~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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第183話 絶対無敵の黄金コンビ

 この異次元からの生還条件。

 それは、ヒースクリフを再び討ち破ること。

 それ以外に有り得ないことを悟った俺達は、その場でグッと剣を構えた。

 だが一方で、意外にも彼は武器を構えることはなく、その口を動かした。

 

 ヒースクリフ「アルファ君、ユウキ君、決戦にはまだ気が早い。…プレゼントはもう一つあるのだよ。アイテムストレージを確認してくれ給え」

 

 アルファ「もう一つ…?」

 

 彼の言葉に訝し気に反応した俺は、しかしそれに従った。

 左手を揺らし、もう一度メニューウインドウを開ける。

 そしてアイテムストレージを確認すると、その最上部には、何やら見覚えのある四角い反射物が…。

 

 ユウキ「手鏡…だね」

 

 言葉の通り、俺達が受け取った贈り物とは、こ当時デスゲーム開会式が行われたその場で、全プレイヤーに配布されたアイテムであった。

 それを見た瞬間、嫌な記憶を思い出した俺は、反射的に彼に尋ねた。

 

 アルファ「おい、ヒースクリフ。これ見る必要あるのか?」

 

 ヒースクリフ「勿論だ。君達にとっても有益なものだということは保障しよう」

 

 アルファ「ホントかよ…」

 

 俺の問い掛け対して、彼は即答してきたが…正直、俺は半信半疑である。

 そもそもこれは、アバターとリアルワールドの姿見をリンクさせるためのものであったはずだ。

 しかし今の俺達は、SAO時代のデータを引き継いでいる。

 となると、この手鏡を使用する理由が見当たらないだろう。

 とは言えヒースクリフは、フェア精神の持ち主である。

 有益だと答えたのならば、手鏡を使用することで俺達にも何か役立つことがあるはずだ。

 俺は渋々、あの日容姿端麗なアバターが消え去ったことを思い返しながら、手鏡に映る自分を眺めた。

 

 アルファ「…」

 

 数秒待っても、何も起きなかった。

 俺は耐え切れず、手鏡を覗くことをやめて、ヒースクリフへ視線を戻した、瞬間だった。

 ふいと、視界が真っ白に包まれた。それもまた数年前に経験したものである。

 まさか、変なアバターに変更されるんじゃないだろうな。

 俺が不安を抱いているうちに、元のままの風景が現れる。

 途端にユウキが、俺を見て叫んだ。

 

 ユウキ「あ、アルファじゃん!!」

 

 ハッキリ言って、ユウキの叫びは理解不能のものであった。

 だって、そりゃ俺は俺だ。アルファがアルファで何を驚く必要があるのだろうか。

 そんな思いをぶつけるべく、俺もユウキを見て言葉を返した…はずだったのだが…。

 

 アルファ「はぁ?んなの当たり前だろ──って、ユウキじゃんか!!」

 

 俺も同じく、ユウキを指差して、傍から見れば意味不明の驚きを露わさざるを得なかった。

 いや確かに、俺もユウキも、アルファでユウキだ。そこには何の変化も見られない。

 がしかし、俺の瞳に映る君は…かつての君であったのだ。

 もっと具体的に言うなれば、まずその姿見は、妖精ではなく剣士のものである。装備は濃紺ベースの赤いラインが入ったロングスカートに、同じ色のチェニック。そして濃い紫のアーマープレートだ。腰に納刀してある細身の片手剣は、リズベットが鍛え上げた刀身が紅に染まった珍しいものであった。

 加えて額の部分には、俺があの当時のクリスマスにプレゼントしたベージュのヘアバンドが巻かれ、その片手でも鷲掴みできるぐらいに細い首からは、俺が誕生日プレゼントに選んだ瑠璃色に輝くペンダントが下げられている。

 つまり今のユウキの姿は、SAO時代の最終装備であるのだ。しかし、その右腕には銀のバングルが嵌められており、ALOでの装備が全て消失したわけではないらしい。

 …となると、今の俺の装備は──。

 

 アルファ「おぉ…」

 

 革装備にしては頑強な、正真正銘タイラ手製の深碧のコートに身を纏い、その下に身に付ける上下の装備は、身軽さを重視した、薄っぺらい防刃効果のある服みたいなものだ。

 ユウキから貰ったバングルはしっかりと腕に嵌められており、その上、二十五層LAである琥珀のネックレスと錆色をした銅の指輪も装備されている。

 加えて銀の指輪も指に通されているが、薬指に迎えるべき指輪は、未だそこにないままだ。

 背中から引き抜くずっしりとした重みは、かつての俺の相棒、太陽の戎具である。今は両手剣モードとなっているそれは、刀身が橙色の一枚結晶で構成されており、改めて見ると、実に美しい。

 つまり今の俺の姿は、ユウキと同じく、二年前の俺そっくりであった。

 ユウキは自分と俺の姿を交互に見やると、その表情に笑みを浮かべながら言った。

 

 ユウキ「ボクらって、今も似たような格好してるんだね」

 

 アルファ「これが一番しっくりくるしなぁ…」

 

 確かに言われてみればそうだなと、俺が彼女に言葉を返していると、ヒースクリフが口を挟んでくる。

 

 ヒースクリフ「変わったのは装備だけではない。スキルも確認してもらいたい」

 

 そう言われて、俺達はまた彼の言葉に従い、スキルスロットを確認してみるのだ。

 

 ユウキ「あっ!月光スキルだ!!」

 

 続いてユウキの嬉しそうな叫びに、俺も反射的に体力バーに目線を移す。

 するとそこには、懐かしき数々のバフが表示されており、それら全てが、月光スキルによるものであることは明らかであった。

 合わせて俺もスキルスロットに目を通すと、片手剣、両手剣、魔法スキル…等々のALOで使用しているスキルは勿論のこと、SAO時代にお世話になった片手槍スキルも…。

 

 アルファ「…ん?」

 

 スキル欄を順番にスクロールして、やがて最下部に至ると、俺は思わず声を上げてしまった。

 何故かというと、そこには、見慣れないスキルが一つ追加されていたからだ。

 

 アルファ「…<陽光>スキル…?」

 

