十二月中旬も終わりを迎え、帰還者学校生の冬休みも秒読みで迫っていたその日、俺は普段と変わらず、仮想世界にある俺達のお家にて、夜をゆっくりと過ごしていた。
ソファに腰を深く下ろして、何も考えることなく、魔法属性を持った薪が青く揺らめく暖炉を眺める。それに合わせて、チュロスを口に運ぶ。
ユウキ「アルファ、死んだ魚の目してるけど大丈夫?」
アルファ「ん、まぁ、ボーっとしてたい気分」
当然俺の隣には、同じくソファに座るユウキが、全く同じようにチュロスを食べ進めているわけだ。彼女は俺を見つめてそんな心配をしてくるも、俺とて頭空っぽにして呆けていたい時はある。視線を動かすことなくそう答えておいた。しかし、チュロスを食べるべく口だけは動かしてしまうのは、ユウキの作るお菓子が絶品過ぎるため他ならない。
ユウキ「そんなに成績発表が不安なの?」
アルファ「んなわけ。ユウキのお陰でもう勉強が無理な時代は終わったんだ。…そういうユウキこそどうなんだ?」
ユウキ「オール5以外に有り得ないんじゃない?」
アルファ「そりゃ相当自信がおありなようで」
ユウキにとっては、高校生活初めての成績通知表授与。だというのに一ミリも不安を抱いていないのは、彼女自身も己の頭の良さを把握しているからなのだろう。
帰還者学校はもうすぐ冬休み期間に突入するわけだが、冬休みにユウキとやりたいことは、既にしっかりと計画してある。あとはその話をいつ切り出すかという問題ぐらいしか残っていない。いや、別に今すぐ切り出しても良いんだろうけど、出来るだけ直前ギリギリまで貯めて、サプライズ形式に…でもユウキにだって都合があるだろうし、それにも合わせられるよう…と突然の話だが、俺も数日前から四苦八苦して色々考慮しているのであった。
今も俺はそんな葛藤に板挟みになってるわけだが、彼女にとってはお構いなしだった。
ユウキ「そう言えばアルファ、そろそろ新しいOSS作らないの?」
何気なくユウキが放ったその一言に、俺はうぐっと言葉を詰まらせてしまう。その俺の様子に気が付いて、彼女は弄ぶように笑い掛けてくる。
ユウキ「なに~、嫌になっちゃった?」
アルファ「…だってさ、滅茶苦茶しんどいだろ、OSSの開発。やりたくなくなるのも当然だと思うけど」
と俺が心底嫌そうな顔で言葉を返してやると、ユウキは「え~」とこちらもまた甚だ残念そうな声を送ってくれる。
まぁ、ユウキやキリト程に仮想世界に愛されている人間なら、OSSを作り出すのもそんなに苦労はしないのだろうが…元攻略組とは言え単なるプレイヤーの一人、ずば抜けた反応速度を持つ者ではない俺からしてみると、OSSの開発というものは、まさしく苦行そのものであるのだ。
まず、完成された技を考案するだけでも一苦労するというのに、それから更に気の遠くなるような反復練習…あぁ、考えるだけで吐き気がする。胃がキュッと締まっていく気がする。それ故に俺は、去年に一つOSSを仕上げて以来、なんだかんだ一つも技を開発していないでいた。
毎日のように新生アインクラッドの攻略に繰り出していた以前とは違って、今の俺達はもうエンジョイ勢ぐらいの立ち位置だし、新たにOSSを創り出す必要もないと思っているのだ。その分細工スキルの熟練度上げに勤しんでいるし、最近はリアルで遊ぶことも多いので、時間もないわけで…。
とぐちぐち心の中で文句を言っていると、ユウキは甘え倒すように俺にもたれ掛かり、その手を俺の胸に添えて──。
ユウキ「ボクは頑張るアルファが好きなんだけどなぁ~。見てると胸がキュンキュンするからね」
アルファ「…じゃ、じゃあ、ちょっとぐらいやってみるか…」
愛する君にそう言われてしまっては、何かOSSを考えないわけにはいかなくなる。言い訳に言い訳を重ねた挙句、結局OSSを開発することに決めてしまった俺は、一応前々からモヤモヤと頭の中に思い描いていた剣技を登録することにする。これからは忙しくなりそうだ。俺がそう答えてやると、ユウキは笑顔を向けてくる。
ユウキ「アルファは単純だね」
アルファ「単純な方が良いだろ?」
ユウキ「うん、手玉に取りやすいから」
アルファ「あんまり怖い言い方すんな」
まぁ、ユウキのこととなると、俺がイージーな人間になってしまうのは自覚している。がしかし、ユウキの手のひらで踊らされているとは思いたくない。
彼女自身は本気でそう思っているのか、揶揄う様子もなくケロッとそう言ってくるので、俺としても無意識のうちにコントロールされているのかと、若干ゾッとしてしまう。
アルファ「因みにだけどさ、ユウキはOSS作らないのか?」
