アルファ「…」
キリト「…」
鬱蒼とした森の中で、俺はキリトと二人、草木の生える大地に寝転がっていた。ここはフィールドではあるが、出現するモンスターがかなり弱いこともあって、こうして気を抜いていても何の問題もない。
こんな夏真っ只中なのに、蝉の声一つ聞こえてこないのは、単にALOの世界に蝉という生き物が居ないからなのか、それとも、近年の生態系破壊による蝉の減少傾向を暗示しているのか…。
キリト「…なぁ、アルファ」
アルファ「何も言わないでくれ」
キリト「夏休みって、あと何日だっけ?」
突として俺の名前を呼んで来た彼に、俺はその続きを拒否するように耳を塞ぎながら返事をしたのだ。しかし、彼の声は俺の耳にしっかりと届いて来る。俺はその事実を嫌々ながら認識しながら、彼の問い掛けに答えを返した。
アルファ「…言うなって言っただろ…。あと、六日だ」
キリト「なんで、夏休みは終わるんだろうな」
アルファ「…次は冬休みが待ってる」
キリト「冬休みは短すぎるんだよなぁ…」
アルファ「それには同感だ」
俺達帰還者学校生の夏休みは、昨日で残り一週間を切った。キリトの悲痛なる叫びに、俺も呼応するように言葉をしておく。
元SAOプレイヤーは同年代の学生と比べて教育プログラムが大きく遅れているせいか、まだ八月の中旬であるというのに、もう夏休みはラストスパートとなっているのだ。他方で夏休みの課題は大分多めに出ているので、今夏は宿題に追われる日々でもあった。
そう言う意味では、遊びも勉強も満遍なく充実していた素晴らしい長期休暇であったとも言えるのかもしれない。だが出来ることならばずっと遊んでいたいと思うのは、学生共通の悩み事なのでは無いだろうか。夏休みも残り二週間であれば、まだ十分に休みが残っていると感じられるのに、残り一週間になると途端に後僅かしかないように感じることもまた、あるあるのはずである。
アルファ「そういやキリトは、最近アスナとどうなんだ?」
キリト「どうって…順調だとしか」
アルファ「そうか、そりゃよかった」
キリト「そう言うアルファは、ユウキとどうなんだ?」
アルファ「ん~…順調…なんだろうか…」
キリト「なんだ?歯切れ悪いな」
アルファ「…まぁ、ここ最近は、あんまりユウキと一緒に居られなかったからさ」
特に喋ることも無かった俺は、キリトの恋愛事情でも聴き出そうと試みたというのに、キリトは思いの外何の面白味もない返事をしてきやがる。そんなキリトに逆に訊ね返され、俺は頭の中で色々考えた結果、順調だとは言い切れない気がしたが故にあやふやな返事をしておいたのだ。
するとその点をしっかり追求してきたキリトに…まぁキリトならぶっちゃけてもいいかと、あのことを相談するのも悪くはない選択だと思ったのだが…もうちょっと自分で考えないとダメかと思い、本当のことは言わずに適当な言い訳をしておいた。
キリト「あぁ、そう言えばアルファ帰省してたんだったな」
アルファ「そういうことだま」
キリトの言葉の通り、俺はつい昨日まで、お盆ということもあって実家に一週間ほど帰省しており、それ故にその間ユウキと過ごせる時間が、いつもよりもかなり少なくなってしまったのだ。…まぁ、帰省先では、地元の友たちと遊んだり、家族との時間を過ごしたりして、かなり楽しいっちゃ楽しかったけども。
本日も今し方東京に戻って来たばかりであり、ユウキは既にアスナとALOを遊んでいるようなので、こうして今はキリトと二人でのんびりと、森林浴を味わっているわけである。
…何だかこうしていると、SAOをクリアする直前に二十二層でのキリトとのんびりとした時間を思い出すな…良い思い出ばっかりじゃないけど、やっぱり確かに心地良い日々だったな…とそんな懐かしい思い出に浸っていると、キリトが続けて訊ねてくる。
キリト「そう言えばアルファって、まだお酒飲んでないのか?」
アルファ「…リアル?仮想世界?」
キリト「リアルじゃ流石に俺も飲まないからな…こっちの世界の話だ」
アルファ「飲まないな。特に飲む必要もねぇし」
SAOの頃から変わらず、俺は新生ALOの世界でも、アルコール飲料をこぞって飲むことは無かった。だってそもそも俺は、お酒のあの苦味が好きじゃないし、ならわざわざ嫌いなものを飲む必要も無いだろうということである。
思い返してみると、キリトやユウキは俺よりも年下だというのに、SAOの頃からこぞってアルコール飲料を美味しそうに飲んでいた。こいつらは、一体あの苦いだけの飲み物のどこに魅力を感じているのだろうかと、今更ながらにそんな疑念を抱かされる。
キリト「…へぇ、じゃあ、まだユウキとお酒飲んだりはしてないのか」
アルファ「まぁ、そうだけど…それがどうかしたのか?」
俺の返事に対して、やけに意味深な笑みを浮かべたキリトが、寝転がっていた身体をヒョイと起こして、俺の姿を眺めてくる。そして彼は俺に向けて人差し指を立てると、その指を左右に揺らしながら言うのだ。
