~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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第166話 助命者至上命題

 学校中に、四限目の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。起立礼を済ませた生徒たちは、こぞって廊下へと飛び出し走り去っていく。授業毎に鳴るこのチャイムは、どうにも第一層はじまりの街にあるチャペルの音に似ている気がする。帰還者学校に通う生徒の中で、このことに気が付いている者は、果たして何人いるのだろうか。

 などとどうでもいいことに頭を使いながらも、僕もまた皆と同じように、カフェテリアへと向かうことにする。とは言え周りの生徒と違うのは、慌てることなくゆっくりと歩き、更にはトイレにまで寄ったりしていることだろう。

 

 普段の僕であれば、カフェテリアに行くにしても、隣には彼女が居てくれるのだが…本日ユナは、芸能活動を理由に、学校を欠席していた。少し前にAR歌手デビューして以来、彼女は瞬く間に人気を博し、そしてそれは、こうして音楽番組の収録に追われるほどなのだ

 世間的にはARアイドルだと持て囃されることもあるが、彼女はれっきとしたシンガーである。故に僕という恋人が居ようとも、なんらおかしくはない…まぁ、そんなことはどうでもいいか。

 受験生であるユナが、そんな調子で学校をすっぽかしても良いのか。そう思われるかもしれないが、彼女は持ち前の頭の良さに加えて、志望校を安全圏に設定している。受験失敗と言う可能性はないと考えて良いだろう。

 

 では対する僕はどうだろうか。僕の目指す大学は、東都工業大学、それも電気電子工学科だ。

 そこを目指す理由は、単に僕が、そこにある研究室に興味がある為…だけではない。勿論、その研究室は、茅場晶彦や須郷信之という優秀な人材を輩出している。その二名は問題を抱えていたわけだが、能力だけで見れば随一であることに異論はないだろう。そんなハイレベルな研究室が存在する。それはボクが東都工業大学を目指す理由の一端だろう。

 しかし、ボクにとっての東都工業大学を目指す大きな理由は、その研究室に…重村教授が居るからであった。

 と言うのも、実を言うと今の僕は、その生活費の大半を、重村教授に頼っているのだ。何故そんなことになっているかと言うと──降ってわいたような話の掴みになるが、なんと、僕がSAOから解放されたその時、既に家族は蒸発してしまっていた。

 生まれ育った家は売り払われ、その上自分は母親の連れ子であり、父親とは血のつながりもなく…と、もしかせずとも、それはSAOに囚われたこと以上に絶望的な状況だったのではないだろうか。

 死線を何度も潜り抜け、やっとのことで手にした生還の先には、余りに強大な壁が立ちはだかっていたのだ。身体は衰弱して動かない、退院しても住む場所はない。手元にあるのは、『元』両親から送られてくる僅かばかりの仕送り…あぁ、あの時は本当にお先真っ暗だった。もし僕が独りであったのならば、きっとそこで自暴自棄に陥り、腐っていったのだろう。

 だけど、そんな僕に手を差し伸べてくれたのが、悠那だったんだ。彼女が懸命に鼓舞してくれたからこそ、僕はこうして、今の順風満帆な生活を掴み取れた。それは疑いのない事実である。

 僕の心に寄り添ってくれただけじゃない。住む場所に困った僕をなんとかしようと、具体的な行動も取ってくれた。つまりはどういうことかと言うと、有難いことに悠那は、父親に僕の話をしてくれたのだ。

 悠那の家族とは幼い頃から親交があったお陰か、或いは、「SAOを生き抜けたのはエー君のお陰だから、今度は私がエー君の力になりたいの!」と悠那が父に叫んでくれたことが効いたのか…彼女の懸命な説得の結果、彼女の父親は、僕に住む場所を用意し、生活費まで賄ってくれた。

 

 とそこでようやく話が戻ってくるのだが、重村と言う名字から分かる通り、重村教授は悠那の血縁者…しかも、実の父親である。

 要するに、僕が東都工業大学を目指す理由は…おじさんに恩返しがしたいから、なのかもしれない。僕はどっちかというと理系の才能があるようで、教授には「良かったら研究室に来て欲しい」と言われているのである。