こんな恐ろしい話はごめんだと、俺が話題を転換すると、彼女は言った。
ユウキ「ん~、一応十二連撃ぐらいまでは思い付いてるんだけどね、汎用性に欠けるから、要らないかなって」
アルファ「いや、十二連撃とか汎用性云々以前に最強だろ…」
この子はアホなのだろうか。十二連撃という超必殺技をアッサリと切り捨てるユウキに、俺はしっかりとツッコみを入れざるを得ない。だって、未だALOの世界には、十一連撃を超えるOSSは開発されていないのだ。やはりユウキは仮想世界の申し子なのだろう。
これは余談だが、時折ユウキの元にマザーズ・ロザリオの伝授をお願いしにやって来るプレイヤーもいるが、彼女は全く相手にしていない。あの超対策を誰かに伝授するつもりはないのだろう。
ユウキ「そんなことないよ。マザーズ・ロザリオの十一連撃目の形を変えるだけだから。だから対マザーズ・ロザリオにしかならないんだ」
アルファ「それ俺に伝授してくれよ」
なるほど、確かにそれならば、わざわざ開発する必要もないとも言える。そもそもマザーズ・ロザリオ自体が、技として完璧な存在なのだ。それをどう対策するのかは想像も出来ないが、まぁ俺に思い付く程度のことであれば…最後の突き技を斬り払うとかだろうか。
と簡単に言って見たけれど、あの超速の突き技を払い除けるなど、それこそユウキ程のVR適性がなければ不可能だろう。ユウキとデュエルする毎にマザーズ・ロザリオの発動を恐れている俺は、是非ともそれを頂きたかったのだが、勿論返事は芳しくない。
ユウキ「ダメに決まってるでしょ。自分で対策してよね。まぁ…アルファになら、マザーズ・ロザリオ伝授してあげなくもないんだけどね」
アルファ「そんで十二連撃でボコボコにすると」
ユウキ「そう言うこと~」
そこまで会話を交わして、お互いにアハハ!と破顔したところで、しかしユウキがハッと笑顔を消し去ると、グイと俺に顔を近づけた。
ユウキ「って、そんなどうでもいい話してる場合じゃないよ!」
アルファ「どうしたんだ?」
二人で笑顔になれちゃうお話が取るに足らないものであるとするのならば、今からユウキが告げる内容は一大事なのだろう。俺も笑顔を収めて尋ね返すと、彼女はこう言ったのだ。
ユウキ「今年のクリスマス、どうする?」
うん、それは確かに凄く大切な話だ。もう数日後にはその日が迫っているというのに、クリスマス以降の予定で頭の中がいっぱいだった俺は、完全に今の今までその日のことを頭の中で放置したままであった。
つまりは今の所全くのノープラン。取り敢えず俺は、一つ訊ねてみる。
アルファ「ん~…ユウキはどうしたい?」
するとユウキは、恐らくクリスマスの日の過ごし方を、今日までに沢山考えてくれていたのだろう。自分の計画を伝えられるのが嬉しいのか、パッと笑顔を輝かせて話し始める。
ユウキ「えっとね!やっぱり折角だし、今年はリアルで過ごしたいな。イルミネーション見に行って、そのままアルファのお家行って、そこでクリスマスパーティーしてそのままお泊りして──」
アルファ「お、お泊り?」
ユウキの口から放たれるクリスマスデートの予定を聞きながら、俺もうんうんと深く頷き返す。光り輝く聖夜の街を歩き、俺の家でクリスマスっぽい食べ物を食べて、そしてユウキが俺の部屋で寝泊まりする…所までを妄想した。
だけども、どう考えても最後はおかしい。なんで俺の家でユウキが寝てるんだ。ユウキが当たり前のように話していく中で、些細な違和感に気が付いた俺は、そのキーワードを繰り返したのだ。
対するユウキは、やっぱりさも当然のように言ってくれる。
ユウキ「うん、だって、次の日はお休みじゃん。それに、この前はアルファがお泊りに来てくれたでしょ?だからそのお返し」
アルファ「あれはお泊りだったのか」
ユウキの言う通り、二十四日の翌日は土曜日である。ならば彼女が俺の部屋で眠りにつこうとも、明日の学校どうするんだという問題にはならないわけだ。
そして彼女はお泊りをお返しだと言ってくれるが、指しているのは恐らく、ユウキが体調を崩したあの日の出来事であろう。俺が看病に行ったその翌日、ユウキは見事健康を取り戻してくれた。
ホッとしたのも束の間、彼女が「映画行こ!」とか言い出すものだから、慌てた俺が今日は「安静にしよう」と言ったのはよく覚えている。その日はお家でイチャイチャしまくってた。映画に関しては、今度は二人共万全を期して、その翌週の週末に繰り出した。
ユウキ「ボク的には、そのまま一緒に住んでくれて良かったんだけどね」
あの日は楽しかったなぁと思い出を振り返っていると、なんだかユウキからボソッと聞こえてきた気がした。でも彼女が零した一言には、まだ返事はしないでおく。…まぁ、それは…せめて大学生になってからとかじゃないだろうか…。
