~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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闘病編 後篇
第141話 聖夜の贈り物


 十二月二十四日、午後十時。

 

 アスナ「みんな!勝つわよ!!」

 

 「「おぉッ!!」」

 

 アスナが闘志漲る瞳で俺達を眺め、威勢の良い声でそう言うと、気合十分の俺達もまた意気盛んに言葉を返す。そんな俺達の現在地点は、新生アインクラッド第21層、迷宮区タワー最上階にあるボス部屋の前である。

 普段は寒々と薄暗く、プレイヤーの緊張感を募らせてくれるボス部屋前も、今日は俺達の熱気に充てられて、心なしか温かい光が差し込んでいるように錯覚してしまう程であった。一段とエネルギッシュな俺達を見て、ここに集った他のプレイヤー達も、いつもよりも活力を溢れさせているように思える。

 

 ユウキ「…でもまさか、たったの数時間で迷宮区タワー踏破しちゃうなんてね…」

 

 アルファ「あぁ、あの頃からは、考えられねぇよな」

 

 ユウキが半ば放心気味にそう言葉を放つのも無理はない。何故ならばここ第二十一層は、本日の六時頃に二十層が解放されて以来僅か四時間で、フィールドどころか迷宮区タワーの内部でさえ、簡単にマッピングされてしまったのだから。

 勿論、迷宮区タワーのみを目的として突っ走って来たので、周囲に広がるフィールドやサブダンジョンの探索は全くだし、フィールドボスもまだ何処かで生きているだろうし、クエストなんてまだ一つも手を出せていないし…と、この層でやれることもまだまだあるのだが…如何やらここに居るプレイヤーは、もう二十一層のフロアボスを討伐しようとしているらしい。

 …全く、早計にも程があるだろう。新層が開放されてたった一日でフロアボスに挑もうなど、旧SAOのことを思えば有り得ないの一言だ。

 しかし今は当時とは違って、文字通り命懸けの闘いをしているわけではない。今の俺達はゲームを楽しんでいるのだ。決して、ボスを倒し、上層を目指すためだけに闘っているのではない。仲間と共にその過程にこそ喜びを見出しているのだ。

 

 ミト「流石にベータテストの時でも、こうはならなかったわ」

 

 シノン「GGOにはこういうタイプのダンジョンは無いから、私にとってはかなり新鮮ね」

 

 そんな俺達の仲間に、つい二週間前に新たに加わったのが、ミトとシノンのお二方である。それぞれリアルネームは、兎沢深澄、朝田詩乃。年齢は、十八に十六だ。つまりはミトが俺と同い年で、シノンは俺より年下。ユウキにとってはミトが先輩で、シノンが後輩となるわけだ。

 

 …あぁ、そう言えば、ミトは兎も角シノンについては何も説明していなかったか。実は、俺がミトと再会を果たし、ユウキに詰め寄られ続けた末に酷い目に遭ったあの日の二日後。

 まず、「これからミトとも仲良くしていきたいから、ちゃんと先に言わなきゃいけないことは言いたんだ」とのユウキの要望で、俺はユウキの入院する病院へと、ミトを案内した。

 そして真実に至ったミトは、かなりの衝撃を受けているのが目に見えて分かったが、それでも彼女はしっかりと、ユウキの現状を理解してくれたのだ。

 その後、アスナ、リズベットらがダイシーカフェに溜まっているとの連絡を受けていたので、どうせこれからALOで顔合わせすることになるんだからと、ついでにミトをアスナ達に紹介しようと思った俺は、普段はユウキの病室にばかりに行っていて中々立ち寄ることの無いエギルの喫茶店へと向かったのだが…そこで出会ったのが、シノンであった。

 とは言っても、エギルの店に居たシノンは、現実世界の朝田詩乃としての容姿…正しく、図書館で物静かに本を読んでいそうな雰囲気を纏った子であったので、俺は単に彼女がエギルの店の常連客かと思っていたのだが、同じくカウンター席に座って居たキリトが事の詳細を語ってくれた。

 そこでようやく俺は、先日のBOBにて、赤目のザザが本当の意味での殺人を犯していたこと。その物静かそうな女の子が朝田詩乃という名前で、GGOにてキリトとタッグを組んでいた狙撃手シノンであること。やっぱりキリトは男の娘アバターを使用していたこと…等々の衝撃的な事実を知ることになった。

