~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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第121話 過日の記憶

 アルファ「…むぅ…」

 

 広々とした客室の中で眉を顰めた俺は、図らずも唸り声をあげてしまう。だが、俺の周りにいる者達も一様に、それぞれの目の前に展開しているウインドウを眺めては俺と同じような反応を示しているので、特に気になりはしない。

 皆、必死なのだ。学生にとっては、夢の夏休みに突入する前の最後の難関…定期テストが、今俺達の前に立ちはだかっているのだから。

 

 アルファ「…誰か、俺にこの問題の解き方を教えてくれ」

 

 リズベット「これ、この前もアスナから教わってたじゃない。もう忘れたの?」

 

 俺のウインドウを覗き込んできたリズベットは、呆れ顔で俺を眺めながらそんなことを言ってくる。そんなリズベットに対して、俺は自虐的な言葉を返した。

 

 アルファ「俺はお前らみたいに頭良くないんだよ。三歩歩けば忘れる」

 

 リズベット「別にあたしは真面目なだけで、賢くないんだけどね」

 

 アルファ「俺からすれば賢い。ってか真面目とか言う嘘つくな」

 

 リズベット「そんなこと言うと、もう教えてあげないわよ」

 

 アルファ「どうぞどうぞ。ここにはまだまだ頼れる奴らが沢山いるからな」

 

 この場に集っているメンバーは、俺とリズベット以外にも、キリト、アスナ、ユウキ、シリカ、ノーチラス、ユナ、リーファと、学校や学年は違えど、定期テストを直近で控えている学生メンバー達が、真剣そのものでテスト勉強に励んでいるのだ。

 まぁ、ユウキは別にテストとかは無いので、代わりに俺達の疑問に答える役割を担ってくれている。今はリーファに何かを教えているようだ。俺もリズベットと減らず口を交わしてから、大人しく苦手な数学の問題の解き方を教わり、それによって何とか、この手のパターンの問題を把握する。

 

 アスナ「アルファ君、この問題が解けないと、高得点は厳しいと思うよ」

 

 アルファ「俺は七十点ぐらい取れたらそれでいいんだ。…アスナは満点目指してるんだろうけど」

 

 ノーチラス「なら八十点ぐらい目指すつもりじゃないと、結果は六十点ぐらいになるぞ?」

 

 ユナ「だったらいっそ、九十点目指しても良いんじゃない?」

 

 アルファ「それじゃキリがねぇだろうが…」

 

 アスナに次いで俺に話し掛けてきたノーチラスとユナであるが、勿論二人も、SAOのデータをこちらに引き継いでおり、その容姿は基本的にはあの頃と変わりはない。

 ノーチラスが選んだ種族は、キリトやユウキと同じくスプリガンだ。ALOの世界では、トレジャーハント以外に特に目立った特技の無い器用貧乏なスプリガンは、不人気種族ナンバーワンの地位を確立しているのだが、どうにもこのメンツの中では、一番選ばれている種族である。

 因みにだが、あの頃から宝箱が大好きだった、トレジャーハンターユウキに言わせてみれば、この種族は最高らしい。…まぁ、ユウキ程の腕であれば、魔法なんてものに頼らなくても、物理だけで滅茶苦茶強いからなのだろうけれども。

 そしてユナが選んだ種族は、俺がいつか想像していたように、音楽妖精プーカである。プーカを選ぶと、基本的には背が小さくなりやすいらしいのだが、SAOの姿が受け継がれているユナは無論、あのころと変わらない身長をしている。

 プーカは名前の通り、音楽関連の特技を持っており、ユナはまたこの世界でも、吟唱スキルのような歌によるバフをメインとし、更にはこの世界に存在する魔法を駆使することで、完全な後衛職を育成しているとか…。

 

 キリト「…くそ、全然暗記できないぞ…」

 

 アルファ「キリト、暗記ってのはな、残り一日でやるようなことじゃねぇんだよ」

 

 キリト「歴史じゃなくて、アイテム名とかだったら一発なのになぁ…」

 

