では、どうぞ!
「アアァ──ッ!クソめんどくせェ!」
オウガがフィールドだというのに、周囲を気にせず苦痛の絶叫を上げている。現在の最前線は十層、アルファとユウキは、オウガの片手槍を更新するためのクエストを攻略している最中で、フィールドの山岳地帯に赴いていた。山岳には木々が生い茂っており、視界が確保しづらいため、クエスト達成に要求されているアイテムをドロップするモブを見つけ辛く、更にはそのモブの出現率も低いことも相まって、オウガはイライラしているというわけだ。
十層のテーマは恐らく、<和>であるため、主街区や行く町々はどこか日本の古都を連想させるような構想になっていた。山の斜面が急で上りづらいことも、日本の山をイメージして作られたからだろうか。
ユウキ「そんなに大きい声出してたら、お目当てのモンスターも逃げてくんじゃない?」
オウガ「…いいよなァ、てめえらの武器はスペックが高過ぎんだよ」
オウガはブツブツと愚痴を吐いた。アルファとユウキのメインウェポンは四層以来、変更していない。今はまだ、メインウェポンとしても性能が他の武器と比べても高めではあるが、もう二、三層もしたら流石にクエストやらなんやらで新調しないといけないだろう。
アルファ「そもそも、片手槍の武器自体が少ないよな」
茅場晶彦はデスゲームになった時に、片手槍や突撃槍スキルなどの癖が強すぎる武器を選択するプレイヤーが少数になることを見越していたのか、見事に店売り以外での片手槍の入手機会は、両手槍と比較して圧倒的に少ない。
しかし、いつだって少数を尊重することは大切なことではないか、とどこにいるのかも分からない茅場に向けて言っておく。今回のクエストもアルゴからコルを犠牲に情報を買って、その存在に気が付くことができた。しばらく狩りを続けていると、山岳エリアの終りの方にお目当てのモンスターを見つけた。
アルファ「!…いた!」
クエストモンスターの名前は<ブルータン・ツチノコ>この世界ではモンスター名は英語で表記されるが、どうやらツチノコは過労死と同じく日本語がそのまま海外に伝わったタイプらしい。ブルータンというのは、ツチノコの正体とされる有力候補の一つであるアオジタトカゲから名前を取ったのだろう。
ツチノコというだけあってレアモンスター扱いだったようで、これまで中々出会えなかった。NPCの情報によると、逃げ足が速いらしいので戦闘には細心の注意を払わなければならない。作戦はアルファとオウガが後ろからツチノコに攻撃し、一番AGIの高いユウキが正面から、逃げるツチノコを倒しきるというものだ。
アルファ「やるぞ!」
アルファとオウガがツチノコに向かって突撃して、ソードスキルを決める。ツチノコはアルファの攻撃を避け切るが、オウガの槍による広範囲の攻撃をその体で受け止めた。体力が残りわずかになったツチノコは一目散に前方へ逃げ出したが、作戦通り、先回りして木の後ろに隠れていたユウキに仕留められてしまった。
オウガ「オイッ、ユウキ!ドロップしたか?」
オウガが食い気味にユウキに尋ねた。大体、この手のモンスタードロップは固定であることが多いので、それほど不安になる必要はないのだが、やはりドキドキする気持ちも理解できる。ユウキは得意げにアイテムストレージから、クエスト達成に必須のアイテム<ツチノコのしっぽ>を取り出して、天に掲げる。…何だかヌメヌメしていて、少々気持ち悪い。
アルファ「…グロイな…」
オウガ「…あァ…」
ユウキは何ら気にしていない様子で首をかしげる。アイテムを実体化したまま手渡すと、オウガは苦虫を嚙み潰したような顔をしていたが、オウガ自身のクエストに必要なものであるため、渋々受け取っていた。山岳地帯を抜けると、目の前には迷宮区タワーが広がっており、いつ見てもその高さには圧倒される。
オウガ「なァ、ちょっと入ってみないか?」