 そして俺が、眼前に浮かぶウインドウを眺めながら、呟くようにそれを読み上げると、彼は答えた。

 

 ヒースクリフ「スキル<陽光>。月光スキルと共にガーディナル・システムによって生み出された、もう一つのユニークスキルだ。取得条件は特になかったのだが…どうして、アルファ君は獲得できなかったのだろうかと、私は今でも思うよ」

 

 などと宣うヒースクリフに対して、俺は肩をすくめて言葉を返しておいた。

 

 アルファ「俺は英雄肌じゃないからな。ユニークスキルなんて似合わねぇんだよ」

 

 ヒースクリフ「君は自分を過小評価し過ぎではないか?実際、SAOプレイヤーの中で瞑想スキルを上手く利用出来ていたのは、アルファ君ぐらいだった」

 

 アルファ「ん?…あぁ、覚醒術のことか?」

 

 謙遜でもなんでもない返し文句であったのだが、彼からすると、俺もまたなんだかんだ言って優秀なプレイヤーの一人であったらしい。

 …だったら、初めて会ったその時も、もうちょっと優しい言葉を掛けてくれたら良かったんだけどな…。

 俺じゃ最強を目指す血盟騎士団に相応しくないって…なぁ?とてもじゃないけど、出来の良い人に掛ける言葉じゃないよなぁ?

 

 彼の口から瞑想スキルの名を久しぶりに出されて、俺もまた、そのことを思い出した。

 瞑想スキルの一部である覚醒術。

 それは「使用者の秘められた力を引き出す」という訳分からん設定のスキルだったのだが…まぁ、とある戦闘を契機に、俺はなんとなくそのスキルの効果を理解していた。

 それはつまり──。

 

 ヒースクリフ「覚醒術の具体的な効果は、使用者を疑似的なフロー状態に入り込ませ、各人の反応速度を限界以上に発揮させる…そういう代物だ。無論、過剰に使用すれば、アバターに高負荷な疲労が蓄積するというデメリットも存在するのだが」

 

 …そう言うことだ。覚醒術がプレイヤーにもたらす影響というものは、少しばかりの集中で、ゾーンのような感覚を引き起こすというものであった。

 それ故に俺は、頻繁に──というかほぼ毎日、あのスキルに頼っていたのだ。

 だってそうでもしないと、俺程度の反応速度の持ち主では、あのデスゲームを命一つで乗り切ることなど不可能だったのだから。節目のボス戦を生き残れたのは、間違いなく瞑想スキルのお陰だ。

 

 あれはエルフクエスト関連のエクストラスキルと言うこともあって、獲得自体は他のエクストラスキルよりも容易である。

 がしかし、瞑想スキル本体の使い勝手の悪さと、覚醒術の意味不明な発動条件のせいだろう。貴重なスキルスロットの一枠を、瞑想スキルで埋めているプレイヤーは少なかった。

 まぁ、熟練度をカンストさせれば、最強のレジスト性能を手にすることが出来たのだが……とは言え、俺が一番上手く活用出来ていたとは、一体どういうことなのだろうか…?

 

 ヒースクリフ「アルファ君。君は日々、瞑想スキルを使い続けていただろう。するとどういうことだろうか。君は少しずつ、限界を超える反応速度に合わせて、本来の反応速度を上昇させていった。反応速度という絶対的な先天的才能を、君は後天的に大きく成長させたのだ。勿論、ユウキ君やキリト君ほどの域にまで達せたわけではない。しかし、日常的に覚醒術を発動させていたせいか、次第に疲労感に慣れ疲れが蓄積し辛くなり、普段の戦闘でも軽いゾーン状態に入り込んでいる…SAO晩期の君は、そんな調子だったろう?」

 

 ユウキ「そうなの、アルファ…?」

 

 アルファ「え?…いや、自覚はなかったけど…案外俺も生き残れるもんなんだなー、って…思ってたぐらいだな」

 

 …まさか、俺の身体にそんな変化が起こっているとは知りもしなかった、わけではない。

 ヒースクリフが何故か誇らしげに語り始めた衝撃の事実に対して、驚いたように言葉を掛けてくるユウキに伝えた通り、俺も当時は覚醒術を使うことが当たり前過ぎて、それに全く気が付かなかった。

 なんとなくそれに気が付いたのは、SAOから解放されて以来の、仮想世界の日々の中である。

 いつも通りユウキと闘っている時に、ふと俺も思ったのだ。

 覚醒術が失われた今の俺は、どうしてユウキの反応速度に喰らいついていられるのだろうか、と。

 そんな疑問に対する仮説が、覚醒術を上乗せした状態の戦闘に身体が慣れてしまい、それが普通だと頭が思い込んでいるから…というものであったのだが、本当に当たっていたとは。

 

 ヒースクリフ「…さて、昔話も終わりにしようか。君達に少しばかりの作戦時間を与えよう。それが済めば、決戦の時だ」

 

 自説を展開し、得意げな表情を浮かべていた彼は、一つ咳払いをした後に、改めて俺達にそう告げた。俺達に作戦会議のタイミングを与えようと思ったのか、シュンと世界から消え去った。

 現状、ヒースクリフを倒さねば、俺達はALOどころか現実世界にも戻れない。そんな状況下に陥っている俺達も、気を取り直して、真面目に話し合いを始める。

 

 アルファ「…どうする?」

 

 ユウキ「どうするって…いつも通りやるしかないけど…取り敢えず、陽光スキルを確認しとこうよ」

 

 アルファ「あぁ、そうだな」

 

 久しぶりの剣士ユウキスタイルに見惚れる暇もなく、隣で佇む彼女に催促された俺は、陽光スキルをチェックすることにした。

 すると、既に熟練度がカンストしているスキル内容が、俺の視界に飛び込んできた。

 熟練度上げに励んだわけでもないのに、最強スキルを使えるというのは、なんとももどかしい気持ちにさせてくれる。

 だが今は負けられない。これも有難いことである。

 陽光スキルの内容は、剣技やちょっとした特殊アビリティなど、恐らく対を為しているであろう月光スキルと似たようなものであった。

 それをユウキに共有して、お互いにあーこー言い合って簡単に対ヒースクリフの闘い方を打ち立てると、俺達は準備完了だ。

 と同時に、この円形のボス部屋内部、俺達から少し離れたところに、ヒースクリフが再び出現する。

 

