~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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第161話 一夏の思い出 そのに

 木綿季「ねぇ…そろそろ海で遊ぼうよ~」

 

 歩夢「ん~…もうちょい…」

 

 砂浜で寝そべり、晴れ渡る青空に浮かんだ太陽からエネルギーを受け続けること約十分、たっぷりと日光浴を楽しんだボクは、一方隣でまだまだ気持ち良さそうに目を瞑り続けるアルファ対して、そう語り掛けたのだ。

 がしかし、彼はやはり、海へと繰り出そうとしなかった。…でも、どうしてアルファは、海に入る気になってくれないのかな?まさか、仮想世界では泳げるのに、現実世界では泳げないなんてことはないだろうし…何処か怪我してるわけでも無さそうだし…。

 と色々考えた末に、ボクはぴーんとそれに気が付いた。思わず声をあげて問い掛けるのだ。

 

 木綿季「もしかして歩夢、日焼けでもしようとしてんでしょ!」

 

 歩夢「いや、そういう訳じゃねぇけど…だって、海で遊んでても日焼けはするだろ?」

 

 木綿季「あっ、そっか…」

 

 そんなボクの問い掛けに、確かに言われてみればな返事をくれたアルファだったけど、ならますます、なんでアルファは海で遊ぼうとしてくれないのかな?その理由がやっぱり見えてこないや。

 …もしかしてアルファは、ボクが日焼けして褐色少女になっちゃうのが嫌なんじゃ…いや、だったらこうして、一緒に日光浴に誘ってくるはずがないし…。

 

 木綿季「歩夢は…日焼けしたボクとそうじゃないボク、どっちが好みかな?」

 

 なんてことを考えていると、ふと疑問に思ったことを、ボクは無意識のうちに訊ねてしまったのだ。

 日焼けで全身がヒリヒリしちゃうのが嫌で、今日はしっかりと日焼け止めクリームを塗っているけれど、もしアルファが日焼けした感じが好きって言うなら、ボクはすぐにでも変身しちゃうつもりだ。

 ボクが人差し指を立てながら訊ねると、彼はぼんやりとした返事をくれた。

 

 歩夢「そりゃまた唐突だな。…まぁ、どっちの木綿季も魅力的な気がするけど?」

 

 ならこのままで良いや…と結論付けたボクは、そこで本題が逸れていることに気が付き、慌ててそれを訊ね直すのだ。

 

 木綿季「…って、そうじゃなくてだよ!なんで歩夢は海で遊ばないの?折角海に来たのにさ~」

 

 歩夢「…え、えっとだな…」

 

 耐え切れず砂浜ベッドから身体を起したボクが、アルファが目に収める太陽を遮るよう、彼の視界の中に身を乗り出し迫り問う。すると彼は、きょろきょろと慌ただしく視線を動かしながら、困ったようにつっかえつっかえ答えたのだ。

 

 歩夢「…その…今日のメンバーってさ、甚だしく男女比が偏ってるじゃん?」

 

 木綿季「そうだね」

 

 歩夢「だから…目のやり場に困るって言うか…うん、そう言うことだ」

 

 …なるほど、そう言うことだったんだ。確かに今のアルファも、ボクから目線を逸らしつつも、結局はボクの色んな所をチラチラ眺めてて…なんだか少し恥ずかしなぁ…。ボクは女の子だからアルファの気持ちに共感し辛いことはあるけど、彼の言うことも一理あるのかもしれない。

 だけどそんなことを言ってしまえば、さっきから美女たちに囲まれて海で遊んでいる…或いはアルファの考えを考慮するなれば、孤軍奮闘しているとも考えられるキリトを、彼は見捨てるつもりなのだろうか。

 といったことを、とどめを刺すようにボクは言ったんだと思う。すると彼はようやく、その重い腰を上げて、砂浜から立ち上がったのだ。

 

 歩夢「不安は絶えないんだけどなぁ…」

 

 木綿季「まぁ、みんな魅力的だからね。三秒ぐらい見惚れるのは、ボクもノーカンにしてあげるよ」

 

 歩夢「…もし四秒目に突入したら、俺はどうなるんだ?」

 

 木綿季「そうだね。…ボクが怒っちゃう、かな?」

 

 歩夢「それは困るな。善処させてもらう」

 