オウガが迷宮区に入ることを提案してきた。確かに、今から迷宮区に入れば、ディアベルやキリトたちよりも早くに迷宮区を探索できる可能性が高い。しかし、アルゴの攻略本に記載された、迷宮区に出るモンスターの特徴などが把握できていないままで、未知の挑戦をすることをアルファは恐れていた。…いや、しかし次の層からはベーター時代の知識が通用しなくなるのだ。安全マージンが取れているここらで予行練習とするのも悪くはないだろう。
ユウキ「ボクはオウガに賛成っ!アルファは?」
アルファ「俺も賛成だ。だけど、危なくなったらすぐ引き返すし、日が暮れるまでに街に戻るぞ。二人共、それでいいか?」
ユウキとオウガは条件を承諾してくれたので、早速三人で迷宮区に足を踏み入れた。
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十層迷宮区のモンスターは今までにない強さを誇っていた。その代表例が今闘っているオロチだ。オロチは兜や鎧を身にまとい、その手には槍を持って攻撃を仕掛けてくる。見た目が武士のようなので、ボスは将軍とか、大将とか、はたまた大名だったりするのだろうか。オロチは防具によって身を固めているため、攻撃が通りづらい所が面倒くさいのだが、それ以上に厄介な奴がいる。
たまに、と言っても三分の一程度の高確率で出現する刀を持ったオロチだ。こいつは堅いだけではなく、ほぼ初見で多彩なカタナスキルを使ってくる。アルファは一層のボス戦で多少は見たことがあったせいで、それとなく対処できたが、ユウキとオウガは最初は技を見切れず、少し危なかった。しかし、流石は前線組といった所か、二人は段々とオロチのカタナスキルに慣れていった。
ユウキ「幻月来るよ!」
ユウキの言う通り、オロチは自身の刀を手元でクルクルと回転させながら、刀をライトエフェクトに包んだ。ソードスキル幻月は上下どちらから繰り出されるかランダムに決まっており、その答えは打つ直前にしか分からない。アルファはギリギリまで攻撃するのを我慢して上か下かを見極めようとしていた。
次の瞬間、若干オロチの手元が下げられたことから、下からくる、と判断し、アルファは上から両手剣を叩き落すように振り下ろしてソードスキルを相殺する。その間にユウキとオウガがソードスキルを鎧の隙間に決めてオロチを撃破した。
アルファ「…そろそろ引き返さないか?」
アルファがそう提案すると、二人は素直に従ってくれたので、迷宮区の出入り口へと向かう。今回は、まだ誰も迷宮区に来ていなかったようで、開封前の宝箱からレアそうなアイテムが色々手に入ってラッキーだった。
しばらく来た道を辿っていくと、曲がり角から剣を振る音が聞こえてくる。三人は慎重に角の先を見ると、ひとりの女性プレイヤーがオロチと戦闘を繰り広げていた。女性は最小限の動きでオロチの変幻自在なソードスキルを躱し、流れるようにオロチの体を斬りつける。
だが、アルファが一番驚いた点は、女性が持っている武器がオロチが持っている刀と似たような雰囲気を醸し出していたからだ。曲刀にしては細身で鋭い輝きを放っている武器だった。
アルファ(もしかして、あれは──)
アルファが考えをまとめる前に女性が瀕死寸前のオロチにソードスキルを炸裂させて戦闘を終わらせる。それを見て、ちょうど話すネタが出来たので、アルファが女性にコンタクトを取ろうとしたが、その前にオウガが口を開いた。
オウガ「…今のはァ、オーバーキルだろ」
七層以来オウガとパーティーを組んで分かったことがあるのだが、コイツは口の悪さや見た目から、ヤバい感満載の癖に、内面はお人よしだったりと、まるで捨て猫を拾うヤンキーのようなギャップを持ち合わせている。
今回も女性の生死にかかわる戦闘術の欠陥を教えようとしているのだろう。
「オーバーキル…?」
女性が不思議そうな顔で言葉を繰り返す。ふと顔を見ると、切れ長の鋭い目つきに黒髪ロング、スタイリッシュなこともあり、クールビューティ感を漂わせている。
身長はオウガほどはないが、高めだ。…別に俺より身長が高いことなんて気にしてない、男の子はまだまだこれからなんだからさ。心の中でそんな言い訳をしていると、ユウキが単語の意味を説明していた。
