~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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第125話 extra edition 後編

 アルファ「今からそっち行く、っと」

 

 ALOにログインするや否や、キリトから届いていた「俺達はもう着いたぞ」との一本のフレンドメッセージに対する返事を送ってから、俺も行動を始めることにする。

 菊岡さんの実に七時間にも及ぶクソほど長い事情聴取が終わったあの後、俺はサッサと家に帰ろうとしていたのだが、駐輪場に向かうと、そこにはアスナ、リズベット、シリカ、直葉ちゃんがそこには居た。

 そこでようやく、俺は彼女たちが今日、ここで水泳の練習をしていたことを理解したわけだ。なんだか、四人に向けられる視線が妙にこそばゆかったが、何故そんな視線を向けられたのかは俺にも余り分からない。

 その際に、用意していたらしいお昼ご飯の残りということで、アスナが俺達に美味しそうなサンドを差し出してくれたのだ。

 結局、あの場で口に放り込めたのはチョコ系のお菓子だけで、お昼ご飯らしいものは何も食べられていなかった俺とキリトは、途端に空腹を思い出し、それにあり付こうとしたのだが…残念ながら、それは一つしかなかったのだ。

 …まぁ俺も、アスナが誰のためにお昼ご飯を用意したのかは分かっている。なので泣く泣くキリトに食物を得る権利を手渡し、俺はすぐにその場から去った。

 …別に、俺だってユウキに作ってもらえばいいし…って言うか自分で作れるし。しかし、今から晩御飯を作り始めると、キリト達との約束に間に合わない気がしたので…と言うのは嘘で、やる気を出せば何とか間に合わせられただろうけど、ちょっともう今日はそんな気力が無くて、帰りしなに適当な外食店で夜ご飯を済ませてしまってから、俺は家に到着した。

 すると案外時間が空いてしまったので、もうお風呂に入ってしまおうかなと入浴まで済ませていると、ちょっと時間に追われ始めたという訳だ。別にまだ遅刻するほどではないが、それでも俺は急ぎ目に飛翔している。

 如何やらユウキは、先にアスナ達と現地に向かったらしい。今日の集合場所は、アルヴヘイム南西海上に浮かぶトゥーレ島なる諸島である。

 領地的にはシルフ領に位置しているが、何せフィールドの端っこにあるのだ。この地を訪れるプレイヤーは殆ど居らず、故に、俺の目の前に見えた焼けた肌がよく似合う男が、彼であるとすぐに気が付いた。

 

 アルファ「よお、エギル!」

 

 エギル「おう、誰かと思えばアルファか」

 

 アルファ「エギルもトゥーレ島に向かってるんだろ?」

 

 エギル「あぁ、一緒に向かうとするか」

 

 あの頃と全く変わらないそのアバターは、彼の選んだ土妖精という種族に良く似合っていた。

 …まぁ、SAOのデータを引き継げるわけだから、例えばエギルが音楽妖精やら水妖精やらを選んだら、その種族でその巨漢アバターを有することに成功したのだろうが…脳筋タンクのエギルが、魔法やら音楽やらをメインに闘うところは想像出来ない。ドワーフのような筋肉至上の種族がピッタリだろう。

 南西ということもあって、非常に暖かい空を舞いながら、俺はエギルと目的の島を見つける。島の中央部からは鳥や虫たちのさざめきが聞こえてくるが、砂浜の方に、一つのパラソルが設置されていることに気が付き、そこ目掛けて一直線に、俺達は砂浜へ降り立った。

 

 クライン「キリトよぉ、俺は今日ほどALOの時間が現実と同期してなくて良かったと思った日はねぇぜ」

 

 キリト「リアルは、もう夜だからなぁ」

 

 クライン「やっぱ海はこうじゃなきゃよ!青い空…」

 

 キリト「白い砂浜…」

 

 クライン「寄せて返す波…」

 

 キリト「眩しい太陽…」

 

 クライン「そして──」

 

 エギル「よお、お待たせ」

 

 キリト&クライン「…」

 

 アルファ「…なんだ?ラグってんのか?」

 

 キリト「それは俺の持ちネタだぞ」

 

 キリトとクラインは何かを熱心に語り合っていたようだが、エギルと共に二人の目の前に降り立つと、何故か二人は目をギョッとさせて、そのまま固まってしまった。

 なので俺が一つ声を掛けてみると、キリトがすぐに反応を見せてくれた。如何やらシステム的なラグではなく、セルフ的なものだったらしい。…と言うか、これキリトのネタなのか?多分万国共通のツッコミじゃねぇの?

