~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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 いつもの1.5倍ぐらいの文章量になってしまいました。明日が休日だからって、調子に乗りすぎてしまった筆者です。


第18話 会稽人

 アルファとユウキは時間ギリギリに、図書室で待つ大賢者の元へ辿り着いた。賢者にブツブツ小言を言われたりしたが、図書室の本棚の裏に隠された出入り口を使って、生活感あふれる部屋に案内される。

 大賢者はキッチンに向かうと、フライパンを取り出して、肉の塊を焼き始めた。ジュウゥ、と音を立てながら、香ばしい匂いが部屋全体に充満していく。

 やがて、完成したのか、鉄皿に二つ分の、恐らく、形から見てハンバーグを二人の前に持ってきて、賢者がこう言った。

 

 「覚醒術を習得するための試練は、このフリカテルを目の前に、三時間の間、瞑想をした状態で邪念雑念を捨て去り、心の平穏を保つことじゃ」

 

 ユウキ「え?食べちゃダメなの!?」

 

 その言葉に、ユウキが大層残念そうな声を上げる。

 

 「それが試練じゃからな」

 

 正直なところ、アルファもこの目の前にある、肉汁溢れるフリカテルに食らい付きたい気持ちでいっぱいだったが、覚醒術という名のエクストラスキルを天平に掛けた結果、僅差で覚醒術が勝ったので、我慢して試練に励むことにする。

 

 アルファ「じいさん、オーケーだ、俺は試練に挑むぜ」

 

 「よかろう、お嬢ちゃんはどうするんじゃ?」

 

 ユウキ「うー、…ボクも受ける」

 

 ユウキはやや不服そうだったが、覚醒術を選んだようだ。

 

 「では、これより覚醒術の修行を開始する。始め!」

 

 しかし、これから三時間、何を考えていようか。…いや、そもそもあのじいさんは最初は試練って言ってたのに、さっきは修行って言ってたよな。賢者の癖に言葉間違えるとかどうなってんだよ、やっぱりもう年なんじゃ…。

 

 「カアアアァァァ──ッ!!」

 

 アルファはいきなり杖で肩を強めに叩かれた。どうやら同時にユウキも叩かれていたらしく、「イタっ!」と悲鳴を上げている。

 

 「お嬢ちゃんはフリカテルを食べたいという邪念が、小僧には要らぬ問答の雑念があふれ出とったわい!もっとシャンとせんかぁ!」

 

 なるほど、今の考えは平穏ではないらしい。…ってか、ユウキはどんなけハンバーグ食べたいんだよ。そこでアルファは、ハッ、と気が付いた。

 

 アルファ「よし、今度こそいけるぜ」

 

 ユウキ「ボクも今度こそはね」

 

 「よろしい…始め!」

 

 アルファは、ユウキと初めて出会った日のことを思い出していた。あの日の俺は、攻略組の中で起きたキリトの迫害を目の当たりにして、人の持つ善性を見失ってしまっていたのだと、今更ながらに思う。

 だからこそ、誰かに無償でアイテム提供をすることで、他人から純粋な感謝の気持ちを得たかったのだろう。我ながら、余りに偽善的な行為であったことを思い、少し自分を情けなく思う。

 それからはユウキとコンビを組み、攻略組に追いつくために、日々ハードなレベリングをこなしていった。確かに、今日まで忙しい毎日を送ってきたが、ユウキが食事をする時に見せる満面の笑みや茶化し合いは、俺の心を暖かくし、同時に明日を生き抜く活力になっていった気がする。

 レベルが上がるにつれて、ユウキはその才能をどんどんと開花させて行って、この前のフロアボス戦では、それはもう大活躍だった。

 なのでそろそろ、俺とコンビを組む理由も無くなってきただろうし、近い未来、ユウキはギルドに所属したり、あるいはギルドを立ち上げたりして攻略組を引っぱっていく、まさにユウキが目指していた、攻略組の希望として君臨するだろう。

