~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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第127話 夏の大冒険

 七月二十六日土曜日、午後一時半。

 

 アルファ「さてと…いっちょ行きますか」

 

 ユウキ「じゃあ、三十一分になったらスタートね」

 

 新生アインクラッド第一層。はじまりの街の端っこ。外周にある開口部で二人同時に身体を伸ばした俺達は、それぞれ背中に四枚の翅を展開し、その時を待った。

 目的地は、世界樹にあるイグドラシルシティ。現在、アインクラッドはスプリガン領上空を通過しているので、ここからは三十分ほどあれば、そちらまで辿り着けるものだと思われる。

 本日のお昼前に、突然キリトから、今日暇だったら午後二時頃にALOのイグシティまで来て欲しいとの連絡を受けたので、こうして今から、ユウキと共にそちらへ向かうということだ。…遂に、時刻が三十一分へと移り変わった。俺とユウキはほぼ同時に、開口部から勢いよく身を投げ出し、空へと飛び立った!

 

 アルファ「おいおい、ちょっと俺の方が速いんじゃねぇの?」

 

 ユウキ「まさか、まだまだこれからだよ!」

 

 昨日の軽口の叩き合いの末、アインクラッドからイグシティまでの道のりを利用して、第一回どっちが速く飛べるか大会を開催した俺達は、今この瞬間は真剣そのもので、お互いがお互いを出し抜こうとフルスピードでの飛行を続けている。

 僅かに俺の出だしが早かったのか、今の所一歩リードしているのは俺の方であり、ユウキは俺の後塵を拝していた。あれだけ自分の方が速いと言い合っていたのに、飛翔スピードはまさかの互角であったようで、距離が縮まる気配はなかった。

 

 ユウキ「むむむ…」

 

 アルファ「先に言っとくけど、妨害は辞めろよな」

 

 ジェット機の如く辺りに広がる大自然の風景を置き去りにしながら、空を舞い始めてから十数分後、遂にユウキも、俺達の飛行に関する実力が完全に均衡していることに気が付いたようだ。と同時に、このままではレースに敗北することを悟ったのか、既に悔しそうな…或いは何か策を巡らしているような唸り声を上げている。

 後ろから煙幕魔法を発動させられたり、若しくは足を捕まれたりしては堪ったものでは無いと、その点に関しては先手を打っておた。一応、このレースの勝敗によって、今日の奢りが確定することになっているので、俺だって出来れば負けたくないし、あわよくば勝ちたいと思ってはいるのだ。

 飛翔開始から約二十分後、そのまま戦況は大きく変わることなく、ただ世界樹の威容にドンドンと近づいて行くだけであった。

 

 ユウキ「アルファ~、止まってよ~」

 

 アルファ「…」

 

 ユウキ「…ボクからのお願いだよ?」

 

 アルファ「止まるわけ無いだろ。勝負とは時に無常なんだよ」

 

 遂に実力ではこの状況を打開できないという結論に至ったのか、ユウキは俺に甘えるような声色でそんなことを言ってくる。がしかし、勿論俺だって、そんな安いトラップに引っ掛かるほど馬鹿ではない。

 俺が無視を貫き通していると、ユウキが続けてねだって来るので、一応返事はしてやることにした。もうその頃には、世界樹との距離は目と鼻の先ぐらいにまで迫っており、最早勝負は決した。……そのはずだったのに…。

 

 アルファ「うおっ!?」ビューン

 

 ユウキ「隙ありっ!」

 

 突如として、俺の真横に強烈な突風が舞い込んできたのだ!

 

 俺は風に呷られる形で、意図せず若干スピードが落としてしまい、その間にユウキが俺の真横に並んできやがる。だがそこからは、どちらも一歩も譲ることなく、世界樹まで残り僅かとなった距離で、デッドヒートを繰り広げた!

