~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

143 / 197
 二本立てで終わらせるつもりだった。でも無理だった。


第143話 キャリバー 中編

 ──どうしてこうなった。

 

 女王が黄金の水滴に溶けてこの場から消滅し、トンキーが緩やかに上昇を始める中で、俺は無性にそう言いたくなる気持ちを抑え込んでから、この僅か三十分程度でしかない時間に起きた濃密すぎる事態を咀嚼し始める。

 

 事は、キリトがキャリバーを探索しに行こうとか言ったのに俺やユウキを含む皆が便乗したところから始まった。キリトの案内に従ってまさかのヨツンヘイムまでのショートカットを利用し、そこで出会ったちょっぴり愛嬌が無いわけではない怪物「トンキー」の背中に乗せられていると、天然のジェットコースターの如く、彼若しくは彼女が急降下し、その中で何故だかユウキが俺の身体に抱き着いてきたのだ。

 二重の意味でビックリしつつも、彼女が振り落とされないようしっかり支えながら、何とか命を拾ったその末に、ユウキからの眩しい純粋な笑顔。

 そしてその後すぐに邪神の縄張り争いみたいな現状に出くわし、どういうことかと唸っていると、身長だけでなくその胸部まで巨大な女王から、キャリバーの真実を知らされたわけだ。そして俺達は今、キャリバーを回収するために、スリュヘイムなるダンジョンへと向かっているのだろう。

 …うん。やっぱりかなりハチャメチャな展開だ。と俺がこれまでの出来事を振り返っていると、キリトの肩から飛び出してきたユイちゃんが、皆の真ん中でホバリングしながら言った。

 

 ユイ「あの、これは、百パーセントの確度はない推測なのですが…この<アルヴヘイム・オンライン>は、他の<ザ・シード>規格VRMMOとは大きく異なる点が一つあります。それは、ゲームを動かしている<ガーディナル・システム>が、機能縮小版ではなく旧<ソード・アート・オンライン>に使われていたフルスペック版の複製だということです」

 

 ユイちゃんの言う通り、それは紛れもない事実であった。そうでもなければ、この世界にソードスキルシステムが導入されたり、俺達の始まりでもある浮遊城アインクラッドが再誕したりするようなことは無いのだから。ALOがSAOのコピーバージョンであることは、俺もキリトから聞かされているが…それが、今回の一件とどう関係してるのだろうか。

 

 ユイ「本来のガーディナル・システムには、シュリンク版では削られている機能が幾つかありました。その一つが、<クエスト自動生成機能>です。ネットワークを介して、世界各地の伝説や伝承を収集し、それらの固有名詞やストーリー・パターンを利用・翻案して、クエストを無限にジェネレートし続けるのです」

 

 ユウキ「む、無限!?」

 

 ユイちゃんの口から語られた衝撃的な真実に、ユウキは口をパクパクと動かしながら驚きを露わにしていた。一方クライン、アスナ、シリカは、旧アインクラッドのクエスト事情に半ば呆れたように愚痴り始める。

 その中でアスナから、情報屋のデータベースに一万ほどのクエストが収集されていたとの発言が聞こえてきたが、一体俺とユウキは、その内の何百件をアルゴと共にクリアしたのだろうか。思い出すだけで…何とも疲れた気分になる。

 …それに、ユイちゃん言うように、クエストが自動生成されるというのならば、ユウキが月光スキルを手にする契機となったあの謎のクエストも、恐らくは何処かの伝承なり文献なりから引っ張られてきたものなのだろうか…。

 

 「──とすれば、ストーリーの展開いかんでは、行き着くところまで行ってしまうことは有り得ます。あの氷のダンジョンが地上の<アルヴヘイム>にまで浮上し、アルンが崩壊、周辺のフィールドに邪神級モンスターがポップするようになる…いえ、もしかすると…私がアーカイブしているデータによれば、当該クエスト及びALOそのものの原型となっている北欧神話には、いわゆる<最終戦争>も含まれるのです。ヨツンヘイムやニブルヘイムから霜の巨人族が侵攻してくるだけでな更にその下層にある、<ムスペルヘイム>という灼熱の世界から炎の巨人族までもが現れ、世界樹を全て焼き尽くす…という…」

 

 リーファ「……ラグナログ」

 