 だがその場で知り得た情報の中でも、俺が一番驚かされたのは、まさかまさかのミトとアスナがリアルフレンドであったことだ。…まぁ確かに今思えば、ミトとアスナのリアルの髪型は全くのお揃いだし、そこから気が付くことも出来たっちゃ出来た…訳が無いな、流石に。

 つまりはそこで自動的に、ミトが旧ALOで語っていた親友君の正体がアスナであることを、俺は図らずも知ったのである。

 世間は狭い。

 この言葉をあの日程強く実感することは、今後の人生でもそう無いのだと思う。

 

 クライン「でもよォ、アルファがユウキちゃん以外の女の子引っ張って来るなんて、珍しいモンだぜ」

 

 リズベット「アタシなんて最初は、アルファが浮気したのかと思ってたわよ」

 

 アルファ「しない。浮気は絶対しない。…そんなこと言ったら、俺はキリトがシノンを連れてるところ見て、コイツまた女の子誑かしたんだなって思ったぜ、純粋に」

 

 エギル「それにはオレも納得だ」

 

 キリト「おいお前ら、流れ弾飛ばす所間違ってるだろ。って言うか誑かしたってなんだ。そんなこと一切してないからな」

 

 …ユウキの前では浮気なんて絶対にしてはいけません。元よりするつもりだってないし、これからは一ミリの疑いも持たれないよう細心の注意を払っていきたいと思います。…だって、微塵でもその疑いを持たせただけで、あの仕打ちなのだから…あぁ、思い出しただけで身体が震えてくる…。

 リズベットの心外なひと言には反射的に反応しつつも、ならそう言うキリトこそ、いっつも異性の知り合いばっか引っ掛けてるじゃねぇかよと、思ったままのことを口にすると、エギルとクラインはうんうんと深く首肯していた。

 そんなキリトもまた心外そうに俺達に言い返してくれるけれど、残念ながら彼の味方をする男性陣は、ここには居ない。

 

 アスナ「みんな~、準備出来てる~?」

 

 …多分どうせ、シノンもキリトに好意を抱いているのだろう?男冥利に尽きるなお前。

 と彼に若干の羨望を向けながらも、そう言えばそんな実質女たらしの彼の恋人であるアスナさんは、この状況をどう思っているのだろうかと気になりはしたが、如何やら肝心のアスナさんは、目の前に迫ったボス戦に全集中しているらしい。こちらの話は、聞こえていなかったようだ。

 

 因みに何故、クライン達がミトの性別が女性であることを知ってるかというと…今のミトの姿は、それこそ現実世界そっくりであるからだ。

 それは数日前にミトと現実世界にて待ち合わせた時に、ミトのリアルの姿を見た俺が言うのだから間違いないのだと思う。その時と違う点は、こちらの世界の彼女は髪型がポニーテールで、瞳もリアルの緑っぽい黒では無く赤色、髪色も現実世界と比べると、少々薄めの紫色になっている。

 がしかしやはり変わりないのは、その整った容姿だろう。初めてリアルで会った時は、不覚にもその美しさに見惚れていたのは、とてもじゃないが言葉には出来ない。そんなことを言ってしまえば、またユウキに…。

 まぁ話を戻すとしようか。なんでもミトによると、旧ALOではゲーム内での性別変更が可能だったのだが、新生ALOにデータが移行する際に、性別を変更しているプレイヤーは強制的にアバターの性別が修正されたらしく、その時どういう訳か、現実世界と似たような容姿になったのだとか。そういう訳で彼女は、データ上の強さは引き継ぎつつも、新生ALOでは男性では無く女性として振舞っているのである。

 

 ユウキ「こっちは大丈夫だよ!」

 

 ユウキが俺達のパーティーを代表してそう言うと、アスナは早足に、今回ぶっつけ本番でフロアボス戦に臨む他のプレイヤー達に、準備が整ったことを伝えに行ってくれた。

 本日の突発的な二十一層フロアボス攻略戦に参加する俺達の仲間は、総勢十四名の大所帯だ。一レイド七パーティーの内の二パーティー分を担当できる、実質中規模ギルドぐらいの人数である。

 まぁ実際には、俺達はギルドを結成しているわけではない。仲間のうちで話の話題としては上って来るものの、別に今更ギルドを作っても…と言う気持ちが強いのだろう。誰かがそれを率先して行動に移すことは無いままだ。