 目的の展望台に着地するために、何処かでスピードを減速する必要があるのだが、今そんなことをしては負けが確定してしまう。ギリギリまで、ギリギリまで減速するつもりは無いと、お互いにスピードを緩める気配を見せない。

 

 アルファ「うおおおおおおおおッ!!」

 

 ユウキ「はあああああああああッ!!」

 

 遂には減速することを放棄した俺達は、展望台に激突する形で、その場に不時着した!!

 ちゅどーんと、小さな爆発でも起きたような効果音が辺りに鳴り響き、周囲に居たプレイヤー達は、何事だとこちらを眺めている。なんとか不時着に成功した俺達は、その着地の衝撃で舞起った煙の中で、激しく言い争った。

 

 アルファ「俺の方が早かった!」

 

 ユウキ「ううん!ボクの方が先に到着した!」

 

 キリト「…お前ら、相変わらず仲良いな…」

 

 煙が張れようとも、一向に敗北を認めず己の勝利を主張し続ける俺とユウキを見て、呆れを通り越して何処か感心したようなキリトが、俺達の前に現れた。そして次いで、こちらに向かって飛んできたユイちゃんが、決定的な一言を放った。

 

 ユイ「今の勝負は、コンマ一秒だけユウキさんの方が早かったです!」

 

 ユウキ「いえーい!ブイッ!!」

 

 アルファ「ば、バカな…」

 

 そんな事実は認めたくはないが、まぁスーパースローモーションをも上回る判定を下せるであろうユイちゃんがそう言うのならば、それを甘んじて受け入れるしかないだろう。

 それでも、あの勝利が確定していたような状況から一転して敗北を期すことになった事実に俺が放心していると、ユウキが勝利の歓声を上げながら、俺にV字のピースサインを見せつけてきやがる。その笑顔がまた、してやったりみたいな感じだから、余計にウザさが増しているのだ。

 

 アスナ「仲が良いのは結構だけど、周りの人の迷惑も考えようね?」

 

 アルユウ「「ご、ごめんなさい」」

 

 リーファ「いくらあたしでも、流石に減速はするかな…」

 

 アルユウ「「あ、あはは…」」

 

 キリトに遅れてやって来たアスナに、俺達の迷惑行為が露見してしまい、無論笑顔でそれを咎められる。その点に関しては、俺もユウキも何も争うことが無かったので、素直に謝罪の言葉を口にしておいた。その後リーファにも更に突っ込まれ、もう枯れた笑い声をあげることしか出来まい。

 最後まで息ピッタリだった俺達に、ユイちゃんからやっぱり仲良しですねとの嬉しい言葉を頂いていると、シリカとリズベットが空から飛んできた。

 

 シリカ「お待たせしました!」

 

 リズベット「待たせちゃった?」

 

 アルファ「おいリズベット、お前昨日適当な理由でログアウトしたろ」

 

 リズベット「適当じゃないわよ。録画してないテレビ番組があったの」

 

 出会い頭一番に、昨日の一件を問い質そうとリズベットにそれを告げると、対するリズベットは、何ら気にしていない様子で、それが当然だと言わんばかりの態度を取って来る。なんて図太い奴だと、いつか痛い目見せてやろうかとそんなことを心の片隅で考えながらも、気を取り直してキリトに訊ね掛ける。

 

 アルファ「…そんで、今日は何するつもりなんだ?」

 

 キリト「ちょっとばかり、<雷竜の巣>に突撃しようと思ってな」

 

 ユウキ「キリト、それはボクら以上に馬鹿だよ…」

 

 キリトの放ったまさかの発言に、残りのメンバーが一人残らず呆れ返ったのも無理もない。

 <雷竜の巣>とは、今俺達が踏みしめている世界樹の枝木の更に空高くにある、世界樹の最上部を覆う積乱雲の愛称である。

 世界樹の頂は、巨大な積乱雲…つまりはスーパーセルに覆われており、プレイヤー達が世界樹の頂に到達しようとその内部に突入すると、もれなく数秒後には雷で感電死するか、猛烈な暴風によって虚空に放り出されるかの二択だとか。