 

 クライン「…アルファよぉ、オメェいつまでそんな格好してんだ?」

 

 アルファ「ん?」

 

 クライン「折角ビーチに来たってのによ、なんで海パン履いてないんだってことだ!」

 

 アルファ「…あぁ…そういやそうだな」

 

 クラインの言わんとすることが最初は良く分からなかったものの、彼にそう言われてようやくそのことを理解した俺は、言われるがままに装備変更を行い、緑色の水着を纏った。

 もう現実世界は夜だというのに、こっちの世界はまだまだ昼が始まったばかりで、サンサンと降り注ぐ太陽が、透き通った水面に青く輝く大空をキラキラと反射している。

 そんな浜辺には、リズベットとシリカ、そしてユイちゃんが飛沫の掛け合いっこをしていて、その少し手前では、アスナとリーファが談笑していた。そして、アスナとリーファの近くで海にぷかぷかと浮かんでいる彼女は…。

 

 エギル「──おい、聞こえてるか、アルファ」

 

 キリト「完全にラグってんな、コイツ」

 

 アルファ「ラグってねぇって」

 

 クライン「どうせユウキちゃんに見惚れてたんだろ?」

 

 アルファ「…」

 

 エギル「図星かよ」

 

 …なんだよ。見惚れて何が悪いんだ。どうせテメェらも、女の子の水着姿見れて嬉しいんだろ?と抗弁しつつも、それは心の中で終わらせておく。今は連中との会話のキャッチボールを交わすことよりも、ユウキの水着姿をこの目に焼き付けることに集中したい。

 何せ、好きな人の水着姿を見られるのは、一年を通してもこの時期だけ、しかも海やら湖やら川に用がなければ、下手すりゃ一年を通してその姿を拝めないだなんてことにもなりかねない。ならば、その姿に見惚れるのも当然だろう。みんなと楽しく海で遊ぶのに夢中なのか、ユウキがこちらに気が付く様子はなかった。

 

 クライン「まぁ、アイツは一旦置いておいて…おいキリト、マジなんだろうな?ここのクエストにクジラが出てくるって話。ユイちゃんすっげぇ楽しみにしてたぞ?これでクジラじゃなくて巨大クラゲだったりクリオネだったりしたら、シャレになんねぇぞ」

 

 クラインの言葉を聞いて、俺は本日、わざわざマップの隅にあるトゥーレ島を訪れた真の目的を思い出した。ユウキの水着姿を拝むというのも一つの目的ではあったのだが、その他にも…というかこちらがメインである。

 それとはつまり、クジラを見たいと望むユイちゃんの願いを叶える為なのだ。俺達が今から挑もうとしているクエストの名前は<深海の略奪者>。なんでも、最近新たに見つかったクエストの一つらしく、その所在地はなんと、水面から百メートルも下にある海底ダンジョンだとか。

 

 キリト「巨大クリオネなら、ちょっと見て見たいけどなぁ…エギル、なんか情報あったか?」

 

 エギル「いやそれがな、なんせこんなワールドマップの端っこにあるクエストだから、知ってる奴自体少なくてなあ。ただ、クエストの最後にどえらいサイズの水生型モンスターが出てくるって話はマジらしい」

 

 クライン「お!そりゃ結構期待できるんじゃねぇの!よっしゃぁ!今日は頑張ろうぜ!」

 

 この世界にやって来ても、エギルのコミュニケーション能力の高さは勿論健在のようで、彼の多くの知り合いから聞いた話によると、クジラをお目に掛かれるチャンスも十分にあるようだ。

 …もし、その噂の巨大水生型モンスターがメガロドンみたいな奴だったら、B級サメ映画のような展開になったりするのかもしれない…それは、流石にスリリング過ぎて嫌だけどな。

