~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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第178話 義理実家での過ごし方

 母さんと親父に俺の抱くユウキへの愛を全力で伝えてから程なくして、姉貴とユウキが家に戻って来た。

 姉貴はユウキと出会ったその時から、ユウキを怖がらせるような発言ばかりしていた。それ故に俺も、まさかイジメられてはいないだろうかと本気で不安に思っていたのだが…ユウキは今日一番の明るさで大丈夫だと答えてくれた。二人の間に何があったのかは知らないが、姉貴とユウキの距離感も、大幅に縮まっているように思える。

 加えて、改めてユウキを我が家に歓迎した母さんと親父もまた同じく、先程以上にユウキに親しく接していた。ユウキもその変化に気が付いているのか、嬉しそうに俺の家族と会話を重ねている…いるにはいるのだが…こう、なんというか…。

 現在、俺の眼前には、四人掛けソファの前にある小さなテーブルを囲う四人の姿があった。そんな四人は揃って、テーブルの上に置かれた分厚い冊子に注目している。もっと詳しく言うのであれば、見開きページに貼られている数々の記録を眺めていた。その内の一つを指差しながら、懐かしむような表情で姉貴は言うのだ。

 

 姉「この頃の歩夢はホンマに可愛かったんやで~。いっつも私の後ろちょこちょこついてきて、『おねーちゃん!』って呼んでくれてたんよ~」

 

 それに続けて、母さんも言葉を放つ。

 

 母「そうねぇ。母さんのことも『おかーさん!』って呼んでくれてたし…どんな時もこの恐竜のぬいぐるみ大事に抱えてたわね~」

 

 母さんの言葉を聞いて、親父が思い出したように言葉を繋いだ。

 

 父「歩夢はこの子に名前をつけてたな。確か…『ティラくん』とかだったか。この時期の歩夢は、ぬいぐるみのことずっと『ねいぐるみ』って言ってたよなー」

 

 とそれら全ての言葉は、俺ではなく彼女に向けられている。このクソほど恥ずかしい昔話を延々と聞かされ、だが何故か物凄く楽しそうに相槌を打っている君は、極めつけに刃三人に対してこんなことを言うのだ。

 

 木綿季「小っちゃい頃の歩夢って、すっごく可愛かったんですねー!今も充分可愛い所はあるけど、それとは比べ物にならないぐらい…でも、カッコいいところも歩夢の良い所だしなぁ…」

 

 姉「おっ、流石分かってるやん!うちの歩夢は可愛い所が売りの一つやからね!」

 

 歩夢「……」

 

 …はぁ。こんな黒歴史聞かされて喜んでるユウキもおかしいし、嬉々として話すバカ家族共も頭イカれてやがる。なぁ、せめて本人のいる所でそんな話するのやめてくれない?俺もう自分の部屋に逃げても良いかな?普通に限界なんだが。と言うか待て、俺は可愛さなんて武器にした覚えはないぞ。なんで四人揃って深く頷いてるんだ。

 …と俺の内心はため息とツッコミで溢れ返っており、当然ながら、アルバムを眺める四人からは少し距離を取ったところからその様子を眺めていた。

 …だがまぁユウキは随分と楽しそうだし、俺の家族にも馴染めてるみたいだし…寧ろ輪に入れていない俺の方がアウェーな気がしてきたぞ、これ。

 

 木綿季「歩夢ー?なんでこっち来ないのー?」

 

 不意にユウキがこちらに顔を向けると、大層不思議そうな様子で言ってくるのだ。それに対して俺は、つっけんどんな素振りで言い返す。

 

 歩夢「幼少期のことなんか恥ずかしくて思い出したくもないからな」

 

 父「なんだ?木綿季ちゃんに本当は甘えたがり屋な自分を知られたくないのか?」

 

 そんなの当たり前だろう。何が悲しくて、ユウキに対してこれ以上に恥ずかしい自分を晒さなくてはいけないのか。

 

 木綿季「それはもう分かってるんですけどね~。歩夢はかなり甘えん坊になっちゃう時がありますから!」

 

 おいユウキ。いらんこと言わんでくれ。ほら、みんな一気に興味持ったじゃん。

 