 これは余談だが、俺はギルドを結成することには余り前向きではない。そしてそれは、ユウキも同じくであった。俺とユウキにとっては、オウガとサツキの二人を加えたスリーピング・ナイツこそが、最初で最後のギルドに留めておきたいのだ。

 俺にとってはギルドという存在は、最早遥か昔となってしまった、あの日々を純粋に楽しんでいた懐かしい思い出の一つであると同時に、二度と犯してはいけない罪をも包括した深い戒めでもあるのだと思う。

 

 キリト「やっと俺達も、バランス良い編成になって来たな」

 

 リーファ「それでもまだまだ、治癒師は不足してるけどね」

 

 総勢十四名。世はクリスマスイブだというのに、どうして今日に限って全員ALOにログインしているのか。と言うかそもそも、俺達以外のプレイヤー達もこんな大切な日に、一体何をVRMMOなんぞに励んでいるのか。

 もっと大切なことがあるだろう?恋人とか恋人とか恋人とか…俺?俺は、いつも通りユウキと過ごしてるんだぜ?恋人居るんだぜ?…と誰かに自慢してやりたいのだが、俺だって少し前まではクリぼっちで過ごしてたんだ。彼らの気持ちも痛いほど分かる…まぁ実際には、クリぼっちの方々はクリぼっちであることを特に気にしてないんだけども。

 

 …あぁ、今日は話が脱線しがちだ。クリスマスイブで浮かれてるな、俺。さぁ気を取り直して本題に入ろう。

 

 そんな俺達十四人は、リーファの指摘通りまだまだ物理に偏っているとは言え、かなりパーティーの骨組みは固まってきていた。

 今日の所は第一隊に、キリト、アスナ、シノン、エギル、シリカ、リーファが配属された。純タンク職のエギルにアタッカーのキリト。サポートも攻撃もどちらも出来るリーファとシリカに、ヒーラーとしてのアスナ。そして最後に、つい二週間前にALOにて新規アバターを作成したばかりのシノンだ。

 シノンは驚いたことに、九種族で一番視力の良いケットシーを選び、メインアームにALOでは気難しい武器の一つである弓を選択したのだ。

 だがそこは、第三回BOBチャンピオンの狙撃手シノンである。彼女の弓捌きは凄まじく、ケットシーの弓使いという新たなビルドの可能性を、彼女自身が発掘したのだ。そんなわけで第一隊は、かなり役割の豊富なパーティーだと言えよう。

 

 一方第二隊は、俺、ユウキ、リズベット、クライン、ノーチラス、ユナ、ミトの七名である。こちらは脳筋がユウキとクラインの二人に加えて、鍛冶妖精であるが故に魔法はあまり得意ではない…つまり悪く言うと脳筋三年目のリズベット。ノーチラスもスプリガンということもあって、やはり攻撃魔法には期待できない。

 となるとやはり、俺とユナが支援に回るしかないのだが…ここでミトの存在が大きく輝く。ミトも見事な鎌捌きによる物理型ではあるが、補助魔法や攻撃魔法も覚えてくれているので、リーファと似たような動きをしてくれるのだ。

 

 なので第二隊は少々物理に特化し過ぎているものの、何とかパーティーとして成り立つ程度には収まっている。本当は今日集まっているメンツ以外にも、リーファのリアルフレンドらしいレコンというプレイヤーも居るのだが、彼は治癒師では無く隠蔽スキルに長けた斥候系のビルドだ。

 そんな彼は本日欠席である。女の子とデートに行っているのか、将又この世界の何処かに居るのかは分からないけれども。レコン以外で治癒師を探すとなると、真っ先に思い浮かぶのはクリストハイトだろう。

 クリストハイトなるプレイヤーはアスナと同じくウンディーネであり、見た目は物柔らかそうな長髪の優男である。そんなクリストハイトの中身は誰なのか、それは皆さんご存じの菊岡さんである。だが菊岡さんもやはり大人の男性だ。クリスマスイブである今日は、リアルで色々あるのだろう。

 

 …そう言えば、第三回BOBが開幕する数日前に、菊岡さんから「少し話したいことがあるんだけど、銀座の方まで来てもらえないかな?」とのメッセージが入っていたが、ユウキとの決戦準備及びユウキとの時間に忙しかった俺は、どうせ菊岡さんに会いに行ってもただでさえ足りない時間が無くなるだけだろうと考え、それは綺麗にお断りさせてもらっていた。