 水着女子の姿を眼に収められたからか、やけに気合いの入ったクラインが、ビーチチェアーから勢いよく飛び跳ねると、ビーチボールで遊んでいる彼女たちに向かって大きな声で呼び掛ける。

 

 クライン「皆さ~ん!そろそろ出発の時間ですよ~!」

 

 アスナ「はーい!今行きまーす!」

 

 クライン「…うぉ…」

 

 クラインの呼びかけに答えたアスナ達が、波打ち際からこちらへと並んで歩いて来る。クラインが漏らした感嘆の声聞いて、恐らく彼が今頃鼻の下を伸ばしていることに違いないことを確信するも、今の俺にクラインを見ている余裕などなく、それは想像の域を出ない。

 右から順に、アスナ、リーファ、ユウキ、シリカ、リズベットの五人の水着姿を正面から改めて眺め、俺は思わず呟いた。

 

 アルファ「…大…特大…小…極小…大…」ボソッ

 

 エギル「…お前、それ聞かれたらどうするつもりなんだ」

 

 アルファ「つい、な…まぁ、大丈夫大丈夫。ここからじゃ聞こえない──」

 

 キリト「ユウキー、アルファの奴、ユウキの小さいとか言ってるぞ~」

 

 アルファ「おまっ!?」

 

 聞こえなかった筈なのに!?なんで急に裏切るんだよ!?

 

 キリトがニヤニヤしながら放ったその一言によって、俺は夢の楽園から一気に断崖絶壁の窮地へと追い込まれる。

 俺とキリトの男と男の友情に亀裂が生じたことを気に掛ける暇もなく、俺はその場から逃げ出そうと翅を広げようとするが…いつの間にか、彼女はバカみたいな超スピードで俺と距離を詰めていた。そしてそのままニッコリと絶対零度の笑顔を張り付け、俺に訊ねてくる。

 

 ユウキ「うん、何が小さいのかな?」ニコッ

 

 アルファ「い、いえ…」

 

 ユウキ「そんなに小さいのが不満かな?」

 

 アルファ「滅相もございません。…どっちかというと小さいほうが好きです」

 

 ユウキ「…うわ~…」ジト~

 

 アルファ「なんでだよっ!?」

 

 何が小さいのか、そんなこと面と向かって答えられるわけが無い。小さいのが不満か、そんなわけが無いだろう。寧ろ満足していますと、その旨を伝えると、今度は軽蔑したようなジトッとした視線を向けられる。

 じゃあ大きい方が好きだとでも言えばよかったのか!?絶対ダメだろうなぁ!?じゃあ、中ぐらいが正解なのか!!…いや、どっちにしろ結果は変わらないだろう。

 とまぁ、焦りを募らせていた俺に、彼女はこれまでのやり取りは遊びであったと言わんばかりにクスクスと笑ってから、もう一つ俺に訊ねてくる。

 

 ユウキ「じゃあ、代わりに一つ聞いてもいい?」

 

 アルファ「なんだ?」

 

 ユウキ「水着のボクは、どうかな?八百字以内で感想を述べよ!」

 

 俺の前でふわりと一回転した彼女は、俺を指差しながらそれを要求してきた。なので俺も、少しばかり真剣に答える。

 

 アルファ「…最初は、ユウキらしい可愛い目の水着を選んだんだなって思ったけど…その、ホルターネックの感じが大人っぽくて、ギャップ萌えしたって言うか…」

 

 ユウキ「えへへ~…ありがと。そう言ってもらえると、ボクも嬉しいよ」

 

 アスナ「ごちそうさまでした…」

 

 改めて、ユウキが身に纏う水色をしたビキニよりのタンキニを眺めて、俺は思ったままの気持ちを率直に伝えた。するとユウキは照れ笑いしてくれるので、これは正解だったなと俺も微笑んでいると、近くからいつの間にか通常装備に戻っていたアスナが、生暖かい目を向けながら、そんなことを言って来る。

