~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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第122話 レッツ夏休み!

 リズベット「夏休みだぁ──っ!!」

 

 リズベットが大きな声を上げながら、左腕を強く天に掲げ、全身で歓喜を表現している。

 だがその場に集っている三名のプレイヤーのうち二名は、何処かげんなりとした表情を浮かべており、残りの一名は小さく拍手をするのみである。そんな三人の…特に、気怠そうな俺とシリカの対応に、彼女は大変不服そうな顔を向けてくる。

 

 リズベット「なによ、あんたたち。今日から夏休みだってのに、嬉しく無いの?」

 

 彼女が仰る様に、本日から帰還者学校に通う生徒は、夢の夏の長期休暇に突入するのだ。みんなであれこれ対策したお陰か、定期テストは誰も赤点を取ることなく、何とか乗り切ることに成功。

 意外だったのが、あんなに中学時代はアホの子だった俺が、現実世界に帰って来てからは真面目に勉強した成果が出たのか、成績が悪くはなかったのだ。3が付かない成績通知など、俺史上初である。

 なので、補講という憂いもなく、俺達は夏休みを思う存分満喫出来るはずなのだが…そう手放しに長期休暇を喜ぶことが出来ないのは、学生あるあるであろう。

 

 シリカ「だってリズさん…夏休みの課題が大量に出たじゃないですか…」

 

 アルファ「…そうだぜリズベット。あんな量の課題見たら、夏休みどころじゃねぇだろ」

 

 シリカの悲し気な呟きに、俺も呼応するように言葉を重ねる。…俺は、一般的な高校生に、どれだけの夏休み課題が出されるのかは知らない。

 だが、アレは余りに多過ぎると思う。いくら俺達が、同年代と比べて二年も教育が遅れているからとは言っても、流石にやり過ぎだ。あんなの毎日コツコツやらないと、絶対に後で痛い目見ることになる…え?夏休みの課題は毎日少しずつやるのが普通だって?んなもん知るか。出来れば三日ぐらいで終わる量にしてくれ。

 

 ユウキ「そんなに沢山課題出たの?」

 

 アルファ「あぁ、それはもう山が出来るぐらいに…そうだ、ユウキ──」

 

 ユウキ「手伝わないよ?ボクは別に良いけど、アルファの為にならないからね」

 

 アルファ「…そう、だよなぁ…」

 

 ──俺の宿題の半分、代わりにやってくれないか?そんなお願いをする直前に、俺の考えていることを察したらしいユウキに先手を打たれてしまった。

 …まぁ、俺だって、本気でユウキが手伝ってくれることを期待したわけではない…心の片隅でちょっとぐらいは期待していたけれども。結局、課題は全て自分でやり切らねばなるまいことが確定した俺は、短く息を吐いた。

 

 リズベット「よしっ、全武器フル回復したわよ!」

 

 と四人分の武器防具のメンテをしていたリズベットが、お疲れ気味にも元気よくそう言ってくれたので、俺達三人も彼女にお礼の言葉を述べてから、耐久値が復活し、新品同様の輝きを孕んだ武器やら装備やらを身に付けていく。

 現在、俺達が滞在している場所は、アインクラッドではなく、レプラコーン領の首都の中にあるリズベットの工房である。こちらの世界でも、変わらず生産職が得意な鍛冶妖精を選んだリズベットは、やはりこちらも相変わらず鍛冶屋を経営しており、ここはALOリズベット武具店ということであろう。

 最も、まだ身内以外に武器の販売はしていないようなので、今のところは武具店としては機能していない。ならば何故、商売を切り盛りしていないリズベットが、もう既に店を構えられているのかと言うと、レプラコーンは自らのテリトリーに限って、土地や建物を買うのではなく借りることが出来るのだ。それ故、まだまだ大金を持っていない彼女でも、自前の店を持つことが出来ているという訳である。

 そのうち新生アインクラッド第四十八層が開放されたら、またリズベット武具店を開くと豪語しているので、こちらの武具店が元祖、新生アインクラッドの武具店が本家にでもするつもりなのだろうか。

