現在の最前線は第八層。俺達は今、第八層迷宮区タワーを登り詰めている…とは言っても、もうそんなに急いで攻略する必要など無いのだが…。
俺の前方には赤髪のバンダナサムライが、その隣には巨漢のぼったくり商売人が、そして俺の隣には、とんがりヘアスタイルのブラッキーさんが歩いている。しかし、俺のもう片方隣にはユウキが居る…訳ではなく、今日はこの四人パーティーで行動している。
なんでもユウキは本日、男子禁制の女子会を開催するとのことなので、故にこの場には女性プレイヤーが誰一人として居ないのだ。
アルファ「あー!なんでこんなにむさ苦しいんだよっ!!」
耐え兼ねた俺の叫びに、前方バンダナ男が叫び返してきた。
クライン「良いよなぁオメェは、イチャイチャできる相手が居てよォ!」
サムライの悲しい叫びに、その隣に居た大男が、バリトンボイスで厳しい進言をする。
エギル「新生<風林火山>に男しか入ってこない時点で、察するべきだろうな」
クライン「…嘘だろ?俺の人生こんなもんなのか!?」
遂に絶望崖っぷちに立たされた落ち武者に、黒の剣士が止めを刺す。
キリト「多分クラインには、女性が近寄らないようなユニークスキルが発動してるんだろうな。差し詰め、<女性忌避>スキルってとこか」
クライン「そりゃねぇぜ…」
ちょっとだけ彼が可哀そうに見えた俺は、フォローにならないフォローを入れておくことにした。
アルファ「いっそ、追跡スキルの熟練度カンストさせてみたらどうだ?そしたら女性だって捕まえられるかもしれないぜ?」
だが二人は、俺のフォローを無下にして、無慈悲な追撃を仕掛けた。
エギル「だがそれだと、ストーカーになるだろうがな」
キリト「それもそうか」
クライン「…何かオメェら、今日一段とオレへの当たりキツくねェ?」
とまぁ、そんな軽口を叩き合いながらも、迷宮区に出現したゴブリンっぽい奴ら相手に四人で絶妙なコンビネーションを繰り広げている辺り、俺達の結束力というか、絆の強さは良く表れているわけだ。
エギルが作り出したブレイクポイントにクラインが合わせ、キリトが俺の周りにゴブリンが襲い掛かってこないよう見張っててくれている間に、俺は風魔法を詠唱する。
この詠唱スペルを述べるのが恥ずかしいと言う人も中に入るらしいが、俺はどちらかというと、ノリノリで詠唱してしまうタイプだ。発動した中規模の竜巻がゴブリンたちを一掃し、戦闘が終了する。
俺達がハイタッチを交わしていると、キリトの肩に乗っている小さな妖精ちゃんが、眉を寄せながら言葉を放った。
「パパ、どうしてクラインさんは、いじめられているのに楽しそうなんですか?私にはよく分かりません…」
その言葉に対して、呼び掛けられた本人が言葉を返す前に、クラインが嬉しそうに彼女に助けを求めていた。
クライン「やっぱユイちゃんは、オレの気持ちを分かってくれるか!そうだよな、オレ、いじめられてるように見えるよな?」
エギル「…それだとお前、ただのドMなんじゃ…」
ユイ「…どえむ?」
キリト「おい、エギル。うちのユイの教育に悪いだろ」
キリトの周りを優雅に飛び回りながら、三人の会話に耳を傾けている小妖精は…ナビゲーション・ピクシー…更に元はと言えば、SAOのメインシステムであるガーディナルに創造され、そして機能停止状態に追い込まれたメンタルヘルスカウンセリングプログラム試作一号、コードネーム<ユイ>…であることを俺が知ったのは、実はかなり最近のことだ。
そんな彼女は、SAO時代にキリトとアスナの二人に命を助けられたらしく、それ以来彼女は、キリトをパパ、アスナをママと呼び慕っている。
要するにユイちゃんは、キリトとアスナにとっての子供だという訳だから、彼女に出会った当初は、無論俺もユウキも、思わず絶句してしまった。ユウキがその時何を考えていたのかは分からないが、俺は一瞬、キリトがアスナとリアルで子作りに励んだのか、将又仮想世界で子作りが出来るようになったのかと、様々な邪推を巡らせていたのだ。しかし、実情はどうやらそういう訳では無かったということである。
アルファ「…そうだな。クラインは今、いじめられてるんじゃなくて、俺達の冗談に付き合ってくれてるんだ。だからクラインも楽しいんだろうな。男同士の付き合いだと、こういうことは多いぞ?」
