~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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第136話 思いがけないハプニング

 ユウキ「そろそろ行かないとじゃない?」

 

 アルファ「それもそうだな」

 

 いつもの如くVRルームでまったりと過ごしている中、ユウキの問い掛けに俺が応じると、彼女はすぐに俺達をGGOへ誘う為の扉を出現させた。

 本日は十二月十四日、日曜日。つい昨日行われた、BOB予選トーナメントの一位及び二位通過者が合計三十人、<ISLラグナロク>なるステージにて、最強たる資格を争う本戦が開催されるのだ。

 その大会の開始時間は、午後八時。今はその一時間と少し前なので、そろそろエントリーなりアップなりを始める時間だということだろう。俺達もVRルームから銃の世界へと向かうことにしたのだ。

 

 ユウキ「うわっ、なんだかお祭り騒ぎって感じだね~」

 

 アルファ「そりゃあ、GGO最大のイベントらしいからな。…ま、あれみたいなもんだろ。キリトとヒースクリフのデュエル」

 

 ユウキ「今回は、ボク達も闘う側だけどね」

 

 俺達がログインした場所は、例によってエントリー及び大会会場となった、総督府の威容が眼前にわたる広場である。昨日もかなりプレイヤーがここを右往左往していたとは思うのだが、今日はその十倍以上のプレイヤーが、この場で飲み物食べ物を片手に人だかりを作っていた。

 多くのプレイヤーがガヤガヤと犇めきながら視線を集中させている方角へと俺も目をやると、そこには、巨大なホロウインドウを掲げた支配人風のNPCが居た。しかし驚くべきところはそんなことではなく、そのホロウインドウに記載されている事項…今大会に出場するプレイヤーのオッズ、倍率…あぁ、なるほど、賭け事という訳か。

 

 ユウキ「ボクはかなり高倍率みたいだね」

 

 アルファ「初出場でブロック優勝だから、ダークホースってことだろうな」

 

 ユウキがヒョイと人だかりに入って行ったと思ったら、すぐにこちらに戻ってきて、自分の期待度が高いことに驚いたのだ。そして対する俺は、このアバターでは身長が高めなので、ユウキのように近くに行かずともこの場から自分の倍率を確認できたのだが…まぁ、それなりとだけ言っておこう。

 大会出場者として、他の誰かに賭けたいとは無論思わないし、かと言って自分に賭けるのも、特に面白味も無いことなので、賭け事はスルーすることにしておく。ユウキも似たようなことを思っていたのか、特にギャンブルに挑むことも無く、総督府へと足を進めようとしていた。

 

 アルファ「弾の補充とかは、もういいか?」

 

 ユウキ「うん、もう準備バッチリだよ!」

 

 その道中に一応の確認を取っておくと、如何やらユウキは準備万端らしいので、その必要は無かったと見える。そう言う俺も、昨日のうちにハンドガンと狙撃銃の弾丸は補充しておいたし、予選においては装備した武器以外は何も手札を見せていないので、そちらに関しても補充の必要は無かったのだ。

 闇風との決勝戦では、俺も思わず手札を消費してまで彼との闘いに勝ちたいという欲求が湧き上がって来たのだが、何とかその感情を抑えることに成功できた。

 これならば恐らく、本戦で闇風とかち合っても、充分俺に分のある闘いを展開できるのだろう。最も、闇風もまた手札を残しているかもしれないので、一概にそうは言い切れないだろうが。

 総督府一階ホールに移動した俺達は、本戦エントリーを済ませてから、エレベーターで地下二十階に向かう。ロッカールームっぽい控え室で、今日はしっかりと交互に控え室で着替えてから、俺達は近くの椅子に腰掛けた。

 

 ユウキ「まさかアルファがスナイパーライフル使うなんて、ボク想像も出来なかったよ」

 

 アルファ「そう言うユウキも、アサルトライフルじゃなくてショットガン使ってんじゃねぇかよ」

 

 ユウキ「ボクは何処かに潜んでるよりも、ガンガン行きたい派なんだもん」

 

 椅子に腰かけるや否や、俺が事前に隠していた戦闘スタイルについて言及してきたユウキに、俺も同じように言い返すと、彼女らしい解答が返って来る。

 要するに俺がユウキに勝利するためには、彼女にバレないよう何処かから一発狙撃を決めることが絶対条件であり、また同時にユウキも、如何に俺の狙撃から身を隠しながら、ショットガンが有効となる距離まで詰められるかが勝負を分けることになるのだろう。