 リーファがポツリと呟くもすぐに、ゲームシステムが管理するマップを破壊出来るわけが無いと、彼女自身そう反論する。

 がしかし、七十五層でヒースクリフがプレイヤーの実質的な存命を賭けた闘いに敗れた際に、浮遊城が崩壊していく様を俺とユウキは眺めていたことから分かるよう、旧ガーディナルの最後の任務は、アインクラッド自体を消滅させることであったが故にそれも可能であると、ユイちゃんはそう答えた。

 続けてシノンが、バックアップ・データを利用してサーバーを巻き戻せるのではないかと、良い視点からの指摘を為すも、やはりこちらもダメであった。ユイちゃんによると、巻き戻せるデータにフィールドは含まれない可能性が高いらしい。

 つまり俺達が、このクエストをクリア出来るか否かで、今後のアルヴヘイムの行く末が決定づけられるということである。これは一大事だと俺が意識レベルを上昇させていたその時。突然、クラインが思い付いたように、「そうじゃん!」と叫ぶも、すぐに「だめじゃん!」と頭を抱えた。

 その一連の流れに、こんな事態であってもツッコミ精神を忘れないリズベットが突っかかる。するとクラインが、GMにこの状況を知らせようとしたが、年末日曜午前の現在は人力サポート時間外であると、残念なお知らせをしてくれた。

 …俺はGMに頼るなんて、あの二年間のせいで全くもって頭の片隅にも思い浮かんでこなかったのだがな。

 

 リーファ「こうなったらやるしかないよ、お兄ちゃん」

 

 そう言ったリーファが、右手にぶら下げた大きなメダリオンを高く掲げる。それには、綺麗にカットされた巨大な宝石が嵌め込まれていた。しかし今、その六割以上が漆黒の闇に沈み、光を跳ね返さない。それが全て暗黒に染まるとき、女王の力は完全消滅延いてはアルヴヘイム侵攻開始であると女王は言っていた。要するに、あれが俺達に残された時間制限という訳だ。

 

 キリト「…そうだな。元々、今日集まったのは、あの城に殴り込んで<エクスキャリバー>をゲットする為だったんだからな。護りが薄いって言うなら、願ったりだ」

 

 リーファに対して深く頷いたキリトは、メニューウインドウを操作したかと思うと、背中に二本の剣を交差させる。…普段は二刀流を封印しているアイツがそれを解放するということは、本気でこのクエストをクリアしに行くつもりなのだろう。それに気が付いたクラインが、ニヤリと笑ってから叫んだ。

 

 クライン「オッシャ、今年最後の大クエストだ!ばしーんとキメて、明日のMの一面載ったろうぜ!」

 

 クラインの即物的な声掛けに、「「おー!」」と皆で勢い良く唱和する。そして遂に辿り着いた逆三角形型ダンジョン…巨城<スリュヘイム>へと、俺達は突入し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──氷の居城<スリュヘイム>に突入して以来、約二十分が経過した。女王の言う通り、ダンジョン内に蔓延っていたはずの人型邪神は相当に少なく、通路の雑魚モンスター(邪神級)と鉢合わせることはほぼゼロ。フロアの中ボスも半分が本丸の守護を放棄し、外へ出向いているようだった。

 とは言え、次層へと続く階段手前の広場には、守護者としてのプライドなのか、律儀にもフロアボスが居残っていたのだ。まずは第一層のボス、部屋中にツララを発生させる攻撃力全振りのサイクロプスを何とか撃破。そして俺達は現在、第二層目のボスと相見えている。

 

 ユイ「衝撃波攻撃二秒前!一、ゼロ!」

 

 ユイちゃんの精一杯の大声に耳を傾けながら、前衛、中衛を務める俺達は左右に大きく飛んだ。そのちょうど真ん中に降り下ろされた斧の刃と白い衝撃波が一直線に駆け抜け、その先の壁を激しく叩く。

 第二層のボスは、二体のミノタウロス型邪神であった。一体は全身金色、もう一体はどこぞの黒づくめ同様の毛色で、武器は双方、その巨体に見合ったサイズのバトルアックスである。

 

