~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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第131話 何でもない日

 九月二十七日、午後八時半。

 

 キリト「…」

 

 新生アインクラッド第十二層の宿屋一角にて、我が友がここを訪れてくれるのを、俺は随分と待ちわびていた。

 旧アインクラッドの十二層はフィールド全域が蒼々としたジャングルに覆われており、毒虫やら毒蛇やら、猿だのゴリラだのに苦戦させられたのだが、一方新生アインクラッドの十二層は、そのジャングルのほとんど全てが枯れ切っており、萎れた荒野と化している。そんな様子からは、微塵も過去の気持ちを想起することは出来ない。

 がしかし、主街区の様子は然程変わっておらず、俺はこの層でかつて泊ったことのある宿屋に彼を呼んだのだが…そろそろ来てもらえないだろうか。今の俺には時間が無いんだ。

 そんな俺の逸る気持ちに応えるように、扉がノックされたかと思うと、すぐにそこから友が姿を現してくれた。

 

 アルファ「よお、キリト」

 

 キリト「よ、アルファ」

 

 アルファ「キリトが呼び出すなんて珍しい…訳でもねぇけど、俺だけってのはかなり珍しいな」

 

 キリト「まぁ、今日は二人で話したいことがあってだな…」

 

 ユイ「パパ!わたしもいますよ!」

 

 如何やらアルファは、ちゃんと俺との約束を守って一人でここまで来てくれたらしい。コイツのことだから、ユウキも一緒に連れてきたりしかねないと思っていたのだが、それは杞憂だったようだ。

 彼の言う通り、俺がみんなを呼び出して狩りの手伝いをしてもらったり、或いはトレジャーハントしに行ったりすることは珍しくは無いのだが、彼だけを呼び出すというのは…まぁこれもかなりあると思うんだが…兎に角、宿屋に呼び出すパターンはこれが初めてだろう。

 早速本題に入りたいと思った俺が話を切り出そうとすると、そこは愛娘にしっかりと訂正を入れられた。だが既にユイからは、至極真っ当ではあるものの、それ故に答えを出し辛い解答を頂いており、残念ながらこれ以上俺の求める答えを出してくれる気がしなかったので、こうして彼を呼び出したというわけである。

 

 キリト「ってことで、三人で話したいことがあるんだけど…」

 

 アルファ「おう、どうしたんだ?」

 

 キリト「…アスナの誕生日プレゼント、どうすれば良いと思う?」

 

 本当は今日の昼休みにこれを訊ねようと思っていたんだけど、俺とお前の授業の都合が合わなかったから今になって…というような回りくどいのは無しに、俺は単刀直入に真剣そのもので一番聞きたいことをアルファに伝える。

 すると彼はまじまじと俺の顔を見つめてから、ようやく返事を…いや、逆に訊ね返してきた。

 

 アルファ「…おいキリト、アスナの誕生日って三日後だろ?もう何かしら決まってるんじゃないのか?」

 

 キリト「…それがなぁ…中々難しくて、まだ決まってないんだよなぁ…」

 

 アルファ「まぁ気持ちは分からんでもないけど、流石にもう決めとかねぇと本格的に不味いだろ」

 

 ユイ「だからわたしもそう言ってるじゃないですか!パパはあれこれ考え過ぎですよ!ママはパパからの贈り物なら、なんだって喜んでくれます!」

 

 彼と愛娘の最もな指摘に、俺もぐうの音も出ないのだが…アスナは、あれが欲しいとかこれが欲しいとか、全然話さしてくれないのだ。

 勿論、だからといって彼女に欲しいものが全くないという訳では無いのだろうけれど、露骨に欲しいものある?だなんて聞くのは俺のちっぽけなプライドが許してくれないし…。

 そういう訳で、アルファにヘルプを申し出たのだが、彼の調子を見る限り余りいい結果は得られなさそうだ。そんな見解を打ち立てていると、アルファがユイちゃんに向けて、チッチッチと右指を振りながら話し掛ける。