 だがそのせいで赤目のザザ…いや、死銃が引き起こした殺人事件を解決するというハードな任務を、キリトに全て押し付ける羽目になってしまったのだが…。

 

 ノーチラス「そろそろみたいだな。ユナ、頼む」

 

 ユナ「ん、任せて」

 

 それではいざボス戦に挑もうぜと、場が盛り上がったタイミングで、ユナが皆に吟唱スキルによるバフを掛けてくれる。吟唱スキルの使い手が少ないこともあるが、ユナの美しい歌い口に皆聞き惚れているようであった。

 まぁそれは俺も例外ではなく、ユナの歌を収めたCDとか発売しても良いんじゃねとか思わないでもない。と言うか強く思ってる。

 

 そして始まった、二十一層フロアボス攻略戦。俺達がボス部屋に雪崩れ込むと、闇に包まれたその部屋の中で、鬼火が中心に集うが如く、幾つもの赤や青の火の玉を模したライトエフェクトがボス部屋中央上空に収縮した。

 そしてそこから現れたのは、金色に輝く王冠を被り、衣装は煌びやかなローブを、そしてその指には色とりどりの宝石指輪を幾つも装備し、右手には魔力を集約したような宝玉を嵌め込んだ杖を…しかしそれに反して、ローブから垣間見えるその眼窩は全てを吸い込むような漆黒。肉は削げ落ちており、骨と皮だけになった存在…最後に眼窩に妖しい人魂が宿ったかと思うと、遂にボス出現ムービーが終わったようだ。

 

 アルファ「…リッチね…」

 

 これは強敵の予感だと悟ったからか、或いは少しばかり苦手なアンデッド系のモンスターを目の当たりにした為か、俺は冷や汗が噴き出すのを感じ取りながら、まずは補助魔法を唱え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キリト「広範囲魔法来るぞ!」

 

 ユウキ「みんな!一回下がるよ!」

 

 ──ボス戦開始から、約十五分が経過した。

 

 ボス部屋内部では多くのプレイヤー達の指示やら雄叫びやらが飛び交い、ボス自身から放たれる轟きがそれをも打ち消そうとしている。そして現在、ボスの体力は、六本あるうちの体力バーが二本削れた四本となっている。

 このペースであれば、あと一時間闘い続ければボスを撃破出来るのだろうが…悲しきかな、フロアボス攻略戦は、お世辞にも上手く進んでいるとは言えない。

 リッチの攻撃魔法の火力が高過ぎることや、恐らく段階ごとに解放されていくであろう巨大魔法。一定時間経過するとリッチが呼び出す死の軍勢の数が中々に多いこともその要因であろう。しかし一番厄介なのはやはり…。

 

 「ちょ、誰か解呪を──」

 

 …また一人、犠牲者が出てしまったか。

 

 今のでこのボス戦に置いて体力を尽かせたのは、三人目であった。あの頃であれば、こんな事態に陥れば緊張状態が一気に加速していくのであろうが、今はそういう訳でもない。俺だって最初こそ、俺自身のことは勿論、そして他人のものであっても、ゲーム的な死には慣れなかった。

 がしかし最近では、ようやくこの現象にも順応してきた気がする。何せあの頃とは違って、皆真の意味での断末魔を上げはしないのだ。そこに悔恨や驚きはあろうとも、悲嘆、絶望、呪詛、現実逃避…等々、深い負の感情に塗れた今際の言葉を、生に縋るような表情で発することは無いのだから。

 

 そしてたった今、リメインライトへと変化したプレイヤーは一分の制約を待たずに、その場から消えてしまう。これがこのボスの厄介なところである。リッチの放つ魔法には全て、呪い効果が付与されているのだ。

 その内容は、一定量の呪いが付与されると、最大体力の減少、移動力の低下、そして魔法やアイテムによる蘇生の阻害というダル過ぎるものである。呪い自体はヒーラーが解呪魔法を唱えてくれればそれで事足りるものの、今回のレイドは全体的にヒーラーが少な目であった。

 恐らくこのリッチを倒すためには、いつも以上のヒーラーの数を揃えなければ厳しいのだろう。今日の所は無念ではあるが、ボス討伐は諦め──

 

 ──その時。リッチの演出も相俟ってか、薄暗く保たれていたこの空間に、白き閃光が…いや、碧き閃きが、流星の如く走った。それに遅れて、鋭き気勢が響き渡る。

 

 アスナ「い……やあァァァッ!!」

 

 その輝く一撃は、光の速さでリッチの身体へと吸い込まれていき…その心臓部を、深く突き刺した!