 その時、俺の頭に天啓が落ちてきた。今日一日でざっくりと二年間の記憶を整理したせいで、そんなことはとっくに忘れていたが…キリトとの友情が失われた今、最早それをアスナに伝えることに、俺は一ミリの躊躇さえなかった。

 

 アルファ「そうだアスナ。今日キリトの奴、美人のカウンセラーに見惚れてたぞ」

 

 キリト「アルファ!?」

 

 アルファ「なに、お相子だろ」

 

 アスナ「キ~リ~ト~く~ん?」

 

 キリト「ち、違うんだアスナっ!!これには深い訳があって──」

 

 一転して、今度は自分が追い詰められることになったキリトは、氷点下の笑みを向けてくるアスナに対してタジタジになりながら弁解を図っていたが、もう彼がどうなろうとも知ったことではない。宇宙諸共消し飛んでくれ。

 そんなキリトの様子を眺めながら、これからのダンジョン攻略のために、俺とユウキが通常装備に移行する頃には、キリトも何とかアスナを落ち着かせることに成功したようで、皆の中心に立って話し始めていた。

 

 キリト「えー、僭越ながら、今日は俺がパーティーリーダーを務めさせてもらいます。クエストの途中で、目的の大クジラが出てきた場合は、俺の指示に従ってください」

 

 「「はーいっ!」」

 

 キリト「このお礼は、いつか精神的に。それじゃみんな、頑張ろう!」

 

 「「おーっ!」」

 

 キリトの言葉に、女性陣は元気よく返事をして、彼に続いて空を舞い始めた。最後にエギルがその場を飛び出したのを見送ってから、俺も飛び立つ…前に、砂浜で涙を流すクラインに近寄るとする。

 

 アルファ「クライン、いつまで泣いてんだよ」

 

 クライン「だってよお…折角今日一日は水着姿が見られると思ったのに…こんなのあんまりだぜ…」

 

 アルファ「ほら、行くぞ」

 

 クライン「ちきしょう…」

 

 そうして、項垂れるクラインを拾った俺は、彼らの後を追い掛けながら、コバルトブルーに染まった深い海を目下にぐんぐんと移動を続けていく。やがて皆が止まったかと思うと、クラインがクエストの発端になりそうなエリアを見つけてくれたので、いざ海底ダンジョンに突入する準備を整える。

 

 アスナ「それじゃあ、ウォーターブレッシングの魔法掛けるね」

 

 そう言ったアスナが、眼を閉じながらスペルを唱えると、俺の視界に泡のようなエフェクトが表示され、視界に見える体力バーの右端に、水中呼吸バフが付与される。このバフさえあれば、水中の中でも地上と同じように呼吸が可能となり、窒息によるダメージ及び死亡の心配がなくなるという優れものである。

 この手の水中活動系の魔法はウンディーネの専売特権なので、このメンツで使えるのはアスナだけである。キリトを皮切りにして、次々に水中へと飛び込んでいく皆に続いて、俺も迷わず海の中へ飛び込んだ。

 こんな大海原のど真ん中で、海に自ら飛び込もうなど、現実世界では考えもしないだろう。翅があるからこそ、こんな無茶が出来るのだ。水の中とは言っても、アスナの掛けてくれた補助魔法のお陰で、眼に海水が染みることは無いし、息が出来なくなることも無い。

 如何やら本当に水が苦手だったらしいリーファが、まるで溺れたように身体を藻掻かせていたが、それはアスナとユウキの手助けによって、何とかなったようだ。

 

 ユウキ「大丈夫だよリーファ!アスナの魔法があるから、水の中でも呼吸できるよ!」

 

 リーファ「…」コクコク

 

 そうは言われても、中々苦手なものには慣れられないのが現実だ。リーファは相変わらず頬に空気を溜め込んだまま、アスナとユウキの誘導に従って水中を泳いでいく。

 流石に水深百メートルとなると、太陽の光が届かなくなってきて、夜の暗闇とはまた違った、海の全てを飲み込むような漆黒色が色濃く表れてきた。…もし、ここで水生型ゴーストでも出現したら…いや、そんなことを考えるのは辞めておこう。

