では、どうぞ!
ユウキ「綺麗だね…」
アルファ「あぁ…綺麗だな」
アクティベートされた転移門で四層の主街区ロービアに辿り着くと、そこは街中に水路が張り巡らされており、日差しが水面に反射して宝石のように輝いた、まさに水の都と呼ぶに相応しい光景が広がっていた。
街の中をたくさんのゴンドラが往来していることから、移動にはゴンドラを利用する必要があることを思い浮かべる。すると突然、背後から声を掛けられた。
アルゴ「アー坊、久しぶりだナ。」
アルファ「にゃっ!…アルゴか、相変わらず心臓に悪い登場だな…」
後ろから不意打ちを仕掛けてきたというのに、全く悪びれる様子もない。アルゴは俺の頓狂な第一声に笑いながら、俺の隣にいるユウキを見つめて、意地悪な表情を浮かべた。…嫌な予感がする。
アルゴ「ニャハハ!二層だとアー坊のことを全然見かけなかったから、オレっちちょっと心配してたのにヨ。まさか女の子をたぶらかしていたとはナ~」
アルファ「…断じて違います。そういうのはキリトに言ってやってくれ」
アルファ自身はそういう意味で、邪な気持ちでユウキとコンビを組んでいるわけではないので、甚だ心外である。対するユウキは、何かに気が付いたような、あっとした表情を浮かべていた。
ユウキ「アルゴって…もしかして攻略本の?」
アルゴ「そうだヨ。攻略本は役に立たったカ?それと名前はなんて言うんダ?」
ユウキ「ボクはユウキだよ。ボクいつか攻略本を作ってくれた人にお礼言いたかったんだっ、ありがとうね!」
うむ、いい子だ。性別問わず、誰かに感謝し、それを伝えることが出来るのは実に素晴らしい。どんな人であろうと、誰かに感謝の念を抱くことはあるが、それを言葉にすることが出来る人間は、ごく一部に限られてしまう。何事も言葉にしなければ、相手に伝わることは無いのだ。俺自身も出来るだけ言葉にしようと努力してはいるのだが、恥ずかしかったり、意識していなかったりと、なかなかに難しい。
アルゴ「ユウキ…ユーちゃんだナ!いやー、しっかしアー坊はいい子を捕まえたんだナ~」
アルファ「…」
多分、アルゴは俺が心の中で思っていたいい子の意味で、今の発言をしたのではないのだろう。呆れてもう反論するのにも疲れてしまった。だが、このままアルゴに会話の主導権を奪われ続けるのも何だか癪なので、話題を転換させる。
アルファ「…ところで何の用なんだ?わざわざ直接喋り掛けてきたんだ、何かあるんだろ?」
アルゴ「アー坊は鋭いナ。…ベータ時代になかったクエストが見つかったんだヨ。キー坊にも調査を頼んだんだケド、良かったらアー坊も協力してくれないカ?」
アルゴの話を聞くと、どうやら四層はベータ時代では涸れ谷がコンセプトだったらしく、今のように水が溢れるフィールドではなかったそうだ。そこで、主街区を隈なく捜査したところ、一つだけアルゴも知らないクエストが見つかったという。アルファとユウキは二つ返事で承諾し、問題のクエストの所へ向かった。
件のクエストを受注したところ「ゴンドラを製作するための材料を集めろ、さすれば汝にゴンドラを授けん」というものだったので、材料があるはずの森と湿地が合わさったフィールドを訪れていた。何やら<ヌシの脂>というアイテムがあるらしく、さっきから普通の黒熊を倒してもただの<熊の脂>しか獲得出来ない為、こんな夜更けに、二人はヌシを探し回っているわけだ。
アルファ「……なぁ、もう別に普通の脂で良くないか?」
ユウキ「ダメだよ!こういうのは最高の材料を集めないと、さっきのおじいちゃんに失礼だよ!」
アルファも、最初こそ最高級の脂を手に入れようと思っていたのだが、あまりにもヌシが見当たらないので、半ば諦め始めていた。それに対して、ユウキはやる気満々といった感じなので、アルファは仕方なくユウキに付き合っている。
しばらくフィールド上を進んでいくと、ドでかい怪物に追い回されているキリトとアスナを発見し、緊急事態かと思って、ユウキと共にそちらへと駆け寄った。
ユウキ「キリト!アスナ!だいじょうぶ?」
キリト&アスナ「「ユ、ユウキ!?」」
二人にとってアルファとユウキがここにいることは想定外だったらしく、相当驚いている。怪物のカーソルを見ると<マグナテリウム>と表示された。