 

 シリカ「じゃあ、そろそろ行きますか?」

 

 リズベット「そうね。夏休み初日ぐらいは、宿題のことなんか忘れて遊びまくるわよ!」

 

 ユウキ「それって、計画がダメになる人のパターンじゃないの?」

 

 アルファ「大丈夫だ。ああ見えてリズベットは、ちゃんと勉強は計画的に出来るタイプだからな」

 

 リズベット「ああ見えてってどういうことよ。アルファはいつも一言多いのよ!」

 

 シリカ「私はすぐにサボっちゃいますから、私には厳し目でお願いします!」

 

 ユウキ「あはは~、じゃあボクも鬼になっちゃおうかな~」

 

 装備を整えた俺達は、街でポーション類の補給を済ませてから、目的地へと向けて飛び立ち始めた。夏休み初日だというのに、ALOに集ったメンバーがこんなにも少ない理由はかなり存在する。

 まず一つ目、終業式が終わってすぐに家にまで帰って来た俺達は、そのまま少しだけ時間を置いたのだが、それでもゲームを開始したのが午後三時半ぐらいで、エギルやクライン…あと、戦闘にはあまり参加しないがタイラ…は勿論、この時間帯は働いており、こちらには来られないということ。

 次に二つ目、キリトが、学校で週に一回受けることを義務付けられているカウンセリングとこの時間帯が被ってしまい、アスナはキリトを待ってから帰るということなので、二人も来られないということ。

 そして三つ目、ノーチラスとユナは、普段からこっちの世界で集まっているわけではないが、今日は誘ってみたところ、二人でデートするとのことなので、来られないということ。

 最後の四つ目、今年から高校に入学している直葉ちゃんは、強豪剣道部に入部しているので、終業式とは言えども、無論部活動に励んでいる。つまりは今は来られないということだ。

 そんなこんなで色々不都合が重なり、今日はこの四人だけがALOにログインしているという訳である。まぁそのうち、ノーチラスとユナ、大人共以外は確実にログインしてくるだろうから、そこからが夏休み本番といった所だろう。因みに、最近ディアベルはリアルが忙しくて、中々ログインする暇がないとキリトからは聞いている。

 

 リズベット「しっかし、アルファも随分と良い身分よね」

 

 アルファ「ん?どういうことだ?」

 

 リズベット「ユウキだけでも十分なはずなのに、追加で二人も女の子侍らせちゃってさ」

 

 アルファ「…ん?ユウキ以外に女の子なんてここに居るか?」

 

 シリカ「アルファさん、それは私も怒りますよ?」

 

 ユウキ「でも、目移りなんてしても怒るからね?」

 

 アルファ「八方塞がりじゃねぇかよおい」

 

 三人と共にそんな軽口を交えながら、しかし、確かによくよく考えてみると、男子一名に対して女子三名というこの状況は、ハーレムと言えなくもなく…いや、その内俺に好意を向けてくれているのは一名のみ…それで俺は充分なんだけどな。

 だなんてことを考えているうちに、やがて現在ノーム領の上空を飛行している浮遊城が見えてきた。新生アインクラッドは、初実装時に世界樹付近に現れて以来、新生ALOの上空を旋回しながら浮遊しており、今この時間帯にはノーム領の大空に浮かんでいたという訳である。

 ノーム領は万年雪の地方のようだが、夏の初めであるこの時期だと、これぐらいがちょうど良い涼しさとも思えた。空の旅も終わりを迎え、アインクラッドに辿り着いた俺達は、そのまま転移門を利用し、第七層へと移動する。

 

 アルファ「そんで、今日は七層に一体何の用なんだ?」

 

 リズベット「ちょっと手伝って欲しいクエストがあるのよ」

 

 シリカ「どんなクエストなんですか?リズさんが挑むってことは、鍛冶関連?」

 

 リズベット「イイ勘してるじゃない、その通り!」

 

 ユウキ「え?でも、そんなクエストがあった覚えはないんだけど…」

 