 旧ALOから新生ALOへと移行したことで、プレイヤーには原則無制限の飛翔が可能となった為、まず彼らの多くが真っ先に目指した場所は、浮遊城アインクラッドではなく世界樹の最上部であったらしい。がしかし彼らは軒並みその二択を迫られたようで、この巨大積乱雲に挑む命知らずのプレイヤーも、今となっては絶えてしまったと聞いている…。

 

 因みにこれは余談だが、そんなスーパーセルが<雷竜の巣>と呼ばれるようになったのは、あの有名アニメ映画から取ってきたことは間違いないのだ思う。であるため、内部に本当に竜が居るわけではないということだ。

 …そう言えば、俺は新生アインクラッドが出現したあの日。他のことには目を向けることも無く、即座に第一層のホルンカの森へと向かい、そこでユウキはもう居ないのだという更なる絶望を叩き付けられたわけだが、今こうして冷静になってみると、あの時期の俺の精神状況は物凄く不安定だったと言える。

 あまり自覚は出来ていないのだが、もしかしたら俺は、ユウキという存在に深く依存してしまっているのかもしれない。これは多分、余り良くない事なのだろうが、どう対処すればいいのか全く分からねぇんだよなぁ…。

 

 キリト「それじゃあ、作戦会議に移らせてもらう…つっても、大した作戦は無いんだけどな…。俺が<雷竜の巣>に突入するから、死んだら魔法で回収プリーズ、くらいのモンで…」

 

 リズベット「えーと、そもそものトコ確認しておきたいんだけど…あんたが世界樹のてっぺんに行きたいのは、そこに例の巨大真珠、じゃなくて<御子の卵>があるかもって思ったからなのよね?」

 

 キリト「うん」

 

 シリカ「でもキリトさん、もし卵が見つかったとして、それをどうする気なんですか?まさかまた盗み出すわけじゃないですよね?」

 

 キリト「う、うん」

 

 キリトが俺達五人に対して、これじゃあフロアボス戦全滅必至な薄すぎる作戦案を提示すると、リズベットがまず疑問を呈し、次にシリカもキリトに訊ねる。

 どうやらキリトは、シリカには信じてもらえていないのか、またも卵を略奪しようとしているのではないかと疑われており、俺も少々笑い声を漏らしてしまった。キリトは一瞬そんな俺を見やってから、言葉を続ける。

 

 キリト「卵って言うか…正確には、昨日やった<深海の略奪者>クエストの続きが受けられるんじゃないかって思ったんだ。やっぱり俺、あれがただの単発クエだったとは思えないんだよな…」

 

 アスナ「それはそうかもだけど…でもふつう、続き物クエストって、地理的にも連続してるものなんじゃないの?昨日の海底神殿から、世界樹のてっぺんまでは、直線距離で百キロ以上あるわよ。「全ての海と空」っていう言葉がヒントなんだとしても、あまりにも飛躍してないかしら」

 

 ユウキ「ん~、あれじゃない?アルヴヘイムで一番高い所が、世界樹のてっぺんって事なんじゃ…」

 

 アルファ「でもそれなら、アインクラッドの方が高いんじゃないのか?」

 

 アスナの最もな指摘に対して、ユウキがそれっぽいことを述べるも、ならばそれよりも高みにある存在があるだろうと、俺が更なる合理的な意見を述べる。するとその時、リーファが恐る恐る遠慮がちに、言葉を発した。

 

 リーファ「あのね、あたし昨日、夢を見たの。空のずーっと高い所から、虹の橋が降りてくる夢。その端をずんずん昇って行くと、先の方にすっごく大きくて、とってもきれいな門が見えて…でも、そこに辿り着く前に、目が醒めちゃった」

 

 リーファ「そんな夢を見たのはきっと、ゆうべシルフ領の海岸で、みんなとアース神族の話をしたからだと思うの。…神話だと、アース神族は<アースガルド>っていう国に住んでるんだけど…」

 

 キリト「それは、アルヴヘイムとかヨツンヘイムとかと同じ意味での<国>?」

 