 

 アルファ「あー、ユイちゃん。ユイちゃんの言い分は、概ね正解なんだけど…ちょっとだけ、足りない部分があるんだぜ?」

 

 ユイ「そうなのですか?アルファさん」

 

 アルファ「あぁ。勿論、アスナはキリトから貰えるもんなら…そうだな、激マズ珍味百選とか贈らない限りは喜んでもらえると思う。でもキリトだって、出来ることならアスナの最高の喜びを見たいんだ。だからこうやって、一生懸命になってアスナへの誕生日プレゼントを考えてるんだ…よな?キリト?」

 

 キリト「お、おう、そうだぞ、ユイ?」

 

 …コイツのせいで、なんだかアスナへの誕生日プレゼントのハードルが上がった気がするが、まぁ、俺もアルファと同じような気持ちは抱いている。

 いきなり話を振られて少しビックリしてしまったが、ここは首肯しておこう。…ていうか、激マズ珍味百選ってなんだよ。俺がアスナにどんな誕生日プレゼント贈ると思ってるんだコイツは。

 

 ユイ「なるほどなるほど…アルファさんは、結婚はせずともパパよりも経験豊かなんですね!」

 

 アルファ「いやいや、そんなことねぇって」

 

 ユイの褒めちぎりに対して、朗らかに笑いながら一応謙遜している彼の様子を、そして、時折ユイに豆知識的な情報を伝授する彼の様子を見て、俺は思わず、近所の優しいお兄さんというものはこういう感じなのではないかと、勝手なイメージを膨らませていた。すると彼が俺にまた訊ねてくる。

 

 アルファ「それで、実際のところは、選択肢三つぐらいには絞れてるんだろ?だったら、もう後はお前の直感で──」

 

 キリト「──いや、本当にまだ何も決まってないんだ」

 

 俺が彼の言葉に重ねるようにそう言うと、彼は今度こそ表情を硬直させた。

 

 アルファ「…は?あと七十二時間も無いんだぞ?」

 

 キリト「だからこうやってアルファに助けを求めたんだよ。アルファなら、ユウキに誕生日プレゼント渡したことあるんだろ?だから何かしらアイデアを貰えないかと…」

 

 アルファ「いや、助けを求めるならせめて一週間前には頼ってくれよ。今からじゃどうしようもねぇって」

 

 キリト「まだ大丈夫だ。明日に買いに行ってもいいし、ネット通販だってある」

 

 アルファ「…まぁ、そうだけども…」

 

 彼の言うことはやはり最もである。俺だって、アルファに早い段階から助けを求めようとも思わないでもなかった。だが、やっぱり自分の好きな人の誕生日プレゼントぐらい、自分でしっかりと考えないとダメだよな、だなんて理想を抱いているうちに、こうして日々が過ぎ去ってしまったということである。

 一応、ここで考えを纏められれば、買いに行けるだけの時間は充分とは言えないが何とかなる範囲であることを伝えると、彼は半分だけ納得いったような表情を浮かべてくれた。

 

 キリト「それで、アルファならどんなプレゼントを贈るんだ?俺と一緒に考えてくれよ」

 

 アルファ「えー…んなもんキリト以外に考え付かないだろ。もう帰ってもいいか?」

 

 キリト「…一緒に考えてくれないなら、あの日のことみんなにバラす」

 

 アルファ「は!?それだけはマジで勘弁なんだが!?」

 

 俺が改めて彼にそう頼み込むと、アルファは露骨に嫌そうな顔をしてから、俺の向かいにあるソファから腰を上げて宿屋を去ろうとした。だがそこで俺が必殺のカードを切らせてもらうと、彼は慌ててこちらに向き直る。

 そのアルファの焦った表情が面白くて、ついつい吹き出してから、不愉快そうな面でソファに座った彼に、もう一度訪ね直した。

 

 キリト「どうだ?一緒に考えてくれる気になったか?」

 