ユウキ「えーっと、オーバーキルっていうのはモンスターの残り体力に対して、与えるダメージが多すぎるってことだよ」
アルファ「特にソードスキルは集中力を大きく消耗しやすいから帰りのことを考えると、出来るだけ効率良く戦った方がいい」
アルファがそう付け足して説明すると、女性は芯のある少し高めの冷たい声で返事をした。
「ありがとう…でもアタシは今日は帰らんから、そんな心配いらんな」
アルファ「か、帰らない…?」
まさかの関西弁に驚きながらも、それ以上に謎の発言に驚かされ、思わず聞き返してしまう。
「ここで夜を越すってことや」
アルファ「め、飯は…?」
「仮想世界やから一日ぐらい抜きでも…」
その時、女性のアバターから、空腹を知らせる音がグーっと鳴り響いてしまい、女性はおろか、アルファ達もも固まってしまう。
オウガ「…オレ達はこれからうめえ飯屋行くけどよォ、アンタもついて来いよ」
オウガがそう言って出口へ向かうと、女性も無言で後をついてきた。
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「うぃぃぃ~!アルファぁぁぁ~!飲んでる~?」
迷宮区から最寄りの街まで戻ってきた俺達は、オウガの案内に従って居酒屋らしき店にやって来ている。後ろから申し訳なさそうに同行していた女性プレイヤーは、居酒屋の席に座ると、遠慮気味に注文を済ませてから自分の名前がサツキであることを教えてくれたので、こちらも手短に自己紹介した。ちょうど料理が届いたので乾杯をしてから、お好み焼みたいな粉ものを食す。
俺以外の奴らは全員酒を飲みながら料理をつついていたが、サツキが焼酎っぽいものを三本ほど飲み終えた頃だろうか、突然、サツキの様子がおかしくなり始め、隣りに座っていた俺の肩を組んで密着してきた。そして、明らかに酔っぱらっている人間が言いそうな感じのセリフを吐いてきたのだ。…少し体にやわらかいものが当たっていて小恥ずかしい。何だか顔が熱い気がする。
アルファ「…おいっ、助けてくれ!」
ユウキとオウガにSOSを求めるも、何故かユウキはジト目でこちらを見た後、自分の胸部を見てから、不機嫌そうに俺の救助要請を無視する。オウガに至っては「まんざらでもなさそうだけどなァ~」と散々煽ってから、ようやく助け舟を出してくれた。サツキはしばらく駄々っ子みたいな態度を取っていたが、アルコールの睡眠促進効果のせいだろうか、しばらくすると眠りについてしまった。
アルファ「…この世界の酒って酔わないはずだよな?」
オウガ「…個人差あるんだろうなァ」
サツキを除く全員が料理を綺麗に完食し終えるが、サツキはいつまで経っても目覚めそうにない。そこで、ハラスメントコードに抵触しないユウキがサツキを夜風に当たる場所まで運んでくれた。何故か、俺がサツキの分の食事代を払い、ユウキたちの後を追った。ユウキはサツキを外のベンチに寝かしつけたようだ。
いくら圏内とは言え、このままサツキを置いていくなどという薄情なことは俺達には出来ず、彼女の意識が覚醒するまでその場で待っていた。
サツキ「……ん…」
ユウキ「…あっ、目が覚めたんだね、随分酔っぱらっていたけど、だいじょうぶ?」
目覚めたばかりのサツキはまだ体が覚束ない感じだったが、状況に気が付いたのか、顔を真っ赤にして謝罪してくる。アインクラッドの世界での感情表現はややオーバー過ぎるところがあるのだ。…俺もさっきあんな感じだったのかな。
サツキ「す、すいませんでしたぁ!アタシ、お酒弱いくせに飲むのを止められない人間で…!」
アルファ「気にすんな。…ところでサツキは攻略組なのか?ボス戦のメンバーでは見たことないんだけど…」
アルファはサツキに、聞きたかったことの一つ目を尋ねた。
サツキ「…いや、攻略組ではないんやけども、みんなも見たと思うけど、新しく手に入ったスキルを試したかって、つい迷宮区まで行ってもうてん」