 ヒースクリフ「作戦会議は終わったかな?」

 

 アルユウ「「っ…」」

 

 ついさっきまで変わらない、柔らかくも低い声色。

 しかしその身に纏う絶大な威圧感は、ついさっきまでは感じられなかったものだ。

 彼から放たれる激しいオーラに、俺もユウキも思わず気圧される。

 その重厚な気配からして、彼が今から俺達を殺すつもりであろうことに、疑念の余地は微塵もなかった。

 

 『これは、ゲームであっても遊びではない』

 

 茅場晶彦の一貫した信念が、そこには宿っていた。

 そんなヒースクリフの姿は、そのほとんどが先程と同様である。

 だが一点、大きく違っていた。

 つまりそれは…彼が、魔王ヒースクリフへと変貌しているところである。

 何も、戦闘モードに没入した彼のことだけを指しているのではない。その姿見もまた、魔王に相応しい姿へと変化していたのだ。

 つい先刻前までの彼は、言わば、プレイヤーを率いる最強の聖騎士であった。白いマントを靡かせ、遥か先を見据えるその姿は、勇者だと言っても遜色が無いほどだろう。

 一方いまの彼はどうだろうか。鮮血のように深い赤に染められた甲冑に身を纏い、一対の剣と盾は十字を模っている…そこまでは、変わらない。

 がしかし、白いマントが脱ぎ捨てられ、代わりに背中から現れたシルエットは、二つの大きな翼であった。

 されど、それは双翼にはなり得ない。

 何故ならば…向かって右側の翼は、神々しいまでに純白のものであるというのに、他方で左側の翼は、禍々しいまでに焦げた赤黒いものであった。

 ヒースクリフは、天使と悪魔の翼の両方を持ち合わせていたのだ。その異端の姿に、俺は身が竦むような威圧感を覚えていた。

 だが…よく考えてみれば、ヒースクリフは魔王であると同時に、プレイヤーとしての救世主伝説を築き上げた。

 そして彼は、創造、維持、破壊を司る仮想世界の神でもあった。

 ならば、この導きの輝きと破滅の絶望を併せ持つデザインは、彼に相応しいものではないだろうか。

 そう思うと、強張る身体も幾ばくか緩まった。

 ふと、隣にいるユウキへと視線を移す。

 

 ユウキ「……」

 

 彼女もまた、ヒースクリフの双眸に呑まれていた。

 ユウキの緊張をほぐすべく、トンと彼女の背中を押してやる。

 ふとこちらに視線を持ってきたユウキに、俺は二カッと笑い掛けた。

 

 アルファ「大丈夫だ。俺達なら勝てる」

 

 するとユウキは、緊張がほぐれたのか、同じく微笑みながら、頷き返してくれた。

 とそこで俺は不意に疑問を抱き、それを言葉にした。

 

 アルファ「ヒースクリフ。もし俺達がここで死んだら…リアルでも死ぬのか?」

 

 ユウキ「!」

 

 ヒースクリフ「……」

 

 それは、今の俺にとっては一番、大切なものであった。

 もしこの場でもデスゲームを採用するというのならば、俺は何がなんでも君を守り抜く。例え俺が死に絶え、彼女が悲しむことがあろうとも、俺は君の命を守らねばならない。それは絶対の理だ。

 俺の問い掛けに、暫し彼は答えないでいた。

 その僅かな間に、ドクンドクンと、心臓が痛む。

 僅かな静寂の末に、彼は冷たい微笑みで応えてみせた。

 

 ヒースクリフ「そうだな…私としては、君達を殺すつもりはなかったのだが…まぁ、余りに詰まらない闘いをされては、それもまた一興か…」

 

 アルファ「…」

 

 コイツは、本気だ。

 簡単にそう思わせてくれるほどの最悪な実績が、コイツにはある。

 茅場晶彦はかつて、自らの欲望を実現するために、一万もの命を淡々と牢獄に閉じ込め、そして、無情にも四千の命を握り潰したのだ。であれば、今更俺達二人の命を磨り潰すことなど、彼にはなんの躊躇いもないことだろう。

 一体どんな手段で俺達を殺すつもりなのかは定かではないが、電子の存在となった彼ならば、俺達のアミュスフィアに侵入し、脳細胞を破壊…と言う可能性もあるだろう。

 実質的なデスゲームの再来。いつ以来だろうか、俺は極度の緊張感を募らせていく。

 隣にいるユウキと共に、俺はバスタードソードとなった太陽の戎具を、彼女は自慢の片手剣を固く構える。

 対するヒースクリフは、ゆったりとした動作で盾裏から剣を引き抜くと、それを床に強く打ち付け、言った。

 

 ヒースクリフ「さぁ、始めようか」

 

 その言葉を皮切りに、魔王は俺達へと迫り来た。

 

 

 

 

 

 

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 新生アインクラッド第75層フロアボスを撃破してすぐに、忽然としてアルファが姿を消した。ボクは勿論のこと、他のみんなも唖然と驚きを示している中、ボクもまた、彼と同じように何処かへと連れ去られた。

 その先に待っていたのは、まさかのヒースクリフだった。死んだはずの彼は、電子の存在に変化したとか良く解らない話を聞かされたんだけど…今のボクの頭にハッキリと印象付けられていることは、ヒースクリフに打ち勝たねば、ボクらが死んでしまうと言うことだ。

 アルファもボクも、彼から与えられたゲームクリアの報酬によって命を拾っている。

 ならば、そのチャンスを与えてやった彼自身からすれば、ボクらの命なんてあってもなくても同じようなものなのだろうか。

 もしかすると、神からの恩寵を授かり、神的存在に愛されると言うことは、こんな無茶に振り回されるようなものなのかもしれない。

 でも、今のボクは、死ぬわけにはいかない。アルファと歩くべき未来がそこにある以上、こんなところでおちおち死んでいる訳にはいかない。

 そうやって自分を奮い立たせて、なんとか身体を強張らせる冷たい死の吐息を振り払ったボクは、彼と共に、ヒースクリフとの決戦に臨んだのだ。

 一瞬の静寂の後に、ヒースクリフはグッと大地を蹴ると、こちらに急接近してきた!

