~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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第160話 一夏の思い出 そのいち

 見渡す限り、透き通るような群青が広がっていた。青の絨毯に浮ぶ白い熱球からは、強烈な陽光が降り注いでいる。半袖から飛び出した肌色の皮膚は、ジリジリと焼き焦がされていた。

 青空にはもけもけと膨らみゆく入道雲がたなびいているが、残念ながらそれは、強すぎる太陽光を緩和してくれはしない。前方から伸びる幾つもの影法師もまた、全身を覆うほどの日陰にはなり得なかった。

 肌に纏わりつく湿り気の強い空気は、時折風立つこともある。だがそれは季節外れの暖房にしかならない。むわっ都市籠るような空気に包まれ、額や背中から汗が流れるままに、俺達はただ目的地に向けて足を進めるのだ。

 その数なんと九人、ちょっとした集団である。歩道からはみ出ないよう縦二列に並びながら歩くその姿は、まるで修学旅行へ向かう学生か、或いはこれから遠征にでも向かう野球チームとも見えるだろう。

 がしかし、この炎天下の中俺達が足を進める理由は、その二つには当てはまらない…いや、前者は少しばかり当てはまるだろうか。

 兎に角、俺達は最前列で皆を案内してくれるアスナを信じて、その地を目指すより他ないのだ。

 

 歩夢「…暑いな」

 

 ミト「今からそんなこと言っててどうするのよ?」

 

 遂に漏らしてしまったその一声に、全くの正論で反応したのは、俺の一つ前を歩くミトであった。

 本日集った九名とは、前列から順番に、アスナ、シノン、キリト、アルゴ、リズベット、シリカ、ミト、ユウキ、そして俺である。だがその九名が集った地は、なんと仮想世界ではなく現実世界であった。

 それぞれが適当な駅やら電車内やらで待ち合わせをした結果、こうして俺達は、誰一人として迷子になることなく、ある駅のホームで集合することに成功し…という言い方をしていると、なんだか本当に修学旅行に来た気分になるのだが…そこから電車に揺られて東京を飛び出して、神奈川県鎌倉市を更に南下したその先で、俺達は電車を降りたのだ。

 そしてまた乗り継ぎを挟んで、つい先ほど、目的地の最寄り駅へと辿り着いたわけである。

 

 アスナ「みんなお待たせ、ここだよ~!」

 

 最寄駅から更に歩みを進めること十数分、俺達はやっとのことで、その目的地へと到着したのだ。

 ゴールでありスタート地点でもあるこの地には、白と黒のコントラストで彩られた、窓の大きい開放感溢れる二階建てが聳え立っていた。建造物自体は正方形型でこじんまりとしているが、注目すべきはその外側…ベランダ及び庭の広さであろう。

 ベニヤ板らしき茶色い木材で造られたバルコニーに、ふさふさと気持ち良さそうな芝生の広がるお庭…だけではない。更にその奥、潮風に乗って鼻をくすぐる磯の香、もう耳を澄ませずとも聞こえてくるさざなみ…。

 

 つまりは、白とベージュのグラデーションが美しい砂浜と、ゆらゆらと水面を揺らす青い海が、そこには待っているのだ!

 

 七月下旬に入ると夏休みへと突入した俺達が、ここにやって来たその理由…もうお分かりであろう。それは紛れもなく、海で夏を満喫するという目的あってことであるのだ。それを綿密に計画してくれたのは、アスナやリズベットの女性陣、俺とキリトは彼女たちに誘われて、このビーチに案内してもらったという訳だ。

 そして何故、俺達はこの二階建てのお家にやって来たのかと言うと…。

 

 リズベット「やっぱアスナって、相当な金持ちなんだ…」

 

 シリカ「流石レクトのご令嬢ってところですね~」

 

 アスナ「もう、二人共やめてよね~」

 

 …そう。結城家の圧倒的経済力を以てすれば、別荘の一つや二つ保有することなど然程難しいことでは無い、らしい。

 そんなわけで俺達は、アスナのご両親が所有している海辺の別荘に寝泊まりさせてもらいつつ、目の前のビーチを楽しむという神みたいなプランを、他でもないご令嬢のお陰で勝ち取ることが出来たのである。