アルファ「そんじゃユウキのプランで行こうぜ」
ユウキ「ん、りょーかいだよ」
そうなるとまずは二人で、当日にどこのイルミネーションを見に行くか決定する必要があるだろう。
それに、ユウキが俺のマンションに泊まりに来るとなると、部屋はちゃんと掃除しないといけないし、季節は冬だからちゃんとした寝具が二人分ないとまた風邪ひくかもしれないし、他にも歯ブラシやバスタオルだって準備しておかないといけない。
頭の中で家に無いものをピックアップしていく。それらは明日中に買い揃えようと決めてから、ウインドウを操作して時刻を確認した俺は、隣に顔を向けて言った。
アルファ「そろそろおやすみの時間みたいだ」
ユウキ「もうそんな時間かぁ…」
時刻も十一時過ぎ。明日も学校で朝早く起きねばならない学生身分の俺達は、ここらで眠りにつくのが健康的であろう。俺がそう伝えてやると、ユウキは名残惜しそうな表情で呟いていた。
また明日になったら会えるだろ?と、一度頭を撫でてあげて…俺が撫でたくなった…から、俺は立ち上がりログアウトボタンを押そうと──。
ユウキ「……」
俺がボタンをタップする寸前だった。もうあと数ミリで画面に触れられていた俺の人差し指が、僅かばかり後ろに引っ張られる。ユウキが俺の服の裾を掴み、それをクイと引き寄せたのだ。
ユウキはあくまでも何も言葉を発しないが、それは俺達にとっての合図である。俺がそれを了承したようにユウキの方を振り返って、しかしまたウインドウを見てログアウトボタンを押そうと右手を動かすと、彼女はまた裾を引っ張ってそれを引き留めてくるのだ。
そしてもう一度ユウキに視線を合わせると、彼女はぷくりと膨れた。
ユウキ「…いじわる…」
アルファ「ごめんごめん、あんまり可愛いから、ちょっとな?」
ユウキ「今からは…ボクのこと、もっといっぱい愛でてね?」
ユウキの色気たっぷりの言葉に、俺は笑顔で言葉を返した。
アルファ「言われなくとも」
ウインドウを畳んだ俺は、そのままユウキと手を絡め合って、二階の寝室へ向かって行った。
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十二月二十四日。クリスマスイブな今日この日、ボクは相当浮かれていた。これは認めざるを得ない。学校の授業が上の空になっちゃうぐらいに、ボクの心はここにあらずであった。
そんなボクは今、弾む足取りで彼と下校中だ。アルファもこれからが楽しみなのか、いつもよりも声のトーンが高い気がする。今日も授業が七限目まであったんだけど、ボク達の目的はイルミネーションだから、今日は寧ろ、時間的には七限目まである方が良かったとも言えるかもしれないね。
いつも通りの通学路を並んで歩いて、駅に入って電車に乗り込む。でもそのままデートに出掛けるわけではなく、一度二人でボクのお家に戻ってきた。手短に洗濯物を取り込んで、昨日の夜のうちに纏めておいた一日分のお泊りセットを携え、もう一度家の外に出てくる。
するとアルファは、不思議そうな表情でボクに言ってきた。
歩夢「木綿季…制服で行くのか?」
木綿季「うん、制服デートは今しか出来ないからね」
歩夢「なるほどな」
アルファの問い掛けにボクが即答すると、彼も納得したように笑っていた。ボク達が制服を着ていられるのも、あと一年と少しの期間しか残されていない。これからもアルファとは色んな所に行くつもりだけど、制服で何処かに行けるのは、その長い時間の中でもほんの少しの間だけに限られている。だからこそボクは、学生であるうちに制服デートをたーんと楽しんでおきたいのだ。
だけども、制服の上に羽織る防寒具だけは、今は変更させてもらっていた。一応学校指定の茶色一色なコートはあるんだけど、あれはちょっとダサいのだ。うん、ボクもそろそろオシャレとかダサいとかそう言うのは分かるようになってきている。
そしてオシャレとは我慢だ。ボクが羽織っているのはフード付きのパーカーで、冬の夜にはちょっぴり肌寒い気もするけど、これがボクに似合う服装だし、アルファの好きなファッションだってことも分かってるからね。それを誤魔化すように赤チェックのマフラーを巻いて、これで準備完了ってことだ。
再び駅に舞い戻って、電車に揺られて目的地に向かう…前に、もう一つ立ち寄る必要のある場所がある。それは勿論、今晩お世話になるアルファのお家だ。とは言ってもお邪魔することはなく、お泊りセットを玄関に置かせてもらってから、アルファも同じように学校指定のコートを脱ぎ去り、少し薄めな緑色の羽織を身に纏って、再三に渡り駅へと歩みを進めていく。
