─Welcome Sword Art Online─
歩夢「まずは初期設定からか。」
一人そう呟きながら、歩夢はキャラクター設定を始める。少し悩んだ末、身長はそのままで、顔を大きく変えることに決めた。
ゲームの中の世界ぐらい、カッコイイ男の子になることぐらい許されるだろう。それにきっと、他のプレイヤーも同じように美男美女に生まれ変わってくるんだろうから、何の問題ないはずだ…と心の中で誰かに言い訳しながら、自分をクールでイケメンなキャラに仕上げていく。
そうしてキャラクターメイクを終え、最後にキャラクターネームを決めるところ画面までやってきた。キャラクターネームは、一度決めると変更ができないらしい。それ故、歩夢はネームを真剣に考えていたのだ。
歩夢(一井 歩夢 いちのいあゆむ … いち、1……)「アルファ、でいくか。」
アルファとは古代ギリシア語の第1番目の文字であり、ギリシア数字の1を表す数価である。一井の一から文字ったという訳だ。安直な考えかもしれないが、これが彼なりに真面目に考えた結果である。
歩夢は空中に浮かぶキーボードに英語で「arufa」と打ち、キャラクター設定を終了させた。本来αの英語表記は「alpha」だが、英語が苦手な歩夢…改め、アルファはそんなことを知るはずもなくローマ字で名前を記入してしまった。彼がこのことに気が付く日は来るのだろうか…。
キャラクターネームを決定すると、突然、辺りが光に包まれ、一瞬のうちにアルファは、アインクラッドの世界に降り立ったのだった。
アルファ「これがSAO…!」
その世界にやって来たアルファは、子供が初めて遊園地にやって来たように、周りの目を気にすることなく四方八方を見まわした。はじまりの街、と表示された場所は、まるで中世のヨーロッパのような雰囲気を醸し出す世界観だ。
何よりアルファを驚かせたのは、その質感である。皮膚に纏わりつく空気の肌感覚と言えば、、現実世界と比べても遜色がなく、むしろ仮想世界の方が現実かと思えるほどのものであった。
アルファは一通りSAOの世界の空気感を堪能した後、この世界の醍醐味だと言われている、フィールドでの戦闘を行うために、武器屋に行って、己の武器を買うことに決める。
武器屋のある商店街らしき場所に行くまでに、何度か道に迷ったりしたが、なんとか無事に到着することができた。今からメインウエポンを決めるとなると少し緊張もするが、隣にいる紫色の髪をした少女が、目を輝かせて武器を選んでいるのを見るとその緊張もいつの間にか消えていた。
アルファ(選ぶなら剣系統だな。…曲刀は癖がありそうで扱いずらそうだ。細剣はちょっと俺のイメージに合わねえな。かと言って片手剣はありきたりな気がする…。 よし!両手剣でいくか!)
キャラクターネームを考えるのと同じぐらい、長考したアルファは、武器を両手剣に決め、この店で売られている恐らく両手剣の初期装備であろうビックソードを購入した。その足で向かいの道具屋っぽい店にも寄り、ポーションを買ってから、アルファは遂にフィールドに出ることにしたのだった。
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アルファ「こいつがフレンジーボア!」
アルファの目の前で戦闘態勢をとっている青いイノシシが、フレンジーボアと呼ばれているモンスターである。このモンスターは他のゲームで言うスライムレベルの雑魚キャラだとネットの掲示板では記載されていた。
だから青色なのかなあ、などと考えているとボアがこちらに向かって突進してきたので、アルファは慌てて横に回避する。この短時間のボアとの戦闘で、分かったことが一つあった。それはいくらボアが雑魚キャラだと言っても、今までのゲームのように画面を見てコントローラーで操作する戦いに対して、SAOは実際に対面して戦うのであるから緊張感や迫力が半端じゃないということである。
アルファ「こりゃあ、ボス戦は足がすくみそうだぜ…。おらッ!」
再びボアが突進してきたが、今度はこちらも迎え撃つようにしてボアに向かって走り込み、ボアと激突する瞬間に身体の軌道をずらして、ボアの横腹を斬る。そこでボアが怯んだ為、アルファは満を持してソードスキルを発動させた。
ソードスキルとは他のゲームで言う必殺技みたいなものらしい。通常攻撃とは違い、大きなダメージを与えられるが、使用後に硬直時間があるというデメリットがある。つまり、ここぞという時に使うべきものでなのだとアルファは解釈していた。
また、ソードスキルは最初にタメを作り特定のモーションを行わなければ、発動できないそうだ。アルファはグッとタメを作って両手剣を上段に構える。そこから繰り出したソードスキルは「カスケード」、単発上段斬りである。目論見通りカスケードがボアに上手くヒットし、HPがゼロになったボアは断末魔を上げながらガラスのように砕け散っていった。
アルファ「おっ、レベルアップか。」
この作業を繰り返していたことからか、遂にレベルアップのファンファーレが鳴る。アルファはスピード型のキャラビルドを構成しようと考えていたため、迷わずAGIにステータスを振った。