 リズベット「新生アインクラッドには、向かい風の道の先にある山岳地帯に一つ街が新設されてるのよ。だからユウキが知らないのも当然かもね」

 

 ユウキ「へぇー、あっち方面は行ったこと無いから、ちょっとワクワクしてきたかも」

 

 リズベット「それじゃあ張り切って、向かい風の道を進んで行くわよ!」

 

 街中を移動する間に、リズベットがここを訪れた理由を明らかにしていると、目の前に二つの門が現れる。

 数週間前とは違って今度は向かい風の道を選択した俺達は、追い風の道と比べると二倍以上の頻度でポップしてくるモンスター達と幾度も戦闘を繰り広げながら、小さな森を抜け、ゴツゴツとした岩肌を登り、山岳地帯へと足を踏み入れていく。

 …上空高く舞い上がり、空を飛んでしまえばそんな苦労をする必要も無いのだが、それだと面白くないということで、俺達はわざわざ徒歩で山岳地帯を突き進んでいた。

 

 ユウキ「なんだか、リズとシリカとこうやってフィールドに出る日が来るなんて、思いもしなかったよ」

 

 ふと、ユウキが足を進めながらそんなことを言うと、リズベットとシリカが即座に反応する。

 

 リズベット「そう?あの頃も何度か、鉱石の採掘に付き合ってもらったことはあるじゃない」

 

 シリカ「確かにリズさんの言う通りですね。でも私は、一緒にフィールドに出たというよりは…近くでボディーガードしててもらった感覚に近いですけど…」

 

 ユウキ「う~ん…そう言う意味じゃなくて、こう、なんだか新鮮って言うか…」

 

 リズベットとシリカの経験的な発言に対して、ユウキが抽象的な答えを返したその時に、ようやくユウキの言わんとすることを何となく理解できた気がした俺は、口を開いた。

 

 アルファ「要するに、あれだろ?今じゃ死ぬことなんて考えなくても、攻略組とか中層プレイヤーとか、生産職とか関係なく、みんなで楽しくフィールドを歩けるこの感覚のことじゃないのか?」

 

 ユウキ「そう!それだよ!いまボク、それを言いたかったんだよ!」

 

 アルファ「これはゲームであっても遊びではない、茅場晶彦はそう言ってたけどさ、今この瞬間は紛れもなく、これは遊びのゲームなんだろうな」

 

 俺の発言を聞いたユウキが、パッと表情を晴れさせたのを見て、確かに俺も、この穏やかで楽しくて、みんなで喜びを共有し合えるゲームが再び戻ってきたことに嬉しく思う気持ちを実感する。

 だがその一方で、あの決して遊びではないゲームだからこそ得られたものがあることもまた確かで、あの出来事をもう一度繰り返したいとは思わないが、今の俺を築き上げるためには無くてはならないものだったろうと、そう強く思える。

 

 リズベット「アルファって、頭はアタシよりも良くないのに、そう言う纏め上げる力はあるわよね」

 

 アルファ「頭がキレるってことなんじゃねぇの?」

 

 リズベット「自分で言っちゃお終いよ」

 

 リズベットからの皮肉の効いた褒め言葉はスルーしておいて、また襲い来たモンスターを四人で協力しながら蹴散らす。前方幾つもの山肌の合間に見えた街を見つけ、俺達もようやく目的地の中間地点に辿り着けるのかとホッとしていると、シリカが疑問気に呟く。

 

 シリカ「そう言えば、この世界はレベル制のシステムじゃないのに、どうしてアルファさんやユウキさんの方が上手く動けてるんでしょうか…」

 

 ユウキ「ん~…ボク達は、かなり戦闘慣れしてるからじゃないかな?」

 

 アルファ「それと…元々引き継いだSAOのデータが、レベルの高い俺達の方がより強く反映されたからだろうな」

 

 シリカ「なるほど…戦闘慣れってことですか…」

 

 リズベット「確かに、アタシにはアルファとユウキのコンビネーションに立ち入れる気がしないからね。アレは二人で完成されてるって感じで」

 

 アルファ「そんなん言ったらキリトとアスナもじゃないか?」

 