木綿季「歩夢って、緑色好きだよね」
歩夢「別に昔は好きって訳じゃなかったんだけどな。いつの間にかトレードマークみたいになってた」
燃える輝きが沈み暗い闇が世界を包む中、からっ風に吹かれて揺れる深碧は、目立つことはなくとも艶のある美しさを誇っていた。街々の白い光に照らされて、より一層魅力的な色を生み出している。
そんなアルファの羽織を眺めていると、ボクは計らずとも、仮想世界のアルファの姿を想起してしまうのだ。
そしてふと思ったことを言葉にすると、彼からは意外な返事が返ってきた。だけどよくよく思い返してみれば、アルファは確か、青色が好きだったはずだ。ゴンドラ造りの時にそう言っていた。
緑色が一番好きじゃないのにそれをトレードマークにしてるなんて、もしかしたらキリトも実は黒以外の色が好き…ううん、それはないや。キリトは絶対に元から黒色大好き人間だよ…。
木綿季「キリトって、実は白色が好きとかない?」
歩夢「絶対ない。アイツは根っからの黒色好きだ」
木綿季「だよねー」
一応念のため、万が一の可能性を考えてアルファに訊ねてみたけれど、彼もこれでもかと言うほどの勢いで断言してくれた。二人で深い共感を伝え合いながら、ボクらは今度こそ目的地に向かうべく、電車に乗り込んだ。そんなボク達は…。
キリト「ハックシュッ!!」
アスナ「キリト君、風邪ひいたの~?」
キリト「…いや、なんでかな…急に鼻がムズムズしたんだ…」
ボクらと同じようにクリスマスデートを楽しんでいる二人が、そんなやり取りを交わしていたなんてことを知る由は、無論なかった。
電車で移動すること三十分足らず。とある駅に辿り着いたボク達は、目的地に向けて歩みを進めていく。
その道中では、行き交う人々の喧騒は雰囲気をぶち壊しにするほどにうるさくて、街々の目に痛い人工照明、車の夜間ライトなんかがお日様の代わりに街をくっきりと照らし出していた。とてもじゃないけど、これから綺麗なイルミネーションを見れるようには思えなかった。
だけども、次第にそちらへ近づくにつれて、そのムードは大きく変わっていく。街明かりは段々と夜空に消え入り、周囲の人々も少しばかり口を閉ざし始める。いつの間にか辺りの建物も暗がりに包まれて、ボクらの進む道は真っ暗になっちゃった。
だけども前方から、深い蒼色が届いてくる。その淡い輝きを発するのは、通路の両脇に並び立つ木々であった。
青、青、青。どこをどう振り返っても、気が付くと世界中が厚いブルーの煌めきに包まれていた。その一つ一つの光は朧気なのに、全てが一つに集約すると、どこまでも深い色合いへと変化しているのだ。
ライトを身に纏った木々は青いサンゴ礁、ボクらの歩くこの道は、月光に照らし出された薄暗い水底であった。
木綿季「…綺麗だね…」
歩夢「あぁ…想像以上にすげぇ…」
まさに圧巻。地上を歩いていたはずなのに、いつの間にか幻想的な海の世界へと誘われていたボクらは、その圧倒的な美しさを前にして、猛烈に感動していた。それはここまでやって来た他の人達も同じなのか、皆一様に嘆息を漏らしている。
木綿季「まさかリアルでも、こんなに凄いところがあるなんてね、ボク想像もしなかったよ」
歩夢「水面歩いてるみたいで感動するよな~、こんなん仮想世界以外に体験できると思わなかった」
彼の言う通り、ここは水中であると同時に水面でもあった。通路は上手く青い光を反射していて、そこでは湖みたいにあべこべな世界が映し出されている。そしてボクらはその上を歩くものだから、本当に水の上を歩いているみたいな感覚に陥るのだ。
電車を降りて以来、ボクとアルファは手を繋いでいなかったけど、こんなに美しい光景を見せられては、自然と手と手が惹かれ合っていた。暫く青の世界を真っすぐ歩いていくと、やがて終わりが見えてくる。
どこもかしこも青ばかりの世界に居たせいか、その先に見えた、赤、緑、黄色、紫の色鮮やかな輝きに包まれたごく普通のイルミネーションが、一層特別なものに思えた。
ボクらはお互いに言葉を失ったまま、ゆっくりと歩みを進める。そして大きなツリーの前で立ち止まると、そこには居心地の良い静寂が訪れた。こうして大きなツリーを眺めていると、なんだか感慨深い気持ちに陥ってしまう。暫くその場で佇んでいたボクは、ゆっくりと彼に語り掛けた。
木綿季「…ボクね、こうやって歩夢とクリスマスデートするの、ずっと思い描いてたんだ…ちょっと前までは本当に来れるなんて思ってなかったけど…夢が叶って、凄く嬉しいよ…」
