった。
こうして俺達が、本来ならば飛行して移動できるはずのフィールドを、何気なく地に足つけて歩いているのも、例えアバターは妖精姿であろうとも、その根幹には、あの世界を生き抜いた剣士としての信念が宿っているからなのかもしれない。
ユウキ「それにさ、ボクまだゲームのデスに慣れないんだよね~。この前みんなでボス部屋に突っ込んだ時とか、すっごくハラハラしたんだよ?」
アルファ「デスには俺も中々慣れないな。やっぱ、絶対に死んじゃ駄目だって気持ちが心のどっかにあるんだよなぁ…」
ユウキ「だよね~」
そんな調子で日常会話を楽しみつつも、その時々に現れるモンスターを華麗に葬り去りながら…とは言っても、新生SAOで初めて出現した、幻惑系の魔法を使ってくる蝶には少々苦戦させられたのだが…一時間半ほど歩き続けていると、遂にウォルプータの街並みが見えてきた。
ウォルプータに関しては、構造とか街の様子とかには余り手を加えられていないようで、丁度朝日が昇り始めた美しい街の最奥には、相変わらず豪華な純白の建物…しかし、その実は多くのプレイヤーの欲望が入り乱れる、巨大カジノ場が聳え立っている。
既にキリトやらクラインやらはウォルプータに到着して、カジノで熱い勝負を繰り広げているらしいが…まぁ、彼らに合流するのは明日からでもいいだろう。
アルファ「ユウキ、泊まりたい宿とかあるか?」
ユウキ「泊まりたい宿は無いけど…激安はヤダ」
アルファ「承知いたしました」
ユウキの呈示する条件に従って、俺は真横にある激安宿屋をスルーして街を進んでいき、普通の宿屋に泊まろうとしたのだが…如何やら、新生ALOでも変わらずカジノは人気らしく、既に満室であった。
なので、普通よりは少し高めの宿屋に泊まることに決定する。そんなちょっと高級な宿屋のエントランスには、今日のカジノで勝利することが出来たのか、満足気な表情をしたプレイヤー達が多く居た。
ユウキ「アルファってなんでそんなにコル…じゃなくて、ユルド持ってるの?」
アルファ「…俺にも分からん。多分、銀髪のアバターで活動してた時のアカウントが、既にALOのアカウントとしてコンバートされてたんじゃねぇの?それでコルがユルドに変換されたままなんだと思う」
客室に辿り着くや否や、ユウキがそんなことを訊ねてきたので、俺もふとそれを思い出し、ユウキに軽く説明しておいた。
元SAOプレイヤー達が新生ALOへSAOのデータを引き継ぐ際に、アバターの容姿や、あの城で培った熟練度及びステータスの補正などは、こちらの世界に合わせて引き継がれるのだが…武器や防具などのアイテム、そしてコルに関しては、全くの初心者と同じになる仕様なのだ。
勿論、アイテム関連は、SAOとALOでは異なるのだから当然だろうし、お金に関しても、あの世界で積み上げてきたコルを全てユルドに変換してしまえば、プレイヤーの間で圧倒的な不公平を生むことになるのだから、当たり前とも言える。
がしかし、俺に至っては上記の通り、既に神代さんにアバターを用意してもらった時から、SAOのデータをALOに引き継いだ形になっていたが為に、そのまま大量のユルドを有しているということなのだろう。
ユウキ「…なんか、ズルいね」
アルファ「努力の成果だ。ズルじゃない」
ジトッとした目つきで俺を眺めてきたユウキに、俺は知らんぷりで応戦した。時刻を確認すると、もう十一時を回っている。明日も学校という面倒なものが待っている学生である俺としては、そろそろ睡眠を取らねばと、ユウキに話し掛けた。
アルファ「じゃあ、俺ちょっと就寝準備したいから、一回ログアウトしてくる」
ユウキ「ならボクも、同じく寝る前の準備してくるよ。…そうだね、またニ十分後にこっちに集合でもいい?」
アルファ「おう、じゃあな」
ユウキ「ん、またね」
そうして、俺もユウキも寝る前にやることをやらねばならないので、一度ALOからログアウトしたのだった。