 リーファ「うん。北欧神話と、世界は九つの国に分かれてて、他にもヴァン神族が住んでる<ヴァナヘイム>とか、氷の国の<ニブルヘイム>とかがあるんだけどね。…それで、空のずーっと上にあるアースガルドからは、地上に向かって虹の橋が架かってるの。橋の名前は<ビフレスト>…」

 

 リーファ「…あたし、最初に<雷竜の巣>を見た時から、なんとなく想像してたの。もしかしたら、あの雲の中には虹の橋があって、アースガルドまで繋がってるんじゃないかな、って…」

 

 リーファが少し照れながらも話すその夢の内容は、まさしくロマンティックと呼ぶに相応しいものであった。それに、このALOの世界は、どうやら北欧神話を参考にして創られた世界であるようだから、それは決して浪漫に終わるものでは無いのだろう。

 九つの国…現状、アルヴヘイムとヨツンヘイムが見つかっていると仮定するのならば、まだ後七つもの国が、俺たちの冒険の舞台として待ち構えているということだ。そんな話を聞いて、虹の橋ビフレストを渡る機会を得られるかもしれない可能性を、この場にいる誰もがみすみす手放すわけが無く…。

 

 キリト「じゃあ、俺がしっかり見届けて…」

 

 リーファ「というわけで、あたしも行く!」

 

 キリトの言葉に重ねてリーファが元気よくそう答え、それに続いて俺も含んだ残りのメンバーも、勢いよく手を突き出す。

 

 アスナ「こうなったら、みんなで行っちゃおうか!」

 

 「「行っちゃいましょー!」」

 

 キリト「ま、待った待った。もし全滅したら、誰がリメインライトを回収するんだよ」

 

 アスナ「わたしだって、たまにはバックアップじゃなくて、フォワードやりたいもん」

 

 キリト「…」

 

 ノリに乗って来た俺達を、アスナが纏め上げるように盛り上げると、キリトが慌てて声を掛けてくる。だが、アスナの少し拗ねたような口調と態度は、キリトには効果抜群であったようで、彼は何も言い返せないでいた。

 

 ユウキ「…なるほどね…そう言うのもアリだよね…」ボソッ

 

 アルファ「…」

 

 そんな二人の様子を眺めていたユウキが、何かを呟いていた気がするが、まぁ聞かなかったことにしておこう。ユウキが今のアスナと同様の言動を取って来たシチュエーションを想像すると…うん、良いな…。

 

 アスナ「もし全滅しちゃったら、街に戻ってから、みんなで狩りに行けばいいよ。このメンバーなら、出スぺ名もすぐ取り戻せると思うよ」

 

 キリト「…そうだな。じゃあ、全員で行くか!」

 

 「「おー!」」

 

 キリトの言葉に威勢の良い返事をした俺達は、その場で装備のチェックをしてから、展望台を飛び出した。

 今日は青天の霹靂で、夏の青々とした空が雲一つなく広がっている。世界樹の傾斜に沿って数分飛び続けると、白っぽい靄がたなびき始め、遠くから遠雷の響きが聞こえてくる。そのまま薄靄を突破すると、視界を覆い尽くす程に巨大な純白の塊が現れた。

 世界樹の先端は、その少し下から…とは言っても、高さ五百メートルほどの積乱雲に包まれており、これが噂の<雷竜の巣>であることは自明であった。その仰々しい姿に、俺は思わず緊張感を高めていると…。

 

 アルファ「…」

 

 シリカ「わあ、すごーい!なんだかホイップクリームみたいでおいしそうですねえ!」

 

 リズベット「ほーんと、パンケーキにのっけて、シロップどばーってかけて食べてみたいわねー」

 

 アスナ「あははは、じゃあ、これ終わったら食べに行こっか。イグシティに、すっごくおいしいパンケーキのお店ができたらしいよ」

 

 リーファ「ほんとですか!?あたし、パンケーキ大好き!!十枚食べよっと!」

 