 海は日帰りで行くと相当に疲労してしまうが、だからと言ってホテルに泊まると無駄金がかさばる。そんな難しい問題を一気に解決してしまえるのが、別荘という存在であるのだろう。アスナの、そしてそのご両親の厚意に甘えさせてもらって、今日から一泊二日の海旅行を、俺達は存分に楽しませてもらうことにしようではないか。

 

 シノン「良かったじゃない。アスナがこんなにお金持ちで」

 

 キリト「な、なんだよ…」

 

 アルゴ「キー坊がダメ人間になり果てても、アーちゃんからの寵愛がある限りは安泰だナ」

 

 結城家の財力が顕在化した今、何故だか女性陣にキリトがおちょくられているのは、もうお決まりの流れなのかもしれない。

 とそれは一旦横目に流しておこう。アスナの先導に従って、皆と共に別荘敷地に踏み入り、その玄関を潜る。流石に埃が被っている所もある…かと思ったのだが、別荘専用の清掃員でも雇っているのだろうか。家の中は綺麗なままの状態に保たれているではないか。

 俺はそんなことに感心しつつも、リビングやトイレ、お風呂の場所等々の説明をアスナから受けつつ、やがて数ある個室の中から、二階にある一室を俺とキリトのお部屋として割り当ててくれるらしい。

 部屋には布団が二つに小さなテーブルと椅子、そしてクローゼットとシンプルではあるものの、部屋の奥にある窓からは、広大なオーシャンビューが拝める素晴らしい設計であった。

 そして一先ず荷物を纏めた俺達は、みんなが集まっているであろう一階のリビングに足を運んだのだ。

 

 木綿季「歩夢とキリトは、今から外出て行ってもらえるかな?」

 

 すると一体どういう訳か、俺達がリビングに移動するや否や、ユウキが開口一番にそんなことを言ってくるではないか。

 

 歩夢「…何故に?」

 

 木綿季「ボク達今から、ここで水着に着替えるから」

 

 歩夢「…二階で待機しとくけど?」

 

 木綿季「ダメ!浜辺にでも行ってて!!」

 

 あぁそうか、着替えるなら、そりゃあその最中を見られちゃ堪らないだろう。だったら俺とキリトは、二階の部屋に籠ってるから大丈夫だぞ。

 多分、俺はユウキにそんな趣旨の言葉を送ったはずなのだ。ところがどっこい結果はどうであったか。俺とキリトはそれぞれの恋人に背を押される形で、玄関口からポイっと投げ捨てられたかと思うと、次いでガチャリと玄関ドアの施錠音が聞こえた。

 

 歩夢&キリト「「……」」

 

 二人で放心したように無言のままその場に突っ立っていると、ザザーンと波打つ音が耳に届いてくる。先程まではあんなにも輝いていた潮騒が、今はどうにも虚しい物としか思えないのは何故なのだろうか。

 二人して何も会話を交わすこともなく、俺達は彼女に言われた通りに浜辺まで移動し、そこでようやく、俺はキリトに声を掛けたのだ。

 

 歩夢「なぁ、キリト…」

 

 キリト「……」

 

 歩夢「俺達って、そんなに野蛮な奴だと思われてんのかな…」

 

 つまりは、俺達が追い出されたのはそういう理由なのだろう。俺とキリトが、彼女たちのお着替えを覗き見るとか、そういうことを思われたのだろう。

 がしかし俺とて、そんなアホみたいなことをするつもりは殊更ないのだ。まぁユウキと二人きりであれば、そういうことをしないことも無いのかもしれないが…兎に角、今の俺には毛頭そのつもりはなかった。なのにユウキは俺を追い出した。

 そんな悲しみを吐き出すように俺が語り掛けると、キリトは爽やかな海の向こうをボーっと眺めながら答えた。

 

 キリト「…男ってのは、信頼はあっても信用は無いんだろうな…」

 

 歩夢「それは…ポジティブに捉えるべき?」

 

 キリト「…さぁ…」

 

 そしてキリトの放った返事の一言は、なんだか悟ったようなものであった。なるほど、なら俺はユウキからの信頼は勝ち取れているのだろうか。恐らくは勝ち取れているのだろう。だなんてことを思いつつも、俺は単純に思い浮かんだことを訊ねてみると、キリトはやはり遠くを見つめたまま曖昧な答えを返す。