キリト「実はお酒を飲むと、こっちの世界でもちょっとだけ気分が高揚するんだよな」
アルファ「へぇ」
キリト「だからお酒が入った状態だと…夜の営みもいつもよりもいい感じになるんだけどなぁ?」
アルファ「!」
キリト「お、しっかり食いつくんだな」
キリトの謎の豆知識に、最初は適当な相槌を打つだけであった俺も、その二言目を聞くと、すぐに仰向けになっていた身体を起こしてキリトの方を眺めざるを得ない。
…一体コイツはなんなんだ。どうしてこうも俺の求めている事柄に結び付く情報を提供してくれるのだろうか。まさか、ユニークスキル<エスパー>の所持者なのだろうか…?などと思いつつも、俺はごくりと息を呑みながら、変わらずニヤニヤとしたキリトに訊ねるのだ。
アルファ「…詳しい説明を求む」
キリト「簡単に言うと、こっちの世界でアルコール飲料を摂取しても、勿論酔うことは無いんだけど、それでもお酒を飲んでいるという雰囲気に酔えるって言うか…まぁそんな感じで、疑似的な高揚感を感じられるんだ」
アルファ「ほうほう」
キリト「だから、アルファもユウキと一緒にお酒飲んだらさ、良い感じの雰囲気になるぞってこと」
アルファ「…なるほどな」
キリト「…もしかして、アルファお酒飲まない理由って仮想世界でも酔うタイプだからか?」
アルファ「いや、そういう訳じゃない…ただ、あの苦い感じが苦手でな」
仮想世界では、例えどれだけ…それこそ湯水のようにアルコール飲料を飲んだとしても、基本的に酔うことが無いように設定されている。
だったらSAOに囚われていたあの頃に、ユウキが一度泥酔してしまったあれは何だったのだろうかという話だが…まぁ、アレは例外的なものであったということだろう。それでも稀に、仮想世界でも普通に酔ってしまう体質の人も居るようだが、そんなのはかなり少数で…あぁ、そう言えば、身近にそんな奴が居たな。本当に懐かしい話だ。と俺がまた感慨に耽っていると、キリトが納得した様に俺に一つ提案してくる。
キリト「そう言うことか。なら、限りなくジュースに近いお酒を飲んだらいいんじゃないか?」
アルファ「そんなもんがあるのか?」
キリト「あぁ、店売りの奴は、基本的にお酒っぽかったりワインっぽかったりするけど、自作すればそういうのも作れる」
アルファ「自作か…ハードル高いな」
キリト「確かにな。…なら今日の夜に、俺とアルファとユウキとアスナの四人で、ちょっとしたパーティーでもしないか?アスナなら美味しいお酒の作り方知ってるし」
アルファ「有難い申し出だけどさ、ユイちゃんはどうするんだよ」
キリト「お前そういうのちゃんと考えれるタイプなんだな…なんか安心したぞ、俺」
アルファ「お前は俺を何だと思ってるんだ。それぐらい当然だ」
キリト「ユイは、リズ達に任せるかな。今もリズ達の狩り手伝ってるっぽいし」
アルファ「そんじゃあ悪いけど、その方針で行かせてもらうぜ」
キリトの粋な計らいに感謝しつつも、俺がユイちゃんをお酒の席に連れてくるのは、果たして教育上良いものなのかと疑問を呈すると、キリトはやけに感心したように俺を褒めてきやがる。
一体お前の中での俺のイメージはどうなっているんだとしっかりツッコミを入れてから、俺はキリトの申し出を受け入れることにした。今晩の方針が決まった俺達は、すぐにそれをアスナとユウキに伝えに行こうかと、森から飛び立つ準備を始める。
アルファ「そういや、キリトは酔うタイプなのか?」
キリト「いや、俺は酔わないぞ。……でも、なんでなんだろうな。俺、一回だけ酔ったことあるんだよな…」
アルファ「その時はどうなったんだ?」
キリト「…言いたくない。恥ずかしいから」
アルファ「なんだよ、教えてくれよ」
キリト「じゃあその対価に、その腕輪くれよ」
アルファ「それはムリだ」
キリト「だったら諦めてくれ」
アルファ「しゃーねーなぁ…」
ふと気になったことを訊ねているうちに、キリトが何故か一度酔ってしまった経験があることが露見したのだ。俺は無性にその時どうなったのかを知りたくなったのだが、キリトは途端に嫌そうな顔をして、そのことについては何も教えてくれない。
そしてその代償として、ユウキがくれた腕輪を所望してくるが、勿論渡すわけが無かった。するとその話を打ち切るようにキリトが飛び立ち始めたので、俺も追及を辞めることにして、キリトの後を追っていく。
…せっかく、今晩はキリトが舞台を整えてくれるんだ。今日こそは…と、俺はひそかに心の内で決意を固めながら、空を舞い始めたのだった。
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ユウキ「アスナ、この<ヤドギリモクの葉>と<アサナメの樹液>掛け合わせるのってどうかな?」
アスナ「それは多分、ほぼ百パーセントでダメなものが出来ると思うけど…」