ユイ「なるほど…勉強になります…」
なんだかんだで三人が、ユイちゃんの質問に答えなかったものだから、俺が代わりに答えてあげると、彼女はその情報を咀嚼するよう手を顎に当てていた。
そしてやがて、そんなスキンシップの一つを理解してくれたのか、続けて俺に語り掛けてくる。
ユイ「わたし、アルファさんに聞きたいことがもう一つあるんですけど…構いませんか?」
アルファ「おう、何でも聞いてくれ」
ユイ「アルファさんは、ユウキさんとかなり仲がいいですよね。わたしの眼から見ると、それはパパとママと同じぐらいだと思うのですが…どうして結婚していないんですか?」
アルファ「ぶっ!?」
まさかそんなことを聞かれるとは、俺も夢にも思っていなかったわけで、完全に油断していた俺は、今し方口に含んだばかりのお茶を勢い良く吹き出してしまった。
少々むせてしまったため、息を整えながら、さてなんと返事をするべきだろうかと思考を巡らせ、やがて言葉を返す。
アルファ「…本当はな、ユイちゃんのパパとママは、まず結婚の前にお付き合いって言う段階から始めるべきだったんだ。だけどほら、パパはかなりせっかちだろ?だからいきなり、結婚までステップアップしちゃったわけで…本来なら最初は、俺とユウキみたいにお付き合いしてるはずなんだ」
ユイ「そうなんですか、パパ?」
キリト「…まぁ、せっかちかどうかは兎も角…言われてみれば、確かにアルファの言い分が正しいよ…」
愛娘にそう訊ねられて、半分苦笑いを浮かべているキリトの様子を眺めていた彼女は、また俺に話し掛けてくる。
ユイ「なら、アルファさんもいつかはユウキさんと結婚するんですね!わたし、楽しみにしています!」
キリト「アルファ、言われてるぞ」
アルファ「お、おう!!」
そんな純粋な瞳で応援されては、俺も頑張らないわけにはいかないだろう。胸を張り、ドンと右手で打ち付け、その意気込みをユイちゃんに示す。
…まぁ、それ以前にユウキに振られてしまえばそれまでなのだが、そんなことは無いと信じていたい。もしユウキに振られたりでもしたら…確実に一カ月は部屋に引き籠る自信がある。
そんな会話をしているうちに、俺達は迷宮区の最深部にまで辿り着いてしまったようで、目の前には、あの頃と変わらない荘厳な大扉が俺達を威嚇していた。この層のボス情報はまだ出ていなかったはずなので、恐らくは俺達が初の到達者なのだろう。
クライン「よっしゃ、じゃあまずは小手調べがてら、このメンツでボスに挑んでみようぜ!」
アルファ「いや、確実に負けるだろ」
エギル「別に勝ち負けじゃないだろう?こういうのは楽しんだもん勝ちだ」
キリト「そう言うことだな、アルファ」
アルファ「…しゃーねぇなぁ、付き合ってやるよ」
ユイ「わたしもサポートいたしますので、皆さん頑張ってください!」
四人の仲間たちに背中を押されて、未だ慣れない死への恐怖を抑え込み、俺は大扉を潜ったのだった。
────────────────────────
アインクラッド第八層主街区にて、ボクが少し緊張しながら宿屋の一室で皆を待ち続けていると、どうやら一人目が来てくれたらしい。
コンコンとドアをノックする音が聞こえたので、ボクがどーぞと返事をすると、程なくして扉が開かれた。一人目の来訪者は、ウンディーネという優美なる種族が良く似合う彼女であった。
ユウキ「アスナ、来てくれたんだね」
アスナ「うん、今日はユイちゃんもキリト君の狩りに付き合ってもらってるから、どんな話をしても大丈夫だよ」
ユウキ「う、うん、ありがと…でも、お話はみんなが来てからね?」
内心を見透かされたのかと、ボクがたどたどしくアスナにそう伝えてから十分後には、本日招集したメンバー…アスナに加えて、リズとユナが来てくれた。本当はシリカとキリトの妹のリーファも誘ったんだけど、二人は今日はそれぞれは外せない用事があるようなので、残念ながら欠席ということになった。
今日は出来るだけ人数が多い方が良かったんだけど、来れないというのならば仕方がない。ボクがみんなにお茶と簡単なお菓子を出していると、早く本題に入りたいらしいリズが、身を乗り出してボクに訊ねてきた。