 そしてしばらく俺達は、太陽光を反射し、キラキラと美しい水面を眺め続けた。どれ程の時間が経過しただろうか。恐らく十分は過ぎ去っただろう。

 とその時になってようやく、俺達の背後から二人分の足音が聞こえてきたのだ。その足音だけで、直感的にその二人が誰なのかを理解していた俺とキリトは、反射的にそちらへと向き直った。

 

 アスナ「お待たせ、キリト君、アルファ君」

 

 するとまず俺達の視界に飛び込んできたのは、満面の笑みで言葉を掛けてくるアスナであった。彼女は赤と白のビキニをその身に纏っており、やはりその恰好は、アスナの大きな胸部の魅力を掻き立てるに最良のマッチと解せる。

 それ以外にも、引き締まったお腹周りや足は充分に魅力的であり、それ故にキリトは言葉を失ったままアスナに魅入っているのだが…俺も一度は吸い寄せられたとは言え、まじまじと見つめるわけにはいくまい。何せ俺には愛しのユウキが……あれ?そういやさっきの足音って、二人分だったよな?じゃあなんでアスナしか居ないん──。

 と俺が思考を巡らせたその時であった。ふいとアスナが顔を後ろに向けると、誰かに向けて言葉を放ったのだ。

 

 アスナ「ちょっと、ユウキはいつまでそうしてるの?」

 

 そして俺も、やっとのことで気が付く。その全体像こそ見えないが、アスナの背に隠れたユウキの素足に。

 なんだそこに居たのか、俺にも早くユウキの水着姿を拝ませてくれよと期待を高めていると、アスナの後ろから、ユウキがぼそぼそと呟く声が聞こえきた。

 

 木綿季「で、でも…ボク、やっぱり恥ずかし──」

 

 アスナ「ほいっ」バッ

 

 木綿季「う、うわぁ…!?」

 

 そんなこの期に及んで煮え切らないユウキの様子を受けたアスナはなんと、その場から颯爽と飛び退き、強制的にユウキの姿見を俺に魅せ付けたのだ!

 

 そして俺は当然のごとく、心臓が破裂するかと思うぐらいにドキリと心を揺さぶられる。そんなユウキの水着は…まさかの、アスナ同様ビキニであった。そして選び抜かれた色は…純白色。不味い、それは大いに不味い。俺をオーバーキルし過ぎである。

 自分でその水着を選んだ癖に何が恥ずかしいのか、ユウキはすぐにその場に座り込んで丸くなり…だがその白い背中がしっかりと俺の目に飛び込んできて、更にはユウキの恥じらう姿も見れて、結局俺にとっては眼福にしかならないのだ。

 …その、本人は気にしているようだが、ユウキはお胸が小さめだ。だからこそ、一瞬見えたユウキの全体像は、アスナと比べると、胸部の迫力には些か欠けることがあったことは認めざるを得ない。

 がしかし、だからこそ!胸を覆い隠すものは、アスナと比べて一回りほど表面積の少ない布地を選ぶことが出来たのだろう。それは俺の中の何かを掻き立てるには、充分過ぎるほどである。

 

 そしてまだまだ退院から二カ月と言うこともあって、その肉付きは若干痩せ過ぎなところもある。だがそれを考慮してもなお、身体のラインが薄っすらと出来上がっており、お尻も女の子らしく丸まっていると言えよう。肌は日焼けを知らないように白く透き通っており、細いお腹にちょこんと存在するおへそもまた可愛らしい。

 …なんというか、もう、俺は今すぐにユウキに抱き着いて行くところまで行ってしまいそうな勢いがあるのだが…キリト達が居るお陰で、なんとかそれを抑え込めている。

 アスナ大好き人間であるはずのキリトでさえ、釘付けにはならないよう必死に理性を働かせながらも、結局はチラチラとユウキの姿を眺めてしまう程なのだ。俺の視線が誰に固定されていたかなど、最早言うまでもないことだろう。

 未だに砂浜で丸まり続けるユウキではあったが、アスナが楽しそうに彼女の背後に回り込み、その両脇に手を忍び込ませる。そしてそのままよいしょとユウキの身体を持ち上げてしまうのだ。そして再び露わになった、ユウキのビキニ姿。