ボクが笑顔でアスナにそう訊ね掛けると、対するアスナは微妙な表情を浮かべる。だけど、まだこの組み合わせは研究していなかったし…とチャレンジ精神に突き動かされたボクは、アスナの制止を無視して、その二つの材料を配合させてしまった。
ユウキ「まぁ、物は試しだよね。掛け合わせてみるよ。…あ~、これは…。はい、アスナ味見!」
アスナ「いま絶対美味しくない反応したよね!?」
その二つを掛け合わせて誕生した、濃い緑色をした泥っぽい液体を、まずはボクが舐めてから、次いでアスナにも差し出す。アスナはボクに大声で喚いていたけれども、結局は恐る恐るそれを味見してくれた。
するとアスナは途端に顔を顰めて、近くに置いてあったガラスコップに入った水を一気に飲み干してしまう。そしてボクに送ってくれた感想は…
アスナ「た、食べちゃダメな味よこれ…」
ユウキ「やっぱり失敗しちゃったか~」
…これも失敗かぁ。中々美味しいものは見つけられないなぁ。やっぱり、料理って奥が深いんだねぇ…。だなんて感想を改めて抱いていると、アスナはボクの顔を覗き込みながら、おずおずと訊ねてきた。
アスナ「…も、もしかしてだけど…SAOの頃、アルファ君って毎日こんなの味わってたの…?」
ユウキ「うん、ほぼ毎日」
アスナ「…わたし、アルファ君のこと尊敬するわ…」
ボクがそれに答えると、アスナはやけにしみじみとした様子でそんなことを呟いていた。ボク達は今、ウンディーネ領の街にある、キッチン付きの宿屋の一室に滞在している。
そこでボクとアスナが行っていることは、間違いなく料理の研究なのだ。こうしてSAOの頃には無かった食材系アイテムを使って、それらを組み合わせたり、或いは既知の材料と掛け合わせたりしながら、新たなる旨味を発見しようとしているわけだ。
ユウキ「じゃあ次は<トリツメ──」
アスナ「──そ、そろそろ、アルファ君もこっちに帰って来たんじゃないかな!?試しに連絡してみたらどう?」
ユウキ「あ~、確かにそれもそうだね…」
そんなわけで、アスナに次なる掛け合わせを公表しようとしたのだけれど、何故か焦った様子のアスナがボクの言葉に重ねて発言してきちゃったから、ボクも自分の言葉を引っ込めて、それに返事をしたんだよね。
…そうだった。今日は、アルファが東京に帰ってくる日だ。この約一週間の間、現実世界でのアルファの姿も見られていないし、こっちの世界でもアルファと一緒に居られる時間がかなり少なくなってしまっていたこともあって、アスナの言葉を聞くや否や、ボクはやたらと彼に会いたくなってきたのだ。そんな様子を見透かされたのか、アスナが何処か揶揄うように笑いながら、ボクを指摘してくる。
アスナ「アルファ君の帰省中は、あんまりイチャつけ無かったんじゃない~?」
ユウキ「…ま、まぁね…アルファ成分が、ちょっと不足気味かもだよ…」
アスナ「へぇー、ならユウキは、欲求不満ってことなんだ~」
ユウキ「う、うん…」
いつの間にか話の主導権を握られていたボクは、おちょくるアスナに流されるままに、会話を続けていたのだ。そんな中ふと、アスナがボクに言う。
アスナ「じゃあさ、今晩はアルファ君と、お酒でも飲んだら?」
ユウキ「え?なんで?」
アスナ「こっちの世界でも、アルコールを摂取すると、ちょこっとだけ気分が高揚するの。すると…夜の営みも、いつもの…1.5倍」
ユウキ「い、1.5倍!?」
アスナ「そ、だから、どうかなって?」
ユウキ「う~ん…」
最初こそ、アスナの言わんとすることが良く分からなかったボクだけど…まさか仮想世界でも、お酒にそんな力があったなんて知らなかったよ…。
いつもの五十パーセント増しというのが、何を以てしての数字なのかは分からないけれど、例えそれが何であったとしても、どれだけ素晴らしい事かは十分に伝わって来た。だけどアスナの提案に、ボクは少し迷ったんだ。
アスナ「なんでそんなに悩んでるの?」
ユウキ「えっとね、アルファはあの苦い感じが嫌いで、お酒飲まないんだ。だから、それは難しいかなって…」
それだけが、ボクにとっての唯一の懸念点だった。SAOの頃から今日に至るまで、アルファは終ぞお酒を克服することは無かったのだ。SAOの頃から、ボクが何度かアルファにお酒を勧めてみたことはあるけれど、結局彼は、いつもいつも美味しくないと、お酒を口にしてはしかめっ面を浮かべていたことはよく覚えている。
アスナ「だったら、今日はわたしとキリト君と、ユウキとアルファ君の四人でお酒飲もっか」
ユウキ「…どういうこと?」
アスナ「わたし、甘いお酒の作り方知ってるから、それなら多分アルファ君も飲めると思うんだ。ジュースみたいだし」
ユウキ「それは良い案だけど…ユイちゃんはどうするの?」
アスナ「ユイちゃんは、今日は一日リズ達と狩りに出かけてるから、その点についても心配なし!」
ユウキ「じゃあ、その案に乗らせてもらおうかな」