目を見てこの気持ちを言葉にするのは、やっぱり恥ずかしかったから、ボクはツリーの輝きに目を奪われているフリをして、口を動かしたのだ。
でもこれは、曲がりのない本心だ。アルファの誕生日をもう一回お祝いすることだって、ホントはクリスマスデートに行ってみたかったこと、同じ学校で一緒に過ごしたりすることも、全部全部、ボクは何度も何度も、病院の中で想像し続けていたんだ。それが形になるとは、正直思ってもみなかったけどね。
ボクの言葉に耳を傾けていた君は、すぐには言葉を返してくれなかった。ボクの気持ちを噛み締めるように和やかな表情を浮かべた後、ボクと同じようにツリーの天辺を眺めて、その口を開いた。
歩夢「俺は…どうだろうな。情けない話だけど、そんなの無理なんだろうなって、心の何処かでは思ってて…思い描きまではしなかったのかもしれないけど…うん、胸の中で、大事に大事にこんな未来を夢見てた。だからさ、俺もすっごい嬉しい」
そんな彼の言葉を受けて、今度は隣で立ってくれているアルファの方へ視線を移す。するとアルファも、ボクに視線を合わせ、ニコリと笑みを浮かべた。
木綿季「ボクらは同じ気持ちなんだね」
歩夢「あぁ、以心伝心ってやつだ」
お互いにとって、悲願で念願であったクリスマスデートを終えたボク達は、いつも以上に距離を縮めながら駅へと戻っていった。電車に乗って途中下車して、徒歩数分でアルファのお家に戻ってくる。
アルファの家の玄関まで来たところで、ボクは今更ながらに僅かな緊張感を抱かされたんだ。なんだかんだ言って、ボクはそんなにアルファのお家を訪れたことがない。基本はアルファがボクのお家に来てくれるから、こちらに立ち寄る機会が少ないのだ。
アルファが初めてボクの家にやって来た時は、こんな風に緊張してたのかな?と心のどこかで思いながら、彼に続いてお家に踏み入る。手を洗ったりしてからリビングに移動して、絨毯の上に座ることにする。遅れてこちらにやってきたアルファは、ボクの間近に座り込んだ。
歩夢「今から宅配頼むんだけどさ、なに食べる?」
木綿季「やっぱりチキンなんじゃない?」
歩夢「まぁそうだよな。あとはピザとか?」
木綿季「うんうん、良いね~」
そしてアルファが今日の晩御飯のリクエストを聞いてくれるので、ド定番のメニューを二人で言い合っていく。流石に今からだと七面鳥を焼く気にはなれないからさ。…どうしよっかな。来年のクリスマスは、ボクのお家で豪華なディナーって言うのも良いよね…と気が早いことに来年のことを妄想していたボクに、アルファがもう一つ訊ねてくる。
歩夢「クリスマスケーキは…あっ、カトリック教徒は食べないんだっけ?」
木綿季「アハハ~!!ミサには行かない。婚前交渉はしちゃう。こんな人はもうカトリック教徒って呼べないんじゃない?あんまり気にしなくていいよ」
そんなアルファの気遣いに、ボクは大笑いしながら答えてあげたのだ。だってその通りだろう。ボクはもうカトリック教徒とは呼べない程に。背信的な行動を取ってしまっているのだから。
こんなボクを知ったら、ママは怒るだろうか。それとも、子の成長を喜んでくれるだろうか。病気が治って以来、ボクが教会に足を運ぶ理由は、家族のお墓参りの為だけになってしまったし、ボク自身が神様と言う存在を信仰しなくなっているように思える。
恐らくその理由は、隣にいる彼の影響なのだろう。彼はかつてボクに、神様を信じていないと、自分たちこそが未来を切り開く神的存在であると、そう語ってくれた。ってことはもう話したと思うけど、実を言うと、その当時のボクは、アルファの考え方も魅力的だとは思いつつも、大風呂敷を広げているようなものだとしか思っていなかったんだ。
でも、それが現実に起こった。ボクとアルファは確かに、自らの意思で未来を掴み取ったのだ。だからこそボクは、教会で神様に祈りを捧げることがなくなってしまったのだと思う。今のボクは、彼と同様に他でもない自分こそが、自らの運命を司ることが出来ると信じているから。
歩夢「じゃあ先にケーキ屋さんに買いに行くか?」
木綿季「お店閉まっちゃ困るし、そうしよっか」
言わばボクとアルファだけが信じる新しい考え方。新興宗教を立ち上げるつもりなんてないけれど、これはボクらのおまじないみたいなものなんだ。
アルファの家のすぐ近くにあるケーキ屋さんに立ち寄ることにしたボクらは、急いでそちらに向かった。でも、閉店間近で今日がクリスマスイブであるせいなのか、種類はあんまり残ってなかった。ボクがショートケーキ、アルファがガトーショコラを購入して、再びお家に戻ってくる。するとケーキ屋さんに行く前に頼んでいた宅配が次から次へと届けられたので、ボクらはちょっとしたパーティーを開催した。