 キリト「じゃあ俺は百枚食べる!」

 

 女性陣の眼には、虹の橋というロマンの塊がこのスーパーセルの先に見えているのか、それとも、ロマンが彼女たちのテンションを急上昇させたせいか、あの物騒な巨大雲の中に突入する前とは思えない程、呑気なやり取りを交わしていた。

 そんな中で俺が無言を貫き通していると、隣でホバリングしているユウキが俺の顔を覗き込んでくる。

 

 ユウキ「アルファ?どうしたの?」

 

 アルファ「…いや、俺はどっちかと言えば、綿菓子みたいに見えるなって」

 

 ユウキ「じゃあ、綿菓子も食べに行こうよ!」

 

 如何やら彼女もその例に漏れず、テンションをかち上げていたようだ。ユウキは甘いものが大好きなこともあって、パンケーキだけでは飽き足らず、綿菓子まで食べる予定らしい。

 イグシティに綿菓子店があるのかは定かではないので、これは後で、ユウキの為にも喜ぶユウキを拝む俺の為にも、綿菓子店を探さねばと決意していると、キリトからの声が飛んできた。

 

 キリト「十回死んだ経験から言うと、雷を避けるのはムリだ。闇雲にコースを変えてタイムロスするよりは、最速で突っ切ることを考えた方が良い。雲の中は見通しがきかないから、真っすぐ飛ぶために<星>を組めたら良かったんだけど…」

 

 ユウキ「ボクとアルファは二人で何とかするから、みんなで<星>作りなよ!」

 

 キリト「いいのか?」

 

 アルファ「おう。まぁ、何とかなるだろ」

 

 キリト「悪いな。じゃあ、俺達は星を組もう!」

 

 そういう訳で、俺とユウキを除いた五人が、十本の腕を交差させながら、<スターバインド>という集団飛行テクニックを活用したのだ。これは人数が五人に限定される代わりに、水平結合や円形結合などの他の集団飛行よりも、ずっと強固に一体化できる優れものである。

 七人ではどうしても、それ以上に結束力の高い集団飛行は出来ないので、俺達は、まぁ…やる気と根気で何とかすることにしよう。五人の準備が出来たらしいので、最後にアスナに雷耐性増加呪文を唱えてもらう。

 

 キリト「よし…カウントダウンするぞ。ファイブ、フォー、スリー、ツー、ワン…」

 

 「「ゴー!!」」

 

 キリト達五人に続いて、俺とユウキも手を繋ぎながら一気に加速していく。やはり五人分の馬力と二人分の馬力では力に差があるらしく、巨大積乱雲に突入する頃には、かなり距離が空いてしまったものの、まだなんとか姿を捉えられる範囲だ。

 雲の内部に突き進んでいくにつれて、最初は白かった視界が、段々と黒色へと近づいて行く。これ以上雲が暗くなってしまうと、キリト達の姿が見えなくなってしま…直後!

 

 ──ガガアァァァン!

 

 ユウキ「ひゃ!?」

 

 アルファ「ビックしたっ!?」

 

 キリト達の極近くに、プレイヤー一人分の身体など裕に呑み込んでしまえるほどの厚さをした紫電が轟いたのだ。なんだかんだで<雷竜の巣>にチャレンジするのはこれが初めてな俺達は、思わず情けない声を上げてしまう。

 こんなものが身体を直撃しては堪ったもんではないと、お互いに手を握る力が強くなりながらも、恐怖に屈し飛翔速度を落とすことは無い。

 

 ユウキ「わあ!?」

 

 アルファ「うおっ!!」

 

 突如、俺達を襲って来たのは、横殴りの突風どころか暴風であった。前方を羽ばたくキリト達は、どうにかそれを突破できたようだったが、二人分の重量しかない俺達では、呆気なく吹き飛ばされてしまう。

 それでも何とか、全力を以て二人で翅を羽ばたかせ、体勢を持ち直すことに成功するも、今度は俺達の背後に雷が飛来し、暗く淀んだ雲の中で、背後が大きく輝き、鼓膜を破るような音波が伝わってくる。

