~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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 つい二日前にアンケートを取らせていただきました結果、「見たい」に表を入れて下さった方々が居られましたので、このお話を投稿させていただくことにしました。
 勿論、本編とは一切関係のない話ですので、見たくないよって読者様は、この後すぐに投稿致します173話へ向かってもらって結構です!
 それではどうぞ!


IFルート 二輪のアネモネ

 百人はその場に集えそうな大講堂に、未だ聞き慣れないチャイム音が木霊した。それは、気が抜けると言うか締まりがないと言うか、兎に角、これまでの学生生活では聞いたことがないような、そんな独特のメロディーだ。

 しかし、講義自体は延長戦の開始だ。遠くの教壇に立っている教授が、もう数分レジュメの内容を喋り続ける。私もそれに耳を傾けつつ、素早くペンを走らせ続ける。

 やがて、「今日はここまで」と教授が宣うと、学生たちの雰囲気も一気に弛緩した。

 次第に学生たちは、どよどよと言葉を交わし合う。友達と講堂を後にする者、教授に質問しに行く真面目な子、或いは一人で何処かへ行く人、講義が終わってから各人が採る行動というものは、大体その内のどれかだ。

 そして肝心の私は…今日は一人だ。デイパックに荷物を纏めて講堂から出発すると、そのまま校舎を通り抜け、広々とした学校敷地に出た。そこには何百人と、私と同じく学生の彼ら彼女らが行き交っており、私もその人混みに紛れて、更に歩みを進めていく。

 

 今日の講義はさっきので最後だ。空もすっかり夜色に染まり始めている。だから早々に家へと帰る。それだけのことだ。塾講師のアルバイトだって今日はないし、一応ゲーム系のサークルには所属しているものの、それも毎日顔を出さなければならないわけではない。と言うか、毎日活動しているわけでもない。

 小学、中学、高校と、年を重ねるにつれて友達を積極的に作ることはどんどん少なくなっていったが、なんと大学生になった途端に、友達がたくさん出来た!…などというマジックは起きない。大学生というものは、これまで以上に自ら積極的に社交性を発揮しなければ、友達どころか知り合いだって作ることが難しかったりするのだ。

 言っておくが、私は社交性のある方だ。ただ友達を作るのが下手なだけで、知り合いぐらいなら簡単に量産できる。

 それにそもそもの話だけれど、私はこれまでの学生生活と変わらず孤高のフリを貫き通しているので、自分から誰かに話し掛けることが少ない…それは、社交性があると言えるのだろうか…?

 まぁ、ゲームという共通点のあるサークル内では、それなりに楽しくやっている。まさかこの年齢になってでも、ゲームが上手いと言うだけで仲間外れにされたりはしないのだから、それも当然と言えば当然だろう。

 学生の本分である学業にも、私はしっかりと取り組んでいた。大学はこれまでの教育機関とは違って、自ら好きなことを学べるのだ。ならば学習することに楽しさを覚え、授業に集中しやすくなるのも当たり前である。

 他にも、アルバイトだって適度なペースで取り組んでいる。やる気のある生徒を受け持ち、その子を第一志望へと導くべく色々頭を働かせるのは、こう言ってしまえば失礼かもしれないが、育成ゲームのようで面白い。

 学業に勤しみ、アルバイトに精を出して、サークル活動にも参加する。学校に友達は少ないが、嬉しいことにも学校外の友達は何人も居るし、私の日々は満足に充実しているに違いないだろう。…違いない…そうじゃなきゃダメ…。

 

 暫く学校の敷地を歩き続け、巨大な校舎を何度か通り抜ける。門を発ち、両脇にマンションが立ち並ぶ街を少しだけ歩くと、そこから地下鉄に移動出来るのだ。アクセスは最高だと思う。

 カツカツと階段を降り進み、改札を通過する。ホームに着くと既に出来上がっていた列に並び、暫し電車がやって来るのをその場で待った。

 とそこで、もう我慢の飽和が訪れた。お楽しみはもう少し後にしたいけれど、私は堪え切れず衝動的に動き出す。ポケットに手を突っ込んで、片手で握れるほどの四角いものを取り出した。そしてそれに指を数度動かす。

 

 「…はぁ…」

 