 とはいえ、昨日のユウキの交戦シーンを見る限り、闇風とまでは行かずとも彼女は充分に速いし、その上身体の動かし方や戦闘勘、反応速度は間違いなくユウキの方が上だろうから、俺の技量では不意打ちの一発以外では、彼女を遠距離から仕留め切ることは出来ないだろう。

 

 ユウキ「ねぇ、アルファ。この大会のバトルロイヤルって、同じマップに三十人がランダム配置されて、最後まで生き残った人が優勝なんだよね?」

 

 アルファ「あぁ、その通りだ。でも、どのプレイヤーも最低千メートルは離れて転送されるらしいから、近接系のユウキには厳しい条件だぜ?」

 

 ユウキ「問題ないない。それにもしかしたら、ボクも狙撃銃隠し持ってたりするかもよ?」

 

 アルファ「む…確かにそうだな。気を付けておこう」

 

 ユウキが確認がてら放ってきたひと言に、俺も追加で情報を伝えておく。ユウキはニヤリと恐ろし気なことを言ってのけるが、流石に彼女の性分からして、遠距離狙撃は…無いだろう。まぁ、念頭に置いておくぐらいはしておこうか。

 第三回BOBのステージは大まかに直径十キロの円形状になっており、中心に都市、そしてそれを囲むように、砂漠だの山岳だの森林などのフィールドが多数複合されている。恐らくこれは、主武装やらステータスやらでの有利不利が起きないよう考慮されているのだろう。

 直径十キロと聞いて俺の頭の中に真っ先に思い浮かぶのは、やはりアインクラッド第一層と同等のサイズであると事だろう。SAOの最初期、俺が一カ月程、最初で最後のソロ活動していたあの時期に、それはもう一層を駆け巡ったのだが…あの広大なエリアで今度は数時間だけの闘いを行うことになるとは、何とも不思議な気分に陥らせてくれる。

 

 ユウキ「でもそれなら、最後の二人になるまで何処かで隠れてたらそれでいいんじゃない?」

 

 ふとユウキが思い付いたように俺にそんなことを言ってくるが、そんな彼女に対して、俺は眉を顰めざるを得なかった。

 

 アルファ「…その点に関してはメールに記載されてたんだが…ユウキはちゃんと、メール読んだのか?」

 

 ユウキ「あ、あはは…アルファに聞けばいいかなって、つい…お願い?」

 

 アルファ「…はぁ、しゃーねぇーなぁ…」

 

 昨日のうちに運営から送信されたメッセージには、本戦に関する基本事項が事細かに説明されていたので、俺がもしやとユウキをジト目で追及してみると、思った通り彼女はしっかりメールを読み込まなかったらしい。

 途端に口元を引き攣らせて苦笑いした後に、てへっと笑顔を浮かべたかと思うと、ユウキは上目遣いに俺に迫って来るのだ。

 俺はそんなユウキにため息をつくも、それでもユウキに大会の詳細を伝えようとしているのは、ユウキの上目遣いにやられたからに他ならないのだろう。そのため息の半分は、そんなチョロ過ぎる自分に対して向けられたものなのかもしれない。

 

 アルファ「そんな事態を防ぐ為に、参加者には<サテライト・スキャン>なるアイテムが配布されるんだ」

 

 ユウキ「人工衛星?」

 

 アルファ「…あぁ、そうだろうな。十五分に一回、参加者の上空を監視衛星が通過するらしい。その時参加者の端末に、マップ内の全プレイヤーの位置情報が送信されるってことだ。更に、マップに表示されている輝点に触れたら、そのプレイヤーの名前まで表示される」

 

 「satellite」という英単語が、日本語で「人工衛星」という意味を持つこと、何とか頭の片隅から引っ張って来た俺は、メッセージに記載されていた情報を見たままの形で伝えていく。その全てを言い終えた時には、ユウキは俺から受け取った情報を咀嚼するように視線を俯けていた。

 

 ユウキ「ふ~ん…ってことは、ボクが考えた引き籠り作戦は通用しないみたいだね。十五分に一度は場所を移動しないとダメってことは…アルファの狙撃銃って、最大千五百メートルなんでしょ?ちょっと不利なんじゃない?」

 

 アルファ「まぁそうだけど…何とかなるだろ」

 

