~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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第140話 セカンド・ミッション

 アルファ「また勝てなかったか…」

 

 ユウキを巻き添え爆散し、何とか勝負を引き分けに持ち込んだ俺は現在、まるで霊体のように自身の操っていたイケメンアバターを見下ろせる位置から、眼前に表示される中継画面をボーっと眺めている。

 この大会のルールとして、参加者は大会中、自由にログアウトできない。なんでもその理由は、参加者がリアルで情報をやり取りし、遭遇戦の意義を失わせる可能性を考慮しているためらしい。なので俺はこうして、大会の決着がつくまでは、この場で中継を見続けるより他ないのだ。

 

 …ポケットに仕込んだプラズマ・グレネードを、ユウキに悟られずに上手く起動出来たのはかなり偉かった。だがそもそも、俺は中機関銃でユウキを殲滅すべきだったし、あそこで判断を誤ったのが、俺から勝利を奪い去った大きな要因だろう。

 しかし対するユウキも、切り札であるフォトンソードを繰り出した際に俺を完全に詰ませたと勘違いし…いやまぁ実際に、俺はあそこから逆転の余地は無かったわけだが…ちょっと気を抜いてたが故に、俺もなんとか相打ちに持って行けた訳だ。

 …今回こそは一カ月も準備して、間違いなくユウキを倒せると確信していたはずなのに…残念ながら、そうは行かなかったか…。

 

 アルファ「あ~あ…」

 

 中継に映し出される映像を見て、俺は思わず同情に近い嘆息を上げるのだ。

 現在時刻は九時四十六分。例によってサテライト・スキャンが行われた結果、都市廃墟エリア北部に居た二人のプレイヤーが同時に死亡したのだ。

 しかもその原因は、サテライト・スキャンによって隣り合わせにお互いが隠れていることに気が付き、爆弾を投げ合うという何ともやりきれない決着である。これは彼らにとっても不本意な結末であろう。

 そしてその他に生き残っているプレイヤーは<Krito> <Sinon> <闇風>の三名のようだ…が、どういう事か。キリトとシノンなるプレイヤーは、この大会でタッグを組んでいるらしい。お互いに争うことなく何処かの洞窟にて、作戦会議をするように口を動かしている。しかし中継の仕様なのか、音声までは届いてこない。

 そして彼女たちは、一方は砂漠の中で佇み、もう一方は狙撃態勢を整えた。その間にも闇風は、前者の居る場所目掛けて縦横無尽に砂の大地を駆けていく。

 …恐らく彼女たちは一方を囮にして闇風を誘き出し、そこを狙撃銃で狙い撃ちするつもりなのだろう。だが相手はあの闇風だ。そう上手く行くものだろうか…。

 

 アルファ「なんだ!?」

 

 直後。闇風が接近する方角とは真逆の東から、一発の銃弾が、キリトなる女性プレイヤーを貫こうとした。がしかし、彼女はそれを紙一重で回避する。

 そんな彼女を狙った狙撃手は…黒く荒んだボロマントにフードをすっぽりと被っている、その眼は鬼火のように赤く燃え、僅かに見えるその顔は…まるで骸骨だ。プレイヤーだとは分かっていても、まさしくゴースト然とした見た目には、何か薄ら寒いものを感じる。

 そのプレイヤーの名前は<Sterben>。そしてステルベンの放った銃弾を察知し、次は自分が狙われると思ったのだろう。その場で姿勢を低く保った闇風の身体に…シノンのスナイパーライフルから放たれた強大な轟音と共に、必殺の一撃が深く抉り込まれた。

 あんな火力の一撃を喰らっては、勿論生き残れるわけが無い。闇風が退場した今、残るプレイヤーは三人。狙撃手シノンは続いてキリトを援護するためにステルベンに向けて銃弾を放ち、それと同時にステルベンもまた、シノンに向けて銃弾を放った。

 その結果、双方のスナイパーライフルが損傷する。…狙撃手のステルベンでは、光剣を握る超接近型のキリトに対抗出来ようか、いや出来まい。だがここで、またしても想定外のことが発生する。

