では、どうぞ!
現在、アルファとユウキは、第3層の迷宮区を探検している。ディアベル率いるナイツ・オブ・ホープは他の前線組を差し置いて、いち早く迷宮区の最上階に辿り着くことを目指しているようだ。
前線組の中で唯一のギルドであるということもあり、率先してボス戦に挑む準備をするべく、最短ルートを選んで塔を上り詰めているのだろう。
そういう訳で、彼らには完全にはマッピングができていない箇所もあり、そういう所を、二人でマッピングしている。勿論、その理由はあれだ。曲がり角を右に曲がって歩いて行くと、すぐに行き止まりだったが、その先に宝箱を見つけた。
ユウキ「あの宝箱まだ空いてないよね?」
アルファ「…開けてみるか?」
ユウキ「うん!」
アルファは今の二人のレベルなら、万が一宝箱にトラップが仕掛けられていても、この層のモブには遅れを取らないだろうと判断し、ユウキが宝箱を開けるのを見守る。宝箱の中身を確認したユウキは、何だか微妙な表情を浮かべていた。
アルファ「…どうしたんだ?」
ユウキ「いやー、中に入ってたものがボクには必要のないものだったからさぁ」
そう言ったユウキはアイテムを具現化させる。アイテム名は<アイアンシールド>どうやらタンク用の盾だったらしい。確かに、宝箱を開ける瞬間はウキウキするものだが、中身を見てガッカリすることも少なくない。所謂、ソシャゲのガチャみたいなものだ。
アルファ「そういや、ユウキって盾は装備しないのか?」
ユウキ「そうだね、ボクはスピードを重視してるからしないかなー」
そういった会話をしながら、迷宮区から脱出するために出口へと向かう。その道中に、昨日俺達を森に誘い込んだ元凶、エルダー・トレントと何度かエンカウントしたが、二人の息の合ったコンビネーションを前に、為す術もなく撃破されていった。迷宮区を出るころには二人とも一つレベルを上げており、ボス戦までの準備は万端といったところだ。
本日、ディアベル達がボス部屋を発見したらしく、今日の5時から攻略会議が開かれる予定になっている。時間ちょうどに会場に着いたアルファとユウキは、ボスについての最終確認の説明を受けた後、明日のボス戦に備えて休むことにした。
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翌日の午前8時ごろ、アルファの脳内に強制起床アラームが鳴り響いた。正直なことを言うと、このまま二度寝してしまいたかったが、今日は3層のフロアボス討伐という大切な仕事があるので、何とかベッドから這い出てシャワールームに向かう。
この世界ではお風呂に入らなくても体が臭くなったりすることはないが、そういうのは気持ちの問題だ。まだ眠気が覚めない顔に冷水を浴びせて、俺は無理矢理だらける気持ちをリセットした。
今日泊まった宿は、町の一角にある民家の空き部屋である。この部屋には浴槽があった為、アルファはこの場所を見つけた瞬間、無意識に部屋を借りていた。ユウキも隣の空き部屋を借りたので、集合場所はこの民家の前で8時10分に、ということになっている。アルファは少し早めの五分前に部屋出てユウキを待とうとしたが、どうやらその必要はなさそうだ。
アルファ「あー、待ったか?」
ユウキ「ううん、ボクも今きたとこだよ」
アルファ「…」
ユウキ「どうしたの?」
アルファ「…いや、何でもない」
アルファはその定型文から、まるでデートの待ち合わせをしたかのような錯覚に陥った。しかし、今から向かうのはワクワクドキドキ女の子とのデート…ではなく、ボス部屋という死地なので、気を取り直して朝ご飯を食べに行く。…と言っても軽めにパンを食べただけだが。
朝食が済んだ後、前線組が集う場所に足を運んで、予定時間の9時になるまで待っていた。例のごとくディアベルが場を仕切り、たった今、約四十人でボス部屋目掛けての大進行が行われている。襲い掛かってくるモブなどは前線組の腕自慢たちに任せつつ、アルファはキリトと喋っていた。
アルファ「なぁ、エルフクエって今からでも遅くないと思うか?」
キリト「やってなかったのか?…俺的にはやり得だと思うぞ。それに今回はボス戦攻略に役立つ情報も得られたからな」
アルファ「そうだよな…」
クエストにはコルや経験値が得られるだけでなく、そういった大切な情報を入手できるというメリットも存在するということが、前層の2層で明らかになったらしく、それに気が付かなかった前線組は、フロアボス戦で崩壊寸前までいったらしい。
その反省を活かして今回は隈なくクエストをクリアした所、エルフクエストでボスが毒攻撃を多用してくることが分かり、前線組は事前に解毒ポーションを大量に準備したということだ。
そろそろボス部屋が近づいてきたので、俺はユウキと最終確認を行っていた。
アルファ「ユウキ、俺たちH隊のメンバーは俺、ユウキ、キリト、アスナだ。役割はダメージディーラーと取り巻きの処理、取り巻きは俺とキリトが相手の攻撃を対処するから、その隙にユウキとアスナがダメージを与えてくれ」
ユウキ「わ、分かったよ」
アルファ「そんでボスに関しては注意するべき点は薙ぎ払い攻撃と雄叫び、だ。特に雄叫びは食らっちまうとスタン状態になるから、モーションが見えたらすぐに後退してくれ」
アスナ「アルファ君ってなかなか指揮能力が高そうね。…どっかの誰かさんとは違ってリーダーとか向いてるかもよ」
キリト「お、俺だって、いざという時にはだな…」
それから、恒例のキリトとアスナの漫才が始まったが、珍しくアルファはそれに参戦することはなかった。その理由は、常に表情が色とりどりに変化すると言っていいほど、感情豊かなあのユウキの表情が、迷宮区に突入してから仏頂面の一色で、全く変化する様子がないからだ。
アルファはユウキが緊張しているのだろうと思い、すぐにアスナにユウキのことを任せたのだが、アスナでもユウキの緊張をほぐすことはできなかったようだ。
しかし、このままボス戦に挑んでしまっては、緊張で体が動かないということにもなり兼ねないので、何とかしようとアルファは頭を捻らせた。そして何を思いついたのか、突然ユウキの前に立ちはだかる。
アルファ「ユウキ……そらっ!」ピンッ!!