マグナテリウムの赤い目がアルファを捉え、巨大な爪でアルファを切り裂かんと攻撃してきた。アルファはしっかりと両手剣で受け止めて、空いている足で、体術スキル<水月>をぶつける。ユウキがアルファに続いて追撃に向かおうとした時に、アスナの大声が響いた。
アスナ「ダメ!倒さないで!!」
アルファ&ユウキ「「え!?」」
アスナの発言に驚かされつつも、キリトからゴンドラの最高級の木材を集めるためには、マグナテリウムを利用する必要があることを教えてもらい、アルファたちもゴンドラ製作クエストを受けていたので、キリトたちと共闘することにする。
マグナテリウムの火炎ブレスは中々厄介だったが、キリトの指示通りに、予備モーションが見えた瞬間に泉に飛び込むことで、難を逃れることができた。何度もマグナテリウムをチークの大樹にぶつけて、彼には…あるいは彼女には、最高級の木材をドロップする為の機械と化してもらう。。
武器の性質上、マグナテリウムの攻撃を受け止めきれるアルファが攻撃を相殺しながら、三人に攻撃をしてもらい、大体一時間余りでマグナテリウムを撃破する。ドロップした<ヌシの脂>は全てキリトに渡すことにした。
キリト「いいのか?アルファたちも戦ったんだしドロップ品は山分けでも…」
アルファ「…気にすんな、俺たちは横入りしただけだからよ」
本当のことを言えば、アルファもドロップ品が欲しかったのだが、ユウキに「横取り禁止!」と注意されたので仕方なく引き渡している。だってこれがもらえなかったら……
アスナ「でも…ユウキも<ヌシの脂>狙ってたんじゃないの?」
ユウキ「大丈夫だよ!また明日になったらヌシ倒しに来るから!」
アルファ「…」
ユウキは良心全開の笑顔でキリト達にそう告げるが、多分、俺は今、死んだ魚の目をしているだろう。恐らく、この作業の大変さを痛感したであろうキリトとアスナは、憐みの目をアルファに向けていた。
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ユウキ「出発、しんこ──うっ!!」
アルファ「よっしゃー!」
ユウキとアルファの元気な掛け声と共にアルファとユウキ専用のゴンドラが発進した。自前の船を動かせるとなると、俺も興奮を抑えられない。
あの後、アルファたちはもう一度マグナテリウムを倒して、全ての最高レアリティの材料を集め切り、ゴンドラは最高の一艘となった。色はそれぞれの好きな色、ユウキが紫色、アルファが青色を選び、船の名前は、アルファには思いつかなかったので、ユウキに任せると、ユウキが「インディゴ」と名付けた。特に反対する理由もなかったアルファはユウキの案を承諾した。
明日には前線組がフィールドボスに挑む予定になっているので、船上での戦いに慣れるために、俺はフィールドへと舵を切った。
ユウキ「アルファ、前にカニが二匹いるよ!」
フィールドに出た二人は、早速モブにエンカウントした。カニと言えば可愛らしいが、その正体は巨大なハサミを持ったモンスターである。
アルファはそのままカニに向かって船で突っ込んで、カニを一体撃破した。本来ならば、船で体当たりしてもモブにダメージを与えることはできないのだが、ヌシからドロップする<炎獣の衝角>をゴンドラに取り付けると、それによってダメージを与えられるのだ。
もう一匹が船上に上がってきて、ハサミ攻撃を操縦手であるアルファに仕掛けようとしたが、ユウキによってその腹を一閃されてしまい、あっさりと死亡した。その後、<スカッドル・クラブ>という4メートルほどもあるモンスターを倒したりしていると、二人のレベルが一つ上昇する。
そこで俺達は、キリよく街に引き返した。その足で三層に戻り、エルフクエストの残りを進めた後、晩御飯を食べるために再び四層に戻った。
ユウキ「これって、さっきのカニのお肉使ってるのかな?」
ユウキが晩御飯に選んだのはカニのグラタンだったので、先ほどの戦闘でドロップしたカニの肉を思い出してしまったのだろう。
アルファ「どうだろうな、でも肉厚で意外とうまそうだったよな」
ユウキ「確かに…え!?あれって食べ物だったの?」
アルファ「あぁ、D級食材って書いてたからな。料理スキルがあれば調理できるはずだ…」
ユウキ「そうなんだ…ボク、料理スキル取ろっかな…」
ちなみにアルファが頂いているのは魚のフライである。二人は海の幸をたっぷりと堪能した後、四層の道具屋に行って防具を更新し、その日は解散した。