リズベット「それで、今日は一体どんな話をするのよ?ユウキから女子会開こうだなんて、かなり珍しいじゃない」
ユウキ「う…」
リズの言葉の通り、あの頃に率先して女子会を開いていたのは、キリトとの恋愛事情を探るためにリズが、或いはキリトとの恋模様を相談するためにアスナが女子会の開催を提案することが多く、ボクはそれに賛同する形が多かった。
故にリズの指摘は最もであり、ボクも最初からこの話題をどう切り出すべきなのかどうかは迷ったけれど…。
ユウキ「…ボク、今日はみんなに相談したいことがあるんだ」
ユナ「なになに?」
ユウキ「あ、あのね──」
やっぱり、ボクだけの力ではどう転んでも解決できなそうな悩みなので、みんなの力を借りることにしよう。「それ」を話すのは少しばかり恥ずかしいけれど、ボクは勇気を振り絞って、口を動かしたのだ。
例の「それ」に、ボクが気が付いたのは、今日のお昼時にまで遡る──。
ユウキ「……」
──最近、調子がおかしい。
…調子がおかしいとは言ったものの、別に身体の体調が悪かったり、病状が急速に悪化し始めたりしているわけではない。調子がおかしいのは、主にボクの心の様態…要するに、精神的な部分に由来する。
それが何なのかを、上手く説明することは出来ないのだけれど、アルファと再会して約二週間の時が経過した今…ボクの中で、日を追うごとに彼への欲求が増幅していくのだ。
アルファと再会するまでの約五か月間、ずっと一緒に居たかったのに居られなかったというジレンマが、知らず知らずのうちにボクの中に蓄積し、それが今爆発し始めているのかもしれない。
…あえて言うなれば、もっとボクのことを知って欲しいし、ボクもアルファのことをもっと知りたい。もっとボクのことを深く愛して欲しいし、アルファにより深く愛されたい。もっと、アルファと深く繋がりたいのだ。
そんな強烈な衝動が、ボクの身を焼き焦がすように全身に駆け巡り、遂にはそれは一つの感情としてボクの前に現れた。ボクは多分…アルファとしたいんだと思う。彼と、キスの更にもう一ステップ先にある段階に至りたいと、そう強く感じているのだ。
多分この気持ちは、あの頃からもあったのだろうけれど、ここまで確かな欲求として現れるのは、これが初めてのことである。対するアルファが、どう思っているのか分からない事だけが、唯一の懸念点だけれども、もうアルファの気持ちなんて考えていられない程に、その欲求だけがボクを支配しようとしていた。
昨日の夜なんて、遂にはもう一緒に眠るだけじゃ足りなくて、どうにかそっちの方向へと持って行こうかとも考えたのだが、流石にそれは止めておいた。なにせボクは、その手に関する知識が豊富ではない…というか、かなり手薄であるという自覚はある。
故に、自分からそれを提案するつもりならば、せめて順序ぐらいは、ちゃんと予習してから本番に臨まないと、ちょっとグダグダになっちゃって、アルファに迷惑を掛ける気がしたのだ。なので昨日は、なんとか欲求を抑え込み、そして本日はその予習の時間として、こうしてアルファが学校に行っている間に、メディキュボイドの中で使えるネットを駆使しようと考えているわけである。
ユウキ「…でも、なんて調べればいいんだろ。……こ、恋人との…せ、性交っ!?」
自分一人でその言葉を口にしておきながら、頭の中では既にアルファとのそれを妄想し、途端に羞恥心が湧き出す。今はクリーンルームへと繋がるマイクは切ってあるので、こうして独り言を唱えながら、検索エンジンを眺めていても何の問題も生じない。
それを検索するのは結構恥ずかしく、かなりの勇気を問われているとは言え、やはり調べないわけにもいかないだろう。ボクは意を決してホロキーボードを叩いて、言葉にした通りの文字を打ち込んだ。
……まさかボクが自分でこんなことを調べる日が来るなんて、二年前は想像も出来なかったよ。…ボクのママは厳格なカトリック教徒だったけど、ボクはそういう訳じゃないし…信仰の自由があるわけだし…だ、だから、婚前交渉したっていいんだよね!?べ、別に、邪な気持ちに由来してるわけじゃないし…でも、そもそもこんな気持ち自体が邪なんじゃないのかな!?