 

 ユウキ「アルファ、来るよ!」

 

 アルファ「おう!」

 

 ボクの掛け声に合わせて、彼も得物を引き締めるように固く構え、しかし足はいつでも動き出せるよう、常に軽く曲がっている。

 その大きな翼で滑空するように、流暢な動きでヒースクリフは突進してくる。

 勿論ボクらは、跳ねるように左右に散り、轟音と共に放たれたシールドチャージを回避する。

 ヒースクリフから見て、ボクが左、アルファが右の位置に移動したボクらは、一瞬目を合わせるだけで、次に為すべき行動を共有した。

 二人で合流するように、ヒースクリフの背後へ回ろうとする。その最中、黒曜石の床を走りながら、ボクはルビーの如く赤き刀身に青白い光を、彼は黄金の刀身に温かな光を纏わせた。

 そして──抜刀。

 瞬間、二人の剣から、迸るエネルギー刃が放たれた。

 ボクが発動させたスキルは、月光スキルによる月光波だ。アルファのは…同じように名付けるなら、陽光波と言った所だろう。もっとカッコ良く言えば、太陽の奔流、とかだろうか。

 このスキルは、単発技ソードスキルに該当する癖に、技後硬直は存在しない。加えてモーションにも自由性がある。それが、月光スキルの優れた点の一つでもあった。

 ボクらの放った波動は、ヒースクリフの胴体を切り裂かんと真っすぐ進む…が当然、裕に回避される。体勢を崩したわけでもない状態だ。当たり前だろう。

 ヒースクリフはそれをきっちり躱すと、そのまま宙に飛び上がり、対照的な双翼を大きく羽ばたかせた。

 途端に、ボクらの合流予定地点に、大きな突風が巻き起こる。

 

 ユウキ「っ!?」

 

 その余りに絶大な風圧に、ボクは大地を踏ん張ることが出来ず、ふわりと足を掬われた。そうなると、身体は風に呑まれる。

 ボクは激しい気流に流されるままに、ボス部屋の彼方へ吹き飛ばされた。

 剣士のアバターであるが故に、背中に四枚の翅はない。ボクにはどうすることも出来なかった。あんまり勢い良く吹き飛んだせいで、ボス部屋の硬い側壁に全身を強打する。重い衝撃と共に、身体から呻き声が漏れ出す。

 

 アルファ「ユウキ!!」

 

 そんなボクに気を取られたアルファは、正面のヒースクリフが、彼を十字の剣で薙ぎ払おうとしていることに気が付いていない。

 一方気が付いたボクが、彼に急いでそれを告げる前に──。

 

 ヒースクリフ「よそ見している暇はあるかな?」

 

 アルファ「クソッ!」

 

 ギリギリで、彼はそれに気が付いた。太陽の戎具を振るい、ヒースクリフの剣を受け流す。そしてそのまま、剣戟に挑みゆく。

 間の開いたボクは、しっかりと自分の体力バーを確認する。思った以上にダメージはなかった。あの突風自体には、ダメージ判定はないらしい。

 どのタイミングで戦線に戻るべきか、ボクは彼らの猛烈な打ち合いを眺めながら、それをジッと推し量り続ける。

 アルファは足を絶え間なく動かし、バスタードソードを巧みに操る。ヒースクリフの剣をいなしながらも、反撃の糸口を掴もうとしている。

 でも、それが出来ない。

 何せヒースクリフには、絶対防御を誇る大盾が装備されているから。

 彼の繰り出す剣は、大概がその大盾によって阻まれ、それを乗り越えようとも、反応速度が僅かに足りず、浅い攻撃しか命中しない。

 幸い、ヒースクリフの体力バーはボクらと同じ一本だ。でもこのままだとアルファがジリ貧だ。早いとこアルファと役割を交代しないと、死の敗北が待っている──。

 そんな焦りに唆され、ボクが思わず前に出ようとすると──。

 

 ヒースクリフ「甘いな、アルファ君」

 

 アルファの一撃を、今度の彼は大盾で完璧に受け止め切った。

 そして彼は、アルファへの絶好の攻撃チャンスを…手放した。

 予想外だ。こちらに十字の剣を振り放ってくる。

 だけども、ボクとヒースクリフの距離感は、二十メートルほどは離れていた。だから、一体何の意味があって──。

 直後、ヒースクリフの刀身から、スッと何かが放たれた。

 それは闇よりも暗く、光明よりも眩しい…波動だ。音もなくボクの眼前に迫りくる。それが攻撃であると認知したその時、ボクは反射的に姿勢を低く屈めた。と同時に、ボクの頭スレスレを光と闇が通過していく。

 そしてそれは、ボス部屋の外壁に目に見えない程の薄い…しかしどんな刃物よりも深い切り傷を与えた。

 

 ヒースクリフ「流石はユウキ君と言ったところだ」

 

 …あんなの喰らっちゃ、ひとたまりもない…これ以上は、ダメだね。

 直感的にそれを判断したボクは、残りの数十メートルを超加速で詰め寄る。

 再びアルファとの斬り合いに集中していたヒースクリフは、彼の一撃をまたも大盾で受け止め、無数の浅い傷を負ったアルファに更にダメージを加えようとしていた。

 でもそれを阻止するべく、ボクは彼の意識外から、鋭い一撃を斬り込む。

 

 ユウキ「やあっ!!」

 

 ヒースクリフ「むっ…」

 

 これは、さしもヒースクリフにも対応出来なかったらしい。彼がこちらに気が付き、その剣で受け止めようとした頃には、既にボクの剣は、ヒースクリフの甲冑を深く捉えていた。

 これで七割。アルファがかなり頑張っててくれたみたいだ。

 

 アルファ「ユウキ…!」

 

 ユウキ「アルファ、ボクに任せて!」

 

 ボクはそのままヒースクリフに激しい剣戟を仕掛け、彼にこの場を脱するタイミングを作り出した。ボクの意図を悟ったように、その場から大きく飛び退いた彼は、ボクらからは少し離れた場所で体力を回復し始めた。