 そうして二人でみんなが集まる波打ち際へと足を運び始めた最中、アルファは独り言のようにそう呟いたのだ。。一方ボクは、気前良いとも言える返事をしてあげた。

 だって、アスナもシノンもアルゴも…みんなみんな可愛いし美人だし、アルファも年頃の男の子なんだから、女の子に囲まれて視線を泳がせちゃうのも、それは無理はないと思うんだ。ボクもそこら辺は理解してあげているつもりだ。でも、やっぱり最後には、ボクだけを見ていて欲しい。それ故に三秒ルールを採用したってことだね。

 

 リズベット「お~、お二方のイチャイチャはもう終わりで良いの~?」

 

 やがて辿り着いた波打ち際にて、ボク達の足音と影像に気が付いた七名は、ほぼ同時にこちらを振り返る。とその中で一番に声を掛けてくるのは、相変わらずお調子者のリズだった。そんな彼女のニタニタした様子に、ちょっと赤面したボクは、なんとか言い返そうと身振り手振りで応戦するのだ。

 

 木綿季「べ、別にボク達はイチャイチャしてたわけじゃ…」

 

 アスナ「ユウキはこれまでも分もイチャイチャしないと~」

 

 シリカ「もうキリトさんとアスナさんのイチャイチャは見飽きましたし!」

 

 キリト「おい、それはどういう意味なんだ」

 

 なんて感じで、こちらもいつも通りの下らない会話を繰り広げ、そしてあははと笑い声があがるんだけど…こうして改めて、アルファの周りに居る、若しくはキリトが引き連れている女の子達の姿を眺めてみると…その誰もが、ボクよりも女の子として優れている気がするんだ。

 彼女たちの笑顔を見ていると、「ホントにどうしてアルファは、こんな魅惑の女の子たちを差し置いてまで、ボクを選んでくれたのかな?」だなんてことを思わないでもない。

 だけど、今更それを訊ねる必要もないのだ。アルファは今もボクの傍に居てくれる。それが紛れもない答えなのだから。

 

 歩夢「……」チラッ…チラッ

 

 木綿季「……」

 

 …もしかしたら、前言撤回しないといけないかもしれないね…。

 アルファは大胆にも、可憐な乙女たちへ向けて、頻りに視線を右往左往させているのだ。そして結局は、視線を不自然に下向け一度ふっと息を吐き出すと、そこからはいつも通りのアルファだった。随分と自信満々な様子で、ニカッとボクに笑い掛けてくるのだ。

 

 歩夢「2.5秒だったからセーフだろ?」

 

 木綿季「これは特別ルールなんだから、実際にはアウトみたいなものだけどね!」

 

 随分と頑張りました感を出しているアルファだったけど、そこはボクがしっかりと言い返してあげると、「悪い悪い」とそんなことは微塵も思ってなさそうな軽い言い方で謝ってきたんだ。まぁボクも、実際には、この程度であれば然程気にしないことにしたから、もう良しとしてあげようかな。

 そして遂に九人全員が揃ったボク達は、さてこれから何をしようかと言うことになる。話を何度も脱線させつつも、みんなで頭を捻った結果、このだだっ広い砂浜を独占できる状況を利用して、ビーチバレーでもしようと言う話に纏まったのだ。

 チーム分けは五人と四人に別れる変則的な形を取らざるを得なかったけど、それから小一時間は、ボクらはサマースポーツをめいいっぱい楽しんだんだ。

 ビーチバレーをするのは、これがボクにとって、SAO以来二回目の出来事だ。あの頃は当然の如く素早く身体を動かせていたものだから、今日も勝手よく活躍出来ると思ってたんだけど…。

 

 木綿季「はぁ…はぁ…び、ビーチバレーって…凄く、しんどいんだね…」

 

 砂地に足を捕られながら動き回ると言うことが、これ程にまで過酷なものであるとは、ボクには想像も出来なかった。ビーチバレーを終えたその時に、ボクはそれはもう疲労困憊という言葉が似合う程に疲れ果てており、その場でへなへなと座り込んでしまったほどだ。活躍なんて程遠い。寧ろボクがみんなに助けられる形で、ゲームは展開したのだ。

 …みんなあんなに身体をしっかり動かせて、健康体って素晴らしいんだね、だなんて思わずにはいられない。すると、同じチームに属していたシノンが、ボクに手を差し出しながら言ってくる。

 