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翌日─十二月二十四日土曜日午後三時
第四層のフィールドボスを撃破するために、前線組がカルデラ湖の入り口に集まっていた。今回のフィールドボスは<バイセプス・アーケロン>という二つの頭をもったカメ型のモンスターらしい。前線組の中でもディアベルのギルドのゴンドラは最大級の十人乗りということもあり、一際目立っていた。
キリトたちのゴンドラは白と緑、エギルたちはブラウン、ディアベルたちはコバルトブルー、とそれぞれの個性が出ているのが見て取れる。
ディアベル「そろそろ予定の時間だ!みんな、勝つぞ!」
ディアベルの掛け声と共に前線組がカルデラ湖に侵入した。
アーケロンの行動パターンのうち嚙みつき攻撃、ヒレでの水面叩き、は攻撃力が低くダメージも受けずらいので問題ないのだが、突進攻撃は食らってしまうと、船が転覆してしまうので、その点には気を付けなければならない。
ユウキ「突進くるよ!」
アルファ「おう!」
言ってるそばから、こちらに向かってアーケロンが突進してきた。一応、転覆してもいいように。四層の往還階段近くで取れる浮き輪の実を持っているため、転覆することには然程恐れはないが、しないに越したことはないので、アルファは懸命に舵を右に切って突進攻撃を回避する。すれ違いざまにユウキがソードスキルを決めてアーケロンの体力を減少させてくれた。
しばらくして、HPバーがレッドゾーンに突入すると、アーケロンが回転して大渦を作り出し、それに巻き込まれたホープ・オブ・ナイツの船が一艘転覆した。アルファは船から投げ出され、身動きの取れないプレイヤー達に攻撃がいかないように、タゲを取ろうと「インディゴ」を前進させたが、アーケロンに辿り着く前にキリトがとどめを刺してくれたので、特に被害が出ることなくフィールドボスの攻略は終わった。
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ユウキ「これからどうする?先に進む?」
アルファ「いや、エルフクエを終わらせねえか?」
ユウキ「りょーかーい!」
アルファとユウキは転移門に向かうべく、主街区に戻ることにした。どうやらユウキも船を運転してみたかったらしく、帰りは主街区までユウキにゴンドラの舵取りを任せていた。途中、山間部の方で細い水路を見つけたので、後日改めて探索することを誓い、今日の所は主街区に到着した。
主街区には何故か大勢の人が集まっており、何事かと思うと、偶々居合わせたディアベルがアルファたちの前にやってきて説明してくれた。
ディアベル「やぁ、アルファ君、ユウキさん、実は今からクリスマスパーティーを開くんだけど参加するかい?ただ、…」
ディアベルが申し訳なさそうに言葉をつなげる。
ディアベル「…キリト君は毎回のごとくLAをかっさらっていくから、反感を抱いている人が多くて招待することができなかった。…すまない」
やはりあの一件以来、キリトの評判は落ちてしまっていたか。
アルファ「気にすんな、お前のせいじゃない。ユウキはパーティー行くか?」
ユウキ「アルファはどうするの?」
正直なところ、前線組の中で気兼ねなく話し掛けれる人はキリト以外には、アスナ、エギル、ディアベルと、そう多くなく、パーティーに参加してもボッチになることが予想できた為、断ることにする。
アルファ「んー、今回は遠慮しとくかな。悪いな、せかっく誘ってくれたのに」
ディアベル「いいや、構わないよ」
ユウキ「じゃあ、ボクもやめとくよ」
アルファ「俺に構わななくても、いいんだぜ?」
ユウキに気を使わせてしまったか。そう思った俺はユウキにそう伝えるが、ユウキは当たり前のように俺に言い返してきた。
ユウキ「元々、今からエルフクエの予定だったじゃん」
ディアベル「そうだったのか、邪魔して悪かったね、クエスト頑張りなよ。じゃあ、オレはここで失礼」
二人はディアベルが再び人ごみの中に入っていくのを見届けてから、転移門で三層に移動して黒エルフの野営地に向かった。
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アルファとユウキは森を抜け、野営地に着くと、どこからともなく冷たい風が吹いてきた。