 そんなことをぼやきながら、キリトは世界史の一問一答形式による問題を解いているらしい。俺は日本史を専攻することに決めたので、世界史に関しては本当に中学生の頃の記憶のまま…それこそ、オセアニア州がどうこうとか、世界四大文明があーだとかぐらいの知識しか持っていない。

 本来ならば、世の高校生は三年掛けてどちらの歴史も勉強するらしいが、俺達は何故だか、どちらか一択に迫られてしまった。何でも、今後の受験のために必要な科目を集中的に学習するためらしい。

 キリトの言葉を受けて、確かに、数学だって自分の得物でボスに与えられるダメージの計算とかだったら、俺でも出来そうなのになぁ…と心の中でそんな感慨を抱いていると、耳をぴくぴくと動かしながら、この世界ではケットシーを選んだシリカが、ヘルプを申し出た。

 

 シリカ「だ、誰かこの化学の問題を教えてください~」

 

 アスナ「シリカちゃん、わたしに任せて」

 

 彼女のヘルプに動いたのはアスナだ。アスナがシリカに対して、俺もつい数か月前に、入院生活中に散々頭に叩き込まされた内容を分かりやすく教えているのを見て、どうやら彼女には、家庭教師とか、そういう誰かに教える系のことが得意なんだろうな…と言うか、アスナって基本的に何でもできるよなと、そんなことを思いつつも、俺は再び自分の勉強に集中し始める。

 俺がそれから更に、数学の応用問題を四問解き直していると、不意に後ろから、大好きな声が聞こえてきた。

 

 ユウキ「一つ前の問題、途中式が間違ってるよ」

 

 アルファ「なぬ…」

 

 ユウキに指差されたところをよくよく眺めてみると、確かに、その部分の途中式の計算が間違っているではないか。

 解き方自体はこれで正解らしいが、途中式の答えがズレているせいで、もう一度面倒臭い計算をやり直さねばならない事態に、俺は深くため息をついていると、ユウキがティーカップを差し出してきた。

 

 ユウキ「一回休憩にしようよ。みんなもちょっと、疲れてきたみたいだし」

 

 アルファ「…それもそうだな。もう一時間以上はぶっ続けでやってるしな」

 

 ユウキの提案に従って、俺達は一度頭脳を回復させるために、一度ウインドウを閉じて、ユウキが出してくれたクッキーと紅茶を飲み食いしながら暫しのティータイムとすることにした。

 一つの部屋に九人も居れば、話題が尽きることなど当然あり得ず、ぺちゃくちゃと様々なことを喋っていたのだが、そんな中ふと、この大きな客室の窓の外を見下ろしたリーファが、呟いた。

 

 リーファ「なんだか、ここの主街区って不思議だねえ…」

 

 キリト「…SAOの主街区が色んなテーマに沿っていることは認めるけど、ここまで変なところはSAOでも中々見ないと思うぞ」

 

 既にこの街に慣れてしまっているキリトは、笑ってそれを聞き流すが、SAOに囚われていないリーファがそう思うのも無理は無いとは思う。

 何故ならば…今俺達が居る主街区は、新生アインクラッド第六層<スタキオン>であり、街のテーマもあの頃と全く変わらず、<パズル>である。

 この大きな部屋を借りる際にも、七面倒臭いパズルを解かなければならなかったのだが、それでもここ第六層で部屋を借りようとしたのは、単純に、その面倒臭いパズルさえ攻略してしまえば、他の街よりも比較的リーズナブルな価格で客室を借りられるからなのだ。

 リーファの視線の先には、街に敷き詰められた石材のタイルの所々に数字が嵌め込まれており、それを一生懸命に眺めながら、或いは地に這いながら何かを吟味しているプレイヤー達が十数名。

 …彼らがこの新生アインクラッドでの<ナンプラー>の名を冠することになる事実に、俺は思わず期待と哀れみの両方を込めてしまう。噂によると、旧アインクラッドの時よりも更に、ナンバープレートが複雑になっているらしいが、果たして彼らがそれに打ち勝つことは出来るのだろうか。

 