ユウキ「ふぇ!?」
そう言ってアルファは、不意にユウキのおでこにデコピンした。ユウキはおでこを抑えながら、俺を睨みつけてくる。
ユウキ「…何するのさ、痛いじゃん!」
アルファ「そんなに気負いすぎるな、ユウキはいつも通りやれば俺より強いんだからよ」
ユウキ「……ありがと。そうだったね…ボクはアルファよりも強いんだからボク守ってあげないとね!」
…何やら余計に元気になった気がするが、この際もう良いだろう。
アルファ(昔、姉貴にされてたことがこんな所で役に立つとはな…)
アルファは現実世界で緊張していた時、何かと姉にデコピンをされ、その度にアルファの心が平常運転に戻っていたので、もしやと思い、ユウキに試してみると大成功したというわけだ。
とうとうボス部屋の前に辿り着いたレイドメンバーは、ディアベルの掛け声と共にボス部屋へと足を踏み入れた。
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ディアベル「二本目終了!取り巻き復活する!」
「「おう!」」
アルファ達はディアベルの指示に従って、取り巻きがポップするであろう場所に移動する。3層のフロアボス、巨大な怪樹<ネリウス・ジ・イビルトレント>の四本あるHPバーの二つ目を削り切ったことでリポップした、<イビルトレント>のタゲを取るべくアルファは両手剣で即座に斬りかかった。
イビルトレントが鋭利な枝先を突き出してくるが、アルファは剣を巧みに操って突きの軌道を逸らし、その間にユウキがイビルトレントの背後に回り込んで、ソードスキルを枝先にクリーンヒットさせる。
イビルトレントはユウキにヘイトを向けるが、その隙に、キリトとアスナにソードスキルを炸裂させた。僅かに残ったHPをアルファが削り切り、持ち場の取り巻き全員を撃破する。四人は持ち場以外の取り巻きをそれぞれの隊に任せてボスの元へ向かった。
ユウキはボスの周囲を縦横無尽に駆け回って、ボスを翻弄しながら攻撃を浴びせていく。それはまるで、ユウキの背中には羽が生えているかと思うほどの軽快な動きであった。更に、ユウキは攻撃に夢中になることはなく、引くべきところはしっかり引くという綺麗な立ち回りを、これまでのレベリングと同様に展開していた。残りの三人も。ユウキの見事な立ち回りに感化されるようにしてボスに猛攻を仕掛けていく。
ボスは頻繫に広範囲毒化スキルを使い、レイドメンバーを毒状態にしようと試みていたが、解毒ポーションを必要以上に持ってきている彼らには効果が薄かった。アルファのソードスキルが炸裂し、三本目のHPバーが尽きる。
ディアベル「四本目突入!ボスの行動をしっかり見るぞ!」
なるほど、ディアベルも一層以来、ボス戦の厳しさを再認識し、しっかりとボスの行動パターンを把握しようとしているようだ。ディアベルの成長に感心していると、ボスはその大樹から木の実を実らせ、爆弾のようにプレイヤー目掛けて投げつけてきた。直撃すると大ダメージを食らいそうな威力っぽいので、当たらないようにしっかり回避していく。
しかし、ボスが投げつけた木の実の中から、少しずつ紫色の煙が漏れ出し、それは辺りに蔓延した。どうやら、毒の煙だったようで視界の右端に毒アイコンが表示される。
すぐさま解毒ポーションを使いデバフを解除したが、突然前方で風を切る音がしたので、急いで後退すると、元にいた位置にボスの腕が叩きつけられた。恐らく、視界が阻まれる煙を利用した闇討ちがボスの最終手段なのだろう。近くでプレイヤーが吹き飛ばされる音がする。
アルファ「煙に紛れて攻撃してくるぞ!風と煙の動きで判断しろ!」
アルファは急いで周囲のプレイヤーに注意喚起しておく。幸い、数分後に煙が晴れたので、もう一度あのような状況になってしまう前に、素早くボスを倒すべく動き出す。ユウキも同じ考えに至っていたようでボスに向かって走り出していた。ボスがこちらに気が付き、腕を振り下ろしてユウキを押しつぶそうとするが、ユウキは紙一重でそれを躱し、華麗に片手剣三連撃技<シャープ・ネイル>を腕に叩き込む。