 そしてこちらのパーティー構成は、前衛がキリト、クライン、リーファ。中衛はリズとシリカ、後衛に、アスナとシノンでワンパーティー七名が完成している。

 そしてそこから溢れている八、九人目の俺とユウキは、必要に応じて俺達の所持するバングルでメイジ代わりに魔法攻撃を行ったり、或いは前衛として見事なコンビネーションを繰り出したり、若しくは魔法剣士としてビルドを完成させている俺は補助魔法を使用したりと…所謂遊撃担当ということだ。

 二年間…最初の一カ月と、ギルドとして活動した短くも濃密であったあの時期を除けば、常に二人で攻略に励み、フロアボス戦においても異質にも二人での行動を認めてもらえていた俺にとっては、こうしてユウキと二人で動き回る方が、最大限に自分の力を発揮出来ると思っていることは、実は皆には秘密だったりする。

 そんなわけで、この一見完璧とも見える布陣であるが…。

 

 ユウキ「金色の方、物理耐性高すぎるね」

 

 アルファ「…そうだな」

 

 一点だけ、欠点は存在する。それはやはり、メイジ的役割を果たせる人物が心許ないことであった。

 アスナは治癒師の居ない俺達の為に魔法は支援、回復系特化で、半分はバーサークヒーラーよろしくの細剣使い。シノンはアスナと同じく後衛ではあるものの、こちらの世界でも変わらず狙撃手として弓使いであるため、攻撃手段は物理に限られている。

 シリカもやっぱり支援系の魔法をメインとしているし、魔法剣士であるリーファは戦闘阻害系呪文の軽いヒールしかマスター出来ていない。

 対する俺は、補助及び攻撃魔法を多少は習得しているとは言え、決定打となるような大魔法は打てない。俺とユウキの持つバングルは大魔法ではあるものの、無詠唱というアドバンテージ故に相応のクーリングタイムが設定されている。

 つまりはこうして、物理耐性特化の敵が出現した時に、俺達は一気に窮地に陥ることとなるのだ。金は物理、黒は魔法耐性に秀でており、どちらか一方を一気に葬ろうとすると、もう一方がヘイト無視でその間に割り込み、その間に一方が瞑想で体力を回復させるというサイクルを取ってくる。

 …せめて、ここにミトが居てくれればもう少しマシな展開になるだろうが…高3生である彼女は、もう目の前に受験が迫っている。確か今日は、日曜日だというのに学校で補講があるとか言っていた。恐らく、その合間にスマホを確認し、キリトからのキャリバー探しに行こうぜとの文面を見た暁には、もう相当悔しい思いをしているのではないだろうか。

 …と現実逃避もここら辺で置いておいて、これはもう、物理耐久特化のミノを同じく物理攻撃特化の俺達が撃破しようと思えばあれしかないのではないかと、キリトにそれを提案しようとしたその時だ。俺の思考を読み取ったように、キリトが叫んだ。

 

 キリト「いちかばちか、金色をソードスキルの集中攻撃で倒し切るしかない!」

 

 クライン「うっしゃァ!その一言を待ってたぜキリの字!」

 

 今年の五月にソードスキルが実装されたことは、前出の通りである。そしてその追加点の一つが、上級ソードスキル限定ではあるものの、<属性ダメージを追加>するという事柄であった。恐らくこれも、ALOにおいて総数の少ない近接系ビルドの興隆を図る為なのだろう。

 上級スキルとなると自然と連撃技が多くなり、その分硬直時間も長くなってしまうが、物理属性に加えて地水火風闇聖の魔法属性を付随できることは、多くの場面で有用に働く。そしてそれは、今回もその例に漏れない。

 ピナのバブルブレスによって一瞬怯んだミノに向かって、俺達は色とりどりのライトエフェクトを得物に纏わせながら、一目散に疾走した。皆、あの世界で散々お世話になったソードスキルを洗礼されたモーションで発動させ、シノンもまた後方から、弓系のソードスキルというあの頃には無かった有難い遠距離スキルで援護してくれた。そして一旦、ソードスキル特有の硬直により、皆の身体は時が止まったように固まる。

 

 キリト「……ッ!!」

 

 ふと、キリトから気合いの籠った吐息が漏れたかと思うと──

 

 アルファ「っ!?」

 