 確かにユウキの言う通り、俺の狙撃銃では超遠距離には対応し辛いし、逆に狙撃銃であるため、一度弾丸を撃ち放ちその場に居残っていては、音バレですぐに奇襲されることだろう。潜んで、撃って、遠くへ移動、を十五分の間隔で迫られることは、不利と言えば不利である。

 俺が適当な返事をすると、ユウキはまた思い付いたように、そしてニタニタと嫌な笑みを浮かべながら、俺に言ってくる。

 

 ユウキ「それにその端末を確認したら、アルファを狙い撃ちすることだって出来る訳じゃん。最後の二人になる前に倒しに行っちゃおっかな~。昨日の感じだと、アルファそれまでに負けそうだし~?」

 

 アルファ「一言余計だ。勝算は十分にあるんだよ」

 

 正直なこと言うと、俺も元よりそのつもりであった。一度目のスキャンでユウキが近くに居れば狙撃しに行くし、逆に遠くに居れば、その方角へと向かって行こうと計画済みである。

 …ここまで油断してくれているなら、こちらにとってはかなり都合が良いのだが、まぁユウキのことだ。闘いとなれば一転して隙を見せないのだろう。本当に厄介極まりない。

 

 ユウキ「そう言えば、アルファって参加者三十人の名前確認した?」

 

 アルファ「あぁ、見たけど…それがどうした?」

 

 突如としてユウキにそう訊ねられ、俺もそれを首肯しつつも更に訊ね返すと、ユウキが何だか訝し気な表情で俺に告げる。

 

 ユウキ「三十人の中の一人…Fブロックの一位通過の人ってさ…<Kirito>って名前だったじゃん。…もしかして…」

 

 アルファ「いや、それは無いと思うぜ」

 

 如何やらユウキもそれに気が付いたらしい。何処か苦笑いをしながらその可能性を問い掛けてくるも、俺はすぐさまキッパリと否定すると、ユウキは不思議そうにこちらを見つめてくる。

 

 アルファ「俺もアイツかと思って、焦って予選の交戦シーン見たんだけどさ…アバターの性別が女性だったんだ。GGOは、性別の変更が出来ないだろ?」

 

 ユウキ「あ~…それなら、ボク達の知ってるキリトじゃないんだね」

 

 アルファ「そう言うことだな」

 

 …そう。ユウキが彼女をキリトかと勘違いするのも無理は無かった。だってそのプレイヤーネームはアイツと全く同じで、キリトの推理力の高さを考慮すると…「アルファとユウキがコンバートした理由は、この大会が開催されるからなのだろう。なら俺も、大会でひと暴れしてやるか」だなんて考えていてもおかしく無いのだから。

 しかもそのキリトちゃんなるプレイヤーの戦闘スタイルは、「光剣」とか言う銃ゲーなのにライトセイバーっぽい剣をぶんぶん振り回す超近距離戦闘型であり、しかも剣の振り方もアイツそっくりで…もし、キリトちゃんのアバターが男だったら、アイツである事間違いなかったのだろう。

 …がしかし、キリトちゃんがキリトの剣筋に似ているということは、リーファだったり将又キリトの家族が…いや、だったらどうしてキャラネームがキリトなんだ。…まさか、キリトのお父さんの名前が、桐ケ谷和夫だったりするのか──

 

 ユウキ「?」

 

 ──と俺が、どうでもいいことに頭をフル回転させているその時であった。ユウキがふっと視線を向けた方に、俺も顔を向けると…一人のプレイヤーが、明らかに俺達の座って居る場所を目指して歩いて来る。

 それは、ALOと比べると男女比率の不均衡が甚だしいGGOの世界では珍しく、女性プレイヤーであった。肩の上あたりで切り揃えられた艶やかな赤毛に、瞳は対照的で碧い。身長はこの世界のユウキ程で、装備の類は上半身に薄い金属アーマーを付けているのみで、それ以外は軽そうな迷彩服を採用していた。

 遂に俺達の眼の前まで来たそのプレイヤーは、俺…ではなく、ユウキにチラリと視線を向けると、その口を開いた。

 

 「…また、会えたね。本戦、楽しみしてるよ」

 

 ユウキ「…え…う、うん…」

 

 それだけ言い残した彼女は、すぐに何処かへと向かってしまった。そんな彼女にぎこちなく返事をしたユウキは、去り行く彼女の背に釘付けになりながら、頭の中で何かを考え込んでいるようであった。

 

 アルファ「…知り合いか?」

 

 ユウキ「…ううん、今日初めて会った」

 