オウガ「…スキル?」
オウガが不思議そうに聞き返すと、サツキが自慢げに答える。
サツキ「その名も…カタナスキル!」
ユウキ「えっ、オロチが使ってた!?」
サツキ「そうやで!なんか昨日ぐらいに追加されててん」
スキル一覧に勝手に現れたということだろうか。いや、自然発生ということはないだろう、何かの条件を満たした可能性が高い。俺はカタナスキルについて詮索したい気持ちでいっぱいだったが、他人のステータスを探ることはマナー違反なので、ここはグッと好奇心を堪えて、もう一つ聞きたかったことを尋ねる。
アルファ「サツキはボス戦に参加するつもりなのか?」
サツキ「今回から参加しようと思ってる」
アルファ「あー…だったら俺たちとパーティーを組まなきゃいけないかな」
サツキはこちらに怪訝そうな視線を向けた。それを見てオウガがすかさず補足説明をする。
オウガ「別にアンタを取って食おうってわけじゃねェ。ただ、現状ボス戦に参加しているプレイヤーはそれぞれが5~8人ぐらいの人数でパーティーを組んでんだ。アンタがボス戦に参戦するってなら、必然的にオレたちとパーティーになるってことだ」
オウガの言う通り、現在のボス戦ではディアベルのギルド内でパーティーを組み、それ以外のメンバーが寄せ集めになっているという構成だ。コミュ障っぽかったあのキリトとアスナでさえもエギルの仲間たちとボス戦の間はパーティーを結成している。そして、残りのメンバーから更に取り残されたのが俺たちということだ。故にサツキは、ボス戦に参加するためには、このパーティーに入るより他ないということである。
サツキ「なるほどねえ。…分かった、アタシもパーティーに入れてもらえる?」
ユウキ「うん、大歓迎だよ!」
アルファ「そうと決まれば、まずはPOTの練習が必要だろうから、明日は四人で迷宮区に行かないか?」
サツキ「…ポットって何?」
サツキからのパーティー申請を承諾して、俺はサツキにゲーム用語ポットが、パーティ間で行われるポーション回復のローテーションを表していることを説明した。…なんか、キリトが俺とアスナに教えてくれた時のことを思い出すなぁ。それぞれが宿を目指す中、俺は得も言われぬ懐かしさに襲われた気がした。
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ディアベル「右に回避──ッ!」
攻略組のダメージディーラー担う者達は、後ろから聞こえてきた優秀な指揮官の指示を受けて右側に移動する。少し遅れて、元にいた場所に斬撃が走った。ディーラーの数人がチャンスとばかりにボスの足元を斬りつけて、五本目のHPバーを削り終える。最終HPバーにまで追い詰められたボスは、ボス部屋の縦の長さを活かして、大きく後方へジャンプし、プレイヤーと距離を取った。
サツキ「ボス戦って、案外余裕あるもんなん…?」
オウガ「気い抜くんじゃねえぞォ…ここからが本番だ」
現在、アルファたち攻略組は第十層のボス<カガチ・ザ・サムライロード>と激しい戦闘を繰り広げていた。十層の迷宮区の一部からは、ベータ時代の知識も存在しないゼロ状態からスタートしたため、いつも以上に慎重に迷宮区の攻略を行い、街々の隅々までクエストを調べ尽くしてからボス戦に臨んでいる。クエストで得られたボスに関する情報は、ボスがカタナスキルを使うこと、部下である亡霊兵を定期的に呼び出すこと、そして、追い詰められると秘技を使用することであった。
攻略組としてはその秘技の内容を知りたいのだが、そんな、ないものねだりをしても仕方がないと、まずは偵察部隊を派遣し、ボスの行動パターンを調査するところから始まった。偵察隊の情報ではボスがとんでもない長さの刀を使う鬼のような見た目の亡霊であることも新たに理解できた。そして本日、ボス討伐戦が始まったという訳だ。
ディアベル「みんな、気を引き締めろ!ここが正念場だ!」