 母「へぇー、木綿季ちゃんの前だと素直なんだ。口調が丸くなったのも、実は木綿季ちゃんのお陰なのかしら」

 

 それは…確かにそうだ。ユウキと一緒に居るうちに、俺も随分と優しい言葉遣いに変化した気がする。SAOに囚われる以前、その当時は、ちょっと荒っぽい口調の方が男らしく見えるかと思っていた時期だ。今から考えると、それこそ過去の汚点とも言えるのかもしれないな。

 

 姉「因みにどんな時に可愛い歩夢に戻っちゃうん?」

 

 変なこと聞かないでくれ。俺がユウキに甘えてしまう瞬間なんぞ山ほどあるんだ。でもそれと同じぐらい、ユウキも俺に甘えてくれるんだけど…まさか、クリスマスの日のことを話すんじゃないだろうな。

 

 木綿季「えーっと、直近だと──」

 

 歩夢「ストーップ!!木綿季、もうそこら辺で勘弁してくれ!」

 

 とそこで遂に、俺も四人を傍観しつつ心の中で言葉を唱えている場合ではなくなった。俺は急いでユウキへと接近し、お口を物理的にチャックしてしまう。そして彼女に懇願するのだ。するとユウキは、なんとか踏みとどまってくれたようだ。

 

 木綿季「え~、仕方ないなぁ…」

 

 三人はそのエピソードが聞けず甚だ不服そうな表情を浮かべていたが、流石に膝枕の一件を話されるのは不味い。あれを知られては、これから数年はネタにされる気がする。これだけは秘密にしておきたい。

 …だってさ、あれはどうしようもないことじゃね?俺がちょっと頑張ってお願いするだけで、ユウキに膝枕してもらえるんだぞ?ユウキに甘やかされてもいいんだぞ?どの方向から考えても仕方ないだろ。

 そんな風に、あの日ユウキに甘えた記憶を正当化しつつも、そこからは俺もアルバムのお話に付き合うことにした。俺がまだまだ母さんと姉貴にされるがままだった幼少期から、少し異変を覚え始めた小学生時代、そして反抗期紛いの状態になった中学時代の三分の二…しかし残念ながら、そこで俺の記録は途切れている。その理由は勿論、俺が導かれるようにSAOの世界へと足を踏み入れたからである。

 

 なのでそれ以降の思い出は、今度はユウキが三人に語ることになった。つまりは、SAO時代の頃や、現在の高校生としての俺達のお話である。ユウキの語る俺達の思い出に、三人は引き込まれるように耳を傾けていた。

 と言うのも、俺はSAOの頃の記憶を家族には余り話していないからだ。帰還当初は、とてもじゃないが精神的にそんな余裕がなかったからな。

 因みに言っておくと、当然、俺が人を殺めたことや、アルファという名前で活動していたこと、ユウキがエイズ患者で大変だったことに、既にリアルワールドでも身体を繋げてしまっていることなどの、例え家族であっても話すべきではないことは伝えていない。

 まぁ、二つ目は別にいいとしても、三つ目はまだ話すようなことじゃないだろうし、一つ目と四つ目は絶対に話すつもりはない。四つ目は最悪オーケーだが、一つ目だけは何がなんでもダメだ。余計は心配は掛けたくないからな。

 そんな感じで、四人が俺の話で盛り上がっていると、気が付けば陽が沈み月が昇っていた。楽しい時間はあっという間だ。時の流れに気が付いた母さんが、両手で音を鳴らした。

 

 母「じゃあ、母さんはそろそろ晩御飯の支度するから、ここらで抜けさせてもらうね」

 

 その言葉にビシッと手をまっすぐ伸ばし、勢いよく反応したのはまさかのユウキだ。一体何事かと俺が唖然とユウキを見つめていると、彼女は母さんに向かってハキハキと答えた。

 

 木綿季「ボク、お手伝いします!」

 

 母「あら、それは嬉しいけど…無理しなくても大丈夫よ?」

 

 木綿季「大丈夫です。ボク一人暮らししてますから、料理は一通り出来ます!」

 