 ならばこそ、ユウキが羽ばたく日までは先日に俺が誓ったように、ユウキを守り抜きたい、例えその果てに、この命が尽きようとも──

 

 「そこまで」

 

 思考に沈んでいたアルファは、一瞬誰の声なのか判断できなかったが、やがて状況を思い出して、ゆっくりと瞼を開けた。

 

 ユウキ「…もう三時間たったの…?」

 

 「今のお主らにとって、一番大切なものはそれなんじゃろう。二時間程度しか経ってらんが、もう十分じゃ。…それに一日に三度も似たような思考を読むのはもうウンザリじゃしな」

 

 大賢者は白い顎髭を杖を持っていない左手で撫でながら続ける。

 

 「さ、図書室に戻るぞ、ワシは語り部としての役割を果たさねばならんからな」

 

賢者と一緒に図書室に引き返すと、賢者は安楽椅子に座って居眠りし始めた。アルファはそれに呆れつつも、スキルリストを確認する。

 しかし、そこには覚醒術というスキルは見当たらず、代わりに<瞑想〉スキルというものが存在していた。約束の覚醒術ではなかったので、賢者を問い詰めたいという気持ちに駆られたが、瞑想スキルもエクストラスキルに違いないはずなので、取り敢えず、スキルを取得してみようと、四つ目のスキルスロットに設定する。

 

 ユウキ「ふぇ!?」

 

 ユウキが奇怪な声をあげながら、虚空を眺めていたので、何事かと声を掛けようとしたが、突如として、瞑想スキルの熟練度上昇が始まったのだ。

 アルファもユウキと同様にステータス画面に釘付けになる。熟練度を表す数字はドンドン上昇していき、熟練度数が500になってようやく静止した。

 

 アルファ「ごひゃ…!」

 

 アルファはあまりの出来事に、呂律が回らなくなった。デスゲームが始まって以来、一か月半ほどの間使い続けていた両手剣スキルでも、つい昨日に150台に乗ったばかりなので、500という数字は規格外である。

 500の数字の横にはスキルツリーが伸びており、そこをタップすると、<覚醒>と書いてあった。アルファはこれが賢者の言っていた覚醒術であることを理解し、気になる効果を確かめるべく覚醒の文字をタップする。

 すると、

 

 『極限まで精神を集中させ、秘められた力を引き出す』

 

 アルファ「ユウキ、これ、なんだと思う?」

 

 ユウキ「ボクもわかんない。おじいちゃんが起きたら、聞いてみよ?」

 

 二人は近くの椅子にかけて、老人が目覚めるのを待った。

 

 しばらくの間、アルファはその表記通り、集中力を限界まで高めようと努力していたが、中々うまくいかなかった。なので、計画を変更し、瞑想スキルの効果を確かめる。

 内容は、座禅を組んで手を合わせ、数十秒立つと、体力継続回復バフとデバフ耐性上昇のバフが付くというものだった。悪くはないが戦闘中には使えないな、と評価を下す。

 因みにユウキは、さっきから椅子にもたれて眠っている。ユウキが起きたら、情報共有しよう。

 しばらくユウキの寝顔を眺めていると、何だかアルファも眠くなってきたので、ひと眠りしようとしたその時、耳が図書室の扉を開く音を拾い、その方角を見つめる。

 そこには、黒に身を包んだ少年が立っていた。しかし、見慣れない女の子を連れていたので訳を尋ねる。

 

 キリト「アルファか、図書室でお休み中か?」

 

 アルファ「まぁ、そんなとこだ。アスナとキズメルに…その子は…キリトとアスナの子供か?」

 

 アスナ「…ば、バカじゃないの」

 

 キリト「ち、違うぞ!」

 

 二人が息ぴったりでそう答える。その騒音で目が覚めたのか、ユウキが目をゴシゴシ搔きながら体を起こした。

 

 ユウキ「あれ、キリトにアスナ、キズメルじゃん…金髪の子は…アスナとキリトの子ども…?」

 

 「「……」」

 