 アルファ「…キリト、お前サイテーだわ、俺はそんな子に育てた覚えは無いぞ。…ユイちゃんも、人の弱みに漬け込むような大人にはなっちゃダメだからな」

 

 ユイ「ユイはアルファさんに関するパパの隠し事が気になります!」

 

 キリト「うむ。アルファがオレを裏切った暁には、ユイにもそれを教えよう」

 

 俺が詰め直すと、どうやら彼にとってはあの出来事の口外はジョーカーだったようで、嫌味をぶつけながらも俺の相談事に乗ってくれる気になったらしい。

 因みにだが、あの日とは言わずもがな、約一カ月前に、アルファがアスナとユウキの策略によって泥酔してしまい、彼の内心が暴走してしまったあの日のことを指している。まさかアルファがあんな風になってしまうとは、俺も完全に想定外だったわけで、俺は今更ながらに、あの時の映像を記録しておけばよかったと後悔しているのだ。

 なんかいつもと違った甘えモードの彼に、俺も色んな意味でかなりの焦りを募らせたことは、まだ記憶の中でも新しい。あれぞ正しく、ギャップ萌えという奴なのだろう。もしあれが女の子だったら…あぁ、アスナに殺されてただろうな。

 

 アルファ「まず最初に言っとくけど、俺がユウキに誕生日プレゼントしたことがあるのってSAOの時の話だからな?リアルの誕プレなんて俺も全く分からん」

 

 キリト「おいマジかよ。まぁ、一応聞いておくけど、何をプレゼントしたんだ?」

 

 アルファ「…一年目は、ペンダント。二年目は、部屋着…と初めてのハグだな」

 

 キリト「一番最後の情報は余計だとして…ユウキがずっと身に付けてたペンダントって、アルファ由来だったのか」

 

 アルファ「まぁな、あれ結局七十五層の時でも、アクセサリーとしては中々いい性能してたんだぜ」

 

 キリト「ていうか、何だかんだでアルファって、SAOの初期からずっとユウキと一緒なんだなぁ…。しかもちゃんとその頃からお互いの誕生日も把握してたんだろ?俺達なんて、リアルに戻って来てから初めてお互いの誕生日知ったんだぜ?…あぁ、そのペンダントどこで手に入れたん…」

 

 ユイ「パパ、話が逸れてますよ」

 

 キリト「あぁ、ごめんごめん」

 

 俺よりも長い間恋人と付き合っているのだから、勿論頼りになるだろうと思っていたアルファが意外にも頼れなさそうなことに不安心を抱きながらも、俺が誕プレについて訊ねると、なんかアルファが懐かしむような表情で惚気やがった。

 それは一旦スルーしておいて、ユウキが大事そうにいつも身に付けていたペンダントにはそう言う意味があったのかと一人納得し…であれば、既にその時からユウキはアルファを好きになっていたのでは?などと勝手な思考を巡らせ、その末に、そんなに高性能なペンダントならば、俺も是非とも手に入れたいとそれを言葉にしようとすると、ユイに呼び止められた。

 そこで話が脱線していたことに気が付いた俺は、再び直面している現実の壁を認識する。…さて、部屋着をプレゼントするのは…アスナは、色々服を持ってるから、余り嬉しくないかもしれないな。なら、ペンダントなら──

 

 アルファ「──ペンダントは、あんまりおススメしないぞ」

 

 キリト「…なんでだ?かなりいいと思ったんだが…」

 

 アルファ「だって考えてみろよ。俺達学生だぜ?制服の上からペンダント付ける訳にもいかねぇだろ。SAOだと装備の一環として成り立ってたけど…リアルじゃ出番が少なすぎるんじゃないか?」

 

 キリト「…それもそうだな…でも、だったらどうすれば…」

 

 アルファ「キリト、一つだけアドバイスしてやるよ。最近のアスナをよく思い出せ、さすれば自ずと、誕プレに相応しきものが見えてくるだろう」

 