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ALOの世界からログアウトし、次いでVRルームからもログアウトしたボクは、途端に身体に圧し掛かる重力を感じ取った。
これは別に、ボク自身の筋力が弱っているからこそそう感じるのではない。仮想世界でのボクは、ステータスによる強化で身軽さを獲得しているからこそ、そのように感じるのだ。
そう考え、ジェルベッドからゆっくりと降りたボクは、松葉杖を使いながら先ずはトイレを済ませ、次に歯磨きをする。それが終わると、寝る前に一度水分補給してから、またベッドに戻って来た。
再びメディキュボイドに内蔵されたVRルームにログインし、そこから新しく友達に追加したアスナ達にメッセージを返信しておく。そろそろログインしようかなと、アプリ起動ランチャーからALOを選択し、そちらの世界へとログインした。
アルファはまだ来ていないようだったので、暫くの間、足を揺らして手持ち無沙汰に部屋のソファに腰掛けていると、遂に彼がログインしてきた。
ユウキ「今回は、ボクの勝ちだよ?」
アルファ「だからそんな勝負してねぇって。そんなん始めたら、そのうち一時間前集合とかになるだろ」
ユウキ「アハハ~、それもそうだね~」
ボクが勝利を宣言すると、アルファは呆れながらそんなことを言ってくる。彼の言葉を聞いて、どちらが早くログインして来られるかを競い始めて、そのうち集合時間の一時間前にログインしてしまうようになるボクとアルファの姿を想像し、ボクは軽く吹き出してしまった。
ソファから立ち上がったボクは、そのままアルファの手を引いて、キングサイズほどもある大きなベッドへ向かって行く。
ユウキ「アルファ、一緒に寝よ?」
アルファ「…あぁ…」
ボクがそう訊ねると、アルファは一瞬不思議な表情を浮かべたが、その理由は分からないし、その表情の意味することも理解できなかった。
でも、別にアルファはボクと一緒に寝ることが嫌なわけじゃないみたいで、すんなりとベッドに潜り込んできてくれた。だけどどういう訳か、アルファはボクから少し離れたところに身を縮めていて…ボクは彼の様子を訝しみ、訊ねる。
ユウキ「どうしてそんなに離れてるの?」
アルファ「…いや…改めて考えたら、中々恥ずかしいなって」
ユウキ「今更何言ってるのさ、ボク達一緒に寝てきたじゃん」
アルファ「だからそれが、かなり恥ずかしいだろ?」
ユウキ「…もう、アルファは恥ずかしがり屋さんだなぁ」
ベッドの中で、少し照れたような表情を魅せた彼を見て、その彼の可愛らしい顔に似合った様子に、ボクは思わずニヤニヤしてしまいそうになる…というか既に、ちょっと口元がにやけてるかも…。
…こう、アルファは普段通りのカッコいい所とか、カッコよくあろうとする姿勢も好きだけど…こういうアルファの照れちゃってるところも好きで、故にボクもたま~に、アルファのことをいじめたくなっちゃうんだと思う。
そんな愛くるしい彼の姿に堪えかねたボクは、アルファの方へと近寄り、彼の身体に抱き着く。
ユウキ「ボクはね、やっぱりアルファと一緒に寝る方が、睡眠の質が良くなると思うんだ」
アルファ「俺も、ユウキと寝た方が落ち着くな。…ユウキと一緒に寝られない毎日は、凄く寂しかった」
ユウキ「えへへ~、そう言ってもらえて嬉しいな。…勿論ボクだって、すっごく寂しかったんだよ?」
気が付くと、彼に主導権を握られていた。ボクからアルファに近寄ったはずなのに、いつの間にかボクが彼に甘えるように身を縮めていて、彼はそんなボクを丁寧に包み込んでくれている。
久しぶりにアルファと一緒に眠れる喜びとドキドキが胸を高鳴らせ、ボクは極自然に彼の唇に口を近づけていた。
ユウキ「ん…」
だけど、ボクが彼の唇を奪う前に、彼から積極的に唇を奪われてしまった。やがておやすみのキスを終えたボク達は、微笑みながら言葉を交わす。