 もうユウキは恥ずさが限界を超えたのか、顔が赤いどころか涙目にまでなっているものだから、あれ?これ俺悪くないよな?などと自問自答さえしてしまう。

 するとユウキは、意を決したように深呼吸すると、だけど目線を逸らしたまま、ポツポツと俺に訊ねてくるのだ。

 

 木綿季「…どう、かな…ボクの水着姿…」

 

 歩夢「…」

 

 そして投げかけられた問いは、毎度毎度恒例、ユウキの水着考察であった。俺は一瞬の、しかし本気のシンキングタイムを挟む。頬を赤く染めながら身体をモジモジとさせ、しかもズラした目線を時折こちらに向けてくるユウキ…うん、もう…・

 そしてその末に、俺は思ったままの言葉を、そのままの形で伝えてしまったのだ。

 

 歩夢「いや、もう…なんか、凄い。これまでも仮想世界でユウキの水着姿は見てきたけどさ、やっぱリアルにしかない質感ってのがあるんだろうな。こう、そのセクシー過ぎる水着にスベスベとした木綿季の肌がベストマッチしてると言うか…俺、今すぐに木綿季のぷにっぷにの肌の感触を確かめてみたいんだけど──」

 

 と俺が自らの欲望をも入り交えながら、極々真剣にユウキを褒め称えていたその時であった。俺の言葉にはもう耐えられないと、ユウキが口を挟んでくる。

 

 木綿季「──ごめん、ちょっと、気持ち悪いかな…」

 

 その申し訳なさげな表情で、しかしジトッとした視線で告げられた一言に、俺は大きく動揺したのだ。

 

 歩夢「え」

 

 アスナ「う~ん…今のはエッチとか変態とかじゃ済まないレベルだったね…」

 

 木綿季「そうだよ。今の歩夢、ちょっとキモかったよ」

 

 歩夢「」

 

 続けざまに言葉を選びながらもアスナから放たれた発言に合わせて、ユウキはまたハッキリとそう言うのだ。いつの間にかユウキはアスナの傍にまで退避しており、まるで俺がヤバい奴かのような扱いである。

 そして二人は「みんなが着替えてから、家で水着に着替えてね」と言い残したのちに海へと向かって行くではないか。いつもの俺ならば、「準備体操ちゃんとしろよ」ぐらいの気遣いは出来たのだろうが…今の俺はそれどころではなかった。

 ユウキの口から放たれたその冷たい声が、俺の脳内を何度も木霊し、その場での棒立ちを強要する。…別に俺は、好きな女の子に罵倒されて喜べるような特殊性癖を持っているわけではない。ユウキに気持ち悪いと言われれば、当然俺は傷付くのだ。

 俺はただ、ユウキを褒めようとしただけなのに…と顔を俯け項垂れていると、肩にポンと手が掛けられるのだ。

 

 キリト「アルファ…あれはやり過ぎだ…」

 

 そう言ったキリトをチラリと眺めると、彼は遠い目で水平線を眺めている。それから更にしばらく、心を一刀両断されし俺はその場に佇んでいると、続いてリズベット、シリカ、シノンの三人がお家から飛び出してきたようだ。

 皆一様に己を最大限生かすための水着を身に付けていたようだが、俺は何も言うことはなかった。全ての対応をキリトに任せて、俺はボケーっと海を視界に映し続けた。それ程にまで、俺の負った心の傷は深かったのだ。ショックが大き過ぎて…もう海を満喫する所の話ではなかった、その時だった。

 再び二つの足音が、こちらに近づいて来たのは。

 

 アルゴ「そんなしょぼくれた背中して、どうしたんダ?」

 

 そろそろ別荘へ向かおうかと、二人でその場を振り返ろうとすると、直前でアルゴに呼び掛けられる。そんなに雰囲気に出てたのかと思いつつも、「なんでもない」と返事をするべくそちらに顔を向けた瞬間、俺もキリトも、大きく硬直を強いられた。

 何せ…そこに立っているアルゴ及びミトの姿が、余りに…。ミトはその健康的過ぎる太ももが完全露出してしまっているし…いや、まぁ水着なのだから当たり前なのだが…雰囲気がこの七名の中で一番大人っぽくて…かなりヤバい。アルゴはアルゴで、俺の中のアルゴ像がSAO時代の少年さの混じった姿で固定されているが故に、そのワンピース的な水着を纏う女の子っぽさがギャップで…これまたヤバい。