 ステルベンが腰から引き抜いた武器がなんと!レイピア…ではない。刃を持たず、貫くことに特化した武器…エストックだったのだ!!SAOにもエストックという武器カテゴリは存在したが、その扱い辛さと対モンスターに向いていないこともあって、一般プレイヤーからは見向きもされなかったことを、俺は瞬間的に思い出す。

 …そう。一般プレイヤーからは。

 

 アルファ「…赤目のザザ…?」

 

 図らずも俺の口から洩れたその呟きは、その後すぐに解消されることとなる。ステルベンに向かって一直線に駆ける彼女は、そのまま右手に持つ光剣を真っすぐ突き出し…片手剣重単発技<ヴォーパル・ストライク>を模った一撃を放ったのだ。

 それはまるで、ヴォーパル・ストライク特有のジェット音が、画面越しにも響いてきそうな程であった。そんな必殺の剣技を…ステルベンは完璧な動作で回避し、斬り返すようにエストックを唸らせる。そしてその剣先が、彼女の右肩に深々と突き刺さった。

 …その一連の剣筋を見ていれば、一部の元SAOプレイヤーは皆、確信するだろう。ヴォーパル・ストライクを放ったその美少女が…アインクラッド攻略組随一の孤高のソロプレイヤー、黒の剣士キリトであることを。

 そしてまた同時に、その人物をこの目で、或いはあのアインクラッドの闇とも言える討伐作戦が行われるその直前に、作戦会議の中で確認した者は、嫌でも気が付けるはずだ。その骸骨アバターの中身が…アインクラッド最凶ギルド<笑う棺桶>の幹部レッドプレイヤー、赤目のザザであることに。

 実際、俺が今その正体に気が付けたのは、圏内殺人の真相を追っているその時に、フィールドにて対峙したあの瞬間が、強く印象に残っているからであった。

 がしかし、疑問に思う点が一つ。剣筋から見て、もうこれは間違いなく、彼女の中身はキリトだとは思うのだが…だったらどうして、性別変更不可のタイトルであるGGOで、キリトは女の子になってしまっているのか。

 …あぁ、そうか。多分あれは、流行りの男の娘ってやつだな。キリトは女顔だから、アバターも女の子っぽくなったのだろう。ってことはやっぱり俺はイケメンの素質があるから、イケメンアバターになったってことだよな?

 

 アルファ「…キリト…負けんなよ…」

 

 …と、そんな冗談めいたことを頭の片隅では考えながらも、俺はいつからか固唾を吞みながら、緊張状態で彼らの成り行きを見守っていた。中継されるキリトの険し過ぎる表情と、対するステルベンの紛う方無きドロドロとした殺意、そして、音が聞こえずとも分かる彼の嘲笑が、その全てを告げている。

 彼らの闘いが、単なるバトルロイヤル以上の意味を持っていることを。これは正しく、黒の剣士キリトと赤目のザザの殺し合いであることを。

 無論、その内のどちらが体力を尽かせようとも、あの二年間のように、真の意味で命を奪われるわけではない。だが彼らの放つ威圧感は、そうであるかの如く思えるほどだ。そして始まった、因縁の対決。

 

 アルファ「……」

 

 赤目のザザは、想像以上の強さを見せた。そして一方でキリトは、余りに剣が衰えている。勿論、足場が砂地であり身動きが取り辛い上に、キリトの持っている光剣はあの頃と比べると軽すぎるのだろう。

 しかしそれは、赤目のザザも同じ条件だ。それでも後者は砂漠を上手く移動し、SAO時代のソードスキルを完全再現しながら確実にキリトを追い詰めていく。せめて奴の刺剣をキリトのお得意のパリィ出来れば、砂の上であろうともキリトの反応速度を活かせるのだろうが…如何やら奴の金属剣の素材は、エネルギーブレードをも耐えきる硬質なものらしい。そのせいでキリトがパリィを封じられているのが、かなり不利な条件なのだろう。

 だがあの頃のキリトであれば、例えパリィが使えないという条件であろうとも、この程度であれば赤目のザザ相手に攻勢を保てているはずだ。それが為し得ないのは恐らく、キリトも現実世界に戻って来て以来、少しずつ剣士である自らを薄れつつあったからだろう。