 アルファ「んじゃ、GGOプレイしてる中で闘ったりしたんじゃねぇの?」

 

 ユウキ「…それも違うと思う。ボク、アルファと一緒に行動するまでは、ずっとソロだったし……でも、何処かで…」

 

 アルファ「俺も一人だったし、俺の知り合いって訳でもないよな…」

 

 そこで俺が一つ訊ねてみると、どういう訳か、ユウキは今の女性プレイヤーのことは何も知らないらしい。ならばGGOで野外戦でもしたのではないかと、そう訊ねるも、そういう訳でもないようなのだ。

 がしかし、向こうは明らかにユウキ…いや、こっちの世界ではユウである彼女を知っている素振りであった。やはりさっきのプレイヤーに既視感があったのか、ユウキが更に深く記憶を想起しようとしているその時だった。また先程とは違う人物の声が、俺達に届いた。

 

 「久しぶり」

 

 アルファ「?」

 

 その声と視線を向けられていたのは、今度は俺の方であった。故に俺も、つい先ほどユウキが見せたような不可解な面持ちを、その眼の前に居るプレイヤーに向けざるを得なかったのだ。

 そしてそのプレイヤーはまさかまさかの、またまた女性プレイヤーであった。今の俺よりは身長が低いが、それでも先程の女性と比べると背は高い。藤紫に近しい髪は後頭部で綺麗に結われ、そこから長い髪が垂れている。

 瞳は先程の女性とは真逆の紅色であった。目は大きく、まつ毛は長い。しっかり鼻も高くて…先程の女性が御淑やかだと表現するなれば、眼前の彼女は美人というカテゴリーに位置しているだろう。

 装備はこれまた軽装に変わりは無いのだが、先の女性と違う点は、こちらの彼女は白いマントを纏っている所だろうか。

 

 アルファ「…あの、どちら様ですか?」

 

 がしかし、俺には彼女のような知り合いは居ないはずだ。勿論、アバターの姿は現実世界とは同期していないので、もしかすればこのアバターを操っている中のプレイヤーは俺の知り合いなのかもしれないが、ならばどうして俺の前に座って居るユウキには見向きもしないのだろう。その為俺は、彼女にそう訊ね返したのだ。

 俺の知り合いは基本的に、ユウキにとっても知り合いのはずなのだが…と、俺がそんなことを考えていると、その女性は一度ユウキの方を見てから、だがやはりこちらに向き直り、そしてその末に俺に告げたのだ。

 

 「あんなに一緒に居たのに、私のこと忘れたんだ。ちょっと悲しいかな」

 

 アルファ「…え?」

 

 そのよく分からない言葉を、俺が完全に理解し切る前に、彼女は更に衝撃的な発言をぶちかました!

 

 「部屋で一緒に寝泊まりしたのに、そんなに印象に残ってない…か…」

 

 アルファ「は!?」

 

 ユウキ「…」ピクッ

 

 「私の身体に抱き着いたり、裸になろうって言って来た癖に」

 

 アルファ「!?!?!?!?」

 

 ユウキ「…」

 

 …なんだなんだなんだこの女は!?あれか?試合前にあること無い事…じゃなくて無い事ばっかり言いふらして、その本人を動揺させようとでもしているのか!?まぁ、その作戦には完全に嵌っているんですけどね!?

 と俺が彼女の言葉に踊らされ、完全に理解不能の領域に達していると、目の前の彼女はそれが面白かったのか、クスクスッと笑ってからメニューウインドウを操作し、透明なカードを俺に手渡してくれた。何が何だか分からないまま俺もそれを受け取ると、彼女はこの場を去る前に一言、俺に言った。

 

 「じゃあ、また本戦でね」

 

 アルファ「…」

 

 ユウキ「…」

 

 去り行く彼女の後姿を眺めることも無く、俺はすぐさまそのカードを確認すると…如何やら、これは彼女のネームカードらしい。性別はやはり女性。この世界でのギルドを意味する<スコードロン>には所属していないようだ。

 そして肝心の名前は…「深兎」…ふかうさぎ、とでも読むのか?…と、彼女の発言のせいで頭が上手く回らない中、俺が謎の女性プレイヤーの正体を探ろうとしていたその時だ。

 