 それを横目に確認したボクは、アルファを狙う隙を与えまいと、持てる力の全てで片手剣を変幻自在に振るい続ける。

 しかし、どれだけ打ち込もうと、このボクの剣でさえ、ヒースクリフの鉄壁を打ち破ることは終ぞ叶わなかった。

 …あと少し…あと少しで、盾の守りを抜けるのに──。

 

 ヒースクリフ「やはり、ユウキ君にとっては、アミュスフィアでは出力が物足りないかな?」

 

 ユウキ「なっ…!?」

 

 ボクの剣を受け続けるヒースクリフが、ふと放ったその一言。ボクはそれに動揺し、一瞬、動きが緩む。

 瞬間、ヒースクリフは反撃に転じた。ボクはそれを上手くいなせず、腹部を軽く一閃される。

 しかし慌てずそこで持ち直し、今度こそ反撃の隙は与えない。

 とは言え変わらず、ボクの猛攻は、ヒースクリフの防御に堰き止められてしまう。

 そんな中ボクは、彼に問い掛けた。

 

 ユウキ「さっきの…どういう意味で言ってるの…?」

 

 対してヒースクリフは、さも当然のように答えた。

 

 ヒースクリフ「なに、君はメディキュボイドの被験者だったのだろう?メディキュボイドと比べると、アミュスフィアは機能性が何段にも落ちている。その程度のスペックでは、君の反応速度を最大限に活かせないのは、当たり前なのだよ」

 

 そんなことは、メディキュボイドからアミュスフィアに切り替えたその時から、ボク自身が良く解っていた。

 アミュスフィアの出力だと、どうにも思った通りに身体を動かすことが出来ないのだ。もう数段上のスピードは出せるはずなのに、それは固くロックされている。そんなもどかしさは、ボク自身が一番解っている。

 だからこそ、ボクがヒースクリフの言葉に動揺した理由は、そこではなく──。

 

 ヒースクリフ「しかし、よもやアルファ君に強力なエイズ耐性があるとは…。ユウキ君、彼に助けて貰えて、良かったじゃないか」

 

 …それだ。

 どうしてヒースクリフは、ボクがメディキュボイドを使っていて、エイズ患者で、そしてアルファのお陰で命を拾って、そもそも、アルファがエイズ耐性を持っていること…それらを知っているのか。

 いや恐らくは、世界中のどんな機密情報だろうと、電子媒体となったヒースクリフの前では筒抜け…みたいなものなのだろう。

 なんて会話を続けていたのは、ちゃんと意図がある。

 それは時間を稼ぐ為だ。そろそろ、体力を回復し終えたアルファが──。

 

 ヒースクリフ「むっ…」

 

 突如として、ヒースクリフの頭上に、太い稲光が降り注いだ。

 咄嗟に彼は大盾を天に掲げそれを防ぎ切るも、そうなってしまうと胴はガラ空きだ。ボクの一閃が、彼の身体に刻み込まれる。続いて、数々のバフがボクに重ね掛けされる。

 

 ユウキ「アルファ、ありがと!」

 

 アルファ「おう!援護は任せろ!」

 

 つまり…アルファが、後方支援に回ってくれたのだ。

 ボクが前衛として剣を振るい、アルファが魔法でボクをサポートする。

 それが、ボクらの強みを尊重し合った闘い方だ。

 その上ボクらは、もう四年も一緒に戦い続けている。

 となると、コンビネーションは阿吽の呼吸だ。

 アルファの魔法でヒースクリフの動きを妨害し、ボクが着実にダメージを与えていく。その戦法は、かの魔王に対しても効果覿面であった。

 ヒースクリフはボクとアルファのコンビネーションを崩せないまま、体力の五割を切ったのだ。これはいける!ボクらが勝負の流れを掴んだのだと、そう思った瞬間だった。

 ヒースクリフがふと、呟いたのだ。

 

 ヒースクリフ「これは厄介だな…早々に崩してしまおう」

 

 刹那。ヒースクリフの身体が、フッと消え去った。

 ボクが彼に向けて振るったはずの剣は、虚しくも空を斬る。ボクは一瞬の放心状態に陥るも…すぐに、身の毛のよだつような嫌な予感を覚えた。

 ボクはそれに導かれるように振り向く。後方で援護に回っていたアルファの安否を確認する。

 そしてボクは、それを見た。

 

 ──ザン。

 

 ヒースクリフの十字剣に、身体を大きく斬り裂かれた、君の姿を。

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 アルファ「ぐぅ…っ…!?」

 

 一瞬、俺の身に何が起こったのか、上手く理解出来なかった。

 だが次の瞬間、仮想世界特有の不快感が俺を襲い──俺はヒースクリフに斬られたのだということを、把握させられた。

 なんだ?何があった?ヒースクリフは確かに、ユウキと斬り結んでいたはずだ。それがどういうことだ。コンマ一秒後には、俺の目の前にヒースクリフが…。

 と疑問は尽きないが、呆けているわけにもいかない。

 彼の放った続く二撃、三撃を、俺はどうにか回避し、体勢と距離感覚を立て直す。

 その頃にはユウキもこちらに急行しており、意識外からの攻撃を仕掛けるも、今度は彼の想定内であったらしい。大盾で受け止め、十字剣で迎撃。見事なカウンターを決められていた。

 ユウキの体力バーが、ガクンと減少する。ヒースクリフが追撃を仕掛けようとするも、そこは圧倒的反応速度を持つ彼女である。正面から放たれる次なる一撃は、しっかりと回避出来──。

 

 アルファ「なんっ!?」

 

 気が付くと、ヒースクリフは彼女の背後に回り込んでいた。

 俺もユウキもそれを認識するも、時すでに遅し。彼女の身体はまた、ヒースクリフに一閃された。

 再びユウキの命が削られ、遂には半分を切る。

 君の体力バーが減少する様を目にし、焦る。反射的にその場に割り込みそうになるが…頭空っぽでそんな行動を起こせば、全滅は必至だ。

 一度目、二度目、ヒースクリフはその場からふいと姿を消し去り、そして俺達が彼の姿を把握する頃には、先程までとは異なる地点に存在する。タネは分からない。だが…。

 来たるべき三度目。俺はこれまでのヒースクリフを脳内に再生しながら、彼の動きに注視した。

 突然、彼の重心が、僅かに下がった。と同時に、剣を構えるユウキの真横に、彼は出現した。今度のユウキはなんとかその動きに喰らいつき、剣を掠める程度に収まる。

 その様子を目に焼き付け、焼き切れるほどに思考を高速回転させる。その末にその一端を理解した俺は、ポーションを飲み干しながら、ユウキの元へと駆け込んだ。

 