 母「じゃあ、一緒にキッチン行こっか」

 

 木綿季「はいっ!」

 

 その料理を教えたのは、俺なんだけどな。などと空気の読めない一言は発することはない。「油ひき?なにそれ?」だなんて本気で言っていた半年ぐらい前のユウキが懐かしい。良くここまで成長してくれたものだ。

 ユウキが母さんと仲良く台所に立っている様子を微笑ましく眺めながら、俺はもう暫く親父や姉貴と会話を弾ませておく。次第にリビングにも、キッチンから良い香りが漂ってきた。そしていつも通り、食卓には年越しそば…と、それに加えていなり寿司が並べられる。ユウキが頑張って作ったんだろうなと思いながら、皆と一緒に着席する。

 今日は四人ではなく五人揃って合掌して、晩御飯を頂き始めた。お蕎麦は相変わらず濃いダシと絡まり合って美味しいし、いなり寿司だって甘いお揚げとお米の絶妙なパラパラ感が最高であった。

 ユウキと母さんからは、どっちがボク若しくは母さんの作ったものでしょうかゲームを仕掛けられたが、流石にそれは正解出来なかった。「木綿季ちゃんの料理の味ぐらい覚えないとだぞ」と、何故か親父に怒られた。でもそう言う親父だって、母さんの作ったいなり寿司は見抜けなかった。みんなで大笑いした。

 と騒がしい食事の時間にも終わりの時がやってくる。みんなで今度はご馳走様を唱えて、使った食器を片付けるべく動き出す…前に、親父がふと、俺にこう言ったのだ。

 

 父「歩夢はいつ、この家を出発するんだ?明日か?明後日か?」

 

 正直、質問の意図が分からなかった。だからこそ俺は、平然とそう言葉を返したのだ。

 

 歩夢「いつって…去年と一緒で三箇日は居るつもりだけど?」

 

 すると親父は、呆れた表情で更に言ってくる。

 

 父「お前なぁ…木綿季ちゃんだけ挨拶に来させて、自分は行かない訳にはいかないだろう。二日か三日には、歩夢も木綿季ちゃんのご両親に挨拶に行きなさい」

 

 歩夢「あ……ええと…」

 

 父「なんだ?もう挨拶には行っているのか?」

 

 歩夢「いや…」

 

 父「じゃあ行かないとだろ」

 

 歩夢「…」

 

 …これは困ったことになった。親父の言うことは最もだ。だって、ユウキが挨拶に来たのならば、俺もユウキのご両親にご挨拶に伺うべきであることは明白なのだから。

 俺だって出来ることなら、緊張しながらユウキの家族に挨拶に向かって、苦労しつつも仲良くなって…そうやって、ありふれたことをしたかった。がしかし、そういう訳にもいかない。ユウキの家族は既に、この世を発ってしまっている。それ故に俺は、ユウキのご両親と面と向かって挨拶出来るわけではないのだ。

 上手く誤魔化せばよかったものを、ユウキが馴染んでいる様子を見て一安心していた俺は、全く頭を働かせていなかった。俺の歯切れの悪い返事に、親父は逃げ場をなくすように追い詰めてくる。

 この流れで挨拶に行かないと答えれば、当然その理由を問い詰められるだろうし、しかし答えればユウキのデリケートな部分を刺激することになる。俺としてはそれは避けたい。かと言って行かないを合理性抜きで貫き通せば、ユウキに捧げる想いの本気度が低く見えてしまう。それも嫌な展開だ。第三の選択として、行くと嘘をついて家を出発するというのもあるが…その嘘はユウキを傷付けるだろうし、誤魔化しが効きにくいというデメリットも存在してる。これまた選びたくはない。

 どれを選んでも苦い結果に結びつくという八方塞がりの状況で、俺は黙り込んでしまった。姉貴は「今更ビビってんの?」と鼓舞するように言ってくれるが、今回はそういう訳じゃないんだ。

 俺が中身の薄い頭を捻ってどうにか打開策を模索していたその時だ。不意に、ユウキがこちらを見やった。

 

 木綿季「…」

 