 おじさん曰く、悠那はSAOから解放されて以来、以前からは想像も出来ないほどに活発になっているのだとか。昔であれば、自分が悠那の意見を否定すれば、彼女は何も反抗して来なかったのに、今では自分の意見をこれでもかとぶつけてくるとのことである。そしてそれが、父親としては嬉しいのだとか。

 なんて話を、二十歳になって初めて飲むお酒の席で聞かされたのだが…そんな話をしてくれることからして、おじさんは僕のことを、それなりに認めてくれているのかもしれない。僕と悠那が恋人関係にあることは、恐らく察してくれていると思う。だからあとは、僕が社会的に立派な成長を果たし、「娘さんを下さい」と言うだけなのだろう。

 

 という訳で、この胸に色んな想いを詰め込んだ僕は、今日も受験勉強に邁進している。最近になって思うのが、アルファの友達にミトと言う天才大学生が居ることは、受験する側からすれば非常に有難いと言うことだ。

 勿論、彼女ほどの大学を受験するわけではない。だが分からないことがあれば、アスナやミトに訊ねれば一発解決なのだ。本当に、良い仲間に恵まれていると思う。でもそんな風に他の女の子と居すぎると、悠那が少しばかり嫉妬してしまうのが、喜ばしくも少々難しい所ではある。

 廊下をゆっくりと歩いてカフェテリアへと向かう間に、僕はこうして、沢山のことを脳内に巡らせている。しかし、そろそろエネルギーが尽きてしまいそうだ。そんな予感を覚えている僕は、一度思考を中断し、栄養補給のために、久しぶりに食堂のカツカレーを味わいに来たのだが…。

 

 キリト「おっ、ノーチラス。今日は一人なのか?」

 

 ノーチラス「まぁそうだね。今日は悠那が学校休んでるからさ」

 

 シリカ「ならみんなでご飯にしませんか?席もちょうど一つ空いてますし」

 

 ノーチラス「分かった。取り敢えず注文してくる」

 

 カフェテリア西側の窓際、南から三つ目の丸テーブルに陣取る彼ら…と言うよりは、キリトとアスナやリズベット、シリカの女性陣だろう。折角なので、彼女らの提案を受け入れさせてもらう。お盆を取って手早くカツカレーを購入し、零さないようトレーを水平に保ちつつ、彼らの待つテーブルに向かっていく。

 するとどういうことだろうか。彼らは皆一様に、窓の外に視線を集中させているではないか。

 

 ノーチラス「何か見えるのか?」

 

 そう何気なく皆に訊ねると、まるで見逃すわけには行くまいと、キリトが視線を固定させたまま言葉を返してきた。

 

 キリト「何って…よく見てみろよ」

 

 そう言われてそちらへと視線を向けると…。

 

 ノーチラス「…あぁ、なるほど…」

 

 恐らく彼らがこの席を選んだのは、丁度この位置から限定で、木々の茂みの向こうに広がる、中庭のベンチの様子が伺えるからなのだろう。

 そしてそこには…黄色やピンク色のオーラ全開で、なんとも仲良さげに身体を密着させる二人が見て取れるのだ。きっと二人は、何か他愛もない会話をしているのだろう。お互いに笑顔を綻ばせながら、頻りに口を動かしている。

 

 アスナ「幸せそうねぇ…」

 

 リズベット「ほんと…見てて和むよね、あの二人」

 

 シリカ「目の保養ってやつですかね~」

 

 と三人が和やかな表情で言うことには、こちらとしても大変共感出来るものがある。何せあの二人は、僕達と比べると更に一年遅れて、ようやく日常を勝ち取れたのだ。

 出来ることなら、彼女の病気が治って欲しい。二人はいつまでも幸せであって欲しい、彼と彼女の仲間たちは、それをどれだけ願っていただろうか。皆が満場一致で求む二人が日常に戻って来る様を見て、僕達が生暖かい目を向けずにはいられないのだ。