 アルファ「ユウキ、交代だ!」

 

 ユウキ「うん!アルファ、気を付けて!ヒースクリフ、バカみたいに速いよ!」

 

 俺が彼女の後ろから全力で斬り込み、ユウキも同じく重い攻撃を放ちながら、後方へ下がる。時間差の斬り込みには、彼も反撃には出られないらしい。

 スイッチの要領で役割をチェンジした俺は、彼女の体力が回復するまでの間、ヒースクリフとの斬り合いに臨まねばならない。

 すれ違う間際にユウキから忠告が伝えられ、俺も彼女に助言を投げ返す。

 

 アルファ「多分コイツ、瞬間移動してやがる!でも一回重心下げるタメがいるっぽいぞ!」

 

 ユウキ「りょうかい!」

 

 ヒースクリフ「ほう、よく気が付いたな」

 

 ユウキが回復薬を流し込む様子を横目に、俺は瞬間移動の隙を与えまいと、先程以上に苛烈に剣を振るい始めた。

 ヒースクリフは大盾で俺の剣を受け止め、十字剣で俺を斬り裂かんし、だが俺はそれを、ボルテージの上がりゆく反応速度を以てして、紙一重で回避していく。

 とは言え、やはり奴の守りは強固だ。その盾を貫くことは叶わない。

 しかしそれだけではない。俺が奴の身体に急接近し、体術スキルによる一撃をお見舞いしようとすると、ヒースクリフは大盾を大きく持ち上げ、それを地面に叩き付ける。

 そうなると、シールドバッシュにより周囲に衝撃波が発生し、それに呑まれないよう俺はその場でバックステップを余儀なくされる。

 となると、今度は波動攻撃が飛んでくる。更には、隕石を降らせるような魔法を繰り出し、遠くで体力回復を待つユウキにちょっかいを出したりと…攻撃面でも秀でていた。

 

 しかし不思議に思う点が一つ。

 何故ヒースクリフは、瞬間移動でユウキを強襲しないのか。

 まさか、ある程度距離が離れていると、そこは範囲外なのだろうか。

 …まぁなんにせよ、このままの俺達では、ジワジワと削られるばかりだ。SAOをクリアして以来、PKに神経質になる必要がなくなったことに加えて、ユウキに剣技のみでの闘いを挑むようになった俺は、以前のような搦め手も用意していない。

 その上、ヒースクリフはソードスキルの全てを理解している。折角の陽光スキルがあっても、その剣技スキルに頼ることは許されない。

 そこから導き出せる結論と言えば、ヒースクリフに対抗可能となるのは、自身で作り出したOSSのみだということだろうが…どうだろうか。

 あのユウキでさえ、ヒースクリフの鉄壁を打ち破ることは出来なかった。

 フィニッシャーになり得るマザーズ・ロザリオも、大盾を掻い潜れなければ意味がない。まるで八方塞がりだ。ヒースクリフを倒すための必殺のカードを、俺達は一枚として──。

 

 ──いや、あるには、あるんだ…だけどそれは…まだ未完成で…。

 

 だが、ここでやらねばいつやる。

 それがジョーカーに化けるか否かは分からないが、もうそれぐらいしか、逆転の兆しは見えてこないだろう。

 失敗を恐れる心を、背水の陣で奮い立たせた。

 土壇場で大勝負に乗り出すことを決意した俺は、ヒースクリフが薙いだ剣をステップ回避すると、後方に控えるユウキに叫んだ。

 

 アルファ「ユウキっ!合わせてくれっ!!」

 

 返事を待たず、床を強烈に蹴飛ばした俺は、猪突猛進にヒースクリフに飛び掛かった。

 その過程で、太陽の戎具を、カタナに変じさせる。

 それに気が付いたヒースクリフは、警戒するように深く腰を落とし、構えた。それは俺にとって好都合であった。ヒースクリフとの適切な間合いで、俺は両足に急ブレーキを掛ける。

 瞬間、腰に構えたカタナ全体に、透き通るようなライトブルーが宿った。

 

 ──十一連撃OSS<演武・乱れ桜>

 

 抜刀。それは音速の速さだ。

 ヒースクリフも堪らず、反撃に踏み出せないようだった。その隙を逃さず、俺は半自動的に動く身体を加速させ、二撃、三撃。舞踊のような流れる足取りで、更に斬撃を浴びせる。

 六撃目。それは喉元を穿つような突き技へと移行した。

 そのまま三連続で突きを放ち、今度は左手に握るカタナに右手を添え、上段切り。そのまま身体を滑らせ、足を斬り裂くように一閃。その遠心力で一回転した俺は、威力が最大限にブーストされた最後の一突きを繰り出した!

 

 アルファ「…くっ…」

 

 しかし、やはり魔王の名は伊達ではない。

 最高の一撃を、ギリギリ盾の縁で防御し切った彼は、ニヤリと表情を歪める。

 当然、大技を放った俺は、技後硬直を強いられる。そんな俺に対して、彼の必殺の剣が振り下ろされる──。

 

 ユウキ「今度はボクの番だっ!!」

 

 しかしそれは、俺の後ろから超速で飛び出してきた彼女によって、完璧に弾かれた。

 そしてユウキもまた、片手剣に青紫の輝きを灯していた。彼女が発動させた技は勿論、マザーズ・ロザリオである。

 十一連撃OSS。真の意味でのOSSでは、やはり彼女の持つ技こそが、一番連撃数が多いのだろう。

 と言うのも、俺がいま使用したOSSは、かつてサツキが託してくれた剣技の模倣であるからだ。それ故に、俺自身が開発したとは言えないという訳である。

 