 あの頃の俺達にとっては、現実とはSAO唯一つであったが、今となっては俺達にとっての現実は二つ存在している。であれば、二つの世界の自分を一つの器に収めようとすると、当然どちらか一方が身を潜めることもあるのだと思う。

 

 …そう言う俺は、どちらに比重が偏っているのだろうか。そんな自問自答を脳裏に浮かべ、俺は明確な答えを出せないでいた。

 何故ならば…俺はユウキとの決戦に備える日々の中で、一つ気が付いてしまったからだ。それは…俺がユウキとのデュエルで、初撃決着モードに固執する理由である。

 端的に言ってしまえば、俺はユウキを殺したくない。殺せない。例え本当に死ぬわけでは無いとは頭では分かっていても、心はそれを認めてくれない。俺はユウキを守りたい。どんな理不尽からも救ってみせたい。だからこそ俺は、君を守ると誓い続けてきたのだ。

 そして同時に、どれだけの歳月が経とうとも、やはり俺の刃は血に汚れていた。そんな俺が守るべきユウキを刺し殺しでもしたら、それはもう…俺は俺を信じられなくなるのだろう。実際、かつてユウキが死んでしまったその時に、俺は精神を崩壊しかけたのだから。

 だからこそ俺は、ここGGOで決着をつけるとなった時に、光剣をメインアームに選択しなかった。剣士であるアルファとしてユウキの体力バーを削り切れないと言うのならば、俺は銃士として闘うことで、この心を誤魔化そうとしたのだ。

 だけど結果から言えば…煙幕の中でユウキを蜂の巣に出来なかった本当の理由は、銃士だろうと剣士だろうと、ユウキの命を奪いたくなかったからなのかもしれない。

 特にこの世界では、死体がその場に残るのだ。ミトの死体を見たあの時、俺は決して愉快な感情は持てなかった。それをユウキと重ねたからこそ…いや、今はそんなことを考えている場合じゃないか。兎に角、それ故にキリトは、赤目のザザに圧されていると見える。

 

 と考えるなら、キリトを圧倒している赤目のザザは、未だにレッドプレイヤー…人殺しのままであるというのだろうか。…まさか、そんなわけが無い…と思いたいが他方で、かつてレッドプレイヤーは人が死ぬと分かった上で殺しの魅力に憑りつかれたのだから、その可能性もまた、俺の中で拭えないでいた。

 …こんなことなら、ユウキとの決着がどうこうとか言う前に、最悪俺が赤目のザザを倒しにいけば良かった。しかし勿論、相変わらず日々ユウキとデュエルをしているとは言え、俺もまたあの頃と比べれば、腕は相当に落ちているだろう。それは、もし今の俺がヒースクリフやPoHと殺し合えば、呆気なく負けてしまう程に。

 だがそれでもあれぐらいであれば、キリトやユウキと共闘すれば難なく倒せてるだろうし…けどそもそも、俺が赤目のザザの正体に迫れるヒントも無かったわけだし、それは机上の空論か…。

 

 アルファ「!」

 

 キリトの体力が、遂に三割を切った。そして俺が、これは赤目のザザの勝利だろうと確信したその時だ。どういう訳か、ザザの放ったキリトの心臓目掛けたとどめの一撃が、僅かに逸れたのだ。

 そして続けて、ザザの頭に赤い線…恐らく、キリトとコンビを組んでいる狙撃手シノンが作り出したもの…が表示される。撃たれると直感的に判断したらしいザザが一歩身を退くも…中継に映るシノンの狙撃銃は、スコープが壊れていた。

 つまりは機能不全のライフルをブラフに利用した、幻影の一弾。見事な機転だと言える。その僅かな隙を、キリトが逃すわけも無く──。

 

 アルファ「はぁ!?」

 

 しかしザザが、その場でいきなり透明化し始めたのだ。何も、本当にゴースト化するわけでは無いだろう。足跡は残るだろうが、これではキリトは正確に急所を狙えない。

 …って言うか透明化の能力とか、普通にユニークスキルばりに反則級の強さだろ!!ナーフしろ!!運営!!…と、狙撃手シノンの素晴らしき作戦が、そんなお手軽アイテムのせいで無に帰ることに憤怒していると──