 語彙を失いヤバいとしか言えなくなるほどに兎に角ヤバいのだ。恐らくキリトも似たような感想を抱いているはずだ。今度こそ、ガッツリと視線が二人に固定されてしまっている。

 そんな俺達の様子を察したのだろう、途端に二人は顔を見合わせると、にんまりと口角を上げるのだ。

 

 アルゴ「なんダなんダ~?オネーサン達に見惚れちまったのカ~?」

 

 ミト「どうせなら、お姉さんたちが慰めてあげてもいいわよ?」

 

 アルゴ「だったらオレっちがキー坊を、ミトっちはアー坊にするカ?」

 

 ミト「うんうん。なんだったら、途中で交代してもいいんじゃない?」

 

 …なんだなんだこの破壊力のあり過ぎるコンビネーションは。と言うかミトっちってなんだよ。お前らいつの間にそんなに仲良くなってんだよ。そもそも慰めるってなんですか。交代ってどういうことですか…。

 と愚痴がましいツッコミから煩悩全快の思考までもを脳裏に過らせた結果、何故か分からないが俺はハッと現実に引き戻され、と同時に、隣で未だ呆けるキリトの顔を凝視し、矢継ぎ早に言葉を放つのだ。

 

 歩夢「キリト!逃げるぞ!!」

 

 キリト「…あぁ!こいつらは危険すぎる!!」

 

 俺の必死の言葉に我に返ったキリトと共に、俺達は別荘へと一直線に走り抜けて行ったのだ!

 

 ないとは思うが、ふざけて二人が俺達を追ってくる可能性もあるだろう。こちらに侵入されないようしっかりと玄関ドアを施錠し、そこでようやく一息つく。お互いにぜぇぜぇと呼吸を乱しながら、一体俺達は何をやっているのかと、そんな気持ちを抱かないでもないが…本当に、危なかった。

 

 歩夢「ありゃまるっきり食肉植物だな…」

 

 キリト「全くの同感だ…」

 

 如何やら俺は、みんなと共に海辺で過ごす一泊二日の意味をかなり勘違いしていたらしい。

 俺はてっきり、ここではキリトの為のハーレム劇場なんかが繰り広げられるものであり、俺はそれを横目に、単に女の子たくさんで目の保養になる楽園に放り込まれたのだと思っていたのだが…そうではない。

 ここは正しく戦場だ。俺の理性と煩悩、そしてユウキへの愛がどれ程のものなのかを試される試練の場だ。もし俺が彼女らの揶揄いを本気で受け入れてしまったのならば…その瞬間に。ゲームオーバーだ。しかも残機は一回分しか残されていない。コンテニューも勿論効かない。これは最早無理ゲーなのではないだろうか。

 そしてそれは、キリトもまた同じく…いや、コイツは既に何人も誑かしてるんだった。まぁアスナはそれをあんまり咎めてないみたいだし…コイツは好きにしても良いだろう。

 だが俺は違う。俺は今でも鮮明に覚えているのだ。GGOにてミトの冗談を本気にしたユウキが、超絶豹変したあの様を。なればこそ俺は、この戦いを生き残らなければなるまい。

 

 キリト「取り敢えず、海パンに着替えようぜ」

 

 歩夢「そうだな」

 

 俺は握る拳と共にそんな決意を刻むと、この一泊二日を送り始めたのだった。

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 つい一週間ほど前、ボクはアスナ達と共に、この日の為の水着を購入しに出掛けた。みんなが自分にベストマッチする水着を選んでいく中で、ボクも自分の思う可愛い感じの水着を選ぼうとしたその時、ふとアスナが、ボクに言ったのだ。

 

 アスナ「ユウキ、本当にそれでいいの?」

 

 木綿季「え?」

 

 アスナ「だって、海に行くメンバーはみんな魅力で溢れてるよ?だから水着で勝負しないと、アルファ君どっかにふらついちゃうんじゃないかな~って」

 

 木綿季「…歩夢はそんな安っぽい男じゃないもん」

 

 シノン「でも、準備しとくに越したことは無いんじゃない?」

 