 その結果、画面に映ったその様子に、私は無意識のうちにため息を零すのだ。続いて、その当たり前の事実に落胆してしまっている自分自身に対して、或いは、もう自分を取り繕うこともなくガッカリするようになってしまった私自身に、心の中で大きな息をも吐き出す。

 …そうだ。私に足りないものは、満たされていないものは、ずっと飢えているものは、たったのこれ一つだ。だけどその一つが、私が何よりも欲しているものなのだろう。

 一通のメッセージに心を高鳴らせ、やり取りが終わってしまうことに気を沈める。待っていても連絡なんて飛んでこないだろうから、自分から色々話題を振りかけることの方が多いけれど、そうばっかりしていると、しつこくないかな?嫌われてないかな?だなんて普段は考えもしないような、胸のきゅっと締まるもやもやを募らせるのだ。

 今日はまだ、朝以来メッセージが返ってきていない。それだけのことなのに、凄く気分が下がってしまう。だけど時間的には、返事が来てもおかしくないだろう。

 きっと私は、なんの意味もない返事が来ただけで、胸の奥をドキドキと大はしゃぎさせるに決まっている。早く返事が欲しい。下らなくてもいいから君と会話をしたい。気が付けば私は、ぎゅっと、携帯電話を胸に押し付けていた。

 そんな心地良い気分をぶち壊すように、轟音を立てた列車が到着する。私はそれに乗り込んで、ドア前で佇みながら、我が家最寄り駅へと運ばれていく。その頃には、私の心にも少しの冷静さが戻っていた。

 するとほぼ同時に、私が抱いているこの気持ちが忌まわしく思えてくる。憎々しいことこの上ない。こんな気持ち知りたくなかった。知っちゃいけなかった。でも気づいてしまった。

 そして最後には、やっぱり私は、いつからかこの胸に現れたわだかまりを外に追いやろうとするのだけれど、結局、それは何処かでつっかえてしまう。

 乗り換えを挟んで我が家の最寄り駅に到着し、そこからは自転車をゆっくりと漕いで、やがて二階建ての一軒家に辿り着く。家鍵を取り出して、鍵を回すと、同時に玄関ドアを開けた。

 

 「只今」

 

 返事がないとは分かっていても、私はいつもこう言ってしまう。もしかしたらこれは、まだ私が小さかった頃の名残なのかもしれない。その時代にしては珍しく鍵っ子だった私が、家に帰って来ても共働きで母親が居ないその悲しさを紛らわせるために、自分を慰める意味も込めて、こうして毎日ただいまと言っていたあの頃だ。

 …私はいつだって、自分の気持ちを誤魔化すのが得意だった。友達なんて居なくても良いですよと見えるように、一匹狼を気取っているけれど、本当の私は寂しがりやな兎ちゃんだ。心の底では、たくさん友達が欲しいと思っている。

 でも距離を縮めるのが怖い。折角出来た親友がデスゲームに囚われたその時、私は後悔するふりを続けた。実際にそれを悔やんでいたというのならば、私は彼女の元へすぐに飛び出せたはずだろう。なのに私はそうしなかった。

 だけど、そんなどうしようもない私のことを突き動かしてくれたのは、彼だった。彼こそが、私の心に燻る思い残しを、行動という形に昇華させてくれた。あの瞬間に私は、本当の意味で、私のした友の裏切り行為を認められたのだ。そしてその上で、それ以来のどうしようもない阿呆な行動に悔いを覚えたのだろう。

 なればこそ、私は心に抱くこの気持ちを、上手く誤魔化さなければならないはずなのだ。それが私には出来るはずだった。でも、もう今は──。

 

 帰宅した私は、手洗いうがいを済ませて、まずは健康のために筋トレを行う。ただでさえゲーム大好き人間な私は、日々のエクササイズを欠かせば、痩せすぎるなり太るなり、どちらにしろすぐにだらしのない身体になってしまうだろう。だが最近の筋トレのモチベーションは、果たして本当に健康の為だけなのだろうか。

 たっぷり汗を流した後には、晩御飯の調理に取り掛かる。作る物はいつもと特段変わらない。献立の使い回しだ。君に料理を振舞えるのなら、私はどんなご飯だって嬉々として作るのだろうけど、実際にはそんな機会、早々には訪れないだろう。

 軽く夕食を食べ終えると、お風呂に入って汗に汚れた身体を清潔にする。その他少々の家事やスキンケアなんかを済ませると、ようやく自由時間に突入だ。まぁ自由時間とは言っても、まずは今日の授業を軽く復習するところからだ。