 何故か俺の思考を読み取ってしまった彼は、そのかなり核心的な意見を呈示し、確かにペンダントは実用性が無いかと俺も納得する。

 なれば結局どうしようもなくなった俺は、また途方に暮れかけていたのだが、そこでアルファがふと俺に珍しく難しい言い回しで答えたかと思うと、またソファから腰を上げた。

 

 キリト「…因みに、アルファはアスナに何かプレゼントするのか?」

 

 一応彼は相談に乗ってくれたのだ。後は自分で何とか考えるしかないだろうと、今度は去ろうとする彼を無理矢理引き留めるわけではなく、単に疑問に思ったことを訊ねたのだ。すると彼は俺に笑い掛けながら、それに応える。

 

 アルファ「まぁな。でも俺がアスナにプレゼントするのは、全人類共通で大好きな単なるお菓子だから、キリトより目立つことはねぇよ」

 

 …なるほど、お菓子って手もあったか…。一歩先に良さげな案を奪われてしまった俺は、これはもうしばらく真剣に考えないとダメだなと、しばらく一人で唸り続けるのだった。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 アルファ「今し方戻りました」

 

 ユウキ「待ってたよ、アルファ」

 

 キリトの無茶苦茶な人質外交のせいで、アイツの恋人へのプレゼントを一緒に考えるとか言う俺にとっては無意味とも解せるを過ごさねばならなくなった結果、予定していた時刻よりも少し遅れて、俺はユウキに指定された宿屋へとやって来た。

 その客室の一室をノックし、ドアを開けると、ユウキが笑顔で出迎えてくれる。その可愛らしくて眩しいユウキの笑顔を見るだけで、俺も普段なら自然と喜びの笑みを零していたのだろうが…今回、俺の口から零れた笑みは、多分引き攣っていたと思う。

 

 アルファ「…今日は、実験の日なのか…?」

 

 ユウキ「まぁ、その件について少しお話があるから…ね?」

 

 ユウキが右手に小瓶を持っていることに気が付いた俺は、次いで、これは不味い調味料を食わされることを確信し、すぐさま客室を後にしようとしたのだが…ユウキにがっしりと腕を掴まれ、グイと客室へと引っ張られてしまう。

 なんとか暴れ回ってこの場から脱出してもいいのだが、そんなことした暁にはユウキに怒られるかもしれないし、大人しく彼女に従うことにしよう。俺はまるで食虫植物にでも捕まったような絶望感を覚えながらも、ソファへと無理矢理座らされる。

 

 アルファ「それで、お話とは…?」

 

 ユウキ「実はね、この前トレジャーハントしてたら、珍しいクエスト見つけたんだ」

 

 アルファ「おう…」

 

 俺の隣に腰掛けたユウキがメニューウインドを可視化し、その件のクエストの内容を直接見せてくれた。何か食べさせられることを予感していた俺は、ユウキの予想外の言葉に少し面喰いながらも返事をする。

 

 ユウキ「見たら分かると思うけど、このクエスト、受けられる場所が凄く分かり辛い上に、料理スキルがカンストしてないと受けれないんだ」

 

 アルファ「まぁ、そうらしいな」

 

 ユウキ「それでね、なんとこのクエストの報酬、色んな味のお茶が湧き出てくる魔法のマグカップなんだって!」

 

 アルファ「へぇ、そりゃすげぇな」

 

 ユウキ「でしょ?ボク、アスナの誕生日プレゼントはこれにしようと思ってさ。だからアルファには手伝って欲しいんだ」

 

 アルファ「了解だ」

 

 取り敢えず適当な相槌を打ちながら、これは、本日は高確率で激マズな調味料の味見をしなくてもいいのではないかと、単にクエストのお手伝いをすればいいだけなのだと、そう結論付けた俺は、ユウキの受諾したクエストを一緒にクリアしようと思い、ソファから立ち上がろうとしたのだ。

 だがいつの間にかまたユウキが俺の右腕を掴んでいたようで、上手く立ち上がることが出来ず、俺は一度中腰になってから再びソファに腰を下ろさざるを得なかった。

 