 …もうずっと前に、人魚の国で目の当たりにした、水中呼吸のお呪いを欲していたあの頃が懐かしな。こうしてその魔法が使えるようになった今の俺を、当時の俺が見たらどう思うだろうか…と余り考えなくてもいいようなことを思い浮かべながら、水の中を突き進んでいく。

 そして海の奥深くに、太陽とは違った白い光が現れた。その光に囲まれるように現れたダンジョンは、まるで海底遺跡だとか、海底神殿と言ったような雰囲気を醸し出している。

 

 シリカ「わぁ…凄い…」

 

 リズベット「あそこに誰かいるわよ!」

 

 リズベットの指差す方角を見ると、確かに海底神殿の入口へと続く一本道の頂点には、何か人影が見えていた。…俺達以外にも、ここのクエストに挑戦しに来た奴らが居たのだろうか。そう思った俺達は、その人影の近くにまで接近してみる。

 

 エギル「…クエストNPCみたいだな」

 

 クライン「海の中で困ってる人とくりゃ、人魚と相場が決まってるぜっ!マーメイドのお嬢さーん!今助けに行きますよ~!」

 

 そう意気込んで、颯爽とお嬢さんの元にまで泳いで駆け付けて行ったクラインは、白い髪を靡かせる後姿のNPCに声を掛けた。

 

 クライン「何か、お困りですか。お嬢さん…んんっ!?」

 

 がしかし、その正体は──

 

 ユイ「お嬢さんじゃなくて、おじいさんでしたね」

 

 アルファ「今日のクラインは、一段とアテが外れてるな」

 

 ユイちゃんの冷静な分析の後に俺が繰り出したツッコミ兼ボケに、いつものクラインならば「一段とってどういうことだよ!」との返事を返してくれるはずなのだが、彼はどうやらラグってしまったようだ。おじいさんに手を差し伸べたまま、硬直してしまっている。

 

 キリト「どうしました、ご老人」

 

 「おおっ!地上の妖精たちよ。この老いぼれを助けてくれるのかい?」

 

 キリト「はい、勿論」

 

 クエストを引き受けたらしいキリトが、パーティーを代表しておじいさんと受け答えを始めてくれた。

 

 「え実は、古い友人への土産物をこの神殿を根城にしている盗賊共に奪われてしまってのぉ。ワシの代わりに取り返してはくれんかのぉ」

 

 キリト「任せてください」

 

 「いやあ、有難い有難い。土産物は、これぐらいの大きさの真珠なんじゃが…」

 

 リズベット「でかっ!?」

 

 シリカ「ネコババして売り飛ばしたりしちゃあ駄目ですよ?」

 

 リズベット「しないわよ……今回は…」

 

 アルユウ「「あはは…」」

 

 老人が身振りで示してくれた、老人の身体の胴体程を占めるその大きさに、現金な反応を示したのはやはりリズベットだ。

 俺達四人が、リズベットの欲望に振り回されたあの日の悲劇を思い出したらしいシリカに、事前にお咎めを喰らったリズベットは罰の悪そうな顔を浮かべる。

 …実はあの後、リズベットが手に入れた余分な水晶を売り払おうとしたのだが、結局百ユルドほどの価値にしかならなくて、リズベットの奢り代にすらならなかったことを思い出し、俺もユウキもまた苦笑いを浮かべてしまう。

 

 「よろしく頼むぞ。妖精たちよ。見事真珠を取り戻してくれれば、たっぷりと礼をするでのお」

 

 キリト「えっと、どうやら探し物系クエストみたいだけど、神殿の中にはモンスターも出てくるはずだ。前衛は、水中戦闘だと武器の振りが遅くなるから気を付けてくれ。後衛は、雷属性の魔法が使えないことに注意」

 

 「「おおっ!」」

 

 キリトの伝えるべきことは伝えつつも手短に終わらせるという的確な指揮に、俺は一人舌を巻いていた。

 …コイツはなんだかんだで、リーダーシップ能力が高いのだろう。だが、そのリーダーシップが発揮されるのは仲の良い間柄だけで、初対面の相手だと、切羽詰まった状況にでもならない限り、その力が唸りを顰めてしまうのが残念で他ならない。