 ユウキのいつになく速い剣技は、ヒースクリフの身体を僅かに捕えるも、やはり護りを完全に貫くことは出来ない。十一連撃目を放ち、ユウキは硬直に陥った。

 瞬間、ヒースクリフは迷わずユウキの脳天をかち割ろうとする。

 だがそこに割り込んだのは、既に技後硬直が解けていた俺だ。

 太陽の戎具を、今度は片手槍に変形させる。一直線にヒースクリフの元へと滑り込んだ俺は、その過程でユウキを右腕に抱え込み、ソードスキルを発動させる。

 滾るような赤いライトエフェクトに燃え上がった片手槍は、彼の盾目掛けて全力で打ち込まれた。

 その勢いを利用して、後方へと大きくバックステップする。一連撃と言う珍しいものではあるが、これもまた、俺のOSSだ。

 名前はまだ付けられていないが、参考にしたのは、オウガのヒットアンドアウェイである。

 強烈な一撃を叩き込み、戦線離脱までを一つの剣技に収める。後ろに引っ込んだその時には、既に硬直も溶けており、実に優秀なスキルであろう。

 俺達の連続OSSによって、ヒースクリフの体力は、既に四割を切ったあたりに落ち込んでいた。

 硬直から解放されたユウキの身体を離し、事態が好転したことに喜びを隠せない俺は、明るい調子で言った。

 

 アルファ「ナイスだ!」

 

 ユウキ「アルファもね!」

 

 するとユウキも、元気よく言葉を返してくれるも…前方で俺達を見据えるヒースクリフは、不吉な笑みを向けてくる。

 

 ヒースクリフ「フッフッフッ…耐えた…耐えたぞ…。君達の切り札は耐え切った。二度も喰らいはせん。鉄壁を貫けない以上、この勝負、私の勝ちだ」

 

 ユウキ「……」

 

 確かに、ヒースクリフの言う通りだ。

 俺とユウキは、ヒースクリフにとっては初見であるはずのOSSを以てしても、その守りを打ち砕くことは出来なかったし、ヒースクリフの瞬間移動や反応速度には、まだまだ対応出来ていない。

 となると、俺達の体力が現状七割を保っていようとも、四割の差はいとも簡単にひっくり返されてしまうのだろう。

 だが一つ、奴は勘違いしていた。

 勝利を確信し、獰猛な笑みを浮かべるヒースクリフに、俺もまた不敵な笑みで応えた。

 

 アルファ「いいや…俺達の勝ちだ。…ユウキ、あれ、やるぞ」

 

 ユウキ「え…でも、あれはまだ…」

 

 アルファ「いや、今の俺達ならいける。ユウキ、俺に構わず全力で行ってくれ。俺が合わせるから」

 

 ユウキ「…ついてこられるの?」

 

 アルファ「あぁ、今日はとっておきがあるからな」

 

 俺達はまだ、最後のカードを切っていない。

 これでも駄目だったのならば、それはアイツの勝ちだ。

 でも今の俺達ならば、それが成功する気しかしなかった。

 ユウキにそれを提案すると、彼女は迷ったように言葉を返してきた。だが俺が確かな声色で告げると、彼女は軽く頷いた。

 俺は左手に、ユウキは右手に片手剣を携え、対を為すように構える。

 俺達がこの攻防に全力を注ぐことを肌で感じ取ったのか、ヒースクリフもまたどっしりと構えると、芯のある声で応えた。

 

 ヒースクリフ「…来たまえ、アルファ君、ユウキ君」

 

 魔法による爆発、轟音、軋めく金属同士のぶつかり合い…先程までの激しい戦闘が嘘のように、その場は静まり返った。

 そして俺は、凛とした声で呟いた。

 

 アルファ「…『我が身に宿る光輝よ、己の身さえ焼き焦がせ』」

 

 詠唱が終わると、俺の身体から、黄金に輝く輝きが漏れ出した。

 視界に表示される体力バーの上段に、ありとあらゆるバフが出現する。一方、俺の体力は、月光スキルによるオートヒーリングの強化がある状態でも、ジワジワと削れ始めた。

 解放の言葉と共に俺の発動したスキルは…陽光スキルの最上位スキルであった。

 かつてユウキから聞いた話によれば、月光スキルの最上位スキルは、自分の身を挺して他者を守るというものであったはずだ。

 では、その月光スキルの対を為す陽光スキルどんなものであったか。

 まず、月光スキル同様様々な剣技や、波紋攻撃を行えるという点は変わらない。大きく変わる点は、二つだ。

 まず一つ目、月光スキルの一部は、誰か一人を大幅強化するバフを発動させる一方で、陽光スキルは、ボス部屋一つを軽く覆える範囲に置いて、味方にかなりのバフを付与するというものであった。

 そして肝心の二つ目、陽光スキルの最上位スキルは、使用者の命を代償に、時間制限付きの超パワーを生み出すというものである。

 つまりは、こうしてバフが何十重にも掛かったいつも以上の俺であれば、ユウキと共にそれを成し得る気がしたのだ。

 俺がスキルを発動したことを確認したユウキは、コンマ一秒後、約束通り全身全霊の力で、ヒースクリフに飛び込んだ!

 

 ユウキ「やあぁぁああああっ!!」

 

 と同時に、俺もまた、迸る雄叫びを吐き出しながら、ヒースクリフに斬り掛かる!

 

 アルファ「うおぉぉおおおっ!!」

 

 ヒースクリフ「な、なにっ!?」

 

 俺は左側から、ユウキが右側から剣を振るい、時にぶつからないよう二人の間に剣を通しながら、俺達は二人一緒に剣戟を開始したのだ!!