 アルファ「そういや、この街に最後に訪れたのは、キリトと一緒だったけ」

 

 ユウキ「うん、そうだね。あれは確かに、中々忘れられない日だね~」

 

 キリト「あぁ、あれはあの二年間の中でも、かなり衝撃的だったな」

 

 ふと、俺が街の様子を見下ろしていると、在りし日の出来事を思い出し、その思い出の当事者であるユウキとキリトにそれを訊ねると、彼らもその出来事を思い出したようで、三人でその当時の気持ちを想起していた。

 すると他のメンバーが、興味津々と言った様子で俺達を眺めてくる。

 

 アスナ「キリト君、わたし以外とこの街に来たことあるの?」

 

 キリト「まぁ、当時六層が最前線だった、ずっと後にな」

 

 ユウキ「そう言えばあの時はまだ、アスナもキリトも恋仲じゃなかったね~」

 

 リーファ「この街で何かあったの?」

 

 シリカ「私も、ここでそんな大きな出来事があった覚えはないんですけど…」

 

 ノーチラス「僕も、特に何か事件があった記憶はないな」

 

 SAOでの時間を共有出来ていないからこそ、もっとあの頃の出来事を知りたいと思っているような感じのするリーファからの要望がある上に、言葉を発した三人以外のユナとリズベットも、言葉にはせずとも俺達がここで何を経験したのかが気になっている様子であった。

 なので、この何の脚色を加えなくても、それなりには面白いあの出来事を語ろうかと思い、俺は一度紅茶を口に含んでから、口を動かす。

 

 アルファ「じゃあ、ちょっと手短に話すとするか──」

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 第66層。それが、現在の最前線である。がしかし、ホラーがテーマになっている最前線にはどうしても出たくない俺としては、今日は如何にしてユウキを納得させようかと、そんなことばかり朝から考えていた。そんな時に、一つの吉報が俺の元に入ったのだ。

 

 ユウキ「集合時間なのにまだ来てないね~」

 

 アルファ「な、珍しいよな」

 

 俺達を呼び出したその張本人は、まだ指定の場所に来ていなかった。向こうから時間指定した時には、大体時間ピッタリに来るはずなのだが、今日は一体どうしたと言うのか。

 …口酸っぱく信用第一とか言っている割には、今日は遅れてきてもいいのか。いや、俺とユウキのことは既に、信用ではなく信頼を以てして接しているからこそ、少しぐらいは遅れてもいいという判断なのだろうか。

 頭の中で色々なことを考えながらも、ユウキと一緒にそこら辺の適当な屋台で購入した味噌味のつくねを口に運んでいると、遂にその主がやって来た。

 …いつもとは違って、あの閃光を上回るほどのスピードでこちらに駆けつけないのは、隣に居る黒い人のせいだろう。 

 

 アルゴ「アー坊、ユーちゃん、悪いナ、ちょっと遅れて」

 

 ユウキ「ううん、大丈夫だよ。今日はキリトも一緒なんだね」

 

 キリト「あぁ、アルゴに頼まれて来たんだけど…まさか、二人もそうだったとは」

 

 アルファ「俺達は頻繁に、アルゴの手となり足となり働いてるからな」

 

 言葉の通り、俺とユウキはかなりの高頻度で、アルゴからのお願い事を聞いている。その大概が、アルゴの攻略本の発展形である<全クエスト必勝ガイドブック>なる本に情報を記載するために、クエストに駆り出される、若しくはアルゴと共にクエストを攻略すると言った物である。

 因みに言っておくと、その噂の全クエスト必勝ガイドブックにお世話になったことはほとんどない。まぁ、俺達は最前線で活動しているので、後から出てくるクエスト情報に目を奪われている暇がないだけなのだが。

 

 ユウキ「それで、今日は何するの?またクエスト?」

 

 アルゴ「いや、今日はクエストじゃないヨ。でも手伝って欲しいことがあってナ。それで、ついでにキー坊も召喚したってわけダ」

 

 アルファ「クエストじゃない?意外だな」

 