 アルファ「どうしたんだ?クエストクリアしに行くんじゃねぇの?」

 

 ユウキの行動に疑問を生じた俺は、特に何も考えることなくそう訊ねたのだ。するとユウキは嫌にニヤニヤとした笑顔で俺に告げてくれる。

 

 ユウキ「実はそのクエストの内容、ALOの中にある調味料系のレシピの70%を見つけることがクリア条件なんだ」

 

 そんなユウキの口から放たれた言葉は、俺を戦慄させるに充分であった。

 

 アルファ「……ま、まさか…」

 

 ユウキ「そうだよ。ボクはさっきから沢山調味料を開発してるんだけど…それだけだと勿体ないから、アルファに味見してもらおうと思ったんだ」

 

 アルファ「」

 

 ユウキ「アハハッ!そんな顔しなくても大丈夫だよ~、ホントに不味いのは偶にしか食べさせないからさ~」

 

 アルファ「…偶には食べさせるんだな…」

 

 …なんだ、いつもの実験よりも酷い結果になるじゃないか。ユウキの口からその絶望的なクエストクリア条件を聞いたその時、俺がどんな顔をしていたのかは分からないが、ユウキは大層愉快そうにケラケラと笑っていた。

 …七十パーってことは、確か現状ユウキが見つけたレシピは54パーって言ってたから…あと16パーか。それまで俺の身体は持つのだろうか…とそんなことを思いつつも、俺がそれを拒否せずにユウキの調味料を味見し続けるのは、認めたくはないが、何だかんだでユウキの作る不味い調味料を楽しんでいる俺がいるからなのだろう。

 

 ユウキ「はい、じゃあ最初はこれね!」

 

 ユウキに差し出された小瓶の中身を舐めた俺が、最初に浮かべた表情は、当然の如く不味いの一択であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルファ「よ、アスナ。今日は会うの初めてだな」

 

 アスナ「おはよう、アルファ君」

 

 リズベット「あたしに挨拶は?」

 

 アルファ「お前はさっきの授業一緒だったろ」

 

 本日九月三十日。アスナの誕生日である今日はまさかの一、二限が体育。その後に続いた三、四限がどちらも選択授業だったこともあって、アスナと面と向かうのは、昼休みに教室に戻って来た今が第一回目であった。

 リズベットとは三限の授業が同じだったので、もう一度挨拶する必要はないと思うが故の辛辣な物言いだ。俺がカバンの中に仕舞っていた紙袋を取り出して、特に何か特別なことをすることも無くそれをアスナに差し出す。

 

 アルファ「アスナ、誕生日おめでとう!これは俺からのささやかながらの誕プレだ」

 

 アスナ「アルファ君、ありがとう。へぇ、クッキーかぁ!」

 

 リズベット「安パイ選んだわね、アルファ」

 

 アルファ「別にいいだろ。友達なんだからさ」

 

 俺が差し出した小さな紙袋には、クッキーが数枚入っているだけだ。がしかし、今日の誕プレ主役はキリトなのだから、俺は引き立て役ぐらいの立ち位置で良いのだとリズベットには反論しておく。

 …まぁ、何でもアスナはレクトの令嬢とかいうトンデモナイお嬢様だから、俺が買ったような単なる洋菓子店のクッキーはお口に合わないかもしれないけども…。

 アスナが何処となく上品さを醸し出していたのは、SAOの頃からよくよく実感していたが、よもやそんな大企業を束ねる父が居るとは俺も思いもしなかったわけだ。SAOの頃に知り合った仲間たちのリアル情報の中でも、かなり上位に食い込んでくるほど、それを知った当時はビックリした記憶がある。

 

 リズベット「次のあたしの誕生日は、かなり期待しとくわよ?」

 

 アスナ「じゃあわたしが激辛クッキーでも作ってあげようか?」

 

 リズベット「え~、それは勘弁してよ~」

 