 そうして、その場にいる彼ら彼女らは、暫しの間食事を忘れて、二人の行く末を見守っていたのだった。

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 学校中に響き渡るチャイム音は、四限目の授業が終了したことを知らせてくれる。先生からは、今週の課題が知らせられた。ボクは課題ファイルを確認してから、中々手応えありそうだねと、その大量の設問をざっと眺めておく。端末をシャットダウンして、それを鞄に片付けていると、隣の仲良くしてる女子生徒が話し掛けてくれた。

 

 「木綿季、早く食堂行こ?今日は限定メニューあるみたいだし」

 

 限定メニュー。その文言には、ボクもふらりと引き寄せられないでもなかった。でも今日は──とボクが返事をする前に、こちらへとやって来ていた二人の女子生徒が、勢いよくボクらに言うのだ。

 

 「ダメダメ!今日は一井先輩に会いに行くんでしょ?」

 

 「そうそう、木綿季にとっての王子様だよね~」

 

 「あ、そっかそっか。そのこと忘れてたよ」

 

 木綿季「…そーゆーこと。じゃ、また後でね」

 

 二人がにやりと笑いながらそう言うってくるものだから、ボクはちょっぴり小恥ずかしくなっちゃっう。ぶっきらぼうに返事をし、パタパタと手を振ってからその場を後にした。初めて学校に来た日以来、ボクとアルファのことは、校内中の噂になってしまった。

 今まで一度も女の子に振り向かなかった通称「鉄の歩夢」があんなにべた惚れしちゃってること、そしてその彼女も凄く可愛いことで、この学校の黄金カップルであるアスナ達とユナ達に並ぶ三大トップがいま完全集結した…うん、なんか凄いことになっちゃってる。でも、みんなにアルファとのこと持て囃されるのも、まぁ悪い気はしないんだよね。

 

 もうすぐアルファに会えるとなると、身体が勝手に急いでしまうのだ。そんな自分に何処か呆れつつも、勿論その歩みを止めることはない。

 アルファとの集合場所は、アスナ達に教えてもらった秘密の庭園だ。ある廊下の非常口から中庭に出て、生垣沿いに暫く進むと、見落としてしまいそうな程に木々で覆われた小道を発見する。その小道を更に数分歩いていくと、円形の小さな庭園に出た。花壇の近くには白木のベンチが幾つか並んでおり、しかしそこにはアルファの姿は見当たらない。

 直後、ボクの背後から、聞いていて落ち着く声が響いた。

 

 歩夢「早かったな、木綿季」

 

 木綿季「歩夢こそ」

 

 どうやらボクは、アルファよりも一足早くここに到着してしまったらしい。後ろからアルファに声を掛けられ、ボクはそちらに顔を向けて返事をした。そのままアルファの手を引いて、そこの白木のベンチに歩みを進める。そして二人隣り合わせにベンチに腰掛けると、すぐ彼に寄り添った。

 ボクが学校に通い始めて、一週間と少しの時が経過した。学校生活というものは、非常に有意義なものだ。その見解は、初めての登校日から変わらずだけど、たったの一点、不満なことがある。

 それは、学校の中で、アルファに会える時間が少なすぎることだ。ただでさえ学年が違うのだから、業間時間には会えないというのに、授業の関係とかで、昼休みでさえ都合が合わない日もあるのだ。その点を除けば、ボクの学校生活は完成してるんだけど…その欠けたワンピースが、ボクにとっては大き過ぎる。

 だからこうやって、一緒に居られる時には、存分にアルファを堪能しているという訳だ。

 するとアルファは、右手にぶら下げていた白いポリ袋を膝の上に置いて、手を突っ込む。

 

 歩夢「ほい、これが購買の焼きそばパン」

 

 そして取り出した縦長のパンを、彼はボクに差し出してきた。それを受け取ったボクは、まじまじと眺めながら呟いてしまう。

 

 木綿季「これが…伝説の…」

 

 するとアルファは、苦笑しながら言った。

 