 よもや、ユウキにまでそんなことを言われるのは想定外だったらしく、キリトとアスナは絶句していた。

 

 

 

────────────────

 

 

 

 アルファとユウキは、キリトから金髪の少女が、今は亡き領主の子、ミィアであること、母を探している最中であることを知らされた。また、図書室を訪れたのは、語り部であるじいさんに、フォールンエルフが作ったとされるダガーとミィアが持っていた鍵の詳細について尋ねに来たことを教えてくれた。

 アルファはキリトと二人で、安楽椅子で爆睡している賢者をたたき起こして、ダガーと鍵の詳細を尋ねる。じいさんは男に対しては傲慢だったが、女性に対しては紳士な対応を見せるという最低なことをしてのけた。

 しかし、腐っても賢者であり、語り部一の長寿であったことから、様々なことを知ることが出来た。

 一通りの質疑応答が終わった後、アスナ、キズメル、ミィアは瞑想スキルを取得するために試練に挑むそうなので、集中の妨げになってはいけないと思い、キリト、アルファ、ユウキは図書室を出た。

 特にすることの無い三人は、二階の大食堂に移動し、オヤツを食べることにする。恐らく、ベーター時代にここを訪れたことがあるだろうキリトに、おすすめを注文してもらうと、マロンのタルトらしきものとハーブ茶が運ばれてきた。

 

 ユウキ「ん~、美味しーっ!」

 

 タルトは口に入れるとすぐに溶けていくような舌触りで、タルトの上に乗っていたクルミのカリカリとした食感も良いアクセントになっている。

 

 キリト「…なぁ、二人が持っている剣、今までに見たことがないんだけど、レア物なのか?」

 

 キリトが興味津々といった感じだったので、アルファとユウキは剣を手に入れた経緯を説明した。そうこうしていると、皆がタルトを完食し、ハーブ茶も飲み終わった。キリトが大きな欠伸をする。

 

 キリト「んー…。ちょっと寝不足らしい、俺は部屋に戻って少し寝るよ」

 

 キリトが去って行った後、ユウキが別のスイーツを頼んだので、アルファも追加でハーブ茶を注文する。出来れば暖かい玄米茶を飲みたいものだが、ハーブ茶も十分美味しいし、贅沢は言えない。

 アルファは、嬉しそうにデザートを食べているユウキを見ながら、瞑想中に思ったことを伝えようとした。

 

 ユウキ「この果物も美味しいなぁ~」

 

 アルファ「ユウキ、ちょっといいか?」

 

 ユウキ「ん?なに?」

 

 アルファ「なぁ、俺たちはいつまで──」

 

 ──コンビを続けるんだ?

 

 アルファはそう言ったのだが、突然鳴り響いた鐘の音に、言葉をかき消されてしまう。しかも、その鐘音はどんどん切迫した乱打に変わっていった。何か異常が起きたのかと、アルファは大食堂の窓際まで駆け寄る。

 

 アルファ「なっ……」

 

 アルファの視界には開け放たれた城門から大量のフォールンエルフが突入してきている様子が伺えた。

 

 

 

────────────────

 

 

 

 アルファはすぐさまユウキに駆け寄って、現状を説明する。

 

 アルファ「ユウキ!フォールンエルフが攻めてきた!」

 

 ユウキはハッと目を見開き、驚きを顔に表す。

 

 ユウキ「でも、緑がないとエルフたちは活動できないはずじゃ…」

 

 ユウキの言う通り、エルフは木々がないところだと活動時間が大幅に減少するため、事実上、荒野に囲まれたガレ城には攻め込めないはずなのだ。

 

 アルファ「詳しい手口は分からねえけど、確かにフォールンエルフが迫ってきてるんだ、迎撃に向かうぞ!」

 

 ユウキ「そうだね。行こう」

 

 二人が食堂を出て、中庭に向かおうとするとキリトとバッタリ出会う。状況を把握したキリトは、すぐさま城の召し使いに回復ポーションと解毒ポーションを集めることを頼んだ。