 それには当然、ヒースクリフも困惑の色を示した。

 何せSAOでは、対人にしろ対モンスターにしろ、二人で一人に攻撃を仕掛けるというものは、セオリーから外れた異質な立ち回りとされているのだ。

 その理由は簡単なことだ。二人同時に攻撃を仕掛けると、お互いが邪魔になって、満足に剣を振るえなくなるから。

 そしてそれは、俺達も例外ではなかった。ダブルパリィという特異な戦術を採用する時以外は、基本的にスイッチによる一対一を採用していた。

 だが、今の俺達であればどうか。

 俺とユウキは、元を辿れば恋人などではない。俺達は、お互いがお互いを高め合うライバルであり、コンビであった。

 ならば──コンビを結成して四年もの歳月を積み重ねた今、以心伝心の俺達が、どうして共に剣を振るえないと言うのか。

 俺達はヒースクリフに対して、剣を無限に振るい続ける。その一見適当に見える一撃一撃でさえ、その全てが俺達の思考に基づいた、最適な一撃であった。

 実質的な二刀流。しかも二人同時に剣を振るう以上、二刀流よりもそのスピードは速い。

 ヒースクリフは剣と盾を巧みに操り、必死に防衛に努める。俺達の隙を探し出そうとする。

 だが、今の俺達に穴などあるわけがないだろう。防御が追い付かなくなり、次第に鉄壁が剥がれ落ち始めた──刹那。

 俺達は何を言うでもなく、裂帛の気合いを叫びながら、次の段階へ移る。

 

 ユウキ「ぜえぇぇぇええいっ!!」

 

 アルファ「うらぁぁぁああっ!!」

 

 第一撃目。それは、ユウキの剣技であった。

 上段から下段へと素早く振り降ろされた一撃は、盾から飛び出たヒースクリフの左肘を捉える。

 直後、技後硬直が彼女を襲う。ヒースクリフの反撃の機会だ。

 だが遅い。

 その時には既に、俺が剣技を繰り出している。左から右へと斜めに斬り上げる一撃を、ヒースクリフはギリギリ剣で抑え切った。

 瞬間、再びユウキから剣技が放たれる。ヒースクリフは慌てて受け止めようとするも、段々と付け焼き刃の守りは遅れていく。

 次にまた俺が…ユウキが…俺が…ユウキが──。

 

 俺とユウキは代わる代わる、単発技ソードスキルを発動させ続けた。そこには既存のものもあれば、俺達が作り出したものも混じっている。

 たった今限定で、ユウキの反応速度に追いついた俺は、彼女がソードスキルの硬直に襲われる絶妙なタイミングで、剣技を繰り出すことが出来ていた。

 番いの二人が繰り出し続ける剣技の応酬には、一切の隙はない。ヒースクリフは反撃はおろか防御さえすることが出来ず、徐々に体力を擦り減らしていく。

 その無敵のコンビネーションはまさに、俺とユウキが夢見た、最強のアベックであった。

 敢えて名付けるとすれば──『ツイン・ソードスキル』。

 その無限の剣技の応酬の末に、俺とユウキはある種の境地に辿り着く。

 

 ──アルファ、次はここだよ!

 

 ──あぁ、その次はこうだ!

 

 ──だったらその次はそっちだね!

 

 ──そんでその次はあそこだ!

 

 決して、言葉を交わすことはない。だが俺もユウキも、お互いの考えることは心に直接伝わり、また伝え、お互いの剣筋を見ればそれは明らかであった。俺とユウキは正真正銘の以心伝心に至り、お互いの意識が重なり合う一体感に強烈な高揚感を抱きながら、無我夢中で剣を振るい続けた。

 そして──無限とも言える闘いに、終わりの時が訪れる。

 ユウキの繰り出した重厚な一撃に、遂に大盾を手放したヒースクリフは、俺の一撃でその胸を貫かれた。彼の体力バーは完全に消失し、拡散する。

 勝負の時に、決着がやってきた。それをふと認識した俺は、そこでユウキとの接続が切れた。

 ハッとヒースクリフの表情を見やると、彼は満足そうな表情で、俺達に微笑みを向けていた。

 

 ヒースクリフ「見事だ。アルファ君、ユウキ君。…やはり君達は、世界の英雄なのだろうな…」

 

 アルファ「…どうだろうな」

 

 そんなヒースクリフの一言に、俺が曖昧な心持ちで返事をすると、彼は心から綻びたような笑い声と共に、言った。

 

 ヒースクリフ「…フッ、少しは過剰な謙遜することをやめたのか…私も…これで少し満足させてもらったよ…急に呼び出して悪かったね…」

 

 アルファ「そう思ってんなら、次からは事前にアポ取ってくれよな」

 

 ヒースクリフ「…善処させてもらうよ」

 

 その言葉を最後に、ヒースクリフの身体はフッと消え入った。

 その場に取り残された俺は、隣で戦闘の…或いはヒースクリフとの再会の余韻に浸っているユウキに、拳を突き出す。

 するとユウキも笑顔を綻ばせ、軽く拳を突き合わせてくれた。

 その時だ。もうずっと昔に味わったような、世界のブレる感覚が、俺達を襲った。反射的に眼を閉ざし、そして瞼を上げると──。

 

 キリト「おいっ!アルファ、ユウキ!お前らどこ行ってたんだ!?」

 

 アスナ「二人共、無事なの!?何があったの!?」

 

 ──そこは、元の第七十五層ボス部屋であった。俺とユウキが消え去ったことは、彼らも認識していたのか、俺達が戻って来るや否や、皆揃って質問攻めのように捲し立ててくる。

 それに呆然と顔を見合わせていた俺とユウキは…もう、剣士の姿ではなかった。

 さてはて、少しばかり彼らに心配を掛けてしまったのだろうか。

 俺はこのお話を、どう彼らに伝えるべきかと悩んだ結果、こう伝えることにしたのだ。

 俺はニッと笑顔を浮かべると、ユウキの顔を見やりながら言った。

 

 アルファ「何って…忘れ物、取りに行ってたんだよな?」

 

 するとユウキもおどけるような笑みをみんなに向けて、こう言った。

 

 ユウキ「うん、そう言うことだね。ちょっとしたやり残しを頑張ってたんだ!」

 

 そうして、二年越しに行われた決戦のことは、俺とユウキだけの秘密になった…わけではない。

 勿論、今の抽象的な答えに満足できなかった彼らに問い詰められ、俺とユウキは、これからその出来事を話す羽目となったのだった、というオチではない。

 戦闘で高揚した俺とユウキは、ついつい就寝時間を無視し、キリト達と共にそのまま長らくゲームに勤しんでしまった。アミュスフィアを外すと同時に、俺は貪るように眠りについたのだ。

 え?それでなんの問題があるって?

 翌朝、俺は提出すべき課題が終わっていないことに気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回の投稿日は、六月二日の木曜日となります。

 では、また第184話でお会いしましょう!
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