歩夢「偶にはジャンキーなのも美味いな」
木綿季「偶にだから良いんだろうね」
ボク達は有名外食チェーンの商品でお腹を満たしてから、さっき買ったケーキとその味の感想を共有するのだ。二人きりのパーティーを終えた後は、いよいよ入浴タイムである。
アルファが先に入っていいよと言ってくれたけど、ボクがお先にどうぞと言うと、彼は先にお風呂場に向かって行った。となるとそこから、ボクは一人になっちゃうわけだ。少し離れたシャワールームから、アルファが身体を洗う音が聞こえてくる。特にやることもなかったので、改めて部屋の様子を見渡してみるのだ。
ボクが腰を下ろす場所にはベージュの絨毯が敷かれていて、その後ろには一人掛けのソファが置かれている。キッチンの近くにはさっきまで座ってた食卓が、そして冷蔵庫も当然設置されている。ボクの家にあってアルファの家にない物は、壁掛けの時計やテレビだろうか。
部屋の様子はあんまり散らかっていなくて、でもデコレーションがされているわけでもない。男の子っぽいシンプルな感じだ。そんな無骨なお家だけど、一つ可愛らしいところがあるのだ。
それはこの家の玄関口。靴箱の上に、写真立てが置かれているところだ。そこに映っているのは勿論、笑顔な二人のツーショット写真である。ボクも自分の部屋にはいっぱい写真を貼ってあるけど、アルファも同じようにしてくれているのが、ボクは嬉しかったりする。
あと他にボクの家にない物をピックアップするとすれば…それは部屋の片隅に置かれている物々しいダンベルだろう。ちょっと前にここに来たときには、まだなかったはずだ。
…アルファはこれを使って、毎日身体を鍛えているのかな?少しそれが気になったボクは、徐に立ち上がって、それを持ち上げようとグッと黒い持ち手を掴んでみるも──。
木綿季「重っ…」
腕に圧し掛かるずっしりとした感覚が、ボクの口から純粋な驚きを繰り出させた。ボクの腕力では片手だと厳しい、両手でなんとかと言ったところだろうか。
そうこうしているうちにアルファがお風呂から上がって来てくれたので、代わる代わるボクがお風呂セットを持って脱衣所へ足を運ぶ。制服に皺が付かないようハンガーに掛けながら、ボクは簡単に脱衣所の中で裸になってしまう。下着は勿論お持ち帰りさせてもらうので、持って来ている袋に放り投げておいた。
アルファがボクの生着替えを覗き見して来ないことに、安堵と少し落胆を覚えつつも、やっぱり彼は理性の人であることに安心感を覚えるのだ。
だが対するボクはどうであろうか。わざわざ二番手のお風呂を希望したのは、アルファが入った後のお風呂に入りたかった…訳じゃないよね?恐らく、きっと、たぶん…。
確かにボクは、アルファの匂いが好きだ。それはもう認めざるを得ない事柄だ。だからこのお家にアルファの香りが溢れていることに、冗談半分だけど涎が垂れそうになっているのも認める。
でも流石に、浴槽でアルファの出汁を味わいたいとかそこまで変態にはなっていない…と、ボクは自分を信じてるよ。ボクが生粋の匂いフェチだなんてことは絶対に知られちゃいけないことだ。いっつも気持ち悪いとか言ってる側の人間が、実はもっとド変態でしたとか話にならないからね~。
アルファのお家のシャワールームは、ボクに色々と新しい発見を与えてくれた。具体的に言うなれば、アルファはこんなシャンプー使ってるんだー、という感じである。
身体を綺麗にして浴槽で身体をポカポカにして、お風呂から上がったボクは、パジャマ姿でリビングに戻ってきた。
木綿季「ドライヤーある?」
歩夢「あ、そこ」
脱衣所に見当たらなかったドライヤーについて訊ねると、丁度ボクの後ろに置かれていたので、ボクはそれをリビングのコンセントプラグに挿した。
そしてその場で髪の毛を乾かし始めたんだけど…何がそんなに気になるのかな?アルファはボクがドライヤーで髪を乾かす様子を、延々とガン見してくるのだ。最初は気にしていなかったボクだけど、段々と恥ずかしくなってくる。お風呂で充分に身体を温めていたお陰か、そのせいで顔が赤くなったことは悟られていないはずだ。
木綿季「…なんでずっとボクのこと見てたの?」
ドライヤーを終えてすぐにそれを訊ねてみると、アルファはかなり悩んだ末に答えてくれた。
歩夢「ん~…なんでだろうな…木綿季が無防備に家で過ごしてる様子が…まぁ、新鮮だったから?好きになりそうだった」
木綿季「え?歩夢って元々ボクのこと好きだよね?」
歩夢「そりゃそうだ。重ねて好きになりそうだったってこと」