 リズベットの厚かましい発言にアスナが微笑みながら答えると、リズベットもまた笑顔を浮かべる。そんなリズベットの誕生日は五月十八日で、俺が彼女の誕生日を祝うのは、また来年の機会に、ということである。

 次に俺が誕プレを贈呈するのは、十月四日が誕生日のシリカと、その三日後の七日が誕生日のキリトになるのだろう。…九月末から十月初めの間に、誕生日が集中し過ぎでは無いだろうか。

 

 アルファ「そう言えばもう昼休みだけど、アスナはキリトのとこ行かなくてもいいのか?」

 

 アスナ「あー、キリト君、今日はお昼に用事あるんだって」

 

 リズベット「へぇー、じゃあお誕生日のイチャイチャはお預けなんだ~」

 

 アスナ「べ、別にいっつもイチャイチャしてるわけじゃありません!」

 

 ふと、昼休みにアスナがいつものようにキリトと落ち合っていないことに気が付き、俺が尋ねてみると、そういう訳らしいのだ。リズベットの追求に対して、アスナが照れ隠しのようにふんとそっぽを向いている様子を眺めてから、俺はいつも通り学友と共に食堂に向かうことにした。

 …年に一度しかないアスナの誕生日だというのに、一体キリトの奴は何処で道草食っているのだろうか。俺がそんな疑問を抱いている一方で、その当の本人であるキリトが、この五十分しかない昼休みの間に、アスナの誕生日プレゼントの配達受け取りを済ませるというミッションインポッシブルに挑んでいることなど、俺には知る由も無かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十月五日、午後九時半。

 

 ユウキ「アスナ!来たよー!」

 

 アスナ「いらっしゃい、ユウキ、アルファ君」

 

 アルファ「おじゃましまーす…って、今日はキリトは居ないのか…」

 

 つい一週間ほど前にキリトに呼び出された宿屋へと、俺とユウキはまた訪れることになったのだが、今日俺達を呼び出してくれたのは、キリトではなくアスナであった。アスナはユウキを呼び出すことは多かれども、俺を呼び出すことなど基本的には無いので、こりゃ一体どうしたのかと、まさかアスナも…と思い、思わずそれを訊ねる。

 

 アルファ「…もしかして、キリトの誕生日プレゼントは何がいいと思う?…だなんて言わないよな、アスナ?」

 

 アスナ「まさか~、わたしはもうちゃんと決めてるよ~」

 

 ユイ「ママはパパと違って、前以ってパパへのプレゼントを決めていました!」

 

 ユウキ「お~、アスナは何プレゼントするの?」

 

 アスナ「それは秘密かな~」

 

 …もう二日前となってしまったのに、今更頼られてもこっちも困るぞ。と言うか、それなら呼び出すのはユウキだけでいいだろ。というような事態には陥らず、如何やらアスナは既にしっかりと誕プレを選んでいたようだ。流石アスナさんである。俺も安心しました。

 …そう言えば、アスナの誕生日の翌日にキリトから聞いた話によると、アイツは悩みに悩み抜いた挙句、アスナにマフラーをプレゼントすることにしたらしい。まぁその選択肢は良かったとしても、よもやアスナの誕生日の当日に、キリトが綱渡りプランで配達を受け取っていたとは…流石に俺も度肝を抜かされた。

 結果的にアスナは喜んでくれたようだし、しっかり誕生日にプレゼントを渡せたのだから、一件落着ではあるのだが…うん、なんというか、そのヒヤヒヤするプランはキリトらしくて、それを聞いた時には図らずも呆れ返ってしまったのだ。

 

 ユウキ「ボクまだキリトへの誕生日プレゼント決めれてないんだけど、何が良いのかな」

 

 アルファ「アイツは剣とかあげときゃそれで喜ぶぞ」

 

 アスナ「うん、間違いないわね」

 

 ユイ「ユイもその見解には納得です」

 

 ユウキ「まぁ、そうだよね。後で適当な装備見繕っかな」

 