 

 「ガアアァァァッ!?」

 

 そしてリッチ自身も、何が起こったのか分からなかったようだ。瞳を見開く代わりに、眼窩に宿る鬼火を一際大きく動かしてから…ダウン、膝をついた。そこでようやく、リッチに強烈な一撃をお見舞いした人の正体に俺は気が付くのだ。

 

 シリカ「あ、アスナさん!?」

 

 そう。シリカの言う通り、今の攻撃はアスナが放ったものであった。恐らく発動させたソードスキルは、細剣カテゴリ最上級技の長距離突進系ソードスキル、<フラッシング・ペネトレイター>であろう。

 しかしその技は、発動の為に長めの助走が必要であり且つ一直線にしか突っ込めないことから、SAOの世界でも使いどころが限られ過ぎる技ランキング上位に君臨していたはずなのだが…いや、今はそんなことはどうでもいい。何故アスナは、ただでさえヒーラーの少ないこの戦況で前衛に躍り出たのか──。

 

 アスナ「みんな!リッチをここで倒すには、回復に逃げてちゃダメよ!このままじゃどうせ回復は追い付きません!故に回復は最低限、攻撃と回避に傾倒した闘いシフトチェンジなさい!!」

 

 アルファ「……」

 

 ──あぁ、そうだったな。今日はどうしても、ここのボスを倒さなきゃいけなかった。なのに俺は何を、今日は諦めようとなどと思っていたのだろうか。攻略組の名が泣いているぞ、俺。それにこのボスとの闘いは、実質一回きりのデスゲームと同じじゃねぇかよ。気合い入れてけ!

 

 アルファ「よっしゃ、俺もガンガン前出て行くぜ!」

 

 ユウキ「行こう、アルファ!」

 

 アルファ「おう!」

 

 恐らくアスナはこのままでは全滅することを悟り、しかしいつまで経ってもジリ貧の闘いを続ける俺達を眺めて、遂に耐えきれなくなったのだろう。アスナはまるで、血盟騎士団副団長閃光のアスナの如く、レイド全体に指示を行き渡らせながら自ら前線に立ち始めた。

 そんなアスナの叱咤激励に背を押されるように、俺をはじめとするレイドメンバーが皆、これまで以上の雄叫びを上げながら、それぞれの武器を煌めかせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスナ「はあァァァ──ッ!!」ザシュッ

 

 「gyaaaaaaa──!?!?!?」

 

 

 そしてボス戦開始から、約四十五分後。俺達はあれ以来、捨て身とまでは行かないが、それに準するアタック一本の戦略でリッチに攻撃を仕掛け続けた。幸いボスの防御面は低めであったので、こちらの数が削り切られる前に、ようやく体力バーの全てを削り切ることに成功したのだ。

 …とは言っても、ボスが最終段階で発動した、死の軍勢の召喚と共に巨大魔法を数々放ってくるバーサークモードには、流石に敗北を予感したのだが。だがそれ以上にバーサークしていたのは、治癒師寄りのアタッカー(大嘘)のアスナさんであろう。

 実は彼女あれ以来、一度も支援に回っていない。指揮官として指示を飛ばしながら、延々とボスにレイピアを振り放ち続けていたのだ。あれは最早、KOBに所属していた頃のアスナよりも凄まじかったのではないだろうか。これは今後、彼女にバーサークヒーラーみたいな二つ名を付けられたとしても、とてもじゃないが弁明出来るとは思えない。

 

 そんな物騒な二つ名が俺の頭に思い浮かんできたのも、アスナがボスに止めの一撃を放ったかと思うと、その場で勝利を祝うことも無く、リッチの頭蓋骨を蹴り飛ばしながら、第二十二層へと走り去って行ったからだろう。

 その後を慌ててキリトが追っていたが…今は俺達の出る幕では無いだろう。恐らく二人が向かった場所は、十月頃に俺がユウキと共に目指した場所と同じく、彼ら二人の還る場所、森の中の小さなログハウスなのだろう。

 …というかそれ以前に、普通に一日で二回も迷宮区タワーに登って、その上ぶっつけ本番でフロアボスを攻略するのには流石に疲労困憊だ。ちょっと休憩しないと動き出せる気がしない。

 