 

 キリト「二人共、奴らは麻痺毒を使ってくるから、ここで瞑想スキルを使ってから向かおう」

 

 キリトの言葉に従って、三人で瞑想のポーズを取る。二十秒ぐらいの間待ち続けると、視界の端にバフが付いたのが見えたので、三人は急いで中庭に向かった。

 

 アルファ「キリト、ユウキ、俺が派手に陽動を仕掛けるから、お前たちはその隙に戦場を荒らしまわってくれ」

 

 ユウキ「りょーかい!」

 

 キリト「分かった」

 

 アルファは二階の窓から、中庭のフォールンエルフ数人目掛けて、アバランシュを繰り出し、それに気が付かなかったフォールンエルフを二人まとめて撃破する。

 残りの二人はようやく状況を読み込めたものの、時すでに遅く、アルファが水月をクリーンヒットさせ、残っていた体力を削り切った。

 フォールンエルフの司令官がアルファを狙うように指示するが、キリトとユウキが場をかく乱してくれたことで、アルファを襲いに来たのは二人の戦士だけだった。

 二人のうち一人が投げナイフを携えて、アルファに麻痺毒を付与する機会を伺っていたので、ここぞとばかりに攻めてきた、もう一人のフォールンエルフを仕留めんとする。

 フォールンエルフの剣が、鋭くアルファの胸元を捉えてくるが、ユウキと比べるとそのスピードは遅く、アルファは容易に剣を回避して、両手剣で相手の剣を宙に浮かせた。

 相手の視線が宙へ向いた隙を突いて、アルファは心臓部分を斬りつけて弱点クリティカルを発動させる。そのまま流れるように閃打を腹にぶつけて、もう一人の戦士と激突させる。二人まとまった所にソードスキルを決め、同時に撃破した。

 ユウキたちの方を見ると、特に問題はないらしく、落ち着いてフォールンエルフを対処している。

 アスナやキズメル、ミィアが中庭に駆けつけてくれたことで、一気にダークエルフ側の優勢となり、このまま押し切れると思った途端、急に霊樹が枯れ始め、ダークエルフたちの動きが鈍くなった。

 キリトが原因に心当たりがあるらしく、その場を離れていった。キリトが抜け、ダークエルフは弱体化してはいたものの、フォールンエルフに遅れは取ることなく、順調に数を減らしていたのだが──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然、空から一閃の光がユウキを襲った。

 

 

 

 アルファ「!?ユウキッ!」

 

 俺はユウキの名を呼ぶも、返事はない。やがて土煙が晴れると、ユウキと共に一人の初老の男が姿を現す。そのカーソルの色は、四層で死闘を繰り広げたエリートナイトと同じぐらい、もしくはそれ以上に深い赤だった。

 しかも、名前が<ランセル>と固有名が記されており、周囲のフォールンエルフとの格の差を感じさせる。不意にランセルは、高らかな声を戦場に響かせた。

 

 ランセル「我が名はランセル!この度は部下の雪辱を晴らすべく、この場に参上した。どうか勝手な真似を許していただきたい!」

 

 そう言い終えると、ユウキの方を見て言葉を続ける。

 

 ランセル「その剣、確かに私の部下の愛剣だ。…お前を倒すことで、あいつの冥土の土産としてやろう…」

 

 ユウキとランセルが剣を交える。剣と剣のぶつかり合いは加速し続けていき、アルファは目で追うので精一杯だったが、パーティー登録しているユウキのHPバーが徐々に減り始めているのを見て、ユウキが劣勢であることが理解した。

 助けに入りたかったが、タイミングが見計らえず、焦りを募らせる。直後、ユウキの体力が大きく減少し、剣が宙に浮く。

 

 ランセル「さらばだ、人族の戦士よ」

 

 そう言ってランセルがとどめを刺そうとするが、アルファが投げ入れた投げナイフに反応し、こちらを睨みつけてくる。

 