 

 キリト「う……おおおお────ッ!!」

 

 ──不意にキリトが左手を腰へと移動させ、そこから一丁の拳銃を引き抜いた。画面越しでもビシビシと伝わって来る有らん限りの雄叫びを、遂に中継カメラが拾う。キリトはそのまま身体を強く左に捻りながら突進を続けた。

 左手に握る銃器から数発の弾丸が飛び出し、それが透過しつつあるザザの身体を捕らえる。それによって透明化の能力は妨げられたらしい。再び身体を浮き上がらせたザザに対して、旋転し続けるキリトが、右手に握る光剣を、左上から右下へと斬り込んだ。

 そしてそれは、ザザの身体を真っ二つに斬り裂き──彼らの死闘は、そこで幕を閉じた。

 

 アルファ「…二刀流か…」

 

 パチパチパチと、半透明の身体でキリトの大逆転に拍手を送りながら、俺は独りそう呟く。キリトの放ったフィニッシュ技は恐らく、二刀流スキルの突進系のソードスキルだろう。

 キリトが二刀流スキルを持っていることは、SAO晩期には周知の事実であったが、それでも、二刀流スキルにどんな技があったのか、どんな名前だったのか、その全てを知っているのはキリトに限られる。俺が知っているものは、キリトの口から語られたスターバースト・ストリームぐらいだ。銃を剣に見立てて二刀流スキルを再現するとは、流石キリトの発想力であると言える。

 …最後の瞬間、キリトの姿にSAO時代の装備が重なって見えた気がしたが、あれは気のせいだろうか…。さっきの不思議な体験に俺が仄かな疑問を抱いていると、彼はコンビを組んでいたシノンなるプレイヤーと、何か仲良さげに肩を並べてコミュニケーションを取っているようだった。…おいおいキリト。そう言うことなのか?お前アスナにキレられても知らんからな、俺は。

 

 アルファ「あ」

 

 キリトは満身創痍、シノンはメインアームが機能しない。さて、二人はここから如何なる闘いを見せてくれるのだろうかと、そんなことを思っていた矢先だった。狙撃手シノンの方が、キリトの両手に黒い球体を乗せたのだ。それを見た俺はとんでもないデジャヴに襲われ、思わず声を洩らしてしまう。

 直後。キリトがそれを投げ出そうとするが、それを阻止するようにシノンが彼の身体に抱き着き──俺とユウキと同じように、二人は同時に爆散したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あれ?やっぱりキリト、これアウトじゃね?

 

 第三回BOB、同時優勝のリザルト…そして同率七位の俺とユウキの順位を確認しつつも、キリトに抱き着いたシノン、そして満更でもなさそうだったキリトを見て、俺はそんなことを思わずにはいられなかった。しかしやがて、強制ログアウトまでのカウントダウンが終了し、俺は現実世界にて意識を取り戻す。

 と同時に一人掛けソファの近くに置いてあった携帯を手に取って、手早く「一息ついたら、一旦GGOにログインして欲しい」とユウキにメッセージを送信してから、思い出したように尿意を感じ取りトイレへと駆け込んだ。流石に三時間近くダイブしっぱなしだと、そりゃトイレにも行きたくなる。

 スッキリとトイレから出てきた頃にはユウキから、「じゃあアルファが準備できたらね」との返事が来ていた。もう時刻は午後十時過ぎだけれども、大会があったせいでまだ晩飯も食べてないし、腹が減って仕方がない。

 がしかし、取り敢えず俺は、「先にGGO行っとく」との趣旨のメッセをユウキに送ってから、すぐにGGOへと舞い戻ったのだ。その目的は唯一つ。彼女に面と向かう為なのだが…。

 

 ミト「あっ、早かったじゃない。今日はちゃんと待っててくれたのね」

 

 アルファ「そりゃあ当然だ」

 