それからしばらくはボアを狩り続けて、これからの為に体に戦闘感覚を馴染ませておく。ボアの攻撃をわざと喰らって特有の不快感にも慣れようとしてみたのだが、何度か攻撃を喰らうと、あの不快感はすぐに慣れそうなものではないことだけは理解できた。
そうこうしているとポーションが尽きたので、はじまりの街に戻り、ポーションの補充を行おうと商店街に向かった。すると、ポーションを買い終わった時に、誰かの叫び声が聞こえてきた。
「ログアウトボタンがあらへん!」
アルファはその声に気が付いて自分のウインドウを開き、ログアウトボタンを探してみる。
アルファ(ログアウトボタンがないはずがないだろ。…どうせ見落としてるだけだ。)
そう思って様々な項目を選択し、ログアウトボタンを探してみたが、確かにログアウトボタンはどこにも存在していない。
アルファ(まあ運営のミスだろ、そのうち復活するんじゃねーのかな)
アルファは焦ることなくそう考えていると、突然、体が鮮やかな青い光に包まれた。
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─Welcome Soword Art Online─
木綿季「まずは、キャラクター設定をすればいいのかな?」
慣れた調子で独り言をつぶやきながら、木綿季は自分のアバターを作りあげていく。出来上がったアバターはリアルの姿とほとんど変わりのないものだったが、髪色だけは紫色にしておいた。
どうせ、現実世界では実現不可能なことなのだ。普段できないことは、やれるだけやっておきたかった。
木綿季(ホントは胸をちょっとだけ大きくしたかったんだけど…)
もちろんそんな項目は何処にもなく、木綿季は柄にもなく、少しオーバーにガッカリとして見せる。如何やら、知らず知らずのうちに未知の体験となる仮想世界に興奮していたようだ。
そんな自己分析をしながら各設定を決めていくと、最後にキャラクターネームを設定する画面までやってきた。
木綿季「ユウキ、でいいよね。」
特に名前を考えることもなく、リアルと同じ名前を入力した。こうしてキャラクター設定をを終え、光に包まれたのち、ユウキはアインクラッドの世界に降り立った。
ユウキ「これが仮想世界かぁー!」
頭上に照り輝く太陽、身体中に纏わりついてくる外の空気、時折身体を包むそよ風。
ユウキは大きく深呼吸した後に、何の前触れの無く突然、思いっ切り走り回り始めた。暫くすると、やがて満足したのか、ゆっくりと走るスピードを緩めていき、立ち止まる。
ユウキ(…姉ちゃんにもこの世界を味わって欲しかったな……)
ユウキは自然と頬に涙を伝わせた。何せユウキは現実世界では病院で缶詰め状態であり、太陽の下で自由に走り回ったりすることは長らく経験していなかったのだ。その点から考えると、ユウキにとっては仮想世界がリアルよりも人間らしく生きられる場所のように思われた。
そして、倉橋先生があれほどメディキュボイドの可能性を熱烈に語っていたのにも納得ができた。もう少しメディキュボイドの開発とSAOの発売が早ければ姉ちゃんと一緒にこの世界で自由に動き回り、大冒険ができたのに、とユウキの気持ちは少し沈む。
しかし、ユウキは自身の頬っぺたを両手でパシン、と叩き、気分を切り替えた。
ユウキ(クヨクヨするのは終わりにしなきゃね。ボクは前を向いて生きるって決めたんだからっ!)
気持ちを切り替えたユウキはパッケージに書いてあったこの世界の醍醐味の一つである、モンスターとの戦闘、を体験するために、武器屋で武器を購入することに決め、商店エリアに向けて歩き出した。武器屋に辿り着いたユウキは、様々な種類の武器に図らずも心を踊らされる。
ユウキ「んー、迷うなぁー」
と声を出しながらユウキは、一つ一つ武器を握っては振り、自分の手に馴染む武器を真剣に選ぶ。
ユウキ(片手剣か細剣までは何とか絞れたけど…やっぱり細剣はちょっと細すぎるね。よしっ片手剣にしよう!)
ユウキはスモールソードを購入してから、ポーションを買おうと、向かいの店に行こうと考えた。先客だった隣りのかっこよくてクール?な男の人は目をキラキラさせて、うなりながらまだ武器を選んでいた。
顔に似合わず子供のようにはしゃいでいる様子を見て思わず笑ってしまったのは、隣りの人には内緒にしておこう。
フィールドに出会た後、フレンジーボアと呼ばれる魔物をユウキは最初こそぎこちない動きだったが、数体倒した頃には、もうなんなく倒せるようになった。もしかしたら、自分には剣の才能があるのかもしれない、だなんて、ちょっと調子に乗ってみたりもする。
レベルアップを一回したところで、AGIにステータスを振ってから街に戻ることに決定した。ユウキにとってはモンスターを倒すことより、外を歩いて街を観光するという普段ではできないことをする方が楽しかったのだ。
しばらく、はじまりの街を散策していると、突然青い光が足元に現れた。ユウキには何だか嫌な予感がしたが、光からは逃れることができそうになかったので、そのまま光に包まれることに身を任せたのだった。
次回か次々回から、SAOの本番スタートといった感じになると思います。
では、また第3話でお会いしましょう。