 キリト「俺もまだ何をするか知らされてないんだけど…アルゴ、そろそろ教えてくれよ」

 

 アルゴ「キー坊はせっかちだナ。ま、口で説明するより、まずはその眼で見て欲しいナ」

 

 俺達の疑問に対して曖昧な答えを返したアルゴが、右手をひらひらと動かして俺達を何処かへ案内しようとし出したので、俺達もアルゴの背中を追い掛けて、転移門広場へと向かう。

 辿り着いた転移門の前で、アルゴが第六層の主街区の名を唱え、転移門を潜って行った。最前線が第六層であった頃以外には、全くもってその街を訪れていなかった俺は、その街の名前を懐かしく思いながら、キリトやユウキの後に続いて門を潜る。

 

 アルファ「スタキオンに来るのは…もう一年半ぶりぐらいか?」

 

 ユウキ「そうだね。だけどそもそも、あんまりこの街に長居してないから、ボクはこの街の印象自体も薄めだよ」

 

 ユウキにそう言われて六層での出来事を思い返してみると、確かに、この街では受けられるクエストが少なくて、そのまま隣町に移動。そして印象強く残っているのは、ダークエルフの城で激戦を繰り広げたことだろう。

 改めて街を眺めてみると、他の層の街とは違って、ここはキッチリと街が碁盤の目のように広がっており、家々のデザインも統一されている。その様子はまるで、古の時代のゲームの街を再現したように思えた。

 

 キリト「…なんでナンプレがまだあるんだ…?」

 

 不意にキリトが目をギョッと見開きながら街の様子を…正確には、街に敷き詰められた石材のタイルを眺めながら、そう呟いた。

 キリトがそれをナンバープレイスであると一瞬で認識出来た事には驚きだが、俺もそれを眺めてみると、そこには1から9までの数字が疎らに刻まれており、間違いなく、これがナンバープレイスであることを理解する。

 

 アルファ「キリト、「まだ」ってどういうことだよ」

 

 キリト「…俺とアスナが色々やって、この街に掛けられたパズルの魔法が解いたはずなんだ。なのに…」

 

 アルファ「お前らが何したのかは俺は知らねぇけど、ナンプレだけは元々この街に組み込まれた仕掛けだったんじゃねぇの?」

 

 キリト「そ、そういうものなのか…?」

 

 キリトの発言に些細な違和感を感じ、俺がそれを訊ねると、彼は街の魔法を解いたとか言ってくれた。多分クエスト関連で何かを達成したのだろう。

 それによって町からパズルは消え去り、宿屋に仕掛けられたあの厄介なパズルも無くなったらしいが…まぁでも実際には、目の前にナンプレがあるわけだし、俺が適当な返事をすると、キリトも半分納得顔で頷いていた。

 

 ユウキ「でもこれ、相当な大きさのナンプレだよね」

 

 アルゴ「八十一マスのセットが縦横二十七コずつ。オレっち達が今いる転移門の所だけはナンプレが無いカラ、その分を引くと七百二十八個だヨ」

 

 ユウキ「…そ、そんなの解けっこないよ…」

 

 ぐるりと転移門広場を見回したユウキは、アルゴの絶望的な一言を耳にしてガクッと項垂れていた。

 だが、そんな諦めモードのユウキとは裏腹に、俺達を囲むように、ナンプレの前で唸ったり或いは無言で紙に何かを書き綴り続けたり、若しくは周囲のプレイヤーと慌ただしく連絡を取り合ったりしているプレイヤー達が数十人…どころではない、多分百人ぐらいだ。彼らは皆、その眼に闘志を燃やし、熱気の籠った雰囲気を醸し出している。

 

 アルファ「アイツら、このナンプレ解こうとしてるのか?」

 

 キリト「まぁそうなんじゃないか。ベータテストの時は、ここのナンプレに囚われてフロア攻略を断念した連中が、敬意を込めて<ナンプラー>と呼ばれてたんだけどな…」

 

 アルファ「また今度も、ナンプラーが登場したってことか」

 