だなんて気持ちが、次から次へと脳裏に浮かび上がって来て、多分今のボクは、顔が真っ赤なのだろう。
だけど、兎に角予習に集中すべきかと、検索結果一覧の最上部に現れたサイトをクリックし、その見出しを眼にした瞬間、ボクは硬直した。
「恋人との夜の営み大解説!これで彼をメロメロに~!」
ユウキ「……」
ついさっきまでボクの頭を支配していたピンク色の思考が、纏めて何処かへと綺麗に吹っ飛んでしまうぐらい、ボクは重度の思考停止状態に追い込まれた。
……よ、夜の、営み……?そ、それって…好きな人と一緒に寝ることだよね……?アスナも、そう言ってたし……。
あまり働かなくなった頭を何とか動かしながら、新しいタブを開いて、今度は「夜の営み」と単純に検索してみた。すると、その言葉の意味について解説してくれているサイトを見つけたので、吸い寄せられるようにそこをクリックする。
そしてそこには、簡単に言えば、男女の性交を意味すると記載されていた。
ユウキ「っっっっ~!?」カァァァ~
……ど、ど、どういうこと!?……ううん、多分これ、言葉の通りなんだよね!?アスナが言ってた夜の営みって、そのことだったの!?
……ってことは、ボクがアルファに夜の営みしよって言って、アルファが凄く焦ってたのって……そう言うことだよ!?多分あの時のアルファ、そう言う意味だと思ってたんだよ!?ボク何してるの!?すっごく恥ずかし過ぎるよっ!?
ここでようやく、あの日自分の犯した過ちを認識したボクは、遂に羞恥心が限界を迎えた。VRルームにて一人両手で顔を抑えながら、ボクは暫くの間身悶え続けたのだった。
ユウキ「あ、あのね…ボ、ボク…ア、アルファと夜の営みしたいんだけど…どうすればいいのかな…?」
「「……」」
その場が、静寂に包まれた。ボクが恥ずかしい思いをしながら放ったその一言に、誰も何も喋り出そうとしなかったのだ。ただ唯一、アスナの顔が若干引き攣っているのだけは理解できる。たっぷり十秒ほど沈黙がその場を支配していたのだが、やがてリズが、ため息交じりに答える。
リズ「そう言うことなら、あたしは戦力外ね。…でも、今みたいにアルファにそう言ったら良いんじゃないの?今のユウキ、あたしでも手出したくなるぐらい可愛かったから、多分そっこーいけるよ」
ユウキ「そ、そうなのかな…」
リズが手をひらひらさせながら、自分は当てにしないで欲しいと呼べた直後に、そんなことを言って来たものだから、それが本気なのか冗談なのか分からなくて、故にボクも訊ね返すことしか出来ない。
そんな中アスナが苦笑いを浮かべながら、ボクに話し掛けてくる。
アスナ「……ゆ、ユウキ…夜の営みのホントの意味、気が付いたんだ…」
ユウキ「…う、うん…アスナも、あの時にちゃんと言ってくれたらよかったじゃん」
アスナ「あはは…ごめんね~…」
ボクが頬を膨らませてそう言うと、アスナは申し訳なさそうにそう言ってくれた。まぁ、別にボクも全然怒ってないからいいんだけどね。
ユナ「にしても、まだそこまで行っていないなんて、ちょっと意外だったかな」
ふとユナが呟いた言葉に、ボクは疑問に思ったことを訊ね返す。
ユウキ「普通はどれぐらいでそこまで辿り着くものなの?因みに二人はどうだった?」
ユナ「私は…三カ月ぐらい?」
アスナ「わたしは…初日だね…」
…昨日一通り調べた限りだと、確かに三カ月ぐらいが一番多かった気がするから、ユナは一般的なのだと思う。でもアスナに関しては…。
リズベット「それは流石に、若気の至りってやつじゃないの?」
アスナ「…か、かもね…」
リズの冷静なツッコミに、アスナは何も言えないようだった。シュンとしてしまったアスナを横目に、ユナがまた訊ねてくる。
ユナ「因みにユウキは、アルファと何処まで進んでるの?」
ユウキ「…でぃ、ディープキスまで…」
ユナからの核心的な質問に、ボクはそれを友達に言うのはちょっと恥ずかしかったけれど、頑張ってそれを伝える。すると三人とも、驚いたような表情をしていた。
アスナ「そこまで行ってるのに…まだなんだね」