 シリカ「個人的には、アルファさん達の方がコンビネーションが洗練されていると思いますけど」

 

 ユウキ「ボク達はアスナ達よりも長い間コンビを組んでるからね。当然と言えば当然かな」

 

 街が目の前に迫って来るまでに、シリカの疑問解消からいつの間にか俺達のコンビ力の話へと話題が転換していったのだが、何故かユウキは勝ち誇ったような表情で、満足気にアスナに対する優位性を示している。俺個人としても、キリトとアスナにユウキとのコンビネーションが負けている気はしないが、こればかりは直接対決でもしてみないと分からないだろう。

 遂に到着した街の宿屋を訪れ、そこで一旦小休憩を挟んでから、リズベットに案内されて町の一角でクエストを受諾する。内容は端的に言うと、「この街の北部にある洞穴には、美しい水晶が生えているから、それを過不足なくキッチリ三本採掘してきて欲しい」という採掘系および収集系のクエストであった。

 クエストの依頼主である魔導士然としたおじいちゃんが、「過不足なく」という点を口酸っぱく強調してきたことが気になるが、兎に角洞穴に向かおうと、俺達は街を飛び出した。

 

 リズベット「山ってなんだか夏っぽいわね~」

 

 ユウキ「今から行くのは洞窟だけどね」

 

 アルファ「しかもこの山、全く緑がないしな」

 

 シリカ「夏っぽさは感じられませんね~」

 

 リズベット「…そこまで言っちゃう?流石にアタシも悲しいんだけど?」

 

 俺達三人から浴びせられた鋭い発言に、リズベットは苦笑いしながらも、きっちり随意飛行で翅を動かし続けた。リズベット以外の俺達も皆、随意飛行をマスターしており、補助コントローラーを使用する気配はない。

 リーファによると、なんでもこの随意飛行というの物は、普通のVRMMOプレイヤーであれば一年プレイしていても出来ない人もいるような高等テクニックらしいが、二年間も仮想世界で生活し続けた俺達にとっては、かなり簡単にそれを成功させることが出来たのだ。如何やら元SAOプレイヤー達は、アバターの筋肉の動かし方が上手いらしい。

 この道中までは徒歩で冒険してきた俺達も、どうせ洞窟内はダンジョン扱いとして飛行禁止区域となっているだろうからといった理由で、今は空を飛んでいる。歩けばニ十分ほどは掛かりそうだった道のりも、空を飛べばものの数分で突破に成功し、俺達は洞穴手前で翅を仕舞った。

 

 ユウキ「じゃあ、ダンジョンに入る前に魔法掛けるね!」

 

 そう言ったユウキが、元気よく魔法のスペルを唱えると、俺達の視界に、暗視バフが表示された。これはスプリガンお得意の魔法で、パーティー全員に暗視スキルと同等の効果を与える優れものだ。

 これによって光源を携えずとも、闇の深い洞窟内で視界を機能させられるようになった俺達は、洞窟内に勇み足を向けた。

 リズベットの話によると、目的の水晶はダンジョンの奥地にしか生成されないらしいので、俺達は襲い来るモンスターを捌きながら、徐々にごつごつとした洞窟内部を突き進んでいく。

 

 アルファ「荒れ狂う突風よ、彼らを斬り刻め!」

 

 一体一体の強さは恐るるに足らないが、何せ奴らは、常に十数匹の大群でプレイヤーを襲ってくる。そんな洞窟内に出現するモブの定番とも言える、コウモリ型モンスターを一掃するために、俺は風魔法を詠唱し、中位の竜巻魔法を繰り出した。それを直撃したコウモリ共は一様にポリゴン片へと変化し、戦闘が終了する。

 …全く、SAOの頃は、このコウモリ系モンスターから怒涛の連携攻撃を喰らい、スタン状態に陥らないように常に動き回りながら目まぐるしく戦場を駆け巡る必要があったというのに、今となってはこうして、魔法一つで簡単に解決出来てしまう。