 木綿季「…う~ん…」

 

 アスナは冗談っぽくボクにそんなことを言ってくるも、ボクは多分そんな反論をしたんだと思う。でも確かに、海旅行に赴く彼女たちは、みんなそれぞれの素晴らしい魅力があるのだ。

 となると、アルファがボク以外の人に釘付けになる可能性もあるわけで…更にシノンの言葉も受けて、ボクは少しばかり、フリルの水着を購入することを躊躇ったのだ。

 するとこちらに近づいてきたリズが、嬉々としてボクに何かを手渡しくれた。受け取ったボクは──。

 

 リズベット「だったら、これ着て行っても良いんじゃない?」

 

 木綿季「え…えっ!?こ、こんなのボク似合いっこないよ!?」

 

 ボクの視界に飛び込んできたのは、余りにセクシーな水着であったのだ!

 

 ボクだって、もう自分のことぐらいは分かっている。ボクは皆みたいに強調できるお胸もないし、どちらかと言えば、可愛い系が似合うのだ。となると、まさにその対極に位置すると言っても過言ではないそのビキニは、ボクにとっては有り得ないの一言であったのだが…。

 

 シリカ「良いんじゃないですか?結構似合うと思いますよ!」

 

 ミト「うん、ギャップ萌え狙えんじゃない?」

 

 木綿季「え…そ、そうかな…」

 

 如何やら他人から見てみれば、この選択は悪くないらしい。…ボクも、こういう大人っぽいの着れるのかな?みんなから得られた予想外の好感触に、ボクが胸を躍らせていると、最後の一押しが飛んできた。

 

 アルゴ「オレっちも良いと思うヨ。そういうユーちゃんの姿見たら、アー坊も喜ぶんじゃないカ?」

 

 …そうだった。ボクはアルファが嬉しそうに笑う顔が見たくて、一生懸命水着を選んでるんだった。だったらボクがこの水着を着ない理由なんてないんだよ!

 アルゴの一声で変な形に固まった思考に至ってしまったボクは、みんなに乗せられるがままに、その水着を購入してしまったのだ。

 

 そしてそれは結果から言えば、大惨事の一言である。

 

 男性陣を別荘から追い出し、結城家専用のプライベートビーチへと出向くべく、ボクらはいざ水着に着替えんと行動を起こした。二人には見せられないよ、裸になったみんなでキャッキャしつつも、ボクは水着を身に纏い、そして鏡を見た瞬間──。

 

 木綿季「!?!?!?」

 

 ──ボクは、大いに後悔の念を抱かされた。

 こんな露出度の高い姿を、今からアルファに見せるなど、果たしてボクに出来ようか、いや出来まい。今からこんな破廉恥な姿を魅せ付けに行くのが、本当に恥ずかしくて仕方がない。もういっそのこと、このまま別荘に閉じ籠っていたいぐらいだ。

 加えてボクと同じような水着を身に付けたアスナやミトは、ガリガリとまでは言わないが、まだまだ痩せ気味なボクよりも体つきが素晴らしく、それ故にボクの貧相な身体が対照的に強調されているように映っているのだ。

 

 アスナ「これならアルファ君もイチコロだよ~」

 

 木綿季「……え……?い、いや……」

 

 アルゴ「アー坊の奴、海どころじゃなくなるかもナ」

 

 そんな感じでみんなは「似合ってるよ」と言ってくれるけど、ボクからすれば全然そんなことはなかった。というわけでボクは、恥ずかしさ故にアスナの身体に隠れるようにして、でも結局は、アルファの元へと向かったのだ。

 それでも直前までアルファの前に自信を持って出られなかったボクは、強制的にアスナにその姿を露わにされることとなる。その時のボクはもう、これからアルファにどんな反応をされるのかが怖くて恥ずかしくて泣きそうな程に顔を紅潮させてたんだけど、結果、ちょっと引いたのはボクの方であった。

 アルファがやけに真剣な表情で語るボクの水着姿の感想が…恋人じゃなかったら絶対にしちゃいけないような内容だったのだ。なんだかんだでアルファにここまで引いたのは、これが初めてだったかもしれないね~。

 