 もしこの場にキリトが居れば「なんか俺の扱い雑くないか?」という嘆きが聞こえてきそうだが、幸いにもキリトはここには居ない。キリト曰く宿題に追われているようなので、今日はALOで遊んでいる所の話ではないらしい。

 ユウキはこのあと剣とは言わずとも、籠手やらブーツやらの性能の良い装備、若しくは性能が尖ってて面白い装備を探しに行くつもりらしいが、俺はもう既にキリトへの誕プレは購入している。まぁ、アスナや昨日誕生日だったシリカと変わらずクッキーなんだけどな。

 

 アルファ「そんで、アスナが俺を呼び出した理由って何なんだ?」

 

 ユウキ「確かにアルファ呼び出すのは珍しいよね」

 

 アスナ「ちょっとお願いしたいことがあるんだけど…少しでも人手は多い方が良いと思ったの。後からリズとかもここに来てくれるんだ」

 

 ユウキ「お願い…?」

 

 アスナの発言に対して、俺達が疑問気に彼女の顔を見つめると、彼女は左手をトトンと素早く叩いてアイテムストレージから何かを取り出したようだ。それを俺達が腰掛けているソファの前にあるテーブルに実体化させると、俺達もあっと声を上げた。

 

 ユウキ「それ…ボクがアスナにプレゼントしたマグカップ…?」

 

 アスナ「そうよ」

 

 アスナが取り出したアイテムは、つい先日俺がユウキと共に苦労しながら…というよりは、苦労したのは間違いなく俺の方だが…手に入れた<タップするだけで五十四種類のお茶がランダムに湧き出す>魔法のマグカップであった。

 だがどういうことなのだろうか。俺とユウキが獲得した魔法のマグカップは、黄色い見た目で二つだったはずなのに、アスナが取り出した魔法のマグカップは、それに加えて赤色が二つだ。それが単なるマグカップではなく、魔法のマグカップだと分かったのは、容器の中に勝手にお茶が出現したからである。

 

 アルファ「じゃあこっちのマグカップは?」

 

 アスナ「こっちは、わたしもまた別の所で、ユウキが受けたのとは違うクエストをクリアした報酬で貰えたの。こっちも、五十四種類なんだって」

 

 ユウキ「へぇー」

 

 アスナ「そしたらね、また新しいクエストが受けられたのよ。何でも、二つの魔法のマグカップから湧き出るお茶の味の全てを発見すると、あと一種類魔法のマグカップにお茶が追加されるんだって。クエスト名は<至高の一杯を求めて>だって」

 

 ユウキ「要するに、みんなで九十八種類のお茶を調べ上げようってこと?」

 

 アスナ「うん、お願いしてもいいかな?」

 

 ユウキ「ボクに任せてよ!」

 

 アスナに差し出されたマグカップを受け取った俺は、お茶のはずなのに透き通るような透明の液体を一杯飲んでみたのだ。

 …アホ程しょっぱいなこれ。桜茶の派生バージョンか何かか?この塩味の効きすぎた酸っぱいお茶のお供になってくれたのは、アスナの焼いてくれた甘いフルーツタルトだ。…うん、こういう甘いのと一緒に食べると、このお茶もアリっちゃアリだな。どうやらユウキの受け取ったお茶は、苦味が強すぎたようで、彼女は顔を若干顰めていた。アスナとユイはそれなりに美味しいお茶だったようで、優雅に口を付けている。

 …さぁ、後94種類も残っているが、例えば十人で飲んだとしても、湧き出るお茶はランダムなのだから、そう簡単に行くことはあるまい。こっちの世界でお茶を飲み過ぎても別にトイレに行きたくなることは無いが、それでも十杯辺りが限界だろう…。

 そんな俺の予想通り、結局、本日中に判明したお茶の種類は僅か37種類で、クエストクリアに至ったのは、それから約三週間後であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回の投稿日は、明日となります。

 では、また第132話でお会いしましょう!
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