 そりゃあこんなに便利なものがあれば、ALOプレイヤーの多くが接近戦を苦手分野としてしまうのも理解はできる。何せ、面倒臭い奴らは全て魔法で解決すればいいのだから。

 この爽快感は病み付きになりそうだが、あの頃の洗礼された動きを失いたくない俺としては、やはりモンスターに囲まれている状況で、接近戦を辞めることは無いのかもしれない。それに、接近戦で戦い抜くあの一騎当千感も、かなりの爽快感と緊張感を得られるからな。

 

 シリカ「アルファさんは、すっかり魔法詠唱が板についているんですね」

 

 アルファ「まぁ、魔法使うのめっちゃ楽しいしな」

 

 リズベット「じゃあメイジにでもなるつもりなの?アタシらの中じゃ、魔法を積極的に使うのはリーファとアスナとユナぐらいだし」

 

 アルファ「流石に後衛職に染まり切るつもりはねぇけど、リーファみたいに前衛主体のサブで魔法も使える…魔法剣士?みたいな感じになりたいとは思っているぜ」

 

 良く集まるメンツの中だと、リーファ以外が全員元SAOプレイヤーで構成されているわけで、あの頃の感覚が染み付いてしまった彼らは勿論、物理攻撃特化のビルドを構築してしまったこともあり、魔法職という存在に飢えていることは間違いないだろう。

 故に俺も、ユウキと共に本格的にALOを始めるに当たって、出来るだけ魔法を覚えるよう努めてはいるのだ。だがそれでも、やっぱり俺も接近戦がしたいので、前衛職は辞められない。これは最早、半分ぐらい職業病みたいなものなのだろう。

 彼らも魔法を使えないわけでは無いのだが、やっぱり接近戦主体の闘い方をしているし、治癒師みたいな支援魔法をよく覚えているのはアスナとユナなのだが、ユナは非常勤だし、そもそも治癒魔法や補助魔法を得意とする種族を選んだ奴らが少ないこともあって、やはり後衛職は足りていない。

 俺の選んだ風妖精は、攻撃魔法と補助魔法のどちらもがそれなりに使えるのだが、ユウキの選んだ影妖精は、どちらかと言うと妨害魔法が得意な上に、彼女がトレジャーハント関連の魔法にばかり興味を示しているので、魔法職としては当てにならないだろう。

 これまでダラダラと色々書いてきたが、要するに、俺は皆から勝手に押し付けられた期待を背負っているのだ。そんな俺が目指すのは、リーファのような剣士主体の魔法使い。アスナのようにスタッフを持つつもりは、今のところは無いが、剣を持ちながらでも発動できる魔法については網羅するつもりである。

 

 アルファ「ユウキも補助魔法とか覚えたらどうなんだ?」

 

 ユウキ「ん~…お宝探しの為の魔法ならね?」

 

 一応ダメ元でユウキに訊ねてみるも、やはり彼女は後衛職に回るつもりは無いらしい。…まぁ、ユウキの超絶反応速度に基づいた剣技は魔法を上回りそうなので、それでいいのかもしれないが。

 それに、もしユウキが回復魔法やら補助魔法やらを覚えるとなると、彼女の装備はスタッフ固定されてしまうので、彼女の持ち味を生かせなくなる恐れも出てくる。

 それはどういうことかと説明すると、各種族には、それぞれ得意な魔法系統及び魔法属性という物が定められており、得意な魔法であれば、魔法触媒となるスタッフを装備せずとも、上位魔法の一部以外は使用できると言った具合だ。

 例えばクラインが選んだ火妖精あれば、得意な系統は攻撃魔法、属性は炎であり、若干苦手な系統は回復魔法。俺の選んだシルフであれば、得意な属性は風と雷、系統は攻撃魔法並びに補助魔法の一部、更には回復魔法の一部までを含むが、その代わりに妨害魔法は完全な苦手分野となる。

 そしてユウキの選んだスプリガンは、得意な属性は特に無く、系統は探知魔法などのトレジャーハントに特化した補助魔法の一部だけとなる。故にユウキは、魔法を覚えたがらないということなのだ。