 だけども、高校や中学の頃のように、復習する内容は然程多くない。二階の自室でレジュメを見返す。大体はそれで事足りる。その頃になって、携帯からピローンと音が発せられた。

 今日何度目かも分からない着信音。反射的に違うだろうと思いつつも、それでも期待することはやめられず、私は急いで携帯電話を手に取る。そしてその差出人を確認すると…胸のトキメキが爆発した。途端に頭の中がバラ色で溢れ返り、口元は勝手に綻ぶ。

 別に、送られてきたメッセージは、思っていた通りに他愛もないものだ。それでも凄く嬉しい。脳内には何通りもの返事が浮かんでは消えていくのだ。今すぐにでも返事を送りたい。でも、すぐに返事をしたらやり取りを面倒臭がられるかもしれない。下らない葛藤だ。だけど私にとっては、凄く大切なことだ。

 少し間をおこうと携帯電話を手放したけれど、結局数分後には返事を送ってしまう。いつ連絡が返ってくるだろうか。なんてウキウキした気分で暫く居続けるけど、いくら待てども返事は来なかった。

 そして私は、しゅんと心を曇らせてしまう。悲しいことだけれど、それは当たり前だ。彼にとっての私の優先順位は、そんなに高くないに決まっている。だからこの結果は仕方のないことなのだ。

 

 それを理性では十分に思い知っていた。一方感情は抑え切れなかった。もう限界。これ以上一人で抱え続けるのは無理。でも、こんなことを相談できる相手なんて…一人だけ、居るのだ。

 彼女とは、もうすぐ出会って一年ぐらいの短い仲だけど、何故かすぐに仲良くなれた。彼女と深い交友を結び始めたその当時は、相性が良かったのだろうか程度にしか思っていなかったけれど、今の私なら良く解る。

 私と彼女は、ある一点で似ているのだ。それは物凄くである。だけども、それは似ているだけで、完全に同じという訳ではない。彼女は私とは違う考えを持っているはずなのだ。

 私はそれを知りたい。それが、制御不能になり始めたこの心に、もう一度コントロールを与えてくれる気がするのだ。

 彼女とは本日会う約束をしていて、もうすぐその時間がやって来る。集合場所は、当然の如くバーチャルワールドであった。数あるVRゲームのカセットからALOを選んだ私は、アミュスフィアを被ってそちらの世界へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目覚めたその先の世界は、いつもと変わらないありきたりな宿屋の一室だ。そのうち何処かに住居を構えようかとは思っているけれど、中々ドンピシャな場所を見つけられないでいる。

 フレンドメッセージで彼女に連絡すると、新生アインクラッド第50層に居ると、位置情報付きのデータが送られて来たので、私がそちらに出向くことにした。ここの宿屋は、入室した時点でユルドが支払われる仕様だったので、今から宿代を払う必要ない。私はガチャリと窓を押し開けた。

 この部屋は二階に位置しているため、地面からは少々距離がある。だがこの程度で怖気づいていては、VRMMOなど到底プレイ出来ないだろう。私は勇気振り絞ることもなくそこから身を乗り出し、すたりと地面に降り立った。この宿屋前を歩いていたケットシー君は、こちらを見て唖然とし、器用にもビクリと尻尾を逆立てていた。

 

 現在私が位置しているのは、新生アインクラッド第68層だ。ここからだと、翅を動かすよりも転移門を利用する方が早い。トレードマークの白いマントを揺らしながら、私はそちらへと足を進めていく。

 以前使用していた男性アバターと比べると、こちらのリアルによく似た女性アバターの方が、なんだか身体が動かしやすい気がするのだ。やはり性別は一致している方が、命令と運動をシンクロさせやすいのだろうか。

 やがて辿り着いたゲートに手をかざし、五十層の主街区の名を唱える。すると、いつ来てもひっきりなしに様々な声が飛び交う街にテレポートする。先程の座標を頼りに、まさに迷宮の街中を曲がりくねって行くと、周囲の装飾的オブジェクトに紛れ込んだ小さな空き家を見つけ出せた。

 こんなものに気が付ける者は、彼女ぐらいしかいないのではないだろうか。コンコンと木扉をノックすると、ガチャリとドアが開き、先程以上に小柄なネコちゃんがお出迎えしてくれた。