リズベット「そう言えば、ユウキとアルファって三月に付き合い始めたわよね。だったら少なくとも…八カ月は手出されてないんだ」
ユウキ「そ、そうだね……ボク、そんなに魅力ないかな…確かに、あんまり女の子らしくないって自覚はあるけど…」
ユナ「ううん、ユウキは十分に女の子らしいよ。だから多分、原因は他の所にあるんじゃないかな」
一般的には、夜の営みに至るまでに三カ月。対してボクはその約三倍の期間、アルファから求められていない。
昨日の内から分かっていたことだけど、やっぱり実際に周りの状況と比較してみると、ボク達の関係が如何に進展していないのかが良く理解できた気がして、ボクはなんだか少しだけ不安な気持ちになってきた。
そんなボクの様子に気が付いたユナが、優しくボクをフォローしてくれる。
アスナ「…ってことは、アルファ君は、ピュアな恋愛が好きなんじゃないのかな」
ユウキ「…じゃあ、ボクはあんまりそういうの求めない方が良いの?」
ユナ「我慢は良くないよ。ちゃんと言葉にすれば、アルファも受け入れてくれるよ」
…アスナの言う通り、もしアルファが肉体関係による恋愛を好まないというのならば、約九か月の間一向に、アルファから何のアクションも無かったのも理解できる。
…でもボクは、やっぱりアルファと繋がりたくて。この気持ちを抑え込まないといけないのかな、とも思ったけれど、ユナ曰くそうではないらしい。この中で一番早くお付き合いを始めた先輩がそう言うのだから、間違いないのだろう。
リズベット「なら逆に、あいつがユウキとそういうことしたいな、って思ってそうな瞬間とか無いの?アルファも案外、我慢してるだけかもよ?」
ユウキ「…う~ん…あんまり分からないかな…」
アスナ「二人きりの時、アルファ君が何考えてるのか分からない時とかない?」
ユウキ「……あるかも。時々アルファ、ずっと一点を見つめてるときあるんだよね」
ユナ「アルファがそうなる時って、どんな時?」
ユウキ「……ボクがいきなり抱き着いたり、長い間キスした後だったり?」
「「……」」
三人からの質問攻めに、ボクはその時その時のアルファとの記憶を思い返しながら、真面目に皆に返事をしていたつもりだったんだけれど、いつの間にかまたみんな黙り込んじゃっていた。ボクが不思議そうに三人の顔を眺めていると、アスナが穏やかに微笑みながら、答えてくれた。
アスナ「多分アルファ君、すっごくユウキのこと大事にしてるんだと思うよ」
ユウキ「え?」
ユナ「アスナの言う通りだよ。多分アルファがそうなってる時って、ユウキのこと襲おうか迷ってるんだと思う」
ユウキ「そ、そうなの!?」
ユナ「うん、エー君も大体そんな感じだから、恐らくだけどね」
ユウキ「し、知らなかった…」
リズベット「でも結局ユウキのこと襲おうとしないってことは、よっぽどユウキのことが大切なのか…相当なチキンなのかのどっちかよ」
アスナ「アルファ君ってかなり我慢強いんだね~。キリト君なら絶対我慢出来ないと思う」
…アルファがそんなことを考えていたなんて、全くもって気が付かなかったや…。ユナから放たれた衝撃の推測に、ボクは驚いてしまった。
なんだか、ボクの話を聞き始めた当初は、かなり怪訝な顔をしてアルファとボクの関係を尋ねていた三人も、今はどうにもほっこりとした表情で、ボクに話し掛けてきている。
…きっと、他の人なら絶対に嫌なんだろうけど…ア、アルファになら、無理矢理にでも襲われても、ボク全然嬉しいんだけどなぁ…。などと考えていた心の声が、いつの間にか外に漏れだしていたのか、三人がニヤニヤとボクの顔を眺めていた。
ユウキ「…じゃ、じゃあ…その、ボクから求めても良いのかな?」
アスナ「わたしも初めての時は、自分から提案したかな」
ユナ「私はエーくんからだったけど、アルファがそんな感じなら、ユウキから行った方が良いと思うな」
リズベット「あたしは経験ないけど…良いんじゃない?押し倒しちゃえ!」
ユウキ「…う、うん…そっか…」