攻略組の誰もがHPバーラスト一本になったサムライロードがどんな行動を起こすのかを見極めようと、ボスがアクションを起こすのを待っている。恐らく、今回も出現するであろう取り巻きに備えて、アルファたちG隊は取り巻きがポップ位置に待機していた。
しかし、いつまで経ってもサムライロードは目を閉じたまま動き出さず、取り巻きも現れない。静寂に包まれるボス部屋の雰囲気に痺れを切らしたのか、一人の男性プレイヤーが足を動かした。その瞬間、
「ガッ…!?」
そのプレイヤーの右腕が吹き飛んだ。
「「!?」」
正確には男性の中心が狙われていたのだろうが、そのプレイヤーは何かを感じ取って体をずらしたため、中心でバッサリ、ということは無かった。その男は片手剣使いのディーラーで、タンクよりも防御力が低いのは仕方がない。だが、それを考慮しても、今の一撃で体力の七割が削られるというのはヤバすぎる。体力を全快にしておかなければ、欠損による出血ダメージと相まって、ほぼ即死してしまうだろう。
攻略組の誰もがたった今何が起きたのかを理解できずにいた。だが、一人のプレイヤーが口を開く。
サツキ「……居合…?」
アルファ「…!そうか、あいつは目を閉じて集中しているってことか…」
ユウキ「…でも、あんなに遠くにいたら、近づく前にボクたちが…」
アルファ「…俺がいく」
俺はそう言って、その場から一歩前に進んだ。サムライロードは目にもとまらぬ速さで腰の刀を抜刀し、衝撃波を飛ばしてくる。アルファは念のために体の位置をずらしてから衝撃波に向かってソードスキルを放つが余裕で押し負けてしまい、体力を大きく減少させた。
アルファ「ディアベル!どうするんだ!」
ディアベル「…まずはタンクが耐えられるか、次に二人で前に出たら、衝撃波の数が増えるのかを検証しよう」
ディアベルの指示に従って、これらの実験を行った結果、タンクはしっかりとガードを決めれば、体力の減少は二割程度に抑えられること、複数人で動くと相応の衝撃波が発生するが、遅れが生じることが分かった。そこから導き出した作戦は、素早く動ける者だけでボスに接近し、剣を抜かせた所に残りの攻略組を向かわせるというものだった。
危険性は高いが、これぐらいしか作戦が思いつかなかったので、これを決行ことになった。俺たちのパーティーは全員が軽装なので接近部隊として動くことになる。
ディアベル「いくぞ!」
ディアベルの号令と共にディーラーがボスの元へ突撃する。ボスは次々と居合による衝撃波を飛ばすが、ディーラー達はしっかりと避け続けて、ボスの目の前まで迫ることに成功した。先ほどの男性プレイヤーが腹いせとばかりにサムライロードに一撃をぶつけたことでサムライロードも抜刀し、こちらを敵視した。しばらくは回避に専念し、タンクたちが到着したところで陣形を整え直して、順調に体力を削っていく。
途中、残り体力が半分ほどの時にボスが見たこともない足元を狙った四連撃カタナスキルを使用して攻略組の大半が転倒状態になったことで、全滅の窮地に陥ってしまった。しかし、キリトとアスナが見事なコンビネーションで時間稼ぎをしてくれたお陰で何とか態勢を立て直せた。
後を数回殴れば倒せる、それぐらいのところまで追い詰めたその時、サムライロードが強大な雄たけびをボス部屋に響かせた。
ユウキ「…えっ」
ユウキが呆けた声を上げたが、それはここにいる者、全員が同じような感じなのだろう。俺の体は突然、電池の切れたラジコンのように一切動かなくなってしまった。視界の端には麻痺アイコンが付いている。…まさか、雄たけびにこんな効果があるとは完全に盲点だった。俺はせめて傍にいるユウキだけは守りきろうと、動かない体をもがかせてユウキの方へ近づこうとする。
「一騎討ちと、いこか」
凛と澄んだ声が響き渡り、思わず視線を上に逸らすと、サツキがサムライロードに向かって歩いていくのが見える。俺は必死になってサツキを止めようとするが、やはり体は動かない。
サツキ「…いくでッ!」