 ランセル「貴様…神聖な決闘を汚すというのか…!」

 

 アルファ「ちげーよ、そいつ相手に復讐するってのが間違ってんだ」

 

 ランセル「なにぃ?」

 

 アルファ「こいつを見ろよ」

 

 アルファは左手に付けた銀色の指輪を掲げた。これはエリートナイトからドロップしたものである。

 

 ランセル「…それは私があいつに渡した指輪だ、なぜ貴様が持っている!」

 

 アルファ「簡単なことだろ、俺があいつを倒したのさ、ほら、かかって来いよ!」

 

 ランセル「貴様ァ──ッ!」

 

 ランセルが怒りに任せて、俺目掛けて斬りこんできた。アルファは丁寧に両手剣で軌道をずらし、体を近づけて、水月を決める。それによって、相手の体力は六割にまで減少した。

 フロアボスのように固くない、これは何とかなるかもしれない、という甘い推測はすぐに打ち消された。冷静さを取り戻したランセルは、怒涛の連撃を浴びせてくる。アルファは連撃に対抗しようとするが、ランセルの猛攻を捌き切れずに、次第に防戦を強いられる。

 つい剣ばかりに意識を向けていたアルファは、ランセルに蹴りをぶち込まれ、大きくバランスを崩した。このままでは不味い、と何とかバックステップでその場を離れる。

 

 ランセル「なんだ貴様?余りに弱すぎるだろう。もう終わらせるか…」

 

 そう言った瞬間、ランセルが視界から消えた。

 

 ユウキ「後ろッ!!」

 

 ユウキがそう叫ぶも、アルファは反応することが出来ず、モロに剣を食らい、一気に体力を減らした。このままでは死ぬ。だが、俺はそこまで追い込まれなければ、力を発揮することは出来ないのだろう。

 アルファは、エリートナイトとの戦闘で生まれた自分の可能性に賭けた。全身の集中力を高めて、その時に備える。ランセルが正面から突撃してきたが、その寸前で体を捻じ曲げて軌道をずらし、左わき腹を抉る。

 アルファの残りHPが、レッドゾーンにまで落ちた。恐らく、次の攻撃で体力が尽きよう。自分の体がポリゴン片に変わり、脳がナーヴギアによって焼き切れ、俺の死が確定する。

 アルファは何度も自分の死をシュミレーションし、脳に、身体に死の危険信号を巡らせる。死という感覚を、全身に張り巡らす。迫りくるランセルの最後の一撃、遠くから聞こえるユウキの声にならぬ悲鳴、

 

 ──あぁ、まだ死にたくねえ

 

 次の瞬間、瞑想バフのアイコンに金色の光輪が加わり、アルファの世界はゆっくりと動き出した。アルファは体を巧みに操って、ランセルの鋭い突きを躱し、そのまま体を密着させてタックルを決める。

 そこでランセルが体勢を崩したので、すかさず両手剣で一太刀浴びせて、ランセルの体力を五割にまで持っていく。ランセルは再び、連撃で勝負を仕掛けてきた。アルファはしっかりと相手の動きを把握して、剣を合わせようとするが、体がついてこない。時々体が剣を掠め、じわじわと体力を削っていく。

 

 アルファ(クソッ、見えてんのにっ、動け俺の身体!もっと速く!!)

 

 俺の気持ちに応えるように、謎のバフの黄金が一際大きく輝いて、体が噓のように軽くなり、剣捌き、足さばきが冴えていく。

 遂に連撃を完全に捌き切り、攻めに転じ始めた。アルファの連続攻撃がどんどん加速していき、ランセルに少しずつヒットしていく。体が軋む音がするが、構わず剣を振り切り、ランセルを斬りつけて後退した。

 

 ランセル「くッ、まさかここまでやるとは…前言撤回だ、貴様は強いな…だが、私は負けられんのだァ──ッ!」

 