 歩夢「伝説は大袈裟だ。他にも色々買ってあるから、好きなもん取ってくれていいぜ」

 

 木綿季「ん、ありがとね、歩夢」

 

 歩夢「おう」

 

 そうしてボク達は、二人でお昼ご飯を食べ始めたのだ。今日はアルファに奢られる形になっちゃったけど、これは昨日のデュエルの結果で決まったものだから…まぁ、アルファに甘えることにしよう。

 これも美味しい、あれも美味しいと、二人で半分こしながらパンを食べ進めていく中で、不意にアルファが話を振ってくるのだ。

 

 歩夢「九月の終わり頃に、三連休あるだろ?」

 

 木綿季「あるね」

 

 とボクが相槌を打てば、アルファは極々アッサリとそう言った。

 

 歩夢「急だけどさ、そのうちの二日使って、旅行行かね?」

 

 木綿季「…ほ、ホントに急だね」

 

 そしてアルファから放たれた提案に、まずは思ったままの気持ちを言葉にしつつも…アルファに旅行に誘われて、断るボクなど何処を探しても見当たらなかった。一応予定を確認してみるも、大丈夫、外せない用事は一つもない。それ故にボクも、すぐに返事をしたんだ。

 

 歩夢「無理そうだったら全然断ってくれていいんだけど…」

 

 木綿季「ううん、なんにも予定は無いし、オッケーだよ。旅行行こっか」

 

 歩夢「おっ、サンキュー」

 

 木綿季「でも一泊二日って、何処に行くの?」

 

 歩夢「それはまたおいおい話してく」

 

 木綿季「えー、勿体ぶらないでよ~」

 

 なんて会話をしている最中で、ボクはふと思ったのだ。

 ……え?いまボク、アルファと二人きりで旅行に行くこと了承したんだよね?…ってことは…そういうこと、だよね…?多分…。心の準備はもうとっくの昔から出来てるけど…今度はリアルだからね。ちゃんと色々準備しとかないとだし…でも…ボクどうなっちゃうんだろ…。

 

 歩夢「…木綿季?どうした、ボーっとして」

 

 木綿季「え?う、ううん、何でもないよっ」

 

 歩夢「?」

 

 アルファとの旅行について色々な妄想を捗らせていたボクに、彼は不思議そうな表情で訊ねてくる。ハッと現実に戻ってきたボクは、すぐにそれを誤魔化しておいたけど、アルファはイマイチ納得していないような表情のままであった。

 とそんな感じで、ボクは思いがけず、アルファととんでもない約束をしてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその日から更に一週間余りの時が過ぎ去った今、ボクとアルファが訪れたのは──

 

 木綿季「大阪初上陸ーっ!」

 

 ──西日本一の経済都市、天下の台所だ!

 九月二十日の本日、朝八時ごろから新幹線に乗り込み、数時間運ばれたボクとアルファは、お昼前を目前に、とうとう目的地へと辿り着いたのだ。

 まだ車の免許を持っていないボク達が旅行に行くとなると、当然移動手段は限られてくるわけで…まぁ、東京から大阪まで運転するのも、それはそれですっごく大変なんだろうけどね。一泊二日の旅行と言うこともあって、キャリーバッグを使わずともなんとかなる程度に荷物が抑えられるのは、実に有難い。

 アルファ曰く、「出来たら二泊三日にしたいけど、荷物のこと考えたら一泊二日かなって思った。あとは、三連休フルで遊んだら、次の日の学校がしんどくなるから、一日休息の日があった方が良いかなって」とのことである。

 …うん、旅行の提案自体は唐突だったけど、そこら辺はしっかり考えていたらしい。ボクは昨日の夜から…いや、諸々の準備を合わせると、旅行に行くことを決定したその翌日から…これは持っていきたい、それはなくても良い、あれは絶対に必需品…と荷造りに忙しかった。

 その他にも、今日と言う日が楽しみ過ぎて、昨日は上手く眠れなかったりもしたんだ。まるで遠足気分だよ。

 