 ──彼は右手で握る剣で発動し終えたはずのソードスキルを、今度は左手で握るもう片方の剣で、またソードスキルを発動させたのだ。

 …まさか、ALOにもコッソリ二刀流スキルが導入されていたのか!?一瞬そんな驚愕を覚えるも、そうではないとすぐに理解出来た。それは、彼が左手から放ったソードスキルが片手剣スキルであったからだ。そして更にキリトはまた右手の剣に新たなライトエフェクトを纏い…片手剣スキル<バーチカル・スクエア>を発動させる。

 とそこでようやく俺も気が付く。キリトは恐らく、二本の剣を持つことで片手剣スキルを交互に発動させているのだろうことに。それがシステム的に可能か否かは、目の前で彼が実証してくれていた。

 俺はその事実に先程の倍以上の驚愕を受けつつも、技後硬直から解除されたユウキが皆と同じくもう一度ソードスキルを発動させようとするのを右手で制止して、彼の行く末を見守る。

 …もう直ぐ、無詠唱魔法のクーリングタイムが終了する。もし彼らがボスの体力を削り切れなければ、俺達がそこで魔法をぶち込まないと、この一か八かの賭けも全て無に還ってしまうのだ。

 キリトの実に十五連撃にも及ぶその剣舞が、金ミノの体力を削り切る…ことは出来なかった。ボスは勝利を確信した様にニヤリと獰猛に笑い、直撃すれば即死級、高速回転による範囲攻撃のモーションを、ゆったりと発動させようとするも…そこで俺達の魔法が発動可能となった……がその一瞬前に。

 

 アスナ「い……やあァァァァッ!」

 

 これまで後衛に甘んじていたアスナが、疾風の速さで前線に躍り出て、ソードスキルを発動させたのだ。それによって俺とユウキが魔法を発動させる前にミノは体力を全損。その巨体を爆散させ、パーティクルへと変化した。

 そしてその場に残ったのは、魔法防御特化の黒ミノ君。彼が俺達に蹂躙されることとなったのは、至極当然の結果であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──氷城スリュヘイム、第三層。

 

 地図データにアクセスし、通路の最適ルートやそこに仕掛けられているギミックの解除方法など、その全てを丸裸にするというユイちゃんのチート的実力を発揮してもらい、俺達は最速で通路を駆け続け、道中に出会った中ボスを二度葬った。

 そしてその最奥で俺達を待ち構えていた守護邪神は、体格はミノよりも大きく、しかも下半身には百足のように十本もの足を生やした巨人であった。それ故にスピードは速く、その上攻撃力も馬鹿みたいに高いせいで、防御面は脆いとは言え、一手ミスするだけで戦線崩壊というかなり綱渡りな戦いを強いられているのだが──

 

 シリカ「最後の一本斬り落としました!」

 

 キリト「サンキュー、シリカ!」

 

 ──その移動力の根源たる、足が全て失われてしまっては、それはもう恰好の的にしかなり得ない。

 俺とユウキ、クライン、キリトの四人でタゲを取っている間に、残りのメンバーに足を集中攻撃してもらい、こうしてボスの移動手段を奪ってしまったということだ。

 シリカの報告と共に巨人が地に倒れると、そこからはキリトの独壇場であった。キリトは左右の剣で連続的に別々のソードスキルを発動させ、二刀流スキルの如き超連撃を巨人に打ち込み続ける。

 キリトが第二層で見せたあの技は、彼命名であろう<スキルコネクト>というシステム外スキルであった。今は時間が無いからと話を省略したキリトだったが、その名前から考えるに恐らく、まず片方の剣でソードスキルを発動させ、その終わり際に別なソードスキルをもう片方で発動、その際にはちゃんとソードスキルの初動モーションを作っておく…という一連の動作を左右の剣で繰り返すことで、ソードスキルの弱点であるディレイをキャンセルしているのだと思われる。

 がしかし、こんな素晴らしい技が存在しているのに、ALO界隈では一切話題にならないということは…キリト以外には誰もこの技を成し得ていないのだろう。スキルコネクトの件について、クラインがキリトに食いついた際のやり取りが、いつかどこかで見たような光景だった気がするのは、恐らく気のせいでは無いと思う。

 

 キリトがボスに止めを刺すや否や、リザルト画面をゆっくりと確認することも無くすぐに第四層に雪崩れ込んだ俺達は、ユイちゃんのナビゲーションに従って、ボス部屋へと続く通路に踏み込むと──そこには、判断に迷う一つの光景が広がっていた。