 

 アルゴ「早かったナ、ミーちゃん」

 

 ミト「マップデータ貰えなかったら、一日中迷ってたと思うけどね」

 

 そうして軽く挨拶を交わし合ってから、私はその平屋に足を踏み入れた。彼女曰く、適当にアルゲードの街を歩いてたら、偶々見つけられたらしい。ここはあくまで借り家である為、家内にあるものはシンプルな木椅子と簡素なテーブルぐらいである。

 アルゴはストレージから取り出したコップにミルクらしい飲み物を注ぎ込んで、椅子に座る私の前に置いてくれた。彼女も同じようにミルクをもう一つのマグカップに注ぎ、それに口をつける。

 

 アルゴ「で、今日はどうしたんダ?またフィールドワークのお手伝いカ?」

 

 ミト「違うわよ。授業でもフィールドワークは暫くやらないんじゃないかな。ま、その時が来たらまたよろしくね」

 

 アルゴ「全く、敏腕ライターのオレっちをタダで使えるなんて、感謝してくれよナ?」

 

 ミト「そうね、ご恩は出世払いで返す予定」

 

 アルゴ「おっ、言ったナ?期待しちゃうヨ?」

 

 そんな感じで暫くは、本題に取り掛かることなく些細な会話を交わし合う。だけども、やっぱり最後は、そこに行き着くのだ。

 

 アルゴ「…まぁ、フィールドワークのお誘いなら、メッセージでも充分だからナ。こうやってALOに呼び出したってことは、面と向かって話したいことがあるんダロ?」

 

 ミト「…まぁ、そうよ…」

 

 わざわざ二人きりの密会を開いた理由、そんなものはアルゴも判り切っているだろう。でも私は、果たしてこの気持ちを誰かに伝えてしまっていいものなのだろうかと、今更そんなことを考え、口をもごもごさせる。そんな私を見て、彼女は面白そうに続けた。

 

 アルゴ「ん?なんダ?言ってくれないとオネーサンよく分からないナァ?」

 

 ミト「…アルゴだって、分かってるんでしょ…もう…」

 

 アルゴ「んー、ま、なんとなくだけどナ。今のミーちゃんの表情、オレっち何回も見てきてるカラ」

 

 そこまで言われてしまうと、こちらとしてももう後戻りは出来ない。私は意を決して、だけど図らずも小さくなってしまう声で、モジモジと身体を動かしながら答えた。

 

 ミト「………出来たの……」

 

 アルゴ「ん~?」

 

 ミト「……す、好きな人……出来たの……」

 

 …言ってしまった。それを言葉にしてしまった。だけど私の胸に込み上げてきたものは、悔恨ではなく突き抜けるような解放感だった。胸の奥は爽やかな風が通り抜け、しかし顔は異常に熱い。私の答えにニンマリとした笑顔を浮かべたアルゴは、途端にパチパチと手を鳴らし始める。

 

 アルゴ「いや~、おめでとーだナ、ミーちゃん!」

 

 ミト「や、やめてよ…」

 

 アルゴ「因みにミーちゃんの好きな人って…いや、それは愚問だったカ。言葉にしない方が良いことだってあるからナ…」

 

 ミト「…」

 

 アルゴの言う通りだ。言わなきゃいい事だって、この世の中にはたくさんある。私が胸に抱く君への気持ちも、またその一つなのだろう。

 だけど、私だって最初はそんなつもりなかった。ただ、凄く気の合う友達を見つけられたんだって、そんな風に思ってた。出会ったばかりの頃は、彼を明日奈に重ねて見ていた。だから、彼に向けられたこの名前の付け難い感情は、親愛や友愛であるのだろうと、信じて疑わなかった。

 いや実際、最初の内はそうだった。彼に愛する人が居ると知っても、傷付くどころか寧ろ喜びさえ覚えた。私は彼に友情を見たし、彼は私に友情を覚えてくれたはずだ。

 

 なのに…なのに…私の心がおかしくなってしまった…或いは成長してしまったのは、一体いつからだったろう。多分、彼に会えなくなって以来だ。初めて出来た親友との仲直りのチャンスを生み出してくれた、そして親友の面影を幻視した。その時既に私の心の中では、彼は明日奈同等に気の許せる人だと、ただの友人ではなく親友であるだと、そう深く刻まれていた。