木綿季「ふーん…ま、いいや。それよりさ、歩夢はサンタさん信じてるかな?」
結局、アルファが出してくれた答えは、分からないでもないけど意味の分からないものだったので、適当に返事をしてから、話題を転換するのだ。すると今度のアルファは即答だった。
歩夢「信じてるに決まってるだろ。サンタさんは居ると思えば居るからな」
木綿季「歩夢はメルヘンチックだね」
歩夢「そうかもな。そういう木綿季は?」
木綿季「勿論居るよ?ここ数年プレゼントを届けてくれるボクだけのサンタさんがさ」
歩夢「じゃあ、サンタさんがプレゼント持って来てやるよ」
と些細な会話を交わした末に、ボクらは気が付けば毎年恒例になっていたプレゼント交換をすることにした。リアルでも贈り合いをするかは、事前にアルファと話し合って決めていたので、どっちかだけ準備していて…みたいな微妙な空気にはならない。
そう言ったアルファがリビングから出て行ったので、ボクもお泊りセットの中から、プレゼントの入った袋を取り出す。そしてこちらに舞い戻って来たアルファも、右手に小さな袋をぶら下げていた。
歩夢「メリークリスマス、木綿季。これが俺からのプレゼントだ」
木綿季「メリークリスマス、歩夢。こっちはボクからっ」
一人掛けソファを背もたれで隣り合わせに身を預けたボクらは、そうしてお互いのプレゼントを交換する。二人同時に、それぞれが受け取った袋をガサゴソと開けていくと、まずはアルファが声をあげた。
歩夢「服…でも、なんで同じのが二着…?」
木綿季「それはボクとのペアルックだよ~!」
歩夢「あぁ、そう言うことか。サンキュー」
ボクの渡したプレゼント袋に入っていたのは、白い生地にロゴが入った単純な部屋着用のTシャツだ。だけどもその数は二枚。アルファが疑問気に訊ねてくるので、ボクもその訳を話してあげた。すると彼は納得したように笑い掛けてくれる。
ボクらはもう何年も一緒にいるけど、なんだかんだでお揃いコーデという道を辿ることはなかったからね。それ故にボクは、このようなプレゼントを贈ったわけである。
そして今度はボクが、アルファから受け取ったプレゼントの中身を確認したんだけど…。
木綿季「…ヘアバンド…ね、ねぇ…歩夢好きすぎない…?」
袋の中に入っていたのは、白に近いベージュのヘアバンドであった。もうお気付きだろう。ボクはこれで、三年連続クリスマスプレゼントにヘアバンドを貰っている。流石にそうなっちゃうと、苦笑いを浮かべてしまったボクだけど…対するアルファもその自覚はあったのだろう。苦笑しながらボクに言った。
歩夢「ごめん…俺、ヘアバンドしてる木綿季がマジで好きなんだ…。だから、良かったら付けて欲しいなって」
木綿季「そ、そんなに好きなの?」
歩夢「うん、滅茶苦茶」
確かに、ボクはリアルじゃヘアバンドは付けていない。と言うかそもそも持ってない。でもアルファにそこまでお願いされちゃうと、ボクは付けないわけにはいかなくなるのだ。
仮想世界と同じ要領で、その場でボクがヘアバンドを装着すると、彼は何かに満たされたような深い息を吐き出していた。アルファがあんまりハッキリと好きアピールしてくるから、ボクも少し照れちゃう。アルファに喜んでもらえて何よりだと思いつつも、ボクは彼に次なる言葉を掛けた。
木綿季「そろそろ良い時間だし、寝る準備しよっか」
歩夢「え」
流すように素早くそう言ったボクは、その場で立ち上がろうとする。その言葉に衝撃を隠せなかったらしいアルファは、大きく硬直した末に…去ろうとするボクの右手を慌てて掴んだ。
掛かった!いまボクの釣竿には、今日一番の大物が食いついている。それを逃がさないよう細心の注意を払いつつも、ボクは振り返って訊ねるのだ。
木綿季「ん~?どうしたの?」
歩夢「…」
分かっている。アルファが何を望んでいるかなんて、ボクは手に取るように分かっているのだ。そしてアルファも、例年の傾向からして当然そうしてもらえると思っていたのだろう。
でも、今年はアルファからお願いしてこなきゃしてあげない~。そんな少しイジワルなボクの魂胆に気が付いたのかもしれない。無言のままぎゅっとボクの手を握っていた彼は、とうとう観念した。
歩夢「…その……してくれないか…?」
自分からおねだりするのが恥ずかしいのだろう。羞恥心に赤くなるアルファを見て、ボクも胸を高鳴らながらニヤニヤ顔を零してしまう。
木綿季「なに~?ちゃんと言ってくれないと、ボク分かんないよ?」
そしてボクは追い打ちをかけるように訊ね返す。すると今日一番の大物は、遂に網の中に入り込んできた。
歩夢「……膝枕…してくれ……」