 恐らく、彼らはこの広大なナンプレをクリアしようとしている連中であることに気が付き、俺がそれを言葉にすると、やけにしみじみとしたキリトからの説明があった。

 

 ユウキ「でも、もう一年半も経つのにまだこのナンプレクリアできてないんだ。これだけ人が居たら、何とかなりそうなのにね」

 

 アルゴ「いや、実際はもう何度もクリアしているんだけどナ。あと一回、今日クリアすれば、晴れてナンプレは完全攻略なんダ」

 

 キリト「どういうことだ?」

 

 アルゴの意味深な一言に、食い気味の反応を見せたのはキリトだ。

 

 アルゴ「キー坊も知っての通りだと思うケド、あれを全部解き終えると、七百二十八個のキーナンバーが手に入るダロ?」

 

 キリト「あぁ、でも結局そのキーナンバーをどうすればいいのか分からなくて、ベータ時代のナンプラーたちはテスト終了までの一時間の間、パンツ一枚で大発狂したらしいな」

 

 ユウキ「中々悲惨な話だね…」

 

 アルファ「そんな地獄、逆に見てみたかったぜ」

 

 その場がどんな地獄であったのかは、ベータテスターではない俺には推し量ることしか出来ないが、どうやらキリトも、自分の眼で確かめたわけではないらしい。対するアルゴは、その光景を目にしたのか、アレは悲惨だったと、そんな表情を浮かべている。

 

 アルゴ「それで、今回もベータ時代と変わらず、あのキーナンバーをどうすればいいのか、それが分からず仕舞いになってたんだケド…遂に、そのキーナンバーを使うであろう場所が見つかったってわけダ」

 

 キリト「おぉ!何処なんだ!?」

 

 と追及するキリトに対して、アルゴは珍しくチップを要求しないまま、それを答えてくれた。

 

 アルゴ「それが、第45層のフィールドの隅っこの方にある古代遺跡ダンジョン…その深奥にある大きな安全地帯にあるんだヨ」

 

 アルゴ「そこには、色とローマ数字ごとに分けられたタイルのキーナンバーを嵌めこむ石板が用意されてるカラ、明らかにナンプレの奴だろうナって推測だけどナ」

 

 アルゴ「今回三人に手伝ってもらいたいことは、そのダンジョンの安全地帯に回廊結晶のゲートを開くことダ。んでもひとつ、もしそこでモンスターに襲われでもしたら、ナンプラー達は死んじまうからサ。その護衛ダ」

 

 アルファ「なるほどなるほど」

 

 そこでようやく、今回のお手伝い内容を知らされた俺達は、勿論それを快く引き受けることにした。キリトとユウキはワクワクしたような表情でアルゴからの依頼を引き受けたし、俺も個人的に、ナンプラー達が汗水垂らして遂に辿り着く完全クリアを見届けたかったし、何より、そんなに大掛かりなパズルであるのだから、きっとすごいご褒美が貰えるのだろうと、そう確信しているからだ。

 それから、フロアボス戦かと勘違いするほどの怒号の飛び交い、小さな空間に数多のプライヤーが犇めき合う第六層を後にして、回廊結晶の座標を設定するために、そのまま四人で例のダンジョンへと挑戦する。

 

 ユウキ「やっぱり、最前線からニ十層も離れてると、ダンジョンも楽ちんだね~」

 

 アルゴ「これぐらいの相手だったら、オレっちも逃げ回る必要無いしナ」

 

 アルファ「アルゴってマジでモンスターと闘わずに鬼ごっこしてるのか?」

 

 アルゴ「まぁナ。最前線だと、流石にオレっちのステ振りじゃ闘う気になれないヨ。情報料、百コル」

 

 アルファ「キリト、代わりにつけてくれ」

 

 キリト「はいはい」

 

 ふと思い返せば、この四人でパーティーを組むのは、四月一日のピノキオクエスト以来だろう。

 この両手剣使いが一人、盾無し片手剣使いが二人、クロー使いが一人という定石からは外れた歪すぎるパーティーではあるが、意外にも相性は良いらしい。

 敵モンスターのレベルが低いこともあるだろうが、古代遺跡を守るのか、将又ここを住処としているのかよく分からないモンスターをバッタバッタ倒しながら、やがてダンジョン最奥に辿り着く。