アルファ(おかしいな?この層はこんなに寒くなかったはずなんだが…)
森の中である為、太陽光が木々によって遮られ、若干外よりも気温が低くなることはあるだろうが、にしてもこれは度を過ぎている。俺がそう思っていると、不意に空が曇りだし、そこから無数の白い結晶が降ってきた。
ユウキ「雪だね…」
アルファ「なぁ、ちょっと天幕に来てくれないか」
これはグッドタイミングだと感じたアルファは、そう言ってユウキの手を引き、天幕の中に入ってもらった。設置されている椅子に腰を掛け、ユウキに話し掛ける。
アルファ「メリークリスマス、だな」
ユウキ「う、うん、メリークリスマス…」
ユウキは突然天幕に引き込まれたことに驚き、少し緊張しているようにも見える。アルファはメインメニューを開き、あるアイテムを具現化させた。それを見たユウキは、目を丸めて驚いている。
ユウキ「それは…?」
アルファ「ロザリオだ、三層のフロアボスのLAだったんだけど、デザインが女の子っぽいからさぁ、ユウキなら似合うかなって、クリスマスプレゼントに取ってたんだ」
ユウキ「で、でもボクはプレゼントになりそうなものは何も持ってないよ?」
アルファ「ん?別にいいぞ、まぁ初のボス戦頑張ったで賞、とかでもいいんじゃねえの」
というか、元々そのつもりで渡す予定だったのだが、今日がクリスマスであることを知り、計画を変更しただけなのだ。アルファとしては、何の見返りも求めていないので、お返しなどは結構だ。
すると突然、ユウキの頬に涙が流れた。その涙は止まることを知らず、どんどん溢れてくる。
ユウキ「……ぁ…な、なんで……」
アルファ「え、ユ、ユウキ!?」
女の子が泣いてしまうなんて、アルファは、何か自分がまずいことをやらかしてしまったのかと、慌てふためく。こんな様子を誰かに見られたら、痴漢冤罪の如く俺だけが悪者扱いにされるに違いない。
幸い、この辺りにプレイヤーはいないが、勿論それだけで俺の焦りが止まるわけがなかった。
ユウキ「…ごめん、ね、誰かと、クリス…マス祝ったりするの…久し、ぶりだったから…つい、昔のこと、思い出しちゃって…」
ユウキは途切れ途切れになりながらも心の中の気持ちを言葉にしてくれた。誰かと一緒にクリスマスを祝うのが久しぶり、彼女が現実世界でどんな生活を送っているのかは全く知らないが、その言葉からだけでも、あまり干渉してあげない方が良さそうだと分理解できた。
アルファ「……」
でも、仮想世界にいる俺自身が今、目の前で泣いているユウキに何か出来ることがあるはずだ、と思案する。その結果、アルファはまだ小さかった頃、泣いている時はいつも母さんに頭を撫でてもらっていたことを思い出し、ユウキの頭をぽんぽん、と優しく撫でてあげた。
アルファ「泣きたいときは泣けばいいんだよ」
それからしばらくの間、ユウキは涙を流し続けた。
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ユウキ「…ありがとね、もう大丈夫だよ」
数分後、ボクは泣くことをやめ、平常心を取り戻そうとしていた。昔、家族四人がみんな揃って幸せにクリスマスを祝っていた頃の記憶を思い出してしまい、どうにも涙が止まらなくなってしまったのだ。アルファには随分と醜い所を見せてしまったと、今更ながらに恥ずかしくなる。
ユウキ「ロザリオは大切に使わしてもらうから」
ユウキはアルファから受け取ったロザリオを装備する。効果はAGI+3、ソードスキルのクーリングタイムが1秒減少という破格のものだった。いつかアルファにお返ししなきゃ、とユウキは同時に思う。
アルファ「…今日はクエスト攻略はやめて、ゆっくりしようぜ」
アルファがボクに気を使ってくれていることを、ユウキは察した。言葉遣いは顔に似合わず荒っぽい所があるが、実の所は気遣いができる点がアルファの良い所なのだろう。
ユウキ(ボ、ボクは一体何を考えてるんだっ!)
ユウキは顔をほんのりと赤らめてしまうが、すぐに気を取り直した。
ユウキ「…じゃあ、雪景色を見に行こうよ!」
アルファ「うぉっ!」
今度は、ユウキがアルファ手を引いて、天幕の外へと出て行ったのだった。
恋人とホワイトクリスマスを過ごすのは全人類の夢。異論は認める。
では、また第15話でお会いしましょう!