 シノン「ユウキはまだまだ筋肉量が戻ってないのよ。普通はそんな満身創痍になるほどじゃないから」

 

 その伸ばされた手をしっかりと掴むと、シノンはよいしょとボクの身体を引っ張り上げてくれる。この中で見た目は一番大人し気なシノンが、あれ程しっかり動けていたのだ。

 そんな彼女の運動神経の良さには驚かされたけど、まさかアスナとミトはそれを越えてくるなんて…二人は頭だけでなく、運動神経も一段と優れているのだ。それには本当に驚かされたよ…軽く息を切らせつつも、まだまだやれるよと言わんばかりに砂地で佇む彼女らに、ボクがある種の尊敬の念を抱いていたその時だった。

 

 ミト「そうね、ユウキは早くお肉付けないと」

 

 木綿季「わぁっ!?ど、どこ触ってるの!?」

 

 不意に、ボクの背後から、ミトの声が耳元に響いたのだ。ボクが振り返ろうとする前に、彼女はそのまま両手で胸部に触れてくる。ボクはジタバタと身体を動かすも、それから逃れることは出来ない。

 ただ、ミトのその華奢な手でさえ、その大部分を覆えてしまうボクの胸部の控えめな感じと…それに対応するように、後ろから感じるアスナとまではいかずとも、ミトのボクよりは大きい胸部が…すっごく悔しいなぁ…。

 

 アルゴ「おっきくしないとアー坊がどっか行っちゃうかもだゾー」

 

 木綿季「むっ…そう言うアルゴだって、ボクのこと言えないんじゃないの?」

 

 とそんなボクの心が表情に現れていたのか、アルゴが揶揄うようにそう言ってくる。彼女に対して頬を膨らませたボクは、「それはボクと同じく胸が小さめのアルゴも一緒だよ」と、反駁してやったんだ。

 これにはアルゴもぐうの音も出ないはずだ。そんなボクの想定とは裏腹に、彼女はそれに動じることもなかった。堂々と無い胸を張って、ボクに言い返してくるのだ。

 

 アルゴ「オレっちの場合は、これで完成されてるんだヨ!」

 

 木綿季「…むぅ」

 

 確かにその通りだ。それはボクも認めざるを得ないだろう。アルゴの可愛らしい身長とお顔には、そのミニマムボディが良く適していると見える。それ故にボクは何も言い返せず、一層頬っぺたを膨らませるより他なかった。

 そんな中、アルファがぐっとボクの前に一歩寄ってくる。ボクの風船を人差し指で突きながら、極真剣な表情で言った。

 

 歩夢「俺は木綿季が小っちゃくても、一緒に居るからな?」

 

 木綿季「…う、うん…ありがとう…?」

 

 果たしてその言葉は、素直に喜んでいいことなのかな?と言うか、そんな真面目な表情で言うことなのかな?…なんて色々な考えが頭をよぎった結果、ボクは取り敢えずのお礼を述べておくことにした。

 そしてそれからボクらは、いざ遊泳せんと海へ繰り出す…前に、まずは水分補給だ。ボク達はこんな炎天下の中で動き回っているのだから、しっかりと身体に水分と塩分を取り入れておかないと、それはもう大変なことになるだろう。

 水分補給を済ませたみんなは、意気揚々と波打ち際へと向かっていくが…ボクとアスナは、手持ちの水筒の水分が尽きたこともあって、一度別荘へと戻っていったのだ。いつもと変わらない適当な会話を交わしながら別荘にて追加の水分を補充し、再び砂浜に戻ってくる。

 

 すると波打ち際から数メートル離れた砂浜で、二人して座り込むアルファとキリトの姿を見つけたのだ。なにやら二人は、海ではしゃぐみんなを眺めながら、ボソボソとお喋りをしているようだった。

 ボクもアスナも当然、その会話の内容が気になったわけで…笑顔で顔を向け合うと、ボクらはこっそり彼らの背後へ歩みを進めたんだ。

 抜き足、差し足、忍び足…って言っても、ビーチにはなんの遮蔽物もなく、影がこれでもかと目立つ。おまけに砂浜だから足音も良く聞こえるしで、彼らがボクらの接近に気が付けないことなど、有り得るはずがなかったのだ。

 だけど、二人はかなりお喋りに熱中しているみたいだった。だからこそ、そんなことにさえ気が付けなかったのだと思う。そんな彼らが、夢中になって話す会話の内容は──。

 