如何やら今日この場に居ないユイちゃんは、リズやシリカと共に遠征しているらしいので、子供の目を気にせずはっちゃけても問題ないとのことである。
アスナはかなりの数のお酒のレシピを知っているらしいので、後で色々アスナから教わろうかなと、そんなことを考えていたその時だ。不意にアスナが、今度は確実にニヤリと口元を歪めながら、ボクの顔を眺めてくる。
ユウキ「ど、どうしたの?」
アスナ「この世界だと、お酒に酔うことは無いことはユウキも知ってるよね?」
ユウキ「う、うん。知ってるよ?」
アスナ「でもね、実はわたし……こっちの世界でも酔っ払っちゃうお酒のレシピ…見つけちゃったの」
ユウキ「へぇ~、凄いんだろうけど…それがどうかしたの?」
アスナ「…そのお酒を飲むと…なんと二倍」ボソッ
ユウキ「に、二倍っ!?」
アスナ「…で、ユウキはどうするのかな~?」
やっぱりボクよりも色々お酒のレシピを知り尽くしていたらしいアスナは、ボクに超絶悪魔的な提案をしてくれるのだ。二倍という文言に、ボクが途轍もない衝撃を受けながらもその様子を妄想していると、それがまたしても筒抜けであったのか、アスナはニヤニヤとボクを眺めている。…そして、ボクは…。
ユウキ「……ぼ、ボクに…そのレシピ。教えて欲しいな…?」
アスナ「勿論!それじゃあ、今からキリト君に連絡するね」
結局、自分の欲望に勝てなかったボクは、その恐ろしい作戦に加担するどころか、今後もそれを継続して行えるようレシピまで要求してしまった。それを聞いたアスナは満面の笑みで、ボクのお願いを聞き入れてくれる。
そんな様子を受けて、持つべきものは友って言うのは、こういう時の為にある言葉なんだろうね…だなんて思わずにはいられない。
ユウキ「…ってことはさ、アスナって、キリトにソレ飲ませたことあるの?」
ふと、話の流れでそれが気になったボクは、アスナに訊ねる。するとアスナは、急にケラケラと笑い出しながら答えてくれた。
アスナ「あるよ~。あの時のキリト君はね~、ホント面白かったんだよ?」
ユウキ「面白い?どういうこと?」
アスナ「あんまり酔っ払っちゃったもんだからね…こうやって、ワインボトルを二本、両手に持ったのよ」
ユウキ「うんうん」
アスナ「そしたらね…あははは!ご、ごめん、ちょっと待って…」
アスナは言葉を続けながら、まるでその時を再現するかのようにボトルを二本手に持って、だけどそこで限界が来たのか、また一人で大笑いしちゃった。
…これだと、ボクの中でのハードルが高くなっちゃってるけど、大丈夫かな?そんなボクの心の内など露知らず、アスナは一旦笑いを抑え込んで、続けてくれた。
アスナ「…ふぅ…。そしたらキリト君…「これが俺の全力だァ!うおおおおおっ!!スターバースト・ストリィィィィ────ムッ!!」とか言って、ワインボトル振り回し始めたんだ」
ユウキ「ア…アハハハッ!!な、なにそれっ、お腹っ、痛いよ~!!」
そんなボクの笑いのハードルを裕に越えてくれたアスナの発言に、ボクはその時のキリトを想像し、耐え切れずその場で転がり回る。笑い過ぎてお腹が痛くなり、腹部を抑えながらも、しかし込み上げる笑いは止まることなく、もうボクは涙目だ。
…もしかしたら、アルファもそんな感じでバカみたいなことし出すのかな?お酒を飲んだその後のこともだけど、それと同じぐらい、酔っ払ったアルファがどんな面白いことをしてくれるのか、もう一つ楽しみが出来たボクは、暫くアスナと共に大爆笑していたのだった。
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アルファ「お、来たか」
ユウキ「待った?」
アルファ「いや、全然」
ユウキ「じゃあ、行こっか」
アルファ「おう」
俺がALOにログインして一分ほどで、ユウキも同じくこちらへとログインしてきてくれたので、定型文的な会話を交わしてから、二人で夜の街を歩き始める。如何やら今日は、現実世界とALOの時間間隔がある程度一致しているらしい。
俺達の目的地は、キリトとアスナが借りてくれたらしいスイートルームであった。実はあの後、キリトの案内に従ってアスナの元へ向かうと、なんとそこにはユウキも丁度居合わせて、するとどういう訳か、流れるように今晩パーティーを開催することが決定したのだ。
こんなに複数人の意見が完全に合致することもあるんだなと、俺は物珍しいものを見たような感覚に陥ったものである。いつも通りユウキの小さな手を握りながら歩くこと数分、すぐに目的の宿屋が見えてきた。
ユウキ「にしても、アルファからお酒に挑戦したいって言うなんて、ボクびっくりしたよ」
アルファ「つっても、ジュースみたいだって話だからだぜ?ユウキ達が美味しそうに飲んでる奴は、無理だろうな」
ユウキ「そ、そっか…」