 総督府地下二十階。BOB本戦の待機エリアでもあったこの場所で、俺が暫し待ち人を探していると、チンと音が鳴り響いたエレベーターから、その張本人であるミトが姿を現した。何やらその両手には、三つの白い塊に色とりどりのソースっぽい液体が掛かったものを所持しているが、一体あれは何だろう…。

 

 ミト「ウルトラマシュマロ。いる?」

 

 アルファ「いるいる」

 

 既に現実世界では腹ペコ青虫が暴れ回っている俺が、その巨大マシュマロ串を受け取らない道理など無かった。

 ミトの問い掛けに返事をして、三本あるうちの一本を受け取った俺はすぐにそれに齧り付き、誤魔化し誤魔化しに仮想世界で腹を満たしたいという気持ちに駆られたが…まずは、ミトに言わねばならないことがある。俺は彼女の瞳を見据えて、それを言葉にした。

 

 アルファ「…ミト。あの時は、自分勝手に行動して、悪かった…ごめん」

 

 恐らく地上では、景気づけに銃声を轟かせ、空には花火が煌めき、ダブル優勝のお祭り騒ぎがワイやワイやと行われているだろうが、BOBは終了し、次のイベントまで用済みとなったこのエリアには、俺とミト以外のプレイヤーは居なかった。

 つまりはここで、俺が何を赤裸々に話そうとも、ミト以外のプレイヤーに聞かれることは無い。だから俺はようやく、ミトに対して素直に謝罪の言葉を口にしたのだ。するとミトは、はぁとため息をついてから俺に言う。

 

 ミト「あの時アルファは、急いでたんでしょ?だからそこは、私も別に怒ってないの」

 

 アルファ「え?」

 

 如何やら俺の謝罪は、見当違いであったらしい。想定外の事態に思わず軽く下げていた頭を上げると、ミトがちょっぴり怒ったような表情で、俺にそれを告げる。

 

 ミト「私が悲しかったのは、アルファがあの後、私に会いに来てくれなかったことよ」

 

 アルファ「…あぁ、そうだな。それもごめんだったな。…ちょっとリアルに手一杯で…つい…」

 

 ALOでユウキに別れを告げられる。この出来事さえなければ、俺はリハビリやらなんやらが終わればすぐに、ミトを探しに行ったのだとは思う。

 だがユウキのあの一言によって、俺自身でさえ想像も出来ない程に強烈な精神的ダメージを喰らい、それ故に俺も、ユウキと再会しその本心を聞き出すまでは、とてもじゃないがそんな余裕は無かった。

 そしてユウキと再会して以来も、出来るだけ彼女と一緒に居たくて、ミトを探しに行く余裕なんてまた無かったことも事実だ。だがそんなことは、ミトからすれば知ったことじゃないだろうし、俺はまた誠心誠意謝ることしか出来ない。

 

 ミト「…まぁ、こうしてまた会えたから、もういいんだけど」

 

 今度は穏やかに微笑みながらそう言った彼女は、その右手を俺の前に差し出すと、また言う。

 

 ミト「私はアルファのこと…大切な友達だって思ってる。だから良かったら、この気持ちに応えて欲しいな。バーチャルもリアルも関係なく」

 

 そう言ったミトに対して、俺も笑顔を浮かべながら言い返した。

 

 アルファ「…そんなの当然だろ?改めてよろしくな、ミト」

 

 ミト「…うん!アルファ」

 

 俺が左手でミトの右手を握ると、彼女も嬉しそうに笑顔を綻ばせながら、左手を握り返してくれた。こうして俺とミトはGGOにて再会を果たし、硬い握手を交わし合って、確かな友情を紡いだのでした。めでたしめでたし──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウキ「…ふ~ん…」ジトッ

 

 アルファ「ゆ、ユウキ…さんっ…!!」ビクッ!!

 

 ──とはならなかった。一体、どのタイミングでGGOにログインしていたのか。いつの間にか俺とミトの近くにひっそりと潜んでいたユウキが、何やら含みのある相槌を打つながら、俺とミトが握手を交わすシーンを眺めていたのだ!!