 俺は種族をかなり適当に選んでしまったのだが、魔法職に欠ける彼らからすれば、それは最良の選択であったのかもしれない。

 

 シリカ「なら、もう魔法スキルの熟練度もかなりあるんですか?」

 

 アルファ「いやいや、それはまだまだこれからだな」

 

 そして最後に、SAOに無くてこちらの世界にはある魔法スキルという物について説明しておこうと思う。

 とは言っても、それ程説明することは無く、魔法スキルという物は、魔法を使いたいプレイヤーが魔法を使うことで熟練度が上昇していき、ある一定の熟練度に達する度に、使える魔法の段階的に開放されていくというものである。

 また、魔法スキルには、風魔法や土魔法など、それぞれ属性ごとに分けられているので、一つの魔法スキルの熟練度さえ上げてしまえば、他の魔法もバンバン使えるようになるわけではない。

 因みに俺が鍛えているのは、シルフが得意とする風魔法と雷魔法のスキルである。

 

 ユウキ「あ!水晶ってあれじゃない?」

 

 とまぁ、楽しく会話をしながら洞窟を進んでいると、ユウキが指差す方角に、水色に輝く半透明の大きな水晶が現れた。何故かは分からないが、水晶自体が淡く発光しているらしく、その美しさはアインクラッド冒険歴の中でも、中位ぐらいには入って来るであろう。

 

 シリカ「綺麗ですね~」

 

 ユウキ「そうだね~」

 

 アルファ「シリカも光り物好きなのか?」

 

 シリカ「はい!勿論です!」

 

 リズベット「ほ~ん、アルファの話し方からして、ユウキが光り物好きなことは知ってるんだ~」

 

 アルファ「…無駄口叩く暇あるなら採掘しろ」

 

 リズベット「はいはい……しっかし綺麗ね…こんなに沢山あるんだったら……」

 

 俺の些細な言葉を聞き逃さなかったリズベットが、意味ありげな笑みを浮かべて俺を見てくるので、俺も呆れながら返事を返し、綺麗な水晶とその結晶をキラキラした表情で眺めているユウキをも眺めておく。

 …まぁ、ユウキは多分宝石とかネックレスとか、そう言うのも好きなんだろうけど、一番に好きという訳ではないことは、既にあの頃から把握済みだ。

 そんなことを考えている間に、リズベットが採掘を終わらせたらしいので、俺達は再び洞窟を引き返し、その頃には夜になっていたフィールドを羽ばたきながら街へと舞い戻る。

 

 ユウキ「さ、クエスト終わらせちゃおうよ」

 

 シリカ「そうですね~。ちょっと一回ゆっくりしましょう」

 

 アルファ「そうだな。一回トイレ休憩とかも挟みたいしな」

 

 リズベット「そ、そうね…」

 

 俺達の意見も満場一致ということなので、取り敢えず目的のクエストは終わらせてしまうことにした俺達は、再び依頼主のおじいちゃんの所まで戻った。そして老人にリズベットが話し掛け、これでクエストが完了すると思ったのだが……

 

 「過不足なくとワシは言ったはずじゃ!お主のような不届き者などもう知らんわ!!」

 

 ……何故かリズベットは、おじいちゃんにかなり捲し立てられてしまった。クエストが失敗表示に移行し、俺達はポカンとしてしまう。

 

 シリカ「リズさん、何かあったんですか?」

 

 ユウキ「何かクエストの見落としがあったのかな~?」

 

 リズベット「え、ええっと…」

 

 純粋にクエスト失敗を不思議そうにしているユウキとシリカを見て、少し焦ったような表情を浮かべたリズベットに気が付いた俺は、彼女に詰め寄る。

 

 アルファ「おいリズベット、お前なんか心当たりあるんだろ?」

 

 リズベット「!?」

 

 アルファ「顔に出てんだよ。ほら、白状したらどうだ?」

 

 さて、彼女は一体何をやらかしたのか、それを詰問すると、リズベットは申し訳なさそうに苦笑いしながら、それを実体化させる。

 

 リズベット「……三本って言われてた水晶、四本採掘しちゃった。…あんまり綺麗だったからつい、ね?」

 