 SAO時代には水中戦闘は避けていることが多かったので、キリトの言う通り、しっかりそこも考えて剣捌き足捌きをしなければならないだろうし、それに加えて、俺がもっと気を付けないといけないのが、雷系の魔法を使ってはいけない事だろう。

 もし水中でそんなものを使えば、俺をも含む皆がフレンドリーファイアならぬフレンドリーインダクティブして、一気に戦線が崩壊してしまうのだから。最近は雷系の魔法にハマっていたので、ふとした時に使ってしまわないよう注意せねばな。

 

 キリト「それじゃ、行こうか」

 

 キリトの言葉に従って、俺達は海底神殿ダンジョンへと足を踏み入れた。神殿の内部は、魔法で浮かび上がっているらしい暖色系の球体光源で照らし出されており、海の深い蒼色とのコントラストが美しい。ツルツルした石畳に対して、神殿の側壁は苔むしたような古めかしい印象を与え、まるでSAOの迷宮区の雰囲気と類似していた。

 だが迷宮区とは違う点は、まずはここが海の中であり、俺達は水中を移動していること。そして、神殿は海と直接つながっており、神殿が海の生き物の住処になっていることだろう。

 

 ユウキ「ん~…お宝の反応がないなぁ…」

 

 アルファ「そりゃもう色んな人がクエストに挑んでるだろうからな…」

 

 パーティーの最後尾を担当する俺は、こんな時にも欠かさず、スプリガンお得意のトレジャーサーチング魔法を使っていたらしいユウキの飽くなき探求心に感心と呆れの二つの感情を抱いていると、パーティーの最前列を担当するキリトとクラインの前方に、大きな落とし穴が見えてきた。

 彼らはお喋りに夢中なようだが、流石に見え見えのトラップには気が付いているだろうと、そう信じていたのに…。

 

 キリト&クライン「「うおおっ!?」」

 

 ユウキ「完全に気が抜けてるね~」

 

 アルファ「これが攻略組のトッププレイヤーだとは思いたくねぇな」

 

 必死に落とし穴トラップから逃れてきたキリトとクラインの緊急脱出能力の高さが、トッププレイヤー足る所以なのだろうが、ならばそもそも落とし穴には気が付いてほしかったものだ。

 …まぁ、もうこれはデスゲームじゃないのだから、ちょっとぐらいは気を抜いてダンジョンに挑んでもいいとは思うけども。寧ろそうするべきだとも思えるし…。

 

 ユイ「パパ!後ろです!」

 

 ユウキ「アルファ!後ろからなんか来たよ!」

 

 キリト「クソッ、挟み撃ちか!」

 

 アルファ「こっちは俺とユウキに任せてくれ!」

 

 キリトとクラインが落ちたトラップの奥底からは、深海魚みたいなモンスターが、そして俺とユウキが控える最後尾には海蛇かウツボみたいな細長いモンスターがこ、ちらに向かって突撃してきていたのだ。

 海底神殿の通路は一本道だ。二体のモンスターに囲まれた俺達は、そこは持ち前の判断能力の高さで、すぐに役割分担を行う。

 ウツボが俺達の胴体を裕に噛み千切れるほどの大きな口を開けながら、鋭い牙で俺に喰らい付こうとしてくるが、水中ということもあって、力強くその場からジャンプした俺は、そのスピーディーな噛み付き攻撃をふわりと回避する。

 その間にユウキがウツボの側面を薙いでくれたので、俺もそのまま宙で一回転し、天井に足を付けて踏ん張ってから、再びウツボの脳天に向かって飛び出した。ウツボは突然の頭上からの攻撃に対応できなかったようで、俺がそのままウツボの頭を貫き、動きを止める。

 そしてそのままウツボは、ユウキの目にもとまらぬ高速剣の餌食となり、ライトエフェクトへと移行した。

 

 ユウキ「お疲れ」

 

 アルファ「ユウキもな」

 

 相変わらずのコンビネーションでモンスターを一体撃破するも、やはりこちらが二人であったのに対して、向こうは七人で一体を相手取っていたわけで、俺達が彼らの元へと帰ってくる頃には、何だか理由は分からないが、一件落着モードになっていた。