 彼女の冷ややかな視線とその全く読めない表情を見て、俺はゾゾっとと背筋を凍り付かせる。そしてすぐさまミトとの握手を辞めようとするも…何やってんだよミト!?

 彼女はニヤニヤと笑みを浮かべながら、ガッチリと俺の左手を掴み、離さない。俺は正面に向かい合っていたミトと握手したまま、俺の真横にやって来たユウキに身体を向けたものだから、傍から見れば俺とミトは、恋人のように手を繋いでるようにも見えなくは無い!

 

 アルファ「ユウキ!!違うんだ!!これはユウキの想像するようなことじゃ──」

 

 ユウキ「はいはい、そうだねー。そうだといいねー。アルファの返答次第ではその身体に風穴が空くけどねー。まずは口の中にショットガンかなー」

 

 アルファ「ふぁ!?」

 

 …そうだった。ユウキにミトとの関係をきっちり丁寧に説明するという第二のお仕事が、俺にはまだ残ってんじゃねぇかよ!…って言うか、俺ってミトと握手してただけなんだが!?そんなジト目向けられることしてないんだけど!?

 と頭の中では様々な思いが錯綜するも、俺の口から飛び出したのは、浮気の発覚を恐れるその人の発言であった。そんな俺に対してユウキは、あくまでも蔑むような目線で、淡々とヤバすぎる処刑方法を述べてくれる。

 

 ユウキ「取り敢えずそこで、大事な大事なお話しよっか?」

 

 アルファ「するするするする!!だからお話という名の実力行使はNGだからな!?」

 

 ユウキ「…」

 

 アルファ「ユウキさんっ!?」

 

 すぐ近くにあるテーブルを指差して、対話による紛争解決を試みてくれるらしいユウキに、俺はぶんぶんと縦に首を振りながら、猛烈にユウキの提案を受け入れた。

 そしてついでに念のための確認をしておくと…ユウキは何も言ってくれない。これは交渉テーブルが銃器によって或いは光剣によって破壊される予感がすると嫌な焦りを募らせつつも、ここでようやく手を離してくれたミトに俺は全力で迫る。

 

 アルファ「ミト!勿論弁解に力を貸してくれるよな?」

 

 ミト「いいけど…。ユウキ…でいいのかな?取り敢えず、マシュマロ串いる?」

 

 ユウキ「うん、ありがとね」

 

 またもや錆び付いたロボットのように、ゆっくりゆっくりとテーブルへと進んで行く俺は、ミトがユウキにマシュマロ串を手渡す仲良さげな様子を目にして、一瞬この危機的状況をぽかんと忘れ去ってしまった。

 何でそんなにニコニコしてられんだよ。よもやこいつら共犯だったりするんじゃないだろうかと、実は彼女ら、既にGGOで知り合っていて、俺にドッキリでも仕掛けてるんじゃないのかと、そんな疑念を浮かべずにはいられなかった。

 やがて俺とユウキが対面しながら丸テーブルの席に着き、ミトがその仲裁に入るように、持ってきた椅子をその間に置いて座る。するとユウキはすぐに、ツンとした口調で俺に言ってくる。

 

 ユウキ「じゃあまずは、アルファからの御託でも聞こうかな」

 

 アルファ「…もうショットガンの刑が決まったみたいな言い方しないでくれ。頼むから。…えっと、簡単に説明すると、俺がミトと出会ったのは旧ALOの世界で、ミトがユウキの居る世界樹まで俺を案内してくれたんだ。そんで、GGOで出会ったのは今日が初めてだ。名前も見た目も変わってたから、俺も試合中まで気が付かなかった」

 

 ユウキ「なら…不貞関係は既にその時から始まってたってことで良いのかな?っていうかそう言うことだよね。ホントサイテーだよ、アルファ」

 

 兎に角今は、詳細は省いて簡潔に説明することが重要かと思った俺は、極々大雑把にミトとの今日に至るまでを述べると、ユウキは無表情のままに言い返してくる。なので今度は、俺は首を横にふるふると一生懸命振ってから答えた。

 

 アルファ「いや、そんなこと無いから、マジで。…その時のミトは、ダンディな男アバターだったんだ。声も変声機で変わってたから、俺もてっきり男かと思ってた」

 