リズベット「いっそもう、今日この後仕掛けちゃったら?」
ユウキ「ふぇ!?」
ユナ「明日は土曜日だし、丁度いいんじゃない?」
アスナ「うんうん、朝も一緒にゆっくり出来て、最高だと思うな~?」
ユウキ「うぅ……じゃあ、今日の女子会は終わりにしよ?」
ユナ「ん、今日は楽しんでね」
アスナ「そんなに緊張しなくても大丈夫よ」
リズベット「感想文待ってるからね!」
完全に場の勢いに吞まれて、今日この後すぐに、アルファに夜の営みを提案することに決めてしまったボクは、お開きにすることを伝えると、三人揃って生暖かい目を向けながら、ボクの借りた客室から出て行った。
ティーカップやお皿を片付けながら、一度気持ちを落ち着かせたボクは、まずは女子会が終わったことを知らせようと、アルファへのメッセージを入力し始めたのだった。
───────────────────────
丁度、俺達がたった四人でボス部屋に無謀な突撃を仕掛け…とは言っても、かつての攻略組トッププレイヤーである俺達四人が、本気で闘い抜こうとしたので、それなりには闘えたのだが…結局、ボスの呼び寄せた大量の取り巻きにリンチされる形で敗北し、リスポーン地点に戻されたところで、ユウキからの連絡があった。何やら、女子会は終わったとのことなので、指定の場所で落ち合って欲しいとのことだ。
クライン「ありゃ、かなりの人数集めないと攻略出来なさそうだな」
キリト「取り巻きの数が多過ぎるだろ。あれだとフルレイド近くの人数は必要じゃないか?」
エギル「魔法での援護も必須だろうな」
第八層ボス<ワジェト・ザ・フレイミング・サーペント>…名前の通り、炎の蛇神のような見た目をしたアイツの対策を、彼らがあの頃の攻略会議のようにブツブツと喋り合っている中、俺はそれを伝える。
アルファ「なんか女子会終わったらしいぜ。俺はユウキに呼ばれてるから、今日はここで解散だな」
クライン「おうよ、しっかりイチャついてこいよ!」
アルファ「はいはい」
クラインのおちょくるような言葉に俺は適当な返事をしてから、キリトとエギル、ユイちゃんに別れの言葉を告げて、その場を飛び立つ。
…別に、クラインの想像するようなことを、俺とユウキはするつもりなんて無いのだがな。とそんなことを思いながら、その飛行中にアスナとリズベット、ユナを見つけ、俺は軽く会釈をしようとしたのだが…。
リズベット「アルファ、気張りなさいよ!」
アルファ「お、おう…?」
こちらへと急接近してきたリズベットが、何だか良く分からないことを言って来た。俺がその言葉の意味を理解できず、それを訊ね返そうとした時には、リズベットは少し焦った様子のアスナに引っ張られて行ってしまう。ユナは朗らかに笑いながら、その様子を眺めていたが…ますます、意味が分からない。
…まぁ、明日は土日だし、みんなALOやるだろうから、その時にでも聞けばいいだろうと、そう結論付けた俺は、ユウキの待つ宿屋の前へと降り立った。
アルファ「待ったか?」
ユウキ「う、ううん。大丈夫だよ」
俺がいきなり上空から現れたことに驚いたのか、ユウキは肩をビクリと震わせていた。
時刻はもう午後十時三十分近くだ。今から狩りに出ていては、睡眠のサイクルがおかしくなるだろうし、幾ら休みだからと言っても、規則正しい睡眠はユウキにとって何よりも大切だろうから、そういう訳にもいかないだろうと…と言うか、俺が夜更かしがあまり得意じゃないだけだが…その案は却下だ。
アルファ「ちょい時間が中途半端だけど、どうする?」
ユウキ「…ちょ、ちょっとだけ小腹が空いちゃったから、何か食べたいかな」
アルファ「ユウキは食いしん坊だな」
ユウキ「良いでしょ別に。こっちじゃ太らないんだから」
アルファ「ま、それもそうか」
さっきの迷宮区探索及びフロアボス戦でエネルギーを消費してしまったのか、俺も少々腹を空かせてたので、二人で適当な店を探して、そこでハニートーストを頂いた。