 

 ユウキ「アハハハッ!!」

 

 アルファ「随分と楽しそうだなっ!?」

 

 この天然のアトラクションがお気に召したのか、非常に愉快そうな満面の笑みを浮かべるユウキにツッコミを入れている間にも、俺達はまた強風に呷られ、雷をギリギリで回避し、だが再び暴風に巻き込まれる。

 もう上が下だか右が上だか、自分たちの居る場所がよく分からなくなっていたその時だ。不意にユウキが、雷鳴に負けないぐらいの声量で叫んだ。

 

 ユウキ「アルファ!前の方からお宝の反応があるよっ!!」

 

 アルファ「そりゃあもう行くしかねぇな!!」

 

 よもやこんな時にまで、トレジャーサーチの魔法を展開していたユウキの飽くなき好奇心に、俺はもう呆れというか感心というか尊敬というか、兎に角ユウキのその真っ直ぐな信念にやはり敬服しつつも、彼女に応えるように叫び返し、一気に前方へと向かって行く…と言うよりは、既に俺達はこの途轍もない暴風によって、自身の飛翔コントロールを失っており、否応なしに前方へと運ばれているのだがな。

 このスーパーセルに巻き込まれる中で、なんとなく雷が降って来る予感を察知できるようになった俺達は、直後、前方に雷が落ちてくる気がして、その一瞬だけパッと手を離すと、俺達の間に綺麗に雷が落ちてきた。風に呷られ離れ離れにならないよう、すぐにお互いの手をガッチリと掴み合い、やがて現れたのは──

 

 アルファ「ぐえっ!?」ビタンッ!

 

 ユウキ「あう~…」ピヨピヨ…

 

 巨大な巨大な、世界樹の幹であった。

 突風に巻き込まれ続けていたせいで、思いの外猛烈なスピードを出していたらしい俺達は、幹に気が付くことは出来ようとも、そこに上手く着地することは出来ずに、その勢いのまま世界樹に激突してしまう。

 俺がカエルみたいな変な声を上げたのに対して、ユウキはぶつかった衝撃で頭がクラクラしているのか、フラフラと覚束ない様子で身体を揺らしていた。

 

 アルファ「ユウキ、トレジャーサーチングの場所って、ここなのか?」

 

 ユウキ「…う~ん、確かにここのはずなんだけど…あ!あれじゃない?」

 

 ユウキの指示通りのここまでやって来たはずだったのに、そこあったのは世界樹の太すぎる幹ぐらいで、特段お宝らしきものは見当たらなかった。

 するとユウキが、幹のすぐ上にある複雑な枝木の絡まり合いに気が付き、それを指差す。幹の周辺は少しだけ風の暴力も弱まっていたおかげで、俺達も何とかそこまでは移動することが出来た。

 せっせせっせと枝木の上に登り始め、俺たちはやっとの思いでそこに辿り着き、そして思わず息を吞んだ。

 

 アルファ「た、卵か…?」

 

 ユウキ「…そうみたいだね…しかも四つも…」

 

 俺達が昇ったその先には、明らかに卵らしきものが四つ安置されており、それを囲むようにふわふわとした草木が敷き詰められていた。

 しかしその卵たちは、どうも昨日見た卵とはまた別の物のようで、あちらが真珠のような乳白色であったのに対し、こちらは青というか紫というか…さっき見てきた雷に似た色をしているように思える。

 

 ユウキ「アルファ、これ、お宝なんじゃない?」

 

 アルファ「…バングル?」

 

 ふとユウキが、草木の中でキラリと輝いた何かを手に取る。俺もユウキに近づいてそれを見てみると、ユウキが手に持っていたものは、銀色と銅色の綺麗に輝く二つの腕輪であった。

 その二つのバングルは、実にシンプルな単なる細めの腕輪である。だがそのバングルの中心部分には、サファイアのような宝石が嵌め込まれており、そこにはまるで、雷を放つ竜の如く精緻なレリーフが施されている…。

 

 アルファ「ゆ、ユウキ…」

 

 ユウキ「ん?」

 

 アルファ「もしかしてここって──」

 

 ──グラアァァァッ!!