 ランセルがこれまでの中で、最高のスピードでこちらに駆ける。アルファは片手で両手剣を振りかぶり、ランセルに向かって低めの弾道で投げつけた。ランセルは勢いを殺すことなく両手剣をジャンプで回避し、空中で体の位置を調整して、確実にアルファを仕留めようとする。

 しかし、アルファは逆立ちでワンハンドエアートラックのポーズを取り、その状態で勢いを付けた水月を放った。それはランセルにとっても予想外の行動であったようで、水月が直撃して、体が宙に浮く。

 

 ランセル「なっ…!?」

 

 アルファ「うおおおおお──ッ!!」

 

 雄たけびと共に左手の銀に輝く指輪が輝き、アルファの手に片手剣が握られる。空中で身動きのとれないランセルに、バーチカル・アークを炸裂させ、ランセルの左脚と右腕を切断した。

 ランセルの片手直剣は右腕と共に放り捨てられ、四肢の一部を無くしたランセルが地に落ちた。ランセルのHPバーはあと僅かといった所で残っている。だが、出血デバフよって、もうすぐその命も尽きるだろう。

 

 ランセル「……私としたことが、その指輪を念頭に置いていなかった、か…さぁ、人族の剣士よ、とどめを刺すが良い…」

 

 アルファはランセルにとどめを刺す前に、彼の剣を拾いに行って、剣をランセルに渡す。

 

 アルファ「アンタは誇り高き騎士だった、最期は愛剣と共に散りたいだろ」

 

 ランセル「フッ、貴様も立派な騎士のようだな…名は何という?」

 

 アルファ「…アルファだ」

 

 ランセル「アルファ…か、あぁ、イグザムよ、私も今からそちらに行くぞ…」

 

 ランセルは愛剣と共にその身を無数のポリゴン片に変えて、荒野の空に散った。

 

 アルファ「……安らかに眠れ」

 

 

 

 

 しばらくの間、その場は静寂で包まれたが、やがて、ガレ城を守り抜いたダークエルフの兵士たちが、勝利の雄叫を上げた。アルファも気絶まではいかないが、流石に疲れて、ふらりと倒れ込む。

 

 ユウキ「ケガはないっ!?」

 

 ユウキが顔面蒼白といった感じで、俺の元に駆けつけて来て、ポーションを口にねじ込んできた。いきなりのことでポーションを吹き出しそうになったが、何とかすべて飲み切り、一息つく。

 

 アルファ「ノープロブレムだ。それ以上に今のポーション一気飲みで死にかけた」

 

 ユウキ「ホントに心配したんだからね!」

 

 冗談交じりに話すと、ユウキは少し怒ったように見えた。遅れてアスナ達もやって来る。

 

 キズメル「すまない、参戦する隙が全くなかった」

 

 アルファ「いいんだよ、あいつは俺を狙ってたからな」

 

 キリトもこの場に戻ってきたが、その顔には焦りが見えた。アスナが「どうしたの?」と尋ねると、キューザックというギルドのメンバーが仲間を人質に取られ、解放の条件が。ガレ城の大門の開放だったそうで、今回の騒動に至った、と話し出した。

 その中でも特に重要だったのが、この騒動の裏側にPK集団が関わっている可能性が高い。ということだった。それを聞いたアルファは人質解放作戦に加わろうとし、体を起こそうとする。

 

 アルファ「よっしゃ、俺も手伝うぜ…ぐッ!?」

 

 しかしアルファが身体を動かそうとすると、全身に鋭い痛みが走った。

 

 「そりゃそうじゃ、お主、覚醒術を使ったんじゃろ?」

 

 どこからか、賢者が現れた。アルファに覚醒術を使った覚えはなかったが、光輪のバフが多分、覚醒術だったのだろう。

 

 「あれは長時間使いすぎると、一日中身体が動かんくなるからのぉ、お主は今日はもう無理じゃ、ガレ城の客室でゆっくりしとれ!」

 

 アルファは何処からか現れたダークエルフのメイドさんに連れ去られていく!