宿屋に入り、その最上階まで階段を登ると、その突き当りに一つの木の扉が現れた。そこをノックすると、内側からキリトとアスナが出迎えてくれる。如何やら既に色々と準備してくれていたらしく、もうテーブルにはワインやら軽食やらが並べられていた。
そのままキッチンに立ったユウキが、アスナと共にお酒のおつまみなる物を追加で用意してくれて、遂にパーティーが開催となる。
キリト「アルファ、これならほぼジュースだろうから、美味しいと思うぞ」
アスナ「ダメそうだったら遠慮なく言ってね?他にも用意してあるから」
アルファ「おう、気遣ってくれてありがとな」
キリトが俺のグラスに注いでくれたオレンジ色の液体は、匂いは全然お酒っぽくなくて、これはいけそうだと俺も期待を高める。するとユウキ達がグラスを手に持って、乾杯の音頭を取ろうとした。
ユウキ「それじゃあ!…えっと…今日は何なんだろ?」
キリト「適当に、アルファお酒記念とかで良いんじゃないのか?」
ユウキ「そうだね!じゃあ、乾杯ーっ!」
「「かんぱーい!!」」
余り締まりのない挨拶ではあったが、遂にパーティーが始まった。皆でグラスをかち合わせてから、俺も恐る恐る、アスナ特製のお酒に口を付けてみる。
ユウキ「…どう?」
アルファ「…確かに、あんまりお酒っぽく無くて、ちょっと甘くて…うん、美味しいな、これ」
アスナ「ホント?ならよかったわ」
…なるほど。確かにこれは俺でも美味しく頂けるお酒だろう。ということはようやく、俺もお酒の美味しさが解る年頃になったのだろうか。…そうに違いないだろう。俺も十分成長しているのだ!
…シラフなのにこんなことを考えるとは…いや、元からこんな性格していたか、俺は。とうとうお酒を飲むという行為でみんなと盛り上がれるようになった俺は、少し上機嫌だったわけだ。
それに何だかお酒を飲むと、何かを口に運びたくなるようである。キリト達と色々な話をしながら、俺はドンドンつまみを口に放り込んで、それで喉が渇いて、またお酒を口に含む。そんな調子でいると、すぐに俺のグラスは空っぽになってしまった。
ユウキ「アルファのグラス、空っぽになったね~」
アルファ「マジでジュースっぽくてさ、美味しく頂けたな」
キリト「なら、俺のワインも飲んでみるか?」
アルファ「そいつは遠慮しとく」
アスナ「アルファ君、もう一杯飲む?」
アルファ「じゃあ、お願いするかな」
キリトがニヤリと差し出してきた、ザ・お酒って感じの代物は断りながらも、アスナの問い掛けに俺が返事をすると、彼女はストレージから桃色の液体が入ったボトルを取り出し、それを俺のグラスに注いでくれた。
アスナにお礼を告げてから、俺はそのグラスに口を付けようとしたのだが…なんだ?これさっきのやつより、ちょっと匂いがきつくないか…?
ユウキ「アルファ?どうかしたの?」
アルファ「いや…これ、さっきのよりも度数強そうだなって」
アスナ「そんなに変わらないと思うから、きっと大丈夫だよ~」
アルファ「そ、そうか…」
…まぁ、アスナは俺でも飲めるお酒を造れるほどなのだ。きっとこれも、俺が飲めるようなお酒の一つなのだろう。そんなアスナへの信頼が、俺にソレを飲ませたのだ。
…なんだこれ。確かにすっげぇ甘くて酸っぱいけど…なんか喉が焼けるように痛いぞ…大…じょうぶ……か…?
そこで、俺の記憶は途絶えた。
────────────────────
「きーいーと~?」
キリト「お、おい!しっかりしろ!!頼むからしっかりしてくれ!?」
今にも地面に溶けてしまいそうなほど、ぼんやりと蕩けた表情を浮かべた彼は、呂律の回らないままキリトの名を呼び、フラフラとそちらへ近づいた後に、躓いたように彼の身体に倒れ込む。
「き~い~と~、どーしたの~?」
キリト「まずは自分のことを心配してくれよ!?だ、誰か!?助けてくれっ!!」
キリトの身体に倒れ込んだ彼は、そのままキリトを押し倒すように抱き着く。するとキリトは完全にテンパってしまったようで、酷く狼狽しながらボク達に助けを求めていた。
アスナは物珍しいものを見るように彼の様子を眺めているだけなので、ボクは試しに、彼の名前を呼んでみることにした。
ユウキ「アルファ~、キリトが困ってるよ?」
アルファ「ん…きいと、ごめんね?」
キリト「お、おう…」
ユウキ「…アルファ、こっちおいで?」
アルファ「うん!ゆーきー!」
ユウキ「よしよし、アルファはいい子だね~」
アルファ「えへへ~…ゆーきだいすきぃ…」
ボクがそう言うと、アルファはしょんぼりとした様子でキリトに謝る。すっかり気が動転してしまったらしいキリトは、そんなアルファの様子をガン見するばかりだ。
…もしかしたらこれは、いけるんじゃないかなと、ボクが試しにアルファに手招きをしてみると、彼はパッと笑顔を輝かせて、素直にボクの元までやって来てくれた。ボクはそんなアルファを捕まえるように抱き寄せると、彼もされるがままにボクに頭を撫でられる。