サツキは掛け声と共にサムライロードに急接近する。サムライロードはサツキ目掛けて刀を振り回すが、サツキは最小限の動きで攻撃を躱し、自然とサムライロードの懐に入って、ソードスキルを炸裂させた。サムライロードは慌てた様子で刃を引き戻すが、サツキはまるで予測していたかのように体を宙返りさせて、逆に蹴りを決める。その一連の動作は洗礼されており、まるで体術スキル<弦月>…いや、それすらを超えるような一撃だった。
サムライロードはあと一発の攻撃でその命を終えるだろう。一瞬、サムライロードはその口元に獰猛な笑みを浮かべてカウンターの構えを取る。だが、瞬時にしてサツキに背後へ回り込まれ、その首を狩り取られた。サムライロードは満足げな顔をしながらその体を崩壊させていく。
…もしや、サムライロードは同じ刀を持つ者と闘いたかったのだろうか。俺は何となくだが、サムライロードのその表情を見てそう感じた。
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ボスが倒されたことで攻略組の全員は体を自由に動かせるようになったのだが、誰もが硬直したまま、サツキの佇まいを眺めていた。その姿はまるで戦の女神のような美しさを孕んでいる。しばらくの間があった後、エギルがサツキに労いの言葉を掛けたことを皮切りに皆が勝利を嚙みしめ、歓声を上げ始めた。
ユウキ「サツキってすごく強いんだね、ボクビックリしたよ!」
サツキ「そう?普通やと思うけど…」
オウガ「いや、規格外だろ…」
ユウキやオウガがサツキと会話しているとディアベルがこちらに近づいてくる。何事だろうか。
ディアベル「サツキさん、だったかな。…良かったらオレのギルドに入らないか?」
何と、ディアベル自らのギルド勧誘であった。確かに、サツキは何処にも属していないソロプレイヤーな上、先程、圧倒的な力を見せつけてた張本人であるのだ、ギルドマスターとして、そんなプレイヤーをギルドに誘わずにはいられないだろう。サツキはしばらく考える素振りを見せてから、こう答えた。
サツキ「……残念やけど、それはお断りさせてもらうわ」
ディアベル「…理由を聞かせてもらってもいいかい?」
サツキ「アタシはこの子らと一緒にやっていきたいと思ったから」
そう言ってサツキは俺達を指差した。
ディアベル「…なら仕方ないな、次のボス戦も期待しているよ」
ディアベルはその場を離れていく。俺はまさかの事態に驚きつつも、サツキに真意を尋ねた。
アルファ「…良かったのか?ギルドに所属した方が安全に攻略出来ると思うんだが…」
サツキ「アタシは、大人数は苦手やからな。…それに、アルファらと過ごした生活も楽しかったしな」
ユウキ「ホント!?じゃあ、これからもよろしくね!」
サツキとこれからも一緒に日々を過ごせることに嬉しさを隠せなくなったユウキは、サツキに抱き着いた。サツキはあっけらかんとしていたが、しっかりとユウキを受け止めている。
ボス戦が始まるまでサツキと一時的にパーティーを組んでいたが、その時から俺達は良い連携が取れていた。これから更に四人のコンビネーションに磨きをかけて行けば、例え十層以降の未知の世界であったとしても、そう簡単にやられることはないだろう。俺はふと、オウガの方を見ると、何故かオウガは不機嫌そうな顔をしていた。
オウガ「オイ待てよ…さっき言ってた、この子らってまさかこのオレも入ってんじゃねーだろうなァ…!」
サツキ「アタシから見たら、オウガも子供やで」
サツキのすました返事にオウガは憤慨する。
オウガ「ガキと一緒にすんじゃねェ!」
アルファ「…いい加減ガキじゃなくて名前で呼べよな」
ユウキ「…ま、アルファはまだまだ子供だよ」
アルファ「……」
七層の頃から、一人仲間が増えた俺達は、軽口を叩き合いながら、次の層を目指して螺旋階段を登っていった。
三人寄れば文殊の知恵とはよく言ったものですが、何となく三人だと心許なく感じたので、某ゲームと同様に四人パーティーを結成してもらいました。
では、また第21話でお会いしましょう!