ボスの体力は大きく削れたが、連撃技であるが故、ユウキに硬直時間が生まれた。ボスはその隙を逃すまいと、もう片方の腕でユウキを叩きつけようとする。だが、アルファが間に割り込んで、上段斬り二連撃<カタラクト>を発動させることで、ボスの攻撃を相殺した。ボスが怯んだ所で二人は後方へ下がり、陣形が整ったタンク部隊に前線を任せて、削れた体力をポーションで回復する。
キリトとアスナがボスに猛攻を仕掛けているが、中でもアスナの持つ銀色に輝くレイピアの威力は素晴らしいものだった。ボスの体力が残り僅かとなった時に、アルファはユウキに話し掛ける。
アルファ「ユウキ…LA取りにいこーぜ」
ユウキ「奇遇だね…ボクも同じこと考えてたよ」
ちょうどボスが薙ぎ払い攻撃のモーションに入り、前線を張っていたプレイヤー達が一歩下がった。その合間にアルファとユウキは思い切って、ボスに向かって駆け出した。
アルファ「おらあああ──ッ!!」
ユウキ「ハアアアア──ッ!!」
ほぼ同時に、二人はそれぞれの突進系ソードスキル、<ソニックリープ>と<アバランシュ>をボスの体に打ち込み、二人はボスのその巨体をポリゴン片に変化させたのだった。
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エギル「コングラチュレーション!この勝利は間違いなくアルファとユウキ、二人のものだぜ!」
ボスが撃破され、歓喜に包まれていたボス部屋の中、エギルが労いの言葉を送ってくれた。アルファはサンキューな、と答え、その場に倒れ込む。ユウキは、レイドメンバーから色々と質問攻めに遭っており、少し困った様子だった。だが、それもユウキの一線を画す強さ故なのだから、仕方のないことだろうと思い、放置しておく。
キリトはLAを取れなかったのが相当悔しかったのか、次は負けないからな!、と謎の対抗心を燃やしており、アスナに、やっぱりお子ちゃまね…、と小馬鹿にされていた。
勝利のほとぼりが少し冷めた後、キリトとアスナは第四層に向かい、ディアベルたちは一度主街区に戻ることにしたらしい。アルファとユウキもエルフクエストを進める為に一旦主街区に戻り、少し休憩してからクエストを進めて、キリの良いところで中断し、第四層に向かうべく転移門を目指していた。
ユウキ「…やっぱり納得いかないよ!どうしてアルファがLAゲットしたのさ」
アルファ「んー、ちょっと俺のソードスキルの方が速かったんじゃねえの?」
ユウキ「ボクの方が速かった!!」
ユウキはLAを取り損ねたのが悔しかったらしい。…キリトみたいだな、と思いながらも、こっちも言ってやりたいことがあったのを思い出した。
アルファ「そもそも、なんでユウキはあそこでシャープ・ネイルを打ったんだ?流石にあれはボスから反撃喰らうって分かってただろ?」
確かに、あの一撃はボス討伐に大きく貢献したのは事実だが、あまりにリスクが高すぎるので、今後はやめてほしいとアルファは思う。するとユウキは、小悪魔な笑みを浮かべてこう言った。
ユウキ「…だってアルファはボクが傷つくのは嫌なんでしょ?だからアルファが守ってくれるって信じてたから…ね?」
…そういうことか、どうやら俺はこの前の洞窟で思ってる以上に恥ずかしい発言をしていたようだ。…いや、もちろん仲間が傷つくのは嫌なのでそれを正直に言ったまでなのだが、これはそういう問題ではない。
アルファは無言でユウキにデコピンを決め、早足で転移門へ向かう。
ユウキ「イタっ、なにさ!」
アルファ「……早く四層に向かうぞ」
ユウキ「ちょ、ちょっと待ってよ~!」
ユウキは駆け足になったアルファに追いつこうと、小走りして転移門に向かって行く。チラリと横から見えるその表情は、どこか楽しげであった。
はい、というわけで三層終了です。アルファが獲得したLAがどんなアイテムなのかは、近いうちに明らかになると思います。
では、また第14話でお会いしましょう!