その極短い一言に、ボクは全身で強烈な痺れを感じ取った。ボクはこの感じが大好きだ。アルファがボクにしおらしくお願いしてくる感じが、凄く胸をドキドキさせてくれるから。遂には視線を俯けてしまったアルファを見て、ゾクゾクとした高揚感に満たされたボクは、お望み通りその場に正座する。それに気が付いたアルファが視線を上向けるものだから、ボクは彼に目を合わせて言った。
木綿季「勿論だよ?おいで?」
そしてボクがトントンと太腿を叩いてみると、アルファはすぅーっとこちらに吸い寄せられた。ぽすんとボクの膝に頭を置いたアルファは、心地良さそうに目を閉じている。ボクはそんなアルファの頭を優しく撫で始めた。
木綿季「ボクの膝枕、そんなに好きなんだ」
歩夢「…あぁ、大好きだ…一年に一回はしてもらえないと、頭おかしくなる…」
木綿季「一年に一回しないとおかしくなる時点で、もう歩夢はダメになっちゃってそうだけどね」
歩夢「それは言わないでくれ…」
木綿季「ボクにぎゅーってされたい?」
歩夢「…うん」
ボクから膝枕をされた途端に、アルファは甘えん坊になっちゃった。こんなアルファは中々見られないので、ボクもついつい楽しんでしまう。
もしかしたらアルファは、膝枕フェチなのかもしれない。ボクがアルファのせいで匂いフェチに覚醒したように、アルファはボクのせいで膝枕大好き人間になってしまった…のかもしれない。それを知るのは本人のみだろう。
暫く膝枕を続けていたボク達だけど、そろそろ足が痺れてきたので、最後にアルファをぎゅっと抱き寄せて、フィニッシュにしてあげる。夢心地のような表情で目を開けたアルファは、暫しの間ポーっと放心していた。ここが仮想世界だったら、間違いなく魅了状態に陥ってるだろうね。それだけは断言出来るよ。
やがて現実世界に戻って来たアルファと共に、ボクはお布団の準備を始める。部屋の隅っこに二つ並んで布団を敷いたボクらは、最後に水分補給なんかを済ませてから、部屋のライトを落として布団に潜り込んだ。
でも、すぐに眠りにつくことは当然ないわけだ。ボクは隣で布団を被るアルファと顔を合わせながら、少しお喋りタイムに突入した。
木綿季「ね、これ新しいお布団でしょ」
歩夢「まぁな」
木綿季「じゃあ歩夢が新しい方で寝なよ」
歩夢「いいって。木綿季が使ってくれ」
どうせアルファはそう言うと思っていた。だからボクは布団ごとアルファに接近して、無理矢理彼のテリトリーに侵入してしまう。
木綿季「ホントはお布団だって一枚で良かったんだよ?ボクとアルファが引っ付いて寝ればいいんだし」
歩夢「にしても、一枚じゃ小さ過ぎるだろ?だから仕方なくな」
木綿季「じゃあ真ん中で一緒に寝よ?」
そうして結局、ボクとアルファは二枚のお布団の中間地点で身体を密着させながら、掛布団を重ねつつ眠りの態勢を整えるのだ。仮想世界ではいつもこうやって寝ているから、安心感は一層増している。
でも、現実世界でこうしちゃうと、一つだけ不便なことがあるのに、ボクはいま気が付いたのだ。
木綿季「…もしかして…したい?」
歩夢「いや、全然気にしなくていい」
木綿季「でも、苦しそうだよ?」
歩夢「まぁ、生理現象だからな。ほっときゃ良いんだ」
木綿季「ホントに?遠慮してるんじゃなくて?」
彼の下半身の違和感に気が付いてしまったボクは、何回も訊ねてあげるんだけど、彼は一向にそれを了承しようとはしなかった。仮想世界は倫理コードでどうにでもなるけど、リアルじゃそうもいかないんだ…と新たな知識をインプットしていると、彼はボクの頭を優しく撫でながら言ってくれた。
歩夢「うん、俺はさ、さっきの膝枕で十分満たされてるんだ。だから、今日はいいかな」
木綿季「奇遇だね。ボクもそのつもりでお泊りに来たんだけど、今はあんまりその気じゃないんだ」
そして知った彼の内心に、ボクは微笑みながら言葉を返す。実はボク自身も、あの膝枕をしてあげる時間で、今日はたくさん愛情を感じ取れていた。アルファが求めてくれるなら応えようと思ってたけど、アルファも良いって言ってるなら、それでいっか。
歩夢「そんなら今日はなしでも良いな」
木綿季「明日の朝は分かんないけどね~」
と眠気が襲ってくるまでは些細な会話を交わし合っていたボクらも、いつの間にか意識を手放していた。今日は性夜だったけど、だからと言って絶対に身体を繋げないといけないわけではない。ボクらに出来る愛情表現は、それだけではないのだから。
ボクとアルファの四度目の聖夜は、そんな感じで終了したのだった。
次回の投稿日は、五月十九日の木曜日となります。
では、また第177話でお会いしましょう!