 まず眼前には、鋭く伸びたツララで出来たが檻が存在している。そしてその中には、俺たちと同じ背丈ほどの女性が囚われていたのだ。肌は粉雪のように白く、長く流れる髪はブラウン・ゴールド。

 この寒さに似合わない程に薄手は服装からは…ユウキの何倍でしょうか。圧倒的な胸部が溢れるようであった。華奢な両手両足には氷の枷が嵌っている。こちらの気配に気が付いたのか、その顔立ちが西洋風の気品あふれる美貌の持ち主であった彼女は、か細い声で言った。

 

 「お願い…。私を……ここから、出して…」

 

 その弱々しい嘆願に、ふらりと引き寄せられたのは、赤毛の刀使いであった。…俺?俺は勿論、ユウキ一筋だからな。例えどれだけ目の前に居る女性が美人であったとしても、心が揺れ動くことは無論ないわけだ。…そ、その…母性溢れる豊かな胸部には引き寄せられないでもないけど…。そんなクラインのバンダナを掴み、グイと引き戻したキリトが短く言った。

 

 キリト「罠だ」

 

 シノン「罠よ」

 

 リズベット「罠だね」

 

 クライン「お、おう……罠、だよな。……罠、かな?」

 

 続けて発せられた二名の同調に、クラインは微妙な表情で、しかし諦めが悪く可能性を探る。するとユイちゃんが、この人はNPCでありHPが有効化されていますと答えてくれた。…クエスト自動生成機能を嫌という程味わって来たSAO組からすれば、この手のクエストで、ダメージを受けるNPCが出現するということは…

 

 アスナ「罠だよ」

 

 シリカ「罠ですね」

 

 リーファ「罠だと思う」

 

 …はい。ほぼ確実に裏切られます。勿論、それを心の何処かでは理解しているクラインも、遂には美人の彼女を助けることを放棄したように、そこから目を逸らした。そして俺達九人は、再びダンジョンの最奥に向けて足を進め始めたのだが──。

 

 「……お願い……誰か……」

 

 アルユウ「…」ピタッ

 

 そう懇願されてしまうと、俺とユウキは同時に自然と足を止めてしまうのだ。…これは俺達の、あの頃以来の悪い癖だった。裏切られる可能性が高いとは分かっていても、こうも助けを求められると、人情なのエゴなのか、その人を助けずにはいられなかったのだ。

 そしてその結果、クエストがハードになって、やばいやばいとその場から逃げ仰すのがお決まりであったけれど…今回は、みんなと一緒に集団行動しているのだ。だから俺達個人の感情で、リスキーなことをするわけには行かないだろう。

 俺もユウキもすぐに、彼らの後を追うように足を動かし始めた。直後、俺達よりも後ろを走っていた彼が、絞り出すような低い声で俺達に告げた。

 

 クライン「…罠だよな。罠だ、解ってる。───────でも、罠でもよ。罠だと解っていてもよ……それでもオリャぁ…どうしても、ここであの人を置いて行けねェんだよ!たとえ…たとえそれでクエが失敗して…アルンが崩壊しちまっても…それでもここで助けるのが、それが、オレの生き様──武士道ってヤツなんだよォ!」

 

 そう叫んだ末に、振り向きドタドタと氷の檻へ舞い戻ったクラインは、すぐに自慢の刀の腕で氷の檻を斬り裂き、その美女を助け出した。

 …クライン、カッコいいな…どうしてクラインはモテないのだろうか…などと、何百回目の思考を繰り返してから、一応、その美女が怪物に変じてクラインの頭を丸齧りしてしまう展開に備えて抜刀の準備はしておいた。

 だが流石にそうはならず、美女は感謝の言葉を述べた後に、一族の宝を取り戻すために王スリュムの部屋に行かねばならないのだと、またまたベタな展開へと持って行ってくれる。

 恐らく、キリトのパーティーの方にその美女は加入したのだろう。俺の視界には、ユウキのHPバー以外は出現しなかった。如何やら彼女の名前はフレイヤらしく、恐らくメイジ型のビルドだそうだ。