 

 そして辿り着いたその可能性に気が付き、俺がユウキにその推測を共有しようとしたその時だ。

 世界樹の遥か高みから、厳めしい咆哮が轟いた。その雄叫びは、俺達の身体を貫くような強烈に重々しいものであり、俺もユウキも図らずも、身体をビクリと震わせる。

 俺の言わんとしたことを理解したのか、ユウキが慌てた様子で俺を見ているが、そのユウキの背後に、大きな二翼の翼をバサリバサリと羽ばたかせ、長い首に長い尻尾を持つワイバーンが…いや、ワイバーンなどではない。あれはまさしく──

 

 アルファ「ど、ドラゴン!?」

 

 ──やっぱり、ここってドラゴンの巣だったのか!!てか雷竜の巣にマジでドラゴンが居るなんて聞いてないんだけど!?

 前方で俺達をギラリと赤い瞳で睨み付ける巨大な雷竜が、翼を大きく震わせる度に激しい暴風が生じる。それが俺達を吹き飛ばそうとするが、俺はユウキと共に手を取り合って、何とかそれに対抗する。

 サファイアのような鱗を煌めかせた雷竜は、その大きな口から飛び出た鋭い牙どころか、全身に紫色のスパークを纏いながら、俺達に対して大きく口を開き──

 

 アルファ「ユウキ!逃げるぞッ!!」

 

 ユウキ「うんッ!!」

 

 その大きなモーションを、ポカンと眺めていた俺達ではあったが、今自分たちが途轍もない危機的状況に置かれていることを認識し、途端にその雷竜の巣から飛び降りた。雷竜に喰らい付かれる擦れ擦れのタイミングで、俺達は再び虚空に投げ出され、暴風に吹き飛ばされる。

 

 ユウキ「あ、アルファ!!こ、こっち来るよ!?」

 

 アルファ「無理無理無理無理ッ!!もうどうしようもないって!!」

 

 己の巣を荒らされたことにご立腹なのか、雷竜は怒りの炎をその眼に宿しながら、俺達目掛けて突っ込んでくるではないか!?

 ユウキの悲鳴が聞こえるが、俺とてもう何の打開策も浮かばない。これは大人しく雷竜に喰われるしかないだろうと、覚悟を決めて暴風に身を任せる。

 するとその時、すぽーんと俺達は雲の外に投げ出され、ついさっきまで眺めていた快晴が目の前に映った。俺の身体にしがみついているユウキと共に体勢を立て直したところで、俺達は猛烈な暴風によって虚空に投げ出されるという選択を選ばされたことに気が付く。

 純白の雲の中からは、あの巨大積乱雲からは出られないのか、雷竜の悔しそうな咆哮が響き渡って来た。

 

 ユウキ「…はぁ~…なんとか生還できたみたいだね」

 

 アルファ「あぁ、そうだな…って、ユウキそれ持ってきたのか!?」

 

 相変わらず俺の身体に抱き着いたままのユウキが、安堵の息をついたのに合わせて、俺もデスペナルティを免れたことに一安心していると、ふとユウキの右手に、二つのバングルが輝いているのに気が付き、驚愕する。するとユウキは、アハハと笑顔を浮かべながら答えてくれた。

 

 ユウキ「うん、持ってきちゃった。やっぱりトレジャーハンターとして、お宝は見過ごせないよ」

 

 アルファ「…だったら俺も、卵一個ぐらい持ってくればよかったぜ…もしかしたら、雷竜が俺の仲間に…」

 

 ユウキ「そんなことしたら、流石にあのドラゴンママも雲から飛び出してくるかもだよ?」

 

 アルファ「それは勘弁だな」

 