 

 キリト「あれが噂の石板か」

 

 キリトが眺める方角には、大体百人ほどは裕に収まるドでかいサイズの安全地帯が広がっていて、更のその奥には、巨大な石扉が聳え立っている。石扉の中央には、計七百二十八個の正方形の穴が開いており、その近くには大量の石板が並べられていた。

 恐らくこれを正しく当てはめることで、ナンプレを解き明かした者達への褒美として、扉の向こうにある金銀財宝を手にすることが出来るのだろう。

 

 アルゴ「そうだヨ。…さ、座標も設定したことだし、早くスタキオンに戻ろうカ」

 

 ユウキ「あれ?そう言えばアルゴ、さっき一回はナンプレクリアしてるって言ってたよね。だったら、もう今日はクリアしなくても良いんじゃない?」

 

 アルゴ「あのナンプレは、毎日午前零時にヒントの数字が全部変更されるんダ。だから今日中にあのナンプレのを解いて、そのままここの石板にも、ナンプレが変更されないうちに同じように当てはめる必要があるってことだヨ」

 

 アルファ「噓だろ!?…よくベータテスト期間の間に解けたな…」

 

 キリト「まぁ、ナンプラー達も最後は、ヒント数字の配列を暗記して、ログアウトしてからそれを外部のプログラムに解かせて、それでまたログインしてきて…って感じで、禁じ手を使ったらしい」

 

 ダンジョンの内部とは言っても、最前線を生きる俺達からすれば屁でもないので、そんな適当な会話を交わしながら、再び第六層主街区へと舞い戻る。

 するとそこでは、七百二十八個のナンバープレイスを約百人で手分けした結果、一つ一つのナンプレが最高難易度であると言っても、洗礼されたナンプラー達には三十分もあればクリア可能らしく、ナンプレも残り百八十個とラストスパートに掛かっているようであった。

 

 ユウキ「ねぇ、ボク達も一個ぐらい解いてみようよ!」

 

 キリト「流石に四人で協力すれば、一つぐらいはクリアできそうだしな、やってみるか」

 

 残り百八十でラストを予感できる彼らに驚愕しつつも、ナンプレをやりたいという意思がその表情から溢れ出していたユウキさんがそこに居た。

 なのでナンプラー達から許可を得て、四人で一つのナンプレに取り掛かり始める。あーでもない、こーでもないと四人で議論し合いながら、実に一時間ほどかけて、ようやく一つのナンプレを俺達がクリアする頃には、残されたナンプレもあと僅かとなっていた。

 

 アルファ「ナンプラーってすげぇんだな」

 

 アルゴ「ナンプラーにとっちゃ、これが攻略みたいなものだろうからナ」

 

 そして程なくして、遂に七百二十八個のナンバープレイスを全てクリアすることに成功する。この日の為に多くのナンプラーが集っていたことからか、まだ時刻は午後九時と、零時までにはまだまだ余裕が残されていた。

 流石に、七百二十八個のキーナンバーとその枠のローマ数字及び色までを暗記することは不可能なので、彼らは多数の記録結晶を使用し、その情報をデータ化する。数多の記録結晶と高価な回廊結晶を惜しげもなく使ってしまうナンプラー達の意気込みからして、彼らの本気度がよくよく伺えた。

 

 ユウキ「じゃあみんな!今から回廊結晶を使うよ~!準備は良い?」

 

 「「おおっ!!」」

 

 いつの間にかナンプラー達を統率していたユウキが、転移門広場の中央でそう叫ぶと、ナンプラー達の力強い雄叫びが返って来る。ユウキが回廊結晶を展開し、それに倣って俺やキリトがゲートを潜ると、続けて後ろから沢山のナンプラー達が雪崩れ込んできた。

 安全地帯に辿り着くや否や、記録結晶に内蔵されたキーナンバーの情報を基に、次々と石板が嵌めこまれていく。俺、ユウキ、キリト、アルゴは、誤って彼らが安全地帯から飛び出してしまわないよう、安全地帯の端からその様子を眺めていた。

 

 「これがラストだッ!!」

 

 勢い良く叫んだ一人のナンプラーが、最後の石板を当て嵌めた!