 「「……」」

 

 リズベット「クエストのクーリングタイムは一週間らしいから、また一週間後にお願いしてもいいかな…?」

 

 如何やらリズベットは、あの水晶の魅力に惹き寄せられ、そして欲に溺れたらしい。そんな彼女らしい失敗と、一週間後にもう一度この手伝いをしなければならないという事実に、俺達は浅いため息を吐き出す。

 

 アルファ「しゃーなしで良いけど…その代わり奢りな?」

 

 シリカ「そうですよ、リズさん。これは奢りです」

 

 ユウキ「何奢ってもらおっかな~。豪勢にステーキとかにしようかな?」

 

 リズベット「驕った結果がこの奢り…なんつって?」

 

 「「……」」

 

 彼女の全く笑えない寒すぎるジョークを聞いて、俺達は今度こそ何も言えなくなった。…だが、夏ということもあって、そんな寒さも良いんじゃないかと、そんな呆れを通り越した感心が、俺の心の何処かには芽生えていたのだった。

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 今日からみんなの夏休みが始まるということもあって、ALOの世界は夜になると、普段よりも一層騒がしかったように感じる。

 あの後は、宿屋でちょっとだけ夏休みの課題をしてから、その内にこっちにログインしてきたキリトやリーファやアスナと共に新生アインクラッドの最前線を冒険したり、更に夜になると、クラインやエギルがログインしてきたので、その場に居合わせたプレイヤー達と協力して、フィールドボスに挑戦したりと、エネルギッシュで楽しい時を過ごした。

 そして、いい時間だから今日はもうお開きにしようということになって、ボク達はそこで解散したのだけれど、ボクとアルファはいつも通り、宿屋に戻って一度就寝準備のためにログアウトしたとは言え、すぐにこちらに戻って来た。

 アルファよりも一足早くこちらに戻ってきたボクは、彼がこちらに戻って来るや否や、すぐにその身体に飛び込んだ。

 

 ユウキ「アルファ~…好き~」

 

 アルファ「随分といきなりだな」

 

 ユウキ「みんなの前だとこうはいかないからさ~、二人になったら甘えたくなるの!」

 

 アルファ「…それもそうか」

 

 突発的なボクの抱き着き攻撃に、アルファは少々驚いていたが、すぐにボクを優しく包んでくれた。人前では一応抑制出来ているはずのこの気持ちも、二人きりになるとどうしても歯止めが利かなくなっちゃって、ボクはすぐに彼を求めてしまう。

 

 ユウキ「アルファ、キスして欲しいな?」

 

 アルファ「分かった」

 

 ユウキ「ん…」

 

 ボクがこうして彼を求めると、アルファは必ずそれに応えてくれる。お互いに身体を抱き締め合いながら、深いキスを交わしていると、ボクの全身が多大なる幸福感に包まれる中で、制御不能になりかけていた気持ちが徐々に解放されていき、また彼を求める。

 

 ユウキ「……アルファ、今日もしよ…?」

 

 アルファ「…」

 

 ユウキ「…アルファ?」

 

 アルファ「…おう、分かった」

 

 ボクが夜の営みを求めると、アルファは一瞬迷ったようにボクの言葉に応えてくれなかった。

 …もしかしたら、嫌だったかな?そんな不安感を少しだけ覚えたけれど、彼はすぐに、ボクが求めている行動を取ってくれた。段々とその行為に近づいて行く中で、ボクの中に芽生えたそんな気持ちは、何処かへ溶けていく。

 …なんだかんだで初めてのあの日から、ボク達は週に五回は夜の営みをしている気がするなぁ…だって、好きな人と気持ちを共有するこの快感を味わっちゃったら、こんなの辞められる訳がないよ…。

 すっかり夜の営みの魅力に憑りつかれてしまったボクは、今日もアルファとベットの上で絡まり合いながら、彼がボクのことを求めてくれているというその幸せを味わい続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回の投稿日は、二月三日の木曜日となります。

 では、また第123話でお会いしましょう!
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