 歩夢「大阪来るの初めてなのか?」

 

 木綿季「うん、西日本はほとんど踏み入れたことないかな」

 

 新幹線を降りて、大阪駅から外に繰り出したボクは、このウキウキの気持ちに身を任せて大きく叫ぶと、アルファは落ち着いた様子でボクに語り掛けてくる。

 なんだなんだ~、ボクとのお泊りが楽しみじゃないの~?とやはり浮かれている心模様は、次にアルファに繰り出すべき言葉をそんな風に定めていた。でも少しだけ冷静なボクが、心の片隅から顔を出してくれる。ちょっとはしゃぎ過ぎかなと、一旦気持ちを抑えておくことにした。

 ボクが西日本を訪れるのは、これが人生で二度目である。一度目はプローブ越しの京都旅行である為、実際に訪れたのは初めてとも言えるだろう。

 大阪駅周辺は、周囲に大きな建物や多数の高層ビル、そして車や人の喧騒など、街の発展具合は東京にも負けていないように見える。快晴とまではいかないが、それでも空模様は良好だ。頭上から真っ直ぐに差し込んでくる太陽光は、少し眩しい。見つめると思わず目を閉ざしてしまう。

 ボクと同じように太陽を眺めている彼の服装は、至ってシンプルだ。黒いズボンに白いTシャツ。そして白い靴に黒いキャップ帽子。多分キャップ帽子は、ミトからアイデアを得たんだと思う。あんまり派手じゃない服装を選んでいるのにも、それなりに訳があったりする。

 一方ボクの服装はと言うと、今日は制服で可愛いを誤魔化すことが出来ない。この日の為に色々考えた挙句、ショートパンツに淡い青の薄手のトレーナーという服装を選択した。でも素足を見せるのはちょっと恥ずかしかったから、ショートパンツの下には黒タイツを履いてるんだ。

 

 歩夢「取り敢えず昼飯にするか」

 

 木綿季「そうだね。ボクもお腹ペコペコだよ~」

 

 お昼のピークに差し掛かる前に、サクッと昼食を済ませることにしたボク達は、新幹線の中であれこれ話しながら決めておいたお店に向かっていく。そしていざお店の前に辿り着くと、そこは思った以上に人気のお店だったらしい。待ち人たくさんがいるではないか。

 その場で待ち続けることニ十分程、お店の人がボク達の名前を呼んでくれた。そのまま店内に案内されて、テーブル席に着席する。アルファとは隣り合って座りたかったけど、今から食べる物の都合上、仕方なく向かい合わせに座ることにした。

 そんなボクらが入ったお店は…。

 

 歩夢「餅入りが一つと…昔ながらのお好み焼きが一つ、で良かったよな?」

 

 木綿季「うん。あ、あと、どっちもマヨネーズ抜きでお願いします」

 

 そう。大阪のソウルフードの一つである、お好み焼き専門店だ!

 椅子に着席したボクらは、二人でメニューを眺めながら、結局はその二つを注文することにした。でもこうしてメニューを見ていると、どれもこれも試してみたくなる。こうなってくると、みんなで旅行に行った方が色んなもの食べられるんだよね…でもアルファと二人って言うのも好きだし…これは難しい問題だよ。

 アルファは店員さんに注文した後に、確認するようにボクに問い掛けてくる。それに首肯した後にすぐ、そのことを思い出したボクは、店員さんに伝えておくのだ。

 するとアルファは、物凄く嬉しそうに言ってくれる。

 

 歩夢「覚えてくれてたのか」

 

 木綿季「当たり前だよ。歩夢のことはなんだって頭の中にメモしてるんだから」

 

 歩夢「それは喜ばしい限りだな」

 

 アルファが唯一苦手な食べ物…と言うよりは調味料であるそれを、恋人であるボクが把握していないわけがない。

 因みにアルファ曰く、「マヨネーズは油の塊だ。人の食べる物じゃねぇ」とか言っているけど、それは物議を醸しそうなので、しっかりと注意しておいた。

 暫くすると、二つのお好み焼きが到着する。店員さんはヘラを器用に使って、それらをボクとアルファの間にあるテーブルの鉄板に落としてくれる。すると二枚の丸い生地は、じゅわっといい音を立ててくれるのだ。ボクらはヘラを使ってわけわけしながら、お好み焼きを食べていった。