 キリト「…なぁ、アルファ。女の子ってやっぱり、あの大きなウキで浮かびやすいのか?」

 

 歩夢「…さぁ、男の俺がんなこと知ってるわけねぇだろ?…でもさ、あそこにはたくさんの夢が詰まってるわけだし、浮力が宿っててもおかしくは無いんじゃねぇの?」

 

 キリト「それもそうだなぁ…」

 

 そんな会話の一節を耳にしたボクとアスナは同時に顔を見合わせ、そしてこくりと頷くと、二人一緒に全くの同じ思いを言葉にしたのだ。

 

 木綿季&アスナ「「…二人揃って、バカじゃないの?」」

 

 歩夢「ゆ、ユウキ…!?」

 

 キリト「二人共…い、いつからそこに居たんだ…?」

 

 すると二人は、ビクッと身体を硬直させたのちに、恐れるような表情でこちらに振り向く。別に制裁を加えるつもりなんてないんだけど、二人は一体何が怖いのかな?

 キリトの問い掛けにはアスナと共ににんまり笑顔で返事をし、そのあと彼は、アスナに何処かへ連行されちゃった。キリトはアルファに救いを求めていたけれど、アルファは諦めたように微笑みを浮かべるのみであった。

 対するボクは、アルファの手を引いて、彼を水際に引っ張っていくのだ。そのアルファのちょっとゴツゴツしてる手の感じとか、微妙に浮き出ている腹筋に胸筋、上腕二頭筋や太腿、脹脛を眺める度に、アルファは男の子なんだなってことを、ボクは改めて理解させられる。

 男の人が女の人の水着姿を凝視するのはグレーなことなのに、逆に女の人は男の人をガン見してもいいのは、ちょっと不公平なんじゃないだろうか。なんて思いつつも、普段は服の下に隠れて見えないアルファの一面をしっかりと堪能しておいた。

 

 木綿季「ね、歩夢」

 

 歩夢「ん?」

 

 海色に濡れた茶色い砂地を踏みしめながら、時折波が足を洗う辺りで君の名前を呼ぶと、彼は視線をこちらに向けて、相槌を打ってくれる。そしてボクはなんの躊躇いもなく、それを彼に告げたのだ。

 

 木綿季「抱っこして?」

 

 歩夢「え?」

 

 そのボクの発言が聞き取れなかったのか、訝しそうに訊ね返してくるアルファに、ボクはやはり笑顔のまま言ってあげる。

 

 木綿季「だから、抱っこしてって。あの時みたいにさ、ボクのこと抱っこして、海に入って欲しいんだ」

 

 歩夢「…あぁ、そう言うことか。でも危ないから、足の届くところまでだぞ?」

 

 木綿季「うん、ボクはそれで充分だよ!ありがとっ!」

 

 ボクがもう一度言い直したところで、アルファもそのことを思い出してくれたのか、懐かしむように笑顔を浮かべ、首を縦に振ってくれた。ボクはアルファに先程以上の笑顔で感謝を伝えてから、二人で水平線へと進み始めた。

 この灼熱の世界も、海に浸かってしまえば、それは幾分か緩和される。全身に海水が纏わりつき、波は前後に身体を揺らす。この強烈な熱線のせいなのだろう。水温は少し上昇している。でも海自体は、生温かいというよりは生冷たいというよく分からない表現が似合っていた。水面付近はちょっとしたぬるま湯みたいだけど、波に逆らい手を繋ぎながら、ゆっくりと進むと、段々と足元の海水は冷たさを帯びていく。

 こっちの世界では、死んでしまえばそれで終わりなのだ。ボク達は安全を保って、足が届かなくなる数メートル以前で立ち止まった。

 

 するとアルファは、何も言わずに、水中で腕を動かした。ここだからこそ一層温かい君がボクの身体に触れて、る。彼の身体の動きが生み出した水圧に吸い寄せられるように、ボクはその腕にすとんと包み込まれ…やがて横抱きされる。

 ボクはそのままアルファの首裏に腕を通して、彼のうなじに手を結ぶのだ。さっきのビーチバレーのこともあって、ボクは今更、全身汗塗れなことに気が付ついたんだ。匂わないかなって不安心を覚えないでもなかったけど…もうここまで来たのだ、あとは、海水がそれを誤魔化してくれたと信じるしかなかった。

 アルファは海パン、ボクはビキニ姿、そんな最早裸とも捉えられる状況で、リアルにていつも以上にアルファと密着するこの感覚に、ボクは胸のドキドキを、文字通り心臓が破裂させそうなぐらいに募らせているのだ。多分、ボクもアルファも、顔真っ赤なんじゃないかな?