 そんなわけで、この場に残ったレイドメンバー二十数名で軽く勝利を祝い、また一緒に戦おうぜと握手を交わしたりしてから、俺達は一度二十二層の主街区に立ち寄ったのだが…やはり彼らはログハウスへと向かったらしい。転移門をアクティベートしてから、俺達もそちらへとすぐ向かう。

 …もし、地形変更があったせいで、フィールド上にあった彼らの家が無くなってしまっていたら…一瞬、俺はそんな不安に駆られるも…如何やらその心配は無かったらしい。

 

 アルファ「泣くほど嬉しいのか?」

 

 アスナ「う、うるさいっ…」

 

 あの頃と何ら変わりない、妖精の住処のような小さなログハウスは、確かにそこに在った。

 そしてその小さな家の前でしゃがみ込み、涙を流しているのがアスナであった。その隣には、アスナの背をさすりながら感慨深そうにログハウスを眺めるキリトも居る。

 俺だって勿論、アスナの泣きたくなるような気持ちも十分理解出来るが、冗談っぽくそう訊ねてみると、アスナも微かに涙を流しながら何かを伝えようとするも、それが言葉となる前にまた俯いてしまった。

 それからもう暫くの間涙を流し続けていたアスナであったが、涙を拭うとすぐに、俺達に笑顔で語り掛けてくる。

 

 アスナ「折角だし、今日はここでクリスマスパーティーしちゃおっか!」

 

 ユウキ「賛成賛成!そうと決まったら、早速材料買いに行かないとね!」

 

 アスナの魅力的な提案には誰もが惹かれていたのだろうが、その中でも一際強く食いついたのは、ユウキであった。

 

 キリト「良かったな、クライン。今年は女の子とのクリスマスを人生初めて過ごせるらしいな」

 

 クライン「ば、バカッ!誰が人生初だこんちきしょう…まぁ、そうだけどよぉ…」

 

 キリトの安い挑発に食って掛かったクラインは反駁材料が全く見つからなかったようで、項垂れるより他なかったようだ。…まぁだがここに居るメンツは殆ど、キリトが掻っ攫っているんだがな。

 

 エギル「とは言え、ここに居る女性はみんな十八歳以下だからな。間違っても変な気は起こすなよ」

 

 クライン「当ったりめぇだろ!オレをなんだと思ってやがる!」

 

 エギルの冷静なアドバイスにクラインが過剰反応している中、俺はふと、それを言葉にしてしまった。

 

 アルファ「でも、ミトとリズベットは…一応フリーだし来年で十九歳だし…」

 

 ミト&リズベット「「…」」ササッ

 

 クライン「ちょ、お二方!?オレ別にまだ何かやらかしたわけじゃないんですけど!?」

 

 シノン「…犯罪者予備軍ってことかしら」

 

 クライン「そりゃねぇぜ…」

 

 俺の発言を耳にしていたらしいミトとリズベットが、その場から無言でクラインとの距離を開けると、彼は大層不服そうに喚いていた。そこでシノンが辛辣な発言をぶち込み、クラインは遂に再起不能へ。その場が朗らかな笑いに包まれる。

 それから俺達はパーティーの準備をパッパと済ませてから、大人数でのクリスマスを存分と楽しんだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウキ「楽しかったね~!」

 

 午後十一時四十五分。俺はユウキと我らが住処のプレイヤーホームに向けて、上機嫌に足を進めている。彼女の声色からして、心の底からクリスマスパーティーを楽しめたのだろうことがよく伝わって来た。

 十四名というかなりの人数でのパーティーが終わると、その場で解散ということになったのだが、勿論俺とユウキが向かったのは我が家ということだ。

 

 アルファ「そうだな。俺も楽しかった」

 

 ユウキの華奢な手をしっかりと掴みながら、いつの間にか降って来ていた雪をザクザクと踏みしめる。道端にはふんわりと積もった雪の絨毯が広がっているが、その中に飛び込んだり或いは雪玉を投げつけ合ったりすることは、もう既に先程のパーティーで行っているので、今更そのようなことはしない。

 去年は俺もユウキも眠りに落ちていたし、最後にユウキとクリスマスを過ごしたのは二年前ではあるが、その時の記憶は今でもよく思い出せる。

 当時はまだ五十層付近であったあの頃からは、まさかあんな形でSAOに結末が訪れるとは想像もしていなかっただろう…とそんなことを考えていると、すぐに我が家に辿り着いてしまった。ホームへと帰還した俺は、取り敢えずリアルでの就寝準備を行ってから、もう一度ALOへと舞い戻って来る。