 その濃厚なソースとキャベツのシャキシャキとした食感、大量の青海苔の旨味、中に入っている伸びるお餅がアクセントになっていて、大変美味だった。満腹になったところで、清算を済ませて再び外に出ると、アルファがボクに問い掛けてくれる。

 歩夢「こっからどうする?一応時間ありそうだけど」

 

 木綿季「ん~…やっぱり方面は一緒の方が良いよね?」

 

 歩夢「まぁな。どっか観光しに行く?」

 

 木綿季「じゃあ大阪城行ってみたいな!余裕があったら道頓堀とかも!」

 

 歩夢「おっけ。まずは大阪城から攻めようぜ」

 

 木綿季「ボクとアルファが本気の装備で攻め入ったら、落城させられるかな?」

 

 歩夢「流石に厳しいんじゃね?多勢に無勢って感じで」

 

 木綿季「ボクはそんなことないと思うんだけどなー」

 

 そうしてこれからは、ミニ観光に赴くことにしたボクらは、まずは大阪城へと強襲することにしたのだ。

 思った以上に荘厳なその威容と、本丸に辿り着くまでの道のりの長さ、そして最上階に上がるまでに色々な物を眺められて、終いには金ぴかの鯱まで拝めて…結構時間を食うことになった。それ故に、あの有名な道頓堀でのグリコを眺められない結果になったのは、少々悲しかったりする。

 

 とここまで書いておけば、みんなも薄々気が付いてると思う。それは、ボクとアルファの一泊二日の旅行が、ただの観光目的ではないことに。寧ろ観光はサブ目的であって、メインはまた別に設定されていることに。

 大阪城を見て回ったところで観光を切り上げたボク達は、再び電車に揺られる。適当な駅で下車し、その駅のロータリーにて、今度はタクシーに乗り込んだ。アルファが運転手さんに目的地の住所を伝えると、運転手さんはそちらへと車を進めてくれる。

 新幹線、電車、タクシー、そして今日の宿代…等々、それら全てを合算すれば、それはもうとんでもない金額になるのだろう。だけどそれは、ボクのお財布からは一切出て行かない。この旅に掛かる費用のほとんどは、アルファが払ってくれているのだ。

 ボクも申し訳ないとは思いつつも、しかしそれらを全て支払うとなると、少々財政的にも厳しいのだ。そこは素直に頼らせてもらうことにした。だけどご飯代とか観光費は、自腹で出すという条件付きだよ。流石にそこは譲れないからね。

 …なんか最近分かってきたんだけど、アルファって、ボクの為にお金出すこと全く惜しまないんだよね。もしかしてアルファ、天然のダメ女製造機なのかな?ボクが酷い女の人だったら、今頃悲惨なことになってるんだけど…アルファはちゃんと分かってるのかな?

 

 タクシーの中でアルファと下らない話に花を咲かせながらも、そんなことを頭の中で考えているうちに、とうとうタクシーが目的地に辿り着いた。

 代金を支払い、お礼を述べてからタクシーを降りる。すぐ目の前にあるそれは、大阪城とはまた違った特殊な雰囲気を放っていた。目の前には石段があって、それを登ると瓦造りの屋根に、木造の大扉が待ち構えている。

 足元にある少し飛び出た木の骨組みに引っ掛からないよう、跨いで扉を潜るとその先では、石のタイルと黒い丸石がぎっしりと詰まっている。そこはまるで、外界からは切り離されたような静けさであった。

 アルファが迷いながらも足を進めて行く道中には、灰色で縦長の四角い石が沢山立ち並んでいる。もうお分かりだろう。ボクとアルファが訪れたこの場所は…。

 

 歩夢「…ここだ」

 