 その鳴り打つ鼓動がアルファの身体にも響いていることは、君に悟られてはいないだろうか。ううん、きっとアルファにはお見通しなんだと思う。でも同時にアルファの胸からも、有り得ない程のバクバクが響いていることは理解しているんだ。

 アルファも、ボクと同じで、この状況にドキドキしてるんだ…。そんな些細なことに喜びを覚えていると、彼はふと、そんなことを訊ねてきたのだ。

 

 歩夢「もしかして木綿季って、こうやってお姫様抱っこされるの好きなのか?」

 

 木綿季「…うん、すっごく大好きだよ…」

 

 歩夢「そりゃ良いこと聞いたぜ」

 

 そしてボクはこの気持ちを余すことなく伝えるべく、一層ぎゅっと彼に抱き着きながら、素直にそれを言葉にするのだ。ボクはあの時、アルファにお姫様抱っこをされて以来、言葉にすることはなかったが、この守られている感じに虜になっていたんだよね。

 つまりあの時とは、SAOで一夏のビーチを楽しんだあの日のことである。

 

 木綿季「…重くない?」

 

 歩夢「木綿季は…羽みたいに軽いな」

 

 木綿季「へぇ、言うようになったじゃん」

 

 歩夢「俺も成長するからな。当然だ」

 

 あの日を回想していたボクは、思いがけずそのことを思い出し、あの時と同じように語り掛けると…アルファは百点満点の解答を出してくれる。アルファが女の子の扱いというものをいつの間にか理解していることに驚きつつも、そうやってアルファを成長させたのがこのボクなのだと思うと、なんだか誇らしい気持ちにもなったりした。

 そしてボクはまた唐突に、今度はニヤリとした笑顔で言うのだ。

 

 木綿季「もしかしたらさ、海の中からオバケが出て来るかもね」

 

 歩夢「なに言ってんだ?」

 

 木綿季「海底の中からぬって白い手が飛び出てさ、そのまま歩夢の足を掴んで…海の底に引き摺り込んじゃうかもだよ?」

 

 歩夢「…あんまりアホみたいなこと言ってると、もうお姫様抱っこ辞めるぞ?」

 

 木綿季「だめ~、意地悪言わないで~」

 

 歩夢「意地悪言ってんのはどっちだよ…」

 

 夏の風物詩と言えば、それは勿論怖い話だ。あの日を思い返すと、セットでオバケを怖がるアルファをも思い出してしまう。今度お化け屋敷にでも連れて行こうかなだなんて思わないでも無かったけど、流石にそれは可哀想な気がした。何回それを計画しても、やっぱりアルファが可哀想に思えちゃうからね。

 なのでこうやって、代わりにアルファを揶揄うことにしたんだけど…今の彼には、必殺のカードがあったのだ。アルファはボクを下ろそうとする素振りを見せるものだから、ボクもそれは嫌だと慌てて彼にしがみ付き、頬や濡れ髪を彼の肩にすりつけ甘えるのだ。

 するとアルファは、呆れたような言葉を送りつつも…その心臓がドキンドキンとより強く響いていることは、ボクにはしっかりと伝わってくるんだ。なのにそれをボクに悟られないよう、平静を保ってる素振りをしているところが……もう、すっごく可愛いんだよ…。

 あぁ、もう食べちゃいたいなぁ…そろそろ食べごろなのかなぁ…なんて邪な想いを巡らせつつも、ボクは暫しの間、みんなから向けられる視線を気にすることもなく、二人だけの時間を過ごしたのだった。

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 朝っぱらから電車に揺られて、そんでここまでやって来て、海で遊んで日光浴して、ビーチバレーで汗を流したらまた海で遊ぶ…そんなことをエンドレスのように繰り返していれば、若者である俺でも、当然疲労が蓄積する。

 だが恐ろしいのは、俺と同じく高校生であるはずの彼女たちは、まだまだ元気ハツラツと言った様子で、浮き輪を使ったり遠泳したりしていることだろう。なんてパワフルなんだ。なんだか、自分が爺さんのように思えてしまう。青空は段々と朱色を帯びていき、もうそろそろ陽が沈み始める時間だ。それでも彼女たちにとっては、遊んでも遊び足りないのだろう。