キリト「…なぁ、アスナ。アルファのグラスに何入れたんだ」
アスナ「あ、あはは…この世界でも、一杯で酔っ払っちゃえるお酒…」
キリト「なんてもの飲ませてるんだ!?見ろよあのアルファの姿!!俺の中のアルファは少なくとも、あんな感じじゃないぞ!!なんか口調変わってるし!!しかも子供っぽいし!!いつものアルファのカッコよさが欠片も無いぞ!?可愛さしか出てないぞ!?」
アスナ「ん~…ユウキは凄く幸せそうだし、あれで良いんじゃない?」
キリト「…俺達は、とんでもないことをしてしまったんだろうな…」
アスナ「でも、アルファ君が酔っ払うとこうなるってことは…アルファ君、本当は誰かに甘えてたいんじゃないのかな?」
キリト「なるほど…確かにアルファって、あんまり人に頼らないからなぁ…。実は甘えたがりだったりするのかもな…なら、これで良かったりするのか…?」
アスナ「結果良ければすべてよし。さ、わたしとキリト君は、もうちょっとお酒飲みましょ?」
キリト「…なんで俺のグラスにもアルファに注いだお酒入れるんだよ」
アスナ「だって…偶にはキリト君も、酔っ払ってもいいんじゃない?わたしもアルファ君みたいに、キリト君に甘えられたいかな?」
キリト「…もしかして、俺が一回酔っ払ったのって…これのせいなのか?」
アスナ「…さぁ?」
キリト「絶対にこれ飲みたくないんだけど!?俺はあんな醜態は晒したくない!!」
ボクの膝の上でネコのように丸まっているアルファの頭を撫で撫でしていると、外野からアスナの恐ろし気な提案と、キリトの大きな叫び声が聞こえてきた気がした。でも、今のボクにはもうそんなことはどうだってよくて、ボクの膝の上で心地良さそうに甘えているアルファに、若干胸を高鳴らせながら一つ訊ねてみる。
ユウキ「ね、ねぇ、アルファ」
アルファ「ん~…なに~?」
ユウキ「アルファはさ…ボクのどこが好きなのかな?」
アルファ「う~ん……ぜんぶすき~!ねぇ、ゆーき、もっとぎゅうして~」
ユウキ「…あぁもう、可愛すぎるよこのアルファ~!!」
アルファ「ありぃがとぉ…」
ボクはこの状況を利用して彼に愛を囁いてもらおうと画策すると、アルファは間の抜けた声で、ボクに上目遣いしながらハグを求めてくるのだ。
…アルファって、泥酔するとこんなにデレデレになるんだ。いつもはこんなに露骨に甘えてくれないからこそ、夜の営みで必死にボクを求めてくれる瞬間が凄く好きなのに、もうこんなアルファ見ちゃったら…ドキドキが止まらないよ…。
なんだかいつもの男っぽい口調とは違って、その可愛らしい顔相応に丸まった口調が、ボクの全身を更にゾクゾクとさせてくれる。お酒のせいなのか活舌が悪くなっているのも、その可愛らしさに一層拍車をかけていたのだろう。
そんなアルファを見てボクも堪らず彼を強く抱き締め、思いっ切り心の中の気持ちを叫ぶと、彼は大層気持ち良さそうに、ボクの胸に顔をうずめていた。
アルファ「あすな~、それおれが飲む~」
アスナ「そっかそっか。アルファ君はお酒飲めるんだもんね」
アルファ「うん!おれ飲める!」
アスナ「じゃあ、どうぞ」
キリト「あ、アスナ!?やめろ!!そんなことしたら更に大変なことに!!」
アルファ「あぅ~…」フラフラ
ふと、アルファがボクの腕の中からもぞもぞと動き出したかと思うと、彼はそのまま一直線に、アスナに例のお酒を飲まされかけていたキリトの元へと向かっていた。
そしてアスナの手からグラスを奪い取り、それを一気に飲み干した彼は、フラフラと千鳥足を描きながら、その場を往復する。するとそのままアスナの方へと倒れ込み、彼は彼女に支えられる形となった。
アルファ「ぅ~…あすな~がふたりぃ…」
アスナ「アルファ君、このままわたしの身体に寄りかかっててもいいのかな?誰かさん達が嫉妬しちゃうよ?」
ユウキ&キリト「「アスナ!?」」
アルファ「ん~、だめ~…あすなはきいとの…ゆーきはおれの~」
アスナ「そうだよね~、じゃあ、ユウキの所に行ってあげないと」
アルファ「うん!」
ユウキ「アルファ~、こっちだよ~」
アルファ「ゆーき、すきすきすきすき~!!」
アスナの発言に、アルファはあっと何かを思い出したように、首を回しながら何かを探しているようだった。なのでボクがもう一度手招きをしてみると、やっぱりアルファはこっちに寄って来て、そのままボクに抱き着き、際限なく愛を叫んでくれるのだ。
普段のアルファは、こうやって直接言葉では愛を囁いてくれない。どちらかと言うと彼は、行動でその愛情を示してくれるタイプだ。でもボクとしては、やっぱり言葉で伝えて欲しい気持ちもあるわけで、そんな欲求が、今この瞬間に充分過ぎるほどに満たされていく。
…もう夜の営みなんてしなくてもいいや…そんな風に思うにまで、ボクの心は幸福感で包まれていたのだ。そんな中キリトとアスナがふと気が付くとドアの前にまで移動していて、ボク達に告げてくる。