 そしてそれから俺達は、海底神殿の地下一階、二階へと足を踏み入れながら、道中に出現しまくったエビやカニだの水生モンスターを飽きるほど倒していく。九人という動き辛い大所帯でのダンジョン攻略であったが、キリトとリーファの息がピッタリで、特に苦戦することは無かった。

 因みに、その途中にユウキが「このカニって美味しいのかな…」と相変わらず食いしん坊な独り言を零していたのを、俺は勿論聞き逃さなかった。今度ALOで、海鮮丼を奢ってあげようと思う。

 そんなこんなで、海底神殿の最深部にある部屋に辿り着いた俺達は、その部屋の中央に置かれていた大きな真珠…と言うよりは、置かれている場所もまるで鳥の巣のようなデザインだったので、真珠というよりは卵のように見えてしまう目的のブツを手に入れ、ダンジョンを引き返した。

 

 クライン「結局、最後まで出てこなかったよなぁ、クジラ」

 

 シリカ「でも、ユイちゃんすっごく楽しそうでしたよ」

 

 アルファ「そうだな。クジラには会えなかったけど、楽しかったし良いんじゃねぇの」

 

 ユウキ「うんうん、ボクも色んな食材アイテムゲットできたしね!」

 

 アルファ「…美味しいものにしてくれよ?頼むから」

 

 ユウキ「それはまたお楽しみだよ~」

 

 ユウキは笑いながらそんなことを言っているが、偶には試されるこっちの身にもなって欲しい。いっそ、俺もこっちの世界で料理スキルの熟練度上げでも…いや、料理はもう現実世界でお腹いっぱいだ。こっちでもやりたいとまでは思えないな。

 そんなこと考えながら、キリトがおじいさんに目的の真珠を手渡そうとしている様子を眺めていたその時だ。突然、アスナがキリトの名前を叫んだと思ったら、おじいさんに真珠を渡すことを拒否し、その真珠を大きく掲げた。すると、真珠が途端に光り出し…

 

 ユウキ「た、卵!?」

 

 アルファ「マジか…」

 

 その殻の中から透けて見えたのは、何かの生き物の幼体であった。

 …確かにそんな風には見えていたが、よもや本当にそうだとは思わなかったぞ。そこでキリトが、「もしかして深海の略奪者って、俺達のことか!?」と叫ぶ。

 …なるほど、そう言うことだったのかと、逆におじいさんが黒幕パターンねと、俺が思考を纏め上げているうちに、キリトとアスナが臨戦態勢へと移ったので、俺もそれに合わせて、背中に納刀していた両手剣を抜刀する。

 

 アルファ「っ!?」

 

 不意に、老人の細く閉ざされた眼が赤く光ったかと思うと、白髪が何本ものぶっとい触手へと変化し、老人の姿は何処へ行ったのか、俺達の目の前には、不気味に白いイカのような超巨大モンスターが立ちはだかったのだ。

 老人の固有名は<クラーケン>へと移行し、体力バーが七本ほども表示される。クラーケンのカーソルは真紅色に染まっており、それだけでも充分にヤバさが伝わって来た。

 コイツが噂の巨大水生型モンスターなのか!だなんてことを考えている暇もなく、クラーケンがもう一度俺達に卵を渡すよう問い詰めてくるも、アスナがそれをキッパリと断ってしまう。

 それが開戦の合図になったと言わんばかりに、クラーケンは巨大な触手を一本降り下ろしてきた。エギルとクラインの二人掛かりでも止めるのがやっとのようで、次いでキリトとユウキがクラーケンに斬りかかるも、傷口がすぐに回復してしまった。

 物理はダメなのかと思い、俺が攻撃魔法の詠唱を始めるも、クラーケンが触手を二度三度振るうだけで、その圧倒的な巨体から繰り出される、面による暴力がキリト達の身体を捕え、一気に前衛を崩壊させた。

 あのSAOを生き抜いてきたデータを引き継いでいるはずの彼らが、皆体力を危険域にまで落とし込み、これは最早魔法とか物理とかの次元ではなく、単純にステータス差が大き過ぎることを悟る。