 そんな様子をボケーっと砂浜から眺めている俺だけども、その心の中はそれはもう、大いなる幸福で満たされているのだ。そりゃだって俺はさっき、合法的な形でユウキと肌を重ね合わせれた…いや、少々表現がおかしいな、遠慮なく抱き着けたのだから。

 現実世界ではまだまだ頻繁に抱き締めることもないので、俺はこの機会に、しっかりとユウキ成分を補給させてもらった。リアルでユウキの肌に触れるのは、これが初めてだったのだが、彼女の肌触りは…素晴らしく心地良いものであった。もしここがみんなの目の届く海水浴場でなかったのならば、俺は変な気でも起していたかもしれない。

 そんな俺の視界に映し出される様子は、海の中でキャッキャッと楽しそうな声をあげる女の子たちと、その中に紛れるキリトさんである。キリトは今日も事ある毎に、他の女の子とイチャイチャしているの訳ではあるが、果たしてアスナさんの心境はこれ如何に。

 今はちょっとツンデレ気味なシノンとキリトのやり取りを、俺はのほほんと眺めているのだが…その時ふと、俺は気が付いたのだ。若干一名、海に居ない人物がいることに。

 そしてその人物は、気が付けば俺の背後に迫っていたのだ。

 

 ミト「もうお疲れなの?」

 

 歩夢「みんなが元気過ぎるんだよ」

 

 恐らく水分補給にでも行っていたのだろう。右手にペットボトルを握るミトが。俺に何げなく問い掛けてくる。俺は後ろを振り向くことなく適当に返事をすると、彼女はそのまま隣に腰を下ろしてくるのだ。

 そしてその距離がまぁ近い。前々から思わないでもなかったが、ミトの距離感覚はどうなっているんだ。そうツッコんでみたいことではあるが、それは彼女なりの人付き合いのやり方なのだろう。ミトが彼女たちと接する様子を見る限り、仲良くなるとスキンシップが多くなって、その中でも一段と距離が近いのは、アスナとユウキと…俺…。

 と言うことはつまり、俺はミトとって、特に気の置けない友と捉えられているのだろうか。もしそうだとしたら、こちらとしても喜ばしい限りではある。がしかし…。

 

 ミト「どうしたのよ?そんな目線逸らして」

 

 歩夢「…目のやり場」

 

 一応、俺とミトは異性であると言うことを、彼女には意識してもらいたいのだ。そんな魅惑のスタイルと恰好で隣に座られては、こちらとしても少々困るところがある。

 ミトは何も意識していなかったようだ。だがこのままでは耐えられなかった俺が遠慮気味にそう言ってやると、彼女は動じることもなく「ほぉ~?」と言いながら、よく分からない笑顔を浮かべた。

 そしてミトは誘うように手招きをした後に、ぱちりとウィンクしながら投げキッスを…。そこでやはり、俺は耐えられなくなる。反射的にミトを完全な視界の外に追いやり、激しく言葉を返すのだ。

 

 歩夢「お、おいミト!木綿季に見られたらどうしてくれんだよ!?」

 

 そんな俺の焦り様に対して、ミトはケロッとしたまま答える。

 

 ミト「別に、見られちゃ不味い事なんてしてないじゃない。アルファがそういう風に思ってるからこそよ?」

 

 歩夢「ぐっ…」

 

 ミト「アハハッ!ホント、アルファは飽きないわね~」

 

 そんなミトに全くの正論をぶつけられ、俺は何も言えなくなると、ミトはこれまた愉快そうに笑い声をあげてくれるのだ。

 一体ミトは俺を困らせて何がしたいのか…あぁ、単に俺を揶揄いたいんだな、この人は。そりゃミト程の女の子に投げキッスなんてされてしまえば、動揺しない男などこの世に居るわけがないだろう。

 いや、勿論俺はユウキ一筋から揺れることなど有り得ないのだが…これは、あれだな。もし俺が本気でミトに弄ばれたら、そのままユウキに見限られて、ミトからも遊びだったからなんて言われて…うん、バッドエンド間違いない。そのルートは避けて行かないと。

 などと頭の中で意味不明なことを考えていると、不意にミトが少し真面目な表情で、俺に語り掛けてきた。

 