 メイジに欠ける俺達にとっては有難いなと思いつつも、リーファの持つメダリオンをチラリと見ると…もう九割方は黒に染まりつつあった。事態が切羽詰まって来ていることを再認識しつつも、通路を更に進んで行く。

 

 SAOの頃と変わらず、ボス部屋に近づくと装飾オブジェクトに変化が見られ、マップデータが重くなっている様子をここでも感じ取れた。そして突き当りには、二匹のオオカミが彫り込まれた分厚い氷の扉が立ちはだかっており、恐らくここが王座の間であることを直感する。

 俺達が慎重に近寄ると、扉は勝手に左右に開き、その奥から嫌な威圧感が感じ取れた。アスナが全員に支援魔法を張り直すと、フレイヤまでもが全員のHPを大幅ブーストするという謎のバフを掛けてくれた。

 一気に内部に駆け込むと、そこは壁や床はこれまで同様青い氷。部屋を暗く照らす灯りは青紫の不気味な炎である。がしかし、中でも俺達の眼を釘付けにさせたのは、部屋の奥に輝く無数の黄金製オブジェクトであった。

 お宝センサーが発動したのだろう、フラフラとそちらへユウキが近づいて行くのを、これも罠だろうと何とか精神を保った俺が制止しようとすると──。

 

 「……小虫が飛んでおる」

 

 空間に、全身に響くような重低音の呟きが聞こえた。

 

 「ぶんぶん煩わしい羽音が聞こえるぞ。どれ、悪さをする前に、ひとつ潰してくれようか」

 

 ずしん、ずしんと、床を震わせながら、ぬうっと一つの人影が出現した。…デカい。見上げなければ全身を伺えない程に、そいつはデカかった。

 肌は鉛のように鈍い青色をしており、腰回りには小舟ほどはある板金鎧を、脚と腕には黒褐色の毛皮を撒き付け、上半身は肉体こそが最強の鎧であると言わんばかりに、隆々とした筋肉が露わとなっていた。青い髭は胸にまで長く垂れており、顔は描写の限界でよく見えない。

 ウルズの居場所を教えれば、この部屋の黄金をたんまりやるぞと、スリュムからの悪役らしい一言に、クラインが威勢よく反駁すると、皆武器を抜刀する。

 …飛べない状況ではコイツの足にしかダメージを与えられないが、足にダメージを蓄積させるとスリュムが膝をつき、弱点部分の顔面を地つかせるとかそういうパターンだろうか。するとスリュムが、意外なことを言ってのけた。

 

 「…ほう、ほう。そこにおるのはフレイヤ殿ではないか。檻から出てきたということは、儂の花嫁となる決心がついたのかな、ンン?」

 

 クライン「は、ハナヨメだぁ!?」

 

 「そうとも。その娘は、我が嫁としてこの城に輿入れしたのよ。だが、宴の前の晩に、儂の宝物庫をかぎ回ろうとしたのでな。仕置に氷の獄で繋いでおいたのだ、ふっ、ふっ」

 

 …と言うことはつまり、フレイヤもまたこのスリュムに敵意を抱いているという先程の話は真であるということだろうか。となると、フレイヤさんに後ろから刺される…だなんて展開にはならなさそうだな。良かった。そんなどうでも良いことを考えていると、フレイヤが毅然と叫んだ。

 

 「誰がお前の妻になど!かくなる上は、剣士様たちと共にお前を倒し、奪われたものを取り戻すまで!」

 

 「ぬっ、ふっ、ふっ、威勢の良い事よ。さすがは、その美貌と武勇を九界の果てまで轟かすフレイヤ殿。しかし、気高き花ほど手折る時は興深いというもの…小虫を捻り潰したあと、念入りに愛でてくれようぞ、ぬっふふふふ…」

 

 そのギリギリのラインを突いたセリフに、周囲の女性陣が一様に顔をしかめ、クラインもまた怒りを露わにしていた。…まぁ、スリュムの気持ちもよく分かるんだけどな。とか心の何処かで思わなくもない俺は、きっと心が成長したのだろう。それが良いのか悪いのかは不明だが。

 とそんなことを思っているうちに、戦闘が始まったらしい。スリュムが巨石の如き右こぶしを高々と持ち上げ──青い霜の纏ったそれを、猛然と降り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回の投稿日は、明日となります。

 では、また第144話でお会いしましょう!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。