 その当時、裏切ってしまった明日奈以外に、友と呼べる人が居なかった私にとって、気の置けない友と言う存在は、それだけ私の心を大きく安心させてくれていたのだ。

 だけど、彼は忽然と姿を消した。私の前から居なくなってしまった。…もう二度と、友達を失いたくはなかった。だから私は、半年以上の時を費やそうとも、諦めることなく彼を探し続けたのだ。

 それは言わば、強烈な執着心だ。彼と仲良くしていたいという並ならぬ欲求が、私にそうさせた。でも、彼はいつまで経っても見つけられない。そうこうしている間にも、胸の奥ではどんどん彼への気持ちが募っていく。

 

 そしてそれは、知らず知らずのうちに変化を迎えていた。私の中での彼は、自分の心を隠さないで居られる無二の友人であるはずだった。そんな君に執着心を抱いているはずだった。

 だけども、根本的な話をすれば、私は年頃の女の子で、彼は異性だった。どうしようもない話だけど、それがいけなかったのだろう。簡単に言ってしまえば、思春期の女の子が異性に執着してしまうのは、恋心故であることが多い。

 そして私の記憶に残る彼の姿は、どれもこれも魅力的であり、実際、私が彼を恋愛感情抜きでも魅力的な人だと思っていたのは事実でもある。すると頭の中では、勝手な置き換えが始まるわけだ。私が彼にこうも執着してしまうのは、彼を好いているからだ、と…。

 せめて私がまともな恋愛経験を積んでいれば、自分の気持ちが友愛から恋愛へと変化し始めていることに気が付き、それを抑制出来ていたかもしれない。でもまぁ、私は積極的に友達も作らないような人間だ。恋人など作る訳もなかったし、そんな欲求は、てゲームへのエネルギーへと変換してしまっていた。だから気が付けなかったのも仕方ないだろう。

 

 そうして私が、銃の世界で彼と再会したその頃には、もう気持ちに変化が生じていたのかもしれない。それに気が付かされたのは、昨年度のホワイトデーの日である。彼がわざわざお返しにくれたものが、当然だが単なる焼き菓子であったことに、私は心の何処かで仄かな悲しみを覚えていたのだ。

 最初は、自分の気持ちをよく理解出来なかった。だけども、ゲームの中で彼と遊んだりしているうちに、徐々に徐々に、彼に向けてしまっているこの心が、私が今までに体験したことのないような疼きを孕んだものである事を意識させられた。

 

 ──これが恋なんだ。

 

 ある日、私は否応なしに気が付いてしまった。それを知ってしまえば、それからは早かった。徐々に徐々に、だが急激な速度で恋心が膨らんでいく毎日。

 だけどこの気持ちは許されない。必死になって打ち消そうとした。でも出来なかった。夏休みのある日、私はあの日の感謝を伝えることで、私にとって彼は友でしかないのだと、己の心に教え込もうとした。でもダメだった。

 つい最近、初めてアルファから電話が掛かって来た。そこで切り出された話題は、彼女のことだったけれど、彼と電話出来ただけで、私はその胸を弾ませていた。例え、電話相手に選んだ理由が、特別な理由ではないのだとしても、恐らくただの消去法であったとしても、私は馬鹿みたいに喜んでいた。

 そうして、春先に芽生えたこの気持ちは、花紅葉の頃には、無視できないものにまで完成されてしまった。

 

 ミト「…でも、アルゴだって私と同じ気持ちなんじゃないの…?」

 

 実際のところ、これは私の言葉の通りであるはずだ。アルゴだって、私と同じ人を…いや、だが彼女は、キリトにも似たようなことをしている。つまりは、アルゴにとっては二人は遊びみたいなものなのだろうか…?

 

 アルゴ「…どうだろうナ?その情報は一千万コルぐらい払ってもらわないと──おっと、こっちじゃ情報屋廃業したんだった……ミーちゃんは友達だし、特別に教えてあげるヨ」

 

 恐らく、鼠のアルゴ時代の癖なのだろう。人差し指を一本立てて旧SAOの通貨を要求した彼女は、しかし思い出したように訂正を入れると、遂にそれを答えた。

 

 アルゴ「オレっちにとってアー坊とキー坊は……友達以上恋人未満ってやつだナ」

 

 ミト「恋人未満…」

 

 そんな言い方をすると言うことは、彼女もやはり、彼とキリトに想うところがあるのだろう…え?ふ、二人…?それって、二股なんじゃ…いや、別に恋してるわけじゃないらしいし、セーフなのかな…?