 するとユウキはちょこんとソファに腰掛けているわけで、いつも通り俺もその隣に座る…前に、メニューウインドウを操作する。そして俺はアイテムストレージから取り出したリボン付きの袋を、彼女に手渡すのだ。

 

 アルファ「メリークリスマス、ユウキ。これは俺からのプレゼントだ」

 

 俺が彼女の瞳を眺めながらそう言うと、ユウキも笑顔を綻ばせてくれる。

 

 ユウキ「ありがと、アルファ。開けてもいい?」

 

 アルファ「勿論」

 

 俺が返事をすると、丁寧にリボンを解いたユウキは、その中身を見てあっと気が付いたように告げる。

 

 ユウキ「そう言えばボク、こっちの世界じゃヘアバンドしてなかったね~」

 

 アルファ「そう言うことだな。因みにヘアバンドって、カチューシャとカチュームの二種類あるらしいぜ」

 

 ユウキ「そうなんだ。どんな違いがあるの?」

 

 アルファ「カチューシャは、プラスチックとか金属で出来たC字型、カチュームは、布とかゴムで出来た輪っか」

 

 ユウキ「う~ん…じゃあこれは…?」

 

 アルファ「どっちの要素も持ってるから、カシャーム」

 

 ユウキ「へぇー!」

 

 アルファ「今のは嘘だけどな」

 

 ユウキ「…もう。ちょっとだけ感心してたのに」

 

 という訳で、俺はユウキへのプレゼントを二年前と全く同じものにしてしまったのだが、別に、適当に選んだとかそういう訳ではない。やっぱりユウキは、ヘアバンドをしている姿が良く似合っているのだ。自分で買って装備してくれる気配が無かったから…つい、な?

 次いで俺がヘアバンドに関する豆知識を披露すると、意外にもここは自称博識ユウキさんの守備範囲外だったらしい。俺が嘘もホントも交えながらそれを伝え、そして最後にネタ晴らしすると、ユウキは俺にしてやられたのが不快だったのか、口を尖らせて少々面白くなさそうな顔をしていた。

 因みに、今回ユウキに贈ったヘアバンドの色は、赤…よりは濃い真紅色がベースで、所々に薄橙のラインが入っている。二年前とは全く色が対照的だが、俺がそれを選んだ理由は──

 

 ユウキ「確かにボクに似合いそうだけど…どっちかと言うと、あっちのボクに似合いそうだね…アルファ?」

 

 アルファ「…ど、どっちのユウキでも、似合うヘアバンドを探してきたからなー…」

 

 ──やはりそこはユウキ本人だ。あっさり俺の魂胆を見透かしてきた。GGOでの決戦を終えた今、俺もユウキもALOに再コンバートして元のアバターに戻っているため、もうあのサブアカウントを使う必要は無いのだが…ユウキには、偶にはあのアバターも使って欲しい。俺そんぐらい気に入っちゃった。

 …これは、浮気じゃないよな?あくまで中の人がユウキだから良いのであって、だからユウキじゃないとダメで…うん、どう考えても浮気にはカウントされない。セーフです。

 ユウキに少々追及されてしまった俺は、あえなく棒読み回答で応戦すると、彼女は呆れたように息を吐き出した。

 

 ユウキ「…まぁ、良いんだけどね…。じゃあ次は、ボクからのプレゼントだよ」

 

 とは言いつつも、取り敢えずそれを装備してくれたユウキは、やはりいつもよりも魅力が増したように思える。

 そして気を取り直したように、今度はボクの番だよと言った彼女はポンポンと膝を叩いた。それで全てを察した俺は、そのままソファに横になって…彼女の膝に頭を乗せる。

 

 ユウキ「まずはこれからだよ」

 

 アルファ「あぁ…最高…」

 

 これは俺達の間では恒例の…まぁこれで三回目なのだが…ユウキからの膝枕である。こう、ユウキの柔らかい太腿に身体を預けながら、こうして彼女に頭を撫でてもらえるのは、至福の一言であろう。

 しかもユウキ、俺の頭の何処をどう撫でれば気持ちいいのか分かっているらしく、本当に…うん、幸せだ。俺が心の底からの想いを告げると、彼女も満足そうに暫く膝枕を続けてくれた。

 

 アルファ「…なぁ、ユウキ。一つ頼んでもいいか?」

 

 ユウキ「なぁに?」

 