お腹も満たし終え、もう今日は眠ろうかと、今は二人で宿屋に向かっているのだが…どうにも、ユウキの様子がおかしい。俺が話し掛けても何処か上の空で、何か他のことに夢中になっていると言うか…兎に角、いつものユウキと勝手が違うのだ。
アルファ「…ユウキ?何かあったのか?」
ユウキ「え!?…ど、どうしたの?」
アルファ「いや…なんか今日のユウキ、いつもと違うなって思ったんだけど…」
ユウキ「…気のせいじゃないかな。取り敢えず、一旦就寝準備しよ?」
アルファ「そうだな。じゃあ、またあとで」
ユウキ「うん」
…多分気のせいでは無いとは思うのだが、本人がそう言うのならば、深くは追及しない方が良いのかもしれない。
一旦ALOからログアウトした俺は、歯磨きやらトイレやらを済まして、布団に入りながらアミュスフィアを使用し、再びユウキの待つ宿屋の一室へと戻って来た。
暫くするとユウキもこちらへとログインしてきてくれたので、いつも通りおやすみのキスをしようと、ユウキの身体を抱き締めようとしたのだが……その前に、ユウキが俺に話し掛けてきた。
ユウキ「アルファ、夜の営みしよっか」
アルファ「…そうだな」
一瞬言葉に詰まりそうになるも、そう言えば俺とユウキの間で夜の営みとは、ただ単に一緒にベッドの中で眠ることであり、決してそう言う意味を持ったものでは──
ユウキ「……ホントの、ね?」
アルファ「……ん……?」
少し恥ずかしそうな表情でそう呟いたユウキを見て、今度は完全に、俺は言葉に詰まってしまった。
……今ユウキは、なんて言ったんだ?ホントの?なにが?なにがホントのなんだ?
俺が思考を纏め上げられないうちに、何かが爆発したのか、ユウキが俺との距離を急激に詰め、俺の首に腕を回しながら深いキス攻撃を仕掛けてきた!
ユウキ「んっ…」
アルファ「ッ!?」
全くもって頭が追い付いてこないが、とにもかくにも、今日のユウキのキスはやけに積極的であった。彼女自身が絡め取るように俺の舌を吸い尽くし、俺を離さない。文字通り彼女は、俺から呼吸という物を奪い去ろうとする。
その長い長い時間の末に、ようやく俺の口内から舌を引っ込め、唇を離したユウキは、いつになく色っぽい表情をしていた。酷く乱れた呼吸を繰り返す彼女を眼にし、俺の胸が不味い方向へと高鳴っている感覚に気が付く。
アルファ「ゆ、ユウキ?」
ユウキ「…しようよ、夜の営み。ボク、アルファとしたいよ…」
戸惑う俺に対して、いつもとは違った意味で俺の身体に密着してきたユウキは、俺の耳元に囁くようにそう言った。
……どっちの、意味なんだ?一瞬そんな思考に囚われるも、このいつもとは違ったユウキの様子からして、恐らく真の夜の営みを、彼女が求めていることを何となく理解する。
しかし、それが俺だけの思い違いであってはいけないだろうと、ユウキにその確認を取ろうとするも…まるで俺の身体は彼女を求めているかのように、俺はいつの間にか彼女を強く抱き締めていた。
アルファ「…それは、本当の意味での、夜の営みか?」
ユウキ「…うん、そうだよ…」
……新生ALOは、旧ALOと同じく、その根幹のシステムはSAOと同一の物である。故に、あの頃と同じように、こちらの世界にも存在するのだ…倫理コードという物が。
だがSAOと違っているのは、あの頃のような強制的な性犯罪が行えないように、プレイヤー本人が倫理コードにパスワードを設定することを義務付けられている所だろうか。
……と、一瞬でも冷静な思考を維持するために、俺はこうしてわざと余計なことを考えているのだが──
ユウキ「…ボクをアルファで満たして欲しいんだ…」
ユウキ「ボク、アルファにめちゃくちゃにされたいよ…」
……う~ん…一体、あんなに純情だったユウキのどこから、こんな言葉が飛び出してくるのだろうか。
危険なほどに甘い彼女の囁きが、遂に俺の思考回路をショートさせ、頭の中に残された理性という最後の一線が吹き飛んだ。
俺は溢れ出てきた欲望に身を任せて、ユウキを抱き寄せたままベットに倒れ込み、俺の顔を見つめながら火照った表情をするユウキに告げる。
ユウキ「ひゃ!?」