 ボクの率直なひと言には、アルファは大層ショックを受けちゃっていた。折角の海なのにズーンと沈んじゃったから、ちょっとだけ可哀想に思ったボクは、あとで謝ろうと思った。

 みんなが揃うまでは、ビーチボールや浮き輪を膨らませようと空気入れをシュコシュコ上下していると、ふとボクに視界に、ミトとアルゴに視線を固定させているアルファとキリトが入ってきたのだ。そしてボクがキッと視線を送ると、アルファはそれに気が付いたように、その場からそそくさと退散していった。

 その時ボクはほんの少しだけ思った。アルファが凝視してくれるこの水着にしてて、良かったなぁ…ってね。

 

 それからしばらくすると、アルファとキリトも水着姿で海にやって来て、ビーチパラソルやらデッキチェアやらを設置した後に、遂にボク達だけの海遊びが始まったのだ!

 

 浜辺でビーチフラッグっぽいことをしたり、浜辺で貝殻を拾ったり、勿論海の波に押されながら浅瀬で泳いだり水を掛け合ったりと、それはもう楽しい時間だ。みんなの笑顔と笑い声が木霊し続けて、時間の感覚なんて忘れ去ってしまうほどだ。

 そんな中ふと、ボクは気が付いた。みんなの輪に入らずに、白い砂浜に寝転がる彼に。

 アルファがみんなと遊ばないなんて珍しいな。何してるのかな。…もしかして、脱水症状で倒れて…!?と途端にアルファが心配になったボクは、すぐに波打ち際から浜辺へと足を進め、彼の元へ向かう。

 マリンシューズを履いているとは言え、砂浜はやはり踏ん張り辛く、走ってそちらに向かうことは出来ない。ボクは十数秒かけて彼の元に辿り着くと、ぽたぽたと海水を垂らしながら声を掛けるのだ。

 

 木綿季「歩夢、大丈夫?」

 

 ボクがそう問い掛けるも、彼は目を瞑ったまま反応を見せない。まさかまさかと思い始めた矢先に、アルファはようやく目を開けて、ボクの姿を認知してくれたのだ。

 

 歩夢「ん…大丈夫って…何が?」

 

 木綿季「しんどくない?脱水症状とか、熱中症とか」

 

 歩夢「…あぁ、そういう訳じゃなくて…今はただ、寝転がってるだけだな」

 

 一瞬、ボクとアルファの話は噛み合っていなかったけれど、ボクが詳しく問い掛け直すと、彼も納得した様に分かりやすい答えを返してくれる。そこでやっと安心出来たボクは、ホッと息を吐き出すのだ。

 

 木綿季「じゃあ海で遊ぼうよ。時間が勿体無いよ?」

 

 歩夢「それも海の楽しいとこだけどさ…こうやってゆっくり日光浴するのも、かなり気持ちいいんだぜ?」

 

 ボクの言葉に対してニカッと笑顔を浮かべながらそう言ったアルファは、ボクに寝転がるよう催促するように、その隣の砂地をとんとんと叩くのだ。なのでボクも物は試しと、アルファの隣に寝転がることにしてみた。

 するとどうだろうか。身体の上半分は、海水で冷やされた身体に気持ち良い日光がじんわりと染み渡り、背中側では、大地に蓄えられた熱エネルギーがポカポカと身体を温めてくれる。更には、この砂浜特有のサラサラとした感じが、凄く良くて…。

 

 木綿季「…いいね、この感じ…」

 

 とボクが隣に仰向けになるアルファの目を見て伝えると、彼もまたこちらに顔を向けて、人差し指を揺らしながら言ってくれる。

 

 歩夢「だろ?これが海の醍醐味の一つなんだよ」

 

 木綿季「醍醐味シリーズはミトの口癖だけどね~」

 

 歩夢「流石にバレたか」

 

 そんなアルファの下らないマネっ子に、それでもボクは自然と笑顔を浮かべると、彼もまた笑ってくれるのだ。

 …うん、日光浴も勿論気持ちいいけど、こうやってアルファ一緒に、砂浜で隣り合わせに寝そべるのはもっと楽しいことだ。もう十分すぎるほどに今日を楽しんだ気がするけど、遊び始めてからまだ一時間半しか経過していないんだよね~。

 この楽しい海旅行はまだまだこれからなのだと、ボクは期待を高めずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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