 言われずとも、その覚悟は充分に伝わってきた。だからこそ、「本当に良いのか?」などと無粋なことを訊ねたりはしなかった。ユウキは軽く息を整えると、口を閉ざした俺の代わりに言葉を発した。

 

 木綿季「あの…その件について、少し、ボクからお話があります…」

 

 母「木綿季ちゃんから?」

 

 木綿季「はい。その…歩夢は、ボクの家族には挨拶に行けないんです…物理的な問題で。長くなるかもしれませんが、良いですか?」

 

 父「あぁ、是非話してくれ」

 

 木綿季「実は──」

 

 そうしてユウキは、もう十年以上前に、輸血の事故によって一家全員がエイズに感染してしまったこと。自分以外の家族は、もう闘病の末に命を燃やし尽くしたこと。自分は奇跡的に、エイズ特効薬のお陰で今年の三月頃にエイズが完治したこと。だから自分は独り身で、俺が挨拶に行く必要がないことを、出来るだけ手短に説明してくれた。

 

 木綿季「──と言う訳なんです…」

 

 「…」

 

 ユウキが全てを話し終えると、当たり前だが、その場には重苦しい空気が流れる。だが俺がなによりも心配したのは、家族の辛い出来事を話して、ユウキが精神的苦痛を感じていないかどうかであった。

 そんな俺の内心を読み取ってか、ユウキは「大丈夫だよ」と一言俺に微笑みかけてくれた。それに安心した俺が小さく息を吐き出していると、親父から声が飛んでくる。

 

 父「…木綿季ちゃん。不躾なことを聞いて済まなかった」

 

 木綿季「あっ、いえ、大丈夫です。歩夢がいつも傍に居てくれるので、辛い思いは少しもしてませんから」

 

 申し訳なさそうに謝る親父に対して、ユウキはさらりと嬉しいことを言ってくれた。きっと、少しも辛い思いをしていない訳ではないのだろう。心の奥底では、ユウキの心にも痛々し傷が残っているだろう。それでも、俺が本当にユウキと家族になれたその時には、彼女の寂しさの芯まで溶かしてあげられるのではないだろうかと、そんな風に考えている。

 なんて将来の展望を思い浮かべていたその時だ。不意に、彼女がまた言った。

 

 木綿季「それに、歩夢には衣食住までサポートしてもらって…本当に、感謝してます」

 

 母「い、衣食住のサポート…?」

 

 木綿季「え?…歩夢からは何も聞いてないんですか?」

 

 母「…うん。特に何も」

 

 ユウキよ。何故それを話してしまったのだ。

 親父にフォローの言葉を入れたユウキは、そのまま深々と頭を下げると、生活費の件について語たり始めた。がしかし、家族は皆怪訝そうな表情でユウキを眺め返す。母さんがそれを尋ねると、ユウキもまた不可解な面持ちになった。両者で話が噛み合っていない。それに気が付いた四人は、一斉にこちらへと視線を送ってきた。

 そうなってしまうと、俺も隠し通すことは出来まい。観念して、そのことも話すことにした。

 

 歩夢「えっと、実は俺、木綿季の生活費引き受けてて…」

 

 姉「は?歩夢バイトでもしてんの?」

 

 俺が大金持ちになっていることを知らない姉貴は、一層訝しそうな表情を作る。こうなってしまっては仕方がないと、俺が噂のエイズ特効薬の開発に関与していることを、軽く姉貴に伝えておいた。流石に木綿季の家を買ったことは伏せておいたが、ユウキの生活費の全てを俺の財源から賄っていることを、俺は白状した。

 この衝撃的過ぎる話を、家族はポカンとしながら聞き続けた。俺だって、こんなの普通じゃないことぐらい分かっている。まだ結ばれていない人の生活費を負担するなど、よっぽどお金に余裕のある人か、ダメ人間製造機な人ぐらいだ。

 俺は勿論、前者である。ユウキのこととなると後者な気質もあるのかもしれないが……前者であると信じている。やがて俺が話し終えると、親父は咳払いを挟んでから、俺に言った。

 

 父「歩夢は…とっくの昔から覚悟が出来てるみたいだな。うん、試すようなマネして悪かった」

 