 ふと、俺の目の前に座って居るユウキから、物凄く嫌な予感を感じ取った。彼女から発せられるその悍ましい程のどす黒いオーラ…勿論目には見えないが、可視化されずとも分かるその異常な雰囲気に、遠くに居るプレイヤーでもさえも、俺達から離れるようジリジリと後退りしている…を感じ取り、俺は壊れた機械のように、そちらへとゆっくり視線を向ける。

 

 ユウキ「……嘘つき」

 

 アルファ「え」

 

 すると彼女は、最早怒っているのか呆れているのか分からないような、しかしこれまでに見たことの無いような冷めた目で俺を見つめながら、そう短く言った。硬直する俺に対して、彼女は凍てつく気配を漂わせながら立て続けに言い放つ。

 

 ユウキ「ボクと行動してない間に、あの人とそんなことしてたんだ」

 

 ユウキ「ボクの知らない間に、随分と楽しんでたみたいだね」

 

 ユウキ「ソロだって言ってたのも、嘘だったみたいだし…」

 

 ユウキ「…もうアルファなんか知らない。絶対に許さないから」

 

 アルファ「ちょ!?ユウキ!?な、何かの誤解だって!!俺はあんなプレイヤー、今日まで会ったことすらなかったぞ!?」

 

 ──不味い不味い不味い不味い!!

 

 そのユウキの有無を言わせない怒気をその身で憶えた俺は、途端に全身から嫌な汗が噴き出してくる。頭の中で赤いランプが輝き、甲高い音がドップラー効果を伴いながら脳内を駆け巡った。

 …そもそも俺は一体どうして、俺自身が浮気したような扱いを受けているのかさえ分からない。だって、ユウキが想像するような事実は全て、あのさっきのクソ野郎のせいなんだからな!?金の切れ目が縁の切れ目だとはよく言うが、よもやこんな形でユウキとの関係が危うくなるとは俺も想像もしていなかったぞ!?

 …とは言え、兎に角弁解を図らなければ、この事態を好転させることは最早不可能と見えたのだが──。

 

 ユウキ「…御託は後から聞くから。本戦では覚悟してて」

 

 アルファ「お、おい!?」

 

 完全にテンパっている俺の全力の身振り手振りに、また小さくため息を吐いたユウキは、ガタッと席を立つと、一人勝手に何処かへと向かって行こうとする。

 俺は今すぐにでもその背中を追い掛けて、スライディング土下座でも仕掛けるべきかと本気で悩んだのだが、今のユウキに近づけば、それこそ剣でズタズタに斬り刻まれる…いや、この世界だと、ショットガンを口の中にぶち込まれる気がしたので、彼女が最後に言い残した言葉の通り、弁解は全て本戦で行うことに決定せざるを得なかった。

 …あぁ、なんでこんなことになってしまったのか。そんな気怠さと緊張の入り混じった気持ちが心の奥底から湧き出始めるのを意識しながらも、あと三十分後に始まる本戦に備えて、俺は待機ドームへと移動し始めた。

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 ──第三回BOB。

 

 そのAからOまでの十五ブロックもある予選トーナメントを何とか二位で通過し、オレは晴れてBOBへの出場権を得た。一ブロック辺り六十四人のプレイヤーが争っていたと考えると、GGOの世界で最強の名を恣にしようと野心を燃やしていた約千名の中で、オレは既に上位三十位に食い込んだことになるだろう。

 がしかし、オレにとってはそんなことはどうでも良かった。一位に成れなければ、例え上位入賞しようともなんの意味も無いのだから。

 オレが放り込まれたCブロックでは、ダインと言う古参プレイヤーと決勝戦でかち合うことになった。その結果オレは彼に後塵を拝することになってしまったのだが…今度こそは負けられない。

 

 「大変長らくお待たせいたしました。只今より、第三回バレット・オブ・バレッツ本戦を開始いたします。エントリーされたプレイヤーの皆様は、カウントダウン終了後に、フィールドマップに自動転送されます。幸運をお祈りします」

 

 聞き慣れた…とは言っても、これでこのアナウンスを耳にするのは二回目だが…合成音声を聞き取ったオレは、いよいよ緊張感を高める。周囲でやいやいと騒ぎ立てる観客のことなど、既にオレの意識の中には入ってこなかった。

 そしてとうとう、ホロウインドウに表示されたカウントダウンがゼロへと至り、オレは瞬く間に、最後の準備期間となる待機空間へと移動させられる。

 目の前に表示されたウインドウによれば、オレが最初に転送されるエリアは、第三回BOBの舞台となるマップ<ISLラグナロク>の、西部中央に位置する草原地帯の中央部となっていた。これは運が良いと、自らの身に付ける迷彩服を草原仕様のモノへと変更する。

 

 そう言えばまだ、オレのことを紹介していなかったな。オレの名前は、「アライヴ」。今日という日に、この世界の王者となる男の名前だ。よく覚えとけよ?