アスナ「それじゃあ、あとは二人でね?」
ユウキ「え?でも、ここ借りたのアスナ達じゃ…」
キリト「いいっていいって、もうあの様子じゃ、アルファは外歩けないだろ?」
アルファ「…ゆーきー…どこにも行かないで~…ずっといっしょがいいよ~…」
アスナ「それじゃあ、わたし達は適当に部屋借りて、飲み直そっか」
キリト「アレは勘弁してくれよな…」
キリトの言う通り、もうアルファはボクの身体にしがみ付いて離れてくれなくて、とてもじゃないが宿屋まで戻れる気がしなかった。なので二人の厚意に甘えさせてもらうことにして、この大きなスイートルームは、今晩はボク達の寝室と化してもらうことにする。
ユウキ「アルファ、ベットまで歩ける?」
アルファ「手つないでよー」
ユウキ「もちろんだよ」
すくりと立ち上がったボクは、アルファの手を引いてベッドに誘導し……結局、倫理コードを解除する。
…今日はもういいかなって思ったけど、この状態のアルファがどんな風になるのかが気になっちゃって、やっぱり今日もしちゃおうという訳だ。二人で一緒にベッドに倒れ込むと、ボクはそのままアルファを抱き寄せながら、軽く唇を奪う。そして…。
ユウキ「今日も…しよ?」
アルファ「…」
ユウキ「…アルファ?」
その後に、ボクが普段通り夜の営みを提案すると…彼は何故だか、いきなり黙り込んでしまった。しかもその表情はさっきまでの惚けたものでは無く、真剣そのものである。一体どうしたのだろうと、急激な彼の表情の変化を不思議に思っていると…
アルファ「……ごめんね…ごめんねぇ…ゆーきぃ…」ポタポタ
ユウキ「え、え!?あ、アルファ!?ど、ど、どうしたの!?何で泣いてるの!?」
突如、彼が涙を零し始めたのだ。アルファが涙を流すことなんてこれまでにも滅多になくて、それこそ、二年以上も一緒にいるけれど、まだ片手で数えられるぐらいしか、ボクは彼が泣いている所を見たことが無いのだ。それ故に、ボクにはその訳が全く見えてこなくて、酷く動揺してしまう。
…もしかしたら、そんなにボクとの夜の営みが嫌だったのだろうか。彼にとっては、それが負担だったのだろうか。そんなことを考えていると、彼が涙を流しながらも、その理由を教えてくれたのだ。
アルファ「…いつも、おればっかり良くてぇ…ゆーきは何も気持ち良くないんだよね…ごめんねぇ…何も喜ばせてあげられなくて、ごめんねぇ…辛い思いばっかりさせて、ホントにごめんね…」
ユウキ「そ、そ、そんなことないよ!?ボクだって気持ちいいよ!?…それに、ボクはアルファと一緒に居られて、毎日楽しいよ?辛くなんかないんだよ?」
…如何やら、涙の理由はボクの想像する様なものでは無かったらしい。でもアルファはアルファなりに、何かを思い詰めていたようで、彼はそれ故に泣き出したように見えた。彼の言葉に対して、ボクは彼を肯定するように、しかし嘘偽りなく本当の気持ちを伝える。
アルファ「…そうなの…?」
ユウキ「うん、そうだよ。ボクはアルファと一緒に居られて、毎日が凄く楽しいよ」
アルファ「…そっか!!」
アルファがおずおずとボクにもう一度それを訊ねてくるので、ボクが応えるように言葉を返すと、彼は途端に無邪気な笑顔を浮かべた。そんな彼の様子を見て、ボクも一安心する。
…アルファがそんなことを心の内で悩んでいたなんて、ボクは全く気が付けなかった。この二年間で大分アルファのことを知り尽くしたと思っていたけれど、如何やらそれは自惚れた考えであった。ボクもまだまだ、アルファのことを知れていないのだろう。
…もう、今日は夜の営みは、いいかな…と、そのモードを終えようとしたその時だった。不意にアルファが、変わらず笑顔でボクに告げる。
アルファ「でもね、おれ、たくさん勉強したから、今日はゆーきのこと楽しませられるよ!」
ユウキ「…べ、べんきょう…?」
アルファ「うん!今日はゆーきが一杯気持ちよくなれるように、おれ頑張るから!」
ユウキ「…え…?」
ユウキ「んぅ…!?」
…べ、勉強した?何を?が、頑張る?何を?その二つについてボクが尋ねようとしたその時には、アルファは既にボクの耳元に顔を近づけており、そのままふっと柔らかい吐息を吐き出した。
それが耳を優しく撫でた瞬間に、思わず変な声を漏らしてしまったボクに対して、彼は相変わらずお酒に泥酔したような蕩けた表情ではあるものの、手ごろな獲物を見つけたような獰猛な瞳で、ボクに告げる。
アルファ「…やっぱりゆーきは、耳がビンカンなんだ~」
ユウキ「んっ!?」
そう言った彼は、まるでボクの反応を楽しむように、もう一度息を吹きかけてきた。そしてボクもやはり、また少々甘い声を洩らしてしまうのだ。
アルファ「だいじょうぶ、おれに任せてね!」
ユウキ「ひゃう!?」
そう言ったアルファに、突然舌で耳を弄ばれ、ボクはまた勝手に変な声を漏らしてしまう。…なに!?なんなのこれ!?こんなのボク知らないよ!?