 

 アルファ「悪い、キリト!後は頼んだぞ!」

 

 キリト「任せとけ!…ユウキはアルファのこと頼んだぞ」

 

 ユウキ「うん、任せてっ、アルファが脱走しないように見張っとくから!」

 

 そうしてユウキは、数人のメイドに運ばれていくアルファを追いかけていった。

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 客室に運び込まれた後、衛兵に礼を言われたり、城主が自らここにやってきてお礼の品を選ばせてくれたり、豪華な食事が運ばれてきたりなど、本当に色々なことがあった。

 キリトたちは人質を救出した後、ミィアの母親を探しにフィールドに向かったらしい。気分的には温泉に入浴したかったのだが、全身が酷い筋肉痛に襲われているような、身動きの取れない状態なので、諦めてベッドに横たわっていた。

 

 ユウキ「まったく、無茶しすぎなんだよ!」

 

 ユウキはたいそうご立腹のようで、お見舞いに持って来てくれたフルーツをパクパクと食している。…あの、それ俺のなんだけど。

 

 ユウキ「そもそも、なんで片手剣スキル使えたの?アルファのスキルって両手剣、体術、索敵、瞑想だよね」

 

 アルファ「そうだな。その秘密はこの指輪に隠されているのであーる」

 

 …なんで全部知ってるんだろ、と心の中で思うが、それは口に出さず、代わりに博士風の口調で話し、指輪を見せつけた。

 

 アルファ「こいつは武器スキルを一つ選択して、熟練度を保存できるんだ、それで任意に応じてセットしておいたスキルの武器を手元に呼び出せる。俺の場合は片手剣スキルを選んだってこと」

 

 ユウキ「…ヤバいよ、それ…」

 

 俺達はしばらく、この指輪についてあれやこれやと語り合っていたが、次第に、俺は何も言わなくなった。

 

 ユウキ「…?どうしたの」

 

 俺は、ユウキからその答えを聞くことが怖かったのだ。だけど、いつまでも曖昧なままにしておくわけにはいかない、と勇気を振り絞って尋ねる。

 

 アルファ「…もうユウキは十分攻略組の一員になれたと思う、そろそろ、コンビは解散じゃないか?」

 

 ユウキはしばらくの間、考え込むような様子を見せてから、俺の目を見て答えた。

 

 ユウキ「…やだ」

 

 予想外の返事に俺は少々慌てる。

 

 アルファ「や、やだって。…別にソロじゃなくても、ディアベルのギルドに入るとか…」

 

 ユウキ「ボクが背中を預けられるのはアルファだけだよ、…それとも、アルファはボクとコンビを組むのは嫌?」

 

 ユウキが少し悲しそうに尋ねてくる。本音を言うなら、俺もユウキとこの世界を攻略していく日々を過ごしたい。だが、そんなことをこのまま伝えるのは恥ずかしかったので俺は少し言葉を変える。

 

 アルファ「…嫌じゃねぇよ。俺も背中を預けられるのは、ユウキだけだ」

 

 そう答えるとユウキは嬉しそうに笑ってくれた。その笑顔を見ると、何だか今日の疲れも吹き飛んだ気がする。

 

 ユウキ「じゃあ、これからもよろしくねっ」

 

 アルファ「あぁ、よろしく」

 

 俺は痛む腕を持ち上げ、手のひらを丸めて、ユウキの小さな拳と己の拳をぶつけ合った。

 

 

 

 

 

 




 指輪の正体は、アスナの持つ、カレス・オーの水晶瓶の上位互換でした。
 因みに、覚醒術についてですが、アルファにとっての、限界を越えた力を引き出す、という効果は、無理矢理反応速度を上昇させる、という設定にしました。
 アルファが覚醒術を完璧に使いこなせるようになった暁には、その瞬間だけ、一時的にキリトやユウキの反応速度の領域に一歩足を踏み入れられるかもしれません。
 …基本的には、アルファの反応速度はユウキやキリトには、及びませんがね。

 では、また第19話でお会いしましょう!
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