アルファ「ごめん…俺もう、我慢できない」
ユウキ「…うん、いーよ…」
彼女からの二度目の承諾を得たことから、遂にその段階に至ることを決意した俺は、慣れぬ手つきで倫理コードを解除した。ユウキも同じく倫理コードを解除し終えたようで、お互いに、情欲で溢れ返った目が合う。
アルファ「…俺、初めてだから…上手くできるか分からないけど…」
ユウキ「大丈夫だよ…ボクも初めてだから…一緒に頑張ろ…?」
アルファ「あぁ…」
遂に爆発したお互いの愛欲が、その空間を満たした。それから暫くの間、その空間には二人の荒い吐息と、淫らかな声が響き渡った。
────────────────────────
窓から差し込む清らかな朝日によって、不意にボクは目を覚ました。ふと後ろを振り向くと、彼も同時に目を覚ましたのか、同じタイミングでこちらを向いてくれた。
アルファ「おはよう、ユウキ」
ユウキ「おはよう、アルファ」
いつも通りの朝の挨拶、いつも通りの笑顔、いつも通りの一緒のベッド…ただいつもと違う所は、お互いに裸である事だろう。
それに今更ながら気が付いたボクは、途端に恥ずかしい気持ちを覚えるも、もう今更かなと、そのままアルファに抱き着き、話し掛ける。
ユウキ「昨日はありがとね。ボク、一杯アルファのこと感じ取れたよ」
アルファ「こっちもありがとな。…その…凄く良かった…」
ユウキ「どーいたしまして…?」
昨夜のような激しい愛の求め合いではなく、今はこうして甘い時間を過ごしていたいという気持ちは、如何やらボクもアルファも同じようで、お互いに肌と肌を重ね合わせながら、ボクらはいつも以上にお互いの温もりと幸せを共有する。
…なるほど、ユナとアスナが、次の日は休日が良いって言っていたのは、こういうことだったんだ。確かに次の日の朝もこうして一緒にゆっくり過ごせるのは、すっごく嬉しいなぁ…とそんなことを考えていると、ふと、アルファが話し掛けてきた。
アルファ「そういや、やっと夜の営みの意味理解したんだな」
ユウキ「あの頃は、まだあんまりそういうこと勉強してなかったから…ごめんね?」
アルファ「いや、あれはあれでユウキの可愛いとこ見れたし、謝ることでも無いんけど…あの時は流石に焦ったんだぜ?」
アルファに頭を撫でられながら、可愛いと言ってもらえる、それだけで、ボクの胸は、多幸感に満たされていく。
だったら夜の営みをする意味はないのではないかと思うかもしれないけれど、それは違うのだ。あの、大好きな人と心だけじゃなくて身体も繋がって、快感を共有するあの行為も、それはそれでボクに幸せを与えてくれるのだから。
ユウキ「ボクとしては…別に、あの時に襲ってくれても良かったんだよ?」
アルファ「そ、そうなのか?」
ユウキ「うん、ボクはいつでもオッケーだったのに、どうしてアルファは手を出してこなかったの?」
不意に、ボクだけでなくアスナやリズ、ユナまでもが疑問に思っていたことを、ボクは彼に訊ねてみた。
…本当に、ピュアな恋愛が好みだったのだろうか?でも、昨日はそうとは思えない程にボクに愛を注いでくれたし、リズの危惧したように勇気がなかったって訳でもないだろうし…。
するとアルファは、少し難しそうな顔をしてから、やがて穏やかな表情を浮かべ、ボクにその理由を教えてくれた。
アルファ「…ほら、ユウキはさ。…あんまり思い出したくないことかもしれねぇけど…迷いの森で男に襲われかけた事、あるだろ?」
アルファ「だから無理矢理ユウキを襲ったら、トラウマになるかと思って…俺は、ユウキのことは傷つけたくないから…だな」
ユウキ「…アルファは、本当に優しいね…」
…どうやらアルファは本当に、ボクを大切に思ってくれていて、しっかり気を遣ってくれていたらしい。そんな彼の優しさが心地良くて、ボクが彼の頬にキスをすると、彼も応えるように頬にキスをし返してくれる。それからボクはアルファと共に、甘々な朝の時間を過ごしたのだった。
ノ ル マ 達 成
次回の投稿日は、明日となります。
ではまた第121話でお会いしましょう!