 

 アルゴ「ま、オレっちのことなんてどうでもいいんダ。ミーちゃんは本気なのカ?」

 

 ミト「…分からない…私、初めてだから…」

 

 アルゴ「…面倒な恋しちゃったんだナァ…まぁ、普通なら略奪愛したらいいんだろうケド…あそこのカップル、どうやっても無理に見えるダロ?」

 

 まぁ、それは認めざるを得ない。私の初恋は実ることはなく枯れてしまうことは、彼と彼女を見ていれば良く解ることだ。

 言わば私は、絶対に勝てないゲームに魅力的な報酬をチラつかされている。そんな状態だ。現実には必勝法など存在しない。だが一方で、必ずしも上手く行かないわけではない。

 だけど今回に関しては、本当にどうにもならないだろう。彼女の座を奪い取ることなんて、天地がひっくり返りでもしない限り不可能だ。どう足掻いても負けてしまうゲームになど、誰が挑もうと言うのか。私はそれに挑もうとしてしまっているのだろうか。

 

 ミト「…そう、ね…」

 

 アルゴ「だからミーちゃんは、傷付きたくないなら、どっかで妥協点を見つけなきゃだヨ。そうやって曖昧な気持ちにしているうちに、他の人を見つけるんダ」

 

 ミト「…妥協…かぁ…」

 

 やっと気が付けた。私とアルゴは似ているけれど、一つだけ違うところに。

 確かにアルゴは、私と同じように彼に好意を抱いている。だけども彼女は、それに折り合いをつけているのだ。私のように、無理だと解っていても無謀な挑戦を仕掛けようとしていない。実に理性的な判断だ。

 如何に最終的な決着をつけずに、その中間で立ち止まり続けるか。負けるために闘うぐらいであれば、いっそ闘うことを放棄した方が楽だ。これから私はどうしていくのか、結局それに答えを出せないまま、私は空になったコップを仰いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気が付くと、私はそこに居た。ここは何処だろうかと辺りを見回してみるも、周りの風景を上手く認識できない。私に唯一分かったことは、ここが空間であるという曖昧な情報ぐらいだった。私は目的もなく、ある方角へと足を進めていた。

 遠くで、誰かの声が聞こえた。それは、聞いているこちらが心を痛めてしまうような、そんな音色だった。私はそのすすり泣きに導かれるように、そちらへと身体を振り返らせる。

 するとそこには、両膝に顔を埋めて泣き続ける、彼が居たのだ。…おかしい。いつもなら彼の傍に居る彼女が、今日は何処を探しても見当たらない。彼が涙を流しているのならば、それに寄り添うのは彼女の役割ではないか。

 だけども、いくら待てども彼の傍に彼女が現れることはなかった。その空間には、私と彼以外の人が誰一人として居なかったのだ。

 …まさか。そんなわけがない。有り得ない…。ふと思いついた可能性を、私は何度も否定を繰り返し続けたけれど…結局私は、ふらふらと、泣きじゃくる彼の傍に寄り添ってしまった。

 

 「…どうしたの?何かあったの?」

 

 そして私は、優しく優しく、彼に言葉を掛けてみるのだ。すると彼は、嗚咽につっかえながらも話してくれる。

 

 「…木綿季にっ…振られたんっ、だぁ…俺がっ、俺がぁ…嘘なんかつくからぁ…見限られてぇ…」

 

 その瞬間。私は全てを理解した。現実には、こんなことは有り得ない。だって、二人は決して引き裂かれることなんてない。もし何かの拍子でプツンと切れてしまっても、すぐに引き寄せ合えるような、そんな固い結びで繋がっているのだから。

 これは、私の生きる現実とはまた別物なのだろう。だけど──それでいい。それで充分。私はそっと、彼の背中に手を押し当て、ゆっくりとさすり始めた。

 

 「そっか…辛かったんだね…頑張ったね…」

 

 私はよく勉強する。それは学校のことだけじゃない。ゲームだって、恋愛だって、たくさん勉強しているのだ。こういう場面でやっちゃいけないことは、すぐにアプローチを仕掛けたり、彼女を悪く言ったりすることだ。いま私がしてあげるべきことは、彼を癒してあげること…。