アルファ「おやすみ、ユウキ」
ユウキ「おやすみ、アルファ」
隣に居てくれるアルファの温もりに包まれて、ボクは微睡に落ちて行った。
ユウキ「…ん…」
ふとボクが目を覚ますと、まだ世界は常闇に覆われていた。深夜に目を覚ましちゃったのかなと、徐に時刻を確認すると…午前六時四十七分。
一瞬、目がぼやけているのかと一度目を擦ってみたけれど、やっぱりボクの眼に狂いはないらしい。そこでようやく思い出す。この世界は十六時間で一日のサイクルが回っているせいで、現実世界とは時間が同期していないことを。
もう朝が近いことを悟ったボクは、暫くアルファの寝顔を眺めようと思い、隣に居るであろう彼の姿を見つけようとしたのだが……居ない。アルファがボクの横に居ない。
不意にそこで、ボクの首元に違和感を感じ、次いでボクの耳に、小さな吐息を感じる。
アルファ「……すぅ~……」
ユウキ「んぁっ…!?」
その微かな寝息がくすぐったくて、何だか全身がゾクゾクしちゃった。そしてボクは耐えられず、ちょっと変な声を出してしまったのだ。高鳴る胸の鼓動を意識しながらも、目線をずらしてアルファを確認してみた。
がしかし、アルファは何も気が付いていないようである。なんとアルファは、ボクの背中側から首に腕を回して抱き着きながら、熟睡しているようだった。あの頃一緒に寝ていた時は、どちらも目覚めるときは仰向けで且つ手を繋いだままの状態が多く、こんなことは今までに無かったので、ボクも少しびっくりしてしまった。
寝顔が見られないのは残念だけど、なんだか、アルファがボクを求めてくれている気がして、こういうのも悪くないように思える。ふと足を動かそうと、下半身に意識を向けると、如何やら知らず知らずのうちに、ボクは自分の足で、アルファの足を絡め取るようにくっつけていたらしい。
アルファが目覚めないようにそれを慎重に解いてから、暫くそのままの体勢で居続けた。そして十分後、アルファは目が覚めたのか、寝起きで少し低くなった声で唸り始める。
アルファ「…んん…」
そんな彼に対して、ボクはそちらへ向き直ってから、笑顔で朝の挨拶をした。
ユウキ「おはよ、アルファ」
アルファ「…おはよう、ユウキ…って、あれ?…ごめん。苦しくなかったか?」
ボクが至近距離に居ることに驚いたものの、彼は笑顔で挨拶を返してくれた。どうもアルファは、ボクを無意識のうちに後ろから抱き締めていたらしく、それを認識するとパッと腕を解いて、ボクを気に掛けてくれる。
ユウキ「大丈夫だよ。アルファは随分と、甘えん坊さんだね」
アルファ「…まぁ、そうなのかもだけど…それはユウキもだろ?」
ユウキ「まーね~」
寝起きは随分と素直な彼に対して、ボクはちょこっと甘えてみると、アルファもそれにしっかりと応えてくれた。おはようのキスを交わしたボク達は、まだまだ夜はこれからな外の様子を眺めながら、しばらくゆっくりとし時を過ごす。
アルファ「…そろそろ、学校行く準備しねぇと不味いから…」
ユウキ「うん、また放課後だね」
アルファ「…そうだな。あ、でも、連絡してくれたら休み時間には返信できるから」
ユウキ「りょーかい。じゃあ、行ってらっしゃい、アルファ」
アルファ「おう、行ってくる」
最後にもう一度ハグを交わすと、アルファはそのままログアウトしていった。
…本当は、ボクはずっと、アルファと一緒に過ごしていたい。だけどアルファには日常生活があるから、それは叶わないのだろう。
…それでも、宿題をこっちでやったり、一緒に寝泊りしてくれたりと、出来るだけボクとの時間を作ろうとしてくれる彼の優しさが嬉しくて、ボクはベットの上で一人笑顔を綻ばせてから、彼と同じようにALOの世界からログアウトしたのだった。
つまり次回は…。
次回の投稿日は、一月二十九日の土曜日となります。
では、また第120話でお会いしましょう!