 その声色には、呆れと感心が半分ずつ混じっている気がした。俺はそれにぎこちなく頷くことしか出来なかった。続けて姉貴が、アホみたいなことを言い出す。

 

 姉「もう木綿季ちゃん、うちの子なっちゃいいな~!」

 

 それを真剣に吟味した上で…親父が深く頷いた。

 

 父「木綿季ちゃんを養子にして迎え入れるのも、それはそれで悪くないな…どうだ?木綿季ちゃん」

 

 木綿季「えぇっ!?」

 

 当然、ユウキは困惑を示す。因みに俺は、そのぶっ飛んだ提案に思考をフリーズさせている。そんな俺達に救いの手を差し伸べてくれたのは母さんだ。

 

 母「二人共、ダメじゃない。それだと木綿季ちゃんと歩夢がゴールイン出来ないわよ?」

 

 母さんがそう言うと、親父はニヤニヤ顔でユウキに詰めていくのだ。

 

 父「確かにそれは…木綿季ちゃんも困るな?」

 

 するとユウキは、ポーっと顔をリンゴ色に染めながら、モジモジと小さく返事をする。

 

 木綿季「えっ…あ……はぃ……」

 

 そんなユウキを見て、姉貴は嘆息を漏らすと、ヘラヘラと笑いながらユウキ…そして何故か俺を眺めて言った。

 

 姉「じゃあしゃーないか~」

 

 なるほど。ユウキを囲うって言うのは、単に家族ぐるみで木綿季を取り込むって言う意味だけじゃないのか。ユウキから嫁入り…或いは婿入りの意思があるかを聞き出すと言うことか。

 そうして冷静に状況を読み取っていた俺ではあったが、ユウキに俺と結ばれる心積もりがあることを聞き出せたことは、純粋に喜ばしいことであった。なんだかいつもよりも顔辺りが暑い気がするが…兎に角、沈んだ雰囲気を元の明るい状態に戻した俺達は、晩御飯の片づけに取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 アルファへの愛をぶつけて、一花お義姉さんに認めてもらって以来、歩夢の家族からは、ボクはすっごく良くしてもらえた。

 みんなで囲んだアルバム捲りでは、小さい頃のアルファのことをたくさん知れたし、ボクと出会う前のアルファがどんな感じったのかについても山ほど知れた。小さい頃のアルファについて感想を言うとするなら…そうだね、誘拐したくなるぐらい可愛かったよ。

 しかも今とは違って、純粋な可愛さ全開の男の子だったみたいだし…多くを望むなら、ボクはアルファの幼馴染として生まれてきたかったな。だってさ、想像してみてよ。恐竜のぬいぐるみを床に引き摺って歩くアルファだよ?そんなの尊過ぎるよ…。

 でもそんなアルファも、小学生中学年ぐらいの頃からは、段々やんちゃ坊主になってきたみたいだ。相変わらず顔は可愛いままだから、似合ってないことなんだけど、ちょっと男らしさって言うものが欲しくなってきたらしい。

 小学生時代は空手もやってたみたいだ。その時、ボクは大いに納得出来たね。SAO時代のアルファが体術スキルを上手く使えてた理由は、まさに空手の経験に裏打ちされたものなんだって。

 そして中学時代。ソフトテニスを始めたアルファは、反抗期真っ最中だったらしい。言葉遣いもドンドン荒くなって、お義母さんも悲しかったんだって。でも中身は今の今までやっぱり変わってなくて、出来れば素直な弟に戻って欲しいと、お義姉さんは言っていた。

 そしてそれ以降のアルファについては、今度はボクから語らせてもらった。ボクの語る冒険譚とアルファの成長に、三人は凄く感心していた。

 

 そうこうしているうちに、晩御飯時がやって来た。ここは腕の見せ所だね!と、ボクはお義母さんのご飯作りを手伝わせてもらった。やっぱり長野県ってだけあって、お蕎麦にはかなり拘ってるみたいだった。

 いなり寿司を作ろうかと言われた時、ボクは素直に「作ったことないです。教えてください!」と答えたんだ。するとお義母さんからは「素直なのは良い事だよ」と褒めてもらえた。そんないなり寿司は、驚くぐらい簡単に作れた。

 そうしてボクが丹精込めて作ったいなり寿司を、アルファは見抜いてくれなかったんだよ~。ボクとお義母さんの愛情の味の違いぐらい見抜いて欲しかったんだけどね。それはまだ時間が掛かるのかな?