 ミト「…ありがとね、アルファ」

 

 歩夢「へ?」

 

 唐突過ぎるその感謝の言葉に、俺は素っ頓狂な声で返事をすると、彼女は少し小恥ずかしそうに笑いながら続けた。

 

 ミト「ALOの世界で私の背中押してくれて、ありがとう、って。アルファのお陰で私は、こうやってまた明日奈と仲良く出来てるから。このお礼、まだ伝えてなかったでしょ?」

 

 確かに言われてみれば、俺はミトの口から直接、アスナと仲直りしたという話を聞いたことはなかった。だた今もこうして仲良く旅行に来ているわけだ。そこからどうなったのかはある程度推測出来ているわけで、それ故に俺も、わざわざ結果を尋ねることはなかった。

 がしかし、それが改めて感謝の言葉にされるほどであるかと言うと、そうでもないと思うのだ。。

 

 歩夢「…別に俺は、そんな大層な事してねぇって。ミトが頑張ったんだからさ」

 

 ミト「そんなこと無いんだけど…アルファがそう言うなら、そう言うことにしておいてあげるわ」

 

 歩夢「そうそう、お礼なんて言わなくてもいいんだって」

 

 …全く、あんな些細なことにわざわざお礼の言葉を述べるなんて、ミトは大層律儀な奴なのだろう。俺が謙遜みたいな発言をすると、ミトは更なる謙遜を重ねることはなく、俺の褒め言葉を素直に受け取ったので、俺もまたそれに応じるように、彼女に同調するのだ。

 するとミトは何を思ったのか、はにかみスマイルをまたニヤニヤ顔に変化させたかと思うと、少しこちらに身を乗り出して、言ってくるのだ。

 

 ミト「まぁ、アルファがそういうお礼を望むって言うなら…考えてあげなくもないわよ?」

 

 歩夢「…」

 

 きっといつもの俺ならば、ここで取り乱し、それをミトに笑われることになっていたのだろう。がしかし、毎回のように俺がそうなると思ってもらっては困る。そんななけなしのプライドを表明するように、俺は平静を装ったまま、言い返してやったのだ。

 

 歩夢「はいはい…んじゃ、そういうお礼頼むかな」

 

 ミト「そうやってアルファはいっつも意気地なし……ふぇっ!?」

 

 いつも通りに俺を揶揄う為の言葉を放っていたミトではあったが…そんな俺の返答が予想外だったのだろう。その途中で俺の言葉をしっかりと認識し、そして分かりやすく顔を紅潮させ、固まってしまった。

 …いや、そんな詳細に想像しなくてもいいから。ごめんって、ちょっとした出来心だったんだって…。ぷるぷると赤い顔を小刻みに震わせるミトを見て、なんだかちょっと申し訳ない気持ちになってきた俺は、すぐさま訂正を入れておいた。

 

 歩夢「冗談冗談。俺がいっつも揶揄われる側じゃないってことだぜ?」

 

 ミト「…してやられた」

 

 そう笑顔で告げておくと、ミトも一安心したようにふうと息をつくと、そこからはまだほんのりと顔は赤いものの、いつも通りのミトであった。

 …まぁ常識的に考えて、彼女持ちの人間が彼女の女友達に…うん、倫理的にアウトだ。俺もそう言うつもりは毛頭ない。

 なんて珍しく俺がミトを揶揄っていると、もう空に浮かぶ入道雲は夕焼け色に染まり、世界はオレンジの夕陽を浴びて、空に鮮やかなグラデーションを創り出していた。丸い太陽は水平線に沈み始め、その陽光を浴びた海は、一本の光の道を創り出すかの如く、煌びやかに輝いていた。

 

 歩夢「そろそろ、飯にしないとな」

 

 そこでお腹の空き具合を認識した俺は、晩御飯のことも考えなければいけないことを思い出し、独り言のように呟いたのだ。すると隣に居るミトが、笑顔で人差し指を上向けながら、俺に言うのだ。

 

 ミト「そうね。でも海旅行の醍醐味は、まだまだこれからよ?」

 

 歩夢「あぁ、それもそうだな」

 

 そうして俺とミトは、海ではしゃぐ皆を呼び戻すべく、彼女ら彼に大きな声で呼び掛けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回の投稿日は、四月二十一日の木曜日となります。

 では、また第162話でお会いしましょう!
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