 

 「…うん…心が凄く痛いよぉ…」

 

 「大丈夫よ…私が、ちゃんと聞いてあげるから…傍で慰めてあげるから…」

 

 それは打算的な思いやりだ。だけども心から優しさであることには変わらない。涙を流し続ける彼を、私はぎゅーっと抱き寄せてあげた。

 すると彼は、一層涙で顔を濡らしながら、私の胸に顔を埋め続けた。彼にはこんなに触れたことなんてないはずなのに、この温もりは本物だと思えた。

 

 「なぁ、ミト…ずっと俺の傍に居てくれ…俺はミトが居ないとダメなんだ…」

 

 「…うん。私は、ずっとアルファの傍に居てあげるわ」

 

 時が早送りのように進んでいき、いつの間にか、彼は私の虜になってくれていた。私はそう言われて、胸いっぱいの甘みを感じ取れた。彼と初めて手を繋いで、ハグしてキスして…それら全ては、彼女の二番煎じだ。でもそれで構わない。私が彼にとっての、最後の人になればいいだけだから。

 

 「…木綿季より、ミトのが凄い…良い…」

 

 「ふふっ、そう言ってくれると、私も嬉しいかな…」

 

 「でも…本当にそう思ってるんだったら、私のこと、名前で呼んでよ」

 

 「…え?ミトはミトだろ?」

 

 「そうじゃないでしょ?…歩夢」

 

 「…深澄」

 

 お互いに本名で呼び合う。それは特別な関係を意味しているだろう。私は初めて呼ぶ君の名前に恥ずかしさを覚えていると、彼は微笑みながら私の名前を呼んでくれた。

 そして私は、彼の身体に抱き着くと、耳元で囁くのだ。

 

 「ねぇ歩夢…私は、歩夢のこと大好きよ。愛してる。…歩夢は…?」

 

 それが聞きたい。その言葉が一番欲しい。彼に瞳を合わせた私は、普段は覆い隠しているその熱い視線を送り続けるのだ。そんな私を見て少し吹き出した彼は、口ミトを綻ばせると、極々当たり前のようにその口を動かしてくれる。

 

 「勿論俺だって、深澄のこと愛して──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幸せな、夢を見ていた。

 

 凄く凄く、心が温かい気持ちに満たされる夢だった。だからその分、現実世界に引き戻されたその瞬間、この胸に吹き抜ける寂しさが、幸せの余韻を塗り潰してしまう程に、一瞬にしてこの現状を直視させてくれる。

 寝具の上で、薄明るい部屋の天井を眺める。夢の中でも、それが夢の世界だとは分かっていたはずだ。なのに心はどうして、こんなにも苦しいのだろうか。このまま居続ければ息をすることさえ辛くなってしまう気がして、私はゆっくりと身体を起き上がらせた。

 …アルファにああ言ってもらえれば、私はどれだけ嬉しいだろうか。だけど実際には、絶対に愛の言葉をくれることはないことは、もう分かっている。夢の中でさえ、ハッキリと愛の囁きを聞き取れないことも、きっと、現実世界の私とアルファの関係を表しているに違いない。

 でも、これでいい。これで充分だから。もし私が恋慕に身を任せて君に思いの丈を伝えてしまえば、間違いなく君はそれを受け入れてくれないだろう。そして心を傷付けるだろう。だから言えない。言わない。私は、アルファを傷付けたくなんかない。だって私は…私は──

 

 ──アルファの幸せを壊したくないから…。

 

 それが…私の気持ちだ。微睡に見た幸福に、この気持ちを預けて、私は二人を見守っていくのだろうか。それがベターな終止符の打ち方ではないだろうか。結局、やっぱりそれに答えを出せないまま、私はまた彼からの連絡を待ち望み続けるのだろう──。

 

 ──ピコン。

 

 君の呼び声が、聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 




 アルファとユウキの関係が破綻するという有り得ない世界線では、ミト或いはアルゴがヒロインレースに乗ってくるのでは…という筆者のちょっと良くない妄想でした~。
 因みに言っておきますと、本編のミトは完全に友達ルートでございます。勿論アルゴも友達です。ヒロインはユウキ一本に決まってるよなぁ!?

 それでは、また次のページでお会いしましょう!
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