 ユウキ「へぇ、ならアルファは男の人でもいいんだね。どっちにしろ浮気してたんだね」

 

 アルファ「なんでそうなるんだ!?ミト!何か言ってやってくれ!」

 

 むきゅむきゅと可愛らしくマシュマロを食べ進めながら、しかし徹底して俺を浮気の方向へ持って行こうとするユウキに、これは俺ではどうしようもないことを悟らされた。助けを求めるようにミトを見やると、今度は彼女がユウキに話し始める。

 

 ミト「まぁ、アルファの言ってることは全部ホントの話よ。だからアルファは、私と不貞関係なんて築いてないかな」

 

 ユウキ「…」

 

 ミト「それに私はアルファのこと、大切な友達だって思ってるけど…ユウキが想像するような気持ちはこれっぽっちも抱いて無いから、その点も大丈夫」

 

 ユウキ「…そっか。それじゃあ、良いかな。うん」

 

 ミトの真摯なる言葉が効いたのか、ユウキはようやく、俺が浮気なんぞ企てていないことに納得してくれた。多分それは…ミトが俺を異性として好いていないことに、確信を持てたからなのだと俺は思う。…うん、そこまで本人にハッキリ言われると、ちょっと悲しい気持ちもあるけれど。

 いつの間にかあっさりと巨大マシュマロを食べ終えていたユウキが、その身からふっと鬼神を消し去ると、晴れた笑顔を見せながら口を開いた。

 

 ユウキ「まぁ、ボクは最初から分かってたけどね。アルファは浮気なんかしないって」

 

 アルファ「…絶対嘘だろそれは。そうじゃなかったらあんな怖い顔しないって」

 

 ユウキ「…ホントは、ちょっとだけ不安だったんだ…」

 

 アルファ「…俺は、ユウキ以外有り得ないから…その、安心してくれていいと思う…」

 

 ユウキ「…うん、ありがと」

 

 そんな彼女の表情がもう一厘の疑いも向けていないことを理解した俺は、微笑みながらそう言い返すと、ユウキが少し表情を曇らせつつも、その胸の内を語ってくれた。だから俺も勇気を出して、でもやっぱり恥ずかしくて目線を逸らしながらそれを伝えると、ユウキも小恥ずかしそうにはにかんでくれる。

 そんな俺とユウキを眺めていたミトは、穏やかで生暖かい目を向けながら、俺達に告げた。

 

 ミト「じゃあこれにて、一件落着って感じで良い?」

 

 ユウキ「勿論だよ!…でも──」

 

 ミトの言葉に大きく頷いたユウキは、満面の笑みでミトを見据え、手を差し伸べたのだ。

 

 ユウキ「アルファだけじゃなくて、ボクとも友達になってよ!ミト!」

 

 ミト「うん!今日からよろしくね、ユウキ!」

 

 その手を掴んだミトは、また笑顔でそれに応える。そんな二人の様子を眺めている俺が、今度は穏やかな表情を浮かべているのだ。

 …これで今度こそ、めでたしめでたし。みんな幸せでこれ以上に無い終わり方──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──だったはずなのに、ミトが不意に思い出したように、ユウキにソレを言ってしまった。

 

 ミト「…あ、そう言えばなんだけど。実は、アルファが私に抱き着いてきたり、一緒にお風呂入ろって言ったり、私の中身が女の子だって知った上で、同じ部屋に泊まったりしたのは事実よ」

 

 瞬間、その場は時が止まったように凍り付いた…否、凍り付いたのは、その誤解を招くような言い方をされつつも、全て事実でしかない俺だけであった。

 そんな俺を見てミトは面白そうにケラケラと笑い、ユウキはいつの間にか構えたショットガンを俺に向けている。

 

 ユウキ「…ん~、そっか~…。で、それは聞いてないんだけど…どういうことかな~?」

 

 アルファ「」

 

 無論、俺がその後どうなったのかは、語るまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 セカンド・ミッション…失敗!

 次回の投稿日は、三月八日の火曜日となります。

 では、また第141話でお会いしましょう!
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