 

 アルファ「クソッ…!」

 

 俺が詠唱の終わった風魔法をクラーケンに放つも、やはり触手一本で呆気なく封じられてしまった。これは絶対に勝てないと、俺はパーティー全滅の危機を予感していると…突如、クラーケンと俺達の間に、巨大な三又槍…トライデントが降って来たのだ。

 その大きさからして、この武器の持ち主が余りに巨大すぎることを想像すると、それに応えるように、俺達の頭上から、続けて何かが降って来た。その何かは青いマントを纏っており、頭には魚人を模した冠を被った、白髪の巨人だ。

 名前はよく分からないが、海の王であり、体力バーが八本あることから、トライデント使いのおじさんがクラーケンのおじいさんよりも強いであろうことは想定出来た。

 俺が呆けている間に、海の王と深淵の王らしいクラーケンは押し問答の末に、後者が退いた。海の王はアスナが守り切った卵を、掌を光らせたかと思うと、たったのそれだけの魔法で回収してしまう。

 

 ユウキ「こ、これ…何だったんだろう…」

 

 アルファ「…さぁ?俺も分からん…」

 

 俺達が口々に疑問を呈していると、海の王は変わらず荘厳な様子で、しかし丁寧に俺達に告げる。

 

 「今はそれでよい。さ、そなたらの国まで送ってやろう。妖精たちよ」

 

 シリカ「お、送るって、どうやって…」

 

 シリカの疑問は、今すぐに解消された。何故ならば、シリカがそう訊ねたその直後に、海の王の背後から、巨大な白いクジラが現れたのだから。

 その余りの大きさに、その場で目を見開きながら固まり続けていた俺達であったが、海の王に促されて、恐る恐るクジラの背中に登った。

 

 「では、さらばだ」

 

 「くぉーん!!」

 

 アルファ「うおっ!?」

 

 それが合図であったように、クジラは大きな声を上げると、途端に水面へと向かって泳ぎ始めた。しかし、俺達が振り落とされることの無いようゆっくりと水面に向かってくれる。

 海の暗闇は段々と、行きとは違ってオレンジ色に照らし出された明るさへと移り変わっていき、やがてクジラは水面に飛び出た。世界は既に夕方となっていたようで、赤紫色の夕焼け空が俺達を出迎えてくれる。

 

 ユイ「クジラさん!すっごくすっごく大きいです~!」

 

 ユウキ「そうだね~!クジラの背中に乗れるなんて、夢みたいだよ!」

 

 アルファ「クジラに会いたがっていたユイが大喜びするのは分かる。でも、君は違うでしょう。ユウキさん」

 

 ユウキ「そう言うアルファだって、クジラに乗れて嬉しいんじゃないの?」

 

 アルファ「…まぁ、そうだな。俺もクジラの実物見たのは初めてだし」

 

 ユウキ「ならもっと喜びなよ~」

 

 アルファ「ちょっ!?危ねぇって!落ちる落ちる!!」

 

 いつの間にか、ユイはキリト達と同じようにクジラの背中に一直線に並んで、無言のまま美しい夕焼け空を眺めている。だがその少し後ろで、俺はユウキとクジラの背中の上で暴れっていたわけだ。

 …もしやこのメンバーの中で一番精神年齢の低い奴らは、俺とユウキなんじゃないだろうかと、俺は否応なしにそう思わされてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回の投稿日ですが…少々変則的にいきます。

 まず二月八日の火曜日につきましては、アルファとユウキの初夜を描いたR18バージョンの「乙女の成長」を投稿しますので、その日はR15バージョンのこちら本編はお休みとなります。
 R18バージョンの方は、別に覗いて頂かなくても結構ですが、そちらを見ていただけると、少し前に投稿したお話の描写の意味や、今後投稿するお話の描写がより分かりやすくなるかと思います。
 R18バージョンはダメだよ~、っていう読者様がおられましたら、誠に申し訳ございません。
 
 ですので、こちら本編の次回投稿日は、二月十日の木曜日となります。

 では、また次話でお会いしましょう!
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