 そんなオレの能力構成は、STRは最低限、移動の肝となるAGIは多めに振って、命中精度を上げるためにDEXにもキチンとポイントを振り、勿論VITにも多少振っている。つまりはオレは、実にド定番な器用貧乏とも言えるステータス構成をしている。だが無論、オレはそれを嘆くことは無い。オレは望んで平均的なステ振りを行ったのだから。

 オレが十二位という結果で敗北に終わった第二回のBOBの優勝者は、AGI極振りの時代は終わりだとか、これからは高耐久型の台頭だとか喚いていたが、正直オレからすれば、そんな発言に流されている奴はその時点で、強者足り得ない。強者とは常に、自分の積み上げてきた力を信じてこそ、戦場で輝けるのだから。

 

 遂に、BOBが開幕した。オレは予告通り、草原地帯のど真ん中に転送されたようだ。

 

 …如何やら思っていた以上に、このエリアはオレにとって有利に働いているらしい。オレの選択した迷彩服は見事に周囲の草原と一体化しているし、そもそも草原に生え渡る草並み自体の背も高く、中腰になれば身体の半分以上は隠せる。

 しかもただ草並みが続くエリアなだけでなく、所々に木々が点在しており、それを掩体に利用したり、登って高い位置から射撃したりも出来るのだろう。更にはオレの転送された草原地帯の地形は、かなり凸凹としており、少し離れたところには塹壕と思しき人工物まである。

 

 これ幸いと塹壕に身を潜めようと動き始めたその瞬間であった。

 

 塹壕の更に奥…ちょうど一キロほど先なのだろう。如何やらオレと同じく草原エリアに転送させられたらしいプレイヤーが、背を向けながらそこに立っていることに気が付く。

 …これはチャンスだ。そう思ったオレは迷わず、その場から慎重に移動を開始し始めた。オレの武装はアサルトライフルオンリーである。それ故にあのプレイヤーを仕留めるためには、オレもそちらへと近寄らねばならない状況だったのだが──

 

 ──どういうことなのか。そのプレイヤーは、まだ動き出して100メートルと進んでいないこの状況で、こちらを振り向いたのだ。そしてオレを認識するや否や、AGI特化かと思えるほどの速さでこちらに距離を詰めてくる。

 だがオレはまたしても運が良かったらしい。その女性プレイヤーが右手に抱えるのはショットガンだ。なれば向こうはオレを仕留めるために有効距離まで詰める必要があるし、そこまで至るまでには既にオレのアサルトライフルが火を噴いている。

 それにオレと彼女を隔てる障害物は無いのだから、彼女は格好の得物という訳だ。何故逃げなかったのか、甚だ疑問である。

 

 ──がしかし、その疑問はその後すぐに、予想外の形で解消されることとなった。五百メートル地点に入ったところでオレはアサルトライフルを撃ち始めるも、何故だか弾が命中しない。

 彼女は器用にも曲線を描きながら草原を駆け巡り、射線を掻い潜り続ける。それでも数発は彼女の身体を捕えようとするも、それは彼女の持つショットガンを空打ちすることによって、まさかの相殺。

 こんなことがあってたまるかと二度三度撃ち続けるも、やはり一発たりとも銃弾が命中することは無かった。

 

 ──これは勝てない。

 

 熟練のプレイヤーであるはずのオレが、そう思った時には遅かった。もう目の前には、ショットガンを携えた可憐な女性が迫っていたのだ。勿論、その場から逃げ出すこともまだ出来たはずなのだ。だがオレは、蛇に睨まれた蛙のようにその場から動けなかった。

 …それは、その彼女の放つ気配が、威圧感などと言う生ぬるいものでは無く、鬼神とも呼べるような憤怒そのものであったが故である。そんな彼女は、最後にオレを眺めながら怒りを孕んだ冷酷な笑顔でこう告げた。

 

 「ボクは今、相当フキゲンなんだ」

 

 ──だからなんだんだ!!

 

 オレはそれを言葉にすることが出来ないまま、見事本戦初の脱落者と化したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回の投稿日は、三月一日の火曜日です。

 では、また第137話でお会いしましょう!
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