 

 すると、石扉が淡い緑色の光を放ち、ゆっくりと動き始める!

 

 そして、一年半という壮絶な戦いの末に、彼らが見たものは──

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 リーファ「な、何が待っていたんですか!?」

 

 アルファ「……」

 

 いつの間にか、俺とユウキ、そしてキリトの語る冒険譚に夢中になっていた残りの面子の気持ちを代表するように、リーファが食い気味に訊ねてくるのを見て、やっぱりキリトに似てるんだなと、彼女がキリトの妹であることを思い知らされる。

 まるで彼らの期待を煽るように、一度言葉を区切った俺は、紅茶を一杯飲もうとしたが…気づけばティーカップが空になっていたので、代わりにクッキーを一つ口に放り込んで、それを咀嚼し飲み込んでから、遂に答えた。

 

 アルファ「……お宝なんて、無かったんだ」

 

 「「は!?」」

 

 その衝撃的な答えに、思った通り絶句した彼らをケラケラと笑いながら、キリトが俺の言葉を補足する。

 

 キリト「なんと扉の先にはまた、更に複雑なパズルルームが待っててさ。更にその先にも、また開かずの扉があったんだ」

 

 ユウキ「だから結局、誰も金銀財宝には辿り着けなかったんだよ~」

 

 アルファ「そしてその事実に気が付いたナンプラー達は、見事年半ぶりにパンツ一丁で踊り狂ったと、そう言う結末でございます」

 

 あの日のナンプラー達の狂乱振りを思い出し、あれは正しく地獄だったと俺が思わず苦笑していると、立て続けに今度はシリカが訊ねてきた。

 

 シリカ「で、でも、そのパズルをクリアすれば、また更に先へと進めたんじゃ…」

 

 アルファ「う~ん、どうなんだろうな?ナンプラーがあの部屋をクリアする前に、SAOがクリアされちゃったからさ。ナンプラー達の結末はブラックボックスなんだ」

 

 シリカ「そうなんですか…」

 

 ノーチラス「なら、ナンプラー達がその答えに辿り着くのは、まだまだ当分先なんだろうな」

 

 アルファ「あぁ、彼らがまた、ナンプラーの意思を引き継いでくれるだろ…」

 

 ふと、窓の外を見下ろすと、この世界でもナンプラーの名を受け継ぐことになりそうなプレイヤー達の姿が見えたので、今度こそは、是非ともあのパズル部屋をクリアして欲しいという期待を、彼らに心の中で祈っておくことにした。

 するとアスナが、頬を膨らませながら、俺、キリト、ユウキに告げる。

 

 アスナ「君たち、私が頑張ってる間にそんなことしてたんだ。流石攻略組の不良ね」

 

 ユウキ「そう言うアスナだって、ホラー系のフロアはサボってたんでしょ?アスナも半分不良みたいなもんだよ~」

 

 アルファ「もうその頃には、キリトの変なところがアスナに感化されてたんだろうな」

 

 キリト「おい、変なところとか言うな。好奇心と呼んでくれ」

 

 リズベット「あんたの場合は好奇心が行き過ぎてるのよ」

 

 アスナの売り言葉に、ユウキが買い言葉を返し、俺の一言でキリトが巻き込まれ、彼が弁解を図るも、リズベットに手厳しい一言を浴びせられる。そんな一連の流れに場に笑いが生じ、最早誰もが談笑モードであった。

 …だが、そんな中で唯一一人、今日の目的を忘れていなかったユナが、俺達に言った。

 

 ユナ「そろそろテスト勉強再開しないと、明日不味いんじゃない?」

 

 彼女の冷静な一言に、思ったよりも休憩し過ぎた俺達は、急いで勉学に励み始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回の投稿日は、二月一日の火曜日となります。

 では、また第122話でお会いしましょう!
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