完全にボクの知識外の事態に移行し、ちょっとよく分からなくなってきたボクは、そのままアルファに好き勝手にされ始めたのだ。そしてそこからのボクの記憶は、非常に断片的であった。
ユウキ「く、首ぃ!?」
ユウキ「…やらっ、そんなとこ舐めないでぇ…」
ユウキ「早く…早くしてよ…ボクもう我慢できないよ…」
ユウキ「…こ、こんなにしゅごいなんて…聞いてにゃいぃ…!?」
ユウキ「……もう、ゆるしてぇ…らめぇぇ…あたまおかしくなりゅう…」
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窓の外から真っ直ぐに差し込んでくる太陽の光が、瞼の奥の瞳を刺激し、いつの間にか眠りに落ちていたことに気が付いた。そして俺は徐に瞼を開けると…。
アルファ「…な、なんだこれ…」
何故かは分からないが、俺はすっぽんぽんで…俺が抱き寄せるようにして腕を回したユウキもまた、俺と同じ姿をしている。そんな俺の背中を支えるのは、白く染まった柔らかいクッションであった。
俺はどうやらベッドの上に居るようで、そこから見える部屋の様子は…グラスやワインの空き瓶、お皿などが、テーブルの上に散乱しているといったものであった。ここは仮想世界である為、恐らくテーブルに残っていた軽食は全て、耐久値が尽きて消えてしまったと解せる。
…と言うか、ここってキリトとアスナが借りた部屋なんじゃないのか?……俺は、一体…何を…?
アルファ「……ぁ……」
そして俺は、思い出した。アスナに注がれたお酒を飲んだ後に、心のタガが外れてしまったことを。普段は抑え込んでいた気持ちを軽く爆発させてしまい、とんでもなく浅ましい姿をキリトは兎も角…アスナに…そして何よりも、ユウキに見せてしまったことを。
それを認識した途端に、脳から頬、そして全身にかけて有り得ない程の羞恥心が俺を襲い、是が非でも今すぐにこの場から飛び出してしまいたくなる。…と言うか、絶賛飛び出す三秒前だぜ!さぁ、みんなでカウントダウンといこうじゃないか!3、2、1──
ユウキ「…んん…」
アルファ「」ビクッ
ユウキ「…あ…アルファ…おはよ…」
──がしかし、俺がこのスイートルームの窓からジェット機の如く飛び立つ寸前に、ユウキが目を覚ましてしまったのだ。そんなユウキは既に俺の身体をガッチリと抱き締めており、俺は最早、この場から逃げ出すことは不可能であることを悟らされる。
アルファ「…お、おはよう…ユウキ」
何とか平常心を保つことに成功した俺は、取り敢えずユウキに朝の挨拶を返した。するとユウキは、なんだか目にハートマークを浮かべたような、何かの魅力の虜囚になったような表情で、更に身体を密着させながら俺に告げるのだ。
ユウキ「…ボクもう、アルファなしじゃ生きて行けなくなっちゃったよ?」
アルファ「」
彼女の言葉により、俺はもう一つ思い出し、一瞬の思考停止状態に追い込まれる。
…そう。ユウキに対して俺の内心の一部を曝け出してしまったその後に、俺は調子に乗って更にもう一杯のお酒を飲み干したことを。そしてそれに加えて、その後だ。俺がユウキと真の夜の営みを始めて交わしたあの日から、ずっと悩み続け、それ故に色々調べ上げていたテクニックの全てを注ぎ込み…文字通りユウキを滅茶苦茶にし、この部屋中に彼女の嬌声を響き渡らせたことを。
ユウキ「アルファ、また一緒にお酒飲もうね?」
アルファ「…もう二度と飲まねぇ」
ユウキ「…もう、アルファは意地悪だなぁ~」
…ユウキは昨晩大層お楽しみなさったようだし、如何やらドハマりしたようだし…これはこれで良かったのでは無いだろうか?彼女のはにかむ笑顔を見た俺は、そう思わずにはいられなかった。
…まぁ、俺が想定していたような流れでユウキを喜ばせることは出来ず、寧ろその過程で俺の醜悪な姿を晒しだす羽目にはなってしまったが…兎にも角にも、ユウキを満足させるという一番の目的を達成出来た俺は、深く安堵のため息をついたのだった。
ユウキの謀略は…失敗?
これにて夏の楽しい性活は終了です。
次回の投稿日は、二月十五日の火曜日となります。
では、また第129話でお会いしましょう!