 数多とある同じような見た目の四角い石の中で、その一つを見て確信したように呟いた彼は、そこでピタリと動きを止めた。「ちょっと待っててくれ」と言ったかと思うと、遠くの方から、柄杓と水が一杯入ったバケツを持ってくる。彼は鞄からマッチや蝋燭、雑巾等を取り出した。

 つまりここは…寺院墓地。アルファは柄杓で掬った水を墓石に掛けると、続けてボクにも柄杓を渡してくれる。生まれがクリスチャンなボクは、当たり前だけど、仏教的なお墓参りの儀式に関する知識は手薄だった。

 でも、きっとこれには大切な意味が込められているのだろう。ボクはアルファと同じように丁寧に水を掛けると、彼は雑巾を使って、少し汚れた墓石を綺麗にしていた。恐らくここに誰かが訪れたのは、ずっと以前だと推測される。その間にボクは、花立に入っている枯れ草を、旅の道中に購入しておいた新鮮な供花と入れ替えておいた。

 このお墓は誰のものなのか。勿論ボクの家族のものではないし、一方彼の血縁者のものでもない。だけどここには、ボクとアルファの二人で訪れる必要があった。アルファから旅行の行き先と目的と聞かされたその時、ボクはそれを知らされると尚、この地に足を運ばないわけにはいかなかった。だって、このお墓に眠るのは…。

 不意に、アルファはこちらに振り向くと、優し気な表情でその口を動かした。

 

 歩夢「…サツキの本名、なんだったと思う?」

 

 木綿季「ん~…苗字は白崎だよね。じゃあ名前は…そのままサツキなんじゃないの?」

 

 歩夢「ところがどっこいそうじゃないんだよな。多分五月生まれなんじゃねぇの?サツキの名前は…あいな。白崎愛渚らしいぜ」

 

 木綿季「…うん、良い名前だね」

 

 サツキのお墓。ボク達の目の前にある墓石は、正真正銘彼女のものである。そしてボクらの旅行の真の目的は…このお彼岸の日に、サツキとオウガを弔うことだ。

 些細な会話を交わしたのちに、アルファは蝋燭とお線香に火をつけた。白い煙と共に、辺りにお線香特有の落ち着く匂いが広がる。そしてボクらは、静かに黙祷を捧げた。

 約束通り、ボクとアルファはSAOを生き抜いたこと、それからまた別の世界に囚われたこと、アルファに酷いこと言ったこと、でもアルファが迎えに来てくれたこと、なんとか病魔に打ち勝てたこと、言い忘れてたけど、ボクはアルファと付き合ってること…サツキに伝えたいことが多過ぎて、ボクは随分と長い間、黙祷し続けていたんだ。

 だけどアルファは、それ以上に長かった。ボクがふっと目を開けても、彼はまだまだ黙祷を続けていたのだ。言ってしまえば、アルファの身代わりとなってその命を落としたサツキには、彼にも思うところが沢山あるのだろう。

 ふとそのことを思うと、ボクは無性に、君を抱き締めてあげたい衝動に駆られた。ちゃんと心の奥底まで手を伸ばしてあげて、今度こそその古傷を綺麗に癒してあげたい。でも、今はそうしていられるほどに、時間の猶予がなかった。

 やがてアルファが黙禱を終えると、ボクらはゆっくりとその場を後にして、もう一人の戦友が眠る地へと、静かに足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




 『助命』この言葉の本当の意味は、『人の命を救うこと』です。
 がしかし、今話で焦点を当てさせてもらいました人物たちから分かりますように、筆者は『命を助けられること』という意味で使わせていただきました。
 本来は、『助命』にこのような意味はありません。であれば、筆者が何故受け身で捉えたのかというと、『助命嘆願』という四字熟語からアイディアを得たからです。あと、結構語呂の良い題名になりそうだったから…。
 「あれ?」と思われた読者様がおられましたら、そういうことだと思ってください。筆者が勝手に作り出した造語です。

 次回の投稿日は、五月一日の日曜日となります。

 では、また第167話でお会いしましょう!
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