 

 楽しいご飯時が終わってすぐに、ボクにとっての正念場がやって来たんだ。何が大勝負かって言うと、ボクをもう一度受け入れてもらえるかだ。

 話の内容が内容だし、同情を誘ってるみたいで、今はこの話を自分からするつもりはなかったんだけど、お義父さんに詰められたアルファを助け船を出すべく、ボクは元キャリアであることを告白した。

 エイズ特効薬。それは確かに、エイズを治してしまう奇跡の魔法だ。だけどもその製造元は、アルファの血液のみである。

 となると当然、定期的に生産できる本数だって限られてくる。特効薬一つ当たりに莫大な価値が付与され、アルファの望むように、それは万人に奇跡が行き通ることはなかった。故に希少価値が相乗し、でもそのお陰で、アルファはボクの衣食住を支えられるほどのお金を手に出来ているのだ。ボクらの生活がこのお金で成り立ってると思うと、ちょっとフクザツだけどね。

 

 まぁそんな自分語りは置いておいてさ、兎に角、アルファの家族は、ボクが元キャリアでも、なんの躊躇いもなく受け入れてくれた。純粋に嬉しかった。世間ではまだまだ、エイズと言う病気は不治の病のように扱われ、人々から訳もなく嫌煙されている。でもそんな偏見に囚われないでいてくれたから。

 そもそもエイズ患者だろうと、普通にしていれば健常者と同じような生活を送れるのに、彼らの多くはボク達を避けようとする。そんな不愉快な固定観念に囚われず、お義父さん、お義母さん、お義姉さんはこれまで通りボクに接してくれたのだ。

 そのついでに、アルファとの将来の展望まで聞き出されちゃったけど、アルファも嬉しそうに顔を赤くしてたし…うん、良かったよ。え?さっきからアルファの家族の呼び方がおかしい?

 …だって、お義母さん達はボクのこと受け入れてくれたみたいだし、寧ろボクのこと囲い込もうとしてくれてるみたいだし…えへっ。

 

 そうして波乱の晩御飯が終わった今、ボクら五人は居間で輪になって、トランプゲームをしたりして遊んでいるのだ。敬語は欠かさないものの、いつも通りの騒がしさを発揮しているボクは、もうすっかり一井家の一員として馴染めているのだろう。

 そうして楽しい時間を過ごしていると、ふと時計を見やったアルファが、ボクに言ってくる。

 

 歩夢「そろそろ時間だし、準備しようぜ」

 

 木綿季「なんの?」

 

 突発的な彼の発言に、ボクは思ったままの疑問を呈す。するとアルファは目的の説明を加えてくれた。

 

 歩夢「あー、神社にお参りの準備だ。俺はさ、いっつも年明け丁度に神社行くんだ」

 

 木綿季「そういうことね。じゃあ準備しなくちゃ」

 

 アルファの言葉に得心したボクは、この大富豪をラストゲームに切り上げて、外へと繰り出す準備を始める。だけどお義父さん達は一向に動く気配を見せない。「一花お義姉さん達は行かないんですか?」とボクが尋ねると、お義姉さんは「私らは別行動、二人で仲良く行ってき~」と手を振ってお見送りしてくれた。

 「長野の冬はマジで寒い」というアルファの意見を受け取って、今日はしっかりと防寒着で身を固めておく。玄関ドアを押し開けて、白いライトで明るく照らされていた家を出ると、一寸先は黒闇と極寒の世界だった。

 …流石にそれは言い過ぎたね。周辺にある住宅の窓から、木漏れ日みたいな輝きが暗黒の中に漏れ出している。だから真っ暗闇っていう訳じゃない。

 でも一方で、布地で覆われた何重ものバリアを、それはいとも簡単に突き抜けてくる。暖房で温まっていたはずの全身は、薄膜のような氷のベールに覆われて、一気に芯まで凍えていく。ボクはガクブルと身体を震わせてから、君に言った。