 ふわりふわりと、ゆっくりイグシティに向けて下降しながら、俺達は気安い会話を続けていた。やがて辿り着いた展望台にて、久しぶりに地面に足を付ける感覚を味わいながら、すたりと地面に着地し、四枚の翅を綺麗に畳む。

 如何やらキリト達は、まだ帰って来ていないようなので、暫くここで待ち惚けしようと、そんなことを考えていると、ユウキがわっと驚きを示した。

 

 ユウキ「アルファ!このバングルの性能、かなりヤバいよ」

 

 アルファ「どんぐらい?」

 

 ユウキ「月光スキルの遠距離攻撃ぐらいかな」

 

 アルファ「そりゃ相当だな。どんな性能なんだ?」

 

 ユウキ「えっと…こっちの銀の腕輪は、無詠唱で雷属性の魔法を発動させられて…こっちの銅の腕輪も、無詠唱で雷属性の魔法を発動させられるんだって。でも、二つともスキルの内容が違うみたい」

 

 アルファ「ぶっ壊れじゃねぇかよおい」

 

 基本的に魔法を発動させるためには、長くて複雑なスペルの詠唱が必要だというのに、それをすっぽかした状態で魔法を使えるとは、一発撃つとクーリングタイムが発生するらしいとは言え、破格の性能であることに違いは無いだろう。

 差し詰め、魔法が内蔵されたアーティファクトといった所だろうか。さて、ユウキは俺にどっちの腕輪を渡してくれるのだろうかと、そんなことを期待していると、ユウキが笑顔で俺に訊ね掛けてくる。

 

 ユウキ「貴方が落としたのは、この銀の腕輪ですか?それとも、こちらの銅の腕輪ですか?」

 

 アルファ「…いえ、どちらでもありません」

 

 ユウキ「貴方は正直者ですね。…そんなアルファには、このボクを──」

 

 アルファ「──いや、腕輪をくれ」

 

 ユウキ「…ちぇ、面白くないの…。じゃあ、銅の腕輪をプレゼントしてあげる」

 

 アルファ「サンキュー」

 

 ユウキの始めた某童話の流れからして、二つとも俺に贈呈してくれたりするのかと期待したのだが、どうやらそういう訳では無いようなので、この茶番劇も早々に終わらせてもらった。

 するとユウキがあ~あといった表情を浮かべてから、銅のバングルを手渡してくれる。…まぁ、勿論ユウキは欲しいんだけれども、俺はもう手に入れちゃったわけだし…。

 お互いの右手に色違いのバングル装備し、さてまだキリト達は戻ってこないのかと、俺は空を見上げる。その時ユウキが何かを思い出したように、言葉を発した。

 

 ユウキ「あ、そうだ。この後は、みんなでパンケーキと綿菓子だよね?」

 

 アルファ「そういや、そうだったな」

 

 ユウキ「だったら、今日はその二つ奢ってよ?」

 

 アルファ「なんで?」

 

 ユウキ「ボクの方が、飛ぶの速かったでしょ?」

 

 アルファ「…あれは、突発的に風が吹いたせいでなぁ…」

 

 ユウキ「勝負は時に無情だって、アルファが言ってたんだから、そんな言い訳は無しに決まってるよね?」

 

 アルファ「…分かった。好きなだけ食ってくれ」

 

 ユウキ「…ありがと!もう言質は取っちゃったから」

 

 アルファ「おう、任せろ」

 

 そう言えば、そんな約束を交わしていたなと、奢りを思い出した俺は、ユウキに乗せられてついつい奢りを受け入れてしまう。今日は何ユルド消し飛ぶのだろうかと、若干の恐怖を感じているうちに、キリト達が空から降って来た。五人全員が良い笑顔をしているので、何やら彼らにも良い事があったのだろう。

 そしてそれからは、お互いに<雷竜の巣>で経験したことを共有しながら、パンケーキを食べに行ったり、綿菓子を買い食いしたり、或いはダンジョンに挑んだりして、夏休みの一日を過ごしていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回の投稿日は、明日となります。

 では、また第128話でお会いしましょう!
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