 アルファ「俺が熱出した時にさ、歌ってくれたあの歌、歌って欲しいんだ」

 

 ユウキ「…いいよ」

 

 ユウキの膝枕を甘受していると、無性に彼女の歌声が聞きたくなった俺がそれをお願いしてみると、彼女は聖母のような微笑みを俺に向けてから、懐かしの子守唄を歌ってくれた。その音色は、やはりユナにも負けず劣らずだ。いや寧ろ、個人的にはユナ以上なのではないかと思わされるその穏やかな歌声を聞いているうちに…俺は……。

 

 ユウキ「ちょっとアルファ。アルファってば」

 

 アルファ「……ん……ごめん…寝そうになってた…」

 

 ユウキ「ボクからのクリスマスプレゼント、全部渡してないんだよ?だからまだ寝ちゃダメ!」

 

 アルファ「え…これ以外にもあるのか?」

 

 ユウキ「う、うん、ちょっと待っててっ!」

 

 …ついつい、眠りにつこうとしていた。…だってユウキの子守唄、すっげぇ心地良いからな。仕方ないだろう?

 そんな中ユウキがゆさゆさと俺の身体を動かすので、俺も一応こちらの世界へと意識を取り戻す。何やら話によると、もひとつユウキからのクリスマスプレゼントがあるらしいが…正直言ってもうめっちゃ眠いし、多分半分ぐらいは微睡んでるし、俺の中ではユウキの膝枕と子守唄で、クリスマスの全てが完結していた──

 

 ユウキ「お、お待たせっ…」

 

 アルファ「」

 

 ──というのは嘘だ。

 

 プレゼントを取りに何処かへ行ったと思っていたユウキが、次に俺の目の前に現れた今、彼女の姿見は赤色の布地に白のもこもこした生地と、小さな白いポンポンがてっぺんに付いた三角帽子を被っているものであった。

 更にユウキは、普段着ではなく帽子と同じ色をしたベアトップの衣装に身を纏っており、そのワンピースはお尻と太腿の境目で、ふわりと緩いスカートが揺れていた。そして極めつけは、これまた赤色のオーバーニーソックス。太腿とスカートの間に垣間見える透き通るような肌が……うん。

 

 アルファ「ゆ、ユウキ…それは…?」

 

 …いやまぁ、別にユウキに聞かずとも、その姿を見れば答えは一目瞭然なのだが、何とか理性と本能で相談し合った結果、俺の口から出た言葉がこれだったのだ。するとユウキは、モジモジと若干恥ずかしそうに身悶えながらそれを言葉にしてくれた。

 

 ユウキ「こ、これは…サンタコスだよ…?ほ、ほらっ、アルファが昔、して欲しいって言ってた…」

 

 …う~ん。確かに俺は、そんなこと言ってた気がするな。だが当時の俺よ、一つ言っておいてやる。もしその時にユウキのサンタコスなんぞ目にしていたら、もう理性がぐっちゃぐちゃに破壊されていたこと間違いないぞ。ある程度耐性が付いた今でもかなりヤバいんだからな。

 ユウキが何だか一生懸命にそう説明してくれているのは恐らく、これを自分の意思だけでやったと解されるのは、相当な羞恥心を引き起こすが故だろう。

 そして彼女はあろうことか、俺を覗き込むような態勢で、上目遣いに俺を見る。ベアトップということもあって肩から下が非常に露出しており、更には前屈みになったこともあって、小さいながら確かに起伏のある胸部がチラチラと見え隠れしているのだ。俺の視線が何処に行っているのか、それに気が付いたらしいユウキは、本日最高に赤い顔で俺にこう言った。

 

 ユウキ「も、もう一つのプレゼントは、サンタコスを着たボクなんだ…う、受け取ってくれるかな…?」

 

 アルファ「…す、好きにしていいですか…?」

 

 ユウキ「…う、うん…好きにして、いーよ…?」

 

 …まさかその台詞を現実に言われるとは。何だか感動的な気持ちになるな。なるほど確かに、今日はクリスマスイブ。またの名を、性夜であったか。

 そんなことを思いながら俺がそれを訊ねると、ユウキもドキドキとした様子でそれを承諾してくれた。その後俺達がベットに直行することになったのは、最早当然のことである。俺とユウキの三度目のクリスマスは、またこれまでとは違った思い出を作り上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回の投稿日は、三月十日の木曜日となります。

 では、また第142話でお会いしましょう!
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