 

 木綿季「さ、寒いね…」

 

 対する君は、流石地元の子だ。凍える風が靡こうとも、平気そうな素振りで言葉を返してくれる。

 

 歩夢「そりゃ東京と比べれたらそうだ」

 

 木綿季「だからくっつこう」

 

 歩夢「寒くなくてもな」

 

 なんて下らない会話を交わして、ボクらは身体をピタリと寄り添わせた。それだけで身体はしっかりと温かくなって、ボクはアルファと街を歩き始めた。とそんな様子を、玄関先からお義姉さんに眺められていたのは、また後で知ることになる。

 アルファに連れられて深夜の住宅街を通り抜け、案内されるままに暗い森の方へと進んでいく。そんな中でふと夜空を見やると、ボクは思わず立ち止まって、呟いてしまった。

 

 木綿季「わっ…星、綺麗だね…」

 

 どこまでも透き通るような黒の世界には、無数の煌めき浮かんでいた。そのはどれもが小さな閃光だけど、青、白、赤と色とりどりに燦爛している。ボクに合わせて立ち止まったアルファは、ボクと同じように夜空を眺めながら言った。

 

 歩夢「ここはそんな凄くないぞ。もっと山奥に行けば、一面星だらけの世界が待ってるんだ。流れ星なんかも瞬きしてるうちに流れてさ、願い事なんてしたい放題だぜ?」

 

 木綿季「えっ、流れ星ってそんなに流れるものなの!?」

 

 歩夢「あぁ、東京じゃ街が派手に輝き過ぎて、星空なんかに目が行かないけどさ。どっか空気の綺麗なところなら、良く見えるぞ」

 

 木綿季「星降る夜ってことだね~。ロマンチックだなぁ…」

 

 歩夢「なんなら明日連れてってもらうか」

 

 木綿季「え~、それは悪いよ」

 

 歩夢「遠慮すんなって、もう家族みたいなもんだろ?」

 

 木綿季「…ん。じゃあ、お願いしてみよっかな」

 

 都会じゃ見ることもないし、ボクもまだ実際には見たこともない流れ星。それがバーゲンセールみたいに浮かんでは消えていくなんて、それはすっごく幻想的な光景に違いない。

 ボクは妄想する星空にウットリしていると、アルファはそんな提案をしてくれた。でもそれを断ろうとすると、彼は迷いなく言ってくれる。ボクだけじゃなくて、アルファもそう思ってくれていることが、ボクの胸をドキドキとポカポカでいっぱいにしてくれる。

 その時だった。ふわりと、空から何かが舞い降りてきたのは。星々の光をキラリと反射しながら、その白い星屑は地上に降り立った。一つではない。無限とも思えるほどの小さな礫が、闇の世界にアクセントを与え始めたのだ。

 

 歩夢「…明日は積もるかもな」

 

 木綿季「積もったら雪合戦しよう!」

 

 そうしてボクらは銀色の結晶に包まれながら、再び歩みを進めていく。徐々に体感気温が下がっていく中で、一層身を寄せ合い暫く歩いていくと、次第に同じ方向へと足を進める老若男女が、ポツリポツリと見え始めた。

 そしてその奥では、蝋燭に灯された暖色光が、闇夜に混じって朧気に赤い鳥居を映し出している。辿り着いたそこには、既に多くの人が集っていた。アルファに倣って一礼して、鳥居を潜り手を清める。篝火が闇払いしている横を通り過ぎて、参拝の列に並んだ。

 列に並ぶこと数分。遂にボクらの番が来て、二人並んでお参りだ。それが終わると、ボク達は踵を返そうとしたんだけど──。

 

 「おっ!歩夢!なんだ、帰って来てんじゃん~!」

 

 突如として、アルファの肩に気安く触れる金髪の女の子が、ボクの前に現れたのだ。

 

 

 

 

 




 次回の投稿日は、五月二十五日の水曜日となります。

 では、また第179話でお会いしましょう!
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